関東甲信越ブロック理学療法士学会
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第31回関東甲信越ブロック理学療法士学会
選択された号の論文の305件中201~250を表示しています
  • 池田 健, 草木 雄二, 三上 紘史, 金子 亘
    セッションID: 201
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    バランス能力の低下は、転倒リスクを高めることや不良姿勢により生じる疼痛の原因と考えられている。本研究の目的は静的・動的バランスに影響を与える身体特性を、身体組成・筋柔軟性・筋力の3点から調査する事である。
    【方法】
    対象は健常成人男性51名(年齢26.9±4.2歳、身長170.9±6.3cm、体重67.7±8.5kg)とした。バランス検査にはMedicapteurs製足圧分布測定装置Win-Podを使用した。静的バランス測定は、両足間距離を10cm、両側母趾MP関節と踵骨内側縁を平行に規定した。眼前2mの一点を注視した自然立位の足圧中心を測定し、足長にて正規化して重心前後位置を算出した。動的バランス測定は、同様の肢位より随意努力にて最大前傾位・後傾位・左方位・右方位の姿勢をとらせ、自然立位の足圧中心からの移動距離を計測し、身長にて正規化して重心移動距離を算出した。測定中は母趾球、小趾球、踵骨の3点の接地を条件とした。身体組成はBiospace社製InBody3.0を使用した。筋柔軟性は腸腰筋・大腿四頭筋・ハムストリングス・大腿筋膜張筋・下腿三頭筋を被験筋とした。筋力は等尺性膝伸展筋力(WBI:OG技研社製マスキュレーターGT160)と背筋力を測定し、船橋整形外科式体幹機能テストを用いて体幹機能を測定した。バランス検査と身体特性をそれぞれ比較検討した。統計処理にはSPSSver12.0のPearsonの相関係数を用い、有意水準は5%とした。なお、本研究は船橋整形外科グループ倫理委員会承認のもと、対象者に十分な説明をし、同意を得て実施した。
    【結果】
    重心前後位置は大腿四頭筋柔軟性と負の相関(r=0.298)があり、体幹機能と正の相関(r=0.300)が認められた。重心前後移動距離と両側のWBIと正の相関(蹴り足r=0.390、軸足r=0.309)があり、重心左右移動距離では軸足WBIと正の相関(r=0.318)が認められた。その他の身体特性との有意な相関は認めなかった。
    【考察】
    静的バランスでは大腿四頭筋柔軟性の低下により骨盤前傾位となり臀部は後方に偏移し、後方重心になり、体幹機能テストは高得点者ほど姿勢保持能力が高く前方に重心が偏移したと考えられる。前後の動的バランスは、諸家の報告同様に姿勢制御に働く筋力が影響していると考える。左右の動的バランスは軸足の筋力に影響し、習慣的な支持により軸足優位の重心移動となると考える。
    【まとめ】
    静的・動的バランスと身体特性を比較検討した。バランス能力には下肢筋力だけでなく、体幹機能と大腿四頭筋の柔軟性も関与していた。
  • 澤田 圭祐, 橋立 博幸, 柴田 未里, 井上 智子, 萩原 恵未, 笹本 憲男
    セッションID: 202
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    本報告では,訪問リハ利用期間中に大腿骨頸部骨折を受傷した慢性期脳梗塞の事例を通して,訪問リハが屋内生活空間に及ぼす影響を検討することを目的とした.なお,本研究はヘルシンキ宣言に基づき,訪問リハの概要およびデータの学術的利用について,対象者および家族に対して説明し同意を得た.
    【症例】
    72歳,男性,昭和53年に慢性腎不全,平成2年に脳梗塞左片麻痺を発症した.その後,自宅療養を継続したが,ADLおよびT字杖歩行は全般的に見守りや介助が必要であった.また,自宅内外の活動は乏しく易疲労傾向があり,身体機能低下による活動範囲制約と活動量低下による虚弱進行が懸念され,要介護2にて週1回の訪問リハを開始した.平成20年8月ではBrunnstrom stageが左上肢Ⅲ,手指Ⅳ,下肢Ⅳ,timed up & go test(TUG)23.4s,機能的自立度評価運動13項目(FIM)66点であった.屋内生活空間は自宅において居室から玄関,食卓,浴室,トイレの4か所までの移動距離,移動頻度,移動自立度を調査し,各移動先における得点を算出した結果,玄関0点,食卓259点,浴室55.8点,トイレ322点,合計636.8点であった.
    【経過】
    平成21年1月までの6か月間で月平均3.8回の訪問リハ(基本動作練習,歩行練習)を実施した結果,自宅近隣のT字杖歩行自立に至ったが,平成21年1月に左大腿骨頸部骨折を受傷し病院にて人工骨頭置換術が実施され,平成21年3月に自宅退院して直後から週2回の訪問リハを再開した.自宅退院時はADLが全般的に要介助,T字杖歩行は要見守りで,自宅内活動量は少なく,定期通院以外の屋外外出はなかった.そこで平成21年8月までの6か月間で月平均8.3回の訪問リハ(基本動作練習,歩行練習)を実施した結果,TUGが21.2sと1年前に比べて改善した.FIMは66点で1年前と同等であり,屋内生活空間は玄関42点,食卓362.6点,浴室55.8点,トイレ483点,合計943.4点と1年前に比べて向上した.また,屋外歩行が約500m可能となり,自宅近隣への歩行外出も日常的に行われるようになった.
    【考察】
    本症例は病院からの自宅退院後早期に訪問リハを開始することで自宅への環境適応を促し,より高頻度に訪問リハを実施することで運動介入の機会が確保されるとともに,身体機能および活動の自立度の向上によって自己効力感が高まり,自宅内移動頻度が増加し,屋内生活空間の向上につながったと推察された.屋内生活空間の向上を目指した訪問リハによる評価と介入を継続的に実施することが重要であると考えられた.
  • 橋立 博幸, 澤田 圭祐, 柴田 未里, 井上 智子, 萩原 恵未, 笹本 憲男
    セッションID: 203
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    本報告では,1年間の訪問リハを実施した慢性期脳梗塞右片麻痺者の事例を通して,訪問リハによる屋内生活空間向上の介入効果について検討することを目的とした.なお,本研究はヘルシンキ宣言に基づき,訪問リハの概要およびデータの学術的利用について,対象者および家族に対して説明し同意を得た.
    【症例】
    68歳,男性,平成13年5月に脳梗塞右片麻痺を発症した.入院加療後にT字杖歩行自立にて自宅退院し,ADLは全般的に見守りや介助が必要なレベルで自宅療養を継続したが,自宅に閉じこもり自宅内外の活動が乏しく虚弱進行予防が課題となり,要介護2にて週1回の訪問リハを開始した.平成20年8月ではBrunnstrom stage右上肢Ⅲ,手指Ⅱ,下肢Ⅳ,膝伸展筋力左218N,timed up & go test(TUG)15.2s,chair stand test(CST)30.2s,床からの立ち上がり時間13.4sであった.屋内生活空間は自宅において居室から玄関,食卓,浴室,トイレの4か所までの移動距離,移動頻度,移動自立度を調査し,各移動先における得点を算出した結果,玄関490点,食卓0点,浴室65.8点,トイレ411.6点,合計967.4点であった.屋外生活空間はlife-space assessment(LSA)17点であった.
    【経過】
    平成21年8月までの12か月間で月平均4.2回の訪問リハ(基本動作練習,立位バランス練習,歩行練習,階段昇降練習)を実施した結果,膝伸展筋力243N,立ち上がり動作はCST21.8s,床からの立ち上がり時間5.2sと改善した.歩行はTUG 14.1sで1年前と比べ改善傾向にあり,自宅近隣への屋外歩行外出が日常的かつ頻繁に行われるようになった.また,屋内生活空間は主に玄関への移動頻度の増加がみられ,玄関1470点,食卓0点,浴室65.8点,トイレ411.6点,合計1947.4点,LSA26点と1年前に比べて向上した.
    【考察】
    本症例は,1年前に比べて筋力,起立動作,歩行機能が維持または改善傾向となった.慢性期脳梗塞片麻痺者においても訪問リハにて動作練習を反復的かつ継続的に実施することで,機能障害レベルを維持しつつ,動作レベルを向上することが可能であると考えられた.また,起立動作および歩行が改善されることで,主に自宅内での移動能力が向上し,自宅内とともに自宅外への移動頻度が増加したことによって屋内生活空間の向上に繋がったものと推察された.訪問リハの継続的な介入によって屋内外の生活空間の向上へつながる移動能力の向上を図るための評価と介入が重要であると考えられた.
  • 露木 昭彰, 隆島 研吾
    セッションID: 204
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    訪問リハ継続期間に関しては一定の見解がなく、終了は必要とされているが、利用者とセラピストが目標に向かって一体的に進めていない事などが問題視されている。そこで今回は、利用者の訪問リハに対するニーズを抽出する事で今後の訪問リハのあり方を検討する事を目的とした。
    【方法】
    訪問看護ステーションを通じ、調査の同意が得られた脳血管障害者で訪問リハを6ヶ月以上利用している6名を対象とした。訪問リハを始めた目的、訪問リハの役割、今後望むこと等、直接インタビューによる半構造化面接を行った。分析は修正版グランデッド・セオリー・アプローチ(M-GTA)を用い経験者の指導の下に行った。倫理的配慮は、所属の研究倫理審査委員会承認の下、説明を十分に行った上で署名にて同意を得た。
    【結果】
    「生活の中での喜びを感じている」「能力が向上したという自覚」など35の概念と、「訪問リハによる効果の自覚」「セラピストによる支え」などの10のサブカテゴリをもとに「生活必需な訪問リハ」「問題解決へ向かう原動力」「訪問リハを求め続ける理由」「漫然と続く要素」「外部環境から受ける心理的葛藤」の5つのカテゴリが生成された。これらの関係図からコアカテゴリとして「明確な判断ができる基準がない」ことの構図が明確となった。
    【考察】
    訪問リハが長期に及んでいる要因の「明確な判断ができる基準がない」ことに、「訪問リハを求め続ける理由」「漫然と続く要素」「外部環境から受ける心理的葛藤」のカテゴリが絡んでいることが明らかとなった。また、「訪問リハを求め続ける理由」は「生活に必需な訪問リハ」と「問題解決に向かう原動力」のカテゴリから成っていた。これらは身体的・心理的・社会的要素など、それぞれの項目に対する判断基準が不明確であることが伺われた。また、各サブカテゴリをみていくと、「漫然と続く要素」や「心理的葛藤」など継続していくことにつながる内容と、「現状での未達成感」などの目標を設定することで一旦終了につながる内容に分類できるものと思われた。一般的にも長期的な生活が続く中で、生活ニーズは変化することが当然である。高齢者や障害者の場合、介護保険制度では専門的な支援者として介護支援専門員が位置づけられているが、セラピストはその一部としてサービス提供を行っているにすぎない。セラピストが訪問リハを提供する際には、ADLなどの通常の評価項目とともに、今回の結果をもとに分析的に関わることで、効果的な理学療法サービスとともに、効果的な相談体制を持つことで多職種への具体的な連携へとつなげることが可能になるものと考える。
  • 寺田 友明, 熊井 満喜, 林 恵美子, 江口 太郎, 千葉 美奈子, 篠村 哲冶, 高田 耕太郎
    セッションID: 205
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    病院でリハビリテーション(以下リハビリ)を受け、在宅復帰を果たす患者は多い。しかし、自宅から車椅子を使用したり、介護者とともに外出したりしている在宅療養者は少ない印象を受けていた。そこで今回、当事業所の「訪問看護72」の利用者を対象に、日本理学療法士協会のLife‐Space Assessment(以下LSA)を使用し、約1ヶ月間の外出状況の調査を実施した。そして、リハビリの役割について考察したので報告する。
    【方法】
    対象は「訪問看護72」の利用者で、書面にて本調査の内容を説明し、その目的に同意が得られた25名(男性15名、女性10名)とした。平均年齢は76.8±9.0歳。要介護度は要支援2が1名、要介護1が1名、要介護2が7名、要介護3が4名、要介護4が7名そして要介護5が5名であった。調査方法は、各利用者に対して担当者が面接形式でLSAを利用し、外出状況について聞き取り調査を行った。LSAの使用方法では、個人の寝室から町外までの生活空間を5分割し、住居から出かけた距離および頻度、そして自立の程度などを求めている。また、LSAに加えて外出の目的についても聞き取り調査を行った。
    【結果】
    利用者25名のうち24名が外出しているという結果を得た。この24名のうち20名は自宅から800m(近隣とされている範囲)以上に外出していた。さらにこの中、近隣に外出していない利用者は10名であった。一方、自宅から800m以上の範囲に外出する利用者の半数以上は、通所サービスと医療機関への受診が主な目的であった。自宅から800m未満の範囲への外出は散歩がもっとも多く、次いで受診や買い物そして外食などと回答していた。
    【考察】
    自宅から800m以上の範囲で通所サービスを目的に外出している利用者が多いことは、閉じこもりの予防という通所サービスの役割が反映されていると考えられる。また、高齢になっても仕事や余暇活動のために外出するというように、高齢者の生活に対する考え方が変化していると思われる。しかし、自宅から800m未満の範囲には外出が少なく、介護保険のサービスを利用しなければ外出が困難であることが示唆される。そしてこのことは、身体機能と社会や家族の介護力、住宅環境やリハビリの介入などの要因が、利用者の外出に大きく影響を与えると考える。
    【まとめ】
    本調査から利用者のほとんどが外出している結果が得られた。一方で、通所サービスを利用して遠方へ外出していても、自宅の近隣には外出していない者もいた。通所サービスのための外出だけでなく、近隣住民との交流や買い物などの社会的活動ができるように、住み慣れた地域である自宅近隣への外出の一部を支援することはリハビリのひとつの役割であると考える。
  • 阿部 優実, 野口 涼太, 室橋 亜紗子
    セッションID: 206
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
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    【目的】
    脳血管障害患者(以下CVA患者)の退院先決定因子として,ADLレベル・心身機能・介護力・経済力・家屋環境等が先行研究で報告されているが,要介助者の在宅復帰には,家族の協力と家族hope(以下Fh)は不可欠と考える.そこで今回は,Fhの帰結が退院先に与える影響を明らかにする事を目的とし調査・検討を行った.
    【方法】
    平成22年4月~23年8月に当院回復期病棟を退院したCVA患者98名(平均75.0±10.4歳,男性50名,女性48名)を対象とし,対象者全員のFh・退院先・FIM(食事,排泄,移乗,運動・認知項目)・介護者の有無・移動レベルをカルテで後方視的に調査した.なお,本研究で使用した個人情報の取り扱いには十分注意した.統計処理は,2要因(Fh達成・未達成,在宅・施設)の関連性を2×2分割表で検討し,Fh達成群を対象に,Fh内容と退院先の関連性,介護者の有無をm×n分割表で検討した.さらに,対象者全員のFIM,移動レベルをマン・ホイットニ検定にて在宅群・施設群間で比較した.すべての統計処理で有意水準は5%未満とした.
    【結果】
    Fh帰結と退院先に関連が認められた(Fh達成群40名:在宅32・施設8 未達成群58名:在宅29・施設29)が,Fh内容と退院先に関連は認められなかった.Fh内容は,排泄(Fhとした人数44‐達成人数24‐在宅復帰人数19)身辺動作(32‐7‐6)食事(8‐6‐4)歩行(7‐1‐1)移乗(4‐2‐2)その他復職等(3‐0‐0)との結果が得られた.FIM各項目,移動レベルで2群間(在宅・施設)を比較した結果,在宅群でFIM各項目平均値が高く,歩行自立者が多かった.日中介護者の有無と退院先に関連が認められた.
    【考察】
    Fh達成により在宅復帰の可能性は高くなるが,Fh未達成群の半数は在宅復帰しており,Fh達成が在宅復帰の必要条件とは言い難い.また,Fh内容は在宅復帰率に影響しない.Fh内容と帰結の傾向を比較すると,達成群では排泄動作自立,未達成群は身辺動作自立・復職等の内容が多く,未達成群は家族がより高い機能を要しているといえる.また,達成群ではFIM各項目平均値が高く,未達成群は低かった.未達成群の施設退院者では実際の患者と家族の望む機能レベルで差が生じている為,在宅復帰条件を満たせず在宅復帰が困難になっていると考えられる.Fhとは家族がADLレベル・心身機能・介護力・経済力・家屋環境等を反映した結果,在宅復帰条件として提示しているものであり,家族側が退院先を決定する判断因子の1つになると考える.今回, Fh達成によりCVA患者が在宅復帰出来る可能性が高くなり,退院決定因子の1つになることが示唆された.Fh達成を目標にアプローチする重要性が明らかになった.
