関東甲信越ブロック理学療法士学会
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第31回関東甲信越ブロック理学療法士学会
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  • 松嶋 美正
    セッションID: 54
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
    脊髄小脳変性症は、変性疾患の一つであり経過の進行具合、症状は病型によって様々である。症状、身体機能の把握は、一般的に失調症状には指鼻指試験などが行われるが、動作の正確性を観察するものであり定量的評価とは言い難い。包括的な評価スケールにより得点化することも可能であるが、軽微な身体機能の変化を把握するには困難なところもある。そこで本研究の目的は、身体機能が総合的に表出される日常的な起居動作、起き上がり動作を経時的に計測し、脊髄小脳変性症の病状の進行具合、身体機能の把握が可能かどうか明らかにすることである。
    【方法】
    症例1:男性、55歳、合併症は高血圧症。症例2:女性、52歳、合併症は糖尿病。2症例とも幼児期に脊髄小脳変性症と診断される。指鼻試験陽性、MMTは3以下、著明な関節可動域制限は、足関節背屈(-30°)であった。起き上がり動作の計測は、開始肢位は背臥位とし、終了肢位は横座りとし体幹の動揺がなくなったところで終了とした。ストップウォッチで2回計測し、最小値を起き上がり動作所要時間(動作時間)とした。分析方法は、動作時間における回帰直線とその信頼区間(標準誤差;SE)を求めて検討した。対象者ならびにその家族に対し、調査に対する詳細な説明を行い,承諾を得た後に研究を開始した。
    【結果】
    調査期間中の評価回数は症例1が39回、症例2は38回(平均4.3±1.7回/月)であった。動作時間の平均は、症例1;11.9±1.9秒、症例2;15.9±5.3秒であった。SEは症例1;1.6秒、症例2;3.0秒であった。経過は、2症例とも調査期間中に転倒を一度経験した。転倒後の動作時間は、回帰直線の信頼区間外の値となった。症例2においては転倒後、しばらく動作時間の延長が認められた。しかし、調査期間中の回帰係数(症例1;‐0.10,症例2;‐0.38)より、2症例ともに動作時間は短縮傾向にあった。
    【考察】
    症例1の調査期間中の動作時間は、SEから安定していたと考えられる。これは症例1の身体機能は症例2より高く、日常の活動量も維持されていたこと、転倒の影響が少なかったためと考える。症例2の動作時間の延長は、転倒により約1ヶ月間、活動量が低下したためであると推察された。しかし、身体機能の回復とともに動作時間も短縮したため、病態の進行はないと判断した。2症例の外れ値は回帰直線の信頼区間より転倒後の動作時間にあたり、起き上がり動作が転倒による身体機能への影響を抽出したと考える。したがって、転倒の影響や日常の活動量を反映する起き上がり動作時間の評価は有用であるといえる。しかし、季節的変化の影響も考慮するためには、さらなる経過観察が必要である。
  • 江戸 優裕
    セッションID: 55
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
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    【はじめに】
    人工骨頭置換術は一般的には大腿骨頚部骨折に対する観血的治療であるが、大腿骨頚部の変形例に対しても選択され、比較的良好な成績が報告されている。しかしながら、理学療法士の観点から術後の経時的変化を示した報告は少ないのが現状である。そこで今回は、骨折後の整復不良よって大腿骨頚部に不良アライメントを呈して1年半が経過した症例における人工骨頭置換術(Bipolar Hip Arthroplasty:BHA)後の経過を報告する。
    尚、今回の報告に際して症例にはその主旨を説明し同意書を締結した。
    【症例紹介】
    症例は60歳代の女性である。
