生徒の主体的な学びを実現するために様々な教育方法の提案や工夫が試みられてきたが,教師がどのような実践を行えば生徒が主体的に学べるのか,十分明らかになっているとはいえない。そこで本研究では,インタビューによる教師のナラティブと,生徒の学習成果(ワークシートの記述内容)の客観的な分析結果としてのエビデンスを統合することによって,生徒の主体的な学びを実現している高校国語科教師の実践知を記述することを目的とする。ワークシートの分析結果から,生徒が課題を自分の問題として考えていることが示され,分析対象とした教師の実践が生徒の主体的な学びを実現していることが認められた。また,インタビューの分析結果から,教師の「信念」として,(1)生徒に合った教材を通して,生徒が他者の意見を参考にしながら多様に考える,(2)教師から正解を与えられるのではなく生徒自身が教材の本質に気づく,(3)話し合い中心の授業を進める上で教師が重要な役割を果たす,「信念」を具体化するための「知識内容」として,(1)話し合いが活性化し,かつ教材の本質に迫れるような課題を作る,(2)教師も一人の読み手として授業に参加するとともに,クラス全体の共通理解を形成していくときには多様な意見をつなぐ役割を果たす,(3)話し合い中心の授業を成立させるためのルールを最初に教師が示す,(4)生徒やクラスの状況をモニタリングしながら臨機応変に授業を進める,という実践知が明らかとなった。さらに実践者へのインタビューでは,研究者が示したエビデンスにもとづく新たなナラテイブの生成が確認された。
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