コロナウイルス感染症(COVID-19)蔓延下では,病院での面会が大幅に制限された.小児病棟も例外ではなく,小児脳腫瘍の終末期患者の中に,在宅療養を選択する家族があった.本論文では,小児脳腫瘍終末期緩和医療の2例を提示する.悪性腫瘍患者の在宅看取り経験が豊富な訪問診療医と関連診療科医とがん相談支援センターとが連携した.患児の痛みや苦しみの緩和だけでなく,患児を支える家族の不安に対し,介護や緊急時対応の指導などを行う必要があった.多職種や関連部署との連携が有効であった.さらなる経験蓄積が必要である.
日本小児神経外科学会における2016年から2018年の発表演題の論文化率を調査した.全演題632のうち論文化されたのは173(29.0%)で英語66日本語107だった.英語ではChild’s Nervous System,日本語では小児の脳神経が最も多い掲載誌だった.90.2%は3年後までに論文化されていた.筆頭演者の性別は論文化率に関与していなかった.国内の学会における同様の報告はほとんどなく単純な比較はできないが,この結果は今後の学会の学術活動のさらなる活性化をはかる指標となりうる.
重症痙縮6例(脳性麻痺,外傷,脳卒中)に髄腔内バクロフェン(ITB)療法を行い,術前後の痙縮をmodified Ashworth scale(mAS)で,睡眠時間をウェアラブル睡眠記録装置で測定した.mASスコアは2.85から2.31へ改善した.睡眠時間は7.5時間から8.8時間に,深睡眠時間は0.5時間から3.4時間に,それぞれ有意に延長した.痙縮患者は睡眠時間と深度が確保できていないことと,それらがITB療法によって改善したことが示された.ITB療法の調節にはmASと睡眠時間が指標になり得る.
位置的頭蓋変形の程度とヘルメット治療の処方や申込みの有無との関係を調べた.2022年4月~2022年12月に当科を受診した児を対象にした.CIとCVAIを算出し,グレード1-5(軽度-極めて重度)に分類し統計処理した.男性40名,女性24名が登録され54名が位置的頭蓋変形であった.そのうち31人(57%)がヘルメット治療処方を希望し,そのうち13人(42%)がヘルメット治療を申込んだ.ヘルメット治療処方希望群は非希望群よりもCVAIグレードが有意に高かった.
小児頭蓋咽頭腫に対する外科的切除では,摘出率の向上により再発率を抑え,加えて視機能温存や周囲組織への障害を最小限にすることが必要であるが,病変が血管穿通枝,視神経視交叉や視床下部と近接しているため,安全に摘出することは容易ではない.近年,頭蓋咽頭腫に対しては経鼻内視鏡手術が基本アプローチとなっており,小児症例においてもその傾向にある.当院では2014年4月以降経鼻内視鏡下での積極的な病変摘出を基本方針としており,当院での小児症例に対する経鼻内視鏡手術を中心とした病変切除の実際と治療成績について報告する.
髄液シャント留置中の小児水頭症5症例に対して,シャント抜去目的で内視鏡的第三脳室底開窓術(ETV)を施行し,中脳水道狭窄症(AQS)2例と脊髄髄膜瘤(MMC)1例で抜去に至った.AQSは病態からETVが有効で抜去の確率が高く第三脳室底のballooningは術前評価に有用である.MMCは乳児期にシャント造設を要することが多いが,成長に伴いシャント依存度が低くなり抜去の確率が高くなる.その際,ETVの要否は検討を要する.ETVの適応やシャント抜去の可能性について病態に応じて検討する必要がある.
小児の脳幹部に発生する内在性占拠性病変の鑑別は治療を選択する上で重要である.本症例は頭部MRIで,橋に造影効果を伴う病変を認め脳腫瘍との鑑別が焦点となった.しかし,臨床経過とMRI所見は脳腫瘍としては非典型的であり,我々は侵襲的な手技や治療介入は行わず経過観察を選択し,完全寛解が得られた.画像の精査にて延髄を横断するDVAを認め,本症例の病態は延髄のDVAを背景に,流出停滞や狭窄が静脈圧の上昇を引き起こし,臨床症状や神経放射線画像検査の所見の出現に寄与したものと推察された.
小児に対する脳室腹腔シャント術は,感染,機能不全,髄液過剰排出,腹腔偽性のう胞,離断・迷入など,成人に比して多くの合併症を生じることが知られている.今回我々は,16歳男子において2度の内視鏡的第三脳室底開窓術(以下ETV)を行い,脳室腹腔シャント依存からの離脱と陰嚢水腫治療をなし得た1例を経験した.腹膜偽性のう胞の陰嚢内へ伸展により陰嚢水腫を発症した初めての症例であり,ETVでの大口径の第三脳室底開窓,リリキスト膜まで開窓手技により,シャント依存・陰嚢水腫が解消された.
低出生体重児(在胎33週,1828 g).生後36日にGroup B streptococcus(GBS)による髄膜炎を発症しビクシリンにて加療を開始した.生後82日目の髄液所見は糖以外改善したがGd造影FLAIRにおいて髄膜造影効果が出現した.GBSによる莢膜過形成の可能性を考慮しリファンピシンを追加したが髄膜造影効果は改善するも髄液糖所見の改善は乏しく,リネゾリドへ変更した.最終的に糖の正常化は得られなかったものの,生後154日目に脳室腹腔短絡術を施行し,感染なく経過した.
まれな血液凝固異常であるlupus anticoagulant-hypoprothrombinemia syndrome(LAHPS)に起因する非外傷性急性硬膜下血腫の1例を経験した.症例は9歳女児.頭痛を主訴に来院しMRIでわずかな急性硬膜下血腫を認め,入院.その翌日,出血増大により状態が悪化し緊急開頭を行った.術中,出血傾向が著しく,止血に難渋した.hinge型減圧開頭(HC)とし手術終了した.血栓症回避のためステロイドは用いなかったが,1週後に急性硬膜下血腫が再発し再手術となった.この際もやはり止血に難渋した.再びHCとし,その後はステロイドを継続.再出血なく経過良好である.
月齢4か月男児.左前額部の多血性の骨腫瘍に対し生検術を行い,頭蓋骨発生の乳幼児色素性神経外胚葉性腫瘍(MNTI)の診断を得た.VDC-IE療法を2クール施行するも腫瘍の増大あり,月齢7か月時に腫瘍栄養血管塞栓術を施行後に開頭腫瘍摘出術を施行し,骨欠損部は吸収性プレートを用いて再建した.術後1年8か月で再発を認めていない.MNTIは全摘出すれば再発率は低い良性腫瘍であり,確実な腫瘍の摘出を行うべく,時に化学療法や腫瘍塞栓術を検討し,手術を計画する必要がある.
すでにアカウントをお持ちの場合 サインインはこちら