    2010年3月にエスカレーターで転倒し、開脚が強制されて左大腿骨頚部骨折を受傷した。数日後にCompression Hip Screw(CHS)を施行したものの、骨折部の整復が困難で顕著な不良アライメントが残存した。その後、次第に疼痛・歩行困難が増悪したため、2011年2月より外来での理学療法を開始し、筆者が担当した。そして、2011年10月にCHSの抜去、及びBHAを施行した。
    症例は日常的な疼痛の寛解と歩行能力の向上を望んでいた。
    【治療経過】
    大腿骨アライメントについては、[BHA前→後]として示すと、頚体角はX線画像上[160°→140°]、前捻角はCraig testにて[判定不可能→25°]と正常に近づいた。また、頚部長は対側に比して[-9mm→+8mm]と延長された。
    股関節の運動については、最も顕著な制限を有した外旋可動域を[屈曲0°位・屈曲90°位での外旋(°)]として示すと、BHA前は[-35・-10]もの制限を有していた。BHA後は麻酔下においても[-25・非実施]の改善に留まり、術後1週で[-20・非実施]、2週で[-15・-5]、4週で[-10・10]、8週で[-5・30]、16週で[5・45]という経過を呈した。この経過は股関節前外方関節包の伸長性増大によるものと推察された。
    歩行については、BHA前は歩行器を用いており、立脚期に左大腿は常に内向きとなっていた。そのため、膝関節は屈曲・外反・外旋位となり、下腿は前内方傾斜していた。これに伴って足圧中心も前内方化し、この作用を主として担う腓骨筋に疼痛(Numerical Rating Scale:9/10)を招いていた。BHA後は術後3週でT字杖歩行が自立したものの、Brattstromeの述べる脚長差の補正作用によって左下腿の前内方傾斜、及び疼痛は残存(3/10)していた。このため、左股関節外旋可動域の拡大と共に右踵補高による脚長差の補正等を図ったところ、歩行時の膝関節の動きは矢状面上で遂行されるようになり、術後7週で疼痛は消失(0/10)し、独歩も自立した。その後はcoxitis kneeへの移行の予防を図り、術後16週で理学療法を終了した。
  • 上野 貴大, 高橋 幸司, 荻野 雅史, 原 和彦
    セッションID: 56
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
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    【目的】
    大腿骨近位部骨折患者において、回復期に生じる疼痛として筋痛が知られている。筋痛は代償運動による筋の過活動が原因とされているが、実際にどのような代償運動がどのように筋の過活動を生じるのかという点については明らかにされていない。そこで本研究では、発症から4ヶ月経過時に筋痛が残存していた大腿骨近位部骨折患者1例の歩行について、3次元動作解析及び筋電図解析を行い、代償運動が筋痛にどのような影響を及ぼしているのかを検討した。
    【方法】
    対象は左大腿骨頚部内側骨折により当院へ入院し、人工骨頭置換術を施行後約4ヶ月経過した60歳代女性であり、大腿筋膜張筋に圧痛を伴う筋痛を認めていた。対象の歩行についてVICON NEXUS 1.7.1(Oxfordmetrics製)と床反力計(Kistler製)を用いた身体運動計測、筋電計WEB-5000(日本光電製)を用いた筋電図測定を同期計測した。マーカー配布位置は、臨床歩行分析研究会が推奨する10点とした。筋電図測定の被検筋は、左右の外側広筋・大腿筋膜張筋・大腿二頭筋・大殿筋とした。3次元動作解析は解析ソフト(DIFF Gait・Wave Eyes)を用い、立脚相を100%に正規化し、制動期における関節角度のピーク値、関節モーメント・床反力後方分力の積分値を算出した。筋電図解析は、scilab-5.3.3にてButterworth filter (10Hz-400Hz)で処理し、全波整流後、制動期における平均積分値を算出した。得られた結果について、健側・患側下肢で平均値を比較した。また、被験者には計測に際し、本研究の趣旨について説明し同意を得た。
    【結果】
    健側と比べ患側で股関節伸展角度・モーメントは小さく、膝関節屈曲モーメントは大きかった。床反力後方分力は、健側と比べ患側で大きかった。健側と比べ患側の全ての筋で筋活動が大きかった。
    【考察】
