関東甲信越ブロック理学療法士学会
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第31回関東甲信越ブロック理学療法士学会
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  • 丸毛 達也, 實 結樹, 西尾 匡紀, 中村 有希, 武田 尊徳, 山口 賢一郎
    セッションID: 251
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    片脚立位時の体幹の反応として,立脚側と反対側に体幹を側屈することで上半身重心の移動を減らし,重心動揺を抑制していると報告されている.これまでに片脚立位時の体幹筋活動と重心動揺の関係などは報告されているが,体幹アライメントと重心動揺の関係については明らかでない.そこで本研究の目的は,片脚立位における体幹アライメントと重心動揺の関係性を明らかにし,片脚立位時の体幹アライメントが重心動揺に与える影響を分析する事である.
    【方法】
    対象は,下肢に病的機能障害の認められない健常成人とした.重心動揺測定において使用機器は重心動揺計(フィンガルリンク株式会社Win-Pod足圧分布測定装置)を使用した.計測パラメーターは総軌跡,COP面積,左右動揺重心変位XOとした.対象者は両側の上後腸骨棘と肩峰にマーカーを貼り開眼で重心動揺計の上で右左片脚立位を30秒間行い,安定した10秒間のデータを採用した.また,デジタルカメラで姿勢を後方から撮影した.得られた画像はパソコンに取り込み,動画解析ソフトimage Jを用いて左右の上後腸骨棘と肩峰を結んだ線と床面との平行線がなす角(骨盤傾斜角・肩峰傾斜角)を求めた.肩峰傾斜角と骨盤傾斜角の中央値から挙上側への側屈群(以下,側屈群)と非側屈群に分けた.統計処理には,統計ソフトR2.8.1を用いて,welchのt検定を行った.いずれも有意水準はp<0.05とした.対象者には研究の意図を説明し同意を得た.
    【結果】
    対象者の基本属性は、17名34足(男性14名,年齢24.1±1.7歳,身長169.1±8.1cm,体重60.5±9.0kg,足長24.8±1.9cm)であった.それぞれ中央値から肩峰傾斜角2.5°以下,骨盤傾斜角3.2°以上の両条件を満たすものを側屈群とした(側屈群:8例,非側屈群:26例).総軌跡長は側屈群218.9±51.8,非側屈群273.6±69.2,COP面積は136.6±32.4,168.3±46.8,XOは-1.2±0.19,-0.7±0.56,であり、全ての項目で有意差が認められた.
    【考察】
    本研究では,片脚立位時の拳上側への体幹側屈が大きいほど,重心動揺が有意に小さかった.斉藤らはバランスクッション上坐位能力が高いほど,片脚立位時の重心動揺が小さいことを示しており,体幹機能は片脚立位における重心動揺の重要な因子と考えられる.また,鈴木らは片脚立位時の挙上側体幹筋活動と重心動揺との間に有意な相関がみられたと報告している.本研究の結果では,挙上側体幹筋の活動により肩峰・骨盤を水平位保持するため体幹を挙上側に側屈することで重心動揺が小さくなったと考えられる.
    【まとめ】
    片脚立位時の挙上側への体幹アライメントと重心動揺が関連していることが示唆された.
  • 山崎 光太, 木村 朗
    セッションID: 252
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    運動学習分野において課題動作獲得の進度の予測について学習課題の取り組み始めにおける加速制御情報(初期情報)に基づく推定を行った報告は少ない.初期情報を基にした課題動作獲得の進度の予測が可能になればゴール設定等ハビリテーション期間の目安を推論する新たな技術的方法となる可能性がある.本研究は運動制御に関わる生体情報(3軸加速度)を調べることで課題動作の成否の判別性を検討することを目的とした予備的研究として運動時の3軸加速度の変化を検討した.
    【方法】
    対象は成人男性3名(平均年齢:34±13歳)を対象とした.対象選定基準として本研究で設定した運動課題経験がなく,研究内容を説明し同意を得られたものを対象とした.運動課題はフラフープを腰部で回すこととし,フラフープを40秒間回させ,その際の腹部(左右ASIA結んだ中間点上にMEMS SemiconductorによるAcceleration Sensorを実装した3軸加速度センサーDT178A,CEM社製,Trigger Range18g,精度±0.5g,誤差性能±1%)を貼付しサンプリング間隔50m秒で動作中の加速度を得た.40秒間フラフープを落とす失敗をしても40秒間内で何度も実施してよいとした.得られた3軸加速度は,角周波数ごとのヒストグラムおよび直接フーリエ変換(DFT)による周波数分析,自己共分散分析を行い,課題成功例と失敗例の特徴を検討した.
    【結果】
    初回の試行で課題動作が成功した者は1名であり,2名の者は失敗した.成功した者では最高1回転のみ可能であった.それぞれの動作中の三軸加速度は,成功者のX軸の平均は-0.001で,Y軸の0.888で,Z軸の-0.02であった.また,失敗者のX軸の平均は0.016で,Y軸の平均は0.309で,Z軸の平均は0.724であった.DFTは,成功者のX軸において0.1(radian/sec)を超える角周波数の振幅(amplitude)強度(g)が認められたが,失敗者ではいずれも0.1を超えるものはなかった.
    【考察】
    三軸加速度のX軸成分は,前額面上の加速制御を表している.フラフープの回転を成功させるためにはフラフープの回転を矢状面方向と前額面方向および抗重力方向に加速と減速をフィードフォワード制御的に交互に加え,同時に慣性力を制御し,フラプープが身体にもたらす加圧,減圧感覚情報に基づくフィードバック制御が機能しなければならない.動作獲得成功例では,角角速度0.1/秒周期を超える制御が可能であったことが,この動作を成立させたと考えられた.この周期の発生は,加速制御において100msecの繰り返しからなるため,フィードバック機構の発現ではなく,フィードフォワード機構の発現が示唆される.角加速度情報は運動学習の初期における課題動作獲得の進度の予測に有効かもしれない.更に例数を集め,検討する必要がある.
  • 近藤 淳, 井上 宜充
    セッションID: 253
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
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    【はじめに】
    立位前屈動作には腰椎骨盤リズムがあり、初期相では股関節屈曲・骨盤後方移動が生じ、腰椎は前彎を減じ始め、後期相では股関節屈曲によって運動が行われるとされている。以前我々は、立位から指先が膝蓋骨上端に達するまでを前屈膝上相(AK)、そこから最大前屈までを前屈膝下相(BK)とする評価法を提案した。今回立位前屈からの復位動作を、最大前屈から指先が膝蓋骨上端に達するまでを復位膝下相(BKR)、そこから立位までを復位膝上相(AKR)と分け、本評価法の復位動作における適応と立位前屈との比較を行った。
    【方法】
    対象は健常男性10例(平均年齢24.2±3.8歳、身長171.4±5.3cm、体重64.4±8.2kg)。ヘルシンキ宣言に則り全員に研究の説明を行い、同意を得た。腰椎彎曲可動域(LC)測定は自在曲線定規を脊柱に添わせ、Th12-S1間距離(L)と彎曲最深部の深さ(H)を計測。「4×(arc tan2H/L)」より角度を算出し、各相の角度変化を算出。骨盤傾斜可動域(PT)の測定は、側面よりデジタルカメラで撮影し、水平線に対するASISとPSISを結んだ線の傾斜角を画像上測定し、各相の角度変化を算出。骨盤の前後方移動値(PM)はASIS-PSISを結んだ中点の水平移動量を測定し、各全水平移動量を100とし、各相における割合(%)を算出。各画像上の測定はImage Jを使用した。AKRとBKR、およびAKとAKR、BKとBKRにおけるLC、PT、PM有意差の判定にはMann-Whitney検定(p<0.05)で判定した。
    【結果】
    各平均±SDは、(BKR)LCが20.2±17.2度、PTが29.2±10.4度、PMが17.3±25.9%。(AKR)LCが51.3±10.3度、PTが13.4±6.7度、PMが82.7±25.9%。(AK)LCが49.9±8.8度、PTが13.0±8.2度、PMが70.8±13.7%。(BK)LCが21.6±15.2度、PTが31.8±13.5度、PMが29.2±13.7%であった。LCにおけるBKRとAKR(p<0.01)、PTにおけるBKRとAKR(p<0.01)、PMにおけるBKRとAKR(p<0.01)、およびAKとAKR(p<0.05)に有意差が認められた。
    【考察】
    腰椎運動、骨盤傾斜運動、骨盤水平移動でBKRとAKRの有意差が認められ、指先が膝蓋骨上端に達するところが、復位動作においても、相を分ける臨床上のポイントとして有用であると示唆された。前屈動作との比較では骨盤水平移動に関して、復位動作の方がより膝上相に依存した方略をとることが示唆された。復位動作は動作開始時より重力負荷が大きい状態で体幹・股関節伸展筋活動が要求されるため、骨盤水平移動を抑え、体幹・股関節伸展を優位に行っていると考えた。そのため復位動作初期では骨盤の水平移動が生じづらくなっていると考えた。
    【まとめ】
    今回の結果を考慮しつつ、前屈・復位動作観察をすることが有用と考える。
  • 岡安 健, 野本 彰, 葛山 智宏, 朝倉 祥子, 小川 英臣, 高田 将規, 永見 倫子, 高橋 高治, 豊田 輝, 原 和彦
    セッションID: 254
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
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    【目的】
     義足装着者にとってソケットの適合は重要でその適合技術は切断者のQOL向上のために必要不可欠な要素である。しかし、ソケット適合評価に関する科学的解明は十分とは言えず、切断者の主観を手がかりとしてセラピストが経験と勘で適合調整を行う事が多いのが現状である。そこで今回は、圧力計測システムを使用した客観的なソケット内圧計測を紹介すると共に、大腿および下腿切断者が普段使用している本義足のソケット内圧特性を示すことで、本方法が客観的な義足ソケット適合評価の一指標となりうるかを検討することを目的とする。
    【方法】
     対象者は大腿切断者2名(男性1名、女性1名、IRCソケットを使用)、下腿切断者3名(男性2名、女性1名、TSBソケットを使用)の計5名。大腿切断者の年齢は64から90才、体重は49から57kg、下腿切断者の年齢は45から62才、体重は44から78kgであった。方法はニッタ社製圧力計測システム(以下I-SCAN)の短冊形センサーを各対象者のシリコンライナー周囲に留置。その後、各対象者が普段使用している本義足を装着した状況で片脚立位時のソケット内圧を大腿及び下腿切断患者ごとに測定した。また、各動作で切断端に違和感が生じた場合は、その部位と違和感の種類を動作後に聴取し、対象者の主観的適合感とソケット内圧とを比較検討した。
    【説明と同意】
     ヘルシンキ宣言に基づき、対象者に研究参加に対する自由意志と権利の確認、個人情報の保護や管理などの個人情報保護に対する配慮を十分に説明し、同意を得た。
    【結果】
     大腿切断者のソケット全体との比較ではソケット上部内圧が高い傾向であった。一方、下腿切断者では2名が片脚立位時にソケット下部および脛骨骨端部の内圧が高い傾向にあり、1名はソケット上部の内圧が高い傾向にあった。主観的適合感については、大腿切断者2名共に違和感は訴えず、下腿切断者ではソケット上部の内圧が高い1名が「しびれ感」を訴えていた。
    【考察】
     本研究の結果は切断端近位部で安定性を獲得するIRCソケットや切断端全体での荷重というTSBソケットの特性と一致していると思われる。また、違和感を訴えていた下腿切断者のソケット内圧はTSBソケットの特性とは異なる結果であり、主観的違和感からもソケット内圧特性と主観的適合感は概ね一致していた。このことは、本方法がソケット適合調整において客観的な指標となりうることを示唆していると思われる。
    【まとめ】
     これまでソケットの適合は義足装着者の装着感や意見のみで修正を行ってきた。本研究により実際のソケット内圧特性が明らかになり、切断患者のソケット適合状態を知る足がかりとなることが予測される。
  • 小林 正和, 小泉 雅樹, 平石 武士, 宮田 一弘
    セッションID: 255
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    バランス能力は日常生活を送る上で重要な能力で,その評価にはBerg Balance ScaleやTimed Up and Go Test(TUG)等が広く用いられている.TUGは簡便で総合的なバランス能力を評価でき,転倒に対するカットオフ値を述べた文献も多く報告されているが,TUGの評価出来るバランス構成要素は明白でない.Horakらはバランス能力を1.生体力学的制限,2.安定限界/垂直性,3.予測的姿勢制御,4.姿勢制御,5.感覚適応,6.歩行安定性という6つの構成要素として捉えた,Balance Evaluation Systems Test(BESTest)を開発した.本研究の目的はBESTestを使用してTUGの持つバランス構成要素を調査する事である.
    【方法】
    対象者には事前に本研究の説明の同意を口頭と書面で得た.対象は当院に入院,通院中に歩行が監視又は自立であった者84名(男性38名,女性36名,平均年齢73.2<±>12.4歳)とした.内訳は脳血管疾患患者32名,骨折患者30名,その他22名.歩行自立度の内訳は歩行監視19名,歩行自立 65名であった.測定項目はBESTest,TUGとした.TUGが評価出来るバランス構成要素を検討する為,従属変数をTUG,独立変数をBESTestの各セクションとし重回帰分析を実施.有意水準は5%とした.
    【結果】
    TUG,BESTestの各セクションの平均値はTUG:13.3<±>9.5秒,BESTest:セクション1:71.1<±>20.2%,セクション2:81.1<±>11.5%,セクション3:67.0<±>20.6%,セクション4:70.0<±>23.4%,セクション5:85.9<±>14.9%,セクション6:70.1<±>19.6%であった.重回帰分析の結果,選択された因子はセクション6,5,1,2で,標準化係数,優位確率は順に-0.122,0.018/-0.156,0.018/-0.109,0.033/-0.158,0.047であった.調整済みR2乗値は0.574,有位確率は5%未満,F値は28.927.重回帰式はY=(-0.122・セクション6)+(-0.156・セクション5)+(-0.109・セクション1)+(-0.158・セクション2)+55.966.
    【考察】
    TUGは,課題遂行時間と歩容にて評価するバランス検査であるとされる.セクション1は股・足関節の筋力,床からの立ち座りを評価する事から立ち座りを行うTUGとの関係が考えられる.セクション2は座位での体幹の傾き,立位での左右へのリーチ等の検査で,重心の側方移動に対する安定性が評価され,TUG等に関係すると考えられる.セクション5は不整地での立位保持の評価で,足底からの固有感覚や振動覚を手がかりに歩行中の平衡機能を保持する事から関係が考えられる.セクション6は歩行能力の評価であり,当然TUGとの関係は強いと考えられる.以上の事からTUGはBESTestで示す生体力学的制限,安定限界/垂直性,姿勢制御,感覚適応,歩行安定性等のバランス構成要素と関係の強い事が示唆された.