  • 冨田 真紀, 浅川 孝司, 矢吹 智美, 吉野 英
    セッションID: 207
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
    会議録・要旨集 フリー
    【背景】
    平成22年4月30日,厚生労働省から「医療スタッフの協働・連携によるチーム医療の推進について」と題する通達が出され,リハスタッフによる喀痰等の吸引の行為が合法化された.当院は神経難病患者の訪問リハビリが中心で,気管切開・人工呼吸器(TPPV)装着患者が多く,通達以前よりリハスタッフによる吸引は当然必要となる行為であった.しかしながら,在宅での吸引手技に標準化されたものはないため,吸引研修を行うことは急務であった.
    【目的】
    本研究の目的は,訪問リハスタッフの吸引行為の標準化を図るために,必要な取り組みについて検討することにある.
    【方法】
    当院独自の吸引プロトコルを作成した.並行して,当院リハスタッフ(PT7名,OT2名,ST1名)に対し,教育研修プログラム(BLS,解剖生理,病態,禁忌,アセスメント,感染管理,吸引方法,カニューレ抜去時の対応法,シミュレーターでの演習)を看護師の指導のもと実施.最終的に院長監督での実地試験に合格し,実施出来るように取り決めを行った.本研究において対象者には研究の趣旨を説明し,口頭及び文章で同意書を得た.
    【結果】
    リハスタッフ全員が訪問時において吸引が実施できるようになり,吸引によるトラブルは現在まで認められない.在宅TPPV装着患者の呼吸リハ・排痰実施時には,吸引が必要となる為,その都度家族の手を煩わせることもなく,介護者の負担軽減を図ることが可能な症例も存在した.また,摂食・嚥下訓練においては,吸引が行えることで誤嚥に対応することが可能となったため,積極的な訓練を実施できるようになった.
    【考察】
    リハスタッフが吸引行為を実施するためには,それに応じた研修を受けることが通達で示されている.在宅における吸引は,必要な器材や吸引カテーテルなど消耗品の費用負担などの問題により,病院で推奨される方法と必ずしも一致しない.また、吸引方法は様々であり,医療の質や安全性に差が生じている現状がある.したがって,在宅での吸引を標準化するための吸引研修を実践したことは極めて有用なことであり,本研究により訪問リハに関わるリハスタッフが汎用できることを期待している.また、リハスタッフが安全に行う吸引を実践していくことにより、患者・家族、在宅に関わる多専門職種から信頼される存在になるものと考える.
  • 今井 英樹
    セッションID: 208
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
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    【目的】
    現状,褥瘡への関わりはクッションの使用やPositioningによる徐圧が多く,治療介入する事は少ない.創傷治癒に効果がある微弱電流刺激(Microcurrent Electrical Neuromuscular Stimulation:以下,MENS)にて褥瘡への治療介入を行い,効果および有効性について検証する.
    【方法】
    仙骨部褥瘡を有する入院患者2名(以下,患者a・b)へMENS(伊藤超短波製トリオ300)を実施した.設定は,出力500μA・周波300Hz・パルス幅1msec・10分,続けて出力40μA・周波数0.3Hz・パルス幅100msec・10分の計20分.頻度は,1週目は1回/日,2週目以降は1回/隔日とし,日常の処置は非観血的方法で統一.評価はDESIGN-Rを用い1回/週で評価し,MENS介入前後3週間を算出.1週間ごと変化した数値を変化値とし,比較.統計処理は対応のあるt検定を用いた(p<0.05).尚,対象者のデータ使用に際し匿名性を確保する条件で研究に使用する説明と同意を得た.
    【結果】
    MENS介入前後3週間の変化値は,患者aで前4・2・2点/週,後4・6・0点/週.患者bで前0・0・0点/週,後0・3・0点/週.統計的な有意差なし.DESIGN‐Rは患者aの壊死組織(以下,N)が3から0点,ポケット(以下,P)が9から0点,患者bの大きさ(以下,S)が6から3点に改善.
    【考察】
    褥瘡局所治療ガイドラインで,電気療法は創の縮小に対し推奨度Bである.また,烏野はMENSの効果は損傷組織を修復する為のエネルギーを供給するATP生成や蛋白質の合成が促進するとしている.患者a・bで介入後に変化値が増加した事から,MENSによる影響が考えられる.また栄養面で,立花は褥瘡予後に相関があるのは血清アルブミンとヘモグロビンであり,それぞれ3.0~3.5g/dl・11.0g/dl以上に改善すべきとある.患者a・bは共に低値を示しており,治癒は遅延すると推測されるが,介入後に変化値が増加している事から,MENSの有効性が期待されるのと同時に,低栄養者でもMENS介入による改善が示唆される.しかし,有意差がない事から,日常の処置の効果や自然治癒力による回復も考えられる.N・PはSに比べ重症度が高い.しかし,外科的治療介入をせずに改善した事はMENSによる効果と考えられ,今後褥瘡への有効性が示唆された.
    【まとめ】
    今回,MENS介入前後で統計的な有意差は見られなかったが,低栄養または重症度が高くても改善が認められ,MENSの効果や有効性が示唆された.当院の褥瘡発生率は年間平均4.50%であり,褥瘡対策委員会を中心に回診や処置等が行われている.委員会看護師6名中5名はMENSの効果を期待できると答えている.今後は,症例数を増やし方法等の再検討を行ない,有効性について検証すると同時に,委員会での活動にも参加して行きたい.
  • 井澤 克也, 勝部 茜恵, 井澤 美保
    セッションID: 209
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    褥瘡予防・管理ガイドラインにおいて、褥瘡治療に電気刺激療法が推奨されている。ガイドラインでは数種の通電方法が挙げられているが、交流に分類される干渉電流型低周波の褥瘡治癒に関する報告は少ない。本研究は、干渉電流型低周波が褥瘡治癒に与える影響を検討することを目的とした。
    【方法】
    対象は60歳代男性、主訴は脊髄梗塞によるTh12以下完全対麻痺。仙骨部、褥瘡発生し、約1年経過するも治癒に至らない、難治性の巨大褥瘡であった。干渉電流型低周波開始時のDESIGN-RはD4-E6S15i0g1n0p0:22点、褥瘡サイズは110 cm2。シングルケースデザインはABAB型( A:外用薬の標準的治療、B:外用薬の標準的治療と干渉電流型低周波)、Aは2週間、Bは4週間とした。刺激強度は40W、時間は60分間とし、5回/週で実施した。測定項目は、各期間の褥瘡サイズ縮小率(サイズ縮小面積cm2/日数)とした。褥瘡サイズの測定は週1回の褥瘡回診時に実施。DESIGN-Rの方法に従い測定し、回診に同行した褥瘡対策委員が担当した。なお、干渉型低周波治療器はSuperkine SK-7W(ミナト医科学株式会社)を使用した。
    【倫理的配慮】
    患者に研究内容の説明を十分に行い、研究協力の同意を書面にて得た。
    【結果】
    ABAB各期の縮小率はそれぞれ-1.8cm2/日、3.2 cm2/日、0.6 cm2/日、0.7 cm2/日であった。
    【考察】
    外用薬による標準治療のみと比較し、標準治療に加えて干渉電流型低周波を実施することで、より褥瘡サイズが縮小した。本研究で使用した干渉電流型低周波は主に疼痛緩和に使用されることが多く、その機序は筋収縮による血流促進が報告されている。また、中周波領域の周波数を使用することで皮膚抵抗が低く、通電の際の痛みを起こさずに刺激強度を上げることができるという特徴がある。今回の結果は、干渉電流型低周波により筋が収縮し、血流が促進され、その結果肉芽形成が進んだことで褥瘡サイズ縮小に至ったと考えられた。
    【まとめ】
    標準治療に加えて干渉電流型低周波することで、褥瘡治癒を促進することができた。
  • 飯塚 直貴, 加藤 仁志, 高橋 宙来, 松澤 正
    セッションID: 210
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    我々は,マッサージ側と非マッサージ側の筋硬度を比較し,マッサージ側の筋硬度が有意に低下したことを報告した(松澤ら,2011).しかし,マッサージの効果の男女差を明らかにした報告は見当たらない.本研究ではマッサージ施行直前,直後の筋硬度の変化量の男女比較を行うことで,マッサージによる筋硬度の変化に男女差があるか検討した.
    【方法】
    対象者は健常成人20名(男性10名, BMI22.1±3.0,年齢22±2.1歳.女性10名, BMI19.9±1.8,年齢20.7±0.5歳)とした.対象候補者に対して,予め十分に説明し,書面による同意を得た上で本研究の対象者とした.対象者は,下腿を露出し治療ベッド上に背臥位で10分間安静にした.その後,腹臥位になり左腓腹筋のマッサージを,軽擦法1分間,揉捏法5分間,軽擦法1分間の順で施行した.筋硬度はマッサージ直前,直後,15分後に測定した.測定部位は両側の腓腹筋内側頭最大膨隆部とし,その部位をマークし筋硬度を5回測定しその平均値を採用した.統計学的解析は,マッサージ側と非マッサージ側の変化量を比較するために対応のないt検定を用いて検討した.また,マッサージ前後の筋硬度の変化量の男女差を比較するために対応のないt検定を用いて検討した.
    【結果】
    筋硬度の変化量は,マッサージ側が有意に大きかった.また,男性のマッサージ側の筋硬度は直前13.1±3.8N,直後10.9±3.1Nであり,女性のマッサージ側の筋硬度は直前9.7±1.9N,直後8.5±1.5Nであった.男女のマッサージ側の筋硬度の変化量を比較した結果,男性が有意に大きかった.
    【考察】
    結果より,マッサージによって筋硬度が低下することが明らかとなり,これは我々の先行研究と同様の結果であった.さらにマッサージを実施した筋の筋硬度の変化の男女差を検討した結果,マッサージの効果は女性と比較して男性の方が大きいことが明らかとなった.生体における標準体脂肪は,男性が15%であり,女性は26%であることが知られている(小澤ら,2009).揉捏法の手技は指掌を皮膚に密着し,筋肉をつかみ圧し搾るようにして動かす手技(網本,2008)であるため,マッサージの効果を得るには筋組織に圧が伝わらないといけないが,女性は筋組織にマッサージの圧が加わる前に脂肪組織に圧がより多く伝わってしまいマッサージの効果が得られにくかったと考えられた.
    【まとめ】
    本研究の結果は,マッサージの効果としては女性と比較して男性の方がより効果が高いことが示唆され,女性に対してマッサージを施行する際には男性と同様の結果が得られない可能性を考える必要がある.
  • 石井 愛, 有馬 慶美, 日高 正巳
    セッションID: 211
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
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    【はじめに】
    臨床実習において学生の統合解釈能力の評価は重要であるが,臨床においてはその評価が実習指導者の主観や経験則に委ねられており,そのため実習指導者の能力の相違によって学生の統合解釈能力の評価が均質的に行われないことが推測される.これに対して有馬は問題解決モデル(PS-model)を用いて客観的に統合解釈能力評価を行う方法を考案し,教員を対象にした研究においてその評価者間信頼性を確認した.しかしながら,臨床理学療法士におけるそれは未だ確認されていない.そこで本研究の目的を,PS-modelを用いた評価方法を臨床の理学療法士が行った場合の評価者間信頼性について確認することとした.
    【対象と方法】
    対象は,臨床経験年数3年目の理学療法士10名とした.対象には事前にPS-modelにもとづく評価方法を十分にトレーニングした.方法は3名の学生がPS-modelにもとづいて作成した問題解決構造と模範的マスターマップおよび症例データを対象に与え,概念地図法による基準にて採点させた.なお採点は,マスターマップにおいて重要と思われる概念およびリンクをそれぞれの理学療法士が選択し,学生が作成した問題解決構造図との一致率で求める方法とした.評価者間信頼性については級内相関係数(ICC)を算出し判断した.
    【結果】
    統合解釈評価におけるICC(2,1)は0.887(95%信頼区間,0.639~0.999)であった.
    【考察】
    今回の方法を用いた統合解釈能力の評価における評価者間信頼性はalmost perfectであった.したがって,この方法による統合解釈能力の評価は,評価者間信頼性という観点からは有用であると言える.本研究での評価者は臨床経験年数の浅い理学療法士だが,マスターマップを用いることでそれぞれの評価者が主観的に重要と思われる統合解釈の概念およびリンクを選択したとしても,評価者間の採点結果には信頼性があることが検証された.つまり,臨床においてもPS-modelおよび概念地図法を用いた統合解釈能力の評価を行うことで均質的に学生の評価を行えると推測される.
    【まとめ】
    臨床理学療法士による問題解決モデルおよび概念地図法を用いた学生の統合解釈能力の評価における評価者間信頼性を検証し,高い信頼性を確認した.
  • 坂 真理子
    セッションID: 212
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
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    【目的】
     当院では年間約10名の実習生を受け入れている。スーパーバイザー(以下、SV)とケースバイザー(以下、CV)の二人体制を基本としているが、業務体系上の理由からSVの人員が不足し実質的にはCVが主体となり学生指導を進める事が多い。その為CVを担う理学療法士が負担を感じる声も多く、特に若年層の不安感が強い状況である。現体制に必要な改善策を探る為、当法人リハスタッフに対し学生指導に関する意識調査を行ったので報告する。
    【方法】
     当法人に所属する理学、作業療法士33名を対象とし、アンケートを配布。有効回答31名を分析対象とした。質問内容は学生指導人数、学生を評価する際の重視事項9項目と学生指導の負担事項5項目を5段階尺度で行った。SV経験有り;A群と経験無し;B群で比較した。本アンケートの趣旨を対象職員に口頭、書面にて説明し、無記名記載で同意が得られた場合に回答してもらった。
    【結果】
     学生を評価する際の重視事項を5段階(1;重視しない~5;とても重視する)で選択した平均値で重視度の高い順に1)姿勢・心構え(平均値A群4.58、B群4.58)、2)情意(4.26、4.50)、3)追及心・興味(4.16、4.08)、4)患者とのコミュニケーション(4.00、4.17)、5)積極性(4.00、3.75)、6)成長度(3.74、3.50)、7)スタッフとのコミュニケーション(3.42、3.17)、8)適正・資質(3.32、3.00)、9)知識・技能(2.79、2.58)であり、知識・技能よりも態度・行動を重視する傾向にある。各項目でA群とB群に差はなく学生を評価する視点は同様である。学生指導の負担事項を5段階(1;感じない~5;強く感じる)で選択した平均値で高い順に1)自身の知識・技術不足(平均値A群4.26、B群4.64)、2)時間的ストレス(3.74、3.91)、3)精神的疲労(3.32、2.73)、4) 不安感(2.95、3.91)、5) 身体的疲労(3.00、2.73)であり、B群は不安感、自身の知識・技術不足、時間的ストレスでA群を上回った。
    【考察】
     SV経験者、未経験者共に学生指導に負担を感じているが、ほぼ同様の視点で学生指導に臨んでいることがわかった。現体制で学生指導への臨み方は養えたが指導技術は養えず、経験を重ねるも負担は解消されない。当院においては学生指導を学ぶ経験が必要である。
    【まとめ】
     今後SV育成の為に、役割を明確にした上で複数指導者制をとり、具体的な指導及び対応方法を学ぶ必要があると考える。
  • 下井 俊典
    セッションID: 213
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    認知、情意、精神運動領域といった3つの学習目標のうち、医学教育では認知領域偏重が指摘されている。理学療法士養成課程も例外ではない。そこで筆者が指導教員を務めるゼミでは、特に情意、精神運動領域の学習に対して、学生を模擬患者(SP)とした実技演習(学生SP演習)を実施している。本研究では同演習後に実施した学生のリフレクションの内容から、演習の教育効果を明らかにすることを目的とした。
    【方法】
    学生SP演習とは、3年生が模擬患者となり、2年生が2人1組でSPに対して理学療法検査・測定を実施し、4年生が2年生の演習内容を評価する演習である。2年生の知識・技術の確認・獲得という学習目標に加え、3・4年生についても「教える」ことによる学びの場となることを狙いとしている。演習は中枢神経障害と整形外科疾患の2症例についてそれぞれ40分間の検査・測定の後、3・4年生から40分間のリフレクションを受ける。夏期休暇期間を自主学習期間として、同休暇期間明けの10月に実施した。同演習後に2年生に対して「演習でできたこと」「演習でできなかったこと」および自由記載の各項目を記載させるリフレクション・シートを配布し、後日回収した。回収後、各項目別に一文に1つの意味が含まれるよう学生の意見を抽出し、KJ法を用いて分析し、グループ編成を行った。なお本研究は、対象者に対して研究の趣旨を説明し同意を得て実施した。
    【結果】
    学生のSP演習に対するリフレクションから抽出した記述数は「演習でできたこと」が27であるのに対して「演習でできなかったこと」は71であった。「演習でできたこと」につての記述は接遇、理学療法検査・測定、協力の3つのカテゴリーに、「演習でできなかったこと」については検査・測定技術、検査・測定時のコミュニケーション、接遇の3つのカテゴリーに分類できた。
    【考察】
    SP演習により学生は接遇や対象者とのコミュニケーションを含めた理学療法検査・測定について学習していることが明らかとなった。学習内容としては接遇面での達成感は高い反面、検査・測定技術、検査・測定時のコミュニケーションについて改善すべき点が多いと感じていることが理解できる。また、記述数からも全体的にも学生達にとって課題の多い演習となっていることが示唆される。
    【まとめ】
    情意、精神運動領域の学習という演習の狙いは達成されていることが明らかとなった。また今回抽出されたカテゴリーは、今後の同演習の評定尺度の項目としての活用が期待できる。
  • 中山 恭秀, 五十嵐 祐介, 中村 智恵子, 平山 次彦
    セッションID: 214
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
     ABMS(Active Basic Movement Scale)は、寝返り、起き上がり、座位保持、立ち上がり、立位保持を6段階の尺度でとらえる臨床評価指標の一つである。基本動作のみで構成されているため理学療法との親和性が良好であり、これまでに片麻痺患者の予後推量などに適していると報告されているが、廃用症候群における妥当性に関する報告はない。そこで今回、BI(Barthel Index)との相関を確認し知見を得たので報告する。
    【方法】
     2010年9月から2011年7月までに廃用症候群の診断を受け理学療法の処方に至った症例のうち、初期評価が可能であった120例、およびそのうち最終評価が可能であった66例を対象とした。内訳は初期評価では男性70名、女性50名、平均年齢80.8歳であり、入院から依頼までの臥床期間は平均15.81日であり、最終評価では男性35例、女性31例、平均年齢81.8歳、入院から依頼までの臥床期間は12.10日であった。初期評価時および最終評価時において、BI scoreとABMS score、さらにBI scoreと寝返り、起き上がり、座位保持、立ち上がり、立位保持、計12の関係についてSpearmanの順位相関係数を求めた。有意確率は1%とした。本研究はヘルシンキ宣言に則り、個人情報に配慮して行った。
    【結果】
     初期評価では、BI scoreとABMS scoreが0.84、寝返りで0.71、起き上がりで0.79、以下、座位保持0.82、立ち上がり0.76、立位保持0.74であった。最終評価では、BI scoreとABMS scoreが0.87であり、寝返りで0.70、起き上がりで0.83、以下、座位保持0.78、立ち上がり0.85、立位保持0.85であった。いずれも有意に高い相関を示した。
    【考察】
     BIはADLの総合評価であり、ABMSは動作自立度の評価方法である。この二つの評価指標は、動作の自立がADL向上に極めて強く関係していることに接点を持つ。そのため、臨床的活用の視点から基準関連妥当性の検討は可能であり、臨床的な展開を考慮した一定の価値があるものと考える。初期評価時、最終評価時ともにBIとの相関が高かったことを受け、廃用症候群の評価にABMSを用いることは妥当であるといえる。特に、介入当初、病室外の活動を正確に評価することが難しく、すべてのBI項目を正確に評価できるとは言い難い場面で、BIのみでは統合・解釈における誤差が生じる可能性をABMSの利用により軽減させる可能性が高くなる。医師や看護師、家族への的確な情報提供が重要となる昨今、廃用症候群評価におけるABMSの利用および併用は、理学療法の目的に妥当性を持たせるだろう。
    【まとめ】
     廃用症候群の評価におけるABMSの妥当性を検証した。初期および最終評価においてBI scoreと高い相関を認め、臨床的有用性を確認した。
  • 竹沢 友康, 岩瀬 友美
    セッションID: 215
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
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    【目的】
    日常生活でバッグを携帯する機会は多く,患者に対して身体に負担の少ない方法を提示することは重要である.先行研究ではショルダーバッグ(以下SB)携帯時の体幹・下肢筋活動に与える影響やSB携帯位置,重量が立位保持に及ぼす影響について報告されている.しかしながら携帯時間が姿勢制御や重心動揺に与える影響については十分に検討されていない.今回,予備研究として健常者を対象に携帯時間の差が片脚重心動揺に与える影響について報告する.