    3次元動作解析結果を解釈すると、大腿骨近位部骨折による股関節伸展角度低下により股関節伸展モーメントの低下を生じ、床反力後方成分は増大し、膝関節屈曲モーメント増大へ繋がっているものと考えられた。これは、大腿骨近位部骨折による股関節可動性低下を補う代償運動と捕らえられる。筋電図解析を加味すると、患側下肢において股関節運動を抑える防御性収縮、内部モーメントとしての膝関節伸展モーメントを生成するための筋収縮が生じていることが考えられた。特に筋痛発生筋である大腿筋膜張筋での筋活動が患側で大きく、代償運動に伴う筋活動増大が筋痛へ影響を与えていることが推測された。
    【まとめ】
    対象症例では、代償運動に伴う筋の筋活動増大が筋痛へ影響を与えていることが推測され、過去の報告を客観的データで裏付ける結果となった。
  • 松永 勇紀, 田中 宏典, 湖東 聡
    セッションID: 57
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
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    【目的】
     大腿骨頸部骨折の骨接合術は一般的には非転位型が適応となり、若年者においては転位型にも適応されている。当院では、Cannulated cancellous screw(以下、CCS)もしくはHansson pin固定術を施行している。理学療法分野において、人工骨頭置換術の症例に比べて上記症例に対しての理学療法報告は少ない印象を受けている。今回、当院にて理学療法を施行し5カ月経過まで追えた症例の股関節可動域とADLについて報告する。
    【方法】
     対象は、2008年から2011年9月までに当院で手術を施行し、理学療法を施行した17症例(男性4例、女性13例)のうち、理学療法経過を5カ月まで追えた8症例とした。内訳は8例とも女性で平均年齢64.1±13.8歳であり、CCS固定術を施行した症例は3例、Hansson pin固定術を施行した症例は5例であった。Hansson pin固定術を施行した5例のうち1例は転位型でGarden分類3型であった。5か月経過した症例における術側股関節可動域、ADLを理学療法診療記録から後方視的に調査した。可動域測定は、日本整形外科学会、日本リハビリテーション学会に準じゴニオメータを使用して計測した値である。
    【倫理的配慮、説明と同意】
     本学会での症例報告に対し、個人情報は各種法令に基づいた当院規定に準ずるものとする。
    【結果】
     5カ月経過での股関節可動域は、8例平均にて屈曲101.3±5.2°伸展8.8±5.2°、外転29.4±3.2°、内転14.4±4.2°、外旋41.3±4.4°、内旋22.5±7.6°であった。Hansson pin5例とCCS3例では、股関節可動域にはおいて大きな差はみられなかった。歩行は、受傷前独歩の症例は6例であり5か月経過時点で6例とも独歩を獲得しており、残り2例は受傷前T字杖歩行であり、2例ともT字杖歩行を獲得していた。今回の検討8症例から外した9症例も含めた17症例の中で、術後1年経過で大腿骨頭壊死に至った症例は1例(CCS施行、非転位型)であった。
    【考察・まとめ】
     股関節可動域は、内旋が22.5±7.6°であり、外旋41.3±4.4°と比べると低下していた。頸部骨折の75%に関節内血腫を認め、関節内圧が高くなっており、また術中検査の関節内圧測定にて下肢内旋位が他の肢位と比べて関節内圧が高かったという報告がある。術後の内旋可動域練習にて疼痛を訴える症例が多い印象を受けている。5カ月経過でも胡坐と正坐は可能であるが、割坐と受傷側を内旋位にした横坐り動作が困難な症例がみられていた。今回の調査結果から、症例数が少ないという検討課題はあるものの股関節内旋が5か月経過時点では低下していることが分かった。疾患特有の症状や手術に応じた理学療法内容も検討し、より高いADL獲得を目指すことが重要であると考えている。
  • 荒川 洋平
    セッションID: 58
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
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    【目的】