  • 須永 康代, 国分 貴徳, 木戸 聡史, 阿南 雅也, 新小田 幸一
    セッションID: 256
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    妊娠中の腹部の重量・容積増大は身体重心(COM)に影響を及ぼし、姿勢不安定性が増すため転倒リスクの増大が懸念される。本研究は妊婦の起立から歩行以降時の動作様式解明を目的とした。
    【方法】
    対象は妊婦群12名(30.1±4.0歳)とコントロール群の未経産女性10名(31.2±3.0歳)で、妊婦群は妊娠16-18週、24-25週、32-33週に計測を実施した。対象者は椅子から起立し前方へ歩く動作を3回試行し、デジタルビデオカメラ(Sony社製 DCR-DVD508)により矢状面から撮影した。動画編集ソフトウェアVirtual Dub Mod(Virtual Dub Modプロジェクト製)にて連続静止画に変換後、画像解析ソフトウェア Image J 1.43(NIH製)により体表に貼付した標点マーカーの空間座標を同定し、Microsoft Excel上で1歩目遊脚肢の足尖離地(swing-off)時の体幹・下肢関節の角度、鉛直方向のCOM座標を算出し、一元配置分散分析を行った。有意水準はp<0.05を採用した。また、動作開始からswing-offまでの鉛直方向座標(Az)の位相面解析を行った。本研究は埼玉県立大学倫理委員会の承認を得、対象者に研究目的と内容について説明し同意を得て実施した。
    【結果】
    妊婦群の離殿からswing-offまでの動作時間は、計測1回目は0.82±0.27sでコントロール群の0.50±0.18sより有意に長かった(p<0.05)。swing-off時の体幹屈曲角度は計測1回目は7.7±4.9°、2回目は9.2±5.5°、3回目は11.3±5.4°でコントロール群の22.6±8.0°より有意に小さかった(p<0.05)。股関節屈曲角度は計測1回目は31.6±7.2°、2回目は32.7±10.6°でコントロール群の49.1±13.4°より有意に小さかった(p<0.05)。膝・足関節角度、鉛直方向のCOM座標は両群間に有意差は認めなかった。swing-offまでのAzの1階時間微分(dAz/dt)値は、計測1回目で小さく、swing-off時にAzが一旦収束した後に歩行を始めたが、2回目以降はコントロール群と同様に収束しないまま歩行へと移行していた。
    【考察】
    妊娠中期以降に一旦直立位に近い姿勢にはならず、下肢拳上が不十分なまま起立から直ちに歩行へ移行する妊婦は、転倒の危険性が高いため、大きな下肢挙上や腹部を圧迫せず、かつ一旦安定性を確保した立位姿勢後に歩行を開始する動作指導が必要である。
    【まとめ】
    妊娠中も妊娠前と同様の日常生活動作は避け難く、理学療法の視点から動作様式について検討し、安全な動作方法を提示する必要がある。
  • 井関 浩輔, 川上 榮一
    セッションID: 257
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
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    【はじめに】
    高齢者の転倒リスクについては様々な報告がなされているが、下肢整形外科疾患患者において、独歩を許可する明確な基準がないのが現状である。転倒リスクの評価としてのMMTと全身運動である歩行を結びつけるのは難しく、動作の中での評価が実用的と考える。トランスファーは、立ち上がり、立位保持、方向転換、着座という4つの動作が可能でなければ自立できず、転倒リスクとして挙げられているバランス能力の低下や筋力の低下が存在していると自立できない。今回はトランスファー自立と歩行自立日数について比較検討して、また一般的な転倒リスクである年齢を加味することで若干の知見を得たのでここに報告する。
    【方法】
    平成23年1月から平成23年12月までに当院でTHAを施行された72名(64.7±10.1歳、男性15名、女性57名)を対象とした。初回リハ室来室時トランスファーが自立できた群を可能群(64.1±11.5歳、男性11名、女性41名)、できなかった群を不可能群(65.8±9.6歳、男性4名、女性16名)とした。可能群と不可能群において歩行自立日数を比較検討した。また、年齢と歩行自立日数について比較検討した。一般的な転倒リスクとされている70歳以上の可能群(平均年齢75.0±4.8歳、男性2名、女性14名)、不可能群(77.5±4.5歳、男性1名、女性4名)、70歳未満の可能群(58.0±8.8歳、男性7名、女性27名)、不可能群(60.7±5.9歳、男性3名、女性11名)においても歩行自立日数を比較検討した。統計学的検討はMann-Whitney U検定を用い、有意水準は5%未満とした。本研究は対象者に研究の趣旨を説明し、同意を得て行なった。
    【結果】
    歩行自立日数は可能群(10±7日)、不可能群(12±7日)であり、歩行自立日数に有意な差が認められた。年齢と歩行自立日数は有意な正の相関が見られた(R=0.411)。70歳以上とそれ未満で比較すると、70歳未満の可能群(7±3日)、不可能群(11±5日)との比較では有意差が認められたのに対し、70歳以上の可能群(13±10日)、不可能群(18±9日)との比較では有意差が認められなかった。
    【考察】
    本研究にて理学療法士が歩行自立と判断すること、つまり転倒リスクが無いと判断するには、術後早期にトランスファーが自立しているということが一つの指標になるという可能性が示された。近年TUGやDual taskなどの評価を用いた転倒リスク評価が行なわれているが、トランスファーが自立しているということも、転倒リスクを評価する一要因になるのではないだろうか。70歳以上の比較では、有意差がなかったことに関しては70歳以上の高齢者では年齢そのものが大きな転倒リスクとなっており、歩行自立に差が無いのではないだろうか。
  • 豊田 平介, 山本 紘靖
    セッションID: 258
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
    日常の環境には奥行きや側面といった構造があり,幅や高さを構成している。それら環境の中でまたぐや通り抜けるといった行為を達成する必要がある。これらの行為の達成には環境の情報を知覚する必要がある。しかし環境の情報だけではなく,自己身体の情報も同時に必要になる。リハビリテーションにおいてはこの相補的な関係を築き上げていくことはADL場面や在宅生活において重要である。そこで今回,高齢者の身体情報と環境との関係を明らかにするため段差を設定し,その昇段時における行為場面から知覚情報について検討したのでここに報告する。
    【方法】
    対象は特定高齢者12名。平均年齢は79.5±6.3歳。各ケースともコミュニケーションは良好であった。環境設定として10cm~80cmの段差を設定した。段差を正面にして目線の高さの2倍の距離より手を使わずに上がれる高さかどうかを2件法にて判断した(以下:予測値)。次に実際に手を使わずに上がれる段差の高さ(以下:実際値)を計測した。分析方法は測定した予測値と実際値から生態学的測定値として段差(予測値または実際値)を下肢長で除しπ数を算出した。この2つの算出された実際値π数と予測値π数を基にそれぞれの値の検討と統計解析として相関係数を求めた。
    【説明と同意】
    今回の研究に関して対象者には趣旨および内容を説明し,同意を得て計測を行った。
    【結果】
    実際値π数の平均は0.48±0.12であり,最大値は0.77,最小値は0.27であった。予測値π数の平均は0.5±0.11であり,最大値は0.68,最小値は0.3であった。実際値π数と予測値π数の相関係数は0.87で有意な相関を認めた(p<0.01)。
    【考察】
    今回の結果より,実際値π数の平均は0.48であることが分かった。健常成人では0.88が基準になっていることが分かっており,高齢者では低値であることが示された。また最大値と最小値との差も0.5と大きく,運動機能の低下だけではなく,各ケースにおける運動能力の差も大きくあると考える。予測値においてもこの特徴はあり,知覚情報にも影響していることが示されている。しかし実際値と予測値での有意な相関を認め,各々の高齢者では一致性が高く,自己の運動能力を含めたかたちで知覚していることが分かる。このことは段差昇段時において身体の幾何学的な変数によって知覚しているだけでなく,身体機能及び能力に依存していることを示している。
    【まとめ】
    高齢者が自己の運動能力を把握した中で,行為に対する環境からの知覚情報と一致した関係を持っていることが明らかとなった。
  • 根本 厚志, 鈴木 悠史
    セッションID: 259
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    運動療法は多種多様であるが、開眼で行なわれるのが一般的であり、閉眼で行なった報告は少ない。閉眼での運動は開眼時に比べ、難易度が上がるが、特に心理面への影響が予想される。高齢者の心理的問題に転倒恐怖感がある。閉眼での運動は高齢者の自己効力感を高め、転倒恐怖感の軽減につながる可能性がある。そこで、開眼と閉眼の2条件で運動介入を行ない、高齢者の転倒恐怖感やバランス能力への影響を比較した。
    【方法】
    軽費老人ホームの入所者で施設内の歩行が独歩または杖使用にて自立している者を対象とし、無作為に開眼群12名(80.3±5.0歳)と閉眼群14名(78.4±5.8歳)に分けた。介入は3週間に5回実施した。プログラムは両群共通で、全て立位にて行なった。内容は下肢筋のストレッチ、ハーフスクワット、足踏み、片脚立ち、重心移動、ステップとした。転倒予防への配慮として、各自の能力に応じて上肢支持が可能な設定とした。効果判定の項目は開眼片脚立位、ファンクショナルリーチ(FR)、Timed up and go test(TUG)、Modified Fall Efficacy Scale(MFES)とした。また、終了後にプログラムに関するアンケートを実施した。統計解析における有意水準は5%未満とした。対象者には事前に書面にて本研究の趣旨を説明し、同意書に署名を得た。本研究はヘルシンキ宣言に基づく倫理的配慮を十分に行った。
    【結果】
    介入前後の平均値の変化は開眼群でTUG8.1秒→7.8秒、片脚立位20.3秒→27.8秒、FR28.5cm→32.5cm、MFES128.9点→128.6点、閉眼群でTUG7.6秒→7.6秒、片脚立位16秒→15.4秒、FR28.4cm→32.3cm、MFES135.4点→135.5点であった。両群のFRのみ有意に改善した。アンケートで運動能力や生活への自信が得られたと回答した者は開眼群4名、閉眼群6名であった。2群間の比較で有意差を示した項目はなかった。
    【考察】
    有意差はなかったが、自信が得られた者の割合は閉眼群のほうが高く、MFESも閉眼群のみわずかに改善した。このことは閉眼での運動が転倒に対する自己効力感を高めるアプローチとして有効な可能性を示している。一方でバランス能力については、閉眼群の改善が乏しい傾向が示された。要因としては、運動中の閉眼群の上肢支持依存が強かった可能性や効果判定が全て開眼で行なわれたことが考えられる。介助下での閉眼歩行のような、よりダイナミックな運動を加えたなら、心理面への作用は更に強まる可能性がある。
    【まとめ】
    本研究により、閉眼での運動体験が転倒恐怖感の軽減に有効な可能性が示された。
  • 秋月 千典, 大橋 ゆかり
    セッションID: 260
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    本研究では,異なるKR付与方法が練習中の遂行成績,運動学習の成果に与える影響を検討することに加え,練習中のプローブ反応時間(Probe reaction time;以下PRT)を測定することで,KR付与方法が課題の注意需要に及ぼす影響を明らかにすることを目的とした。
    【方法】
    研究協力者は健常成人男性14名(21.5±1.1歳)とし,毎試行後にKRが与えられる100%KR群と10試行終える毎に10試行分のKRがまとめて与えられるSummary KR群に各群7名となるよう無作為に振り分けた。実験はプレテスト,3日間の練習期間,保持テストにより構成した。本研究では主課題と二次課題を設定し,協力者には2つの課題の同時遂行を求めた。主課題として歩幅学習課題を設定し,トレッドミル上を3種類の歩幅で歩くことを学習させた。歩幅の計測には荷重スイッチを取り付けた実験用の運動靴を使用し,足底が床から離れている時間とトレッドミルの速度から歩幅を計算した。二次課題には音刺激に対し発声で反応する単純反応課題を設定し,音刺激から発声までの時間をPRTとした。統計解析にはSPSS Statistics 19を使用し,各群の歩幅学習課題の成績とPRTを従属変数,KR付与条件と測定日を要因とした二元配置分散分析を行い,各測定日における群間の比較には独立したサンプルのt検定を用いた。また,本研究は,我々が所属する施設の倫理委員会の承認を受けて実施した。
    【結果】
    歩幅学習課題の練習中の遂行成績は100%KR群において有意に誤差が小さかったが,保持テストでは Summary KR群の誤差が有意に小さかった。また,PRT測定の結果,練習3日目において100%KR群のPRTがSummary KR群と比較し有意に延長した。
    【考察】
    本研究の結果は,Summary KRは100%KRよりも練習中の遂行成績は劣るが,運動学習の効果は優れていることを示している。この結果は,ガイダンス仮説を支持しており,高頻度なKRは練習中の遂行成績を改善するのには有効であるが,運動学習の成果の面では不適切であることを示唆している。また,Summary KR群と比較し100%KR群においてPRTが延長したことは,KRの誘導作用により学習者が過剰な運動プログラムの修正を行うことで課題の注意需要が増加したことに起因すると考えられる。
    【まとめ】
    本研究の結果,KR付与の頻度により練習中の遂行成績と運動学習の成果に異なる影響が与えられることが示された。また,学習者に高頻度な情報が与えられることにより課題の注意需要は増加し,運動学習の成果は低下する可能性があることが示唆された。
  • 畔上 知明, 岩根 直矢, 鈴木 寛子
    セッションID: 261
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    以前、当院では退院時のリハビリ経過報告書による情報提供が連携の主となっており、入院中のリハビリ見学や家屋調査の同行といったセラピスト(以下Th)とケアマネージャー(以下CM)が直接的な関わりをする場面が不足していた。そのため、当院では連携に関するシステムやスタッフの教育強化を図ってきた。本研究では、当院のThとCMの連携について、当院の先行研究(2009年実施)との比較から検証を行った。尚、本研究はヘルシンキ宣言に記載された倫理規約に則して行った。
    【方法】
    当院THとCMに対して、地域連携についてのアンケートを実施し、先行研究との比較、検証を行う。対象は当院在職中のTh及び、当院近隣の居宅介護支援事務所事業所に在籍するCM。比較、検証するアンケートは2009年8月に当院在職のThを対象とした。
    【結果】
    アンケート回収率は当院Th対象80.2%、CM対象78.9%、2009年時のアンケートは回収率75.0%。当院Th対象のアンケートに関して「リハビリ経過報告書以外でCMと連絡をとる機会がある」との回答の割合が2009年時と比較して83.3%から90.8%に上昇。同様の回答において、経験年数3年未満のThでは75%から85.7%へ上昇を認めた。また、「CMと連携をとる機会は現状で十分」との回答は、2009年時と比較して23.3%から44.3%へ、経験年数3年未満のThでは22.2%から42.8%へ上昇を認めた。一方で、症例ごとにCMと連絡を取る回数は、2009年時より減少傾向。また連携の手段に関して、直接会って連携を行うとの割合は64.0%から64.1%へと大きな差を認めなかった。CM対象のアンケートでは、「連携の機会は十分」との回答が、73.3%。現状で必要な情報交換は行えており、連携の頻度は現状で十分との回答が多数を占めていた。
    【考察】
    当院において、ThがCMと直接的な関わりをする機会は、特に経験年数3年以下のThにおいて増加傾向であり、経験年数を問わず、症例ごとのCMとの連携定着が示唆された。連携の内容に関しては、症例ごとに連携を取る回数は減少傾向、直接会って連携を行う割合は、大きな変化は見られなかった。しかし、CMからは連携における必要な情報交換は行えているとの回答を多数頂いており、これらの結果から、情報交換の量的な改善は認めないものの、質的側面における向上が示唆された。
    【まとめ】
    本研究より、当院の地域連携における質的変化が示唆されたが、CMからのアンケートにおいて家屋環境の調整や退院後のリハビリ継続について、より具体的な情報提供を求めるご意見をいくつか頂いた。上記問題点の改善に向けて、当院の地域連携システムや教育体制について、検証し改善していく必要があると考える。
  • 室井 真樹, 荒木 聡子
    セッションID: 262
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    廃用症候群患者への早期介入のために、看護師とリハ科の連携強化の目的で、看護師への意識調査を行った。
    【方法】
    当院入院病棟看護師399名を対象とし、無記名自記式質問紙によるアンケートにて実施し、アンケート配布・回収期間は2011年10月3日~21日とする。本調査の趣旨への同意は、アンケート用紙への回答をもって確認し、回答内容は統計処理し個人が特定できないように十分配慮した。
    【結果】
    回収率は46.9%。この半年間で廃用症候群患者を担当した割合は、“ほぼ全員”および“半数以上”が31.6%、“半数以下”が51.9%、“全く看ていない”が10.2%だった。リハ科との連携について、できていると感じるのは、カンファレンス(以下カンファ)やカルテ等での情報共有できたときが63件、相談・指導内容が病棟で活きているときが32件、担当レベルで情報交換できたときが14件、摂食方法や食上げが円滑に進んだときが11件、患者の意欲を感じるときが5件だった。一方、連携できていないと感じるのは、情報共有不足や、患者理由、業務の繁忙さ等により病棟とリハでのADLに差がある点が40件、患者の情報伝達不足が20件、病棟の目標と差があるときが17件、リハ内容が不明が11件、嚥下に関する点が2件、その他19件だった。廃用予防に関してリハ科に望むことは、ADL等の介助方法が97件、勉強会の実施が66件、病棟専従化が44件、スクリーニング票の作成が32件だった。自由記載では、病棟に合わせた訓練時間の設定との意見もあった。
    【考察】
    この半年間で約8割の看護師が廃用症候群患者を担当しており、リハ科との連携が図れているという意見がある一方、リハでのADLが病棟ADLに繋がらない事や、目標認識の差、リハの進捗状況が不明等の意見があり、リハ科との連携不足も感じていた。また患者の担当セラピストが分かり難いとの意見もあったが、リハ科側も全科へ対応している中で担当看護師が分かり難いため、相互の疎通不足が情報交換ができていない状況の一因と考えられる。現状では、定期的に病棟看護師とカンファを行っているのは一部のみで、カンファの頻度の不足や日々の患者の状態について情報交換ができていない為、今後、情報交換の内容、方法の確立が必要であると考える。
    【まとめ】
    今回、看護師がリハ科との連携にカンファのみならず、担当レベルでの情報共有を望んでいることが明確化した。今後、相互の現状認識、理解を深め円滑な情報交換の方法を確立し、共働して廃用症候群患者へ早期介入していくことが課題である。
  • 荒木 聡子, 室井 真樹, 安川 生太
    セッションID: 263
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
     当院は、606床の急性期総合病院であるが緩和ケア病棟も有す。当リハ科は、緩和ケア病棟と週1回のカンファレンス(以下カンファ)を実施し、年々、リハビリテーション(以下リハ)への期待が高まり、廃用予防および改善に向けた依頼数が増加した。しかし、がんの終末期において廃用予防および改善は病状により困難なことが多い。今回、緩和ケア患者の廃用予防および改善に向けた看護師とリハ科との情報伝達向上、連携強化を目的に、看護師に対し意識調査を行った。
    【方法】
     対象は緩和ケア病棟看護師25名とした。アンケートは、無記名自記式質問紙とし、実施期間は2011年10月3日~21日だった。本調査の趣旨への同意は、アンケート用紙への回答をもって確認し、回答いただいた内容は、統計処理し、個人が特定できないように十分配慮した。
    【結果】
     回収率は20名(80%)だった。年齢区分は、20代2名、30代13名、40代3名、50代1名で、緩和ケア病棟での経験年数は平均5.8±6.7年(中央値3年)だった。この半年で、”廃用患者を担当したことがある”は16名、”全く経験なし”が2名、未記入が2名だった。廃用予防的が”困難であると感じた”は15名、”困難と感じない”は3名、未記入は2名だった。困難と感じる理由は、苦痛を伴うことが多いこと、症状コントロールが優先されるために介入が困難であるとの回答が多かった。カンファで話し合いたいことでは、目標設定が19名、情報の共有13名、リハの進捗状況が13名だった。ADL能力や介助方法については各8名だった。リハ科との”連携ができている”と感じるのは目標設定や情報の共有ができていることが17件だった。一方、”連携できていない”と感じるのは、目標の不一致や病状の進行に合わないときが5件、病棟とリハでの出来ることの差に気がついたときが6件、リハの内容が不明2件などがあげられた。
    【考察】
     病棟での廃用予防については、患者の苦痛を伴うために積極的な介入はできないとの意見が多い一方、リハに対しては予防的な廃用予防や改善を望むことが多かった。また、カンファにより、目標設定や情報共有ができていると感じる一方で、目標の不一致を感じることもあることがわかった。週1回のカンファでは、患者の病状の変化に対応できないこともあり、目標の不一致を生じたと考えられる。今後、これを減少させるためには、適宜情報交換ができるような調整が必要と考える。
    【まとめ】
     緩和ケア病棟とリハ科のカンファでは、目標設定や情報交換においては有効であると思われるが、詳細な内容については、差があることがわかった。カンファ以外での情報交換の方法も今後検討していく必要性も示唆された。
  • 伊藤 丈仁
    セッションID: 264
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    がん罹患患者数の増加やがん患者のリハビリテーション料創設により、がんリハビリテーション(以下、がんリハと略す)に携わる機会が増加している。その中で、がんリハ開始時には廃用症候群の併発、ADL低下を呈している事が多い。今回、これらの予防を目的にがんリハ講習会を開催し、アンケート調査を実施したので、ここにその結果と考察を加え報告する。
    【方法】
    がん罹患患者の診療に携わる地域の医療従事者を対象に、廃用症候群併発、ADL低下予防の内容を中心とした講習会を開催し、本調査を説明、同意の得られた受講者に対して、リハビリテーション(以下、リハと略す)職種(25名)とその他の医師や看護師を中心とした医療従事者(24名)に別け、アンケートを実施した。今回、複数回答可の選択方式と自由記載を採用。設問内容はリハ開始時の廃用症候群併発、ADL低下の有無を共通とし、リハ職種にはがんリハの問題点を、その他の医療従事者には受講前後の望ましいと考えるリハ開始時期、がんリハの印象を加えた。
    【結果】
    リハ開始時に廃用症候群併発、ADL低下を呈していると考えるリハ職種は各々68%、72%に対して、その他の医療従事者では両方共に4%であり、33%が廃用症候群を併存していない、29%がADL低下を呈していないと回答。その他の医療従事者のがんリハに対する身体機能維持やADL維持の印象を持っている者は、各々54%、79%であるにも関わらず、廃用症候群併発・ADL低下を呈する前にリハを開始するのが望ましいと考えている者は、各々33%、25%。受講後、廃用症候群併発・ADL低下を呈する前にリハを開始するのが望ましいと考える者は、両方共に54%に増加。また、廃用症候群併発・ADL低下を呈した後にリハを開始するのが望ましいと考えている者は各々25%、46%であったが、受講後は両側共に8%に減少。リハ職種の48%はがん疾患の医学的知識やリスク管理、診療経験不足を感じていた。また、36%は施設基準の問題から、がん疾患を主とする患者へのリハを行わないと回答。
    【考察】
    医療従事者に対して、今回のような予防的がんリハ講習会を設けることが非常に重要であり、同時にリハ職種へのがんリハ研修が重要であると考える。そして、これらが十分に行われる事で、早期にPT目標達成が果たせると考える。また、施設基準の問題により、本来リハ介入が必要であるがん患者が存在する事も示唆された。
    【まとめ】
    医師、看護師を中心とした医療従事者を対象に、予防的がんリハの啓蒙活動やリハ職種へのがんリハ研修活動、がんリハ施設基準の緩和が望まれる。
  • 浜辺 政晴, 岩村 恭子, 塩野 綾子, 宮島 いずみ, 今井 潤, 深川 新市
    セッションID: 265
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    2010年度の診療報酬改定により,回復期リハビリテーション病棟における「休日リハビリテーション提供体制加算」および「リハビリテーション充実加算」が新設された.当院でも,2011年度より2つの加算体制を導入しているが,その効果判定に関する報告はまだ少ない.そこで,当院のFunctional Independence Measure(以下FIM)を用いて2つの加算体制導入前後のリハビリ効果を検証し若干の知見を得たので報告する.