    【方法】
    予備調査として整形外科疾患患者20名を対象に日常使用するバッグについてアンケート実施.その結果より方法を規定した.対象は平均年齢25.5歳の整形外科疾患を有さない健常人4名.方法はSBを携帯しない状態で片脚重心動揺を計測し被験者全員右下肢を支持側とし開眼30秒を重心動揺計(ANIMA社製)で重心動揺(総軌跡長,単位面積軌跡長,外周面積)を計測した.その直後に重量3kgとしたSBを斜め掛けした状態で左体側に固定し片脚重心動揺を計測.更にSB携帯10分,30分後を計測した.計測終了までは室内移動は自由とし課題は設定していない.統計方法は携帯時間の差による重心動揺を一元配置分散分析にて行い有意水準5%とした.
    【説明と同意】
    ヘルシンキ宣言に則り被験者には研究の趣旨と目的を十分に説明した上で参加の同意を得た.
    【結果】
    携帯時間差による総軌跡長,単位面積軌跡長,外周面積についてSB携帯なし,SB携帯直後,SB携帯10分後,SB携帯30分後では(P>0.05)と有意差は認められなかった.
    【考察】
    結果よりSB携帯なしと携帯直後,10分,30分後の経時的変化が健常人の片脚立位重心動揺に与える影響はないと示唆された.これついてはSB重量3kg,片脚立位保持時間30秒であり低負荷,短時間になったことが要因と考える.先行研究から片脚立位姿勢のパフォーマンス低下は筋疲労が原因と捉えられることが多いが片脚立位を30秒間維持できている間は姿勢保持筋の大きな筋力は必要なく,また最長30分間の立位,歩行を行うことで筋疲労に影響を及ぼすと考えたが,計測時間以外の規定はなく運動課題を詳細に設定していない為,筋疲労が生じにくかったと推測する.SBを体側横に固定した場合,体重10%以上の負荷が掛かると身体に影響を及ぼすと報告されているが本研究では体重3~4%程度の負荷であり影響はなかったと考える.しかしながら日常生活で体重10%以上のSBを携帯し長時間片脚立位や連続歩行を行うことは考えにくい.今後の課題は患者が日常生活で使用するバッグの重量,携帯時間,筋活動について詳細に検討し身体に負担の掛からない具体的な方法を提示する必要がある.
  • 塙 大樹, 星 文彦, 藤本 鎮也, 浅岡 祐之
    セッションID: 216
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    椅子からの立ち上がり動作は、床反力作用点(以下COP)の後方移動により開始される。しかし、この時期を扱った研究は少なく、COPの後方移動を引き起こす力学的要因は明らかにされていない。これについて、本動作は力学的に安定した状態から開始されるため、COPの後方移動には外力ではなく筋活動が寄与すると考えられる。そこで本研究では、椅子からの立ち上がり動作時のCOPおよび体幹・下肢筋活動の変化を同期して測定することで、動作開始に寄与する筋活動を明らかにすることを目的とした。
    【方法】
    対象は本研究の趣旨を説明し同意を得た健常成人5名(男性4名、女性1名、全て20歳)とした。開始肢位は体幹直立位、下肢各関節90°屈曲位とし、自然な速度で椅子からの立ち上がり動作を30回行った。そして、この時のCOPと筋活動を測定した。COPは、座面と足底面に床反力計(UMC社製UJK-200C)を設置することでその波形を記録した。筋活動は、導出筋を腹直筋・脊柱起立筋・大腿直筋・半膜様筋・前脛骨筋・ヒラメ筋とし、表面筋電図(日本光電社製LEG-1000)を用いて記録した。更に、対象者内で筋活動を一般化させるため、基線動揺が少ないものを抽出・整流化し、これを加算平均した。そして、各被験者の安静座位とCOP後方移動前後0.1秒の筋活動の積分値について、対応のあるT検定を行い比較・検討した。なお、本研究の実施にあたり埼玉県立大学保健医療福祉学部倫理委員会の承認を得た。
    【結果】
    安静座位に比して、COP後方移動前後の脊柱起立筋活動量の積分値が有意に低下していた(p<0.05)。大腿直筋・腹直筋については、安静座位時とCOP後方移動前後で有意差を認めなかった。半膜様筋については、COP後方移動前後の波形動揺が大きく、検討が困難であった。
    【考察】
    椅子からの立ち上がり動作開始には、下腿前面筋である前脛骨筋活動量の増大だけでなく、下腿・体幹後面筋であるヒラメ筋・脊柱起立筋活動の抑制が寄与していることが示唆された。特に、本動作開始時の体幹運動においては、腹直筋活動量の増大よりも脊柱起立筋活動の抑制が寄与していると考えられる。
    【まとめ】
    椅子からの立ち上がり動作開始時の運動力学的変化を捉える際、主動作筋の活動だけでなく、姿勢筋の抑制にも着目する必要がある。
  • 新井 智之, 加藤 剛平, 藤田 博曉, 細井 俊希, 丸谷 康平
    セッションID: 217
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    立位回転動作はBerg Balance Scaleなどのバランス評価の一項目となっており,また移乗動作など臨床場面で頻繁に用いる評価であるが,基礎的研究がほとんど行われていない.脳卒中患者を対象にした研究では,立位回転速度は移動能力と関連が高く,有用な指標であることが予想されるが,高齢者を対象に立位回転速度が他の運動機能と比較して,移動能力と密接な関係にあるかを検討した報告はない.そこで本研究は立位回転速度と他の運動機能との関係を調べ,その有用性を検討することとした.
    【方法】
    対象はシルバー人材センターに登録している60歳以上の地域在住中高年者50人(平均年齢69.9±4.5歳)とした.なお本研究ではヘルシンキ宣言に従い研究の目的,個人情報の保護,研究中止の自由を記載した文書を用いて十分な説明を行い書面にて同意を得ている.立位回転速度は立位にてその場で360度回転する課題とした.対象者にはできるだけ早く回転するように指示し,測定を左右1回ずつ行い,最大値を採用した.運動機能は膝伸展筋力,足趾把持力,5回立ち上がり時間,片脚立ち時間,,Functional Reach Test(FRT),快適と最大の10m歩行時間,Timed “Up and Go” Test(TUGT)を測定した.解析は立位回転速度と他の運動機能との関係をPearsonの相関係数を用いて検討した.また移動能力に対する立位回転速度の影響を検討するため,快適と最大の10m歩行時間,TUGTを従属変数,年齢と他の運動機能を独立変数とした重回帰分析を行った.
    【結果】
    立位回転速度は膝伸展筋力以外の運動機能と有意な中等度の相関をみとめた(|r|=0.30~0.64).10m快適歩行時間を従属変数とした重回帰分析では立位回転速度(β=0.643,P<0.01)のみが選択され,10m最大歩行時間を従属変数とした重回帰分析では立位回転速度(β=0.421,P<0.01),FRT(β=-0.377,P<0.01),片脚立ち時間(β=-0.264,P<0.01) が選択された.またTUGTを従属変数とした重回帰分析では5回立ち上がり時間(β=0.359,P<0.01),立位回転速度(β=0.308,P<0.01),FRT(β=-0.252,P<0.01)が選択された.
    【考察】
    本研究の結果,立位回転速度は筋力,バランス能力,移動能力に関連する指標であり,特に歩行速度やTUGなどの移動能力に対して独立して関与する要因であることが明らかとなった.以上のことから立位回転速度は地域在住中高年者の運動機能評価として有用な指標であることが示された.
    【まとめ】
    本研究では地域在住中高年者を対象に立位回転速度と運動機能との関連を調査し,立位回転速度評価は移動能力に対して独立して関与する要因であることが明らかとなった.
  • 小山 真吾, 森尾 裕志, 堅田 紘頌, 石山 大介, 井澤 和大, 清水 弘之
    セッションID: 218
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
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    【目的】
    65歳以上の高齢者は1年間の転倒率が20%であり,加齢に伴いその頻度は上昇する傾向があると報告されている.この原因として躓きが多く,障害物を躓かずに跨ぐステップ動作能力を評価する意義は高いと考えられるが,その動作を評価する客観的指標は少ない.ステップ動作能力指標としてDiteら(2002)はFour Square Step Test (FSST)を開発し,転倒との関連も報告している.しかし我々は,FSSTを活用するにあたり難易度が高く完遂困難な症例をしばしば経験する.そこで,本研究の目的は,従来のFSSTの動作を単純化した方法として,2区画を反復する評価指標(Two Square Step Test; TSST)を考案し,その信頼性,および妥当性について明らかにすることとした.
    【方法】
    対象は65歳以上の高齢患者38例(平均年齢77.9±7.3歳,男性50.0%)である.取り込み基準は,両脚立位保持が可能な例とし,除外基準は,不良な心血管反応が運動の制限因子になっている例,片麻痺や荷重関節痛などの運動器疾患や認知症を有する例とした.評価指標としてTSST,FSST,Functional Independence Muasureの運動項目(FIM)を測定した.TSSTの測定方法について以下に記す.検者は床に角材(長さ90 cm,2.5×2.5 cm)を置き,15秒間の反復回数と角材に接触した失敗回数を測定した.被検者は区切った区画を前後,左右方向の2条件で施行した.前後と左右の合計回数から,失敗回数を差し引いた回数を,TSSTスコアと定義した.測定回数は2回実施し,最高値を採用した.信頼性は,検者間,検者内再現性を検討し,妥当性は,FSST,FIMとの関連を検討した.統計学的手法は級内相関係数とスペアマンの相関係数(rs)を用いた.なお,統計学的判定基準は5%とした.倫理的配慮として当院倫理委員会の承認を得た(承認番号第1967号).また,対象者に研究の主旨を説明し,同意を得て実施した.
    【結果】
    FSST vs TSSTの完遂率は 71% vs 100%であった. TSSTスコアの検者間,検者内再現性の級内相関係数は,各々0.98,0.98と優秀であった.TSSTとFSSTは負の相関を認め(rs =-0.82,p<0.01),TSSTとFIMは正の相関を認めた(rs = 0.82,p<0.01).
    【考察】
    TSSTで得られたスコアは信頼性,妥当性ともに良好であり,高齢患者の臨床的評価指標として活用できる可能性が示された.また,TSSTはFSSTと比べ完遂率が良く,より多くの対象者を取り込めることが考えられた.
    【まとめ】
    本研究でTSSTの信頼性,妥当性について明示できた.今後、臨床に応用できる評価指標としてさらなる検討が必要である.