    大腿骨近位部骨折術後の股関節屈曲可動域拡大は基本動作や日常生活動作獲得の過程で重要な要素の一つである。臨床上、関節可動域訓練は背臥位や端座位で大腿骨の動きを操作することが多い。しかし、痛みを誘発しやすく過剰な筋収縮や心理的なストレスなど二次的障害につながる場合もあり術後早期から積極的に介入することは難しい。本研究では、大腿骨近位部骨折術後患者に端座位姿勢で骨盤前傾エクササイズを行うことで股関節屈曲可動域の改善に有効であるかどうかを検証することを目的とした。
    【方法】
    対象は大腿骨近位部骨折受傷後当院で手術を行った11例(男2名、女9名、平均76.2歳)とした。対象者はランダムに骨盤前傾エクササイズ介入群(以下介入群)5名、骨盤前傾エクササイズ非介入群(以下非介入群)6名に振り分けた。股関節屈曲角度は日本リハビリテーション医学会の方法に準拠し、手術後3日後、7日後、14日後に測定した。骨盤前傾エクササイズは端座位で股関節内外旋・内外転中間位として自動介助運動で骨盤帯の動きを誘導した。頻度は1日10回2セット。代償運動に注意し疼痛のない範囲で行った。それぞれの時期における両群間の比較はマンホイットニーのU検定(片側検定)を用い有意水準5%にて行った。対象者には本研究の主旨を説明し同意を得た。また、当院倫理委員会で研究内容の承認を得た上で開始した。
    【結果】
    術後3日目介入群の股関節屈曲角度は84.0 ±9.6 °、非介入群は72.5 ±12.1 °であり介入群で股関節屈曲角度が有意に高値を示した(P <0.05)。術後7日目の介入群が103.0 ±2.7 °、非介入群が92.5 ±11.3 °、また術後14日目では介入群が112 ±5.7 °、非介入群が102.5 ±12.5 °であったが有意差は認めなかった。
    【考察】
    術後3日目介入群で股関節屈曲可動域が有意に大きくなった。端座位で骨盤前傾を行う介入群では大腿骨が座面に固定された姿勢であり、寛骨臼蓋に対して大腿骨頭を安定させるための過剰な収縮が起きにくい。しかし、背臥位で股関節屈曲可動域訓練を行う非介入群では、股関節を支点に大腿骨が長いモーメントアームとなるため大腿骨頭を安定させるために疼痛が出現しやすく、疼痛や恐怖感による防御性の収縮が生じやすくなる。よって術後早期で両群間の股関節屈曲可動域に変化を認めたのではないかと考える。
    【まとめ】
    今回の結果から骨盤前傾エクササイズを行うことで大腿骨近位部骨折術後早期において股関節屈曲可動域の改善に有効性があることが示唆された。今後さらに症例数を増やし、疼痛やADL自立度との関連性も含め検討していく必要がある。
  • 邑口 英雄, 平石 武士
    セッションID: 59
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    現在,医療分野では情報の標準化やケアプロセスの効率化が推進され,QI(クオリティインディケーター)等により質的評価が可視化されている.理学療法研究ではアウトカム指標の報告は多いが治療過程の適切性の指標であるプロセスの報告は散見される程度である.今回は大腿骨頚部骨折患者のプロセスとアウトカムの関連性を調査することを目的とした.
    【方法】
    対象は2009年1月~2011年8月に大腿骨頚部骨折受傷後,人工骨頭置換術を施行した患者30名(平均年齢76.5±6.9歳)とした.取込基準は患肢全荷重が可能な者,受傷前歩行自立者とした.除外基準は認知症,脳血管疾患等を伴う者とした.電子カルテより後方視的に,プロセスとして入院から手術までの日数(P1),手術からPT開始までの日数(P2),手術から1/2PWBまでの日数(P3),手術からFWBまでの日数(P4)を,アウトカムとして退院時歩行能力と在院日数を調査した.退院時歩行能力は退院時FIMで歩行6点以上の者を歩行自立群とした.解析方法は,P1~P4と在院日数との関連はSpearmanの順位相関係数を用いて,P1~P4と退院時歩行能力(自立群・非自立群)との関連はMann-whitneyのU検定を用いて群間比較を実施した.また退院時歩行能力を従属変数,P1~P4を独立変数とした多重ロジスティック回帰分析(強制投入法)によりオッズ比を調査した.統計解析はDr SPSS Ⅱ for Windowsを使用,危険率5%未満を有意水準とした.本研究の内容はヘルシンキ宣言を基に実施しており,収集した個人情報については当法人の個人情報管理規定に則り取り扱った.
