日本農村医学会学術総会抄録集
Online ISSN : 1880-1730
Print ISSN : 1880-1749
ISSN-L : 1880-1730
第54回日本農村医学会学術総会
選択された号の論文の350件中101~150を表示しています
一般演題
  • 中根 一匡, 舟橋 恵二, 柴田 康孝, 高田 泉, 田中 克己, 齊藤 明子, 西村 直子, 尾崎 隆男
    セッションID: 1H01
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/11/22
    会議録・要旨集 フリー
    【緒言】
     Campylobacter 属(以下、属を省略)は、1977年にSkirrowが選択分離培養法を確立して以来、小児感染性下痢症において高頻度に分離される重要な起因菌である。わが国においても食中毒菌としての存在は大きく、またギラン・バレー症候群の先行感染病原体としても注目されている。今回われわれは、小児胃腸炎患者より分離されたCampylobacter について、分離状況と薬剤感受性を検討したので報告する。
    【材料と方法】
    1.供試菌株
     2004年6月から12月の7か月間に、当院小児科を受診した胃腸炎患者から糞便(直腸スワブにて採取)を採取し、分離用検体とした。検体をスキロー改良培地(栄研化学)にて42℃48時間微好気培養後、特徴的なコロニーを釣菌し、5%ヒツジ血液加トリプチケース培地(BD)にて純培養した。純培養後、オキシダーゼ試験陽性およびグラム陰性ラセン桿菌と確認できたものをCampylobacter とした。42名の患者より43株のCampylobacter を分離し、それらを供試菌株とした。
    2.菌種同定
     分離されたCampylobacter について、アピヘリコ(ビオメリュー)を用いて菌種を同定した。
    3.薬剤感受性試験
     McFarland No.1に調整した菌液を綿棒にて5%ヒツジ血液加ミューラーヒントン培地(BD)に塗布し、Etest(AB BIODISK)を用いて各薬剤のMIC(最小発育阻止濃度)を求めた。検討薬剤は、erythromycin (EM)、clarithromycin(CAM)、azithromycin (AZM)、fosfomycin(FOM)、norfloxacin(NFLX)、ciprofloxacin(CPFX)の6種類の抗菌薬とした。マクロライド系抗菌薬についてはNCCLSにおけるブドウ球菌のカテゴリーに、その他の抗菌薬は腸内細菌のカテゴリーに準じて薬剤感受性を判定し、Rのものを耐性株として検討した。
    【結果および考察】
    1.菌種同定結果
     分離されたCampylobacter 42株の菌種はCampylobacter jejuniiC. jejunii ) 34株、Campylobacter coli 8株であり、C. jejunii が81%を占めた。
    2.月別分離状況
     6月9例、7月7例、8月9例、9月5例、10月3例、11月5例、12月4例であり、6-8月の夏季に多く分離されたが、10-12月にも分離されていた。年間を通じた分離状況について、現在調査中である。
    3.年齢別分離状況
     0歳2例、1歳3例、2歳4例、3歳3例、4歳3例、5歳2例、6歳3例、7歳5例、8歳2例、9歳3例、10歳1例、11歳5例、12歳2例、13歳1例、14歳2例、15歳1例であり、分離例数に年齢差は見られなかった。
    4.薬剤感受性
     各薬剤のMIC50/MIC90値(μg/ml)は、EM1/4、CAM2/8、AZM 0.25/0.5、FOM 64/>256、NFLX 0.25/>256、CPFX 0.125/>32であった。EM 、AZMについては耐性株を認めなかった。FOMは17%が耐性株であり、NFLX、CPFXは36%が耐性株であった。
    【まとめ】
     今回の調査期間中にCampylobacter 42株が分離でき、81%がC. jejunii であった。夏季に多く分離され、分離例数に年齢差はなかった。EM 、AZMの薬剤感受性は良好であったが、FOMには17%、NFLX、CPFXには36%が耐性株であった。
  • 加藤 純, 伊藤 辰美, 工藤 昌子, 杉田 暁大, 佐藤 義昭, 朝倉 健一
    セッションID: 1H02
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/11/22
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】インフルエンザは冬季感染症のひとつとしてよく知られている。近年、新聞、ニュース、インターネット等で多く報道されており一般市民の関心も高い。当院でもインフルエンザ集計データをホームページで情報公開している。
    今回我々は、04/05シーズンに当院で実施したインフルエンザ迅速検査からみた流行状況の報告を行なう。
    【対 象】期間:2004年11月1日(45週)から2005年4月3日(14週)、依頼件数:3071件、迅速検査キット:エスプラインインフルエンザA・B-N
    【結 果】'05-14週までの集計でインフルエンザ迅速検査結果は、A型(+)281件、B型(+)780件、A+B(+)2件であった。今シーズン最初に検出されたのはA型(53週目)であったが、その後B型の流行が6週目から見られ11週目にピークを迎えた。以後、減少傾向であった。A型の流行はB型流行時の10週目から見られ13週目にピークを迎えた。年齢別は、1-5歳児の陽性率が最も高く(A型:24.4%、B型:26.3%)、また15歳以下の陽性率が全体の過半数を占めた。受診者ワクチン接種率は60歳以上高齢者で54.7%、1-5歳児42.1%であったが、10歳から30歳代は20%以下の低接種率であった。ワクチン接種済みインフルエンザ(+)判定が見られた(A型: 27.8%、B型: 25.4%)が、インフルエンザ(+)のほとんどがワクチン未接種(A型:70.5%、B型:72.3%)であったことからインフルエンザ予防にワクチン接種は有効であると思われた。また、検査時の受診者体温測定結果集計もおこなった。
    現在、当地域ではインフルエンザがまだ終息しておらず全て集計できていないためこの詳細は学会当日に発表させていただきます。
  • 山崎 一郎, 寺島 健, 江口 克也
    セッションID: 1H03
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/11/22
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】昨年度に針刺し・切創の実態を検討したところ、事故時にHBs抗体陽性と自己の免疫状態を把握していたのは、56%(14/25)にすぎなかった*)。検診での採血やワクチン接種は看護師、検査は検査技師、事務処理は総務課で行なっており、一元的な管理と職員への啓発が必要と思われた。そこで本年度は医療現場職員の、HBワクチン接種前後のHBs抗体を検討した。
    【対象及び方法】2004年度医療現場職員210名を対象とした。当院ではワクチン1回接種するごとに抗体検査を、抗体獲得(抗体価12mIU/ml以上)まで年3回を限度に行なっており、一般的な3回ワクチン接種後に抗体検査する方法と異なる。
    【結果及び考察】職員210名中134名(63.8%)が抗体陽性だった。抗体陰性76名中15名(19.7%)は、ワクチン接種を希望しなかった。過去に抗体陽性・ワクチン無反応または低反応と思っている・妊娠などの理由によるが、個々の職員につきワクチン接種を勧めるべきか、感染対策の観点からさらに検討すべきと思われた。
    接種希望者61名のうち、接種歴のある23名は1回のワクチン接種で全員抗体陽性となった。接種歴のない38名は、2回までのワクチン接種で 計16名(42%)が抗体陽性となった。
    抗体陽性者の抗体価を検討すると、接種歴のある23名中21名は抗体価100mIU/ml以上で、そのうち14名は1000mIu/ml以上となった。接種歴のない16名中3名は1回の接種、2名は2回の接種で抗体価100mIu/ml以上となった。このように反応性のよい人もおり、「高価な副作用の可能性もある」ワクチンを一律に3回接種するのがよいか疑問もある。しかし抗体陽性であっても接種歴のある2名、接種歴のない11名は、100mIU/ml未満だった。針刺しでHBウィルス量が多いときに、抗体価が100mIU/ml未満では感染の可能性を指摘する報告もあり、追加ワクチンを考慮したほうがよいかもしれない。
    今後も職員の抗体価やワクチン接種回数を把握し、HBVの針刺しによる感染予防対策の参考としたい。また多くの職員は、学生時にワクチン接種しているが、介護・労務職員は接種していなかった。新規医療現場職員は、就職前に少なくとも1回の接種を行なっておくことが望ましい。
    *)山崎一郎ほか.当院の針刺し・切創の実態と対策.INFECTION CONTROL2005;14(2):90-95
  • 高橋 浩一, 田中 惣之輔, 村井 博, 大庭  三沙, 碓井 裕史
    セッションID: 1H04
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/11/22
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
     山陽新幹線運転士の居眠り事件をきっかけに睡眠時無呼吸症候群についての知名度は高くなったが、まだ受診をしていない潜在患者は200万人程度存在していると考えられている。受診・検査の機会を増やすことが必要である。そこで、当院では2004年4月から人間ドック(日帰り・1泊ドックとも)のオプション検査として睡眠時無呼吸簡易検査の提供を開始した。今回1年間の受検者の成績を検討したので報告する。
    【対象と方法】
    対象は当院人間ドックのオプションとして睡眠時無呼吸簡易検査を受検した27名。なお、検査にはフクダ電子LT200を使用し、オプション価格を4725円、1日1名限定として募集している(事前予約制)。結果判定は当院呼吸器内科医がおこなった。
    【結果】
    当院人間ドックを受診した総数は2711名(日帰り2651名、1泊60名)。このうち睡眠時無呼吸簡易検査の受検者は27名であり、そのうち要精検判定が13名。要精検のうちすでに受診した者が9名、残り4名は現在未受診(受診勧奨中)。
    受診した9名のうち治療開始となっている者が7名、経過観察が2名。治療の内訳は、nCPAPが5名、耳鼻科手術が1名、歯科装具が1名となっている。
    【考察】
    人間ドックオプション検査の受検者の中からも治療を要する重症患者が高率に見いだされており、オプション検査導入の意義は高いと考えられる。受検してもらうことさえできれば、適切な診療科に引き継ぎ治療を受けることが可能となるので、人間ドックの募集パンフレットや結果説明などを通じ睡眠時無呼吸症候群につき周知するとともに、気軽に受検できるようにすることが重要であると考えられる。
  • 長濱 博行, 城間 清美, 有村 直美, 新澤 悦子, 山元 美保子, 副島 賢忠, 窪薗  修
    セッションID: 1H05
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/11/22
    会議録・要旨集 フリー
    目的:閉塞型睡眠時無呼吸症候群(obstructive sleep apnea syndrome:以下OSAS)では心血管系疾患(心筋梗塞、心不全、脳卒中など)の原因となりうる動脈硬化が進行していることが報告されている。OSAS患者では持続陽圧呼吸(continuous positive airway pressure;CPAP)治療が第一選択とされており、その血圧に及ぼす効果も報告されているが、長期にわたるCPAP治療が血圧や動脈硬化にあたえる効果についての検討は少ない。最近、動脈硬化を反映する脈波速度(baPWV)が簡便な動脈硬化の測定方法として、急速に普及しており、OSAS患者においてはbaPWVが高値となることも報告されている。今回我々は、当院にて12か月以上フォロー中のOSAS患者を対象として、CPAP使用による体重、血圧・脈波速度(baPWV)・ESSなどの変化を検討した。
    対象と方法:
    対象は当院にて、12か月以上、CPAPを継続使用できている症例とした。すべての患者はpolysomnography(PSG)を受けており、無呼吸低呼吸指数が20回/時間以上であった。
    全ての患者でCPAP開始前と開始6か月後・12か月後の体重、ESS、収縮期・拡張期血圧、脈波速度(baPWV)を測定し、変化を検討した。
    結果:1)体重の推移:CPAP開始6か月後、12か月後の体重は、CPAP開始前と比べ有意な変化は認めなかった。
    2)ESSの推移:CPAP開始6か月後、12か月後のESSは、CPAP開始前と比べ、有意な改善を認めた。
    3)収縮期血圧・拡張期血圧の推移:CPAP開始6か月後、12か月後の収縮期血圧・拡張期血圧は、ともにCPAP開始前と比べ、有意に低下した。
    4)baPWVの推移:CPAP開始6か月後、12か月後のbaPWVは、CPAP開始前と比べ有意な改善を認めた。
    結論:OSAS患者ではCPAP加療により、昼間の眠気の指標であるESS、収縮期・拡張期血圧、baPWVが開始前と比べ、開始6か月後で、有意に低下した。これらの効果は、CPAP開始12か月後も継続しており、CPAP継続使用により、これらの改善効果は維持しうると考えられた。特に動脈硬化の指標とされ、心血管疾患の合併症の発現や死亡と関連するbaPWVの改善とその維持は、OSAS患者における心血管疾患の合併や予後と関連するか、今後の検討が必要と考えられた。
  • 呼吸器外科麻酔、周術期管理のピットフォール
    深井 一郎, 水野 幸太郎, 浜田 正行, 宮原 眞敏, 暮石 泰子, 北井 珠樹, 澤井 俊樹, 藤田 敏
    セッションID: 1H06
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/11/22
    会議録・要旨集 フリー
     症例は75歳男性。大脳皮質下出血のため当院脳神経外科にて保存的治療中、右上葉肺腫瘍を発見された。皮質下出血の経過が良好であったため、手術目的にて当科転科となった。術前リスク評価は治療を要しない心房細動と若干の肺活量低下以外は認めなかった。いずれも右上葉切除を施行する上での支障にならないと判断された。 2005年4月25日、まず胸腔鏡下に肺部分切除を行なった。低分化扁平上皮癌の術中確定診断を得たため、胸腔鏡下に右上葉切除を行なった。血管処理がすべて終了した時点に術中心電図モニターで心室粗動が確認され、キシロカイン靜注で解除された。その後、気管支処理、リンパ節郭清を安定した麻酔下に施行し手術終了した。術後ICUに入室し、心電図モニターを装着。意識の回復を確認し気管内挿管チューブを抜管しようとした直後にモニター上心室粗動が発生し意識が消失した。カウンターショック4回するも蘇生せずキシロカイン靜注で心室粗動が解除され、ほどなくvital signは安定化した。この時点での心臓超音波検査では何の機能的異常は認めなかった。循環器科で精査し、機能上正常な心臓であるが交感神経優位な状態で心室粗動にいたる左脚ブロック型の心室粗動の可能性が示唆され、ベータブロッカーの使用を開始した。その後は血行動態も安定し4月27日には完全に意識も戻り正常かつ安定した肺葉切除後状態に復した。 呼吸器外科手術の麻酔および周術期管理は肺水腫を未然に防止する目的で輸液を少なめに維持される。一方、術後疼痛低減の目的で術中から周術期にかけて硬膜外麻酔を併用するのが常である。こうした管理は血圧低下をきたしやすい状態になるため、カテコラミンを持続的に使用することが多くなる。今回のeventは、このカテコラミンにより惹起された可能性が示唆された。こうしたケースを未然に防ぐことはきわめて困難だが、呼吸器外科医は念頭に置くべき循環器系合併症の1つと考える。
  • -日帰り手術センターのデータを中心に-
    佐藤 栄一, 大井 悦弥, 中田 幸美, 渡辺 和美, 新津 真佐子, 小池 恭子, 依田 尚美
    セッションID: 1H07
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/11/22
    会議録・要旨集 フリー
    【緒言】
    鼠径部ヘルニアは一般に鼠径ヘルニア、大腿ヘルニアを指し、小児から成人まで広くみられるcommon diseaseである。米国では鼠径部ヘルニアだけで年間凡そ60万件もの手術が行なわれており、本邦でも30ー40人に1人の発症頻度と認識されている。それだけありふれた疾患でありながら、その手術は一人一法と言われるほど外科医それぞれが独自の考えを持って治療されており、同時にヘルニアの手術は外科医師の修練としての役割も大きく、若手医師からベテラン医師まで広く行われている。さらに、近年その手術手技に関しても、従来法に加えTension free repair法、鏡視下修復術など幅広く、年々多様化している。その一方で、年齢や性別、生体条件などを考慮した適応の決定には未だ議論の多いのが現状である。他方、鼠径部ヘルニア手術は日帰り手術、クリニカルパスが絡み、その治療に関しては標準化・効率化へと大きな変遷を遂げている。
     当院においては、1999年より日帰り手術センター(以下、DS)が開設され、成人鼠径部ヘルニアについても同年よりその対象疾患とされ、また成人鼠径ヘルニア・クリニカルパスも同時に採用され改良を重ねながら今日に至っている。
    今回、昨年までの過去5年間の当院における成人鼠径部ヘルニア手術について検討した。
    【対象】
      2000年1月1日より2004年12月31日までの当院において実施された成人鼠径部ヘルニア手術 計613件。各年毎の件数は以下の通り。(図1)(BR)年齢は、19歳から96歳まで。(中央値:57.5歳)。尚、本邦においては鼠径部ヘルニアに関して小児と成人の境界についてのコンセンサスは得られていないため、当院においては17歳、18歳の手術症例が0であったため、19歳以上を成人とした。
     【方法】
    カルテ等を用いてretrospectiveにDS症例とそれ以外の成人鼠径ヘルニアについて検討を加え、また男女比、手術法、麻酔法、在院日数、合併症等について検討した。
    【結果】
     成人鼠径部ヘルニア手術症例のうちDS症例は2000年87.2%、2001年91.2%、2002年84.9%、2003年85.3%、2004年79.0%であり、総数では88.4%がDS症例であった。DS症例以外の手術例の内訳は鼠径ヘルニア嵌頓や大腿ヘルニア嵌頓に対する緊急手術例や元々基礎疾患の合併症例、他科入院中症例がほとんどであった。男女比は494人:119人であり、約80.6%が男性であった。(BR)以下 DS症例についてみると、麻酔時間は最短25分、最長147分(平均71.7分、中央値:86分)年次別麻酔法は以下の様であった。(図2)。手術時間は最短14分、最長135分(平均54.6分、中央値:74.5分)であった。入院期間は最短1日より最長16日(平均:4.63日)であった。合併症は7例(1.1%)に認められ、術後の疼痛や頭痛、嘔吐などであった。またその他、手術方法の年次推移などについても検討し、考察を加えた。
  • 矢口 豊久, 猪川 祥邦, 菅江 崇, 城田 高, 高瀬 恒信, 中山 茂樹, 梶川 真樹, 原田 明生
    セッションID: 1H08
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/11/22
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】近年大腸癌の化学療法は5FU/レボホリナート療法, FOLFIRI法など進行再発症例に対して高い奏効率をあげている治療が登場している.2005年4月6日にはオキサリプラチンが我が国でも薬価収載となり, FOLFOXの治療が可能な環境が整ってきている.当院では2004年11月より, 進行・再発大腸癌に対してFOLFIRI法(de Gramont regimen)を導入したのでその効果と副作用について報告する.【対象】切除不能進行大腸癌2例, 再発8例 平均年齢58.6歳(34-72歳) 男性4例, 女性6例 Performance status 0  8名,  1 2名.【結果】 投与開始後2か月以上経過し,評価可能であった症例7例のうちPR 3例, NC 3例, PD1例であった. 7例中6例生存.平均生存期間115日(82-155日)であった.副作用としては, 投与が直接の原因と思われる死亡例を1例に認めた.この症例は5クール目にGCSF投与に反応しないGrade 4の白血球減少を認めた. そのほか10例中5例にGrade 1以上の白血球減少を認めた. 悪心・嘔吐は10例中6例に認め, Grade 1 2例, Grade 2 3例, Grade 3 1例であった. 脱毛は, 投与2か月以上を経過した7名中Grade 1 3名, Grade 2 1名, Grade 3 1名であった. その他皮膚のびまん性色素沈着を5名に, 舌の色素沈着を1名に認めた. 図1に肝転移病巣に対してPRとなった例を示す.57歳女性. 腹部膨満感を主訴に2004.10月, 他医受診. 下行結腸癌および肝転移の診断にて当院へ紹介となった.当院入院後人工肛門を造設し, 2004年12月22日FOLFORI法による化学療法を開始した. 開始前(2004.12.21) CEA4399 ng/mlであったが, 5クール終了後CEAは236.8 ng/mlまで低下(2005.3.23)した.2005年4月5日人工肛門の切除と下行結腸病巣の切除を行い, CEAは更に111.5 ng/mlまで低下した.術後は経過良好で現在Performance statusを損なうことなく外来通院中である.一方投与5クール目に急激な白血球減少をきたした症例を1例経験した.34歳女性.下行結腸癌肝転移・肺転移・腹膜転移・右卵巣転移.3クールの投与により腹水がほとんど消失, 肺転移巣も縮小した.2005.2月1日投与終了後2日目より白血球は10500 /μlから1200 /μlへ低下. 直ちにGCSF投与を開始したが, 再上昇なく白血球100, 好中球30 /μlへ低下, 肺炎を併発し, 死亡した.【考察】FOLFIRI法は従来全く治療の手立てがなかった進行症例,あるいは他の化学療法においてPDとなった症例に対して新たな道を開くものであるが, 一方で重篤な副作用も認められる. 症例によっては効果的であるが,慎重な投与が必要である.
  • 池田 聡, 木村 博, 鈴木 恵子, 芝田 敏勝
    セッションID: 1H09
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/11/22