  • 福山 勝彦, 丸山 仁司
    セッションID: 219
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
    立位時,足趾が床に接していない「浮き趾」は,多くの報告において30%以上存在し,足趾把持力やバランス能力の低下が指摘されている。しかし我々の研究では足趾把持や重心前方移動といった努力接地により,浮き趾とされる例の半数以上で改善が認められている。今回、努力接地により浮き趾が改善する群(擬浮き趾群)と改善しない群(浮き趾群)について足趾把持力を計測した結果,これまでの浮き趾抽出に対する知見を得たので報告する。
    【方法】
    健常成人160名(平均年齢21.8±2.9歳)を対象とした。T大学倫理審査委員会の承認を得た上で,対象者には研究内容を説明し同意を得た。被検者を自作のPedoscope上に5cm開脚位,開眼で起立させ,安静時,足趾で床を把持した状態,身体を前方に移動し静止した状態の足底画像を撮影した。画像から10本の足趾に対し,完全に接地しているものを2点,不完全接地を1点,無接地を0点とする20点満点の浮き趾スコアを求めた。さらに安静時浮き趾スコア18点以上を「正常群」,17点から11点を「不完全接地群」,安静時浮き趾スコア10点以下で把持,前方移動時いずれかが18点以上のものを「擬浮き趾群」,把持,前方位移動いずれも17点以下のものを「浮き趾群」としその割合を求めた。次に足趾把持力計(竹井工業社製)を用い足趾把持力を計測,体重で除して正規化した。得られたデータから群間ごとの足趾把持力を一元配置の分散分析およびTurkeyの多重比較検定を用い比較検討した。
    【結果】
    正常群,不完全接地群,擬浮き趾群,浮き趾群の割合はそれぞれ,34.4%,30.0%,21.2%,14.4%であった。足趾把持力は,正常群に比べ擬浮き趾群(p<0.05),浮き趾群(p<0.01)で有意に低下していた。また擬浮き趾群に比べ浮き趾群(p<0.05)で有意に低下していた。
    【考察】
    これまでは安静時浮き趾スコア10点以下のもの,つまり擬浮き趾群,浮き趾群を総称して浮き趾としており,その割合は36.5%と先行研究の30%にほぼ一致している。しかしその中には把持や前方移動といった努力接地により改善が可能な「擬浮き趾群」が半数以上存在している。このケースは浮き趾群に比べ足趾把持力も大きいことから,歩行時に足趾まで体重移動が可能であることが推察される。これまでは安静時に足趾が接地していない例を「浮き趾」としていたが,今後は分けて身体機能を検討する必要がある。しかし言い換えれば,擬浮き趾群は浮き趾群に移行する可能性も秘めており,アプローチの検討も重要と思われる。
    【まとめ】
    擬浮き趾群は浮き趾群に比べ足趾把持力が大きいことから,別々に足趾機能を検討しなければならない。
  • 篠崎 将視, 倉田 勉, 小口 敦, 矢内 宏二
    セッションID: 220
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    足関節底屈運動には様々な筋が関与するため、筋力測定で個々の筋力を区別することは困難である。福永らが明らかにした下腿筋群の生理学的横断面積(以下PCSA)から、腓腹筋を除いた底屈筋群の割合は75.9%と推定される。しかし先行研究による膝伸展位に対する屈曲位の底屈筋力の割合は80-90%と過大に評価され、正確な測定がされているとは言い難い。本研究の目的は底屈筋力の測定肢位を工夫することで正確な測定結果を得ること、加えて測定自体に再現性があるか検討することである。
    【方法】
    対象は健常成人28名56足(男女各14名、平均年齢28.5歳)とした。底屈筋力はCon-Trex(CMV-AG社製)で測定した。測定肢位は膝関節完全伸展位を腹臥位で、膝関節90°屈曲位を膝立ち位に設定し、各々の肢位で最大等尺性筋力、等速性筋力を測定した。等尺性筋力から伸展位に対する屈曲位の最大筋力比を、等速性筋力(30、90、180deg/sec)から最大筋力比、最大筋力発揮角度を求め検討した。また測定再現性の検討には対象者10名に対し、膝屈曲位における最大等尺性筋力を1週間以上の間隔をあけ、2回測定した。肢位間の差の検討には対応のあるt検定を、測定再現性の検討には級内相関係数を用いた。本研究は対象者に研究趣旨を十分に説明したうえ、同意を得て行った。
    【結果】
    最大筋力比(等尺性、30、90、180deg/sec)は73.6、86.2、91.5、98.9%となり、180deg/secを除く条件で両肢位間に有意差を認めた。最大底屈筋力発揮角度(30、90、180deg/sec)は伸展位で背屈3.1±3.8°、2.2±5.3°、8.1±4.4°、屈曲位で背屈5.2±3.0°、6.9±3.9°、11.0±1.5°となり、全ての角速度で肢位間に有意差を認めた。再現性の検討においては級内相関係数が0.87であった。
    【考察】
    2肢位の測定から求めた等尺性の最大筋力比は、福永らの報告したPCSAから得られた腓腹筋を除いた底屈筋群の割合に近似した。本研究は先行研究よりも最大筋力発揮時に伴いやすい代償動作を最小限にできる肢位であったと考えられた。測定再現性についても良好な結果を得られた。また角速度が高速となるほど単関節筋の貢献は高く、単関節筋が主となる肢位で筋出力はより背屈位へ移行した。この結果から底屈筋群における二関節筋、単関節筋の役割相違が窺え、ヒラメ筋など単関節筋の運動関与を今後、明らかにする必要があると考えられた。本測定結果はスポーツ障害を有する者の評価・治療に今後、役立てていく予定である。
  • 冨田 洋介, 新谷 和文, 臼田 滋
    セッションID: 221
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    本研究の目的は,脊髄疾患患者を対象に足関節における時間的協調運動機能検査の信頼性を検討し,さらに脳卒中患者,脊髄疾患患者,健常高齢者の時間的協調運動機能の群間比較を通してその特性を検討することである.
    【方法】
    対象は書面で同意が得られた脳卒中患者24名 (68.3±10.9歳),脊髄疾患患者19名(67.8±10.0歳),健常高齢者17名(80.1±5.1歳)とした.時間的協調運動機能は椅子座位にてFoot Pat Test(FPT),単純反応時間(SRT),リズム課題をデジタルカメラ(EX-FC100, CASIO)で測定した.FPTは足関節底背屈運動(タップ)を出来るだけ速く行い,10秒間で足底面が接地した回数を測定した.SRTはメトロノーム(DB-30, Roland)の音が鳴ったらすぐに足関節を背屈し,メトロノームが鳴ってから足底面が床から離れるまでの潜時を測定した.リズム課題は0.8Hz,1.6Hz,2.4Hzの3条件のリズムでメトロノームの音に合わせたタップを行い,指定したリズムから各タップに要した時間の平均を除した値をリズム誤差(RE)と定義し,時間的精度の指標とした.また各タップに要した時間の平均値とその標準偏差値の商から得られる変動係数をリズム変動(RV)と定義し,時間的定常性の指標とした.信頼性検討は脊髄疾患患者を対象に1週間以内に2度測定し,級内相関係数(ICC)とBland-Altman plotを用いた.協調運動機能の群間比較には一元配置分散分析とKruskal Wallis検定を用いた.運動リズム条件間のリズム変動,リズム誤差の比較にはFriedman検定を用いた.本研究は当院の倫理審査委員会の承認を受けた.
    【結果】
    SRT,FPTのICCは良好だった.一方RE,RVのICCは低値を示し,Bland-Altman plotでは測定値の大きい者では試行間の差が大きい傾向だった.FPTは3群間に有意な差を認めず,SRT(F=10.121,p<0.01),RE(Χ 2値=11.390,p<0.01),RV(Χ 2値=9.792,p<0.01)で脳卒中群が他の2群より有意に低下していた.脳卒中群のみでリズム課題の周波数の増大に伴いRE(Χ 2値=9.789,p<0.01),RV(Χ 2値=17.789,p<0.01)ともに有意に低下した.
    【考察】
    SRT,FPTは高い信頼性が示された.一方でRE,RVは協調性の低い者で再現性が低かった.今後は練習条件の統一などの工夫が必要と考える.またFPTは3群間に有意差を認めなかったが,SRT,RE,RVが脳卒中群で有意に低下していたことから,これらの検査が時間的協調性の異なる側面を反映する可能性が示された.
    【まとめ】
    時間的協調性検査の信頼性はSRT,FPTでは高かったが,リズム課題では協調性の低い者ほど再現性が乏しかった.SRT,FPT,リズム課題を用いることで協調性を多面的に評価できると考える.
  • 高橋 知幹, 保田 智彦, 栗林 亮, 亀山 顕太郎, 岩永 竜也
    セッションID: 222
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    腰痛の原因の一つに,D.Leeらは片脚立位時に支持脚の寛骨が前傾し仙腸関節のLocking機構が働かず,荷重を効率的に伝達できない荷重伝達障害という概念があると報告している.片脚立位時の寛骨傾斜と股関節回旋角度には一定の傾向があると臨床上感じるが,片脚立位時の寛骨傾斜角度と股関節回旋角度に関する研究は少ない.そこで,本研究は健常群と腰痛群の片脚立位時の寛骨傾斜角度と股関節回旋角度の関連性を調査し,腰痛との関係を明らかにすることを目的とした.
    【方法】
    対象は腰痛がない者(以下,健常群)10名(年齢27±2.8歳)と荷重下で腰痛が再現できる者(以下,腰痛群)15名(年齢30±2.6歳)とした.疾患名は問わず,神経症状を呈するもの,測定時に疼痛が生じるもの,下肢に既往がある症例は除外した.また,被験者にはヘルシンキ宣言に基づいて研究の主旨を十分に説明し,同意を得た上で研究を行った.測定項目は支持脚寛骨の傾斜角度(以下,傾斜角度)と股関節回旋角度(以下,回旋角度)の2項目とし,静止立位と安定した片脚立位(遊脚側の股関節,膝関節90°屈曲位)の3秒間を2回測定し,その平均値から変位量を算出した.測定機器は三次元動作解析装置EvaRT4.0(Motion Anaiysis製)を用いた.傾斜角度は上前腸骨棘と上後腸骨棘を結ぶ線と水平線のなす角度とし,回旋角度は大腿骨内側上顆,大腿骨外側上顆を結んだ線と前額面のなす角度とした.統計学的検討にはt検定およびピアソンの相関係数を用い,有意水準は5%とした.
    【結果】
    傾斜角度は健常群(-5.8°±4.6)と腰痛群(4.6°±6.6)で有意差があり,回旋角度は健常群(3.3°±1.7)と腰痛群(-2.4°±4.4)で有意差を認めた.支持脚の寛骨が後傾するほど支持脚の股関節が内旋し,前傾するほど外旋した.また,傾斜角度と回旋角度に負の相関を認めた(r=-0.64).
    【考察】
    傾斜角度と回旋角度との間に負の相関が認められたことにより,支持脚の寛骨が後傾するほど股関節が内旋し,前傾するほど外旋することが示唆された. D.Leeは片脚立位時に仙骨がうなづき,寛骨が後傾することで仙腸関節のLocking機構が働くが,支持脚の寛骨が前傾するとLocking機構が働かず,荷重伝達機構に障害があると述べている.支持脚の寛骨が前傾して股関節が外旋した被験者は,腰痛群の中にのみ認められた.よって,支持脚の寛骨が前傾し股関節が外旋した被験者は荷重伝達障害が原因となって腰痛が出現していることが推察された.
    【まとめ】
    片脚立位時に支持脚の寛骨が後傾するほど股関節が内旋し,前傾するほど外旋した.支持脚の寛骨が前傾して股関節が外旋する荷重伝達障害と推測される被験者は腰痛群の中にのみ見られた.
  • 田中 惣治, 打越 健太, 清野 昂太, 吉葉 崇, 山本 澄子
    セッションID: 223
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
    会議録・要旨集 フリー
    【背景・目的】
    脳卒中片麻痺者の歩行分類で,Qurevainらは麻痺側立脚期に膝が伸展する歩行(以下,膝伸展パターン)や麻痺側立脚期に膝が屈曲する歩行(以下,膝屈曲パターン)が主に低速度歩行の患者で認められることを報告している。これらは臨床でも多くみられることから片麻痺者の歩行の特徴のひとつと言える。また,Nadeauらは足関節などの遠位部が近位部と比較し筋力低下の割合が大きいこと,Muloreyらは足関節底屈筋の筋活動の不足により下腿の制御が乏しくなること報告しており,歩行時の足関節の筋活動が前述した歩行パターンに影響すると考えられる。しかし,歩行パターンに着目し歩行時の足関節の筋活動の特徴を明らかにした報告はない。そこで本研究は,片麻痺者の歩行時の筋活動を調査し,歩行パターン別に共通した特徴があるか検証することを目的とした。
    【方法】
     対象は回復期入院中で裸足での歩行が可能な片麻痺者6名(男性のみ,年齢50.0±11.3歳)である。下肢のBRSはⅢ:2名,Ⅳ:2名,Ⅴ:1名,Ⅵ:1名で麻痺側は右3名,左3名。歩行パターンは先行研究にならい目視により分類し,膝伸展パターン4名,膝屈曲パターン2名であった。計測は10mの歩行路を自由速度の歩行を行った。歩行時の筋活動は表面筋電計WEB-5500(日本光電社製)を用いて測定し,被験筋は前脛骨筋と腓腹筋とした。併せて,矢状面からビデオカメラで歩行を撮影し,得られた映像データを動画解析ソフトDART FISH SOFTWAREを用いて歩行の相分けを行った。なお,本研究は国際医療福祉大学倫理委員会(承認番号11-47)の承認を得た後,ヘルシンキ宣言にのっとり口頭・文書にて対象者に説明し同意を得て実施した。
    【結果】
     膝伸展パターンの歩行では,健常者でみられる荷重応答期(以下,LR)の前脛骨筋の筋活動ピークが共通して認められなかった。腓腹筋の筋活動は比較的大きく活動するが,4名のうち2名は特にLRで腓腹筋の筋活動ピークを認めた。一方,膝屈曲パターンの歩行ではLRにおける前脛骨筋の筋活動ピークは認められたが,健常者でみられる立脚中期(以下,Mst)の腓腹筋の筋活動ピークが認められなかった。
    【考察】
    膝伸展パターンを示す片麻痺者において,LRの前脛骨筋の筋活動が生じないため下腿が前傾せず膝が伸展する歩行となった。一方,膝屈曲パターンを示す片麻痺者はLRで前脛骨筋の筋活動は生じるが,Mstの腓腹筋の筋活動が低下し下腿の前傾を制御できず膝が屈曲する歩行となった。以上から,片麻痺者の歩行パターンにより足関節の筋活動が異なる傾向が示唆され,理学療法評価や治療に応用できる知見が得られた。
  • 中島 直登
    セッションID: 224
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    当院では,入院患者様に対して院内訓練のみでなく,退院前に環境整備を中心とした訪問指導(Home evaluation:以下H・E)を実施している. そこで今回、FIMの点数を用いて、どのような患者が在宅復帰後に転倒しやすいかを予測し,H・Eに活かすとともに在宅復帰後の転倒を減らすことを目的とする.
    【方法】
     対象者は当院退院後,併設の通所リハビリの利用者30名.平均年齢は77,5 ±10,98歳,退院後日数は260,1 ±174,6日とした.退院時および現在のFIM点数を転倒群,非転倒群に分けて比較.転倒の有無に関しては,面接式で聞き取り調査を実施した.統計学的分析は,Microsoft Excelを用いて「分散が等しくないと仮定した2標本によるt検定」行った.また,地域高齢者転倒率である20.2%と本研究の同一の数値となるFIM 点数105点以上に対してカイ二乗独立性検定を行った.本研究は当院倫理委員会の承認を受けた研究である.
    【結果】
    転倒者が11名,非転倒者が19名であった.退院時FIM平均は転倒者100,8 ±12,34,非転倒者は102,9 ±13,62であった.現在のFIM平均は転倒者は97,7 ±15,40,105,3 ±14,81であった.退院時FIM点数,現在のFIM点数共に有意差は認められなかった(p>0,05).カイ二乗独立性検定により地域高齢者転倒率と本研究結果での転倒率では一致しなかった.
    【考察】
    今回,H・Eに活かす目的で,FIM点数から転倒の予測が可能かを検証した.本研究では転倒群,非転倒群においてFIM点数に有意な差は認められなかった.また,FIM点数が105点以上での転倒率と土井らの地域高齢者転倒率20.2%は一致しなかった.FIM点数が転倒者における最高点が120点,非転倒者では最低点が72点という大きなばらつきがみられたことからも FIMを用いての転倒の予測は難しかったと考える.転倒に影響を与える因子としては,身体機能などの内的要因と環境因子などの外的要因が挙げられる.今回の研究での転倒は,外的要因の影響が大きかったと考えられる.そのため,FIM点数が高い方に対しても十分な環境整備の必要性が示唆される.今回の研究における課題として,対象人数が少数であったこと,退院後の日数にばらつきが大きく,どの時点での転倒の有無を調査するかが不明確であったことである.今後はFIM以外に環境に関する評価,転倒予測可能な身体機能に関する評価法の検討が必要と考える.
    【まとめ】
    FIM点数での在宅復帰後の転倒の予測は困難であり,FIMで評価をしていない外的要因が強く転倒に影響を与えていたと考えられる.その為,FIM以外の転倒予測可能な評価法の検討が必要である.
  • 原田 脩平, 加藤 仁志, 鳥海 亮
    セッションID: 225
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
    スピリチュアルペインとは,「自己の存在と意味の消失から生じる苦痛」と定義されている.それは,時間存在,関係存在,自律存在よって支えられている.今回,介入を行った症例は,うつ病と腰痛を呈する80歳代の女性である.症例の「死にたい」「誰も分かってくれない」などの訴えをスピリチュアルペインとして捉えてアプローチを行った結果,改善がみられた.
    【症例紹介】
    80歳代女性.診断名:老人性うつ病,脊柱管狭窄症,腰椎すべり症.現病歴:平成23年2月頃より痛みが生じ,保存的治療を行っている.生活癧:元来,多趣味で活発的であったが,腰痛になってからは,家に閉じこもることが多くなっている.主訴:腰が痛い,もう死んでしまいたい.倫理的配慮:口頭にて同意を得た.
    【理学療法評価】
    <精神状態>GDS:14/15<スピリチュアルペイン>過去の自分と比較して,現在の自分に落胆している様子あり,希死念慮もみられていることから自律存在(-),周囲の人たちに対する感謝の思いは強いことから関係存在(+)<疼痛>腰部に鈍痛を訴えており,動作で痛みが増強するようなことはなく,慢性化している.<視診・触診>L4/5の腰椎が前額面上で右に変位し,矢状面上で腹側へ滑っている.<ADL>自立レベル
    【経過】
    利用開始当初は,ネガティブな発言をしながらも集団体操やプールへの参加が見受けられた.利用開始3ヶ月後,介護認定調査が行われ,変更が無いことに対し「誰も分かってくれない,これなら死んだ方がいい」との発言があり,関係存在が(-)に傾き始めていた.利用時は本人の訴えを傾聴することで,関係存在を(+)に維持できた.さらにその4ヶ月後,自宅にて転倒し,本人より利用を一時中断するとの連絡が入った.それにより会うことができなくなったため,手紙を用いてスピリチュアルペインに働きかけた.その結果,利用再開を決意された.来所時に「手紙ありがとうございます.もう見捨てられたかもしれないって思っていました」と,利用中断時の思いを話されていた.現在も変わらず利用中であり,生活も自立レベルを維持している.