    【結果】
    在院日数との相関はP4でrs=0.345と弱い相関が認められた.歩行自立群・非自立群の平均日数は,P1:5.8±2.8日,8.5±4.2日,P2:3.3±2.7日,3.0±2.0日,P3:10.2±6.0日,10.3±2.9日,P4:21.8±9.4日,20.8±8.7日であり,群間比較では有意差は認められなかった.多重ロジスティック回帰分析よりP1~P4のオッズ比はP1:0.777,P2:1.050,P3:0.959,P4:1.044であった.
    【考察】
    患肢荷重量変化は理学療法治療過程では一つの転機と考えられるが,その時期は歩行獲得を決定付けるプロセス指標ではないことが示唆された.手術施行を遅延させる因子は歩行能力へ影響を及ぼしている可能性が示唆された.
    【まとめ】
    手術や荷重時期等のプロセス指標はアウトカムに対する直接的な影響は少ないと推察された.
  • 横田 直子, 横田 直子, 小坂 香代子
    セッションID: 6
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
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    【はじめに】
    心臓リハビリテーションの効果は様々なエビデンスが証明されているが継続できる受け皿が乏しい現状である。通所リハビリテーション(以下デイケア)において慢性期リハビリテーションを継続し効果のあった症例を報告する。学術的発表にあたりご本人より承諾を得ている。
    【症例紹介】
    70代男性。病前は転勤の多い会社員。診断名:心筋梗塞・多臓器不全(H20.12)EF27%、BNP800-1000pg/ml、血圧96-80/62-50mmHg。H21.6月自宅退院。入浴・更衣のみ軽介助。屋外連続歩行は30M程度。知的レベル高く、治療への意欲強い。
    【経過】
    H22.12月通所施設の終了に伴い当デイケア利用開始。専門的なリハビリを継続したいとの希望あり。以前レジスタンストレーニング中心の自主トレーニングが原因と思われるBNP上昇があり自主トレ中止となっていた。監視下にて3Mets程度のプログラムから開始し、開始1ヶ月で持久力の向上と安全な運動強度が定着した為、セラバンドを用いた自主トレーニングを指導。教育と情報交換の場としても活用される。H23.6月散歩やバスでの外出を楽しまれるようになる。8月NPOで行っている心臓リハビリテーションを紹介し、デイケアと併用開始。運動負荷試験の結果現行の運動強度のまま継続の方針となる。妻の入院の際も家事や見舞いなど行えていた。9月耐久性の向上に伴いプログラムを追加。同程度の運動時間を延長。調理・園芸・散歩・掃除など楽しまれる。
    【結果】
    退院後21カ月時点で急性増悪なし。ADLは入浴の洗体を除いて自立。H23.12月の会議にて、執刀医から筋量が増えてほめられたこと、苦しくて20歩で休んでいた道を20-30M歩行後自分でひと息入れて歩き続けられたこと、リスクに配慮して外出できていることがご本人より語られた。また、道行く人に障害者と見てもらえず苦労したことも語られた。
    【考察】
    包括的心臓リハビリテーションの一環として介護保険下でのデイケアにて慢性期心臓リハビリテーションの継続に関わった。介護サービスの他、医療・NPOなどのサービスと共同して症例を援助できた。急性増悪なく運動耐用能、自己効力感の改善ほか一定の効果を得た。デイケアは慢性期の心臓リハビリテーションの一選択と成りうる。終了期限がなくライフスタイルやQOLに踏み込んで援助を継続する事が可能であり、通院困難による継続不能の要素も除外できる。今後も制度や情報不足の狭間でリハビリテーションの恩恵を受けられない方が少なくなるよう働き掛け続ける必要がある。
  • 目黒 智康, 絽カ 慶太, 大沢 涼子, 成田 美加子, 楢原 秀之
    セッションID: 60
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    近年,股関節周囲筋力に対しても簡便で定量的な測定法が提唱されている.しかし,その多くは健常者を対象としており,有疾患者を対象とした検証はほとんどされていない.そこで,股関節疾患者を対象に等尺性股関節屈曲と外転筋力を測定し,臨床応用の可否を検証した.