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】大腸癌の浸潤先端部分の間質においてはしばしば細胞1個または2から3個程度の小規模の島状癌細胞集塊が観察される。これはbuddingと呼ばれ、これが高頻度に見られる症例では低頻度な症例に比べ予後が有意に悪いことが明らかになり、新しい悪性度規定因子として最近注目されている。今回われわれは、進行大腸癌の浸潤先端部におけるこのbuddingの頻度を定量し、その臨床的意義を調べるとともに、浸潤先端部におけるbeta-cateninとMMP-7の発現を調べ、これらの発現がbuddingの成立に関与している可能性が示唆されたのでここに報告する。【対象および方法】症例は当院で2002年1月から5月までに手術により摘出された連続40例の散発性進行大腸癌である。この腫瘍の最大深達度を示す割面のパラフィン切片を用い、これに対しbeta-catenin,MMP-7を二重染色し、またbudding数を算出した。判定の基準は、budding頻度は最も高頻度に見られる100倍視野での個数を算定した。beta-cateninは腫瘍全体の5%以上の核に発色する症例を陽性とした。MMP-7は浸潤先端部で10%以上の発色があるものを陽性とした。【結果および考察】budding は腫瘍の膨張性発育を示す例では少なく、浸潤性に発育する例で多く見られ、その頻度はINF因子(p=0.0012)を反映し、さらにリンパ管侵襲(p=0.012)、リンパ節転移(p=0.015)、進達度(p=0.026)、肉眼型(p=0.0022)と有意に関連し癌の進展と正相関した。beta-cateninは正常部と腫瘍部の細胞膜に染まったが、一部の腫瘍では核に優位な反応が認められた。MMP-7は腫瘍の浸潤先端部分の細胞質に局在して発現した。beta-cateninの発現は臨床病理学的因子との関連は見られなかったが、MMP-7の発現はリンパ節転移との有意な関連が認められた(p=0.031)。また、beta-cateninとMMP-7はそれぞれbudding頻度と有意に関連した(p=0.0069、p=0.0098)。さらにbeta-cateninとMMP-7の発現は相関し (p=0.027)、beta-cateninの核への移行とMMP-7の発現が同じ細胞上でもしばしば観察された。【まとめ】大腸癌の浸潤先端部においてはbudding が観察され、それは癌の進展と強く相関し悪性度規定因子として有用であった。また、buddingの成立にはbeta-cateninの核への移行とMMP-7の発現が関与している可能性が考えられた。
  • 膵胃吻合法とBalloonによる幽門形成
    赤羽 弘充, 高橋 昌宏, 中野 詩朗, 柳田 尚之, 河合 朋昭, 後藤 順一, 今井 浩二, 廣方 玄太郎, 北 健吾, 藤好 真人
    セッションID: 1H10
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/11/22
    会議録・要旨集 フリー
    <緒言>幽門輪温存膵頭十二指腸切除術(PpPD)は、膵吻合部縫合不全が致死的な合併症となりうる。また幽門機能の回復に時間を要し、術後一定期間の胃内容停滞が問題となる。
    <成績>当科では1998年から、膵頭部領域腫瘍に対して、PpPD-IVB2(膵胃吻合、嵌入法(図1))を標準術式として導入し、75例を経験しているが、致死的な縫合不全は経験していない。また、balloonによる幽門形成により経鼻胃管の留置は不要となり、経口摂取開始日も短縮している。
    1998-2002年(形成以前):飲水開始10日、食事開始 17日。
    2003-2005年(形成以後):飲水開始 6日、食事開始8.5日。以上中央値
    <手術手技>1)膵胃吻合:胃の前壁を切開し、後壁から膵を嵌入して胃の全層と8方向で膵と縫合する。膵管チューブは5-7cmで切断し、不完全内瘻として膵管後壁と固定する。膵管-粘膜吻合は施していない。2)幽門形成:術後の胃内容停滞を予防する目的で、2002年までは経鼻胃管や胃瘻チューブを外瘻として長期間留置していたが、2003年から尿道バルーンを用いて幽門輪の拡張(図2)を施した上で、約30cmの胃管を胃前庭部前壁に固定し、空腸へ内瘻化している。3)肝管空腸吻合:全層連続一層縫合として、ステントは留置していない。
    <結語>以上の工夫により、術後は肝管空腸吻合部と膵胃吻合部に留置した閉鎖式ドレーン以外のチューブ類は存在せず、入院期間も約10日間短縮されている。
  • 薄井 信介, 伊藤 浩次, 春木 茂男, 岡本 健太郎, 有田 カイダ, 益子 一樹, 松本 日洋, 滝口 典聡, 平沼 進, 真田 勝弘
    セッションID: 1H11
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/11/22
    会議録・要旨集 フリー
    近年の消化器領域の鏡視下手術の発展に伴い当院においても症例数は年々増加しており、2004年は全体で120例の腹腔鏡下手術を施行した。胃癌に対しては胃癌治療カ゛イト゛ラインに従ってStageIAを適応としており(m癌に対してはD1+α郭清・sm癌に対してはD1+β郭清)、これまでに47例の鏡視下胃切除術を施行した。内訳は2002年:LADG 2例、2003年:LADG 7例、2004年:LADG 22例・LATG 7例、2005年4月現在、LADG 5例、LATG 4例である。LATG(腹腔鏡補助下胃全摘術)は再建が困難であることより、LADG(腹腔鏡補助下幽門側胃切除術)ほど一般に普及していない。当院ではLATGの再建を6cmの正中切開よりPouch-Roux-Y法にて施行しており、食道空腸吻合に対しては独自に開発したPSImini鉗子を用いた腹腔鏡補助下の吻合を行なっている。今回LATG11例(男性9名,女性2名)とこれまで当院にてStageIAおよびIBの胃癌に対して施行された19例(男性14名,女性5名)の開腹胃全摘症例(OTG)とを手術内容および術後経過で比較検討した。平均手術時間および平均出血量および郭清リンパ節個数はLATG群300.3±17.7min、353.2±140.6ml、28.2±19.7個に対してOTG群は300.1±61.2min、430±187.8ml、28.8±14.3個であり、Omento-brusectomyは、LATG群は全例施行せず、OTG群は3例に施行している。手術時間および郭清リンパ節個数に関して両群は同等であり、出血量はLATG 群が少なかった。術後経過では排ガスがLATG群2.1±0.4POD(Post operative day)に対してOTG群5.7±0.9POD、歩行開始がLATG群1.6±0.7PODに対してOTG群2.7±1.3POD、経口摂取開始がLATG群5.0±1.67PODに対してOTG群8.8±1.3POD、術後入院日数が13.3±3.4PODに対してOTG群23.2±4.6PODでいずれもLATG群がOTG群に比べて有意に早かった。術後腸閉塞による再入院はOTG群に1例認めている。
    また0POD・1POD・3POD・7PODにおけるWBCおよび C-reactive protein (CRP) を両群で比較したところ、WBCは day 0 (9.25 vs 10.1 ×109/L)では有意な差が見られなかったものの1POD (8.03 vs 9.63×109/L), 3POD (7.04 vs 9.23 ×109/L), 7POD (6.40 vs 8.40×109/L) でLATG群が有意に低かった。CRPに関しては0POD (0.15 vs 0.26 mg/dL), 1POD(6.80 vs 6.29 mg/dL), 3POD(10.06 vs 10.70 mg/dL), および 7POD(4.78 vs 3.47 mg/dL)で有意な差は見られなかった。 これまで北野らによって開腹症例との比較からLADGの有用性が報告されている。今回の検討によって胃全摘においても鏡視下手術は根治性を損なわずに低侵襲で入院期間を短縮していることが証明された。地方病院は高齢者が多く、術後入院期間は長くなりがちである。このような状況のなか、鏡視下手術による入院期間の短縮化は評価できるものと考える。
  • 水草 貴久, 日江井 邦彦, 塚本 達夫, 右納 隆, 高橋 日出美, 川崎 浩伸, 大野 泰良, 山田 好久, 渡邊 一弘
    セッションID: 1H12
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/11/22
    会議録・要旨集 フリー
    《はじめに》
     2003年10月にPEG-IFNα-2aが承認されて以来、C型慢性肝炎治療は従来のIFNからPEG-IFNへと主役の座が交代しつつある。なぜならPEG-IFNは血中濃度半減期が長く週1回の投与で済むことから、従来のIFNに比べ患者サイドの時間的かつ経済的負担が軽減されるからである。今回我々は2004年1月からPEG-IFNα-2aによる治療を開始し、途中1名が副作用(IFN自体によると考えられるALTの上昇)から中止した以外は、脱落者もなく約1年間の観察を終了し得たのでここに報告する。
    《方法と対象》
     2004年1月から2005年3月までの期間、C型慢性活動性肝炎患者10名(初回投与3名、他のIFN投与後7名)に対して、すべて外来にて全症例ともPEG-IFNα-2a 180μgから開始し週1回投与した。
    《結果》
     発熱、全身倦怠感、うつなどの副作用は発生頻度的には、従来のIFNと比較して大差なくほとんどの症例で認められたが、その程度としては圧倒的に軽く、期間的にも1か月以内のものであった。但し、白血球や血小板に関しては治験時のデータ以上に顕著に低下し、投与開始1か月以内に4名(すべて女性)で180→90μgへ減量せざるを得なかったが、減量に伴うASTの上昇など肝炎の再燃はなかった。特に白血球の減少が著明であったが、投与中止基準を越えるものはなかった。ALTは1名を除き正常化し、HCV定性(PCR)は継続投与症例ではすべて陰性化している。
    《考察》
     PEG-IFNα-2aは症状的な副作用が軽度であり、白血球などの減少に留意すれば、週1回投与という簡便さと合わせて、従来の薬剤に比して長期投与していく事がさほど難しくないと考えられる。HCVの陰性化が難しいとされる1b高ウイルス量症例では、ALTの正常化を可能な限り維持していく事が重要だが、その意味でも長期投与しやすいPEG-IFNは最も適した薬剤と思われる。さらにはPEG-IFNα-2bとリバビリンとの併用療法では、長期投与で1b高ウイルス量症例に対して、HCVの陰性化率を向上させるデータが報告されている。PEG-IFNの長期投与がC型慢性肝炎治療の主役となりつつある今、この治療法に関する有効性をさらに地域に広めていく必要があると考えられる。 
  • 藤本 正夫, 山瀬 裕彦, 栗田 慎一, 安藤 修久, 大池 恵広
    セッションID: 1H13
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/11/22
    会議録・要旨集 フリー
    【症例】
    44歳、男性。平成12年6月12日、乳頭部腫瘍に対して内視鏡的乳頭切除術を施行した。切除標本の病理診断は高分化腺癌であり、断端は陰性であった。平成13年6月、局所再発を認め、幽門輪温存膵頭十二指腸切除術を施行した。平成14年4月、肝転移に対して肝右葉切除術を施行し、6月に鎖骨下からカテーテルを留置してFEMにて肝動注化学療法(以下、HAI)を開始した。その後、画像診断上は再発所見を認めず、腫瘍マーカーもCEAは正常範囲、CA19.9は40-50U/ml台を推移していた。しかし、平成15年11月26日に小脳梗塞を発症したためリザーバーカテーテルを抜去し、その後は本人および家族の希望にてHAIは行なわず、S-1の内服のみとした。3か月後、カテーテル抜去直前に3.5ng/mlであったCEAは30.6ng/mlと上昇がみられ、同時期に画像診断上では残肝、肺、脳各々の多発転移巣が出現し、やや遅れて両側腰筋の転移が認められた。脳転移に対してラジオサージェリー、腰筋転移に対してTAE、RFAを行なったが、HAI中断後8か月で死亡した。剖検所見では、肺、肝臓、腎、骨髄に高ー中分化腺癌の転移を認め、腹膜転移は認めなかった。腰筋転移巣は、組織学的に一部に腫瘍残存を認める以外は壊死に陥っていた。
    【考察】
    本例は残肝への動注中断後に急速に肺・脳転移が出現しており、残肝再発巣から他臓器へ転移したものと考えられる。したがって、本例において肝切除後に2年のDFSが認められたのは、残肝の潜在性肝転移に対してHAIが有効であったものと考えられる。広義の肝転移の予防にHAIが有効であることを示唆する一例であると思われる。
  • 楠崎 浩之, 大川 伸一, 西岡 道人, 篠田 政幸, 熊木 伸枝
    セッションID: 1H14
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/11/22
    会議録・要旨集 フリー
    1.GISTの概念と病理
     従来消化管の粘膜下腫瘍のほとんどは平滑筋由来の腫瘍とされてきた。近年それらの多くが、消化管蠕動のペースメーカー細胞であるカハールの介在細胞由来であることが明らかとなった。この腫瘍はgastrointestinal stromal tumor (GIST) と呼称され、消化管の間葉系腫瘍の80-90%を占めている。これらGISTの腫瘍細胞はc-kit遺伝子のある部分に変異がある例が多く(エクソン11と9に多い)、免疫組織化学的にもc-kitが細胞質に陽性に染色されることが特徴的である。加えてCD34が細胞質に陽性に染色され、免疫組織化学的に確定診断に至る。通常の腫瘍はHE(Hematoxylin and eosin stain)による組織診断が主体で、免疫組織化学は補助的であるのに対し、GISTの診断手法は完全に異なる。GISTの病理診断に関する考え方は近年めまぐるしく変化しており、今後さらに分子レベルの病態の解明が進むと思われる。
    2.GISTのリスク分類
     GISTに限らず腫瘍の良悪性の鑑別は臨床上極めて重要だが、GISTの場合は腫瘍の大きさと細胞分裂像の数から決定する。最近の考え方ではGIST は全例potential malignantであることが示されており、腫瘍の悪性度をlow, intermediate, high gradeに大別する。当院において病理学的に良性と考えられたが悪性の経過を辿った症例を経験した。現行のリスク分類は必ずしも正確とは言えず、長期間の経過観察例の蓄積と分子レベルの病態の解明により見直される必要があると考える。
    3.GISTの治療薬
     GISTの治療法は外科的切除が第一であるが、high grade malignancyの再発症例や進行症例の治療は困難であった。最近CMLの治療薬であるイマチニブ(グリベック)がGISTの治療困難例に対して極めて有効であることが示され、一躍脚光を浴びている。グリベックは初の分子標的治療薬であり、今後症例の投薬基準、投薬方法などの検討課題が残されている。しかし、このような治療薬は副作用の点にも充分な留意が必要である。GISTは治療に対する反応性でも特殊な腫瘍と考えられている。
    4.症例
     最近われわれは十二指腸原発GISTの3例を経験した。症例1は33歳、男性。1991年より貧血で加療していた。2000年に右上腹部の腫瘤を自覚し、MRIにて十二指腸腫瘍を指摘され手術を施行した。術後、2001年に肝転移、傍大動脈リンパ節転移を認めた。症例2は74歳、女性。2003年に貧血で入院歴があるが、自覚症状はなく、腫瘍マーカーは陰性であった。MRIにて後腹膜腫瘍、肝転移を指摘され手術を施行した。症例3は56歳、男性。2003年に健康診断で貧血を指摘され、上部内視鏡検査にて十二指腸球部-第2部に腺癌あるいはmalignant GISTが疑われ、手術を施行した。術前検査にて肝転移、リンパ節転移を認めた。肝転移を伴ったGISTは稀であり、GISTの特徴を含め、若干の文献的考察を加えて報告する。
  • 飯田 辰美, 棚橋 俊介, 宮原 利行, 水谷 憲威, 宮田 知幸
    セッションID: 1H15
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/11/22
    会議録・要旨集 フリー
    【対象】症例1は83歳女性、主訴は心窩部痛。胆石症の既往あり。症例2は86歳女性、主訴は腹痛と嘔吐。急性腹症として入院となった。症例3は88歳女性、主訴は上腹部痛で、左大腿骨頚部骨折にて入院中に発症した。症例4は41歳男性、糖尿病治療中で右季肋部痛を主訴として入院した。症例5は90歳女性、腹痛にて来院。症例6は81歳女性、腹痛にて入院、1か月後に開腹術となった。【結果】全例が術前合併症を有しており、5症例で胆汁性腹膜炎があった。6例とも開腹胆嚢摘出術・腹腔ドレナージを施行した。PMXを使用した2例を含め、重症感染症に対する集中治療を要した。5例は軽快したが、症例3はDIC・敗血症性ショックとなり死亡した。摘出胆嚢は主として粘膜層の荒廃・壊死が著しく、病理組織学的に壊疽性胆嚢炎と診断された。【まとめ】壊疽性胆嚢炎は細菌感染・組織循環障害が複合して生ずるとされる。高齢で動脈硬化が高度な症例、糖尿病など末梢循環障害を基礎に有する症例では胆汁鬱滞・細菌感染に加え、組織循環障害を生じ、壊疽性胆嚢炎さらには敗血症・多臓器障害に陥りやすいことが示唆された。
  • 二ノ宮 三生, 竹中 清之, 栗山 尚子, 田上 真, 原瀬 一郎, 河瀬 晴彦, 渋谷 智顕
    セッションID: 1H16
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/11/22
    会議録・要旨集 フリー
    <緒言>超音波内視鏡下穿刺吸引法(以下EUS-FNA)は新しい組織診断法であり、とくに消化管粘膜下腫瘍や膵病変、縦隔リンパ節病変の組織採取に有用であることが報告されている。今回我々は、EUS-FNAにて診断しえた膵原発悪性リンパ腫の1例を経験したので報告する。
    <症例>77歳、女性。主訴:胸部つかえ感。家族歴:特記すべきことなし。既往歴:1年前、胆石にて胆嚢切除術。10年来糖尿病加療中。現病歴:2週間前より嚥下時の胸部つかえ感を覚えるようになり、食欲も低下した。近医にて胸部単純X線写真上、心陰影の拡大と縦隔腫瘤を疑われ、精査加療目的で当院へ紹介入院となった。入院時現症:血圧114/62mmHg、脈拍98/分、整。眼瞼結膜に貧血なし、眼球結膜に黄疸なし。心音、呼吸音正常。腹部平坦、軟、肝・脾・腫瘤触知せず。表在リンパ節触知せず。浮腫認めず。入院時検査成績:尿蛋白(-)、尿糖(3+)、血液検査RBC352×10╱mm、Hb11.2g/dl、Ht31.4%、WBC4500╱mm、血小板26.0×10╱mm、生化学検査TP6.8g/dl、総ビリルビン0.5mg/dl、AST76IU/l、ALT27IU/l、LDH2406IU/l、ALP205IU/l、膵型アミラーゼ190IU/l、CRP0.94mg/dl、glucose102mg/dl、HbA1C8.1%、BUN13.2mg/dl、Cr1.0mg/dl、Na142mEq╱l、K4.7 mEq╱l、Cl105mEq╱l、可溶性IL-2レセプター1270U/ml。胸部単純X線写真:心胸郭比61%と著明な拡大。胸部CT:上縦隔に大動脈弓を圧排する腫大した縦隔リンパ節と両側胸水および心嚢液の貯留。腹部CT:膵は頭部から尾部にかけてびまん性に腫大し造影効果なし。ERCP:主膵管はびまん性に不整で一部狭小化。Gaシンチ:縦隔と膵に異常集積。EUS-FNA:経食道的に縦隔リンパ節生検を、経胃的に膵体部と膵尾部から生検を施行。病理組織診断:縦隔リンパ節、膵ともに大型の異型細胞がびまん性に浸潤、CD10、CD20陽性、最終診断は膵原発のdiffuse large B cell lymphoma。臨床経過:治療はリツキシマブ併用THP-COP療法を施行。治療開始後速やかに胸部つかえ感は消失しLDHは基準範囲内となった。2クール終了後にはCT上、縦隔リンパ節の腫大と膵病変はほぼ正常化した。
    <考察>膵原発悪性リンパ腫は稀な疾患である。その診断は膵腫瘍として外科的に切除された標本でなされることが多く、術前診断をしえたとの報告は稀である。本症例ではEUS-FNAによって悪性リンパ腫の診断が可能であった。本症例の原発は膵臓か縦隔か判断が難しいところであるが、リンパ液の循環経路を考慮し膵臓原発と診断した。EUS-FNAは経皮的アプローチが困難な部位の穿刺および十分量の組織採取が可能であり、膵病変や縦隔リンパ節の生検に有用である。
  • 医療状況指数の作成
    松井 遵一郎, 伊藤 信雄, 江川 雅巳, 栗城 実
    セッションID: 1I01
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/11/22
    会議録・要旨集 フリー
    はじめに
     医師の偏在化、へき地における医師充足の必要性が叫ばれて久しいが、未だ充足されたとはいえない。一方、臨床研修必修化に伴う医師供給の途絶やへき地医師の負担の増加が大きな問題となっている。また現在進行中の市町村合併により、小さな地区ごとの医療状況把握は困難になると思われる。例えば、従来は無医地区とされたものが、医師の常在する地区と合併することにより無医地区とはみなされなくなる事などである。
     以上のような現状の中で、地区間の医療状況の比較や一地区の医療状況の時間的な変化を比較するための指標があれば有用と考えて医療状況指数を作成することにした。
    医療状況指数の作成
    1)医療状況に関係する因子
     一般に医療の供給の程度を論ずる場合、人口10万に対する医師数が用いられているが、それのみでは不十分である。今回は、人口当りの医師数に加え、面積当りの医師数、2次救急医療機関への移動時間、3次救急病院への移動時間、3次救急病院への移動の季節較差(夏冬較差)を客観的に評価しうる因子として採用し、後記の医療状況指数算出式を考案した。
    2)算出式作成の基礎となる市町村例
     算出された指標は、一般人が抱いている通念に合致すべきである。以下に2つの村を例にあげる(表1)。第1例は桧枝岐村であり、人口約700人に対し常勤医師1名であり、人口当りの医師数は多いと計算されるが、面積が広く、2次3次救急病院へのアクセスは遠い。第2例は湯川村であり、無医村であるが、地方の中心都市である会津若松市に隣接し、2次3次救急病院へのアクセスも良好である。この両村の医療状況を比較すると、無医村である湯川村の方が医師の常在する桧枝岐村よりも明らかに良好である。算出式は、人口当りの医師数が少ない湯川村でも、桧枝岐村を上回る医療状況指数を示す様に設定されるべきである。
    3)算出式
    X=人口1万人当りの医師数     Y=1平方キロメートル当りの医師数
    Z=夏季の2次救急病院までの到達時間 (分)
     M=夏季の3次救急病院までの到達時間 (分)
    N=3次救急病院までの到達時間の夏冬の差 (分)とする。
    これらの因子のうち、X,Yは大きい方が良い医療状況であり、Z,M,Nは小さい方が良い医療状況になる。したがって、基本的な算出式は、
    医療状況指数=aX+bY+c/Z+d/Mー(N/e)となる。ここで、上記の2村を初めとし、近隣の市町村の状況とX,Y,Z,M,Nの桁を考慮し、a=1,b=50,c=100,d=100,e=10と決定した。すなわち、
    医療状況指数=X+50Y+100/Z+100/Mー(N/10)となる。
    (表1)

