日本関節病学会誌
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42 巻, 4 号
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原著
  • 角谷 梨花, 近藤 直樹
    2023 年 42 巻 4 号 p. 313-320
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/12/31
    ジャーナル 認証あり

    目的:関節リウマチ(RA)患者に骨脆弱性があることは知られているが皮質骨幅に着目した報告はほとんどみられない。本研究ではRA患者の大腿骨皮質骨幅を定量評価し健常者との比較を行うことを目的とした。

    対象と方法:TKAまたはTHAを要する関節破壊を呈した女性RA患者48例を対象とした。手術時平均年齢67歳,RA罹病期間平均14年,BMI 23.8,骨密度66.7%,DAS28-CRPは2.18だった。手術時の平均薬剤使用量はMTX 3.5mg/週,PSL 2.6mg/日だった。対象患者の術前下肢全長CT撮影を使用し,骨皮質測定softwareを用い大腿骨骨幹部を近位部1/3・中間部1/3・遠位部1/3に分け,それぞれの前方・後方・内側・外側に分けた計12か所で皮質骨幅を測定した。皮質骨幅を各個体の大腿骨長で除した標準化値を統計解析に用いた。皮質骨幅は健常群25例と正規性に従う場合はt検定,従わない場合はMann-Whitneyの検定を行った。健常群の平均年齢は67.7歳,平均BMIは23.7であり,RA群との有意差は認めなかった。RA群において,標準化された皮質骨幅値と各パラメータの相関分析を行った。P<0.05を統計学的有意差ありと判定した。SPSS softwareを統計分析に用いた。

    結果:大腿骨皮質骨幅標準化値は遠位部前方(標準化DA)でRA群8.72,健常群11.11(P<0.001),遠位部内側方(標準化DM)でRA群9.81,健常群11.55(P<0.001)とRA群は健常群よりも有意に薄かった。一方,近位部前方(標準化PA)でRA群13.61,健常群12.86(P<0.01),近位部外側方(標準化PL)でRA群15.66,健常群13.64(P<0.01)とRA群は健常群よりも有意に厚かった。RA群手術側(患側)のみでの検討では標準化DAと標準化DMでRA群は有意に薄く,標準化PLでRA群が有意に厚かった。RA群の大腿骨皮質骨幅標準化値は骨密度と有意な正の相関を認めた。

     DAS28-CRPと標準化PP(R=−0.218,P=0.035),標準化PM(R=−0.206,P=0.047),標準化CA(R=−0.260,P=0.011),標準化CM(R=−0.251,P=0.015)では,有意な弱い負の相関を認めた。

    結論:RA患者の高度膝関節破壊および股関節破壊症例において,大腿骨皮質骨幅は遠位部前方,遠位部内側方で有意に薄く,近位部外側方で有意に厚かった。骨密度と有意な相関を認めたが,疾患活動性とは強い負の相関があるとは言えなかった。

  • 中里 伸也, 赤木 將男
    2023 年 42 巻 4 号 p. 321-326
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/12/31
    ジャーナル 認証あり

    目的:本研究の目的は変形性膝関節症(膝OA)の重症度が体外衝撃波治療(ESWT)の短期治療効果に与える影響を明らかにすることである。

    方法:対象は2020年9月~2021年3月にbone marrow lesionが認められた膝OAに対し当院でESWTを行った65例72膝ののうち,治療前と治療開始後3か月においてKnee Injury and Osteoarthritis Outcome Score(KOOS)アンケートに回答した28例31膝を対象とした。膝OA重症度はKellgren-Lawrence(KL)分類を用いて評価した。