    【方法】
    2010年4月1日から2010年9月30日の期間に自宅退院となった122名(男性68名,女性54名,平均年齢74.18±12.88歳)を非加算群,2011年4月1日から2011年9月30日の期間に自宅退院となった105名(男性58名,女性47名,平均年齢72.69±14.95歳)を加算群とし,2群間での比較検証を行った.後方視的に入院中の総単位数,1日平均単位数,入院時・退院時FIM点数,獲得FIM点数(退院時FIM点数から入院時FIM点数の減算),獲得FIM効率(獲得FIM点数から入院日数の除算),入院日数について検証した.統計処理は対応のないt検定を行い有意水準は5%とした.なお,本報告は当院倫理委員会の承認を得た.
    【結果】
    総単位数:非加算群472.37±335.94,加算群589.54±307.74,
    1日平均単位数:非加算群5.04±1.27,加算群6.05±0.94,
    入院時FIM点数:非加算群80.19±27.83,加算群80.89±25.13,
    退院時FIM点数:非加算群103.26±20.22,加算群99.23±23.86,
    獲得FIM点数:非加算群23.11±20.93,加算群18.34±15.62,
    獲得FIM効率:非加算群0.26±0.24,加算群0.21±0.17,
    入院日数:非加算群94.03±41.55日,加算群96.31±44.71日,
    総単位数においてのみ有意な差(p<0.01)が認められた.
    【考察】
    総単位数が有意に増加する傾向を示したが,1日平均単位数は有意な差を認めなかった.リハビリ効果を検証するための退院時FIM点数,獲得FIM点数,獲得FIM効率は有意な差を認めなかったものの,加算群の方が低い傾向を示した.また,入院日数においても加算群の方が長期化する傾向を示した.したがって,今回の検証では休日,充実加算の導入によるリハビリ効果を確認できなかったが,単位の増加だけでなく,実用的なADL獲得に結びつくようなリハビリの質の重要さを再認識できた.今後,検証期間をより長くし,期間内での入院から退院を追跡する方法で再検証を行う必要があると考える.
  • 高野 利彦
    セッションID: 266
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    筆者が第46回日本理学療法学術大会で発表した先行研究において、車いす座面シートのたわみにより駆動速度が低下する事が示唆された。その中の考察において、車いす座面シートのたわみにより座位姿勢の不良と安定性の低下が生じることで駆動速度が低下すると考えた。そこで本研究ではたわみによる車いす座位姿勢と座位安定感への影響を調査する事を目的とした。
    【方法】
    健常成人6名(平均年齢36.2±11.3歳、男性4名29.3±4.5歳、女性2名50.0±2.8歳)とし、被験者本人に対し本研究の目的と内容を説明し同意を得たのち実施した。 同じ普通型車いすを使用し、同一検者で測定を実施した。まず「背もたれに寄りかからないように浅く座って下さい」と指示し、車いすに座ってもらった。この際に座面シートのたわみ有りの車いすもしくは座面シートのたわみ無しの車いすのどちらから座ってもらうかは、被験者毎に変更した。次に前額面と矢状面から写真撮影した。その後、座位の安定感をVASを用いて評価した。VASに関しては、安定を0、不安定を10とした。次に車いすのたわみの有無を変更し同様の流れで測定した。座位姿勢の比較は写真からの視覚的な主観的評価を行った。座位安定感のVASで得られた数値の比較はWilcoxon順位和検定にて行った。なお,統計学的有意水準は5%未満とした。
    【結果】
     車いす座位姿勢については、たわみ有り車いすでは骨盤後傾と体幹の屈曲傾向がみられ、たわみ無し車いすではそれが軽減する傾向がみられた。座位安定感についてはたわみ有りのVASの平均値は6.0、たわみ無しのVASは3.7であり、有意差はみられなかった。
    【考察】
     木之瀬は、スリングシートのたわみが骨盤後傾の要因の一つであると述べ、骨盤の不安定性につながるとしている事から、車いす座面シートのたわみにより座位姿勢の悪化や座位安定感の低下が起こることが予想される。本研究では、座位姿勢はたわみ有り車いすにて骨盤後傾と体幹の屈曲傾向がみられた。この結果は客観性には乏しいが、上記の文献と一致していた。また座位安定感は統計的には有意差がみられなかったが、たわみ有り車いすで低い傾向がみられ、やはり上記の文献と一致していた。本研究では車いす座面シートのたわみが座位姿勢と座位安定感に与える悪影響について客観的には証明できなかったが、その可能性については示唆できたと考える。
    【まとめ】
    この研究により、車いす座面シートのたわみにより座位姿勢の不良と安定性の低下が生じ、駆動速度が低下するという仮説が進展できたと考える。今後は本研究を客観的に行う事が重要と考える。
  • 長島 史明, 中川 尚子, 川ウ 麻由子, 遠藤 光洋, 前田 浩利
    セッションID: 267
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
    在宅で療養する重症心身障がい児・者(以下、障がい児・者)にとって車いすや座位保持装置等(以下、車いす等)は、日常生活上の姿勢保持や外出手段として有用である。しかし車いす等を作製するためには施設や病院に数回受診せねばならず障がい児・者や家族にとって負担が大きい。当院では必要時には車いす等の在宅作製に取り組んでいる。今回、在宅作製を行った障がい児・者についてまとめ、ライフステージにおける特徴と留意点について検討した。
    【方法】
    2007年6月~2012年2月までに車いす等の在宅作製を行った障がい児・者のべ25名を対象とし、診療録と作製記録より情報を抽出した。尚、今回は小児期に発症した疾患のみとし、ライフステージを乳幼児期:0~6歳(以下、Ⅰ期)、学齢期:7~18歳(以下、Ⅱ期)、成人期:18歳以上(以下、Ⅲ期)に分け、①超重症児スコア(以下、スコア)平均点②離床頻度③外出頻度④車いす等の用途について比較検討した。
    【結果】
    対象の年齢は平均10.8 歳(1~34歳)であり、障がいの重症度はスコア平均19.9点(超重症児9名、準超重症児11名、その他5名)であった。内訳は人工呼吸器使用者10名、気管切開者17名、吸引が頻回な者17名、経管栄養者24名であった。ライフステージを比較すると、Ⅰ期(10名)では①19.3点②1日に1回以下:3名、2回以上:7名③月に1回以下:5名、1回:2名、2回以上:3名④屋内用:3名、屋外用:2名、兼用:5名であった。半数以上が初回作製であったが、作製を通して家族から具体的な希望が表出されるようになり、姿勢保持や外出の視点を持った生活様式の構築につながった。Ⅱ期(11名)では①23.2点②1日に1回以下:6名、1回:1名、2回以上:4名③月に1回以下:4名、1回:6名、2回以上:1名④屋内用:2名、屋外用:6名、兼用:3名であった。殆どが訪問学級を利用しており車いす等の用途が明確であった。授業の様子を参考にして実際の活動をイメージしながら作製することにより様々な工夫が行えた。Ⅲ期(4名)では①12.5点②1日に1回以下:3名、1回:1名③月に1回以下:4名④屋内用:2名、屋外用:2名であった。臥床傾向にあったが座位姿勢や外出方法を家族と話し合いながら作製することにより離床につながった。
    【考察】
    在宅で療養する障がい児・者は医療依存度が非常に高く、ライフステージによって支援やニーズが変化していく事がわかった。車いす等の在宅作製においては身体機能の評価とともに生活様式の把握や支援者との情報共有に留意する必要があると考えられた。
  • 石崎 耕平, 水田 宗達, 清宮 清美, 河合 俊宏
    セッションID: 268
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    理学療法士による身体機能や生活状況の評価を基にした車いすの作製案から、医師が処方し、業者が製作する。移動手段としては成立しているものの、使用上、生活上に問題を抱える車いすに遭遇することがある。今回、症例を通して車いす製作に関するエラーを抽出し、今後の車いす製作に活かす予防策を報告する。
    【方法】
    症例、家族から製作前後の経緯を聴取し、身体機能および生活場面との適合評価から、現在使用中の車いすの問題点を抽出し、予防策を検討した。なお、本報は倫理委員会の承認を受けた(承認番号H23-12)。
    【結果】
    症例1:Th12胸髄損傷、対麻痺。同寸法の固定式アームサポート試乗車にて、サイドサポートと大転子間の距離を確認後、跳ね上げ式アームサポートの車いすを製作。完成車は大転子がサイドサポートに接触していた。症例2:脳挫傷、左片麻痺。自宅内移動を円滑にするため、座幅に執着した結果、動作確認を怠った。完成後、自宅空間は十分にあり、フットサポートに対して駆動時の右足の接触、立位移乗時の左足の接触がみられた。症例3:C7頸髄損傷、四肢麻痺。折り畳み式転倒防止装置搭載の車いすを製作。完成後、キャスター挙上時、キャスターと地面の距離が転倒防止装置使用時132mm、折り畳み時73mmとなり、日常生活における段差介助が困難だった。
    【考察】
    車いす製作の過程において、想定を減らし実証を増やすことがエラー回避となる。症例1は試乗での過信によるエラーである。同メーカーであっても座幅寸法の測定位置が異なり、同車種であってもアームサポートが固定式か跳ね上げ式かでサイドサポートの取り付け位置が異なる。したがって、可能な限り製作予定の車いすに近いものを試乗することが予防策となる。また、試乗が困難であれば処方時に業者との車いす寸法等の確認が必要である。症例2は実証不足によるエラーである。試乗していれば、動作の確認が可能となり、脱着式フットサポートも候補として検討できた。また、自宅での移動確認を実施していれば座幅の選択も適切になったと考えられる。症例3は製作でのエラーである。的確な立案、確実な試乗を行ったとしても、完成品に反映されているとは限らない。適合判定には必ず製作に携わった者が同席し、目的が達成されているかを確認する必要がある。今回、オーダーメイド車いすの事例であっても使用環境等により思わぬ問題点を生じることがわかった。今後、レディメイド車いすや介護保険によるレンタル車いすを選定する時などに配慮する予防策としても活用したい。
    【まとめ】
    車いす製作において、エラーを把握し、予防策を講じることは有益である。
  • 石山 大介, 森尾 裕志, 堅田 紘頌, 小山 真吾, 井澤 和大, 松永 優子, 清水 弘之, 松下 和彦
    セッションID: 269
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    トイレ動作は,自宅退院に深く関連する日常生活動作の一つであり,移乗や更衣,清拭といった工程で構成されている.理学療法士は,トイレ動作の自立に向けて,患者の動作能力に必要なトレーニングや,トイレ内の改修を検討しなければならない.トイレ内の改修で,手すりの設置は最も頻度が高いとされるが,トイレ動作の各工程において,手すりの使用がもたらす効果は明らかではない.本研究の目的は,手すりの有無におけるトイレ動作の各工程別の達成率を比較し,手すりの設置が有効な工程を明らかにすることである.
    【方法】
    対象は,当院に入院した65歳以上の高齢患者25例 (平均81.9歳) である.除外基準は,病室内ADLが全て自立している例,整形外科疾患や脳神経疾患,認知症を呈する例とした.調査には,当院リハビリテーション室内の便器(TOTO製 TCF6011,便座高45.0cm,便器両側に手すり有り)を用い,その側方に座面高45.0cmの標準型車椅子(椅子)を設置した.トイレ動作は移乗,更衣などを含む10工程に分類した.対象者は,監視下にて,トイレ動作を「手すり有り条件」と「手すり無し条件」の2条件で模擬的に施行した.検者(理学療法士)は,トイレ動作をFIMの採点基準を参考にし,全例の各工程における,介助無しで遂行できた者の割合を達成率として算出した.統計学的手法は,Wilcoxonの符号付順位検定を用い,統計学的判定基準は5%とした.なお,本研究はヘルシンキ宣言に則り,対象者に研究の主旨を説明し,同意を得て実施した.