    結語
     以上の算出式により、各市町村の医療供給度をほぼ妥当に表現できると思われる。今後、各市町村特にへき地の指数を算出し、医療状況の表現に利用したい。
  • 只見川流域町村の過去と現在
    松井 遵一郎, 伊藤 信雄, 江川 雅巳, 栗城 実
    セッションID: 1I02
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/11/22
    会議録・要旨集 フリー
    はじめに
    福島県会津地方只見川流域は、昭和20年代から30年代の電源開発時期の隆盛をピークとして、それ以後は過疎化と高齢化が進行している。交通の状況は改善されるとともに、救急病院へのアクセスは改善しているが、過疎化にあわせるように医師数(特に開業医)が減少している。このような状況の町村で医療供給が過去と現在でどのように変化しているのか既報の医療状況指数を利用して検討を試みた。

    方法
    只見川流域5町村(会津坂下町、柳津町、三島町、金山町、昭和村)および地方の中心都市である会津若松市の昭和51年と平成14年の医師数、人口、面積を後述の参考文献で検索するとともに、2次救急および3次救急病院へのアクセスを実際に自動車走行して調査した。なお昭和51年当時のアクセスについては聞き取り調査を行った。
    以上で得た数字を既報の算出式により医療状況指数を算出し、昭和51年と平成14年の状況を比較した。

    結果
    結果を表1に示す。

    考案と結語
    人口の比較的多い市町は、26年の間に人口の増加減少にかかわらず、医師数が増加し、医療供給度も上昇している。しかし、過疎化の著しい2つの町(柳津町、金山町)では医師数も減少したことにより、2次あるいは3次救急病院へのアクセスは改善されても(主として道路状態の改善によると思われる)医療供給度指数は低下している。住民も地域の活性が低下したと同時に医療状況も悪化したと感じている者が多い。本医療供給度指数は住民の実感に近いので、どの地区の医療を優先的に充実させるかを考える上で有用と考える。
  • -20年間の相談記録の分析を通して-
    前島 由香, 相澤 徹明, 鈴木 祥絵, 坂田 幸江
    セッションID: 1I03
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/11/22
    会議録・要旨集 フリー
    [はじめに] 長野松代総合病院(以下,当院)は長野市(人口約38万人,高齢化率21.0%)の東南部(高齢化率24.6%)に位置し,亜急性期病室30床を含めた合計365床を有する病院である(2005年3月現在).当院に医療ソーシャルワーカー(以下,MSW)が配置されてから20年が経過した.この間数回にわたる医療法改正などが行われ,医療を提供する体制の変化から医療相談業務にも変化が見られたのではないかと考えた.今回,今後の業務の方向性を明確にするために,MSW導入期と現在における相談件数及び業務内容を比較し,その内容の変遷について検討した.

    [方法] MSWが導入された1983年度から1987年度までの医療相談記録を「導入期データ」,2001年度から2003年度までの医療相談記録を「近年データ」とし,それぞれを厚生労働省の「医療ソーシャルワーカーの業務指針」に沿って分類し,業務内容別件数を集計し,比較した.また,導入期と近年の業務内容の違いを見るため,導入期と近年の業務の割合の平均値を比較した.

    [結果] 年間相談件数の平均は,導入期では628.8±184.6(SD)件,近年では2187.7±291.6件であった.業務内容の各年度に占める割合の平均値で最も多かったのは,導入期では「療養中の心理的・社会的問題の解決,調整援助」で46.7±3.3(SD)%,続いて「受診・受療援助」21.9±6.4%であった.近年では「療養中の心理的・社会的問題の解決,調整援助」が41.8±2.4(SD)%,ついで「退院援助」が33.8±3.9%であった.

    [考察] 相談件数は導入期と比べ,近年は約3.5倍に増加していた.この要因として患者数の増加(外来患者2.5倍,入院患者1.3倍),診療科の増設(1994年脳神経外科,1996年心療内科),MSWの増員(1996年に1名,2000年度に1名)が考えられた. 業務内容では,導入期,近年ともに「療養中の心理的・社会的問題の解決,調整援助」が最も多くMSWの普遍的な業務と考えられた.導入期と近年の比較では「受診・受療援助」の割合の減少と「退院援助」の割合の増加という大きな変化が見られた.「受診・受療援助」の割合の減少の要因として,健康志向を社会全体で支援する体制が整備され,疾病・治療に対する患者の意識が変わり,健康への関心が高まったことが考えられる.「退院援助」が増加した要因として,医療法の改正により,病院の機能分化,在宅医療・在宅介護への移行が進められたことが挙げられる.多様な社会資源が存在する中,個々の患者をとりまく状況に応じた情報を提供し,患者自身が選択できるような援助が求められていると考えられた. 今回の調査において,MSWの基本となる業務が明らかになった一方,医療制度改革など,行政や社会情勢の影響を受けて変化したと考えられる業務も見られた.このことからMSWは自身の基本的な業務を遂行するとともに,常に制度・政策の流れを見通す努力が必要であると考える.
  • 第1報 健康寿命算定の試み
    荻原 忠, 佐々木 英行, 桐原 優子, 今野谷 美名子, 月澤 恵子, 石成 誠子, 長澤 邦雄, 照井 一幸, 佐々木 司郎, 林 雅人
    セッションID: 1I04
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/11/22
    会議録・要旨集 フリー
    <はじめに>少子高齢化の進行と要介護者の増加は、地域保健福祉の分野の目前の課題である。介護保険施行5年目を迎え、見直しの議論が盛んに行なわれている。その方向付けの一つが、健康寿命を延ばし生活の質を上げることである。2000年に厚生労働省が策定した「健康日本21」では健康寿命のことを「痴呆や寝たきりにならない状態で生活できる期間」と定義している。地域保健福祉の分野の基礎データとして、地域における健康寿命というものをどの様な方法で把握したらいいのかと言う課題がある。
    <対象と方法>切明義孝氏の「介護保険制度を利用した健康寿命計算マニュアル」では65才を基準に健康余命を算出し、これと65才の平均余命の差を障害期間として、0才の平均余命すなわち平均寿命から障害期間を引いたものを健康寿命と見なしている。今回は、秋田県南部のY市から介護保険の要介護認定者の性別・年令別データを5年分(2000年から2004年)いただき検討した。
    <結果と考察>Y市の男性の障害期間は2000年のデータで0.6年、2002年は1.2年となった。健康寿命はそれぞれ76.9才と76.3才となり、2年間に0.6才短縮したことになる。女性では1.7才短縮している。このプログラムで計算した自立率を男女別に見ると、2002年の方が自立率が低くなっている。特に、2002年の高齢女性の低下が目立つ。
     Y市の2000年から2004年の各年10月の認定者実数は男性で112人から404人に、女性で391人から1161人に増加している。65才以上人口に対する比率は、男性で2.8%から9.6%に、女性で5.1%から14.8%に増加した。これは、要介護者が急速に増加したと言うより、介護保険の認定作業が進んだ結果と見るべきであると考える。認定率を65才から74才の前期高齢者と、75才以上の後期高齢者に分けた場合、前期高齢者ではほとんど5年間の増加を認めないのに対して、後期高齢者における急速な増加が明らかであった。この地域の高齢化率は98年から2004年の間に22.8%から26.5%に3.7%増加したが、増加部分はほとんど後期高齢者で占められている。後期高齢者の方が要介護者が多くなるのは当然であり、要介護要支援者の実数が増えている可能性が高い。また、2000年と2004年の男女別、年令別の要介護度の結果を見ると、要介護4以上の比率が男性で30.4%から33.2%、女性で21.7%から29.0%と上昇している。要介護度の重度化傾向も考慮する必要がある。
    <まとめ>
    1)地域における介護需要の動向を検討するため、生命表の計算法を応用した健康寿命の算定を試みた。
    2)Y市における2002年の健康寿命は男性76.3才女性81.5才で、2000年の男性76.9才女性83.2才より短縮していた。
    3)この理由としてa.要介護認定率が年々上昇していること、b.後期高齢者の増加、c.後期高齢者の要介護度の上昇などの背景要因が考えられた。
    <謝辞>この方法の導入に当たり重要なご示唆をいただいた福井県厚生連にお礼申し上げます。
  • 高齢者の多発性骨腫瘍に対する造血幹細胞移植の導入の意義と問題点
    森山 美昭, 漆山 勝, 小林 勲
    セッションID: 1I05
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/11/22
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】急速な高齢化社会に伴い、地域医療では高齢化は一段と進み、造血器腫瘍の発症ピークも60代から、造血幹細胞移植適応外の70代の後期高齢者へと移行し、新たな対策が必要であることを前報で指摘した。今回、新潟県柏崎・燕地区における多発性骨髄腫(MM)発症の実態を調査し、その対策として地域医療における造血幹細胞移植の導入の意義と問題点について検討した。
    【方法】高齢化に伴い発症率と死亡率が年々増加しているMMを今回対象とした。過去約7年間に経験したMM:43例(年齢:47-93歳)の中、MP療法(DMVM-IFN含む):26例とVAD療法:12例の計38例(病期:IA-IIIB)を解析の対象とした。その内訳は、女性:17例、男性:21例で、IgG:21例、IgA:11例、B-J:1例、IgD:2例、plasma cell leukemia:3例であった。70歳以上の3例を含む11例(3例は再発)に移植を実施した.MMでは高齢者が多いため自己末梢血幹細胞移植(PBSCT)を基本としたが、1例に同種ミニ移植を行なった。即ち、VAD療法(2-3 kur)後、CY:2g/m2x2 + G-CSF(300-600ug)を投与し、白血球が10000/ul 以上に増加した時点で、apheresis(2-4回)で幹細胞(PBSC)を採取し、凍結・保存した。移植患者は減菌療法を行ない、無菌室に収容。移植前処置としてL-PAM:200mg/m2(60歳以上:140mg/m2)を投与した。その48時間後、解凍したPBSC(CD34:2x106/kg)を移植し,その後G-CSFを投与し生着を促進した。一方、移植(VAD-PBSCT)例とMP療法(化学療法)例の予後(OS)はKaplan-Merier法で比較した。
    【成績】高齢化が進む地域医療では、MMは年々増加し、かつ50%生存は3年以下であり、その対策は重要な課題である。今回、高齢者MMに対してVAD-PBSCTを導入しその安全性と有効性について検討した結果、70歳以上の3例を含む11例(内3例は再発)で移植関連死(TRM)はなく、かつ各血球の回復、輸血量など高齢者と64歳以下で差は見られず、その安全性を確認した。高齢者で合併症がやや多く、またMP療法歴のある患者でPBSC採取が困難であった。移植後11例中2例が死亡(1例は再発、1例はMDS転化)した。VAD-PBSCT群とMP療法群の予後(OS)比較では、移植群のOSが優位(P <0.01)に改善した。
    【結論】高齢者に多く、かつ年々増加しているMMに対しVAD-PBSCTを実施し、移植例の予後がMP療法のそれを凌駕することを確認した。高齢者でやや合併症が多いもののTRMはなく安全性は高く、地域医療におけるMM患者の治療にVAD-PBSCTの導入は意義あると考える。
  • 立川 道子, 細川 透浩, 松原 功典, 後藤 尚絵, 前田 晃男, 齋藤 公志郎
    セッションID: 1I06
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/11/22
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】 全白血病の2%を占めわが国では特に稀な疾患とされている hairy cell leukemia(HCL)は、細胞の形態に因んでつけられた名称である。細胞表面に毛髪状の多数の突起が位相差顕微鏡等で観察されるのが特徴的である。今回我々は集団検診で見つかったHCLの一症例を報告する。
    【症例】 48歳男性、2004年3月 検診にてWBC増加を指摘され当院内科を受診。来院時WBC 26,240/μl リンパ球 86% 生化学その他検査には特に異常を認めず。自覚症状なし。この時の血液像にてリンパ球形態(図1・2)に異常を認めたため、精査目的にて、血液外来受診となる。
    【検査所見】
    血液検査: WBC 26、240/μl(好中球9% 好酸球 1% 単球 1% リンパ球 86% 異型リンパ球 3%)、 RBC 466×104/μl、 Hb 13.7g/dl、 血小板 16.9×104/μl
    CDマーカー(CD19 CD20 CD21 CD11C FMC-7 HLA-DR κ-ch陽性 CD25陰性)SMIg(IgG)陽性、 酒石酸抵抗性酸フォスファターゼ(TRAP) 陰性
    骨髄検査: 有核細胞数 96,500/μl、 巨核球数 31/μl
    骨髄像所見は中リンパ球(異常リンパ球)が末梢血同様約80%を占め、明らかな骨髄内増殖を認めた。走査電顕像(図3)より、HCLと診断。又、表面マーカー、 TRAP陰性より Japan variantと推定された。
     【考察】
    HCLは冷風乾燥の光顕では単球様として見られることが多く、毛髪状に見えることは少ない為注意深い観察が必要である。今回我々は通常の冷風乾燥にて大型でN/C比が小さい目玉焼き状に見えるリンパ球を認めた為HCLを疑い自然乾燥を試みたところ、(図2)に示すような有毛細胞が認められた。ルーチン検査全てに自然乾燥を行なうことは困難であるが、今回のような目玉焼き状に見える大型リンパ球を認めた場合、HCLを考慮に入れ自然乾燥を試みるべきと考えた。
  • 渡邊 宜典, 寺田 朋代, 岩崎 佐奈美, 西部 亮三
    セッションID: 1I07
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/11/22
    会議録・要旨集 フリー
    (緒言)骨髄線維症は骨髄に広範な線維化をきたす疾患であり、原因不明の原発性と基礎疾患がある二次性に分類され、さらに原発性は慢性と急性に分類される。大多数は慢性型を呈することはよく知られており、急性型はまれと言われ、平均寿命は1年以内と短く、予後が悪いとされている。今回我々は、8 trisomyを伴った急性骨髄線維症(以下AMF)を経験したので報告する。