    結果:31膝全体のKOOS平均スコアは治療前の54.0(±21.8)から3か月後の68.1(±21.5)へと有意に改善した(対応のあるt検定,n=31,P<0.001)。KL分類別では,KL2では52.0(±23.1)から76.3(±15.9)へ,KL3では49.2(±19.8)から64.8(±23.6)へ,KL4では59.3(±23.4)から67.4(±22.3)へと改善した(対応のあるt検定,それぞれ,n=6,12,および,13ですべてP<0.01)。KL分類別のスコア改善平均値は,KL2では24.2(±15.8),KL3では16.7(±14.2),KL4では8.1(±10.5)であり,重症度が高くなると治療によるスコア改善が小さくなる傾向が認められた(一元配置分散分析,P<0.05)。

    結論および考察:ESTWによるKOOSの改善効果は,OA重症度の低いものがより高い傾向があった。しかし,KL3あるいは4でも改善率の高いものがあり,ESWTのKOOS改善効果に影響を与える他の因子についてさらなる調査検討が必要と思われる。

  • ―硬膜外麻酔との比較―
    園部 正人, 中島 新, 赤津 頼一, 齊藤 淳哉, 山田 学, 小山 慶太, 山本 景一郎, 岩井 達則, 吉田 有希, 中谷 修平, 中 ...
    2023 年 42 巻 4 号 p. 327-333
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/12/31
    ジャーナル 認証あり

    目的:ステロイド含有の関節周囲多剤カクテル注射(以下,カクテル注射)は,TKA術後の疼痛対策として有用であることが知られている。さらに,カクテル注射は鎮痛効果だけでなく,DVT予防効果も有するとの報告があるが,DVT予防効果に関して十分なエビデンスは得られていない。今回,カクテル注射のDVT予防効果の有無に関して検討した。

    方法:当科で全身麻酔下に初回片側TKAを施行したOA患者のうち,2020年2月以降にカクテル注射を併用した47膝(カクテル群)と,それ以前に硬膜外麻酔を併用した236膝(Epi群)を対象とした。傾向スコアマッチング法を用いて年齢,性別,BMI,手術時間,術後抗凝固薬使用の有無,静脈血栓塞栓症の既往,悪性腫瘍・高血圧・糖尿病の有無を調整し,各群45膝を抽出し2群間比較した。主要評価項目は術後の新規DVT発生率とし,副次評価項目は術前,術後1,3,7,14日目におけるD-dimer値とCRP値,術後3日目までにレスキューとして使用したジクロフェナク®坐薬の使用回数とした。DVTの検索は,術前と術後2日,14日目に下肢静脈エコーを用いて全例行った。抗凝固療法は,術後3日目からリクシアナ®を7日間継続した。

    結果:術後の新規DVT発生率は,カクテル群が11.1%,Epi群が15.6%であり,2群間で有意差を認めなかった(95%CI: −18.5%,9.5%,P=0.76)。一方,D-dimer値は術後7,14日目でカクテル群が有意に低値であり,CRP値は術後3,7日目でカクテル群が有意に低値であった。ジクロフェナク®坐薬の使用回数は2群間で有意差を認めなかった。

    考察:術後のDVT発生率はカクテル群が11.1%,硬膜外麻酔群が15.6%であり,有意差を認めなかった(95%CI: −18.5%,9.5%,P=0.76)。硬膜外麻酔と比べ,カクテル注射にDVT予防効果があるとは言えない。

  • 本田 賢二, 岡橋 孝治郎, 西村 光平, 松井 智裕, 大島 学, 田中 康仁
    2023 年 42 巻 4 号 p. 334-339
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/12/31
    ジャーナル 認証あり

    目的 : 当院で施行した内側開大式高位脛骨骨切り術(OWHTO)の術後中期成績を報告する。

    方法:OWHTOを施行し3~5年以上経過した26例26膝(男性9例9膝,女性17例17膝,平均年齢62.8±6.8歳)を対象とした。22膝が変形性膝関節症,4膝が大腿骨内顆骨壊死であった。術後の矯正目標は% mechanical axis(%MA)65%とした。後療法は,疼痛に応じて術翌日からContinuous Passive Motion(CPM)で他動膝関節可動域(ROM)訓練を開始した。また,術後1週免荷ののち部分過重を開始し,5週で全荷重を許可した。臨床成績は術前後のROMと日本整形外科学会膝疾患治療成績判定基準(JOAスコア)で評価した。画像評価は単純X線像でfemorotibial angle(FTA),%MA,medial proximal tibial angle(MPTA),tibial posterior slope(TPS),Blackburne-Peel Index(BPI)を評価した。また,術前後に関節鏡検査を実施し,膝蓋大腿(PF)関節を評価した。さらに合併症についても調査した。統計学的解析はt検定を用いて有意水準を5%未満とした。