    【考察】
    本症例は関係存在という支えを2度失いかけたが,適切なアプローチをすることでその喪失を阻止でき,身体機能も維持することができた.スピリチュアルペインは終末期の問題というイメージが強いが,本症例の経験によりリハビリテーションの分野でも十分に利用できるものと考えられた.身体機能の低下による,生活の変化は,スピリチュアルペイン発生の原因になる可能性があると考えた.苦しみを持ちながらも,生きる人たちを支えるには必須を知識ではないかと考えた.
  • 迫 力太郎, 小笹 佳史
    セッションID: 226
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    視床出血例は視床核の損傷部位、脳室穿破の有無により臨床徴候は変化する。今回、視床出血・脳室穿破2症例経験し、異なった症状や経過を示したので比較検討する。
    【方法】
    各々の現病歴の違い、画像所見、高次脳機能障害、眼症状、運動麻痺、感覚麻痺、筋緊張、バランス能力、FIM、ADL能力の変化について比較検討する。以下当院入院時評価を記述する。
    症例1 64歳 男性
    右視床出血、脳室穿破、水頭症を発症。同日脳室ドレナージ施行。発症66日後当院転院。画像所見は脳室穿破、視床内側を中心とした高吸収域を認めた。当院入院時、意識不清明、コミュニケーション困難、MMMSE11点。記憶障害、遂行機能障害、注意障害、視野障害、眼球運動障害を認めた。運動麻痺はBr.stage上肢4手指5下肢4。右眼閉眼傾向。感覚は表在軽度鈍麻、深部鈍麻。左上下肢体幹低緊張。BBS11点。FIM運動項目21点認知項目18点。ADL介助。
    症例2 57歳 男性
    右視床出血、脳室穿破。保存療法。発症27日後当院転院。画像所見は脳室穿破、視床外側から内側に高吸収域を認めた。当院入院時、コミュニケーションは良好。MMSE26点。記憶障害、注意障害を認めた。左半側空間無視は机上テストでは認めないが、日常生活場面で認めた。視野障害・眼球運動障害は認めなかった。運動麻痺はBr.stage上肢4手指5下肢4。右眼閉眼傾向。感覚は表在軽度鈍麻、深部鈍麻。左上下肢体幹低緊張。BBS14点。FIM運動項目47点認知項目25点。ADL軽介助。
    なお、個人情報の保護・管理を徹底し個人が特定されないよう配慮した。
    【結果】
    両症例間に、画像上損傷部位とその改善経過に相違を認めた。また高次脳機能障害の経過に差異を認めた。覚醒変化の相違も認めた。しかし、運動・感覚麻痺、筋緊張の変化は両症例とも同程度であった。バランス障害、FIMに関しては、共に改善したが症例2の方がより改善を示した。
    【考察】
    両症例共に、視床内側の血腫を認めたが、症例1は、視床内側の損傷の影響と思われる症状を呈し続けた。しかし症例2は血腫の吸収を認め、その影響は次第に改善していったと考える。加えて、覚醒レベルの相違は脳室の改善にも影響していると考える。両症例を比較すると覚醒レベルの差、高次脳機能障害の後遺の差、バランス障害の残存の差を認め、結果、ADL能力の差を生じさせたと考える。
    【まとめ】
    視床出血・脳室穿破2症例の比較を行った。損傷核の違いとその改善経過の違い・脳室の改善経過の違いにより経過が異なった。今回のような事例検討を重ねていき、画像所見と臨床症状を詳細に検討していくことでADLの予後予測や効果的な理学療法を実施できるようになると考える。
  • 武川 真弓, 杉山 真理, 廣島 拓也, 鈴木 康子, 河合 俊宏, 清宮 清美
    セッションID: 227
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
    福祉用具は、心身の機能が低下した者に対して機能を補い、日常生活上の便宜を図る用具とされている。我々は、福祉用具の使用により動作能力の向上も得られると考えている。今回、福祉用具にて胸部の安定を得ることで、駆動能力が向上した症例を報告する。
    【方法】
    症例は50歳代の男性、橋出血による四肢麻痺、失調症である。平成23年10月に発症し、同月下旬に当センターへ転院した。症例に本発表の目的と内容を説明し、同意を得た(承認番号H23-9)。運動機能は、下肢BRS左右V、右半身の感覚は脱失、四肢体幹失調を有していた。筋緊張は下肢伸筋が安静時に亢進し、動作時増強した。特に右大腿四頭筋が著明であった。骨盤は後傾位で、腰椎は側屈と回旋の可動性を有していた。Hoffer座位能力分類(JSSC版)はIであった。
    移動は車いすで、左下肢のみで駆動していた。駆動時には頭部と体幹が前後に動揺し、右大腿四頭筋の筋緊張亢進により、膝が伸展し、足部がフットサポートから浮き上がっていた。修正する度にフットサポートの辺縁に靴がひっかかり、脱げるのが観察された。左下肢の駆動は拙劣で、自走することに積極的とは言えなかった。
    筋緊張が亢進し、疲労しやすく、前方不安定性のため靴を拾う動作は、転倒リスクが高かった。端座位評価にて、体幹軸と大腿骨長軸を90度にし、胸郭下部を固定すると、左膝屈伸運動時に右下肢の筋緊張亢進が認められなかった。よって、この位置にベルトを装着した。ベルト使用の効果を検討するため、5m直線走行の左下肢駆動数、右膝の伸展回数、殿部の左右と前後への変位量を計測した。ベルトを非装着と装着の状態で、各3回測定の内、最速時の値を採択した。左下肢駆動の数は、膝屈曲位から膝伸展する遊脚期を0.5回、さらに膝屈曲して座面下へ入る接地期までを1回、と定義した。
    【結果】
    ベルト非装着では、左下肢駆動は10回、右膝伸展回数は2回であった。殿部は左方へ15mm、左側のみ前方へ5mm変位した。
    ベルト装着では、左下肢駆動は9.5回、右膝伸展回数は0回となった。殿部の左右変位はみられず、後方へ、右側15mm、左側5mm変位した。頭部と体幹の前後動揺は、なくなった。
    【考察】
    右膝の伸展が駆動の阻害要因と考えた。すなわち、これが生じないことで駆動能力の向上がみられた訳である。さらに、靴を拾う必要がないことは、安全な車いす生活を送ることにつながった。ベルト装着にて右膝が伸展しなくなったことから、福祉用具の使用が有意義であったと考えられる。
    【まとめ】
    福祉用具は自立を支援するものであり、身体機能を補い、動作能力が向上することを確認した。
  • 井田 真人, 富田 博之, 土田 裕士, 横山 晋平, 渡辺 彩乃
    セッションID: 228
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    臨床の中で継手の無いプラスチック短下肢装具(plastic ankle foot orthosis;以下PAFO)と継手付きPAFOの処方判断基準や時期に迷う事は少なくない.その一つの理由として足関節背屈モーメントへの配慮と可撓性の関係性にある.今回,継手の無いPAFOにおいてカフをゴムバンドへ変更する事により足関節背屈モーメントへ配慮が可能となった1症例を報告する.
    【方法】
    対象者は左片麻痺患者でブルンストロームステージⅣ,感覚障害無し.PAFO4mm厚ヒールカットタイプ.測定方法はビデオカメラによる10m歩行にて通常カフとゴムバンドカフによる2パターンを測定した.ヘルシンキ宣言に則り,説明し同意を頂き,ビデオ撮影は顔を写さず個人特定出来ないよう配慮を行った.
    【結果】
    10m歩行では,通常カフ51秒25歩,ゴムバンドカフ46秒23歩の結果となった.通常カフに比べ,ローディングレスポンス(以下,LR)からプレスイング(以下,PSw)までの歩行周期において足関節背屈モーメントが生まれ,膝関節や股関節のアライメントへ大きく反映した.また,揃え型から前型の歩容へ変化し,症例から通常カフに比べ抑えられ過ぎない感じがあり歩き易いとの感想があった.
    【考察】
    今回の結果から,先行発表にある松宮らの継手の無いPAFOにおいても上位カフをゴムバンドへ変更する事により,足関節背屈モーメントを生み出す事が有効という結果と同じ結果だった.治療経過の中で,麻痺や感覚障害など身体機能の回復過程に合わせ装具環境を変化する事が必要である.しかし,継手の無いPAFOにおいてトリミングラインの修正では可撓性への変化を生み出す事は物理的に限界がある.また,トリミングラインの修正ではプラスチックの弾性変形特性による撓みから戻ろうとする反応がLRからPSwまでの歩行周期において足関節背屈モーメントを抑制し過保護となる場合がある.その為,背屈モーメントを遊動に近い環境にする目的にてカフをゴムバンドへ変更する事が有効と考えた.ゴムバンドカフでは,LRからミッドスタンス(MS)における底屈制動と背屈遊動から,膝関節軽度屈曲へ移行し易く,股関節も伸展モーメントを発揮し易い環境となったと言える.
    【まとめ】
    早期に継手の無いPAFOを作製しても,症例の回復に応じてゴムバンドカフを用いる事により足関節背屈モーメント遊動の選択が可能となった.しかし,まだ課題は多い為,今後も継続し症例数を重ねて有効性の実証や活用性の視野拡大を行っていきたい.
  • 押山 徳, 生澤 瑞樹, 安江 大輔, 宇都木 康広, 熊倉 康博, 大屋 晴嗣
    セッションID: 229
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    本研究は、キネシオテーピング(以下、KT)を用い、脳卒中後遺症者の麻痺側上肢の活動性の改善を期待できるかを検討することを目的とした。
     【方法】
     発表にあたり、本症例に研究趣旨を十分に説明した上で、研究協力への同意を署名にて得た。症例は50歳男性、脳梗塞により左片麻痺を呈し、発症から3ヶ月が経過している。ADLはすべて自立しているが、麻痺側上肢の動かしにくさを訴えている。課題動作は麻痺側上肢での上方への最大リーチ動作、側方への最大リーチ動作とし、KT施行前後にそれぞれ3回ずつ実施した。測定毎の足部の位置を統一し、測定は、上方への最大リーチ時の示指先端を壁にマーキングし床面からの垂直距離(以下、上方最大到達距離)、側方への最大リーチ時の示指先端を壁にマーキングし支持基底面外側端からの水平距離(以下、側方最大到達距離)を計測した。 KTは、キネシオテックスプラスウェイブ(キネシオ アジア社製)を使用し、KT施行は、KT協会出版ワークブックに準じて麻痺側の広背筋、前鋸筋、胸腸肋筋に施行した。統計処理は対応のあるt検定を用いて比較した。
    【結果】
     上方最大到達距離では、KT施行前の平均値は210.9 cm、KT施行後の平均値は215.8 cmであり、KT施行前後での平均値の差は4.9 cmと施行後で増加傾向が認められた(p<0.1)。側方最大到達距離は、KT施行前の平均値は71.4cm、KT施行後の平均値は80.8 cmであり、KT施行前後での平均値の差は9.4 cmとKT施行後で有意な増加が認められた(p<0.01)。 
    【考察】
     本研究では、症例を評価し、課題動作を行う上で体幹と肩甲帯の姿勢制御に問題があると考え、リーチ動作の主動作筋ではなく、広背筋、前鋸筋、胸腸肋筋にKTを施行した。症例の評価を基にKTを実施したことで、KT施行前後で、上方最大到達距離、側方最大到達距離共に増加を示したと考える。脳卒中後遺症者の個別性を評価し、KTを施行することで筋の活動性が向上し、課題遂行時の動作能力を向上させることが出来ると考える。
    【まとめ】
    整形疾患患者の下肢へのKTの研究報告はされているが、脳卒中後遺症者にKTを施行した研究は極めて少ない。本研究により、脳卒中後遺症者の上肢活動に対してKTが有効である可能性が示唆された。私たちが患者に対して理学療法介入できるのは1日24時間のうちの一部に過ぎない。理学療法介入により改善された身体機能を、リハビリテーション以外の日常生活の中で活用するために、KTはその一手段として検討材料になると考える。今回は1症例での検討であるが、今後とも症例数を重ねていく必要がある。
  • 北岡 清吾, 野口 慧, 須永 勘一, 水島 仁, 船山 道隆, 馬場 尊
    セッションID: 230
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    抗NMDA受容体脳炎は2007年にPennsylvania大学のDalmauらにより、提唱された自己免疫性脳炎である。若い女性に多発し、卵巣奇形腫を随伴する事が多く、感染を契機として自己免疫異常が生じて発症する。近年、報告が増えてきているがリハビリテーション(以下リハ)に対する先行研究は乏しい。今回当院にて奇形腫摘出術、免疫療法を実施し、早期にリハ開始となり、自宅退院となった症例を経験したので報告する。
    【方法】
    30代女性、大学卒業後は旅行代理店でマネージャーとして勤務中であり、既往歴及び家族歴に特記すべき所見はない。対象者に発表の趣旨と目的を説明し、書面にて同意を得た。
    【結果】
    4月頃より業務内容を忘れるようになり、効率が低下し始めた。徐々に情動不安定になり、A総合病院神経内科受診、頭部CTで異常所見なく心因性健忘が疑われた。翌日にB精神病院受診、急性一過性精神病、統合失調症疑いで医療保護入院となった。一週間加療したが改善認めず、当院転院となった。5病日に腹部造影CTで両側卵巣嚢腫、奇形腫を発見し、抗NMDA受容体脳炎と暫定診断となり、翌日、奇形腫摘出術を施行した。術後呼吸状態悪く、人工呼吸器管理となった。11病日より血漿交換療法を実施した。19病日よりROM練習と呼吸理学療法からリハ開始した。意識障害や唾液分泌過多、中枢性低換気、口部ジスキネジアがみられ、従命困難であった。32病日より大量免疫グロブリン療法を実施した。36病日に医師、看護師、臨床工学技士と連携し、人工呼吸器装着下で座位開始し、呼吸状態改善認めたため42病日に離脱となった。41病日に転院初日に採取した髄液から抗体が陽性であり、確定診断に至った。47病日に中等度介助で5mの歩行を行った。48病日にスピーチカニューレへ変更となり、HDS-R:28点であった。56病日Timed UP and Go test(以下TUG):13.1秒、10m歩行:11.2秒であった。翌日、当院回復期リハ病棟入棟となり、MMT上肢2~3、下肢4、FIM:116点であった。64病日に独歩自立となった。77病日に病棟内ADL自立、最終MMT5、TUG:6.3秒、10m歩行:6.2秒、FIM:126点となり、79病日に神経学的後遺症を残さず自宅退院となった。仕事も復帰予定である。
    【考察】
    早期から呼吸理学療法を中心に介入し、他職種と連携する事で誤嚥性肺炎等の重篤な合併症を起こさず、79病日で自宅退院の帰結を得た。他の脳炎と比べ、改善する可能性が高い事から重度の障害であっても、合併症や廃用症候群を予防する為、早期からの介入が有効であったと考える。
    【まとめ】
    抗NMDA受容体脳炎患者に対し、早期からのリハ介入により、神経学的後遺症を残さずに自宅退院となった。
  • 住吉 司
    セッションID: 231
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
    慢性期頸髄損傷患者では受傷後、数年経過後も疼痛が遷延することが多く、その多くは様々な療法に抵抗しているといわれる。そこで今回は、本院に入院している慢性期頸髄損傷患者がどのような疼痛を抱えているかその実態を調査することとした。
    【目的】
    慢性期頸髄損傷患者の疼痛について調査し、彼らが直面しているこれら疼痛の特徴を理解しようとするものである。
    【対象】
    平成23年8月1日現在、本院入院中の頸髄損傷患者25名(女性1名を含む)平均年齢65.8±9.69歳、平均受傷後経過年数16.8±12.4ヶ年
    【説明と同意】
    調査は本院のプライバシーポリシーに基づき十分に説明し、同意を得た。
    【方法】
    面接調査にて択一回答、複数選択回答の計13問により疼痛の特徴を調査する。さらにその結果から頚髄損傷患者に特化すると考えられる疼痛と痙縮、麻痺領域における疼痛と痛みのタイプについてはそれぞれの関連を分割表ならびにフィッシャーの直接確立計算表により検討する。
    【結果】
    主な回答結果は以下の様であった。問0.疼痛があるか? ある25人中16人(以下、この16人からの回答結果)問1.生活に支障を来たすほどの疼痛があるか? ある16人中8人 問2. 生活に支障を来たすほどの痙縮があるか? ある16人中3人 問4.疼痛部位は? 損傷レベルより下位レベル(=麻痺領域)16人中5人、損傷部位レベルあるいは上位レベル(=残存領域)16人中11人 問5.疼痛のタイプは? 神経が障害され、自然発火でもしているような、痺れ痛のような痛み16人中14人、筋肉痛、関節痛的痛みあるいはそれ以外16人中2人であった。
    疼痛と痙縮の両者間、疼痛部位(麻痺領域か残存領域か)と痛みのタイプの両者間でいずれも統計的な関連は無かった。(P<0.05)
    また、問11.疼痛緩和に効果があった理学療法は? 温湿布 16人中7人、関節可動域練習 16人中3人、ストレッチ 16人中2人、アイシング 16人中1人、マッサージ 16人中1人であった。
    【考察】
    理学療法は頚髄損傷の麻痺領域に刺激を与えても無効であるとされる。今回、疼痛部位(麻痺領域か残存領域か)と疼痛のタイプの関連は無かった。しかし、問4.疼痛が残存レベルにあり問5.疼痛のタイプが筋肉痛、関節痛的痛みあるいは、それ以外と回答した2人に対する理学療法を考えたい。それらが廃用、過用等による筋、その他軟部組織性の痛みであるならば理学療法の適応を考えたい。また、疼痛との関連は無かったが生活に支障をきたすほどの痙縮があると回答した3人に関しても理学療法が必要と考える。さらに、問11.の回答で効果があった理学療法一つ一つに関して今後、検証を進めたいと考える。
  • 要 武志, 要 香澄, 大谷 伸代, 太田 光明
    セッションID: 232
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
    会議録・要旨集 フリー
    【背景】
    諸外国では,医療行為の一環として動物介在療法(AAT)が多く実施されているが,日本では動物介在介入活動(AAI)に医療従事者が参加する場面は少なく,医療従事者のAAIに対する認知度も低いのが現状である.なかでも馬を用いたAAIでは,馬の揺れが騎乗者に直接刺激を与えるため,医療従事者の介入が望ましく,特に重症心身障害児に対する乗馬には,安全面からみても理学療法士の介入が不可欠と考えられる.重症心身障害児の乗馬については,乗馬時の介助が困難であるという理由から,安全に乗馬できる環境が少なく, 乗馬の効果に関する先行研究においても,知的障害児や軽度脳性麻痺児,健常児に関する報告はあるものの, 重症心身障害児の乗馬の効果に関する報告はほとんどない. 筆者らは,以前,乗馬により重症心身障害児の筋緊張が改善したと報告したが,本研究では,重症心身障害児の自律神経活動に与える影響について明らかにするとともに,介助方法の違いによる効果の検討も行い,介助方法の工夫によりさらに効果的な活動を実施することを目的とした,
    【倫理的配慮】
    対象児の保護者には口頭と書面にて十分に本研究の内容を説明し,書面にて同意を得られた後,測定を行った.