    【結果】
    各工程の達成率は,手すり有り条件 vs 手すり無し条件の順に,「椅子からの立ち上がり」(100% vs 64%, p<0.01),「便座への転回」(100% vs 76%, p<0.05),「ズボンを下げる」(88% vs 84%),「便座への着座」(100% vs 76%, p<0.05),「紙をとる」(100% vs 100%),「清拭」(88% vs 88%),「便座からの立ち上がり」(100% vs 64%, p<0.01),「ズボンを上げる」(88% vs 88%),「椅子への転回」(100% vs 76%, p<0.05),「椅子への着座」(100% vs 76%, p<0.05)であった.
    【考察】
    「椅子からの立ち上がり」「便座への転回」「便座への着座」「便座からの立ち上がり」「椅子への転回」「椅子への着座」の工程は,手すり有り条件で達成率が向上することから,手すりの設置が有効であると考えられた.その要因として,手すりが筋力や支持基底面を補っていたことが推察され,運動機能を含めた更なる検討が必要と考えられた.
    【まとめ】
    手すりの設置は,トイレ動作の立ち上がり,転回,着座の工程において,自立度向上に寄与することが示された.
  • 加島 守
    セッションID: 270
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    高齢者等の入浴動作において,浴槽の出入りは困難な動作である。本稿は,身体に障がいのない高齢者(以下,健常高齢者)および膝に疾患のある高齢者(以下,膝痛高齢者)が浴室洗い場から湯水のある浴槽に入り,同浴槽から洗い場に出るという一連の入浴動作をビデオで撮影して,立位姿勢で浴室洗い場から浴槽をまたぐ動作を分析し,またぎ動作周期を確認することを目的とした。 
    【方法】
    実験協力者は参加の同意を得られた健常高齢者5名(男性2名,女性3名),膝痛高齢者4名(男性3名,女性1名)で,平均年齢70.3歳(65-86歳)であった。実験セットは愛知県常滑市にある(株)LIXIL水まわり総合技術研究所の一隅に設置したユニットバス(浴槽は縦160cm,横68cm,深さ50cm,フランジ高さ39.6cm)を使用した。撮影は上部カメラ,横方向カメラ,後部方向カメラを用いて動作を記録した。
    【説明と同意】
    実験は事前に実験協力者に対して、内容について十分に説明を行い、書面で同意を得て実施した。
    【結果】
     浴槽をまたぐときは,足底が床面から離れ,膝及び足底が浴槽フランジを通過し,浴槽床面に着地する。この動作を,先に挙上した下肢を前脚,後に挙上した足を後脚とし一連の動作を概観すると,前脚は足指を床から挙上し始め(遊脚相初期),フランジを足部が通過するときが最も下肢を挙上した姿勢になり,足指から床面に着地する直前(遊脚相終期),そして足指が着地した瞬間である立脚相初期(足尖接地)に分けられた。次に後脚が洗い場から挙上開始した遊脚相初期に前脚は足底全体が接地(足底接地)し,後脚が最も挙上したとき,すなわちフランジを足部が通過するときが前脚の立脚中期になり,後脚を浴槽内に着地させたときが両足支持期となり,これらは実験協力者すべてに見られる動作であった。
    【考察】
     浴槽またぎ動作を周期的に捉えてみた場合,入るときの遊脚相~立脚相,出る時の遊脚相~立脚相をさらに細分化することができ,バランスをとるのに不安定な片足を挙上しているときは,遊脚初期・遊脚中期・遊脚終期となる。また歩行周期と異なり特徴的だったのは,浴槽に入るときも浴槽から出る時も立脚相初期が足尖接地であった。浴室環境から考えると,洗い場と浴槽床面との高低差が生じること,また階段と異なり,フランジの厚みにより歩幅を広くしなければならないため,足尖接地が見られたと考えられる。
    【まとめ】
     またぎ周期を細分化し,高低差と広い歩幅そして下肢拳上のための筋力やバランス能力を必要とする浴槽またぎ動作のどの周期で危険性が高いかを確認することにより,手すり設置等住宅改修の提案につなげることができると考える。
  • 内田 亮太, 万治 淳史, 諸持 修, 田口 孝行
    セッションID: 271
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    FIMを用いた転倒予測は,運動または認知領域の一側面のみで検討していることが多いが,転倒予測はこれら両面から検討する必要があると考える.そこで本研究は,転倒する脳血管障害患者の特性を,入院時FIM運動項目合計得点(M-FIM)と入院時FIM認知項目合計得点(C-FIM)の関係から調査し,重点的に転倒予防策を講じるべき得点層を明らかにすることを目的とした.
    【方法】
    脳血管障害患者143例を調査対象とした.本研究は当院倫理審査委員会の承認を得て実施し,対象者には事前に説明し同意を得た.対象者を入院中の転倒の有無によって,転倒群74例と非転倒群69例に分類し,それぞれの年齢,性別,病型,入院時FIM得点(M-FIM,C-FIM)を調査した.転倒群と非転倒群における年齢,性別,病型,入院時FIM得点の比較は,対応のないt-検定とクロス集計表によるχ2検定を用いて分析した.またM-FIMとC-FIMの得点範囲の組み合わせによって,M-FIM13~49点でC-FIM5~19点群・20~29点群・30~35点群,M-FIM50~69点でC-FIM5~19点群・20~29点群・30~35点群,M-FIM70~91点でC-FIM5~19点群・20~29点群・30~35点群の計9群に分類した.各群における転倒者の人数の差についてクロス集計表によるχ2検定を用いて分析した.有意水準は5%とした.
    【結果】
     転倒群と非転倒群で年齢,性別,病型に有意差を認めなかった.M-FIMおよびC-FIMでは転倒群の得点が有意に低かった(p<0.05).各群における転倒者の割合(転倒者数/非転倒者数)は,M-FIM13~49点でC-FIM5~19点群71%(24/10例)・20~29点群75%(15/5例)・30~35点群0%(0/1例),M-FIM50~69点でC-FIM5~19点群67%(8/4例)・20~29点群56%(10/8例)・30~35点群33%(1/2例),M-FIM70~91点でC-FIM5~19点群0%(0/1例)・20~29点群37%(8/14例)・30~35点群25%(8/24例)であった.各群における転倒者の人数は有意差が確認された(p<0.05).
    【考察】
    M-FIM13~49点群,50~69点群ともにC-FIM29点以下では,約5~7割の患者が転倒していた.M-FIM50~69点群ではC-FIM30点以上になると転倒者の割合が約3割となり,C-FIMの高低で若干の違いはあるもののM-FIM70~91点群とほぼ同様の割合であった.よって,M-FIM69点以下でC-FIM29点以下の患者においては,重点的に転倒予防策を講じる必要があると考えられた.また,約3割の患者が転倒していることは低い割合とは言い難く,これらの得点層に対しても転倒予防策を講じる必要があると考えられた.
    【まとめ】
    転倒予防策は,M-FIM・C-FIMが低い患者だけでなく,高い患者においても講じる必要があると考えられた.
  • 浅野 祐介, 林 大二郎, 関 諒介, 長崎 茜, 小島 由美, 永峯 宏美, 宮澤 敦嗣
    セッションID: 272
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    転倒の原因は、身体機能の低下や慢性疾患、服薬状況に起因する内的因子、家庭内住環境などの外的因子の関与が報告されている。その中で、近年高齢者の転倒に関する報告は、内的因子に関する報告が多く、外的因子に関する報告は少ない。今回我々は外的因子の具体的な内容を明らかにする為、当院の外来整形外科患者に対し、外的因子の中で動作・時間帯・時期・環境ついて調査した。
    【方法】
    対象は、2011年8月から同年10月の期間内で、当院のリハビリテーション科に外来通院している整形外科患者にアンケート調査し、転倒歴のある27名(女性26名、男性1名)平均年齢77.6±8.0歳を対象とした。項目として、性別などの患者背景と、Barthel index(以下:BI)、転倒の回数や条件を屋内転倒群(以下:A群)と屋外転倒群(以下:B群)の2群に分け調査した。尚、本研究は対象者に研究の趣旨を説明し、同意を得た。
    【結果】
    全対象者において転倒場所とBIに関連性は認められなかった。両群の割合は屋内48.1%・屋外51.9%であった。A群の平均年齢は77.9歳、B群 77.2歳であり、各群のBIはA群平均91.5点に対しB群平均96.8点であった。A群の転倒時期は夏が最も多く53.8%、次いで春38.4%であった。B群では夏・冬がともに35.7%、次いで春21.4%であった。転倒の時間帯はA群では朝38.5%、次いで夕方15.4%であった。一方、B群では昼42.9%、朝28.9%であった。転倒時の動作はA群では歩行53.8%、立ち上がり30.8%であり、B群では歩行50.0%、段差昇降35.7%であり、両群とも歩行時に転倒している割合が高かった。転倒場所ではA群は寝室が最も多く38.5%、次いで居室30.8%であった。B群ではコンクリートの歩道50.0%、砂利道14.3%であった。
    【考察】
    BIに関しては両群ともに90点以上と高い点数であり、転倒とBIの関連性は低いと考えられる。転倒した患者のリスクファクターとして、活動量が多くなる時間帯や時期、動作と関連することが示唆された。特に両群において、歩行時に半数以上転倒していることから先行研究と同様、歩行時の転倒リスクが最も高く、屋内移動や外出頻度が高くなる日中に転倒リスクが高くなること考えられる。今回の結果から、BIの点数が高い患者においても、居室や寝室を中心とした家具や物の配置・動線の確認し、屋外では動線の確認や歩行器及び杖についての処方を再検討し、外的因子についての介入を考えていく必要がある。
    【まとめ】
    外的因子である家屋や生活の動線を早期から確認し、環境に合わせた治療を実施していく必要である。今後は更に具体的な環境因子を調査し、転倒との関連性を明らかにする必要がある。
  • 高橋 大介, 齊藤 雄大
    セッションID: 273
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    今回我々は,より適切な転倒予防対策を講じるため,転倒時期,出来るFIMの移乗項目(以下,出来る移乗)と通常のFIM移乗項目(以下,している移乗)およびその差(以下,δ移乗)と認知症の有無による転倒・転落との関係性を明らかにすることを目的とした.〈BR〉【対象と方法】
    平成21年1月1日~平成21年12月31日の間に退院した回復期リハ病棟患者135名を対象として,後方視的に情報収集を行った.まず,対象内の転倒者を認知症(以下,転倒認知症)・非認知症(以下,転倒非認知症)に分類し,している移乗・出来る移乗・δ移乗の三項目および転倒までの日数について検討した.次に,認知症者を転倒者(転倒認知症)・非転倒者(以下,非転倒認知症)に,非認知症者を転倒者(転倒非認知症)・非転倒者(以下,非転倒非認知症)にそれぞれ分類し,日数を除く上記三項目について検討した.認知症の評価はHDS-Rを使用し20点以下を認知症とした.統計学的検討はStat View5.0を用いてMann-whitneyのU検定を行い,有意水準は5%未満とした.〈BR〉【説明と同意】
    情報公開を行った既存資料から後方視的に情報収集を行った.〈BR〉【結果】
    転倒認知症と転倒非認知症の比較では,している移乗は有意差が認められた.できる移乗では有意差は認められなかった.δ移乗では有意差はなかったが傾向が認められた.転倒までの日数では有意差が認められた.転倒認知症と非転倒認知症のしている移乗,出来る移乗の比較では有意差は認められなかった.δ移乗では有意差が認められた.転倒非認知症と非転倒非認知症のしている移乗,できる移乗の比較では有意差が認められたがδ移乗では有意差は認められなかった.〈BR〉【考察】
    先行研究によると脳血管疾患・運動器疾患いずれも入院早期の転倒が多いといわれている.今回の調査においても認知症者では入院早期に転倒しており,先行研究を支持する結果が得られた.しかし,非認知症者では入院から転倒までの日数は比較的長く,先行研究を否定する結果となった.これは,非認知症者では理解力があるため,入院初期や介助レベルの場合は適切な判断が可能であるが,見守りから自立への移行と,環境への慣れが重なる時期に転倒していることが推察される.このことから,非認知症者に関しては,専門職として適切な説明を行い,危険や回復過程に対する理解を得ることが必要であると考えた.〈BR〉【まとめ】
    今回の結果が当院回復期病棟における,より適切な転倒予防対策を講じる一助となるものと考える.