    結果:術前後でROMは−3.7°/121.1°から−1.6°/133.6°,JOAスコアは52点から72.2点に有意に改善した。FTAは179.2°から169.1°,%MAは24.6%から68.1%,MPTAは83.9°から92.6°に変化した。TPSは7.0°から7.7°と有意差なく,BPIは0.77から0.66に有意に低下した。PF関節の軟骨損傷はICRS分類で平均0.5から再鏡視時0.84に進行したが有意差はなかった。合併症はヒンジ骨折を8例(Takeuchi Type Ⅰ:7例,Type Ⅲ:1例),表層感染を2例に認めた。

    結語:OWHTOの中期成績は良好であり,合併症はヒンジ骨折が30.8%,表層感染が7.7%であった。

  • 鈴木 裕貴, 小野寺 智洋, 岩崎 倫政, 大越 康充, 前田 龍智, 川上 健作, 清水 健太, 千田 周也, 浮城 健吾, 岩崎 浩司, ...
    2023 年 42 巻 4 号 p. 340-346
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/12/31
    ジャーナル 認証あり

    目的:内側型変形性膝関節症(KOA: knee osteoarthritis)の運動力学的特徴に関しては,いまだ解明されていない部分が多い。本研究の目的は,重症度別モーメント寄与率の特徴を明らかにすることである。

    方法:当院で歩行解析を実施し得たKOA症例77例93膝(北大KOA重症度分類;Stage Ⅱ:19例22膝,Stage Ⅲ:26例30膝,Stage Ⅳ:17例24膝,Stage Ⅴ:15例19膝)を対象としてStageごとに群分けした。全症例に対し,膝関節可動域,歩行速度,単純X線所見を評価した。また,ポイントクラスター法に準じた光学式モーションキャプチャー技術と逆動力学計算により,床反力ピーク時における外的膝関節モーメントの総量(TJM: total joint moment)とそれに対する各モーメントの寄与率を求めた。

    結果:歩行速度と膝屈曲可動域はKOAの重症例ほど有意に小さかった(P<0.05)。KOA重症例では,femorotibial angleは大きく,TJMは大きく,TJM第一ピーク時における各モーメント寄与率は,内反モーメント(KAM: knee adduction moment)の割合が有意に大きく,屈曲モーメント(KFM: knee flexion moment)の割合が有意に小さかった。

    考察:KOAの重症例においては,高度の膝内反変形による長いレバーアームがKAMの寄与率が大きい要因と考えられた。また,膝屈曲可動域とKFMの寄与率が低いことから,大腿四頭筋力と膝関節機能の不良が示唆された。

  • 久保田 豊, 川崎 恵吉, 久保 和俊, 稲垣 克記
    2023 年 42 巻 4 号 p. 347-351
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/12/31
    ジャーナル 認証あり

    目的:母指CM関節症と手根管症候群は高頻度に合併する。本研究の目的は,横手根靭帯の付着する大菱形骨を全摘出する母指CM関節形成術群と母指CM関節形成術に同時手根管開放した群を比較し,手根管の断面積や形態がどのように変化するのかを明らかにすることである。

    方法:対象は母指CM関節症に対して手術治療を行った閉経後女性のうち,関節形成術を施行した20手と関節形成術に手根管開放術を同時に施行した7手である。関節形成術では全例大菱形骨をすべて切除して行った。手根管開放術は手掌に別皮切をおき横手根靭帯を切離した。これらの症例に対して術前と術後3か月のCTを用いて,手根管の断面積と形態を調べた。