    (症例)62歳 男性。1年前の検診では異常を認めなかったが、H16年3月の検診にて血球減少を指摘され当院血液内科受診。脾腫(-)。来院時検査所見は、WBC2000 Hb5.3g/dl Plt20.6×104 芽球様細胞5% LDH499 IU/l GOT19 IU/l GPT14 IU/l T-Bil0.9 mg/dlであった。精査目的にて骨髄穿刺施行するもdry tap。骨髄生検にて骨髄線維化とともに30%程度の芽球の増加を認めた。染色体検査 8 trisomy、表面マーカーCD13 34 HLA-DR強陽性 CD41陰性であった。当初、末梢血中に未熟な顆粒球および赤芽球が出現、いわゆる白赤芽球症を呈していた。また血小板は保持されており、濃厚血球MAPの輸血にて対応していたが、徐々に血小板も減少し末梢血中の芽球が増加傾向となった。治療として化学療法も考慮していたが感染症を併発し全経過10か月で死亡。

    (考察)AMFは1.急激に発症し病状が急速に進行する。2.末梢血は汎血球減少を呈し少数の芽球が出現する。3.骨髄はdry tapで、生検で高度の線維化を認め、骨髄3系統の細胞と芽球の増生、特に異型的な巨核球系細胞の増生を認める。4.肝脾腫やリンパ節腫大などは認められない。などの特徴を有するとされているが、本症例ではいずれの特徴を認めAMF診断は妥当であったと思われる。AMFの原因として急性骨髄性白血病(M7)が有名であるが本症例では芽球の表面マーカーにてCD41が陰性であったことから否定的であった。また、骨髄増殖性疾患に関しても経過から否定的であり、骨髄異形成症候群についても8 trisomyがあり可能性は否定できなかったが、1年前まで末梢血が正常であったこと、明らかな異形成を認めなかったこともあり確定診断には至らなかった。付随して、骨髄線維化に関与しているとされるPDGFやTGFBについては検討できていない。今後、更にAMFの症例が集積され病態が解明されることが望ましいと考えられた。一方で、近年提唱されている血液疾患分類であるWHO分類には、染色体検査や表面マーカーなどが組み込まれており、その検査技術の発展も著しい。本症例でも補助診断には非常に有用であった。しかし、異形成や線維化の発見など未だ鏡検に頼らざるを得ない部分もあり、熟練した検者の技術も重要であると示唆された。

    (まとめ)8 trisomyを伴った急性骨髄線維症を経験したので報告した。

    (参考文献)日常診療と血液 vol.7,No.5,1997
  • 大島 瑞穂, 若林 由希, 芹川 真季子, 西塚 裕子, 江連 とし子, 伊藤 孝美
    セッションID: 1I08
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/11/22
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
    当病棟はクリーンルーム2床を有する循環器内科と混合の血液内科病棟であり、年間約30-40名の患者が化学療法を受けている。化学療法を受けた患者はその効果を期待すると同時に、強い副作用による苦痛にさいなまれている。それらの身体的・精神的苦痛を伴う闘病生活を強いられている患者に、私たちは「苦痛緩和のための看護ができているのか。実際に患者が抱えている苦痛を理解できているのだろうか」と感じていた。そこで、患者のニーズをより理解したうえで看護・援助を行なうために、患者の副作用による苦痛の程度を分析したので報告する。
    【方法】
    期間:平成14年4月から平成16年8月
    対象:血液疾患(リンパ腫13名・急性骨髄性白血病10名・その他10名)で入院し、化学療法を受けた患者のうち、苦痛に関するアンケート調査に同意を得られた33名
    調査方法:1.化学療法で生じた副作用に対する苦痛の程度についてのアンケート調査。
    9項目についてそれぞれ苦痛度を(症状なし)0から(最も強い)5の6段階で評価する。2.副作用に関する苦痛の内容・程度を分析・評価する。
    【結果】
    アンケートは33名中29名から回収。回収率88%であった。
    副作用の苦痛度の平均値を項目別に比較した結果、高い順に「便秘・下痢」3.4、「脱毛」3.3、「食欲不振」3.1、「口内炎」2.5、「発熱」2.5、「味覚異常」2.4、「嘔気・嘔吐」2.2、「手足のしびれ」1.6、「のどの痛み」1.5であった。
    男女別で比較すると「便秘・下痢」男3.1女3.7、「脱毛」男2.5女4.1、「食欲不振」男2.9女3.2、「口内炎」男2.3女2.7、「発熱」男2.5女2.5、「味覚異常」男2.2女2.7、「嘔気・嘔吐」男1.6女2.9、「手足のしびれ」男1.5女1.8、「のどの痛み」男1.6女1.5であった。
    パンフレットによる副作用に関する情報提供については29名中28名が希望した。
    自由記述では、辛い症状に対してどうしたら良いのか、副作用の機序や時期と期間・予防と対処法などを知りたい。等の意見があった。
    【考察】
    苦痛度の平均値で最も高いのは便秘・下痢であったが、同時に起こる症状ではないため、実際は脱毛が最も高いといえる。これは男女比の結果から女性に多く、長期間にわたりボディイメージの障害をきたす「脱毛」は、耐え難い精神的苦痛になっていると考える。それに比較し私たちが客観視できる発熱・嘔吐など、身体症状の苦痛度は低かった。この結果は薬剤でのコントロールが可能なためと、時間の経過ですでに解決された症状であるためと考える。嘔気・嘔吐よりも食欲不振の苦痛度が高いことからも同様の事が言える。
    パンフレットによる副作用に関する情報提供が望まれていることや「どうしたら良いのか分からない」との声が多かった結果から、苦痛緩和のために患者が求めているのは、起こりうる副作用をよく知り、その対処法を習得し実施する事なのだと考える。従って、私たちは患者に十分な情報を提供し、患者自ら苦痛緩和に取り組めるような看護支援が必要と考え、パンフレットを作成し使用している。
    【まとめ】
    1.化学療法の副作用で患者が受ける苦痛は、身体的症状よりも精神的なものが大きいことが分かった。
    2.副作用による苦痛緩和のために、パンフレットによる副作用に関する詳しい情報提供を患者は求めている事が分かった。
  • 岡村 秀人, 鈴木 清, 寺倉 篤司, 後藤 敦司, 岸 和子, 小西 武司, 小池 守, 仲井 宏史
    セッションID: 1I09
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/11/22
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
    岐阜県西濃圏域では、平成13年度より国庫負担事業とし医療・保健・福祉のより良い連携をめざして、西濃地域リハビリテーション支援体制整備推進事業(以下 事業)に取り組んでいる。当院においても事業開始当時より参画している。事業開始後3年を経過する平成16年度を区切りとして、各施設における活動を報告する機会として、ネットワークフォーラムを開催した。また、事業全体の実施状況を把握し、今後の事業展開の参考とするためアンケートを実施した。これを含めここに報告する。

    【事業の概要および実績】
    事業の実施主体は岐阜県西濃地域保健所であり、広域支援センターを大垣市民病院、当院を含む4病院をサブセンターと指定している。
    事業は「誰もが住み慣れた場所で、いきいきと暮らすことができる地域づくり」を目標に、「関係機関のネットワークの構築」と「リハビリテーション実施施設の従事者の資質向上」の大きく2つの方向性をもって展開している。前者には広域支援センター連絡会議や検討会などを開催し、専門技術者の情報交換の場とした。平成16年度においてはこれらに加え、新たにネットワークフォーラムの開催、ネットワークブックの作成に取り組んだ。後者においてはリハビリテーション実施機関からの技術的相談に対応するため、事前相談(39回:26施設)や施設従事者間の交流・知識技術の普及を目的とした院内ミニ研修会(10回)を開催するとともに、各施設へ専門職種を派遣(87回:26施設)した。(括弧内は平成16年度実績)
    ネットワークフォーラムは、各センターと各保健・福祉施設のネットワークを強化するため、専門技術職員の支援を受け、学んだ知識及び技術の活用状況を報告する機会や、他施設の取り組みを知る機会を設けることを目的とした。実行委員会においては各センター側からのみではなく、当該関係機関からも参加を求め、可能な限り施設側に重点をおくように配慮した。結果、29施設77名の参加となり、各施設で今まで実施された活動内容の再検討をおこなうことができた。また、今まで当該関係機関の情報共有が不十分であったため、連携を効率的にかつ円滑にする体制作りを目指しネットワークブックを当該関係機関に配布した。

    【アンケートによる事業の評価】
    事業評価として、当該関係機関に対し質問票調査をおこなった。結果、センター側からは派遣に先立つ事前相談について有効と回答した者が約8割であり、具体的に検討ができ有用に活用できた。派遣技術支援について有効は7割であり、医療機関と施設のつながりのきっかけとなった。院内ミニ研修会については、有効だった・どちらでもない共に約半数であり、開催の方法等については課題を残した。施設側からみて、事前相談においては、約8割が活用でき、事業を効果的に進めることができた。派遣技術支援については活用できたとする施設が7割を占め、職員の資質向上、現状の再確認ができた。