  • 大隈 統, 杉本 諭, 小宮山 隼也, 古山 つや子, 小島 慎一郎, 町田 明子, 島嵜 理紗, 谷本 幸恵, 中村 諒太郎, 長谷部 唯
    セッションID: 274
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    動的バランス能力は日常生活の諸動作遂行に重要な要素の1つであり、転倒予防・寝たきり予防の観点からも重要である。我々はデイケア利用者にバランス練習を含めた理学療法を行っているが、バランス能力が改善するだけではなく、不変あるいは低下する例も経験する。今回、Timed up and go(以下TUG)の経時的変化を調査し、変化に影響する要因について基本的属性をふまえて検討した。
    【方法】
    対象は当デイケアを2年間以上利用し、以下の測定が追跡可能な54名(77.4±10.9歳:男性20名、女性34名)とした。測定項目は直近および25か月前(以下初期)の年齢、体重、要介護度、Barthel Index、5m最速歩行時間、Berg Balance Scale、TUG、両膝伸展筋力、Mini Mental State Examination(以下MMSE)、握力とした。手続きは、まず直近TUGから初期TUGを引いて平均値と標準偏差(以下SD)を求め、平均値-1/2SDの者を改善群、平均値±1/2SD以内の者を不変群、平均値+1/2SDの者を増悪群に群分けした。この3群の初期の各測定項目を、一元配置分散分析とTukeyの多重比較検定により群間比較した。更に増悪群では、TUGに増悪が見られた時期の診療録を確認し原因を検討した。統計学的解析はSPSSver11.5Jを用い危険率は5%とした。なお対象者には測定値の研究利用について説明し、書面にて同意を得た。
    【結果】
    TUGの差は3.0±7.6秒で、改善群14名、不変群28名、増悪群12名であった。各群の初期TUGは、改善群18.1秒、不変群16.1秒、増悪群21.1秒で3群間に差を認めなかった。他の項目の群間比較では、年齢は改善群74.5歳、不変群75.9歳、増悪群84.3歳と増悪群が有意に高齢であった。5m最速歩行時間は同様に7.6秒、6.8秒、11.0秒と増悪群で有意に長かった。増悪群の悪化原因の検討では、転倒骨折2名、腰痛増強2名、歩行への恐怖心増大1名、MMSEの5点以上低下2名、2.5kg以上の体重減少2名、本人の意向による歩行様式変更2名などがあげられた。
    【考察】
    群間比較では初期TUGに有意差を認めなかったことから、動的バランス能力の良好・不良に関わらず経時的に変化する可能性があり、適切なリハが動的バランスの改善や増悪予防に有効であると考えられた。また高齢および歩行速度の低値がTUG増悪の予測要因となる事が示唆され、理学療法施行上考慮すべき要因であると推察された。増悪の要因調査より、治療中に認識しやすい転倒骨折や疼痛増強だけでなく、認知機能や低栄養の観察も重要であると考えられた。
    【まとめ】
    当デイケア長期利用者の身体機能をTUGに着目して検討した。TUGを増悪させる要因として高齢、歩行速度の低下、転倒骨折、疼痛増悪、認知機能低下、低栄養が推測された。
  • 佐々木 洋平
    セッションID: 275
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    この空前の高齢化社会において健康寿命を可能な限り延長することは医療・介護資源を守る観点からも、理学療法士が必ず実現しなければならない課題であると考える。この問題に布石を投じるべく2007年に提唱されたロコモティブシンドローム(以下、ロコモ)の概念は臨床現場や地域にて徐々に浸透しつつあることを感じる。今回主に介護職を対象としたロコモの講義を実施し、回収したアンケートからロコモに関する現場の実情を窺い知ることができたので報告する。
    【方法】
    特別養護老人ホームに勤務する職員(介護職:18名、看護師:2名)を対象としてロコモの講義を行った後、本報告への同意を得たうえでアンケートを実施した。アンケート項目は「Q1.以前からロコモを知っていたか」、「Q2.講義を聞いてロコモについて理解できたか」、「Q3.ロコモーショントレーニング(以下、ロコトレ)を入居者にやってみようと思ったか」、「Q4.現場でロコトレを実践できそうか」、「Q5.どのような工夫をすれば入居者の運動への意欲がアップしそうか」とした。
    【結果】
    Q1:“初めて聞いた”が17名と多数を占めた。Q2:“よく分かった”が12名、“だいたい分かった”が8名と概ね理解は良好であった。Q3:“はい”が全員(20名)であった。Q4:“はい”13名、“いいえ”3名、“その他”4名で、多くが(条件付きで)実践可能という意見であった。Q5:50%以上の人が“運動の効果を説明しながら行うこと”と述べ、約30%の人が“成果をフィードバックしながら行うこと”と述べるなど、講義中にアドバイスした意欲向上に繋げるコツを理解していた。
    【考察】
    ロコモの認知度は15%と低かった。しかし難しい概念であるかという点では、全員が“よく分かった”又は“だいたいは分かった”と答えたことから、職種を問わず理解されやすい概念であると考える。またロコトレの実践についても、特別な道具や技術を必要としない、導入に対する門戸が広い概念であることが理解されたからこそ、全員が“やってみたい”と感じたことが推察される。しかし実際の導入については、“ロコトレできる人が少ない”など、対象者の個々の機能に合わせた対応をとれていないことがバリアとなっていた。そのためより多くの入居者が参加できるように、対象者のレベル別に運動項目をカテゴライズして現場職員に提示するなど、理学療法士はマネージメントの面でもその専門性を発揮する必要性があると考える。
    【まとめ】
    とかく集団体操では “笑顔で元気よく”などヒューマニズムを志向する傾向があるように思う。しかし専門的見地に基づいたノウハウの伝達は現場に意欲と自信を与えられることを感じた。
  • 吉永 裕策, 飛田 英樹, 桑垣 佳苗, 吉野 恭正
    セッションID: 276
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    当院入院時に理学療法の介入患者が自宅退院後に再入院する事がある。これらの患者の特徴と、理学療法士として在宅復帰後の再入院予防について検討したので以下に報告する。
    【方法】
    平成22年9月1日~平成23年9月1日までに当院へ再入院した患者から、初回入院時に理学療法を実施した30例を対象に、年齢、性別、初回入院時と再入院時の診療科と疾患、初回退院時Barthel Index(以下BI)と再入院時のBI平均値、初回入院期間と再入院までの期間、介護保険サービス利用の有無、退院時指導実施対象について調査した。尚、本研究は当院の倫理委員会にて承諾を得てカルテ内より調査を実施した。
    【結果】
    30例の平均年齢は80.9±7.9歳。性別は女性22例、男性8例。初回入院時の診療科は整形外科13例、外科9例、内科8例。疾患は圧迫骨折(8例)、大腿骨頚部骨折(4例)、悪性腫瘍(4例)が多かった。再入院時は内科13例、外科10例、整形7例。疾患は悪性腫瘍(4例)、肺炎(4例)、心不全(4例)が多かった。BI平均値は、初回退院時77.8点だが再入院時は48.6点だった。初回入院時の入院期間は、1ヶ月未満14例、1ヶ月以上~2ヵ月未満11例、2ヶ月以上5例。再入院までの期間は、1ヶ月未満11例、1ヶ月以上~2ヵ月未満5例、2ヶ月以上~3ヵ月未満4例、3ヶ月以上10例。介護保険サービス利用者は14例おり、通所サービスのみ11例、訪問サービスのみ1例、通所サービスと訪問サービス併用が2例。退院時指導実施の対象は本人のみ23例、本人以外も含めたのは7例。
    【考察】
    当院再入院患者は80歳以上の女性が多く、初回入院は骨折が多かった。初回退院時から再入院時BIは約29点の減点を認めた。松田らは、退院後再入院する割合が高いのは退院後15日~28日と述べている。当院も1か月未満での再入院が最も多く同様だった。再入院の要因は病院から自宅の環境の変化による活動性の低下も考えられた。また、介護サービス利用者で通所サービスのみの利用者は11例だが、訪問サービスの利用者は3例だった。今後は、自宅環境に配慮した訪問サービス利用を勧める必要もあると考えた。また、家族やケアマネージャーへ動作能力の指導やカンファレンスが実施されたのは7例だった。そのため、再入院を減少させるために退院前に家族やケアマネージャーなどへ患者の能力の伝達をより積極的に実施する必要があると考えた。さらに、退院後も環境の変化や身体機能や能力の変化に対して継続的なフォローアップする事が必要と考えた。
    【まとめ】
    再入院患者の特徴を理解する事で今後、理学療法士として家族や多職種間での関わる取り組みや退院後のフォローアップの重要性を再確認した。
  • 廣瀬 圭子, 田口 孝行, 内田 亮太, 菊池 裕美, 菅原 成元
    セッションID: 277
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    高齢化や在院日数の短縮により、地域で暮らす要介護者は増加傾向にある。現在、在宅要介護高齢者のうち71.3%が家族と同居し在宅生活を継続している。一方、介護疲れによる自殺者は、年間300人に達しており、家族の介護負担軽減は喫緊の課題である。そのため、在宅要介護者へのリハビリテーションは、機能回復のみならず家族の介護負担の軽減も考慮することが重要である。
    本研究では、居宅介護サービスにて理学療法士(以下、PT)によるリハビリテーションを受ける要介護高齢者の家族の夜間介護行為を調査し、介護負担軽減のために獲得すべき日常生活活動(以下、ADL)の内容を明らかにすることを目的とした。
    【方法】
    対象は、PTによるリハビリテーションを1か月以上受ける要介護高齢者の家族介護者255名とした。調査は、無記名自記式の質問紙調査とし、2008年7月~2011年9月に実施した。調査項目は、1.家族介護者の基本属性(性別・年齢・続柄)、2.ADLに関する夜間介護行為(排泄・更衣・体位変換・移乗)、3.要介護高齢者の基本属性(性別・年齢・要介護度)、4.家族介護者の介護継続意志とした。分析は、PTが着目すべきADLを明らかとするために、家族の介護継続意志(高・低)と4つの夜間介護行為(あり・なし)を独立変数とするχ 2 検定を行った。調査は、日本社会事業大学倫理審査委員会の承認を得た後、対象者に説明書にて倫理的配慮を説明し、同意を得たうえで実施した。
    【結果】
    家族介護者は、男性65名,女性190名、平均年齢67.3±12.9歳(範囲32-97)であった。要介護者の介護度は、要介護3が65名と最も多く、要介護4が62名、要介護2が50名、要介護5が46名、要介護1が32名の順であった。ADLに関する夜間介護行為の実施状況は、更衣介助が137名(53.7%)と最も多く、排泄介助が129名(50.6%)、移乗介助が61名(23.9%)、体位変換が34名(13.3%)の順であった。分析の結果、夜間介護行為のうち、更衣(p <0.01)と移乗( p <0.05)の介護行為に有意差が認められ、介護継続意志の低い者は、更衣と移乗の介護行為を行っている者が多いことが明らかとなった。
    【考察】
    家族介護者の介護負担と介護継続意思は、密接な関係があることが報告されている。ADLの中でも更衣と移乗の自立度を向上させ、同時にそれらの介助方法を家族介護者に指導することが、介護負担の軽減につながり、要介護高齢者の在宅生活継続に寄与できると考える。
    【まとめ】
    PTが要介護者のADL能力を自立に近づけることが、家族の介護負担軽減への有効な手段と考える。
  • 阿部 勉, 安孫子 幸子
    セッションID: 278
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
     物理療法と運動療法は,理学療法における治療手技の両輪である。両者を巧みに重ね合わせることで幅の広いより専門的なサービスが提供できる。しかし,昨今臨床現場では物理療法離れが顕著である。特に介護保険領域では物理療法に関する報告は,ほとんど見当たらない。現場では、日々あらゆる疼痛,廃用性筋委縮,関節拘縮などの症状に遭遇する機会は多い。それらの症状に対して物理的エネルギーは十分な効果が発揮できると考えられる。そこで今回,居宅サービス事業において,変形性膝関節症(膝OA)の疼痛に対し超音波療法 (US) の可能性をトライアル的に検証したので報告する。
    【方法】
     対象は、静岡市内の通所介護施設に通う利用者で膝OAにより膝関節痛を訴え、本研究に同意した11名とした(USの禁忌にあたる対象者は除外)。超音波治療器US-101L(伊藤超短波社製)を用いて,周波数1MHz,照射率50%,出力1W/cm2前後,膝の関節裂隙に1回10分の照射を週2~3回実施し,期間を2ヵ月間とした。効果判定には,変形性膝関節症患者苦悩評価尺度(JKOM),E-SASを用いて評価を行った。
    本研究はヘルシンキ宣言に基づき,全対象者に研究の内容について説明した上で書面において同意を得た。
    【結果】
     最後まで治療を完了した対象者は4名(実行群)だった。一方,途中で終了した者は7名(脱落群)だった。実行群のJKOMとE-SAS評価の一定の見解は認めなかった。また、“痛みが軽減した”,“歩行が改善した”の意見の一方で“あまり依然と変わらない”などの意見もあり本研究において膝OAの疼痛に対するUSの効果は検証できなかった。脱落群は,“効果がわからない”,“他の利用者との交流の時間が減る”などの意見とそもそも肥満傾向にある方が多かったなどの特徴が挙げられた。
    【考察】
     通所介護という既にある程度一日のプログラムが決まっている中で,利用者に対し新たなプログラム導入に十分なコンセンサスが得られなかった可能性が考えられる。現場の理学療法士もUSの効果について十分に説明できないなどの問題が生じていた。今回用いた効果判定も1回30分程度費やさられるなどの利用者負担が発生し,プロトコール事態にも無理があったことが考えられる。
    【まとめ】
     訪問リハビリテーションや通所サービスにおいても理学療法士の治療手段として運動療法と共に物理療法が望まれる。しかし,効果検証と合わせて物理療法導入に向けた卒前卒後教育の再構築も必要であると考える。
  • 内海 正人
    セッションID: 279
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
    肺炎により入退院を繰り返す脳性麻痺児に対し、訪問リハビリテーション(以下、訪問)による呼吸機能に対するアプローチを中心にしたプログラムを施行した結果、在宅生活を継続することが可能となった症例について、本症例の家族に発表についての説明と同意を得て報告する。
    【症例紹介】
    10歳1か月男性、低酸素脳症による脳性麻痺。2002年1月、新生児重症仮死で出生。2006年心肺停止にて蘇生管理・気管切開を行う(5歳)。2009年夏よりHOT2.5L開始となる。2010年6月頃より口鼻腔分泌物の気管垂れ込みや胃食道逆流、側彎や筋緊張亢進による換気不良などを起因とする肺炎により入退院を繰り返すようになる。ADLは全介助で栄養は臥位で経鼻経管にて行っている。調子の良い時は週3回支援学校に通っている。週2回訪問看護を利用している。
    【経過】
    2010年7月6日より、側彎進行予防・排痰・呼吸機能改善目的で、入院先の主治医の依頼により週2回の訪問リハビリテーション開始となる。開始時評価では、左凸の側彎が強く、体幹・両下肢伸筋群筋緊張が亢進していた。呼気時には両上肢の屈筋群の筋緊張が亢進するとともに両肩甲骨を上前方に回旋させながらの努力性の呼気であった。また、吸気時には胸郭の拡張がわずかに確認できる状態であった。聴診では、左の肺音は小さく、わずかに聴取できる状態であった。右の肺音は大きく、痰の貯留に伴うものと思われる副雑音が広範囲に聴取された。また、両股関節脱臼による股関節の可動域制限や膝・足関節にも可動域制限がみられた。訪問では、可能な限り楽に呼吸が出来るようになることを目標に、全身のリラクゼーション・関節可動域訓練・体位排痰・呼吸介助を施行する。週1回は訪問看護の後に介入し、集中的に排痰を行うようにした。家族には頚部・体幹・両肩甲帯のストレッチ、経管栄養時の体位を指導した。その結果、3か月経過した頃から、体幹・両上肢の筋緊張が低下し呼気努力は軽減するとともに、副雑音が減少した。度々体調を崩すことはあるが、肺炎を起こして入院することがなくなり、在宅生活を維持している。
    【考察】
    定期的な排痰やリラクゼーションにより、呼吸運動が改善した結果、肺コンプライアンスが改善し感染症が減少したため、在宅生活を維持できるようになったと思われる。
    【結語】
    呼吸機能に対するプログラムを中心としたリハビリテーションにより、感染症は軽減したが、経鼻経管栄養時のポジショニングなどを検討して肺炎のリスクをさらに軽減する必要があると思われる。
  • 高橋 昌
    セッションID: 280
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    埼玉県介護老人保健施設協会によるリハビリ職員対象の研修会としては、平成23年度は年3回実施されている。しかし維持期リハビリとして介護老人保健施設での理学療法や作業療法に関する勉強会が少ないため、現在埼玉県東部地区の介護老人保健施設のリハビリ有志による合同の勉強会を実施しているので以下に報告する。
    【方法】
    埼玉県東部地区のリハビリ勉強会について、介護老人保健施設のリハビリ管理者による会議を開催し1年間のテーマを決定してから、各施設の会場をもちまわりで理学療法士と作業療法士による合同のリハビリ勉強会を行った。
    【結果】
    第1回目の勉強会は「ハンドリング」がテーマで、講師は施設のリハビリ経験者が担当した。ボバースコンセプトにて、座位や立位の姿勢分析と立ち上がり動作のハンドリングの実技を行った。参加者は26名であった。第2回目は「肩甲帯・肩の評価と治療」がテーマで、講師はリハビリ養成校の先生に担当して頂いた。徒手的理学療法のコンセプトにて、講義とデモンストレーションを行った。参加者は34名であった。第3回目は、「日常生活指導」がテーマで、講師は施設リハビリ経験者が環境適応のコンセプトにて講義と実技を行った。参加者は23名であった。第4回目は「介護保険における住宅改修」がテーマで、福祉用具専門相談員が介護保険制度と住宅改修の説明を行った。参加者は19名であった。第5回目は「骨盤・股関節の評価と治療」がテーマで、第2回勉強会と同様にリハビリ養成校の先生に講義と実技を行って頂いた。参加者は20名であった。
    【考察】
    埼玉県東部地区は、7つの市町村からなり、15の介護老人保健施設がある。東部地区の介護老人保健施設の総セラピスト数は、理学療法士61.6名、作業療法士55.5名の計117.1名で、1施設平均では理学療法士4.1名、作業療法士3.7名である。勉強会に参加したセラピストの経験年数は1から3年が多く、臨床経験がまだ乏しくリハビリの知識や技術の習得に時間が必要な年代と思われる。そのため講義や実技に関しては、「非常に勉強になった」という意見が多かった。そして一番重要な点は、理学療法士と作業療法士が同じコンセプトで知識と技術を勉強する事が大切であったと、認識出来た事である。
    【まとめ】
    回復期リハビリと違い介護老人保健施設による維持期リハビリにおいては、短い時間と頻度での個別リハビリを要求されるため、セラピストには幅広い知識と技術が要求される。そのため各施設内での勉強会以外にも、地域において施設セラピスト同士での勉強会を通して質の向上を図る必要があると感じた。
  • 森井 将弘
    セッションID: 281
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
    当院回復期リハビリテーション病棟(以下,当病棟)では平成22年7月開設以来,入院患者の約20%が転倒事故を経験していた.その中でもベッド周囲の動作や病棟内移動がリハビリテーション(以下,リハ)および病棟スタッフの評価から自立と判断された入院患者の転倒がみられていた.これまでリハおよび病棟スタッフともに,自立と判断する明確な基準がなく,主観的な判断となりやすい現状にあった.そのため今回,自立検討を行う際に,リハおよび病棟スタッフともに共通した評価項目で,客観的に評価できるチェックシートを導入し,転倒予防が図れたか検討したため,ここに報告する.
    【方法】
    チェックシートは『病棟ベッド上端座位保持』『車椅子移乗』『病棟内移動』の3種類とし,それぞれ10項目程度チェックできるよう作成した.評価項目については,当院また他院での転倒調査により,転倒原因となった項目を重点的に表記した.今回,導入した効果を判定するため2011年9月から2012年1月のチェックシート運用事例の調査とインシデントレポートから当病棟転倒事故を後方視的に調査した.尚,調査を行うにあたり,個人が特定されないよう倫理的配慮を行った.
    【結果】
    運用件数は,当病棟入院患者総数131名(脳血管疾患65名,整形外科疾患62名,廃用症候群他4名)中102件(脳血管疾患38件,整形外科疾患59件,廃用症候群他5件)であった.入院患者による転倒・転落事故件数は25件(※同一患者による複数転倒回数を含む),うちチェックシート使用患者は4件(うち『病棟ベッド上端座位保持』2件,『病棟内移動』2件)であり,運用件数の4%であった.また病棟内移動自立患者に関して,運用前に転倒原因となっていた項目による転倒事故に減少がみられた.チェックシート導入後の自立患者の転倒例を分析した結果,病棟スタッフの評価者や時間帯によって評価が分かれ,判断基準に差が生じていた例や自立変更後約30日経過し,身体機能に変化が生じていた例がみられた.
    【考察・まとめ】
    チェックシート使用患者の転倒件数は低値であり,チェックシートの導入に効果があったと考える.チェックシートの導入により,リハおよび病棟スタッフともに客観的な評価が可能となり,評価基準の明確化につながったと考える.また病棟スタッフの詳細な評価により,病棟生活上の動作能力が把握しやすく,より病棟生活に沿った自立検討が可能となったと考える.今後の課題として,チェックシートの評価を行う詳細な時間帯や判断基準を設定することや,自立患者の再評価を行う機会を設けることについて検討していく.