    【方法】
    乗馬方法は,乗馬経験のある理学療法士とともにタンデムで騎乗する方法(1)とサイドから理学療法士が介助する方法(2)の2通りとした.常歩で左右回りを7分30秒ずつ計15分間実施した.対象は,乗馬経験のある年齢8歳の女児,重症心身障害児2例とした.2症例ともに,粗大運動能力システムレベルⅤであった.自律神経の評価として,ポラール(RS800CX,ポラール社)を使用し, R-R間隔を周波数解析した.高周波成分(HF)を副交感神経活動の指標とした.乗馬前後にバギー座位上,それぞれ安静5分間の測定を行った.筋緊張の評価として, Modified Ashworth Scale(MAS)を用い,乗馬前後に安静座位及び膝関節伸展位で,両側腓腹筋を測定した.
    【結果】
    介助方法(1)・(2)ともに乗馬前後でMASでは痙性の改善がみられた.また,副交感神経の活性化が示唆された。介助方法(2)時よりも(1)時の方がより副交感神経が賦活化し,筋緊張を改善させるという結果となった.
    【考察】
    重症心身障害児でも騎乗方法を工夫することで,交感神経活動を抑制,副交感神経活動を賦活化させることが示唆された.また,重症心身障害児を持つ家族は日常生活上困難なことが多く,制約も多い.できないと諦めていた体験を提供することで,家族が社会へ参加するきっかけとなるのではないかと考える.
  • 猪爪 陽子
    セッションID: 233
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
    二分脊椎(SB)児の外出では,排尿管理が問題となる.特に座位が不安定な高位損傷の場合,自己導尿は獲得困難な場合が多い.今回,麻痺の程度が重度なSB児がアイドルグループのコンサートに行きたいという夢に向かって自己導尿にチャレンジし,4年かけて車椅子上で獲得できた症例を経験した.本人,家族の同意を得て,若干の考察を加え報告する.
    【症例紹介】
    平成5年生れ.女性.開放性SB,水頭症,体重41kg,麻痺のレベルTh5,両上肢痙性不全麻痺,左は重度でROM制限有り.普通型車椅子使用.性格は大人しく,必要なことも母に代弁してもらう.小4の時施設で自己導尿練習するが,できずに終了.中2の時,夢・進路の幅を広げるため,再度練習したいと親子で希望した.
    【経過】
    中3~高1;導尿姿勢を検討し, 学校の先生がトイレに台,クッションを作り,学校看護師が手順(鏡を見ながら左手で小陰唇を開き右手でカテーテルを挿入しオムツ上で排泄)を指導した.理学療法は,座位が安定しない,左手が小陰唇を開けない,右手の操作が上手くいかない,という問題に対し左手のROM改善,痙性麻痺に対し筋再教育と積極的な筋力トレーニングを実施した.自宅ではROM改善目的のナイトスプリントの装着,ずり這い練習,腹筋練習を継続した.高2;卒業後を考え,車椅子上で導尿,オムツ替えができる様なリクライニング式電動車椅子を作成することにした.坐幅の確保が必要であったが,見合う分広げると移動上の不都合が生じたため,使用時のみ坐幅が広がるよう両側を跳ね上げ式にした事で解決した.導尿は,座位が安定しリーチ範囲が広がり,トイレで出来るようになった.高3;実用性を高めるため,車椅子上で鏡なしで看護師が不在でもできるよう学校で練習した. 理学療法は更なる筋力強化を継続した.スキルが高まり,精神的に成長したことで,車椅子上で職員や介助者に必要事項を伝え,鏡無しでの自己導尿,オムツ替えが可能となった.
    【考察】
    一度諦めた自己導尿を本人の夢をきっかけにチャレンジし,学校と病院が連携し成果をあげることができた.学校の丁寧な指導と,様々な工夫で練習する下地ができ,本人のやる気と目的意識があったことで,身体機能の変化も引き出すことが出来たと考える.重度の麻痺でも諦めずに練習を継続することの意義を改めて考えさせられた.本人の意欲を保つための工夫として,ゴム紐・ダンベル等種々の道具を利用し,分かりやすい内容にしたのも良かったと考える.車椅子上での導尿・オムツ替えができると,排泄毎の乗せ降しが無くなり,介護者負担が軽減され外出時の負担も軽くなると考える.コンサートへはまだ行けていないが,本人は何事にも積極的になったため,いつか実現できると考える.
  • 稲葉 豊
    セッションID: 234
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    脳卒中の予後予測に関して、Koyamaらによる対数モデルを用いた予後予測方法が報告されている.この方法は、脳卒中の機能回復が自然対数曲線に類似していることに着目し、複数回測定したFunctional Independence Measure(以下、FIM)点数の変化分を対数変換することで予測式を算出し、将来のFIM得点を予測するもので、FIMの得点変化のみを用いるため臨床的に簡便で優れた方法である.当院回復期リハビリテーション病棟(以下、回復期リハ病棟)では新人療法士や臨床経験の浅い療法士が全体の8割を占めており、多様な障害を有する脳卒中患者に対して具体的な予後を予測するのに難渋している現状がある.そこで今回、この対数モデルを用いた予後予測式(以下、予測式)の導入を図り、当院での有用性を検討したので報告する.
    【方法】
    平成23年8月から平成24年1月に回復期リハ病棟を退院した初回発作、大脳病変で片麻痺の既往が無い、発症前ADL全自立、当病棟入院時移動に車椅子が必要、在院日数が3ヶ月以上の脳卒中片麻痺患者12名(脳出血2名、脳梗塞10名、右半球損傷6名、左半球損傷6名、男性5名、女性5名、年齢70±12歳、発症から当病棟入院までの期間40±10日、当病棟入院期間132±27日)を対象とした.予測式を用いてリハ介入開始時と約1ヶ月後のFIM実測値から退院時のFIM予測値を算出し、退院時のFIM実測値と比較した.本研究は、ヘルシンキ宣言に沿って計画され、当院の平成23年度院内研究課題審査にて承認され実施された.
    【結果】
    初回FIM合計22-114点、中央値76点.退院時FIM合計41-120点、中央値113点.全体の平均値は、入院時FIM71.5±26.2点、退院時FIM98.9±28.8点、FIMgain27.4±14.1点で退院時FIM得点の方が有意に高かった.また、運動項目、認知項目に関しても退院時の方が有意に高かった.在宅復帰率91.7%.リハ介入開始時と約1ヶ月後のFIM得点から得られた予測値と退院時のFIM実測値は相関係数R=0.931、決定係数R2=0.86で高い相関を示した. 予測式から導き出された予測値と実測値の関係は、R2=0.86と高い一致率を示しており、当院の症例に関しても有用であった.
    【まとめ】
    予測式導入後、臨床経験に関係なく脳卒中の予後を簡便な方法で正確に予測することが可能となり、各専門職種が共通の指標をもとに具体的なリハ目標を立案しやすくなることが示唆された.今後は、予測式対象外の脳卒中片麻痺患者に対しても予後予測に基づいたリハ目標設定が行えるようFIM運動項目合計点と相関することが報告されているModified Rankin Scaleを用いた予後予測法の有用性を検討していきたい.
  • 永橋 愛, 寺村 誠治, 宮城 新吾
    セッションID: 235
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
    回復期リハビリテーション病棟(以下,回復期リハ病棟)では,生活の場における実践的な日常生活動作(以下,ADL)能力の獲得を主体としている.しかし,ADL能力向上のみが必ずしも自宅退院につながるものではなく,家族背景や家屋構造,社会的背景、病態などさまざまな因子が転帰先の決定に影響する.今回,当院回復期リハ病棟から自宅退院が可能であった重症脳血管患者の,どのような要因が自宅退院に影響しているのかを検討したので報告する.なお,本研究での重症脳血管患者は日常生活機能点10点以上のものと規定した.
    【対 象】
    2008年9月~2011年1月に回復期リハ病棟を退院した脳血管患者のうち入院時の日常生活機能評価点が10点以上の患者56名(男性35名 女性21名,平均年齢76.1±13.1).
    【方 法】
    調査項目は年齢,性別,在院日数,成人同居家族数,入院時・退院時FIM,入院時・退院時日常生活機能評価点とし,カルテより後向き調査をした.統計処理ソフトはPASW18を使用,転帰先を目的変数とし多重ロジスティック回帰分析を実施した(p<0.05).
    【倫理的配慮】
    評価内容はカルテ転記とし,個人が特定できる情報は削除,個人の特定は全く不可能としている.
    【結 果】
    転帰先内訳は自宅37名(66.0%),転所19名(33.9%)であった.退院時FIMの運動項目合計(オッズ比0.938)と成人同居家族数(オッズ比0.210)との有意な関連が認められた.
    【考 察】
    澤田や鈴木らは,自宅退院に与える影響としてFIM得点が高いことや,同居家族数が多いことが挙げられると報告している.当院回復期リハ病棟においても同様の傾向が示されたが,FIM得点においては認知項目の合計に有意な関連は認められなかった.理解力や精神機能の変化がADL動作を阻害するといわれているが,家族の協力度や,環境面への働きかけで解決できた問題も多いと考えられる.
    今後は,家族の協力度や家屋構造,FIM下位項目別の分析を合わせて行い,予後予測および転帰先決定への影響を明らかにしていきたい.
  • 須藤 沙織, 細井 匠
    セッションID: 236
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    安心してリハビリを行うことができる環境を作ることを目指し,2011年3月,「小金井リハビリ連絡会」が正式に発足し研修部が置かれた.研修部では会員が望む研修内容を明らかにするため本調査を行った.
    【方法】
    小金井リハビリ連絡会会員63名を対象に,郵送自記式質問紙検査法を繰り返すデルファイ法を用いて調査した.調査1では対象者が望む研修内容を5つ以内で自由に記載していただき回収した.また基本属性として年代,性別,所属機関,各職種免許取得からの年数を尋ねた.調査2では集まった研修内容に対する興味の程度について5段階での評価を依頼し回収した.調査3では,調査2で返信のあった方を対象に,調査2における各研修内容に対する本人評価得点と,参加者全員の評点の中央値と四分位範囲を提示した上で,再評価を依頼し回収した.調査3で得られた回答を間隔尺度とみなし平均値を基にランキングを作成した.また対象者に書面にて本研究の主旨と得られたデータは個人が特定されないよう配慮し発表する旨を伝え,同意を得た.
    【結果】
    調査3で得た30名の回答の中の,38本の研修内容の評点を基にランキングを作成した.30名の職種はPT17名,OT13名,免許取得からの年数は平均9.4±10.0年であった.全体のランキング1位は「腰痛の評価とアプローチ」,2位「脳卒中患者の歩行練習」,同率3位「注意障害へのアプローチ」,「慢性疼痛に対するアプローチ」であった.免許取得からの年数で分類すると3年以下の8名では1位が「画像診断の方法」,同率2位「注意障害へのアプローチ法」「脳卒中患者の歩行練習方法」,「腰痛の評価とアプローチ」等であり,年数10年以上の9名では1位が「臨床動作分析からの治療介入」,同率2位「訪問リハビリの現状と課題」「腰痛の評価とアプローチ」,同率3位「慢性疼痛に対するアプローチ」,「小金井市のサービス提供内容について」等が上位にランクされていた.
    【考察】
    全体1位となった「腰痛の評価とアプローチ」は職種別、免許取得からの年数別のランキングでも上位にランクしていた.腰痛患者はリハビリテーションの対象となる機会が多いため上位に入ったと考えられる.年数別では,新人は評価等の基礎知識,ベテランでは保険やサービスに関する事が上位となり相違を示した.職種,年数によって求める研修が異なることが明らかとなり,研修を提供する前に,どの層を対象として企画するか熟考する必要がある.
    【まとめ】
    研修は技術向上のために不可欠だが,ニーズ調査は十分になされていない.対象者の臨む研修内容を明らかにした点は,今後有意義な研修を行う為に貴重な資料となった.
