日本近代文学
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104 巻
選択された号の論文の24件中1~24を表示しています
論文
  • ──太宰治『惜別』と地方文化運動──
    若松 伸哉
    2021 年 104 巻 p. 1-15
    発行日: 2021/05/15
    公開日: 2022/05/15
    ジャーナル フリー

    「伝記小説」と銘打たれた太宰治『惜別』(一九四五・九、朝日新聞社)は、仙台での留学生・魯迅を描くが、作中には〈地方〉にかかわる表現がちりばめられている。本稿はこうした点に注目し、戦時下に推進された〈地方文化運動〉を踏まえながら『惜別』を考察する。この運動に関連する同時代言説には、日本の地方文化からアジア全体へと文化を拡大していく発想が認められるが、本作品における語り手「私」がこうした図式を攪乱する存在である点を指摘する。また政治的な次元から離れ、あくまで個の立場から個人を語る本作品の特徴について、時局への貢献を求められる戦時下の「伝記小説」という観点からも考察し、同時代に応答する太宰治作品の姿を具体的に明らかにする。

  • ──「撲滅の賦」と黒いユーモア──
    跡上 史郎
    2021 年 104 巻 p. 16-31
    発行日: 2021/05/15
    公開日: 2022/05/15
    ジャーナル フリー

    澁澤龍彥は、没後三〇年以上が経過した現在も新たな読者を獲得し続けている。彼は近現代文学の主流から外れつつも、細く長く支持され続ける独自の流れを形成した。その出発点とも言える小説「撲滅の賦」は、埴谷雄高「意識」を典拠としているというのが従来の定説であったが、枢要部である「撲滅」は、Alphonse Allais, Plaisir de Étéに由来するものであり、「撲滅の賦」は複数の典拠を組み合わせたコラージュである。Plaisir de Étéは、André Breton, Anthologie de L'humour Noir (1950)に収録されたもので、澁澤は自作を構成する要素だけでなく、コラージュによって従来の価値観を転倒する方法論をもBretonから学び、以後、異端作家としての揺るぎない地位を確立していった。

  • ──米軍占領下沖縄の民法改正運動を背景に──
    佐久本 佳奈
    2021 年 104 巻 p. 32-46
    発行日: 2021/05/15
    公開日: 2022/05/15
    ジャーナル フリー

    新垣美登子の新聞小説「黄色い百合」(一九五四-五五)は、旧民法が存続した米軍占領下沖縄において女性たちが担った民法改正運動と呼応し、沖縄社会の封建制批判を行った点で、沖縄の男性作家が書いてこなかった占領空間の複数性を提示した。同時代の新聞小説山里永吉「塵境」と「塵境」批評は共に自律的な女性の空間を否認するが、テクストは性と生殖に分断された妾・妻・母たちの位相を可視化し、非規範的な女性像を描くことで規範的な家族像をずらす。それは産みの母「カミー」を次代再生産の役割としてではなくエロスの対象とする「百合子」の想いにも現れる。結末の伝統的風習に倣いつつもそれに背き、先祖の遺骨を火葬する「百合子」の行為には新民法を超えた公正な掟への求めが存在する。

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