    【方法】
    当院入院中の股関節疾患に罹患し術後1ヶ月以上を経過した女性患者10例20関節(大腿骨近位部骨折術後患者9例,人工股関節置換術後患者1例,年齢82.0 ± 4.0歳,体重46.8 ± 5.7kg)を対象とした.除外基準は股関節に著明な疼痛を有する者,測定中に著明な疼痛を生じた者,および測定方法の理解が困難であった者とした.なお,本研究は当院倫理委員会の承認を受けており,全例に対して同意を得ている.検者は臨床経験7年(検者A)と同20年(検者B)の理学療法士2名とした.測定にはアニマ社製徒手筋力測定器(μTasF-1)を用いた.測定方法は,股屈曲筋力はベッド上背臥位,測定側の股関節が屈曲60°になるように膝の下に三角枕を設置して測定した.股外転筋力はベッド上背臥位,股関節中間位において,センサーパッドの下端が測定脚の大腿遠位外側の大腿骨外顆部に触らない最も遠位になるように当てて固定し,ベルトを両下肢に巻きつけ測定した.いずれの測定も,最大努力で左右の脚に対し3回ずつ行わせ,その数値を採用した.検者Aは筋力測定を1日以上あけて2日間実施した.検者Bは同様の手順で検者Aの測定と日を変えて1日のみ実施した.同一測定日の検者内信頼性と検者間信頼性の検討には級内相関係数を用いた.また,同一検者による再検査の信頼性の検討には,検者Aの2日間の股屈曲と外転筋力の最大値をそれぞれ採用し,Wilcoxonの符号付き順位検定とSpearmanの順位和相関係数を用いた.有意水準は1%未満とした.
    【結果】
    検者内信頼性ICC(1.1)と(1.3)はそれぞれ,股屈曲筋力では0.96と0.99であり,股外転筋力では0.93と0.97であった.検者Aの股屈曲筋力と外転筋力の最大値の比較では,いずれも測定1日目と2日目との間に有意差を認めなかった.検者Aの1日目の股屈曲筋力と外転筋力は2日目の筋力とそれぞれ有意な相関を認めた(r=0.93,r=0.80).検者間信頼性ICC(2.1)とICC(2.3)はそれぞれ,股屈曲筋力では0.82と0.96であり,股外転筋力では0.82と0.96であった.
    【まとめ】
    本研究で用いた測定方法は,股関節疾患者において高い信頼性を得た.特に股関節に屈曲制限を有する患者でも測定が可能で,臨床で幅広く用いることができると考えた.