  • 小貫 睦巳
    セッションID: 237
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    身体障害者施設に勤務する理学療法士(以下、PT)はその必置条件がないことから常勤として採用されにくく、知的障害者施設(以下、知障施設)においても同様に非常勤としての関わりとなる事が多い。しかし近年少子化にも関わらず障害児の数は減少しておらず、成人を迎え施設に入所する知的障害者に運動障害を伴うものが少なからずおり運動療法の提供の必要性は高い。更に非常勤としての関わりの中で、職員への運動や医学的知識の啓発の必要性が増してきているように思われる。本研究の目的は、PTが関わる知障施設において、職員の特性やどのような関わりが必要とされるのか、講義とアンケートによりその手がかりを得ることである。
    【対象・方法】
    都内の知障施設(入所定員40名)の職員向け研修講義を行った。内容は、1.脳性麻痺の神経学的問題と筋骨格系問題、2.加齢による生理学的変化、3.廃用症候群とその症状、について啓発を促す内容とした。その上で無記名のアンケート調査を行い職員の特性やPTが必要とされる関わりについて明らかにした。アンケートの項目は、a.入所者の運動不足について、b.加齢による身体の変化、c.脳性麻痺の神経学的問題と筋骨格系問題について、d.廃用症候群について、の認識を3段階の順序尺度で問う形式とした。また講義終了後に感想を提出してもらい内容を概括した。本研究は倫理的な配慮としてアンケートへの回答は無記名であり、協力は自由であることを事前に十分説明し協力を求め了解を得て行った。
    【結果】
    参加者の内訳は、保育士11名、社会福祉士3名、介護福祉士2名、看護師2名、事務職1名、の計19名 (全職員の76%)であった。アンケート結果は、aが「強く問題を認識」が18、「何となく気づいていた」が1、「何も感じない」が0であった。b、c、dは、「知っていた」「聞いたことがある」「全く知らなかった」のうち、bが10:8:1、cが3:5:11、dが6:6:7だった。感想は、入所者の運動不足について廃用症候群を学んで腑に落ちた、また加齢の医学的知識や脳性麻痺などの運動について理解が深まり支援の現場で活かせそうとの声が大多数であった。
    【考察】
    自立支援法は障害者総合福祉法として2013年の施行を目指しているが、その内容についてはまだ具体的に明らかになっておらず、介護予防に該当するサービスの提供や入所者の高齢化に伴う諸問題について意識を高める事は重要である。施設職員は、運動不足や加齢の問題等の一定の知識はあるが、医学に立脚した具体的な知識に乏しいことが明らかとなった。PTは関わりの中で、このような情報を提供し、一緒に生活を見て共に考え、個々の対象者にあったアドバイスを求められていると言える。
  • 三澤 由子, 石井 麻里恵, 竹内 伸行
    セッションID: 238
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    近年、リハビリテーションの必要性は年々高まっており、理学療法士の活躍の場は多方面へ拡大している。様々な場面に対応していかなければならない状況でリスク管理の重要性も高まっており、当院でも2006年からSHELモデルを用いてアクシデントレポートの分析を行い、再発防止とリスク管理の徹底に努めている。その際発生要因の中で多く挙げられるのが業務での"忙しさ"である。本研究の目的は、この"忙しさ"に焦点をあて、当院でのアクシデントレポートをもとに仕事量とアクシデント発生の関連性について検討を行うことである。
    【方法】
    2006年9月から2012年1月までの期間に当院で報告されたアクシデントレポートの内、当事者が理学療法士である29件を対象とし検討を行った。アクシデントが発生した日の当事者の患者担当人数および総単位数と理学療法士全体の平均担当人数および平均単位数を比較し、当事者の担当人数および単位数が全体の平均より上回っている場合を"仕事量が多い"すなわち"忙しさ"と判断した。
    【結果】
    29件中当事者の担当人数が全体平均を上回った事例は15件(51.7%)、総単位数が全体平均を上回った事例は16件(55.2%)であった。また、全体平均を下回った事例を経験年数別に見てみると、3年目以下が報告した事例が担当人数では14件中13件(92.9%)、単位数では13件中11件(84.6%)という結果となった。
    【考察】
    今回業務における"忙しさ"に焦点をあて、アクシデント発生との関連性について検討を行ったが、当日の担当人数・総単位数ともに全体平均を上回った事例は全体の半数程度であり、関連性を見出すことは出来なかった。しかし、全体平均を下回った事例において3年目以下の割合が高いことから、経験年数の浅い理学療法士は業務の"忙しさ"に関係なくアクシデントを発生させる可能性が高いということが考えられた。リスク管理において重要となってくるものの一つに予見能力があり、これは経験によって養われる部分も多い。また、芳野ら(2009)は理学療法士が独力で自立して理学療法業務を行うためには3年程度の臨床経験が必要であると述べている。このことから、経験年数の浅い理学療法士の場合、経験不足による予見能力の不足が予想され、このことがアクシデント発生件数を多くしている要因の一つと考えられる。全ての事例が予見可能というわけではないが、予見可能であった事例について今後もスタッフ間で要因分析を行っていくとともに、リスク管理に対する教育を早期から行っていくことで、予見能力の向上、アクシデント発生件数の削減に繋がると考えられる。
  • 吉田 典史, 栗田 健, 小野 元揮, 平山 優佳
    セッションID: 239
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    当院では、病院機能評価の受審に伴い医療安全マニュアルの整備を行い、リハビリテーション科内においてもその周知ならびに教育を行ってきた。しかし、実際に経験した事の無い事象に対し、マニュアル通りに対応出来るか不安を感じる職員が多かった。経験年数の若い医療従事者による事故が増加していると報告される。当科でも経験年数5年以内の療法士ならびに医療知識の無い職員は科内職員の半数に及ぶ。そこで今回、危険予測トレーニングを企画運営し、ロールプレイ形式での体験学習を実施する機会を得たのでその活動について報告する。
    【方法】
    科内職員(内訳:PT9名、OT3名、ST1名、助手2名、事務1名)を3グループに分け、科内で起こりうる事象で、かつ、院内及び科内対応マニュアルが整備されている3パターンを設定した。設定1:低血糖症状による急変。設定2:心肺停止による急変。設定3:嘔吐時の対応とした。各設定で15分間のロールプレイを行い、その後10分間のデブリーフィングを行った。終了後「同様の事象で適切に動けると思うか」をアンケートにて調査した。
    【結果】
    設定1、設定2では、マニュアル通りに対応出来なかった。設定3ではマニュアル通りに行なえていたが、必要以上に時間が掛かってしまい嘔吐物周辺の患者避難と安全への配慮が行えなかった。アンケートより、設定1はYES69%、NO6%、どちらとも言えない25%。設定2はYES6%、NO0%、どちらとも言えない94%。設定3はYES75%、NO0%、どちらとも言えない25%であった。
    【考察】
    予期せぬ事象が発生した場合、特に経験年数が少ない職員程冷静に判断出来なくなり、マニュアル通りには動けず手順の見落としがあるなどの課題が明確になった。アンケート結果より、設定1と設定3は一つの事象に囚われず、全体の中で各個人がどう動けばよいのかを認識した為、アンケートでの「YES」の回答率が高かったと思われる。設定2は「どちらとも言えない」の回答率が94%と高いのは、参加職員の中にBLS講習受講者が1名しかいなかった事も一因である。今後はマニュアル通りに動けるようロールプレイ形式でトレーニングし、身体で覚える必要があると共に、BLSについての学習も必要だと考える。
    【まとめ】
    科内で起こりうる、かつ対応マニュアルが存在する事象に対し、ロールプレイ形式での危険予測トレーニングを行いアンケート調査を実施した。マニュアル通りに対応出来ない職員がいた為、マニュアルの見直しや定期的にトレーニングを行う事で緊急時に備える必要があると感じた。
  • 芳野 純, 松野 隆史
    セッションID: 240
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    症例検討は理学療法の教育において効果的な手法である。しかし一般的な発表による症例検討は、参加者の積極性に偏りが出ることや、深く議論することが少ないように感じる。今回、理学療法士の職員教育において、発表を行わない少人数でのディスカッションを中心にした、バズ・セッションによる症例検討を実施し、その効果を検証したため報告する。
    【方法】
    バズ・セッションとは、問題を少人数グループ内でディスカッションさせ、解決策を共に考える教育手法であり、参加者が主体的に参加できる利点があると言われる。本研究の対象はS県の診療所に所属する理学療法士12名(平均経験3.3年)。方法は、紙面上で作成した症例を用いた。紙面には検査結果・社会背景・他部門情報のみ記載した。症例はクモ膜下出血後10年経過した症例で、動作能力のみならず、医学的知識、社会背景等、広範囲な情報を考慮する必要がある症例である。進行は、まず20分間紙面を読み、個人で症例の問題点と目標を「評価メモ」に記載した。その後、症例に関して2人1組で20分間のディスカッションを行った。組み合わせは経験年数の長い者と短い者がペアになるようにした。ディスカッション実施中新たに気づいた事を「気づきメモ」に記載した。その後2つの組を合わせ4人1組でディスカッションを行い、同様に気づきメモに追加記載した。効果の検証として、評価メモと気づきメモを集め、記載内容を短文化してデータ抽出した。データは、評価メモと気づきメモ毎に、2名の解析者でICFに沿って、健康状態・心身機能身体構造・活動・参加・背景因子(環境・個人因子)の5つに分類した。解析は、5つの分類において評価メモと気付きメモ間で、記載されたデータ数の平均の差を、wilcoxon検定にて比較した。さらに経験年数の長短により2群に分け、5つの分類における、記載数の割合を単純比較した。倫理的配慮として、口頭にて本研究の趣旨およびデータを報告以外に使用しないことを説明し同意を得た。
    【結果】
    ディスカッションは全てのグループで積極的に行なわれていた。データ数は、評価メモ132、気づきメモ149であった。平均記載数の差は、活動が評価メモで有意に多く、背景因子が気づきメモで有意に多かった。経験年数の短い群は、評価メモで心身機能身体構造と活動の割合が高かった。
    【考察】
    症例検討をバズ・セッションにて行うことで、全ての参加者が積極的に関わることが可能であった。他者と議論を行うことにより、環境・家族等の背景因子に関しても気づくことが出来たと考える。
    【まとめ】
    バズ・セッションによる症例検討は、参加者の積極性を促し、気づきを促す効果があると思われる。
  • 加藤 研太郎, 平林 弦大, 高島 恵, 白石 和也
    セッションID: 241
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    日本理学療法士協会は卒業時の到達目標として、わずかな助言指導のもと基本的な理学療法が実施できるとしている。基本的な疾患に対して、対象者のイメージが想起され、評価項目の列挙・治療内容・帰結に至るまでの概要がイメージできることが必要となり、それをスキーマという。理学療法士はスキーマを適宜修正しながら適切な治療を提供している。精度の高いスキーマを有することが理学療法士には必要となる。そのため臨床実習は多くの症例を経験し、スキーマを形成することが目的となる。本校では学内の統合学習に先立ち、先行体験として2週間クリニカルクラークシップ(以下、クリクラ)を導入している。指導者に助手として終日帯同し、理学療法に関する業務全般で、可能なものを部分的に実施しながら対象者のイメージを具体化させている。そこで今回、対象者のイメージが具体的になることで、評価項目の列挙に変化が生じるかアンケート調査を実施したのでここに報告する。
    【方法】
    本校2年生(40名)を対象とし、クリクラ前後で急性期と慢性期の脳卒中のそれぞれの時期に対して、優先度が高いと考える検査測定項目を3つずつ列挙させた。各時期の前後でそれぞれ項目の総数を抽出した。項目は理学療法評価学(金原出版)の目次を参考に分類した。統計処理は、各時期の前後でそれぞれ項目の総数をχ2適合度検定にて、有意水準5%未満としてSPSS.ver16にて検討した。なお本研究は本校承認のもと実施し、書面にて目的・方法・情報の取り扱いなどを説明し文書にて同意を得た。
    【結果】
    アンケートの回収率は100%。急性期の事前は片麻痺運動機能検査(以下、運動機能)が多く、事後はバイタルサインが増え、筋力検査が減少した。慢性期は前後とも運動機能だけが多いままで、他の項目に大きな変化はなかった。
    【考察】
    急性期の変化は、バイタルサインの項目が増え、筋力検査が減少した。事前では運動麻痺のイメージが強かったが、臨床で頻度が高いバイタルサインの体験をしたことで、バイタルサインに関するスキーマが形成されたと推察する。そのことで急性期の患者へと転移が生じた。また筋力検査は、バイタル変動が多い急性期を考慮して減少したものと推測する。慢性期の変化は、運動機能だけが多いままで、他の項目の変化も少なかった。慢性期はADLを中心に考えるべきであるが、障害像が複雑であるため体験しても既習のイメージが変わらず、スキーマの形成に至らなかったと考える。今後はスキーマの形成を促すため、クリクラの形態を検討する必要がある。
    【まとめ】
    バイタルサインのスキーマは急性期で形成されたが、慢性期のスキーマは形成されなかった。
  • 白石 和也, 平林 弦大, 高島 恵, 加藤 研太郎
    セッションID: 242
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
     本校では理学療法学科2年時に2週間の期間でクリニカルクラークシップ(以下CCS)を実施しており、指導者が実際に日々行っている業務全般に部分的に参加すること(以下正統的周辺参加)で、理学療法士の使命や業務を理解できることを実習の目的としている。加えて学内学習や評価実習に先立ち、検査測定等の評価から治療を実施する理学療法プロセスをCCSにて見学、体験することが必要であると考えるが、その見学、体験の内容は検査測定と比較して指導者が日々提供している治療に偏ってしまう傾向にあると考えられ、このことで学生はCCSにて理学療法プロセスを的確に捉え理解することが困難になるのではないかと考えられる。
     そこで今回、より効果的な実習を行うため、CCSにおける見学、体験回数を検査測定と治療別にそれぞれ比較し検討したので報告する。
    【方法】
     平成23年度にCCSを実施した本校理学療法学科2年生(40名)を対象とし、CCSにおける検査測定と治療それぞれの見学、体験回数を学生に記録させ、見学回数を検査測定と治療別、体験回数を検査測定と治療別にそれぞれ2群比較を実施した。統計処理はWilcoxonの符号付順位和検定を用い有意水準はp<0.01未満とした。尚、学内承認のもと対象者には本研究について説明し同意を得た。
    【結果】
     見学回数に関しては検査測定の方が有意に低い値を示した(検査測定:中央値25.5回 治療:中央値231.0回)。体験回数に関しても検査測定の方が有意に低い値を示した(検査測定:中央値34.5回 治療:中央値58.5回)。
    【考察】
     本校CCSにおいて、治療と比較して検査測定の見学、体験が少ないことが確認された。これは、指導者が日々提供する理学療法において治療の実施が多いことに加え、学生自身が理学療法プロセスの視点をもってCCSに臨めていないことが要因として考えられる。
     今回の結果から、CCSの目的の再考として理学療法プロセスの視点をもって正統的周辺参加を実施することを目的に加えること、また学生には学内教育にて理学療法における検査測定等の評価の位置づけ、重要性を教育したうえで、CCSにおいても指導者の実施する理学療法を、理学療法プロセスの視点をもって見学、体験できるよう事前セミナー内容を検討すること、また指導者には見学、体験が治療に偏らないように考慮して頂くよう伝えることが必要であると考えられた。
    【まとめ】
     本研究にて、本校CCSにおいて治療と比較し検査測定の見学、体験が少ないことが確認された。この結果からCCSの目的の再考や学内教育、事前セミナー内容の検討等が必要であると考えられた。
  • 藤井 菜穂子, 谷 浩明
    セッションID: 243
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
     理学療法教育において、臨床実習はきわめて重要な位置を占めるものであり、本学においても、1年次から段階的に臨床実習を組込んでいる。先ず1年次で臨床早期暴露として重要な早期臨床体験(Early Clinical Exposure; ECE)実習、その後2年次後期において検査実習を実施している。検査実習は、学内で行った理学療法検査・測定技術を実際の臨床現場で患者様に対して実施を試みるものであり、3年次、4年次臨床実習につなげるための重要な実習である。今回、検査実習に関してその内容を把握するとともに、学生の内面的状況を理解するためにポートフォリオを用いて学生のビジョンや目標、ポートフォリオの有用性等についてアンケート調査を行ったので報告する。
    【方法】
     対象は、本学部理学療法学科に在籍する2年生48名(男性29名、女性19名)、平均年齢20.5歳で、ポートフォリオおよび実習後アンケート調査の回収率は98.0%であった。ポートフォリオにて、実習前にはビジョンと目標、目標書き出し、実習後にはふりかえりシートによる自己評価を記載してもらった。また実習後アンケートでは、課題や担当疾患名などの実習内容、自己評価、ポートフォリオの利用等に関するものとした。設問は全52問で、選択と記述項目を併用し、順位付けには5段階評価を用いた。本件について学生に十分な説明と同意を得た上で調査を実施した。
    【結果】
    ポートフォリオにおいて、記載された文章内の用語の使用に注目すると、実習前のビジョンでは、58%の学生が「信頼」、「共感」を、ビジョンを叶えるための具体的な目標では、30%の学生が「リスク管理」、「安全」、「配慮」の用語を使用していた。目標書き出しのうち達成できた主なものとして、「コミュニケーション」、「時間管理」を、達成できなかったものとして、「コミュニケーション」、「配慮」、「積極性」などをあげていた。ポートフォリオの利用について、60%の学生が概ね有用と回答した。
    【考察】
    2年次において学生が描く将来の理学療法士像と彼らがもつ課題の概観が把握でき、リスク管理を含めた患者さまへ配慮を前提として、信頼関係を築くことを重視する傾向が認められた。これらの傾向はその後になされる3、4年次の養成教育をより有意義にするための一助となると推察される。ポートフォリオの有効な活用も視野に入れ、今後さらに検討したい。
  • 山田 隆介, 吉野 みゆき, 平林 弦大, 加藤 研太郎
    セッションID: 244