  • 桑垣 佳苗, 飛田 英樹, 安達 純子, 畑田 紗也香, 久喜 絵理, 吉野 恭正(MD)
    セッションID: 282
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    入院患者の転倒・転落事故予防(以下転倒予防)に対するリハビリスタッフ(以下リハスタッフ)の関わりについてアンケートを実施した。
    【方法】
    全国の病院に勤務するリハスタッフ120名を対象とし、リハスタッフが院内の転倒予防に対して決まった取り組みを所属部で実施しているかについてアンケートにて問うもので、取り組みのあったグループの報告をする。
    【説明と同意】
    当院の倫理委員会の承認のもと、回答者の個人情報保護に留意しアンケートを実施した。
    【結果】
    アンケートの回答率は70%で、そのうち決まった取り組みがある施設は33施設(一般病院6施設、一般・回復期病院6施設、一般・療養病院6施設など)であった。1)取り組みの介入時期:「入院当日」「転倒事故発生後」「その他」が多かった。「その他」は1~2週間毎に何らかの関わりをもっていた。2)介入時間:「20分」「40分」が多く3)話し合いの場所:「ステーション」が多かった。4)介入職員:担当の「リハスタッフ」「看護師」が全例で挙がり、続いて「介護士」「患者」「医師」だった。5)リハスタッフによる転倒予防評価:「筋力」「ADL」「認知機能」は全施設実施し、転倒リスク評価法の活用は少数だった。6)リハスタッフによる具体的な転倒予防対策:「福祉用具の選定」「病棟ADLの設定」が多かった。7)対策の報告や周知方法:施設独自のものが多かったが、方法に課題を感じていた。
    【考察】
    1)取り組みの介入時期では、多くが転機のある入院当日や転倒事故発生後に介入していたが、2)介入時間や3)話し合いの場所の結果から、日々のカンファレンスでの患者の状態変化の把握が転倒予防に重要とする施設が多かった。4)介入職員について、リハ職種と看護師のチームが多かった。鈴木は、入院患者は病気の治療や栄養管理など多彩な問題を含んでいる為、薬剤・栄養科なども転倒予防チームに大切であると報告している。多職種の情報共有は重要であろう。リハスタッフによる5)転倒予防評価と6)具体的な予防対策では、病棟生活を重視した取り組みを行っている事が分かった。リハスタッフは転倒予防に有効といわれる運動療法と環境整備に長けた職種であると前川らが報告している様に、リハ部門は専門性を活かし積極的に転倒予防に介入すべきだろう。しかし7)対策の報告や周知方法から、方法・徹底に課題がある事が伺え、患者に関わる全職員が周知する方法を施設毎に考える必要がある。
    【まとめ】
    リハスタッフは転倒予防に対し専門性を活かした取り組みを行い、定期的に他職種間で予防意識をもって情報共有と連携を重視しているが、周知方法の検討が課題と分かった。
  • 青柳 法大, 杉山 眞二郎, 中原 康志, 金井 章, 鈴木 朋美, 永瀬 佳子, 松宮 巧(MD)
    セッションID: 283
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
    近年、糖尿病は世界的に増加の一途を辿り、日本では2025年に1400万人、予備軍も含め2210万人と予測されている。理学療法の対象疾患としても糖尿病の順位は上昇しており、合併症によるADL、QOL低下を予防していくためにも早期の介入は重要と考えられる。今回、2型糖尿病を羅患し、生活習慣の乱れから合併症を有した症例を今後の課題も踏まえ報告する。
    【説明と同意】
    今回の報告にあたり、ご本人へ主旨を説明し、承諾は得ている。
    【症例紹介】
    60歳男性、空腹時血糖値248mg/dl、食後2時間値323mg/dlと高値、BMI23.7。36歳から2型糖尿病となり46歳で糖尿病性腎症(透析3回/週)、49歳で右眼底出血で失明、58歳で下肢閉塞性動脈硬化症など末梢神経障害となる。今回、2011年7月に発熱、左足背部より排膿もみられ、創部感染のため入院となった。抗生剤治療でも回復せず左大腿切断術を施行。
    【経過およびアプローチ】
    切断後から介入し、ADLはFIM84点と移乗、移動面で減点が大きかったが、退院時は屋内ピックアップ、屋外車いすとし、FIM115点まで改善した。しかし、循環障害や表在感覚鈍麻により右下肢も正常レベルではなかった。問題点として、義足装着が困難、生活習慣の乱れ、糖尿病に関する知識不足、身体機能を把握できずにいたことが挙げられた。これらが高血糖や潰瘍に気付かず感染してしまうことにつながっていたと考えられた。理学療法ではADL訓練を中心に実施した。また、糖尿病や残存機能の悪化予防として、自己把握が重要と考え、運動療法の指導、評価結果のフィードバックも並行して実施した。指導を繰り返したことで運動の重要性が理解されはじめ、定期的な運動を意識し実施できるようになってきた。結果的に空腹時血糖値112mg/dl、食後2時間値142㎎/dlまでコントロール可能となってきた。
    【考察及び今後の課題】
    本症例は、罹患後から自己管理による血糖コントロールは必須であった。しかし、生活習慣を改善できず、糖尿病は悪化、透析により活動制限をきたした。ADLにも支障をきたし、仕事は退職を余儀なくされた。根底には糖尿病に関する知識や自己管理不足があり、合併症の重症化を引き起こしたものと考えられた。また、今後は右下肢も十分な管理が必要となる。糖尿病患者の大多数は、最終的に自己管理をしていくため、本症例も含め、生活習慣の改善、糖尿病に対する知識の向上、運動療法の継続が課題になると考えられる。そのため、早期から理学療法士は生活習慣の評価、運動療法、自己把握が行えるように指導、介入していくことが重要と考えられる。
  • 柿原 直哉, 安田 ひと美, 須崎 徹也, 前薗 昭浩, 田上 正茂, 荒木 俊彦, 浅井 亨
    セッションID: 284
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
    パーキンソン病(以下PD)は,症状の進行に伴い活動性が低下すると廃用症候群を引き起こし,誤嚥性肺炎や感染症などを併発することが多い.今回,PDの進行とともに嚥下機能の低下や服薬管理困難から休薬となり,感染症によって入院した1症例を経験した.病態の把握に難渋し経過を各病期に分けて考察したので報告する.
    【症例】
    PD(Yahr分類Ⅲ)を基礎疾患とする74歳の男性.1週間程度の臥床期間を経て,尿路感染症の診断で入院となる.L-dopaは処方されていたが,嚥下機能の低下や服薬管理困難で休薬していた.1病日からL-dopaの投薬を開始し,2病日から理学療法を開始した.なお,発表にあたり口頭にて同意を得た.
    【PT評価及び経過】
    病期と症状により3期に分けた.1期(PD徴候改善)2~18病日:初期評価時は,Yahr分類Ⅴ,Barthel Index(以下BI):0点,1週間程度で振戦の消失,無動・姿勢反射などのPD徴候および,全身状態の改善を認め,理学療法では座位や立位など基本動作練習を実施した.PD徴候の改善に比べ,ADLの改善は乏しくYahr分類Ⅳ,BI:5点であった.この時期はPD徴候の増悪や入院前からの廃用症候群, 感染症による全身状態の悪化,またL-dopaの投薬の再開など病態を変化させる要因が混在しており,その把握に難渋した.2期(感染症の再燃)19~49病日:発熱が持続し,尿路感染再燃の診断となる.1期よりPD徴候に変化はないが,徐々に意欲低下を認めYahr分類Ⅳ,BI:0点となる.この時期の精神面の低下をPD症状の一つと考え,症例が受容する座位等の練習内容で廃用症候群の予防を図った.3期(感染症の改善)50~81病日:炎症所見の改善に伴い意欲低下の改善も認め,徐々に活動性が向上し平行棒内歩行が可能となる.最終評価ではYahr分類Ⅲ,BI:35点,起居動作は自立,独歩見守りとなる.
    【考察】
    1期は炎症所見とPD徴候の改善が認められた時期であるが,PD徴候とADLの改善の間にはTime lagがあった.PDは進行性疾患で,一度活動性が低下すると改善が困難となりやすい.本症例においてもPD徴候の改善後,ADLに反映されるのに時間がかかった.PTとしてはPD徴候などの身体症状に目を向けがちであるが,改めて全身状態の評価と知識が必要で,それが病態の把握に繋がると再確認した.2期は感染症が再燃し,それに伴い動作能力が低下した.介入時は精神面の低下をPD症状の一つであると考えていた.しかし,2期においてPD徴候には変化がなかった点と,3期において炎症所見と共に意欲にも改善が見られた点から,感染症の要因が大きく影響していたと考えた.3期では順調なADLの改善を認めた.その理由として,2期での感染症の再燃期も,精神状態に合わせた負荷量で廃用症候群の予防が行えた為であると考えた.
  • 右田 真里衣, 山崎 哲司, 佐藤 史子
    セッションID: 285
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    進行性核上性麻痺(以下PSP)によりすくみ足が著明で認知機能低下のある方に、在宅でレーザー杖を工夫し単独移動時のすくみ足が軽減したため報告する。尚、報告にあたり書面で本人、ご家族に説明し同意を得た。
    【方法】
    症例は84歳女性。平成19年PSP診断。認知機能(注意・記憶)低下有り。ADL自立。移動は主に4点杖歩行や伝い歩きで、すくみ足が著明。その為トイレに間に合わず洗面器に排尿有り。トイレまでの平均移動時間は2分43秒であった。日中は単身状態で移動の介助は得られず、歩行の改善を目指した。
    すくみ足改善に向け開始前動作や視覚刺激を検討した。開始前動作(足を高く上げる等)は効果はあるが、介助者の促しが必要であった。視覚刺激(床にテープ等)は、直後の効果はあるが数日後には無効であった。次に既製レーザー杖を試行した。これはスイッチを押すとレーザーが床面に出るT字杖で、すくみ足の方に効果がありパーキンソン病友の会で販売されている。しかし、介助者の促しが無いとレーザー杖を使用する事やスイッチを押す事が行えなかった。また、本人にとってやや前方にレーザーが出る為、その距離が却ってすくみ足を助長する事等があり、既製レーザー杖をそのまま適用出来なかった。その為、臨床工学技師の協力で、以前から使い慣れている4点杖にレーザーを取り付け、グリップを握ると本人に合った位置にレーザーが出るよう調整し導入に至った。
    【結果】
    本人用のレーザー杖を使用した時の平均移動時間は35秒となり、すくみ足が軽減してトイレに間に合うようになった。また、9週間後にも効果が持続していた。
    【考察】
    PSPにより認知機能低下のある方がすくみ足を改善する為には、身体機能だけではなく生活環境の確認も重要であり、今回の症例は自宅内を単独移動する事から、介助者の促しが無い状況で行える事が必要であった。しかし、常に生活環境上にある視覚刺激では効果は持続しなかった。これに関する研究論文等での報告は確認出来なかったが、慣れると注意が向けられず効果が持続しなかったと考える。効果を持続させる為には必要時のみ視覚刺激となるレーザー杖の適応があると考えたが、既製レーザー杖では身体機能的にも生活環境的にも本人が使いこなす事は困難であった。その為、既製レーザー杖を参考にしながら、本人に合わせて操作手順を減らす等の工夫をした事が、レーザー杖の有効性を高めすくみ足の軽減に繋がったと考える。
    【まとめ】
    PSP者にレーザー杖を工夫した症例を経験し、身体機能だけではなく生活環境をみる事や、その方に合った用具に工夫する事の大切さを学んだ。
  • 川村 雄介
    セッションID: 286
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    頸髄症患者の合併症として,深部静脈血栓症(以下,DVT)は理学療法の妨げになり生命の危険にさらされる。また社会的課題は職場復帰であり,職種によって要復帰期間は異なる。本症例は術後血腫による症状悪化で下肢完全麻痺となり,DVTを発症しながらも運動療法で歩行機能再獲得し,早期に同職種復帰を果たしたのでここに報告する。なお,本人より個人情報保護の誓約に対する同意を書面にて得た。
    【方法】
    39歳男性。椅子製造業勤務。平成23年5月下旬に右下肢疼痛で発症。7月下旬に両下肢脱力により歩行障害を呈し,MRIにて頸椎椎間板ヘルニア(C5/6)と診断され当院入院となる。観血的治療が計画され術前より理学療法を開始した。
    [経過]第2病日目のMMTは上肢5,下肢4。下肢MAS3。第7病日目に頸椎前方固定・除圧術施行。第11病日目に寝返り中の全身通電感後より四肢筋力低下が出現。MMTは上肢3,下肢0。MRIで血腫による脊髄圧迫確認。第20病日目で呼吸苦を訴え,造影CTにて両側肺動脈本幹等に巨大血栓を確認しDVT発症。理学療法中止。ICU管理後の全身状態は安定し,第42病日目に頸椎椎弓形成拡大術施行。術翌日に理学療法再開し、MMTは上下肢2。歩行時に挟み足や踵打ち歩行が出現。第90病日目に松葉杖歩行で試験外泊。第106病日目で自宅退院。その後は外来通院練習実施。最終評価のMMTは上肢4,下肢5。下肢MAS1。
    【結果】
    入院中は最終到達目標を歩行器歩行で自宅生活としていたが,徐々に上下肢の筋力強化を認め,痙性が軽減し,発症後約3ヶ月で自宅退院。外来通院時に松葉杖やT字杖使用下から独歩となり,異常歩行が消失して正常歩行獲得。発症後5ヶ月で椅子製造業復帰を果たした。
    【考察】
    頸髄症の術後脊髄症状悪化率が約4%,復職率は約30%で要復帰期間は約8ヶ月と報告されている。本症例は不動や安静による約3週間の理学療法中止期間を経て,早期職場復帰となった。初期治療は足底感覚刺激や筋力強化,歩行練習を実施した。しかし異常歩行出現後,即座に荷重・多関節連鎖運動を重点におき正常歩行動作を反復。さらに体幹・下肢近位筋の筋力強化や,重心低位置から開始するバランス練習を中心とした治療内容に変更した事により,歩行機能再獲得や職場復帰に効果的であったと考える。加えて患者が障害克服に対する強い姿勢を維持していた事も重要であったと考える。
    【まとめ】
    本症例は中枢神経障害後の神経可塑性により機能的再構築の妥当性を示唆する。今回の経験を通して神経科学領域の進展動向を熟知し,定量的に検証された標準的治療方法を参考に,患者個人の機能特性を踏まえた理学療法を展開する事が重要であると再認識した。
  • 木名瀬 彩花, 上倉 洋人, 川ウ 仁史, 吉田 竣祐
    セッションID: 287
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    脳卒中右片麻痺の症例に対し,歩容改善と歩行耐久性向上を目的にGait Solution Design(以下GSD)を使用した体重免荷トレッドミル歩行練習(以下BWST-ex)を行った.その結果を報告する.
    【方法】
    対象者は40歳代女性.左基底核梗塞により右片麻痺を呈していた.第18病日目の所見で,Brunnstrom stage(右)は上肢3,手指2,下肢4.麻痺側下腿三頭筋の筋緊張が亢進し足クローヌスは陽性であった.立位は自立レベル(Berg Balance Scale(以下BBS)47点)で,補装具無しでの歩行は監視レベル(10m歩行速度44.51m/分,歩行率89steps/分,6分間歩行232.5m)であった.歩容として,Initial Contact(以下IC)での足底全面接地やMidstance(以下MSt)での軽度膝ロッキング(疲労により頻度増加)がみられ,麻痺側立脚期は短縮していた.また,麻痺側遊脚期には足関節背屈不十分で体幹右側屈や骨盤の挙上,分廻しがみられた.歩容の改善と歩行耐久性の向上に向けてGSDを用いたBWST-exを1日に10~15分,8日間実施した.GSDは速度に応じてダンパーを変更し,免荷量は体重の20%から開始した.上肢支持なしで行える速度から開始し,最高速度は下肢が後方へ流されない速度とした.実施時間は症例の疲労感を参考にした.介助は麻痺側上下肢に加えた.治療時間以外は補装具無しでの歩行が移動手段であった.なお,症例には本報告に関して書面を用いて説明し同意を得た.
    【結果】
    介入2日目に下腿三頭筋の筋緊張改善が認められ,6日目には分廻しが軽減した.介入8日目(第30病日目)には足クローヌスが軽減し,BBS は55点に向上した.10m歩行速度は98.04m/分,歩行率は147 steps/分,6分間歩行は415.7mとなった(補装具無し).歩容は麻痺側立脚期の膝ロッキングと,遊脚期の体幹右側屈・骨盤挙上・分廻しが軽減した.歩行距離の延長に伴い,歩容を維持することは困難であった.
    【考察】
    本症例で得られた結果から,セラピスト介助によるGSDを使用したBWST-exは麻痺側足クローヌスの軽減に有効であり,それにより歩行速度と歩容の改善につながった.しかし,歩行距離が延長すると歩容を維持できないため今後は治療時間以外にもGSDの使用を継続する必要があると考える.また介入期間中も生活レベルでのGSDの使用が必要であったと考える.さらに,1日10~15分のBWST-exによる実際の歩行距離は800m~1km程度であり,更なる歩行耐久性向上に向けて練習量の増加が必要だと考える.
    【まとめ】
    GSD使用での体重免荷トレッドミル歩行練習は,脳卒中片麻痺患者の足クローヌス改善に一定の効果があり,歩行機能を向上させることが示唆された.
