東日本大震災発生後,花巻病院では釜石地区で支援活動を行っている。同地区の被害は甚大で,死者・行方不明者は2400人以上にのぼり,残された被災者も深刻な死別を経験している。街が津波に飲まれる様子や多数の死体を目撃する,津波に流されるなどの過酷な体験をした者も多い。このため,PTSDや複雑性悲嘆,うつ病などの精神疾患を発症した者も少なくない。
筆者は2011年10月から2012年4月まで同病院の支援活動に従事した。この間,PTSD,複雑性悲嘆の5症例に対してEMDRによるトラウマ処理を行った。PTSDの4名は2~12回の面接(0.5~3か月間)で症状はほぼ消失した。複雑性悲嘆の1名も12回の面接(3.5か月間)で,うつ症状,PTSD症状ともかなり軽減した。EMDRは,震災被災者のPTSD,複雑性悲嘆の症状を速やかに軽減し,認知を変化させる効果があると考えられた。このため,数か月間の期間限定の介入であっても,EMDRは有効な治療手段になり得ると考えられた。
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