  • 森田 直明, 上野 貴大, 強瀬 敏正, 荻野 雅史
    セッションID: 61
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    高齢者の加齢性立位姿勢変化に伴う脊柱起立筋の筋力低下に対する運動療法として、腹臥位での上体反らし運動が有効とされている。しかし、臨床場面では、高齢者が腹臥位をとることは困難であり、座位での体幹伸展運動、座位での背伸び運動が一般的である。当院では、傾斜台上に半円形の発砲スチロールの台を固定し、骨盤、大腿、下部腰椎をベルトで固定することで腹臥位をとり、体幹伸展運動を行える装置を考案した。本研究の目的は、体幹伸展運動を当院で考案した装置と座位での体幹伸展運動、座位での背伸び運動とで胸部脊柱起立筋、腰部脊柱起立筋に着目し筋電図学的に比較することである。
    【方法】
    対象は、平成23年10月21日から平成23年11月1日までの期間で当院に入院しリハビリテーションを施行した65歳以上の脳血管疾患、大腿骨頸部骨折、廃用症候群の既往を有する例のうち加齢性立位姿勢変化を呈した13例(男性4例、女性9例、平均年齢79.1±8.3歳)とした。運動課題は、(1)椅子座位での体幹伸展運動、(2)椅子座位での背伸び運動、(3)当院で考案した装置での体幹伸展運動:傾斜60°、(4)当院で考案した装置での体幹運動:傾斜45°の4課題とした。対象者には、4つの運動課題をそれぞれ3回施行し、左右胸部脊柱起立筋、左右腰部脊柱起立筋の筋活動を計測した。筋活動の記録には、Noraxon社製表面筋電図測定装置マイオシステム1400を使用し、解析には、マイオリサーチXPを用いた。筋電図解析には、フィルター処理、整流化、スムージングを行った後に、各マーカー間での総筋活動量を積分値で算出し、各3回の平均値を求め比較した。統計学的処理にはSPSS for windows10を用い、Friedman検定を行い、有意水準5%とした。なお、本研究は、対象またはその家族に研究の同意を得た上で施行した。
    【結果】
    各群間における測定結果の比較検討では、脊柱起立筋の筋活動において、運動課題(1)、(2)、(3)、(4)の順で有意に高くなった。
    【考察】
    今回の結果より、座位で行える簡便な運動よりも、腹臥位に近い環境で行う運動の方が胸部脊柱起立筋、腰部脊柱起立筋に大きな筋活動を促せることが筋電図学的に示された。これは腹臥位をとることで、抗重力肢位での体幹伸展運動が可能となったことにより得られた効果と考えられ、腹臥位での上体反らし運動が有効とされる過去の報告と一致する結果であった。
    【まとめ】
    腹臥位での体幹伸展運動の方が座位での運動と比べより大きな筋活動が得られることが示された。腹臥位をとることが困難な場合が多い高齢者でも方法を工夫し、腹臥位での体幹伸展運動を行うべきと考えられる。
  • 加藤木 丈英, 田中 優路, 竹内 幸子, 齋藤 義雄, 藤平 真由, 小谷 俊明
    セッションID: 62
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    脊柱後彎症患者のバランス能力において、増強例では身体動揺の増加がみられ、若年者に比べ前方より後方への重心移動距離が小さくなるという報告がある。
    しかし、脊柱後側彎症患者の術前後のバランスを検討した報告はほとんどない。そこで本研究の目的は、脊柱後側彎症患者の重心動揺と矢状面バランスを術前後で比較し、脊柱後側彎症手術のバランスへの影響を検討することである。
    【方法】
    脊柱矢状面バランス不良(sagittal imbalance:SI)に対し、後方矯正固定術を施行した1例を対象とした。症例は57才女性で、術前の身長は147.9cm、体重は33.8kg、術後は身長150cm、体重33kgであった。術前ADLは自立で、長距離歩行にはT字杖を使用していた。手術は二期的に行われ、最終術後の安制度は主治医より段階的に指示され、歩行器歩行が獲得できたのは術後28病日であった。
    測定項目は重心動揺計を用いて開眼静止立位で1分間足圧中心動揺量(center of pressure:COP)と、C7 plumb line:C7PLと胸椎後彎角及び開眼片脚立位時間とし、それぞれを術前後で比較した。術後の測定は、コルセットを装着し日常的な動作が可能となった術後43病日に行った。また、全ての検査・測定は本症例の同意のもと行った。
    【結果】