  • 小磯 寛
    セッションID: 288
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    今回,脳卒中片麻痺患者(以下片麻痺患者)への足底振動刺激による立位バランスや歩行への即時効果について検討する機会を得たので報告する.
    【方法】
     対象は2011年10月~2012年2月の期間に当院へ入院された片麻痺患者の内,高次脳機能障害および認知機能低下がなく,自助具の使用有無は問わず歩行レベルが見守り以上の患者6名(平均年齢74.0±6.8歳,男性4名/女性2名,右片麻痺4名/左片麻痺2名,急性期4名/亜急性期1名/維持期1名,下肢Brunnstrom Recovery Stage(以下BRS)IV 1名/V 3名/VI 2名)とした.全ての対象者に対して書面および口頭にて本研究の主旨説明を行い,同意を得た.対象者に背もたれのある椅子に安静座位をとらせて足底振動刺激を15分間加え,その前後で麻痺側足底触覚(以下足底感覚),静的立位における麻痺側荷重率(以下荷重率),10M自然歩行時間(以下10M歩行),Timed Up & Goテスト(以下TUG)を測定した.足底振動刺激はツインバード工業(株)製のフットマッサージャーRM-B705BRを使用,介入前後の各測定結果の比較検討を行った.
    【結果】
    足底感覚は6名中2名(いずれも急性期)にて軽度改善し,この2名において荷重率増加がみられた.残りの4名においては足底感覚に変化はなく,荷重率は3名に変化なし,1名(急性期)に減少が認められた.10M歩行は足底感覚・荷重率に変化のなかった1名(女性,右片麻痺,急性期,BRS IV)で著明に改善し(介入前27秒81,介入後18秒59),同被験者にてTUGの著明な改善が認められた(介入前26秒31,介入後20秒45).その他5名においては10M歩行・TUGともに著明な変化はみられなかった.
    【考察】
    片麻痺患者では,異常筋緊張による痙縮や随意性の低下を受け,歩行等の動作レベルが低下していることが多くみられる.先行研究では振動刺激の効果として異常筋緊張の改善が挙げられており,今回歩行・TUGが改善した1例においても,足底感覚や荷重率には変化を及ぼさなかったものの,足底振動刺激により麻痺側下肢の筋緊張が適切な状態に調整され,動作の改善につながったのではないかと考えられる.歩行・TUGが改善した症例はBRS IVと他の被験者より比較的麻痺が残存していたことからもそのことがうかがえる.また,今回機能・動作に変化のみられた被験者は4名とも急性期であり,発症後早期のほうが足底振動刺激による影響を受け易い可能性が示唆された.今後は症例数を増やして麻痺の程度別や病期別に足底振動刺激の効果を検証するとともに,その作用機序や効果の持続時間について明らかにしていきたい.
  • 鬼塚 勝哉, 横山 明正, 松永 玄, 田中 精一, 丹 栄美子, 藤本 修平, 大高 洋平
    セッションID: 289
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    Mini-Balance Evaluation Systems Test(Mini-BESTest)は,BESTest(Horak et al,2009)の簡易修正版として考案された,4セクション,14項目により構成されるバランス評価スケールである(Franchignoni et al,2010).バランス能力を要素別に評価できるという特徴があるため,問題点を明確にでき,治療計画を立案する上で有用であると報告されている.しかし,Mini-BESTestに関する信頼性および妥当性はいまだ報告されておらず,本研究では回復期脳卒中患者における信頼性・妥当性を検討することとした.
    【方法】
    対象は回復期病棟に入院中の脳卒中患者28名(平均年齢:65.86±12.04歳)とし,適応基準は指示理解が可能で歩行FIMが5点以上とした.対象には,ヘルシンキ宣言に基づき研究内容について十分に説明し同意を得た.信頼性について,上記対象のうち4名(平均年齢:56.75±17.04歳)に対して理学療法士1名が検査を実施し,その検査を4名の理学療法士(経験年数:2年目・4年目,各2名)が観察によって同時に採点することで検者間信頼性を検討した.妥当性については,各患者のMini-BESTest得点に対する基準関連妥当性を検討した.データ解析は,検者間信頼性を級内相関係数ICC(2,1),内的整合性をCronbachのα係数にて求めた.基準関連妥当性は,Mini-BESTestとバランス評価として利用されるBBS・TUG・FRTの相関係数を求め,指標とした.測定順序による影響を相殺するために,循環法によりMini-BESTestおよび各バランス評価の測定順序を並び替えた.なお,本研究で用いたMini-BESTestは日本語に訳してマニュアルを作成した.
    【結果】
    Mini-BESTest総合点のICC(2,1)は,総合点で0.95(95%信頼区間:0.82-1),セクション毎の得点は0.88以上であった.Cronbachのα係数は,総合点で0.89,セクション毎は0.73以上であった.各バランス評価との相関係数はTUG(r=-0.83),BBS(r=0.78),FRT(r=0.37)であった.
    【考察】
    Mini-BESTestはFRTとの相関が低く,より動的なバランス能力を要するTUGやBBSとの相関が高かった.Mini-BESTestは比較的に歩行能力が高い,回復期脳卒中患者において信頼性および妥当性が高いバランス評価スケールであるという事が示唆された.
    【まとめ】
    Mini-BESTestはバランス評価スケールとして高い信頼性と妥当性が得られた.
  • 丹 栄美子, 横山 明正, 松永 玄, 田中 精一, 鬼塚 勝哉, 大高 洋平
    セッションID: 290
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    Mini-BESTest はBESTestの簡易版として2010年にHorakらによって報告された.特徴は4つのセクション(合計32点)で構成され,バランス能力を多面的かつ簡便に評価できることである.Mini-BESTestは様々な疾患に対して測定が可能とされているが,その有用性について,まだ十分な検証は成されていない.そこで,本研究では脳血管障害患者(CVA患者)に対してMini-BESTestを実施し,MiniBESTest得点と転倒との関連について調査したので報告する.
    【対象と方法】
    対象は当院に入院し,同意の得られたCVA患者25名(男性21名,女性4名,平均年齢65.28±10.93歳)とした.そのうち,入院中に転倒した者を転倒群(8名),転倒しなかった者を非転倒群(17名)に分類した.対象者の歩行自立度は転倒群,非転倒群それぞれ,FIM7(0名,12名),FIM6(0名,0名),FIM5(4名,5名),FIM4(2名,0名),FIM3(1名,0名),FIM2(1名,0名)であった.方法について,MiniBESTestは入退院時に各1回計測し,総得点およびセクション毎の得点を算出した.転倒群と非転倒群それぞれの得点を算出すると共に,群間におけるバランス能力の傾向について調査した.両群間のデータ解析にはt検定を用い,有意水準は5%とした.
    【結果】
    平均総得点は転倒群7.13±7.83点,非転倒群21.47±6.72点で,両群間の平均総得点には有意差を認めた(p<0.05).また,両群間のセクション別平均総得点はそれぞれ1)姿勢変化・予測的姿勢制御(2.25±2.38点,5.82±1.94点),2)反応的姿勢制御(0.50±1.41点,3.88±2.50点),3)感覚機能(3.00±2.67点,5.35±1.50点),4)歩行の安定性(1.38±2.50点,6.41±2.79点)であり,セクション3を除く全てのセクションにおいて両群間に有意差を認めた(p<0.05).
    【考察】
    Mini-BESTest総得点,およびセクション3を除く全ての得点において,転倒群と非転倒群間に有意差を認めた.これについて,セクション3は他の3つのセクションと比較し,静止位でのバランスを評価する項目が多かったことから,転倒群は非転倒群と比較し,特に動的バランスの低下が大きいことが示唆される.また,Mini-BESTestは脳卒中の他のバランス評価スケールと比較し,評価項目が細分化されているため,患者のバランス面のうちどこが問題点なのかをより明確にでき,臨床にアプローチとして活かしやすい指標となりうると考えられた.今後は症例数を増やし,Mini-BESTestと転倒との関連について検討を重ねることで,転倒予測指標として臨床に応用されうると考える.
    【まとめ】
    Mini-BESTestは転倒予測指標としても,それを利用したアプローチを考慮するうえでも有用と考えられる.
  • 時松 亮平, 風間 俊幸, 小林 由佳
    セッションID: 291
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    今回、当院回復期チームの中で、認知運動療法をテーマにした学習を23年度4月より行ってきた。従来の理学療法評価を学んできた1年目の理学療法士が認知運動療法で使用される評価表を一症例に対して使用した。その過程で、運動課題に対する症例の意識を考察する経験をし、介入する際により幅広い視点を持つ事ができた。経験年数の少ない理学療法士がより幅広い視点から介入していく際に今回のような方法も有効的ではないかと考えたため報告する。
    【方法】
    一症例に対して、当院作成の認知運動療法評価表から一部抜粋し、本症例の歩行に対する運動意識を評価。内容はどのように言語を使うか、どのように認識するか、どのように注意を使うか、意識と志向性という4項目である。これらの評価から仮説を立て介入していく中で症例の運動課題への意識に対する学習を進めた。
    【結果】
    以上の介入を通してセラピストは以前と比較して、外面的な観察だけでなく症例の意識という項目も加味した評価を行い、症例像をとらえることが出来た。そのことからより幅広い視点から仮説を立て介入を行うことが出来るようになった。
    【考察】
    学校教育で学んできた基本的な理学療法評価と比較して認知運動療法の評価では症例の運動に対する意識をより深く考察していくような項目が多く存在していた。このような違いが今回の経験につながったのではないかと考えた。
    【まとめ】
    今回のような学習方法を行うことによって、経験年数の少ない理学療法士が患者様の運動への意識への考察を深めようとする際に一つの手段として使うことが出来るのではないかと感じた。
  • 須永 菜央, 須崎 徹也, 前薗 昭浩, 田上 正茂, 浅井 亨
    セッションID: 292
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
    平成22年4月、セラピストによる喀痰の吸引が認可され、当院では同年7月より病棟において喀痰吸引を開始した。当院は3次救急指定病院であり、重症頭部外傷、脳血管疾患、多発外傷などの気管切開患者が多く、早期からのリハビリテーションが要求される。以前、セラピストによる吸引は病棟のみに限られており、リハビリテーション室(以下リハ室)での治療中に吸引が必要となれば、病室に戻らざるをえず、円滑な治療プログラムが実施できない現状があった。
    【目的】
    日本理学療法士協会は喀痰吸引に関する基本姿勢の中で、リハ室に吸引装置を設置する必要性について述べており、当院リハ室には緊急時に対応するため、以前よりバッテリー式携帯型吸引器が設置されていた。今回、セラピストの吸引技術の向上もあり、その吸引器を用いてリハ室での吸引を開始したので報告する。
    【方法】
    平成22年10月よりリハ室における吸引準備として、バッテリー式携帯型吸引器の使用方法・手順、管理、使用後の消毒・操作についてマニュアルを作成した。感染対策として吸引を実施する際は他患者に配慮し、実施後は周囲の訓練機器の消毒を徹底した。同年11月よりリハ室での喀痰吸引を開始した。
    【説明と同意】
    本発表について倫理上の配慮が必要となる内容は含まれていない。
    【結果】
    平成22年11月から平成23年11月までの吸引件数は39件で、月平均3.3±3件であった。リハ室での喀痰吸引に伴うインシデント・アクシデントは0件であった。
    【考察】
    リハ室で吸引が可能になったことにより、治療中に吸引を要する患者でも、身体機能にあった治療プログラムを実施することができた。実際の吸引件数は3件と多くはなかったが、セラピストにとっていざというときに吸引が行える治療環境は、安心感が大きかった。
    インシデントの報告はなかったが、リハ室での吸引は車いすやtilt table上など不安定な姿勢で実施することが多く、咳嗽反射や体動による転倒・転落のリスクが高いと感じた。その際は2人態勢で行うことが望ましいと考える。
    病棟同様、吸引の配管を整備した場合、吸引場所は一か所に限られるが、この携帯型吸引器はあらゆる場所で使用が可能であり、リハ室の環境に適していたといえる。また、一部部品が使い捨てのためコストが生じるが、吸引器使用環境からみても現状が妥当であると推察する。
    急性期病院において、安全な環境下で早期から円滑なプログラムを実施することは使命であり、セラピストによるリハ室での吸引は急変時や早期離床の点からみても必要性が高いことが示唆された。
  • 羽田野 稔, 平野 祥子, 宮島 いずみ, 深川 新市, 浜辺 政晴
    セッションID: 293
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    当院では平成23年4月より365日リハビリテーション体制に移行し日,祝日に休日リハビリテーション(以下休日リハ)を開始した.そこで職員意識調査を通して当院における休日リハに関わる職員の現状を把握し,職員の意識の変化や看護部・リハ科間の連携等の点での影響を知ることで今後の更なるサービスの向上や業務改善に役立てることを目的とした.なお本研究は当院倫理委員会の承認を得た.
    【方法】
    調査方法はアンケートとし対象は当院回復期病棟に所属しているリハビリテーション科職員55名.配布期間は平成23年10月24日から11月20日.調査内容は,1.患者家族との関わりについて2.病棟職員との関わりについて3.患者への対応について4.患者の治療効果について5.リスク管理について6.休日リハの今後について7.休日出勤の負担についての7項目とした.回答方法は,無記名自記式とし4段階選択・二者択一・自由記載を併用した.
    【結果】
    55名に配布し54名から回答を得た.1.患者家族との関わりは「変わらない」が72%で最も多かった.2.病棟職員との関わりは「変化があった」が56%で以前と比べてADL場面の情報収集が行ないやすいとの回答がみられた.3.患者への対応は「変化があった」が70%で患者の訴えを傾聴できるとの回答が多かった.4.患者の治療効果は「どちらともいえない」が57%であった.患者の身体能力に対しては一定の効果があると思う一方で患者の精神的・身体的への負担を考えるとどちらともいえないとの回答や、休日リハ実施による治療効果の判定が難しいとの回答が多かった.5.リスク管理は「とても不安」「不安」「少し不安」が67%で人員的に手薄な休日の急変時対応に自信がないという回答が多かった.6.休日リハの今後は継続した方がいいという回答が89%と多かった.7.休日出勤の負担は「変わらない」が59%であったが一方「負担が大きい」「負担である」が30%で家庭との時間調整に苦慮するとの回答もあった.
    【考察】
    今回の意識調査より患者家族・病棟職員との関わりに変化はなかったものの患者への対応には著明な変化があった.また,職員が休日の患者の急変時対応に自信がない,休日リハ実施による患者の治療効果が主観的にはあまり感じ取れない,休日リハの継続にあたり今以上の休日出勤回数になった際,職員が負担と感じる等の問題点が示唆された.対策は,回復期病棟に所属している職員は定期的に急変時対応を確認する機会をつくる,休日リハ実施後の患者の治療効果を客観的数値に示し職員間で認識を共有する.また,更なる充実した休日リハを実施していく上での休日出勤者の人員確保が今後の課題となると考える.
  • 木津 仁美, 成田 守宏, 澁谷 裕子, 宮島 いずみ, 深川 新市
    セッションID: 294
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    2010年度診療報酬改定で休日リハビリテーション提供体制加算が新設され,早期回復・在宅復帰に向けてより集中的なリハビリテーション(以下,リハビリ)を提供する医療施設が増えてきた.当院でも2011年4月から各患者の主担当療法士の出勤に応じて土日・祝日のリハビリを実施する形で休日リハビリを開始し,実施後の患者満足度について知ることで今後のリハビリ提供方法の参考とするため調査した.
    【方法】
    2011年10月24日~10月31日に当院回復期リハビリ病棟に入院していた患者で担当療法士が口頭と書面でアンケートの主旨を説明し内容を理解し同意を得られた52名を対象とした.回答は自由意志とし,回答形式は5段階評定尺度法を用いた.身体の障害などによりアンケートの記入が難しい方は同意のうえ担当療法士が代筆した.なお,本調査報告は当院倫理委員会の承認を得た.
    【結果】
    アンケートは52名に配布し46名(男性20名,女性25名,不明1名.平均年齢72.3±13.0歳)から回答があり,回収率は88%であった.「平日のリハビリ内容に満足しているか?」は,とても満足46%,ほぼ満足46%,どちらともいえない2%,やや不満2%,不満4%.「土日・祝日のリハビリ内容に満足しているか?」は,とても満足22%,ほぼ満足54%,どちらともいえない9%,やや不満4%,不満7%,無回答4%.「土日・祝日にリハビリがあることで肉体的・精神的負担は大きいか?」は,大きい0%,やや大きい11%,どちらともいえない37%,あまり大きくない17%,大きくない33%,無回答2%.「土日・祝日も平日同様のリハビリが実施される方が良いと思うか?」は,そう思う52%,やや思う15%,どちらともいえない20%,あまり思わない7%,思わない4%,無回答2%.「土日・祝日にリハビリがあることで日常生活動作の早期回復に役立ったか?」は,そう思う61%,やや思う20%,どちらともいえない11%,あまり思わない4%,思わない2%,無回答2%.