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    PRIMEとは初学者の臨床能力を評価する新しい手法である。初学者の成長レベルに沿う体系だった臨床評価法であり、Professionalism(以下P)、Reporter(以下R)、Interpreter(以下I)、Manager(以下M)、Educator(以下E)の頭文字からなるPRIMEは5つの階級を意味し、初学者の能力段階(階級)に応じた指導法であると言われている。最下位階級としてPから開始するPRIMEでは、Pでは「専門職として資質」、Rでは「報告者としての能力」(情報収集/正異判定能力)、Iでは「解釈者としての能力」(問題立案能力)、Mでは「管理者としての能力」(治療計画管理能力)、最上位階級であるEでは「教育者としての能力」(主体的学習能力)が求められており、教育者の判定により階級が上がり教育をすすめる仕組みとなっている。当科では、23年度臨床実習において試験導入し、PRIMEについてどのような意見を持ったか、教育者及び学習者双方にアンケートを実施したのでここに報告する。尚、本報告は院内倫理委員会にて承認を得ている。
    【方法】
    23年度臨床実習における教育者5名及び学習者6名に対し、実習終了後にアンケートを実施。PRIMEについて5段階評価をし、自由記載を求めた。
    【結果】
    教育者側は「かなり良かった」が2名、「まぁまぁ良かった」が2名、あまり役立たなかった」が1名であり、紙面の都合上代表的な意見を整理提示すると「達成度や課題を明確に示せた」(同様意見複数)、「理解不足による活用不足」(同様意見1名)であった。学習者側からは「かなり良かった」が3名、「まぁまぁ良かった」が2名、「どちらとも言えない」が2名であり、意見を整理提示すると「その時点のおける自身の課題が明確であり、わかりやすかった」(同様意見複数)、「学生を枠に押し込めている印象を受けた」(類似意見1件)であった。
    【考察】
    新しく導入したPRIMEは、特に未熟教育者においては指導焦点が明確になる為、養成校の提示する実習要項に沿い指導計画を立案し実施するにあたり、補完的に活用し得る可能性があると思われた。但し、教育者側の十分な理解の下で進めていく事が必須であり、また学習者側からは階級に基づく教育への反対意見もあり、今後PRMEについては更に工夫を重ねていく必要も示唆された。
    【まとめ】
    PRIMEを臨床実習に試験導入し、初学者の能力評価法として概ね良い結果を得た。クリニカルクラークシップとの併用や、mini-CEX等の他の評価票との比較、未熟教育者及び初学者への支援体制の洗練化により、PRIMEは医療現場における初学者指導に貢献する事と確信している。PRIMEを継続使用し、精度を高めながら学会等で報告していき、未来の臨床教育に寄与してきたい。
  • 中村 睦美
    セッションID: 245
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    小学校におけるキャリア教育は,初等教育から高等教育に至る系統的・組織的なキャリア教育の基盤として極めて重要な意味を持つ。平成22年度と平成23年度の2回,このキャリア教育の一環として小学6年生を対象とした職業体験学習に理学療法士として参加したので報告する。
    【方法】
    キャリア教育の一環として,職業体験学習の講師募集要項が小学校全学年児童を通して保護者に配布され,児童の保護者や地域住人を中心に医師,大学教員,理学療法士,新聞記者,カラーコーディネーター,編集者,絵本作家,フードコーディネーター,獣医,植木職人,映画監督,消防士の12職種13人が講師として集められた。聴講者は小学6年生で,自分が話を聞いてみたい職業を3職種選び聴講することができる。1つの職種につき講義時間は約30分であり,講義の後仕事体験を行った。理学療法士の仕事体験には,車いす駆動,下肢装具装着歩行,松葉杖歩行を行った。なお,今回の発表に際しては当小学校から承認を得ている。
    【結果】
    興味をもって自ら「理学療法士」の聴講を希望した児童数は,22年度は77名中19名,23年度は86名中6名で他の職種に比べて少ない印象であった。後日,実際に感想文として提出されたものの中には「話を聞くまでは何をする人か分からなかった。」「車いすや松葉杖体験が楽しかった。」「話を聞いて理学療法士に興味をもち,将来なりたいなと思いました。」と記載されていた。
    【考察】
    今回,小学6年生を対象としたキャリア教育に参加して「理学療法士」の認知度の低さを感じた。「理学療法士」という職種を知らない児童が多く,今回はじめて認識したという児童が多い印象であった。2009年に行われた全国の小学生~高校生を対象とした将来なりたい職業の調査では,「理学療法士・臨床検査技師・歯科衛生士」は高校生では男子で9位,女子で5位であったが小中学生では圏外であった。2010年度の理学療法週間事業での取り組み報告によると「理学療法士」の認知度は3割と低いが,低年齢になるほど低くなるとの報告もある。低年齢時から理学療法士への理解を深めることで,理学療法士としての適性を備えた人材の育成や理学療法士の質の向上につながると考えられる。今回このような経験を得て,小学生を対象としたキャリア教育への理学療法士の参加は児童の勤労観・職業観の育成を促すとともに,理学療法士の社会的認識の向上に非常に有用な場になり得ることを実感した。
    【まとめ】
    理学療法士の小学校キャリア教育への参加は,児童の理学療法士への理解を深めるとともに職業選択範囲の拡大をもたらすと考えられる。
  • 石井 彩也香, 竹井 仁, 窪田 幸生, 大沼 晋太郎, 見供 翔, 吉野 龍史, 釜野 洋二郎
    セッションID: 246
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    1 Isometric Maximum(以下1IM)は、1秒間保持可能な最大静止性収縮負荷量である。先行研究によると、1IMを用いた至適収縮保持時間は、1IMの85%で10~15秒、70%で40~50秒、50%で60秒以上の保持が可能とされている。しかし、各関節における至適収縮保持時間や、筋組成割合が異なる場合の違いに関する報告はない。そこで本研究では、膝関節伸展と屈曲運動にて、% of 1IMの至適収縮保持時間を検討したので報告する。
    【方法】
    対象は、健常男性10名の利き足10脚とした。対象者の平均年齢は27.7(22-32)歳、身長と体重の平均値(標準偏差)は173.3(3.9)cm、63.1(5.5)kgであった。対象者には、ヘルシンキ宣言に基づき実験の目的および方法を説明し、同意を得た。運動課題は、端座位、股・膝関節屈曲90゜位での静膝関節伸展および屈曲の静止性収縮運動とし、Hand Held Dynamometer(以下HHD) のアタッチメントを下腿遠位にベルト固定した。まず、1IMを測定した後、1IMの85%、70%、55%、40%を測定した。被験者にはHHDの画面から得られる視覚的フィードバックを用いて各%の値を保持させ、代償動作が出現した時点で測定を終了した。統計処理にはPASW Statistics18を用い、各運動における二次曲線を算出した。また、各運動と収縮保持時間の2元配置分散分析とその後の事後検定を実施した(有意水準5%)。
    【結果】
    1IMの100%、85%、70%、55%、40%における膝伸展の収縮保持時間の平均値は、それぞれ1、16、23、39、90[秒]、膝屈曲はそれぞれ1、26、49、70、160[秒]であった。縦軸に1IMの各%負荷量、横軸に収縮保持時間をとった二次曲線は、膝伸展でY=0.005x2-1.098x+94.56(p<0.01、R2=0.78)、膝屈曲でY=0.001x2-0.559x+93.13(p<0.01、R2=0.74)であった。2元配置分散分析では、各運動ともに有意な主効果と交互作用があった。多重比較検定(Dunnett法)の結果、膝伸展では100%に対し70%、55%、40%との間に有意差を認め、膝屈曲では100%に対し55%、40%との間に有意差を認めた。t検定の結果、70%、55%、40%において各運動間で有意差を認めた。
    【考察】
    膝伸展、屈曲運動ともに先行研究とは異なる値を示した。また、大腿直筋にtype2線維、ハムストリングスにtype1線維が多いことで膝伸展に比較して膝屈曲で長時間の静止性収縮の保持が可能になると考える。
    【まとめ】
    今回の被験者と同年代の男性に関しては、今回の二次曲線を用いることで、最大下の負荷量での静止性収縮時間から最大の100% of 1IMの推測も可能になり、臨床的意義が大きいと考える。
  • 百瀬 公人, 牛山 直子, 長崎 明日香
    セッションID: 247
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    ハンドヘルドダイナモメータをベルトで固定し筋力測定を行う方法は簡便あり有用だと思われる。しかし、筋力が強い被検者では体幹の固定の有無が測定筋力を減少させることが明らかになっている。しかし身体を簡便に固定することは困難であり、筋力が大きい被検者に対しては、ハンドヘルドダイナモメータによる最大筋力の測定は向いていないと思われる。一方、比較的筋力が弱い老人や低体力の患者、障害者の測定には十分利用できると思われる。したがってハンドヘルドダイナモメータ簡便に使用するためには身体固定をせずに最大筋力が計測できる範囲を明らかにすることが臨床上必要だと思われる。そこでこの研究の目的は体幹を固定できる筋力測定器を用いて体幹を固定した時としない時の最大筋力を計測し、そこから体幹を固定せずに計測できる筋力の最大値を推定することである。
    【方法】
    対象者は20~40歳の健常成人27名。等尺性筋力測定器GT-330(OG技研)を使用し、効き脚の最大等尺性膝伸展筋力を測定した。測定条件は体幹を全く固定せず上肢を腕組みした姿勢と、体幹及び大腿を固定した2条件とした。統計は対応のあるt検定 (p<0.05) およびブランドアルトマンプロットを用いた。被験者には研究の目的及び測定内容を説明し、参加の同意を得た。また、本研究は富士見高原医療福祉センター倫理審査委員会の承認を得た。
    【結果】
    対象者の平均年齢は27.6±4.8歳、平均身長は164.4±8.1cm、平均体重は60.4±10.1kgであった。体幹を固定しない時の最大膝伸展トルク体重比は1.86±0.41Nm/kg、体幹固定した時は3.34±0.85Nm/kgで、体幹を固定しない時のトルク体重比が有意に低かった(p<0.01)。ブランドアルトマンプロットより体幹固定ありの筋力が常に大きく計測されるという誤差を認めた。これより求められる回帰直線はy=0.8652x-0.765であり、x軸との交点はトルク体重比が0.886Nm/kgであった。
    【考察】
    体幹の固定がないと筋力は有意に低下することが明らかとなった。また、体幹を固定せず計測した時の膝伸展筋力のトルク体重比が0.886Nm/kg以上を示した時は最大筋力が計測できないことが示唆される。今回の計測の被検者は若年健常者であり、またハンドヘルドダイナモメータを用いての計測ではないため、今回の推定トルク体重比が高齢者や患者の計測限界として用いることはできない。今後は、ハンドヘルドダイナモメータを用い筋力の弱い被検者の研究がさらに必要である。
    【まとめ】
    体幹固定をせずに膝伸展筋力を計測した時にはトルク体重比が0.886Nm/kg以上を示した時は正確な最大筋力が計測できていないことが考えられる。
  • 半間 直道
    セッションID: 248
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
    第29回関東甲信越ブロック大会でランドマークの違いによる大腿周径の測定法を報告した。大腿周径の基準とされている膝蓋骨には、脛骨大腿関節の運動に伴い可動性がある。そのため左右で伸展角度が異なる場合では、膝蓋骨の位置に差が生じる可能性が高い。今回、膝関節の屈曲角度を段階的に設定し、大腿周径値の差の境界を検討した。
    【方法】
    対象は、本研究の趣旨を説明し承諾を得た膝関節疾患の既往のない男女20名(年齢28.2±5.5歳、身長169.8±7.9cm,体重62.7±8.4kg)。方法は、背臥位にて右膝関節を0・10・20・30・40・50・60度屈曲位に設定、他動的に保持した。大腿周径は膝蓋骨上縁より5cmを3回測定し、平均値を代表値とした。また、非可動性部位を大腿骨外側上顆に設定、同様に大腿周径を測定した。統計処理は、繰り返しのない二元配置分散分析法を用いて危険率5%未満とし、差が認められた場合にTukey-Kramer法を用いた。
    【結果】
    膝関節屈曲角度0・10・20・30・40・50・60度の順にて記載。膝蓋骨を基準とした大腿周径の値は38.0±2.7cm、38.0±2.7cm、37.9±2.7cm、37.8±2.7cm、37.5±2.7cm、37.3±2.7cm、37.1±2.7cmとなり、30-40、40‐50、50‐60度間で有意な差が生じた。非可動性部位では大腿周径に有意な差は認められなかった。
    【考察】
    一般的に膝関節屈曲20から30度以降は関節包内運動から骨運動へと主の運動が変化すると言われている。それに伴い膝蓋骨は顆間溝に収まり脛骨粗面に付着した大腿四頭筋腱により下方へと位置する。今回の差の境界においても30度以降に差が生じた。また、非可動性部位を基準とした大腿周径値に有意な差が生じなかったことから膝蓋骨の可動性が大腿周径値を変化させたと考える。膝蓋骨は角度差により測定部位に差が生じるため、ランドマークには非可動性部位が妥当であると考えた。
    【まとめ】
    膝関節の屈曲角度を段階的に設定し、大腿周径値の差の境界を検討した。基準が膝蓋骨では30度以降に差が生じ、非可動性部位では値に差が生じなかった。膝蓋骨の可動性が大腿周径値を変化させたと考えた。非可動性部位をランドマークとした方が評価の妥当性・信頼性が高いと考えた。
  • 中村 うらら, 井上 晃希, 浅田 浩宜, 北見 健輔, 小野塚 慎也, 鈴木 由香里, 山崎 弘嗣, 関屋 ヌ
    セッションID: 249
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    本研究の目的は,健常成人の起立動作(以下「STS」)および着座動作(以下「BTS」)における運動パターンを関節運動の滑らかさ最適軌道として特徴づけることである.更にその最適軌道を参照にして運動器疾患の患者のSTSの回復過程についてケーススタディーを通して分析することである.
    【方法】
    研究内容の説明を充分に受けて同意した健常成人男性5名(平均年齢20.2±0.74)と,右人工骨頭置換術後の女性1名(80歳代,以下「THR患者」)である.健常成人の運動課題は,椅子座位から行うSTSと,座位姿勢に戻るBTSを異なる速度(任意,速く・普通・遅く)で5回ずつ行うことである.運動中の肩・大転子・膝関節・外果に貼付した赤外線反射マーカーの位置を3次元動作解析装置(ViconMX,100Hz)により記録し,各関節の角度と重心位置を求め,重心運動から運動時間を求めた.THR患者にも同様の動作課題を行わせ,動作中の矢状面内における肩・大転子・膝・外果の位置をデジタルカメラ(CASIO EXILIM EX-F1,30Hz)を用いて記録し,画像解析ソフト(ImageJ)を用いて各関節の角度変化を求めた.STSとBTSそれぞれについて,運動開始と終了時の股・膝・足関節角度を境界条件とする関節運動滑らかさ最適軌道(角度スナップ最小,以下「MAS軌道」)を表計算ソフト(Microsoft Excel)で計算し,実測軌道と比較した.本研究は昭和大学倫理審査委員会の承認を得た(承認番号132,162).
    【結果】
    健常成人のSTSとBTSでは,速度条件によらず動作中のある一定の時期に股関節最大屈曲を示した.両動作とも,この股関節最大屈曲が生じるタイミングは運動時間から高い確率で予測できた.STSでは運動時間の37.1%(R2=0.89),BTSは51.8%(R2=0.90)の時点であった.また,股・膝関節の角度変化は特定の組み合わせを示し,これらの特徴はMAS軌道から予測できた.一方,THR患者では,1か月間の回復過程に伴って,股・膝関節の協調性が上記MAS軌道に近づくことが定性的に明らかになった.
    【考察】
    健常成人男性のSTSとBTSでは,股関節の運動が切り替わるタイミングが運動時間に拘束され,パターン化されていた.また,股・膝関節の協調性は特徴的で,特定の境界条件におけるMAS軌道の性質と一致し,関節運動の滑らかさが最大となる運動パターンと考えられた.すなわち運動器疾患の動作分析および回復過程を把握する基準となる可能性が示された.
    【まとめ】
    STSとBTSには関節運動の滑らかさが最大になるような運動パターンがある.この最適な運動パターンに近づくように運動器疾患患者の動作が回復している可能性がある.
  • 藤本 鎮也, 佐藤 慎一郎, 浅岡 祐之, 西原 賢, 星 文彦
    セッションID: 250
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    本研究の目的は下部体幹に装着した非拘束慣性センサのデータに基づいて坐位からの歩行動作の相分けを行い,理学療法士の動画観察による相分けと比較し,その妥当性を検証することである。
    【方法】
    対象は健常若年男性5名(年齢19.5±0.5歳)であった。また,評価者として臨床経験年数の異なる理学療法士3名の協力を得た。課題として、肘掛のない椅子の背もたれに軽くもたれた坐位からの歩行動作(Sit-to-walk)を最大速度にて行うよう指示した。慣性センサは,3軸加速度計と3軸角速度計、そして通信用のBluetoothを備えた小型無線ハイブリッドセンサ(WAA-010,ワイヤレステクノロジー社) を使用し,第3腰椎高位の下部体幹に装着し,サンプリング周波数50Hzにて慣性データをパソコン(以下PC)に取り込んだ。同時にPCにUSB接続したWebカメラ(UCAM-DLY300TA,エレコム社)にて側方より動作を録画した。慣性センサデータと動画の同期と取り込みにはSyncRecord Ver.1.0(ATR-Promotions社)を使用した。取り込んだ下部体幹の慣性センサデータの前後方向加速度とPitch方向の角速度変化から運動開始,離殿そして歩き始めの瞬間を特定し出現までの所要時間を算出した。理学療法士の観察による分析は,録画データをPC上で再生し,速度を自由に変えながら3人の理学療法士が運動開始,離殿そして歩き始めを判断し,画面上のタイムコードを読み取り所要時間を計測した。データ解析は,まず理学療法士による分析結果の再テスト法による検者内信頼性および検者間信頼性を検証し,続いて下部体幹センサに基づく結果と理学療法士の分析結果の相関分析を行った。データ処理と解析にはExcel 2010及びSPSS for Win ver.18を使用した。本研究は協力者に研究内容の説明を行い,書面にて同意を得た後、転倒防止や個人情報保護等に配慮しながら行った。
    【結果】
    理学療法士の分析結果の信頼性は検者内検者間共に高い信頼性を示した(ICC:ρ=0.99-1.00,p<0.01)。下部体幹装着慣性センサにより特定された全ての結果と理学療法士の分析に基づく結果の間で高い相関が認められた(運動開始r=0.99,離殿r=0.99,歩行開始r=0.99,いずれもp<0.01)。
    【考察およびまとめ】
    理学療法士の分析結果は,動画の再生速度を変化させながらタイムコードを利用した時間計測を行ったことで信頼性が高まったと思われる。理学療法士の分析結果と下部体幹装着慣性センサの結果が高い相関を示したことは,下部体幹装着慣性センサによる相分けの臨床適用の可能性を示唆するものであると考える。
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