    【まとめ】
    地域リハビリテーションのネットワーク化を図ることにより、当該関係機関相互の情報共有が成され、地域のリハビリテーションネットワーク円滑化の一助にはなっていると考えられる。しかし、事業評価を受けて、個々に検討すべき点があり課題が見受けられた。
  • -transdisciplinary team approachを適応した病病連携の効果と今後の課題について-
    小原 史嗣, 太田 喜久夫, 角谷 孝, 田中 一彦, 熊谷 匡晃, 小林 真人
    セッションID: 1I10
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/11/22
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】三重県厚生連には総合病院3、地域病院3、精神病院1を要し、緊密な連携を果たしながら地域医療の展開をすすめている。全ての病院にリハビリテーション部門が配置され、平成13年度には三重県リハビリテーション連絡会議が設置され業務改善や勉強会の開催を進めてきた。さらに平成17年度からは病病連携を強化するために北勢フ゛ロックと南勢フ゛ロックに分けて業務内容の連携を進めている。今回は症例を通じてその効果を報告し、各病院でのPT/OT内容を相互に補完するためのチームアプローチ法として有用であったtransdisciplinary team approach について考察する。
    【三重県厚生連リハビリテーションネットワーク】三重県には3総合病院と3地域病院、1精神病院が広域に配置され、それぞれの地域リハが円滑に進められるように平成13年度から三重県厚生連リハ部門長議会が設置された。厚生連に勤務する全てのリハスタッフ(リハ医1名、PT 37名、 OT 24名、ST 3名)で構成され、業務内容の改善や勉強会の開催などの他、人事異動を含む研修システムとしても機能しており、三重県における地域リハビリテーションの発展に寄与してきた。しかし、診療業務としての病病連携は紹介状を介する連携にとどまっており、リハ訓練内容は各病院のリハ部門の規模やスタッフの力量に依存していた。H16年度からはリハ医による専門診療が4病院にて巡回で実施されるようになり、リハ部門での病病連携が強化され、南勢フ゛ロックでも図1における松阪中央総合病院を中核とする3病院のリハ連携システムの構築を事例を通じて展開することとなった。今回報告する2事例はいずれもOT訓練内容の展開をOT不在の2地域病院でPTが実施する内容であり、transdisciplinary team approachが適用された。
    【事例紹介】症例1:橋出血、四肢麻痺、コミュニケーション障害認められていた。大台病院のOTが当時育児休暇中のため、松阪中央病院のOTがコミュニケーション評価と、意志伝達装置(伝の心)の使用訓練、担当PTに必要機器・操作方法を説明し、車椅子の作製も担当PTと相談し行なった。症例2:ALSにて四肢筋力低下、呼吸不全の患者。以前より南島病院で長期にわたりフォローしていた。H17年4月、尿路結石の為、松阪中央総合病院にて手術施行。術後にPTそしてOTを加えて施行。退院するにあたり、OT評価・訓練内容を南島病院担当PTに伝達。
    【考察】地域病院では専門のリハスタッフが十分配備されていない状況がある。その場合にも患者様にとって最大限のリハアプローチを展開できるようにシステムを強化する必要がある。三重県厚生連ではリハ専門医は1名であるが、各病院を巡回することによって専門的なリハの治療方針を決定し、PT・OT・STでの病病連携をすすめ、その上で各病院でのtransdisciplinary team approachを適応することが有用であると考えられた。今後も更にリハ部門での病病連携を緊密にし、患者リハサービスの格差をなくすようにリハシステムを運用していく必要がある。
    【結語】地域間リハサービス格差をなくすためにtransdisciplinary team approachを適用したリハ部病病連携システムの構築が有用であった。
  • ー三重県高次脳機能障害者生活支援モデル事業における拠点病院としての役割ー
    太田 喜久夫, 田中 一彦, 下村 昭彦
    セッションID: 1I11
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/11/22
    会議録・要旨集 フリー
    【背景と目的】TBI(外傷性脳損傷)やSAH(クモ膜下出血)等による高次脳機能障害は明確な定義や診断基準が確立されておらず、社会参加までの連続したケアが受けにくい状況にあった。このような実態を改善する為、平成13年度から厚生労働省の管轄のもと国立身体障害者リハビリテーションセンターと全国12の地方自治体が参加して「高次脳機能障害支援モデル事業」が実施され、3年間に渡る調査で記憶障害や注意障害、遂行機能障害、社会的行動障害などの認知障害のために日常生活や社会生活に制約がある人々の存在が浮き彫りになり、これらの症状を有する人を支援するために、行政的診断として「高次脳機能障害」が定義された。さらに平成16年度からは支援サービスに重点を置いたモデル事業が2年間の予定で展開されている。三重県では平成13年度から「高次脳機能障害者生活支援事業」として厚生労働省のモデル事業に参加し、急性期総合病院、リハ専門病院、身体障害者更正援護施設の3拠点病院でネットワークを形成し、急性期から社会参加までを連続的にケアするシステムを構築した。当院は急性期総合病院として主に画像診断や神経心理学的診断を行ない、訓練方針の決定に関与してきたが、支援モデル事業を継続する中で、生活・職能リハが終了したモデル事業帰結者の継続的支援を支援コーディネーターの協力の下で実施する支援事業の活動が中心となってきている。今回は、三重県モデル事業の特徴を紹介し、開始後4年間の効果について検討し、今後の支援事業の一般化について提言する。
    【対象】モデル事業を利用した高次脳機能障害者129名(TBI 93名、CVA 21名、低酸素脳症5名、その他 10名:男104名、女 25名:39.1±14.2才)。
    【方法】対象129名を支援内容別に分類し、画像診断(MRI、SPECT)、神経心理学的評価、情意・行動障害評価、職業・作業能力評価(GATB等)、社会参加の状況について検討した。また、帰結後の社会支援の状況についてCIQを用いて考察し、今後の課題を検討した。
    【結果】モデル事業のうち、当院がリハ専門病院及び身体障害者福祉センターと協力して対応したケースは129名であった。支援内容別分類:1.診断及び方針決定14名、2.当院での外来診療支援46名、3.身障センターでの生活・職能訓練後継続した外来診療支援49名、4.身障センターでの生活・職能訓練中20名であった。モデル事業での訓練成果:(1)急性期・回復期リハ終了後更正援護施設での生活・職業訓練実施者49名のWAIS-R(F-IQ):訓練開始前75.3±17.9から実施後81.9±15.6に増加。受傷後1年以内の増加が著しく、2年以降の増加は軽微であった。また、GATBでは、2年以降でも改善が見られた。(2)帰結:生活・職業訓練修了者49名中一般就労28名・福祉就労21名。(3)一般就労達成者28名の検討では、帰結時のFIQ;80以上及びGATB平均値;50以上を満たす群では、業務内容の調整によって復職が可能であった。その条件を満たさない例の業務内容は、雇用者の配慮による単純労働を主とする就労形態であった。また、帰結時のCIQがIQに比して低下しているものでは対人技能障害や発動性の低下を認めるケースがみられた。帰結後の問題点としては、職場のスタッフや家族との感情的なトラブル、業務内容に対する不満などが多く、職場でのジョブコーチングや職員への障害説明など継続的な支援を高頻度に実施する必要があった。就労後のケアを継続する上で支援コーディネータの役割は重要と考えられた。
    【結語】三重県高次脳機能障害者生活支援事業の成果と外来診療支援の必要性について考察した。
  • 大科 大, 市川 彰, 丸山 哲夫, 花澤 直樹, 依田 英樹, 林 有理, 岡部 美穂, 夏苅 克子, 松本 武志, 池田 拓也
    セッションID: 1I12
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/11/22
    会議録・要旨集 フリー
    <はじめに> 当院理学療法科では平成11年より、当院に関わる5訪問看護ステーションでの訪問リハビリテーション(以下訪問リハと略す)を開始した。年々訪問リハへのニーズが増加する一方、様々な理由によりなかなか訪問リハ終了とならないケースも見受けられ、訪問件数も増加している。過去の実績を振り返り、現状での把握と利用者にとって効率的で実のあるサービス提供のあり方について、模索、検討したので報告する。
    <対象及び方法> 平成15年4月から平成17年3月までの2年間、A・N・U・Y4か所の訪問看護STから訪問リハサービスを受けた利用者を対象とした。訪問件数、年齢、性別、基礎疾患、要介護度、導入目的、頻度、期間、終了理由について調査し、比較、検討を行なった。
    <結果> 訪問リハ件数は延べ5214件、利用者は232名であった。年齢は2歳から97歳(平均74.4±18.5歳)で、男性52%、女性48%であった。疾患別では脳血管疾患が全体の56%を占め、ついで整形外科疾患11%、高齢に伴う廃用症候群9%、その他24%であった。要介護度においては介護度5が26%、介護度1と4が共に17%、介護度3が15%、介護度2が13%、その他11%であった。導入目的は、44%が機能維持、能力向上17%、生活リズムの構築11%、その他28%であった。実施頻度は週一回28%、二週に一回44%、月一回27%であった。実施期間は3か月未満26%、3-6か月未満15%、6-12か月未満17%、1年以上41%であった。調査期間内での終了者は102名で利用者の44%であった。終了理由の内訳は生活に適応30%、目的達成27%、全身状態の悪化26%、その他17%であった。A・N・U・Yの4訪問看護STを比較すると、Aでは、介護度5の終了者の割合が38%と高く、終了までの期間は、3-6か月で他訪問看護STより高い比率を示した。またNでは、訪問リハ実施期間が、3か月以内で55%を占め、他より高かった。Uでは、終了までの期間、1年以上が39%を占め、他より高かった。Y・STでは、脳血管障害が70%を占め、全体での実施期間は2年以上が48%と多かった。
    <考察> 今回の結果では、調査項目の検討において訪問看護STごとのばらつきが大きいことを示唆していた。
     訪問リハ終了期間は、導入時の目的を明確にするのはもちろんのこと、利用者を取り巻く介護サービス資源の選択できる種類も関与していると考えられる。すなわち同じ山間農村地域にあっても、人口の過疎化が進む地域では、訪問リハ終了が困難で、逆の地域では新規利用者の増加も手伝い、終了になっているケースが目立った。
    今後は利用者の立場もふまえ、真の訪問リハサービスのあり方を追求する姿勢が望まれる。
  • 金羽木 敏治, 上野 忠活, 室地 敏雄, 箕岡 瑞歩, 益田 真吾, 小林 加枝, 竹本 正瑞, 梶川 和徳
    セッションID: 1I13
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/11/22
    会議録・要旨集 フリー
    〈緒言〉今回、当院にて大腿骨頚部骨折後リハビリテーション(以下、リハと記す)を実施した患者を対象に、訓練開始時の健側筋力・精神症状の有無と退院時歩行能力の調査を行ったので、その内容を報告する。
    〈対象〉平成8年1月-平成14年4月に当院にて大腿骨頸部骨折と診断され、手術後にリハを実施した患者230名(男性37名,女性193名)で、平均年齢81.92歳(51歳-99歳)、平均入院期間70.88日、平均リハ実施期間62.27日であった。また、施行された術式は、γ-nail術(104名),CHS術(48名),人工骨頭置換術(78名)で、調査期間中の各術式の患側下肢荷重時期は、γ-nail術は術後2週から1/3荷重を開始、4週より全荷重、CHS術は術後3週から1/3荷重を開始、術後5週より全荷重、人工骨頭置換術は術後2週から1/3荷重を開始、術後4週より全荷重であった。
    〈方法〉対象患者の訓練実施記録の記載内容から以下の調査を行なった。訓練開始時の健側筋力測定結果を(抵抗あり挙上群, 抵抗なし挙上群, 挙上不可群)に分類し、その後、筋力差群毎に、退院時の移動能力(自立歩行群,介助歩行群,車椅子移動群)と訓練開始時の精神症状(精神疾患の合併,せん妄,意識障害,認知症など)の有無を集計した。それらを基に、筋力差と歩行能力、筋力差と精神症状の有無、精神症状の有無と歩行能力における各群間の関連性について、χ2検定を用い検証を行なった。
    〈結果〉集計結果は以下の通りであった。抵抗あり挙上群の151名中75名(49.67%)が自立歩行、42名(27.81%)が介助歩行、34名(22.52%)が車椅子移動で、精神症状の有したものは、151名中33名(21.85%)であった。抵抗なし挙上群の41名中8名(19.51%)が自立歩行、14名(34.17%)が介助歩行、19名(46.34%)が車椅子移動で、精神症状を有したものは、41名中20名(48.78%)であった。挙上不可群の38名中2名(5.26%)が自立歩行、12名(31.58%)が介助歩行、24名(63.16%)が車椅子移動で、精神症状を有したものは38名中25名(65.79%)であった。また、訓練開始時に精神症状を有したもの78名中6名(7.69%)が自立歩行、26名(33.33%)が介助歩行、46名(58.97%)が車椅子移動であった。各群間の関連性についての検証については、以下の通りであった。筋力差と歩行能力において、抵抗あり挙上と抵抗なし挙上では、自立歩行と介助歩行 、自立歩行と車椅子移動との間に、抵抗あり挙上と挙上不可では、全ての群間について、抵抗なし挙上と挙上不可では、自立歩行と車椅子との間にそれぞれ有意差を認めた。筋力差と精神症状の有無では、抵抗あり挙上と挙上不可、抵抗あり挙上と抵抗なし挙上において有意差を認めた。精神症状の有無と歩行能力では、全ての群間で有意差を認めた。
    〈考察とまとめ〉訓練開始時健側筋力と精神症状の有無の測定結果は、退院時の移動能力と関連があり、筋力測定結果の成績が良い群ほど精神症状が少なく、退院時、自立歩行が可能であった。これは、大腿骨頚部骨折患者の歩行再獲得の条件因子として上げられている内容と同様の結果であった。このことより、今回調査に使用した簡便な筋力測定方法と精神症状の有無の確認を訓練開始時に行なうことでも、退院時での歩行獲得予測がある程度可能であることが示唆された。
  • 児玉 正吾
    セッションID: 1I14
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/11/22
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】小脳血管障害による失調症患者は、姿勢の安定や随意運動遂行のために、さまざまな代償固定を行なう。代償固定が長期化すると全身を一塊として動作を行ない、選択的な運動が乏しくなる。また、回旋運動が困難になり動作のスムーズさが損なわれる。今回、代償固定の異常構築の予防を目的にSling Exercise Therapy(以下SET)と腹横筋ベルトを用いて、動作が改善したので報告する。
    【症例紹介】小脳梗塞により左不全片麻痺と失調症を呈した80歳の男性である。左中小脳脚に梗塞を認めた。発症後4日目より理学療法を開始した。
    【初期評価】:随意運動はBrunnstrom recovery stageにて手指V上肢V下肢IVであった。失調症テストは、指鼻試験、踵膝試験ともに測定障害が左側に認められた。寝返り、起き上がりは自立していた。立ち上がりはつかまれば可能で、院内の移動は車椅子にて自立していた。歩行は、セラピストが患者の前腕部を介助すると可能であった。
    【問題点】車椅子からの立ち上がりの際には、アームレストを支持して立ち上がり、立位になってもアームレストからすぐに手を離すことができなかった。歩行は、左下肢立脚期の支持性の低下と重心移動に伴ない体幹部が動揺するため、全身を固め、歩隔を広げてコンパス様であった。両脚支持期は安定するが、歩隔が広いため左右への重心移動距離が長くなり、重心の移動をスムーズに行ないずらく、両脚ともに下肢を急激に振り出していた。
    【理学療法】体幹部のスタビリティーを向上させることを目的に、腹横筋ベルトを肋骨下端に吸気に若干の抵抗になるように巻き、腹横筋の筋活動を活性化させた。四肢、体幹を固定し過ぎないようにするために座位、立位のバランス練習をSETを用いて行なった。スリングポイントを手部として、末梢部を適度に安定させて左右前後にリーチアウトするよう指示し、重心移動を自動運動として行なった。セラピストは骨盤部から重心移動を誘導し、柔軟な体幹の運動と四肢、体幹の回旋運動を誘導した。
    【結果】立ち上がり後半から、上肢をフリーにすることが可能となった。歩行は、独歩可能となった。病棟内は、シルバーカー歩行にて自立した。
    【考察】Hodgesらは、腹横筋の収縮が股関節や肩関節の運動方向に関係なく、主動作筋の収縮に先行していることを筋電図にて明らかにした。渡辺らは、腹横筋ベルトを装着することで、腹横筋の収縮を活性化し、即時的に片麻痺患者の歩容が変化していることを報告している。失調症により代償固定させていた状態が、腹横筋が活性化され体幹のスタビリティーが改善し、四肢の随意運動を行いやすくした。手指を空間で使う際には、手指より中枢部の関節を制御しなければならない。中枢部の関節を適度に固定させるためSETでは、スリングポイントを手部として下方向への安定性を与えた。ロープの軌跡上を運動することで、ロープの軌跡が運動方向の誘導となり、中枢部の過剰固定を軽減できる。SETは、下方向以外は自由に動くため、患者の主体的な重心移動が行ないやすくなり、代償固定を抑制するポイントとして、腹横筋の活性化とセラピストによる回旋運動を誘導したことが有効であったと考える。
  • 脳卒中後運動機能回復の包括的評価の為に
    佐々木 雅人, 伏見 悦子
    セッションID: 1I15
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/11/22
    会議録・要旨集 フリー
    〈緒言〉
    STREAM(Stroke Rehabilitation Assessment of Movement)法は1999年発行のアメリカのリハビリ雑誌「Physical Therapy」に脳卒中後患者の運動機能障害における新たな評価法として紹介された。本邦においてはBrunnstrom Stageが広く活用されている現状ではあるが今回はより包括的、客観的、定量的に臨床上の評価体系に適した指標にすべく研究開発されたSTRAM法を紹介する。
    〈方法〉
     対象症例は46歳、男性、2004年8月4日発症の右側頭葉内血腫破裂によるクモ膜下出血(即日クリッピング術施行)1症例に対し従来のBrunnstrom Stageによる評価及びBarthel Indexと今回の新たなSTREAM法(上肢・下肢の随意運動各20点、基本動作は30点の総計70点)、とを比較検討し3者間の相違点を明確にし、STRAM法の臨床への有用性を見出すべく検討した。
    〈結果〉
     症例は2004年11月上旬の時点でマヒ側である左上下肢はBrunnstrom Stageで共にIV-1、12段階式片麻痺機能テストでは7、手指はそれぞれI-1、0であった。一方STREAM法では上肢は3点/20点(15%)、下肢は9点/20点(45%)、基本動作は24点/30点(80%)であった。尚、Barthel Indexは80点であった。
    〈考察〉
     STREAM法は1986年ケベック州Jweishリハビリテーション病院で作成され1999年kathy Dらによって発表され、更に2003年にSara Aらも追跡研究を報告していてこれらの研究からは本法の信頼性の高さ、臨床活用での有効性などが示唆されたとの結論であった。
     今回、我々の追試においてもBrunnstrom Stageでは同列なScoreであってもSTREAM法では上肢機能の回復がいかに困難であるかを示している。障害とその回復段階がより具体的、客観的に細分化されイメージとしても把握し易い特徴を持つScoreと言えよう。しかし反面、臨床活用の実際にあっては30アイテムのテストバッテリーを遂行せざるを得ない比較的障害の軽度(Brunnstrom StageIV以上)な患者への使用時にその所要時間の長さと煩雑さが否めなく多忙時には支障とならざるを得ないとも感じた。
    〈結論〉
     STRAM法の有効性、信頼性は上述の通りであるが臨床場面での活用が普及していない現状を考えるにテストの所要時間、煩雑さを指摘したい。
  • 石井 裕美, 西川 秀樹, 長谷川 里子, 水谷 まり, 上田 友香里, 柴田 美由紀
    セッションID: 1I16
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/11/22
    会議録・要旨集 フリー
    はじめに