    【考察】
    休日リハビリに対しては大きな負担を感じておらず,日常生活動作の早期回復に役立っていると感じ,平日同様のリハビリ実施を望まれる患者が多かった.また,当院が提供しているリハビリ内容に満足は得られているものの,平日リハビリに比べ休日リハビリの満足度が低かった.その理由として,休日リハビリに関しては主担当療法士の出勤に応じて提供しているためと考えられ,勤務形態に関わらず365日のリハビリが求められているのではないかと思われる.そのためには,まず療法士のマンパワーの確保が必要となってくる.今後今回の結果に加えて在院日数や客観的な生活自立度の変化と合わせて考察していきたい.
  • 小島 加奈子, 渡邊 彰
    セッションID: 295
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
    当院回復期病棟では、日々病棟スタッフにより移乗介助が行われている。リハビリスタッフからの報告やベッドサイドボードの掲示により患者のADLを共有しているが、それぞれの介助者によって介助量に差がみられることがある。そこで移乗介助についてアンケート調査を実施した。
    【対象と方法】
    病棟スタッフ(看護師16名、介護士8名)とリハビリスタッフ(PT16名、OT9名)に対し、無記名による選択・記入式アンケートを実施。内容は同じものとし、病棟スタッフには移乗介助を行っていて困っていると感じること(介助方法について・疾患について・個々の患者様への対応について)、リハビリスタッフには病棟スタッフが困っているだろうと感じることを、そう思う・ややそう思う・あまりそう思わない・そう思わないより選択してもらった。なお本研究にあたっては倫理的配慮として、ヘルシンキ宣言を遵守した説明のもとに実施した。
    【結果】
    リハビリスタッフでは困っている・やや困っているだろうとの回答が多数の項目は12項目中11項目だったが、病棟スタッフでは12項目中6項目と、介助方法について、疾患について、個々の患者様への対応についての全ての項目で、リハビリスタッフが感じているよりは、病棟スタッフの困っているとの回答が少ない結果となった。
    【考察】
    結果より病棟スタッフとリハビリスタッフ間での移乗介助に対する意識に差があることが確認された。また、当院作業療法士が行った別のアンケートでは、ベッドサイドボードを不便に感じたり知識不足を感じているのにも関わらず、移乗介助で困った際の解決が病棟内で多く行われているとの結果となり、リハビリ・病棟スタッフ間での適切な情報共有が図れていないと考える。リハビリの一環として移乗介助を行ってもらうため、リハビリスタッフは説明や動作指導などの働きかけを行っている。しかし適切な情報共有が図れていないため、日々の移乗介助が過介助になりやすく、リハビリの一環としての目的ではなく、単に車いすやベッドに移るだけの目的となっていることが多いのではないか。
    【結論】
    今後、病棟スタッフにも病棟での移乗動作をリハビリの一環として捉えてもらうため、さらなるリハビリスタッフからの働きかけとして、ベッドサイドボードの検討・情報伝達方法の検討・移乗介助指導の検討を行い、より緊密な情報共有を図っていく必要性があると考える。
  • 石本 壮星, 成田 崇矢, 後藤 雅幸
    セッションID: 296
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    大学準硬式野球部員・サッカー部員の傷害予防策を講じるため、現在の疼痛・傷害歴を明らかにすることとした。
    【方法】
    質問紙にて大学準硬式野球部員28人、サッカー部員15人を対象に競技歴、現在・過去の疼痛部位や時期を小学生期~大学生期まで調査した。本研究は健康科学大学研究倫理委員会の承認を経て行い、対象者全員に研究の趣旨を説明し同意の得行った。
    【結果】
    野球部員の過去の総傷害部数で多かった肩関節・肘関節傷害の発生時期は、肩関節は中・高校生期に多く、肘関節は小~高校生期に多かった。サッカー部員の過去の総傷害部数で多かった膝関節・腰部・股関節・足関節の傷害発生時期は、膝関節・腰部・股関節は中学生期に多く、足関節は中~大学生期に多かった。野球部員の現在の傷害部位は肩関節に多く、サッカー部員の現在の傷害部位は腰部に多かった。
    【考察】
    野球部員の傷害部位について、中学生期以降は肩関節周囲の筋肉バランスが不均一になることでアライメント不良が起こり、インピンジメントが発生すると言われているため肩関節に傷害が多くなったと考える。小・中学生期は、骨・神経・筋肉が未発達であるため手投げになりやすく、発育期の脆弱な成長軟骨をもつ肘関節にストレスがかかると報告されているため、小・中学生期で肘関節の傷害が多くなったと考える。また高校生期は骨端線が閉鎖した後に繰り返される効率的な投球動作の破綻によって肘傷害が発生したと考えられる。現在肩関節痛有訴者のうち、過去に肩関節に既往がある者は多い。このことから傷害予防のためには、過去の疼痛発生原因を追究し、それを改善してから競技をすることが重要だと考える。
    サッカー部員の傷害部位について、中学生期は骨と筋の成長のアンバランスが生じやすく、ランニング・キック・ジャンプ動作により膝関節にオスグッドシュラッター病が多くなったと考えられる。サッカーの競技特性は片足で全体重を支えることや接触プレーが多い。また、サッカーでは腰部や下肢に傷害が集中しているとの報告がある。このことから高校生期になると成長に伴う変化が要因の傷害以上にサッカーの競技特性からくる傷害が目立つようになったと考える。足関節捻挫はサッカー競技で接触プレー時に発生しやすい。しかし、発育期のサッカー部員の特徴は接触プレーが少ない。これより中~大学生期で小学生期と比較し足関節捻挫が多いと考えた。
    【まとめ】
    各競技に多い傷害部位やその傷害部位は年代により発生頻度が異なることを明らかにした。理学療法士による競技特性・年代に即した傷害予防介入の際に有益な資料となると思われる。
  • 羽田 匡伸, 成田 崇矢, 鳥飼 達也
    セッションID: 297
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    Bahrらは外傷が発生する要因として年齢や身体組成、筋力などの内的要因、環境や使用道具などの外的要因、プレー状況等の誘発イベントにより外傷が生じると述べている。なかでも身体組成、筋力は競技によって個体間で差が大きく、選手一人一人にとっての正常範囲の設定が難しい。そこで運動習慣のない一般大学生との差に着目し、大学準硬式野球部員とサッカー部員の身体特性を明らかにすることを本研究の目的とした。
    【方法】
    大学準硬式野球部員28名、サッカー部員15名、一般大学生12名を対象に行った。形態測定は体重、骨格筋量、各部位の筋肉量をInbody720(バイオスペース社)にて測定した。筋力測定は多機能筋力測定装置(BIODEX medical systems Inc.)を使用して肩関節90°外転位での内外旋(角速度180、300deg/sec)、膝関節屈伸(角速度60、180deg/sec)を測定した。関節可動域測定は肩関節内・外旋(2nd position)、股関節屈曲・外転・内旋、胸腰部回旋、足関節背屈を測定した。また、スクワットテストを行った。本研究は健康科学大学研究倫理委員会の承認を経て、被験者には研究内容の説明をし、同意を得て実施した。(承認番号第4号)
    【結果】
    上肢の筋肉量は野球部員がサッカー部員、一般大学生と比較し有意に多かった。骨格筋量は野球部員が一般大学生と比べ有意に多かった。180deg/secでの右膝伸展筋力、両膝屈曲筋力は野球部員が一般大学生と比べ有意に大きかった。肩外旋、胸腰部回旋可動域は両側共に野球部員が一般大学生と比べ有意に大きかった。右股関節外転可動域は野球部員、サッカー部員共に一般大学生と比べ有意に大きく、左は野球部員のみ有意に大きかった。スクワットテストはサッカー部員が野球部員、一般大学生に対して有意にしゃがみ込めなかった。足関節背屈可動域はサッカー部員が野球部員、一般大学生に対し小さい傾向にあった。
    【考察】
    野球部員の特徴として、繰り返される投球、バッティング、守備動作により膝屈曲筋力や肩外旋可動域、上肢の筋肉量や股関節外転可動域、胸腰部回旋可動域も大きかったと推察する。サッカー部員の特徴として、サッカーはトラップ動作やキック動作などで股関節外転を行うため、右股関節外転可動域が一般大学生と比べ有意に大きくなったと推察する。また、足関節背屈可動域が小さいことよりスクワットテストにてしゃがみ込めないという特徴がでたと推察する。
    【まとめ】
    本研究は大学野球部員、サッカー部員の身体特性を明らかにした。得られた結果は理学療法士による身体特性に即した傷害予防や、メディカルサポートを行う際、有用な資料になると思われる。
  • 奈良 篤, 穴水 悦子, 北山 由布子, 藤原 大輔, 荒川 あかね, 舟久保 一也
    セッションID: 298
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
     下肢周径の測定は客観的な指標として広く用いられている.臨床において他者との周径の測定値に差があることに疑問を持った.また先行研究において検者間の信頼性の報告は少なく,言及もされていない.そこで本研究では,大腿周径の測定において検者間の信頼性に影響する要因として,ランドマークの位置,巻尺を締める強さ,巻尺の傾きに着目し検証を行った.
    【方法】
     検者は書面で承諾を得た当院の理学療法士28名(平均経験年数5.4±5.0年)とし,被験者は健常成人1名とした.検者は経験年数に偏りが出ないよう3群に分け,ランドマークの位置を固定した群(以下固定群),ランドマークの位置を固定した上で巻尺を締める強さを口頭で具体的に指示した群(以下強さ群),大腿部に対し垂直に一周線を引いた群(以下傾き群)とした.検者に普段行っている方法で背臥位になった被験者の右側膝蓋骨上縁10㎝の周径を測定させ,数日後に各群の設定した方法で同一部位を測定させた.測定器具は同一の巻尺を用いて3回ずつ測定し,測定値は1mm単位で読み取った.統計処理は,二元配置の分散分析を用いて級内相関係数ICC(2,1),及び標準誤差の算出を行った.信頼性については桑原らの基準に則って設定した方法前後で検証した.なお本研究は当院の倫理委員会の規定に基づき認証を得ている.
    【結果】
     ICC(2,1)は,固定群前0.88,後0.94,強さ群前0.89,後0.96,傾き群前0.85,後0.87であった.また標準誤差では,固定群前±0.11cm,後±0.09 cm,強さ群前±0.08 cm,後±0.06 cm,傾き群前±0.06 cm,後±0.09 cmであった.桑原らの基準では,全ての群の設定した方法前の信頼性は0.8以上であり良好であった.また固定群と強さ群においては設定後の信頼性は0.9以上であり優秀であった.
    【考察】
     設定した方法前においても検者間の信頼性は良好であったため,設定した方法前後の検証で影響している要因を明らかにすることはできなかった.しかし優秀という結果から,ランドマークの位置の固定と巻尺の締める強さを提示することは,より信頼性を高める因子になると考えた.これはランドマークの位置の固定を行うことで,検者が視覚的に巻尺をあてる位置が明確となり,また締める強さは個人差が生じ易く,指示を加えることで強さの調整が行い易くなり信頼性が向上したと考えた.
    【まとめ】
     今回,大腿周径の測定における検者間の信頼性に影響する要因を検証した.その結果,ランドマークの位置の固定と巻尺の締める強さを提示することが信頼性を高める要因であると考えられた.
  • 中川 真理子, 西村 清陽, 青木 幸平, 徳本 文代, 木島 隆
    セッションID: 299
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    中枢疾患、整形外科疾患を問わずセラピストの他動的誘導による重心移動練習が広く行われている。しかし、実際はセラピストが他動的誘導を行った後、患者自らが適切な重心移動を行えるのかが疑問である。そこで本研究は、部分荷重練習を用いて被験者が能動的に部分荷重をした場合と、セラピストの誘導で部分荷重した場合とで荷重量の再現に違いがあるのかを明らかにするため、健常成人を対象として部分荷重練習時の誘導の有無により荷重量の再現性にどのような影響があるのか検討した。
    【方法】
    対象は、既往歴として神経学的疾患、運動器の著明な変形・疼痛を認めない健常成人23名(男性11名、女性12名、平均年齢±標準偏差は25.6±4.0歳)であった。この23名を非誘導群11名(以下A群、男性5名、女性6名、平均年齢±標準偏差25.9±5.5歳、)と、誘導群12名(以下B群、男性5名、女性7名、平均年齢±標準偏差25.5±2.3歳)の2群にランダムに割りつけた。2群に対し目標値として体重の3/4の部分荷重練習を上肢支持なしにて左下肢に行った。A群はセラピストが他動的誘導を行わず、B群はセラピストが骨盤の他動的誘導をし、2分練習、2分休憩、2分練習の1セット行わせた。さらに2分休憩後、各群に目標値を再現させその値を計測し、その直後被験者に荷重練習中の注意の内省を聴取した。体重計はタニタ製バネ計り式体重測定器を使用した。パフォーマンスの良否は得られた荷重量と目標値から達成比と相対誤差を算出した。統計解析は2群間の達成比と相対誤差を比較するため対応のないt検定を行なった。また荷重時に得られた内省を比較するためχ2検定を行った。なお有意水準は5%未満とした。
    【説明と同意】
    対象者には研究の主旨を十分に説明し同意を得た。
    【結果】
    平均達成比±標準偏差はA群1.00±0.03、B群1.05±0.07であった。また平均相対誤差±標準偏差はA群2.1±1.9、B群は7.7±4.5であった。達成比、相対誤差ともに2群に有意差(p<0.05)が認められ、A群にはバラつきが少なかった。また内省については、2群間に有意差は認められなかった。
    【考察・まとめ】
    平均達成比と平均相対誤差は2群間に有意差が認められたことから、非誘導群の方がより正確に荷重でき目標値付近に分布する荷重結果が得られると示唆された。荷重練習時の注意の内省には2群間の有意差が認められなかったことから、誘導の有無が注意に与える影響は小さいと思われる。このことから、実際に臨床における重心移動練習は少なくとも能動的に行うことを考慮した方が正確な練習となると考える。
  • 古河 浩, 中井 雄一朗, 木勢 峰之, 矢口 悦子, 米田 香, 小林 祐太, 寺岡 彩那, 山ウ 敦
    セッションID: 300
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    股関節周囲筋活動について股関節角度変化による報告は多いが、足関節角度変化に関する報告は少ない.我々はステップ動作時において、足関節角度変化により下肢筋活動、特に殿筋の筋活動が高まることを仮説とし、本研究にて検討したので報告する.
    【方法】
    対象は、整形外科疾患を有さない健常成人女性10名(年齢22.1±1.7歳)で、研究趣旨を十分説明し同意を得た.運動課題は、右足部を前方に置き、左下肢から右下肢に前方への重心移動(以下ステップ動作)とした.開始肢位は、足底を床に接地した肢位(以下傾斜台なし)と、傾斜台に載せた肢位(以下傾斜台あり)とした.傾斜台ありでは、傾斜台の下に体重計を置きその上に右足部を載せ、高さ調節のため左足部は台に載せた.また右下肢への荷重量は体重の20%とした.終了肢位は、左の踵及び母趾球に設置したフットスイッチが離れ、かつ右下肢と体幹が直立位になった状態とした.傾斜台の角度を5°、10°、15°と変化させ、右膝関節伸展位でかつ右踵部へ荷重するように注意を促した.また動作を確認する目的で、矢状面からデジタルカメラで撮影し、解析にはICpro-2DdA(ヒューテック社製)を使用した.表面筋電図計はWEB-7000(日本光電社製)を用い、電極を右側の大殿筋上部・下部線維、中殿筋、前脛骨筋に貼付した.終了肢位までの筋活動を周波数1kHzでサンプリングし、動作ごとの%IEMGを算出した.統計処理にはPASW Statistics18を用い、各項目に対して一元配置分散分析を行い、有意水準は5%未満とした.
    【結果】
    傾斜台なし、傾斜角度5°、10°、15°の順に%IEMGを記す.大殿筋上部線維:25.1%、25.2%、24.1%、26.1%、大殿筋下部線維:20.5%、21.3%、20.6%、21.9%、中殿筋:24.3%、25.8%、23.9%、24.7%、前脛骨筋:11.4%、12.7%、17.1%、15.0%であった。筋活動に変化はあったものの一定の傾向を示さず、すべての筋に有意差は認めなかった.
    【考察】
    傾斜台なしと傾斜台ありでは、筋活動に有意差は認めなかった.今回、傾斜角度の増加に伴い、前脛骨筋の活動が高まっていたことから、足関節優位の姿勢戦略であったことが伺える.また、個人で姿勢制御が異なり、体幹での代償動作が高まった可能性も考えられる.つまり本課題では、殿筋の筋活動が必要とされなかったことが示唆される.
    【まとめ】
    足関節角度が異なりステップ動作に伴う殿筋の筋活動を、健常成人を対象に計測した.しかし、足関節角度変化により殿筋の筋活動に有意差は認めなかった.このことは、個人の姿勢制御や運動パターンの差が影響していることが推察される.今後、より厳密な条件設定が必要と思われる.
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