【目的】
足趾屈筋群の評価や練習プログラムの有用性が多くの先行研究により指摘されている.また,足趾屈筋群の機能低下は高齢者の転倒要因のひとつとしても考えられている。一方,評価方法として本邦では握力計による測定が一般的であり,"足趾で床を押す力"に着目した研究は少ない.そこで,従来の測定方法である握力計を使用した足把持力(水平分力)と足趾で床を押す力(垂直分力)の相違点や特徴,加齢による影響を明らかにすることを目的とした.
【方法】
対象は若年群として大学生51名(平均年齢20.4±2.6歳),高齢群として地域在住高齢者20名(平均年齢76.3±4.7歳).平衡機能に影響を及ぼす可能性のある対象者は除外した. 被験者に対して,握力計を用いて足把持力を測定するとともに,デジタル式上皿自動はかり(大和製衡株式会社:UDS-500N)を用いて足趾で床を押す力を測定した.測定肢位はいずれも椅子座位(股・膝関節屈曲90°,足関節底背屈0°位)とし,左右各2回ずつ測定して最大値を採用した.
統計解析はSPSS 12.0Jを使用し,若年群及び高齢群の足把持力と足趾で床を押す力の相違や相関について,平均値の差の検定やPearsonの積率相関係数を用いて行った.
なお,当研究はヘルシンキ宣言に基づき,対象者に対して研究の目的を説明し同意を得た上で実施した.
【結果】
高齢群のうち9名は足趾変形等の問題があり,握力計で足把持力を測定することができなかった.足趾屈筋力の測定値は若年群・高齢群ともに「足把持力>足趾で床を押す力」であり,「左<右」の傾向がみられ,足趾屈筋力は「若年群>高齢群」であり,加齢による筋力低下の傾向も認められた.また高齢者における立位重心動揺と左足趾で床を押す力との間に有意な相関が認められた(p<0.05).転倒歴のあった高齢者3名は,足把持力,足趾で床を押す力のいずれも転倒歴のないものに比較して有意に低値を示した.
【考察】
足趾屈筋群の筋力としては足把持力の方が強いが,測定できないケースもあった.これに対して,足趾で床を押す力は足趾変形等に問題があっても測定可能な指標であり,高齢群では左足趾で床を押す力が立位重心動揺と有意な相関があることが明らかとなった.これは支持能力として左足は右足よりも優れているとする平沢の先行研究を支持するものである.運動学的に外乱によりバランスを崩した際の足趾の"把持力"と"床を押す力"の意味づけを考えた場合,"足把持力"より"垂直分力としての床を押す力"の方が,転倒予防の評価項目としてより有用ではないかと考える.
抄録全体を表示