     当病棟は、総合病院内にある精神神経科病棟の閉鎖病棟であり、4年前より精神神経科単科の病院、周囲の医療機関より身体合併症治療目的での転院を受け入れるシステムをとっている。内科・外科等の合併症を有する患者が常時10%入院しており、これらの患者が治療上必要とするルート類を抜去する危険性を医師が判断された場合は拘束を実施している。拘束は身体及び精神的制限が強いため、多くの影響を及ぼしている。拘束による日常生活動作の著しい低下を引き起こし、寝たきりの原因となり看護上大きな問題となっているため、拘束患者の筋力低下と関節拘縮を未然に防ぐ事が重要と考えた。そこで拘束中の患者に対し運動療法を行なう事により筋力及び関節可動域が維持できるのかを報告する。
    研究方法
    1.研究期間:平成16年6月-10月
    2.研究対象:21-92歳の統合失調症4名・老人性精神病2名・アルツハイマー型痴呆1名。男性5名,女性2名の計7名で拘束期間は6-38日間。
    3.方法
     拘束方法は、両上肢に抑制帯(アルケア株式会社:手首用4号)を用いて拘束した。予防運動は、上肢に他動及び自動運動を2回/日実施した。他動運動の方法は肩関節の屈曲肘関節の屈曲を左右それぞれに各10回実施した。自動運動では、ソフトホ゛ールの掌握動作を左右に各10回実施した。筋力測定は、握力計を用いて拘束実施前と運動後3日毎に測定した。関節可動域測定は、関節角度計を用いて肩関節と肘関節を拘束実施前と運動後3日毎に測定した。周囲径測定は、上腕・前腕それぞれの最大周囲径はメシ゛ャーを用いて拘束前と運動後3日に測定した。(全対象は仰臥位の状態)
    4.結果及び考察
     運動療法後の筋力及び各関節可動域の訓練前と訓練後の測定値には有意な違いは認められなかった。しかし定期的に訓練を実施することで筋力及び関節可動域の維持が出来たと考えられる。今回の運動療法では筋力や関節可動域の増加はみられなかった。その要因として向精神薬の調整,精神状態が不安定(やる気が出ない,理解不足,不穏等),眠気が強いことがあげられる。
    5.まとめ
     拘束中の患者に対しての運動療法は、拘束前の筋力や関節可動域の維持に有効であることが示唆された。拘束開始と共に運動療法を実施することが必要である。
    6.おわりに
     拘束による二次的障害を防止するために、出来る限りの運動を実施していきたい。
  • 山本 泰三, 新谷 周三, 椎貝 達夫
    セッションID: 1I17
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/11/22
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
    腹圧性尿失禁は、骨盤底筋の機能不全により、咳やくしゃみなどの腹圧上昇時に尿もれを生ずる現象である。腹圧性尿失禁に対する一般的な運動療法は、骨盤底筋のみの収縮を1日に30-80回行なわせている。また、骨盤底筋の随意的収縮は、口頭による説明では不十分とされ、指導者による膣内診による指導が望ましいとされ、理学療法場面では実用的ではない。
    腰痛患者の理学療法において、腹腔内圧を適度に高めて体幹Stabilityを向上させる方法がある。体幹Stabilityは、横隔膜、腹横筋、および骨盤底筋の収縮により獲得され、腹横筋収縮は骨盤底筋と同期している。今回、体幹Stabilityを段階的に向上させる運動療法により、腹圧性尿失禁を改善できた1症例を報告する。
    【症例紹介】
    普通分娩による2児の出産を経験した69歳の女性である。尿もれは、43歳のときに縄跳びではじめて自覚した。理学療法には、腰痛のため依頼された。脊柱の屈曲伸展時に、最長筋の骨盤付着部付近に痛みを訴えていた。脊柱起立筋への負担を軽減するために体幹Stability Exerciseを開始した。来院6回目に尿もれの訴えあり、腰痛再発予防と尿失禁改善目的で週に1回の頻度で理学療法を実施した。尿失禁の程度とQOLについては、問診票で評価した。理学療法開始と同じころ、泌尿器科より塩酸アミトリプチリン(トリプタノール)が投与され、婦人科にてペッサリーが挿入された。
    【理学療法と経過】
    開始前評価では、軽い咳、くしゃみ、階段昇降、重量物を持つ、夜間寝ている間にもれる、尿がしたくなると間に合わずにもれる状態で、もれる量は服までぬれる程度あった。QOL評価では、21項目の全てがネガティブな回答であった。
    体幹Stability Exerciseは、Sling Exercise Therapy(以下、SET)の仰臥位股関節伸展パターンで段階的に行った。下肢筋力は、徒手筋力検査法で4-5のレベルであったが、選択的運動が難しく、呼吸を止めて下肢を運動させていた。
    5か月経過の後、階段昇降での尿もれがなくなり、尿がしたくなると間に合わずにもれることがなくなった。仰臥位パターンの最終段階まで完了したので、さらに腹横筋収縮を強調したSETの腹臥位パターンに変更し、さらに、腹横筋ベルトを併用した。腹横筋ベルトは、下部肋骨に3cmのゴムベルトを巻き吸気に抵抗を加えて、呼気時の腹横筋収縮を活性化させるものである。
    10か月経過時、軽い咳やくしゃみ、重量物をもっても尿はもれなくなった。寝ている間にもれない夜も、週に1回程度あるとのことであった。尿もれの量は、下着がぬれる程度となった。開始時にはまったく不可能であった、排尿中の随意的尿止めが時々できるようにもなった。QOL評価では、ほぼ全ての項目が、「少し気になる」程度に改善した。
    【まとめ】
    体幹Stabilityの機能不全による腰痛患者のなかには、尿失禁を合併している患者がいる。収縮を確認しづらい骨盤底筋を1日に数十回繰り返させる運動療法ではなく、骨盤底筋のみならず腹横筋を含めた体幹Stabilityに着目した運動療法が腹圧性尿失禁を改善させたと考える。
  • 高原 正信, 大井 利夫, 金水 英俊, 田代 亜彦
    セッションID: 1J01
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/11/22
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】 上都賀総合病院の診療圏では、1991年1月より2000年12月までの10年間は前立腺がん検診がまだ行なわれていなかった。その10年間に、我々は直接の死因が前立腺がんである症例を30例経験した。それらについて、1 年齢、2 悪性度、3 診断時の前立腺特異抗原(PSA)、4 病期、5 ホルモン療法後の再燃の有無、6 モルヒネ使用の有無、7 死亡までの期間などを後方視的に検討した。
    【結果】 診断時の年齢は、49から89才、平均70.2才、中間値71才であった。悪性度は、中分化腺がん11例、低分化腺がん17例、不明2例であった。前立腺特異抗原(PSA)は18.9から6950ng/ml、平均900 ng/ml、中間値100 ng/mlであった。病期は、A2 1例、C 3例、D1(前立腺全摘出術施行)2例、D2(骨転移、肺転移、遠隔リンパ転移、皮膚転移など) 23例であった。ホルモン療法後に再燃した症例が22例(73.3%)で、再燃までの期間は6から31か月、平均13.3か月、中間値12か月であった。疼痛に対して、モルヒネを使用したのが25例(83.3%)であった。全症例において、診断から死亡までの期間は、4から85か月(7年1か月)、平均2年9か月、中間値2年7か月であった。再燃した症例では、再燃してから4から60か月(5年)で死亡した。その期間は平均2年1か月、中間値2年であった。診断から死亡までの短い症例では、DICの合併がみられた。49才と89才の症例は、2例とも認知障害があり、広範囲の骨転移および、強度の貧血がみられた。緩和ケアとして、1 骨痛に対して放射線療法、2 ステロイド内服、点滴、3 モルヒネの内服、静脈注射および持続皮下注射、4 ライフレビューなどを行なった。
    【考察】 1 当院の前立腺がん死の患者の内、ホルモン療法に反応した症例は、ほぼ1年で再燃しその後約2年で死亡した。2 ホルモン療法に反応しない時の予後は不良で、ほぼ1年以内であった。3 終末期の疼痛には、モルヒネが有用であった。4 再燃時には、骨痛に対して放射線療法、デカドロン内服、エストラサイト、エトポシド、シスプラチン少量点滴などの化学療法を施行してきた。5 死亡例の検討およびケアに対する反省をする事により、今後は前立腺がん患者のターミナルケア、緩和ケアをより一層充実しなければならないと考える。
  • 岡野 学, 増栄 成泰, 横井 繁明, 河田 幸道, 久保田 全哉, 西脇 伸二
    セッションID: 1J02
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/11/22
    会議録・要旨集 フリー
    <緒言>黄色肉芽腫性腎盂腎炎は比較的稀な疾患であり画像上腎細胞癌との鑑別が困難な疾患である。今回、2症例を経験したので報告する。
    <症例1>31歳、女性
    (主訴)血尿
    (家族歴)特になし
    (既往歴)糖尿病
     (現病歴)糖尿病にて内科通院中、平成13年12月20日より血尿あり、12月21日に当科を紹介された。受診時には発熱、腰部痛もあり既に内科にて腎盂腎炎として抗生剤が投与されていた。
    (現症)身長167cm、体重57kg、体温36.2℃、脈拍61/分、血圧132/72。胸腹部に異常を認めぬものの、下腹部は膨満し、左上腹部に圧痛を認めた。
    (検査所見)尿検査では膿尿を認めるものの細菌尿は認められず培養検査でも陰性であった。また、細胞診もClass1だった。血液検査では血沈の亢進、CRPの上昇および高γ-globulin血症が見られた。超音波検査では左腎上極に直径3cmほどのlow echoic areaが認められた。DIPでは腎杯の変形は見られぬものの左側尿管のうっ滞が認められ、残尿も多かった。CTでは左腎上極に造影もrim-enhancementもみられず内部にlow density areaが混在した腫瘤が認められた。MRIではT2強調画像で左腎上極に内部が不均一な部分を認め造影検査でもこの部分は造影されなかった。Gaシンチでは左腎付近に集積像を認めた。
    (経過)以上の所見より炎症性腫瘤の可能性が高いと考えたが腎腫瘍も否定できず、年明けに生検を行った。病理所見は泡沫細胞が特徴的な肉芽組織であり悪性所見は見られなかった為、化学療法を継続したところ腫瘤は縮小し解熱がみられた。
    <症例2>86歳、男性
    (主訴)右背部痛
    (家族歴)特になし
    (既往歴)66歳 膀胱癌にて膀胱全摘術、81歳、86歳 腸閉塞
    (現病歴)腸閉塞を繰り返すために内科通院中、平成16年3月25日より右背部痛あり、また同部の手拳大の腫瘤にも気付き、3月26日当科へ紹介された。
    (現症)身長160 cm、体重44kg、体温36.1℃、脈拍78/分、血圧110/72、胸部には異常を認めぬものの、下腹部には正中に切開創、右側に回腸導管のストーマが造設されていた。
    (検査所見)尿検査では異常を認めぬものの血液検査では血沈の亢進、CRPの上昇および高γ-globulin血症が見られた。DIPでは右腎は描出されず、CTでは巨大な水腎症を呈しておりこれに連続して背側皮下に達する腫瘤を認めた。MRIでも同様に内部不均一な腫瘤が見られた。Gaシンチでは右腎付近に集積像を認めた。
    (経過)経皮的に腎盂造影を行なったところ腎内から尿管への流出は見られず、穿刺液は灰褐色の膿であり細菌培養で緑膿菌が検出された。腫瘤の生検では泡沫細胞に富む炎症組織であった。このため化学療法を継続したところ背部の腫瘤は消失した。
    <考察>本症は腎細胞癌との鑑別診断が難しく腎摘術になってしまう症例が多い。しかし画像所見ばかりでなく、検査所見、臨床経過などを総合的に検討したうえで的確に診断し、場合により積極的に生検も行ない慎重な治療法の決定が望まれる。
  • 三鴨 肇, 森 茂, 島田 武, 林 勝知, 清家 健作, 斉藤 昭弘, 安田 憲生, 田中 孜
    セッションID: 1J03
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/11/22
    会議録・要旨集 フリー
     尿路結石は日常よく経験する疾患であるが,ときに腎盂腎炎にまで至ることがある.今回さらに敗血症にまで至りショック,DICに陥り,SIRSを合併したため,集中治療管理を必要とした症例を経験したため報告する.
    主訴:腰痛.既往歴:高血圧,糖尿病.現病歴:平成16年4月23日に腰痛と右下肢痛を認め近医受診し歩行困難にて入院した. 4月30日より発熱を認め右尿管結石に伴う水腎症からの腎盂腎炎と診断されたが,5月1日には酸素飽和度と血圧の低下をくり返すようになり集中治療管理目的で当院に紹介された.入院時現症:意識清明,血圧102/42,心拍数94回/分,体温37.0,酸素飽和度100%  入院後経過:腹部単純CTにて右腎盂尿管移行部に径14mmと径7mmの結石を認め水腎症を呈していた.白血球19900/μl CRP29.7mg/dlと炎症反応強く,エンドトキシン79.1pg/mlと高値であった.動脈血培養は陰性であった.またDICscoreは8点であったが全身状態は良好であった.メシル酸ガベキサート,免疫グロブリン,BIPM,MINOにて治療を開始したが,5月2日夕方より急激な血圧低下と呼吸不全が認められたため挿管のうえ人工呼吸管理,エンドトキシン吸着とCHDFを開始した.またSIRSと考えシベレスタットナトリウム水和物の使用も開始した.その後は順調に回復し5月10日にCHDFを終了,5月12日には抜管し上記薬剤も終了した.5月17日に尿管ステント留置し,嚥下リハビリを開始した.翌日には経口食を開始し,5月22日に一般病棟へ転棟した.
    尿管結石は一般に男性のほうが多いが腎盂腎炎に至るのは女性のほうが多い.これは女性のほうが尿道を介し逆行性に感染しやすいことが考えられる.腎盂腎炎を伴った尿管結石は尿路閉塞症状が認められ,約20%で敗血症性ショックが認められたという報告がある.白血球の上昇と39℃以上の発熱が多くの症例で認められる.治療は保存的に軽快した例と尿路閉塞症状に対し外科的処置を行なわれた例があり,本症例では,全身状態の改善を待って尿管ステントを留置した.
    尿管結石から腎盂腎炎に至りさらには敗血症にまで陥る可能性があるため,腎盂腎炎に起因する感染尿の排出を早期に行なうことが重要であると考えられた.
  • 三宅 範明, 山本 明, 宮本 忠幸, 斉藤 誠
    セッションID: 1J04
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/11/22
    会議録・要旨集 フリー
    <緒言>本邦における結腸膀胱瘻の報告例は従来比較的少なかったが最近増加傾向を認める。我々はS状結腸憩室炎に起因するS状結腸憩室膀胱瘻の1例を経験したので文献的考察を加え報告する。
    <症例提示>
    症例:79歳男性
    既往歴:1)70歳大腸ポリープの為開腹手術(大腸部分切除術)、2)時期不明も他施設にて前立腺肥大症の治療を受けたことあり。
    現病歴:2004年9月2日排尿困難で受診。受診時は検尿で異常認めず。前立腺肥大症の診断下に内服剤による治療を開始した。9月16日、膿尿認めたため抗菌剤の併用開始。11月11日KUB,IVP施行するも異常所見認めず。12月16日血尿あり、12月27日MRI実施するも「膀胱頂部の壁がやや肥厚して見える以外大きな異常所見なし」とのことであった。2005年1月13日膀胱鏡検査を実施。頂部付近に広基性非乳頭状腫瘍を疑わせる隆起性病変確認。
    入院後経過:1月20日精査目的にて入院。1月24日、KUB,IVP施行するも著変なし。1月25日、MRI再度実施。膀胱後壁から頂部にかけ膀胱壁の著明な肥厚と結腸と思われる陰影との連続性が疑われた。1月27日、診断と治療を兼ね腰椎麻酔下の膀胱鏡検査実施。その際、膀胱後壁から頂部にかけ非乳頭状腫瘍様病変を確認した。腫瘤の一部に憩室口様開口部を認め、同部より膀胱内へ小さな腫瘤が突出していた。膀胱原発性浸潤癌、消化管原発癌の膀胱浸潤、消化管膀胱瘻などの可能性を考慮し、腫瘤部および周囲粘膜の生検実施のみとした。組織検査結果は「炎症所見のみであり、悪性所見は確認できず」とのことであった。2月4日、糞尿、気尿の訴えあり。2月10日注腸検査を実施したところ、S状結腸から下行結腸の肛門側に憩室を多数確認しえた。またS状結腸に35mmにわたる狭窄部を認め、同部より膀胱にいたる線状の瘻孔が確認された。この時点でS状結腸膀胱瘻と判断。2月16日瘻孔部分を含めたS状結腸部分切除術+膀胱部分切除術を実施。病理診断は“憩室炎に起因する大腸膀胱瘻”であった。術後創感染を生じるも保存的治療にて治癒し3月11日退院となった。
    <考察>
    結腸膀胱瘻の症例報告は近年増加傾向にある。結腸膀胱瘻の主な原因は炎症性、腫瘍性、外傷性および先天性に分類されるが炎症性が67%、腫瘍性が25%を占めるとされている。炎症性疾患では結腸憩室炎に起因することが多く、特にS状結腸に多いとされる。本邦の報告例は現在までに150例以上と思われる。症状は膀胱刺激症状、気尿、糞尿、腹痛などが主たるものである。診断には注腸造影、膀胱造影、膀胱鏡検査、大腸内視鏡検査、CT、MRIなどが用いられる。治療としては瘻孔部を含めた膀胱部分切除術+S状結腸部分切除術という外科的処置が一般的である。
    <結論>症状発現より診断までに日数を要した点は、反省すべきものの外科的処置にて完治しえたS状結腸憩室炎に起因する結腸膀胱瘻の1例を報告した。
  • -60例についての交差法による検討-
    椎貝 達夫, 桑名 仁, 神田 英一郎, 前田 益孝
    セッションID: 1J05
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/11/22
    会議録・要旨集 フリー
    目的:進行性腎不全(PRF)の治療は世界の腎不全対策を考えるとき、きわめて重要である。前医での腎不全進行速度がわかっているPRF60例について治療成績をまとめた。
    方法:対象は前医での進行速度がScrの経時的変化からわかっている60例のPRFで、男42人、女18人、年齢58.2±14.7歳、原疾患は多発性のう胞腎以外の非糖尿病性腎症(NDN)57例、糖尿病性腎症3例である。
     当院診療開始時のScr3.60±1.80mg/dl、Ccr26.3±16.0ml/minで、前医と当院での進行速度をScr-1・時間(月)勾配で求め比較した。当院の診療は24時間蓄尿による食事内容モニタリング、各種データの腎臓病手帳への記入・説明、家庭血圧測定によりプログラム化されている。
    結果:図は60例のPRFの当院受診前と受診後の速度のちがいを示している。一番左は前に較べて進行速度が80%以上遅くなったグループで、31人(51.7%)がこのグループに属した。中央は進行速度の減少が前に較べて79%未満に止まったグループで、21人(35%)だった。一番右は当院受診後進行速度が前よりかえって速くなったグループで8人(13.3%)だった。
     全体として、前医での治療が続けられていた場合、透析導入まで平均78.2か月を要するが、当院での治療で187.0か月となり、腎臓の寿命が2.4倍延長される。
    結論:60例のPRFを対象とした交差法による検討で、従来の治療に比べ、腎臓寿命が全体として2.4倍延長された。今後当院が行っている治療法の全国への普及が必要である。
  • 加藤 崇, 佐藤 舞子, 村山 正樹, 大島 和佳子, 島 健二, 長谷川 伸, 倉持 元
    セッションID: 1J06
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/11/22
    会議録・要旨集 フリー
    [緒言]
    長期血液透析患者の合併症を抑制する目的でいわゆるハイパフォーマンス透析膜(HPM)を用いた血液透析が広く施行されている。その反面、HPMを使用した血液透析においては、透析液中のエンドトキシンが血液側へ逆拡散、逆濾過する事が懸念されており、この現象を抑制するために、透析液清浄化を目的とした各種の対策が実施されてきた。近年これらの透析液清浄化管理体制の確立を契機に、さらなる積極的な低分子量蛋白の除去を目的としたOn-line HDF(hemodiafiltration)療法が試みられている。当院では2001年より透析液清浄化の維持管理体制が確立され、これを基礎としてOn-line HDF療法が可能となり、現在まで継続している。そこで今回、当院における透析液清浄化の維持管理体制と、透析掻痒症に対してOn-line HDF療法を施行した症例の治療効果に関して報告する。
    [対象と方法]
    2001年4月から2005年4月までの4年間を対象に、透析液清浄化維持の管理体制を評価した。透析液清浄化の指標としてエンドトキシン濃度を2週毎に1回測定した。測定場所はRO水、On-line HDF補充液となる透析液の2点とした。さらに2004年4月から、患者監視装置とセントラル透析液供給装置間の透析液エンドトキシン濃度測定を追加した。2001年4月から2004年1月までOn-line HDF療法を施行し、安全管理体制の確立ができた。この安全管理体制の確立に立脚し、2004年4月より透析掻痒症に対してOn-line HDF療法を長期間継続し、その治療効果を調査した。対象は強度の掻痒症の改善を目的として2004年4月からOn-line HDF療法を開始した維持血液透析患者4名、掻痒感の程度をVAS(visual analog scale)とVDS(verbal descriptive scale)を用いて、On-line HDF療法施行前とOn-line HDF療法後1か月目、2か月目、3か月目、以降3か月毎に評価した。