    結果:両群間で術前の手根管断面積に有意差はなかった。手根管の断面積は関節形成術群で術後10.8%増加したのに対し,手根管開放術追加群では27.6%と有意に増加した。術後の手根管断面積の横径は関節形成術群で有意に低下し,手根管開放術追加群では有意差はなかった。縦径は両群とも有意に増加した。

    考察:大菱形骨を全摘出する母指CM関節形成術後では,横手根靭帯が緩むことで手根管の形態が縦長になり,手根管水平断面積は増加したと推測された。母指CM関節形成術のみより手根管開放術を追加で行ったほうが手根管断面積はより増大した。

  • 横山 勝也, 鵜養 拓, 渡辺 雅彦
    2023 年 42 巻 4 号 p. 352-356
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/12/31
    ジャーナル 認証あり

    目的:片側大腿近位部骨折術後に対側大腿骨近位部骨折を生じる報告も少なくない。今回,われわれが手術加療を行った両側大腿骨近位部骨折について調査検討した。

    方法:2014年1月から2022年1月の期間に大腿骨近位部骨折に対して手術を施行し,術後6か月以上経過観察可能であった70歳以上の患者390例を対象とした。片側のみ骨折した片側群337例,片側骨折後対側大腿骨近位部骨折を生じた両側群53例を2群に分類し比較検討した。評価項目は手術時年齢,性別,術前待機期間,Mini Mental State Examination(MMSE)を用いた入院時認知症の割合,転院になった割合,退院後居住環境,歩行不能となった割合,骨粗鬆症治療導入率を評価した。

    結果:手術時年齢,性別,術前待機期間,転院になった割合,退院後居住環境では両群に有意差は認めなかった。認知症の割合は片側群58%/両側群79.2%,歩行不能となった割合は片側群22.6%/両側群37.7%であり,両側群で有意に高かった。骨粗鬆症治療導入率は片側群63.8%/両側群35.8%であり,片側群で有意に高かった。

    考察:自験例では片側群と比較し両側群で認知症,歩行不能となった割合が高かった。また,骨粗鬆症治療導入率が片側群より両側群で低かったことから,片側骨折後より骨粗鬆症治療導入を開始し,骨粗鬆症治療を維持することが重要と考えられた。

症例報告
  • 鬼木 泰成, 日野 駿佑
    2023 年 42 巻 4 号 p. 357-359
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/12/31
    ジャーナル 認証あり

    症例:35歳男性.運動中誘因なく,左膝痛が出現し,他院にて半月板損傷の診断で保存加療を受けるも改善がないため,当院を受診した.初診時,左膝には膝伸展時痛を認めるも,腫脹,関節水腫,圧痛は認めなかった.可動域は10~140°であり,Anterior Drawer test,Lachman test,McMurray testはいずれも陰性であった.MRIでは,膝前十字靭帯(ACL)に小指頭大のT1強調画像で低輝度,T2*強調画像で高輝度を呈する腫瘤様陰影を認め,ACLガングリオンの疑いとなった.関節鏡視下手術を実施し,ACL後外側線維束に毛細血管拡張を伴う12×8mm弾性軟の腫瘍様の膨隆を認めた.膨隆部を切除し,病理へ提出し,ACL内海綿状血管腫の診断となった.術後6か月以上経過をしているが,症状は消失し,靱帯不安定性も診られていない.

    考察:血管腫は良性軟部腫瘍の7%と稀であり,我々が渉猟しえた範囲ではACL発生例は国内外で4例のみであった.全例関節鏡視下に切除し,いずれも再発例はなく予後は良好である.本症例では後外側線維束の一部も切除しており,今後ACL機能の低下や断裂のリスクと再発の両面に注意しつつ,経過を見ていく必要があると思われる.

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