    [結果]
    RO水、On-line HDF補充液となる透析液、および患者監視装置とセントラル透析液供給装置間の透析液のエンドトキシン濃度は、3か所ともほぼ1EU/L未満を維持した。ごくまれに1-2EU/Lを計測したが、再検査では1EU/L未満であり、継続した上昇は認めなかった。また、透析掻痒症のOn-line HDF療法開始前の掻痒感VASが平均8.25、VDSが平均4.0であったのに比較して、On-line HDF療法1年継続時の掻痒感VASは平均5.38、VDSは平均3.0に低下し、掻痒感の改善が認められた。全症例ともOn-line HDF療法開始前の掻痒感VASとVDSに比較して、On-line HDF療法1年継続時の掻痒感VASとVDSに上昇は認めなかった。また、患者により治療効果が発現するまでの治療期間に差異が見られた。
    [結論]
    On-line HDF療法は透析液清浄化に充分配慮したシステムを導入すれば、その管理に特殊な技術は不要であり、簡便に大量置換HDFが施行できる。また、透析液清浄化体制の確立に基づくOn-line HDF療法は、患者のQOLの向上に役立つと考えられる。
  • !)難治療性腹水、腎不全を合併した末期癌患者への新たな治療!)
    前田 益孝, 椎貝 達夫
    セッションID: 1J07
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/11/22
    会議録・要旨集 フリー
    はじめに
    心機能の低下などにより、体外循環が困難となり、腹膜透析を導入する場合、“PDラスト”と呼ばれ、多くの合併症を抱えていたり、高齢の腎不全患者などで対象となることがある。 しかし若年であっても末期癌患者が腎不全に陥ったり、透析患者が末期癌となった場合、透析療法は適応されない、ないしは中止すべきであるとされている。
      我々は難治性腹水・腎不全を合併した末期癌患者2例に対し、腹水のコントロールと尿毒症の治療を同時に行なうことを目的として腹膜透析を施行した。 腹膜透析は循環動態への影響が少なく、在宅で行えるメリットがあり、終末期患者のQOL改善に貢献できる可能性があり、報告する。
    症例1.
     61歳、男性。 腹部膨満と悪心のため、精査入院し、膵尾部癌による癌性腹膜炎と診断され、化学療法(gemcitabine)が施行されたが、腎機能は急速に悪化し、血管内留置カテーテルによる血液透析を開始した。 患者本人・家族には全てが告知された上で、血液透析中の血圧低下、腹部膨満などから腹膜透析を希望され、腹膜透析カテーテルを留置した。 持続的携行式腹膜透析(CAPD)により腹水のコントロールが可能となったため、消化器症状は著明に改善したが、腹膜透析カテーテルからの液漏れが出現し、術後16日目に透析液の腹腔内貯留は断念し、排液のみ継続し、19日目に死亡された。
    症例2.
    81歳、男性。 近医で血液透析中だったが、腹部膨満を契機に転移性肝癌がわかり、漏出性(非癌性)腹水の貯留も認めた。 このため摂食不良となり、入院となった。 患者本人・家族には告知がなされたが、血圧低下により、血液透析の継続が困難となり、腹部膨満感も強くCAPDへ移行した。 自覚症状は改善し、創部の腹壁ヘルニアは認められたが、液漏れはなく退院、腹膜透析移行後41日目に自宅にて死亡された。
    CAPDの留意点
     カテーテル留置術時、大量の腹水流出によるショック、術後の肺水腫を予防するため、両症例とも新鮮凍結血漿(FFP)を10単位術中輸血した。 また液漏れ予防のため、カテーテル内側カフの腹膜縫合部周囲にフィブリノーゲン・XIII因子製剤(ベリプラストR)を充填した。 腹膜透析方法は排液量を細かく調節できるCAPDを選択した。 排液量は患者の腹部膨満の程度、摂食量、腹囲、浮腫などから適宜調節し、家族にも指導した。
    考察
    両症例ともに末期癌患者であり、透析療法は通常適応外、ないしは中止されるべきものとされてきた。 しかし血液透析に比し、腹膜透析は循環動態への影響が少なく、腹水のコントロールも行える。 栄養状態の悪化による創傷治癒遅延の問題は残されたが、両症例ともに主訴の腹部膨満は解消され、終末期QOLの改善に寄与した。
     結論
    腹水・腎不全を伴った担癌症例に対し、腹膜透析はターミナルケアの一環として考慮されるべきと考え、“PDターミナル”として提唱する。
  • 植田 敦志, 西 功, 増見 智子, 湯原 孝典, 田畑 均, 登内 眞, 永瀬 宗重, 平山 暁
    セッションID: 1J08
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/11/22
    会議録・要旨集 フリー
    (緒言)慢性腎不全や透析患者の多くは著明な腎性貧血におちいっており、エリスロポイエチンと鉄剤の投与により治療を行なっている。貧血の改善は、Quality of lifeを向上し心血管病変の発症を抑え、死亡率の低下につながるが、鉄の過剰投与は酸化ストレスを増大させ、細胞毒性や臓器障害を引き起こす危険を含んでいる。今回、クレアチニンのラジカル反応後の生成物質であるメチルグアニジン(MG)とMGが脱メチル化されたグアニジン(G)を酸化ストレスの指標として測定し、血液透析患者において鉄剤の連続10回経静脈投与が酸化ストレスに与える影響を検討した。
    (方法)当院で週3回、4時間血液透析治療を施行している患者で、ヘマトクリット値33%未満、血清フェリチン値100ng/ml未満の22人を対象とした。含糖酸化鉄40mgを透析終了時に連続10回投与し、鉄剤投与期間開始前の透析前後,鉄剤投与期間終了後の透析前後に採血した。MGとGはHPLCで測定した。抗酸化能の評価として,患者血清添加によるhydroxyl radicalの減弱(消去能)を電子スピン共鳴法で測定した。さらに、脂質過酸化の指標としてチオバルビツール酸反応物質(TBARS)を測定した。
    (結果)鉄剤投与後では、ヘモグロビンと血清フェリチン値が有意に増加した。鉄剤投与後のGの濃度は、鉄剤投与前に比べて透析前、透析後いずれにおいても増加していた (1.76 ± 0.92 vs. 2.50 ± 0.76; 0.69 ± 0.40 vs. 1.10 ± 0.38, P<0.001)。MGの濃度もGと同様な傾向を示したが有意ではなかった。TBARSは有意な変化がなかった。血清のhydroxyl radical消去活性は鉄剤投与期間終了後の透析前に上昇していた。
    (考察)この検討では、鉄欠乏を認める透析患者に10回連続という短期間の鉄剤経静脈投与による影響を酸化ストレスという観点から検討した。いずれの患者も鉄剤による副作用は認めなかった。鉄剤投与により貧血は改善し、短期間であっても血清中の酸化ストレスは増加したが、持続的な酸化ストレス暴露を必要とする脂質の過酸化には影響を与えなかった。酸化ストレス亢進の原因としてhydroxyl radicalの産生を考えたが、血清中のhydroxyl radical消去活性の低下は認めず、その機序は明らかにできなかった。長期的な鉄剤の経静脈投与は体内での持続的な酸化ストレス亢進をもたらす危険があり慎重になされるべきである。
    (結論)血液透析中の鉄剤の連続10回経静脈投与により、クレアチニンからMG、Gへの変換が促進すると考えられ、酸化ストレスが亢進していることが示唆された。
  • 倉持 元, 長谷川 伸, 島 健二, 佐藤 舞子, 加藤 崇, 村山 正樹, 大島 和佳子
    セッションID: 1J09
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/11/22
    会議録・要旨集 フリー
    目的:当院では血液透析患者の腎性貧血に対して、ヘマトクリット(Ht)値を30-35%に維持するようにエリスロポイエチン(EPO)製剤を用いた治療をしているが、これに対してHt値30%に達しない血液透析症例について検討したところ、これらの患者は、血清総蛋白(TP)値およびアルブミン値がともに有意に低値を示したことを報告した。そこで今回、透析患者の栄養面からの調査として血清アルブミン値を指標にして低値群(血清アルブミン値3.7g/dl 以下)と正常群(血清アルブミン値3.8g/dl 以上)とに分け、腎性貧血の各指標ごとの値を求め比較検討した。
    方法:週3回維持血液透析を施行している130人において血清アルブミン低値群(31人、男21人、女10人)と正常群(99人、男69人、女30人)に分け、年齢、透析期間, 原疾患および血液生化学的指標として赤血球(RBC)値、ヘモグロビン(Hb)値、Ht値、総コレステロール(TC)値、フェリチン値、トランスフェリン(Tf)値、Fe値、TIBC値、トランスフェリン鉄飽和率(TSAT)値、iPTH値、 Kt/V値、EPO使用量/週について両群間で統計処理し比較検討した。 データはmean±SEMにて示し、統計処理はunpaired t testを用いて行った。
    結果:血清アルブミン低値群では正常群に比べて年齢では有意に高値であったが、透析期間には有意差はなかった。また原疾患に関しては両群とも慢性糸球体腎炎が一番多く見られ、血清アルブミン低値群には特に腎硬化症の患者が多かったが、残りの疾患ではほぼ同様の傾向であった。 透析量を示すKt/V値に関しては両群とも同値であった。 また血液生化学的指標としては、血清アルブミン低値群ではRBC値、Hb値、Ht値、TP値、アルブミン値、TC値、Tf値は有意に低値であった。 またFe値、TIBC値は血清アルブミン低値群で有意に低値であったが、TSAT値、フェリチン値には有意差は認められなかった。 さらにiPTH値も有意差は認められなかった。EPO使用量/週は、血清アルブミン低値群では平均6000U/week、正常群では平均3348U/weekと低値群でのEPO使用量は有意に多かった。
    考察:血清アルブミン低値群は、年齢による影響もあると思われたが正常群に比べて貧血傾向が強かった。 また血清鉄値は低値であったが、フェリチン値は高かった。 しかし総鉄結合能およびTf値が低値であり貯蔵鉄の有効利用の面で問題があるのではないかと考えられた。 さらにTf値自体も栄養状態の指標の1つであることからもこの貧血状態には低栄養状態の関与もあると思われた。
    結論:これらの結果から血液透析患者ではEPO製剤による腎性貧血の改善度には、低栄養状態の関与の可能性もあり、この状態からの改善は、腎性貧血の改善およびEPO製剤の使用量の減量につながると考えられた。
  • -LGCソフトについての考察-
    山下 和子, 坂田 良子, 平林 晃
    セッションID: 1J10
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/11/22
    会議録・要旨集 フリー
    【目  的】
     慢性腎不全患者の食事療法では、低たんぱく食が基本である。低たんぱく食の実施には低たんぱく米の利用が必須であるが、食味や経済的問題等から利用する患者は少ない。一方、近年易消化性たんぱく質であるグルテリン含有率が少ない米「LGC(Low Gluterin Content)ソフト」が開発、改良されており広島県でも生産されるようになった。このLGCソフトを腎不全患者の治療に使用するに先立ち、健常者に使用し種々の検討を行なったところ、LGCソフトは精白米に比べ1日たんぱく摂取量の減少傾向がみられた。また食味の評価も良好であった。そこで今回、保存期慢性腎不全患者の食事療法に使用し臨床効果を検討した。さらにLGCソフトに関してのアンケートを行ない種々の検討を加えた。
    【対  象】
     対象は当院外来通院中の保存期慢性腎不全患者で、低たんぱく食事療法を継続している12名(男性8名、女性4名)である。平均年齢は65±15歳、BMIは22.6±2.1kg/m2、開始前の血清クレアチニン値は2.68±1.28mg/dl、原疾患は慢性糸球体腎炎10名、2型糖尿病による糖尿病性腎症1名、逆流腎症1名である。
    【方  法】
     自宅で摂取する米をLGCソフトに変更し、副食は現行通りとした食事を5か月間喫食させた。1日たんぱく摂取量は24時間畜尿をMaroniらの式により、標準体重当り (g/kg/day)として算出した。腎機能障害の進行は1/クレアチニンの傾き(×10-4dl/mg/day)として表した。これらをLGCソフト使用前後で比較した。同時に3日間の食事記録調査、身体計測と血液検査を行なった。
    【結  果】
    1. 1日たんぱく摂取量の平均は前0.87±0.23、後0.85±0.17g/kg/dayで、有意差はなかった。
    2. 1/クレアチニンの傾きの平均は前-1.28±3.06、後-1.26±3.92×10-4dl/mg/dayで、有意差はなかった。
    3. LGCソフトのアンケートの結果では、食味に関しては「おいしい」が85%で、「おいしくない」が15%であった。長期間使用のコンプラアンスに関しては「可能」が69%、「どうにか可能」が15%、「不可能」が8%、「無回答」が8%であった。経済的な問題に関しては「気にならない」が92%で、「気になる」が8%であった。
    【考  察】
     今回、摂取期間が5か月間と短期間であったため、LGCソフトの臨床効果に有意な差はみられなかった。アンケートの結果より、LGCソフトは、食味の評価は良好で、長期間摂取も容易であり、経済的な負担も軽減させることが可能であると考えられる。特に低たんぱく食事療法導入初期より患者に使用することで、患者のコンプライアンスを増すことが期待できると考えられる。今後当院においては継続して腎不全患者に積極的に使用し、長期的効果を検討していきたいと考えている。
  • 朝倉 健一, 矢崎 憲二, 北島 正一
    セッションID: 1J11
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/11/22
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】Goodpasture症候群と考えられた稀な一例を経験したので報告する。
    【症例】65歳、女性。
    【主 訴】喀血、呼吸困難
    【家族歴】特になし
    【既往歴】高血圧症などで通院加療中。99年5月と2000年4月の時点ではいずれも腎機能は正常範囲で蛋白尿も陰性であった。
    【現病歴】平成12年12月25日に食欲不振による脱水の診断で内科入院。強い腎炎性尿所見を伴う急性腎不全(BUN 98.3mg/dl,Cr 7.47mg/dl)であることが判明したため、12月27日泌尿器科へ転科後、平成13年1月3日血液透析開始。そして、平成13年2月中旬頃から急速に血痰が増え、胸部X線で両側の肺出血が認められ呼吸不全状態となったため、2月13日内科に再び転科した。
    【入院時現症】呼吸困難あり。血圧145/78mmHg,脈拍110/分整,体温36.5℃。
    【再転科時検査成績】CRP 4.54,WBC 29800,Hb 9.1g/dl,Plt 25.5,BUN 26.6mg/dl,Cr 4.06mg/dl,UA 3.4mg/dl,Na 137mEq/l,K 3.0mEq/l,Cl 97mEq/l,Ca 10.2mg/dl, Anti-GBM Ab<3.0U/ml,ANF 160x,speckled,P-ANCA 2.1U/ml, C-ANCA 0.5U/ml,Chest Xp:massive bleeding(++),
    【臨床経過】原因検索のため、1月16日に腎生検を行ない、半月体形成性腎炎の組織診断となり、蛍光所見からIgGのlinear deposits(++)が判明し、血痰もみられることから、Goodpasture症候群の診断となった。早速、ステロイドパルス療法と止血剤および抗生剤の投与を開始したが、肺出血は増大していき、2月19日ICUに入室し気管内挿管の上、レスピレーター管理を開始した。肺出血は一進一退を繰り返し、DICの合併やMRSA肺炎の併発を起こし、FOYの持続点滴や血小板輸血などを行なった。さらに、DFPPも週1回、CHDFによる持続透析も行った。その後、胸部X線では肺出血の再発はみられずにいたが、レスピレーターによる補助呼吸は継続し、ほとんど自発呼吸はみられなかった。経口摂取は不可能な状態が続いていた。12月28日早朝、急に心室細動となり蘇生に反応せず永眠。剖検の同意は得られなかった。
    【考察】(1)急速進行性糸球体腎炎の存在(2)肺出血をきたしたこと(3)糸球体基底膜へのIgG線状沈着の所見からGoodpasture症候群の診断に相当するものと考えられた。対策として、血液浄化療法と免疫抑制療法を実施したが、感染症の併発もあり、救命しえなかった。      
  • 感染情報提供について
    木田 秀幸, 近藤 敬三, 飯田 健一
    セッションID: 1J12
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/11/22
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
    院内感染対策において臨床検査室は様々な役割を担っている。その中でも感染情報の提供は、治療薬剤選択や院内感染への迅速な対応に不可欠でありリアルタイムな情報が必要とされる。しかし日常業務の中で全ての医師にリアルタイムな情報提供を行なうことは困難であるのが現状である。そこで新しい感染情報提供の方法として株式会社富士通北海道システムズの協力の下、細菌Webの構築を行なったので報告する。
    【システム構成】
    当院オーダシステム及び検査システム更新(2004年3月1日)に伴い、Webサーバとして検査システムサーバを利用し、クライアントとしてLAN接続されている全てのオーダリング用及び検査システム用PCを使用した。
    ソフトウエアは、WebサーバInternet Information Server、情報データベースOracle、WebデータベースMicrosoft Access2002を用いた。クライアントの動作環境はInternet Explorer5.0以上、Adobe Acrobat Reader5.0以上とした。また、書類のスキャニングを行なうために当初設置予定であったレーザープリンタ1台をスキャナー付プリンタへ変更した。
    セキュリティ対策としては、ログイン情報、患者情報の暗号化や医師以外の閲覧者をある程度制限することとし、パスワード、ログイン名については検査室で管理することとした。
    【方法】
    月に1度開催される院内感染対策委員会の資料については、スキャニング後PDFファイルとしてアップロードを行ない、夜間の検査システム日時更新処理中に細菌Webへ反映される。
    前日-当日間で最終報告された細菌検査結果を毎日午前7時に情報データベースより自動収集しWebデータベースの自動更新を行なう。臨床サイドは各病棟、診察室に設置してあるクライアントから細菌Webへアクセスし必要な情報を検索する。
    【結果】
    Web導入以前の感染情報は、医師からの問い合わせや検査技師からの連絡、月1度開催される感染対策委員会報告などに限られていたが、細菌検査室よりリアルタイムな情報をWeb上に公開することにより、必要な感染情報を比較的容易に得ることができ、また無線LANを装備したノート型PCも各病棟等に設置されているため病棟内を移動しながらの検索も可能となった。
    「感染委員会提出文書一覧」では委員会に提出された文書を月別に、「その他の文書一覧」ではWeb操作手順書などが添付されている。「リアルタイム集計表示」では様々な検索条件での絞込み機能を持つことにより必要なデータを容易に引き出すことが可能となった。また、システム更新の数か月後に検体検査の最終報告書出力の廃止を行なったが細菌検査の報告書出力も同時に廃止することができ、技師・看護師・事務員等の作業軽減につながった。
    【まとめ】
    当院の細菌Webは、検査システムとLAN回線を利用することにより、新たなソフトウエアやハードウエアを購入することなく構築することができた。また、クライアントにオーダリング用PCを用いているためWeb参照後のオーダが容易であり対象患者の病室は、オーダシステムにある病棟マップにより確認が可能である。
    臨床へ提供する情報としては満足できるものが構築できたと思うが、今後は利用状況などを調査し、より利用されるよう啓蒙していかなければならないと考える。
    (尚、本研究は北海道農村医学研究会の助成物件によるものである)
  • 池部 晃司, 白井 和美, 笹谷 真奈美, 林田 静枝, 水野 誠士
    セッションID: 1J13
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/11/22
    会議録・要旨集 フリー
    [はじめに]
     現在、厚生労働省が示すグランドデザインの提唱などの行政側の動きや患者側へのインフォームドコンセントやセカンドオピニオン等に対応するために、電子カルテ導入を軸とした医療情報の電子化は各医療機関において急速に進展している。検査室として情報を適切に管理し、迅速に提供できるシステム構築が不可欠であるが、当院細菌検査室においては従来のペーパーによる依頼・報告の体制をとっており、決して電子カルテ化に対応可能なシステムとはいえない。
     そこで今回、電子カルテ導入(次年度)に備え細菌検査結果Web報告システム(以下細菌検査Webシステム)を構築したので紹介する。

    [システム概要]
     検査内の検査業務サーバーに加えて検査Webサーバを配置し、オーダリングLANからの結果参照を可能にした。検体検査、生理検査、細菌検査の各分野のWebシステムをリンク表示可能とし、細菌検査においては検体検査の一部データを細菌検査Webシステム内で参照可能とした。検査WebサーバのOSにはWindows2000serverを使用し、ソフトにApache、データベースにはSQLサーバを使用した。動作環境はInternet Explorer 5.0以上とした。

    [導入目的および目標]
     ・細菌検査の結果報告の一部をペーパーレス化し、コスト削減をめざす
     ・細菌検査結果や菌種・薬剤等の情報を共有し、各診療科に関係なく参照可能とする
     ・印刷操作等の省略による日常業務の効率化をめざす
     ・より迅速な結果報告をめざす(塗抹検査など)
     ・各端末での統計処理を可能にし、臨床に必要な情報を提供する

    [結果]
     視覚的にわかりやすい画面表示にするため、意図的に現状の報告書イメージをそのままWeb表示させたのでシステム稼働時に大きな混乱はなかった。また、細菌検査の進捗状況をリアルタイムで表示させ、患者ID・カナ検索は勿論、受付日・報告日・診療科・病棟・依頼医での検索が可能となり、初期表示については各端末ごとに設定・変更ができるようになった。感染情報などカスタマイズ可能なWeb画面を構築し、診療や業務に必要な情報等が提供可能になった。

    [考察]
     細菌検査Webシステム構築によりリアルタイムでの結果報告が可能になるとともに、将来の電子カルテ導入にも対応可能となった。さらに菌種・薬剤等の情報共有など今後の課題はあるものの報告書の一部をペーパーレス化できるなど当初の導入目的は十分に果たされたといえる。今後は患者情報の二次使用やセキュリティ面での充実を図り、電子カルテ導入に備える必要があると考える。
  • 杉浦 正士, 鈴木 秀子, 河合 浩樹, 山本 玲子, 大嶋 こずえ, 古井 清
    セッションID: 1J14
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/11/22
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
     臨床検査部門は、検査の種類によって多くの分野に分かれているが、近年は業務の効率的な運用を可能にするためワンフロアー化が進んでいる。これにより、現在では部屋ごとの見える壁のみでなく心の中の壁も取り除かれ、患者検体の共有や情報の共有も図れるようになった。
     今回、血液型検査において表試験と裏試験が不一致の症例を経験した。最終的には寒冷凝集素による影響であることが判明したが、輸血検査・血清検査・血液検査の3分野に渡り悪影響を及ぼし、分野間の連携と情報共有化の必要性を痛感しましたので検討結果を合わせて報告する。
    【対象および方法】
     血液型試験にて表試験・裏試験の結果が不一致となった症例および高寒冷凝集素価の患者血清を対象に検討した。
    1)血液型・抗体スクリーニンク゛・・通常の室温実施と試薬・試験管など暖めた状態での検査を行なった。
    2)血球計数・・・・・・採血直後測定および機器立ち上げ直後、立ち上げ後2時間、立ち上げ後2時間で検体4℃保存の4条件についてXT-1800(シスメックス)を使用して測定した。
    3)寒冷凝集素価測定・・4℃、12℃、20℃、24℃(室温)、30℃、37℃の6段階の温度環境において試験管法により検査した。
    【結果】
     対象患者の血液型検査は、室温実施で抗A(4+)・抗B(-)、A血球(+)・B血球(4+)で不一致となり、暖めた状態でも抗A(4+)・抗B(-)、A血球(±)・B血球(4+)で不一致となった。抗体スクリーニンク゛においても生食法では自己対象を含めサージスクリーン・ディエゴの5種血球全てが室温で(+)・37℃で(±)となった。最終的には、37℃にて自己抗体を乖離させた自己血球による自己抗体吸収を行った血清による血液型検査・抗体スクリーニンク゛を行なった。
     血球計数では、採血直後の実施と比較して他の3条件では全てRBC・HT・MCHの減少とMCV・MCHCの増加を示した。
     寒冷凝集素価測定では、対象患者は256倍であったが20℃においても128倍の力価があり8000倍の高値患者が4倍以下に低下したことと対比すると特異な症例であることが明らかとなった。
    【考察およびまとめ】
     今回の症例は、寒冷凝集素価は256倍と際立って高値ではないが、20℃においても128倍の力価が残存する特異な症例であったため室温で検査をする血液型検査などにも影響を及ぼしたと考える。寒冷凝集素価として測定されるものの中にも、ク゛ロフ゛リンの僅かな相違により性質的にはかなり異なったものを含んでいることが明らかとなった。
     結果的には、血液検査・輸血検査・血清検査の3分野に渡る影響を及ぼしたことになり、各分野の連携が重要であることを知らされた症例である。
  • 病理診断結果のWebメールを活用した迅速報告の試み
    服部 晋也, 梶山 夏代, 石田 一, 三輪 幸利, 三島 信彦, 桜井 礼, 中村 隆昭
    セッションID: 1J15
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/11/22
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】院内オーダリングシステムが導入され、1年後病理検査にも導入し、病理・細胞診検査結果をそのままスキャナーに取り込み、Web画像として保存・送信している。従来は検査結果を報告所見用紙にて各診療科に報告していたが、オーダリングシステムになり、診療側より患者が診察に来ないと検査結果が解らず(患者IDにてログインし、結果参照の必要あり)、患者が早期に来院しない場合、治療が遅れる可能性があると指摘があった。
    【改善内容】病理検査室において病理所見悪性と悪性が強く疑われる症例だけを 各診療科依頼医宛に院内Webを利用しメール送信を試みた。
    【送信対象症例】《細胞診》:悪性と悪性が強く疑われる(疑陽性)《組織診》「内視鏡検査」胃⇒・Group IV・V大腸⇒Group 4・5 気管支・食道・十二指腸⇒悪性・疑陽性 「各科生検」⇒ 悪性・疑陽性 「その他」・・社会的環境に影響のある症例(結核・アメーバーその他) 「手術検体」⇒基本的に悪性と診断がついている場合送信せず。 例外として臨床診断が胆嚢炎⇒胆嚢癌、虫垂炎⇒虫垂癌等の場合は送信対象としている。
    【方法】病理検査室より院内Webのコミュニケート機能を利用し、送信対象症例を依頼医にメール送信する。(1)メールが依頼医に届くとコミュニケートボタンが点滅する。(内容を確認したら、病理検査室の当該送信済みメールが未読から既読に変わる)(2)メール文には患者ID・患者名・検査施行日・検体名・病理結果ありと表示します。(3)依頼医は患者IDにてログインし、結果参照、結果を確認して必要ならばICを実施し、終了したら、病理検査室へメール返信する。(4)病理検査室は返信メールを確認し、終了とする。
    【考察・結果】1.オーダリング方式に変わり、患者IDにてログインしないと、結果参照できない為患者が来院しない場合だと治療が遅れる可能性があった。2.主治医はどこの院内端末において個々のパスワードで起動させれば、コミュニケート機能により情報が入手可能となった。3.返信メール機能により病理検査に対する要望や病理診断への質問等があり、診療側とのコミュニケーションが図られる様になった。4.この方法を試み早期治療(手術)など可能となり、診療支援が可能となった。 
  • -迅速な結果報告をめざして-
    長谷川 秀浩, 五十嵐 俊彦
    セッションID: 1J16
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/11/22
    会議録・要旨集 フリー
    <はじめに>新潟県厚生連は佐渡島や粟島など離島を含め総面積で全国第5位の広い地域の中に15の医療施設を持ち、主に郡部の地域医療を担っている。こうした県内各地に点在する系列病院から当施設に集められる病理組織や細胞診の検体や当施設より送付される報告書は郵送、宅配便などにより配送している。流通システムの多様化に伴い、その迅速化はめざましい昨今ではあるものの更なる改善の余地がある。一方、情報通信システムはADSL、光通信へと進化を遂げ、動画や画像などの情報が容易に送受信できる環境が整った。今回、病理診断書の迅速な報告を目的にインタ-ネット、メ-ル機能を活用し自動的に診断結果を依頼先に送信する病理診断書の自動送信システムを独自開発したので報告する。
    <システム構成>
    インタ-ネットにはBフレッツ 光ケ-ブルを接続し、webサ-バは50MBをレンタルしドメインを取得した。組織診、細胞診などの各セクションから集められた病理デ-タ-を一括管理するデ-タ-管理用PCにはNEC Mate ( Intel Pentium 4 ,3.20GHz memory 1.00GB HD160GB )を使用し、施設内の端末は有線LANにより接続した。また、CCDカメラ搭載した顕微鏡をミクロ画像の取り込み用としアナログ情報の入出力用としてフルカラ-デジタル複合機を接続した。
    <プログラム構成>
    Microsoft Visual C# NET.にて各入力画面および管理プログラムを作成した。デ-タ-ベ-スはMicrosoft Access 2003を使用し、ドキメントハンドリングソフトには Fujixerox Docu Works 5.01を用い画像情報の管理を行った。M.S. Visual C# NET.により作成された入力画面で患者属性を入力する事により、デ-タ-ベ-スの作成および患者ごとのデ-タ-を格納するファイルが自動的に作成されるように連動させた。FTP転送プログラム、メ-ル送信プログラムは既存ライブラリ-を利用して開発し、ホ-ムペ-ジ検索画面へログインの際に必要とされるユ-ザ-名、パスワ-ドと患者検索のためのデ-タ-更新などの管理プログラムはCGIで組み言語はParlを用いて開発されている。
    <考察>
    病理検査システム支援用として診断書の作製管理を行なうソフトが市販されている。しかし、兼価で現場に即したシステムの必要性から市販のソフトを用いて診断書のファイリングシステムを構築し、さらに高速デ-タ-通信機能を利用した診断書の自動送信機能を連動させた。本システム構築により外部からの結果照会について休日を含め24時間体制で対応できる事から依頼者側に対するサ-ビスの向上とともに当施設における事務作業の効率化がはかられた。さらに現在、宅配便等で送付している診断書を将来的に完全電子送信化へと移行することにより更なる経費の節減が期待される。迅速化された診断結果の報告は特に離島や遠隔地に存在する病院において大きな導入効果が見込まれる。
  • 岡田 京子
    セッションID: 1K01
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/11/22
    会議録・要旨集 フリー
    〈緒言〉
    どんな医療行為も「行為者1人ひとりは、正しい患者認証がされなければその医療行為を実施してはならない」と同一性確認は初歩的・基本的義務であると云われている。当院では、H14年4月電子カルテ導入、同年12月IDによる認証システムを導入し、患者誤認防止を図っている。認証システムの有効性と今後の問題についての調査結果を報告する。
    当院で導入した認証システムは患者のネームバンドと検査・注射ラベルに付いたバーコードが一致しているかどうかを電子カルテ・端末PDAでチェックするシステムである。
    対象は手術患者、血液製剤使用患者、入院患者の注射・採血(採血管使用の場合)としている。
    〈調査方法〉
    1. 平成14年・15年・16年度の患者誤認レポート件数と内容の分析
    2. 看護部(病棟担当)対象にH16年5月と12月の2回、注射・採血時の認証方法と問題点について実態調査施行。
    〈結果〉
    1. リスクレポート件数参照
    H16年度のレポート総件数はH14年に比べ2.6倍、患者誤認件数も3倍になった。誤認件数のうち認証システムの対象となる事事項は1.4倍、対象外の件数は3.6倍である。ただし、H16年認証システムの件数は4月から9月15件、10月以降は6件であった。
    2. H16年病棟看護師対象に施行した実態調査で、5月の注射・検査で「全てルール通り行なっている」は共に50%前後であり、「認証システムで認証しない時の理由」として「緊急時」が注射47%、検査33%であった。12月でも「全てルール通り行っている」は注射・検査共に50%前後だが、「認証システムで認証しない理由」は「緊急時」注射4%、検査5%になった。他の理由とし、注射では「夜間・睡眠中」。採血では「全ての採血管の認証をしていない」「採血後に認証した」であった。また、看護師の74%は認証システム導入にて患者誤認防止が出来、1%は気付かず施行したという結果であった。
    〈考察〉
    H15年に認証システム導入し、対象の誤認は一旦減少したが、H16年はまた増加傾向になった。これは2回の実態調査から判明した理由として、ルールを守っていない事があげられる。また、患者を思う気持ちが実行の妨げとなっている事も一つの理由と考える。認証システム対象項目の患者誤認件数が5月は7件あったが、実態調査を基に「認証とは」「緊急時とは」の認識の統一をし、10月以降は月に0_から_1件と減少した。結果、患者誤認防止システムの有効性は十分みられたと考える。認証システムの対象外である食事・診察・説明・事務的な間違いに対するシステム上の解決はまだ不十分である。
    〈まとめ〉
    認証システムを導入した前後の患者認証について調査した。一定の改善をみたが、まだ患者誤認はある。今後の方向としては個人としての能力を上げ、感性を育てる。組織としてはさらにシステムの改善が考えられる。
feedback
Top