    重心動揺計を用いての外周面積は術前2.58cm2から術後2.75cm2、X方向動揺平均中心変位(左右中心)は術前0.52cmから術後0.31cm、Y方向動揺平均中心変位(前後中心)は術前‐1.63cmから術後0.37cm、C7PLは術前10.6cmから術後6.0cm、胸椎後彎角は術前80°から術後52°とそれぞれ変化した。開眼片脚立位時間は術前右13秒、左15秒から術後右38秒、左51秒と増加した。
    【考察】
    術後、脊柱は矯正され、立位バランスの改善が予想されたが本症例では顕著な変化は見られなかった。しかし、前後中心には大きな変化が見られた。術前よりC7PLは前方へ変位しており、脊柱だけを考えると重心が前方に位置するが、頚部伸展や膝関節屈曲により、重心を後方に置いたと考えられた。術後はその代償が軽減されやや前方へ重心を置くことができるようになったと考えられた。また、左右片脚立位時間が大幅に増加したのは、SIの改善と考えることができた。
    今後は症例数を増やし同様の内容を検討することが必要であると考えられた。
    【まとめ】
    脊柱後側彎症患者のバランスをCOP、C7PL、胸椎後彎角、開眼片脚立位時間より検討した。重心動揺の前後中心に変化が見られたが頚部の伸展や膝関節の屈曲という身体的な代償作用の軽減と考えられた。左右片脚立位時間の増加は、SIの改善と考えることができた。今後、更なる検討が必要である。
  • 吉津 智晃
    セッションID: 63
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    腰痛に対しては牽引療法を実施することがあるが、徒手牽引療法による効果の報告は少ない。したがって今回腰痛症患者に対して徒手牽引療法を実施し、身体機能の変化がみられたので報告する。なお、発表に際し本症例には主旨を説明し了承を得ている。〈BR〉【方法】
    症例は腰痛症を呈した60歳代の男性。27歳に腰椎椎間板ヘルニア手術施行。2011年3月頃より腰痛出現し、8月診療放射線技師によるレントゲンにてL5-S1の狭小化を認め、当院での外来理学療法を開始した。今回実施時において、L4-S1棘突起右外側部に限局した深部痛がみられ、痛みの強さはVisual Analogue Scale(以下VAS)にて3/10。また長時間(1~2時間)の椅子座位保持または起床時にVAS3/10。感覚鈍麻や痺れ、神経学的徴候はみられず、主要筋力の低下もみられなかった。方法は背臥位にて、片側足関節直上部分を把持して約20Kgになるような牽引力で左右下肢それぞれ3分間を2セット(休憩1分間)実施。VAS、指床間距離(以下FFD)、関節可動域(体幹伸展、左側屈)、身長、棘果長を実施前後で測定した。〈BR〉【結果】
    FFDが2cm、身長が0.5cmそれぞれ延長した。棘果長は変わらなかった。また体幹の関節可動域では伸展が15°、左側屈が10°拡大した。FFDおよび体幹の関節可動域において実施後のVASが0/10であった。〈BR〉【考察】
    本症例において、間接的な徒手牽引療法の即時効果を認めた理由として、脊柱に対して構造的な変化が生じたことが挙げられる。その中でも椎間板においては、大部分が水分より構成されており、親水性があるとされている。また、椎間板にかかる荷重圧の変化により水分の浸潤や脱出が生じ、椎間板の膨張や縮小が起こるといわれている。さらに本症例に対して椎間板にかかる荷重圧が比較的少ない背臥位で実施したことによって、牽引力がより伝達したことが伺える。したがって間接的徒手牽引療法により椎間板に対して構造的な変化をもたらした可能性が考えられる。Weberは機械的牽引を行ったグループと、徒手的牽引を行ったグループに分けて実施したところ、2つのグループともに同等の効果を得たとされており、本症例に対しても間接的徒手牽引療法が有効であった可能性が伺える。〈BR〉【まとめ】
    今回腰痛症患者に対して間接的徒手牽引療法を実施した結果、身体機能の変化がみられた。しかし機械的牽引療法の報告は数多くみられるが、徒手牽引療法を行った報告は少ない。また徒手牽引療法の効果を裏付ける科学的根拠も少ないので、今後さらなる検証が必要である。
  • 小保方 祐貴, 西 恒亮, 坂本 雅昭, 粕山 達也
    セッションID: 64
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
     腰椎分離症の発生機序に関する報告はみられるが,身体機能に関する報告は少ない.慢性腰痛者に対し重心動揺測定を行った報告では,慢性腰痛群に動的バランス能力の低下がみられるとされている.そこで,本研究では成長期の腰椎分離症者のバランス機能特性を明らかにすることを目的とした.
    【方法】
     対象は,腰椎分離症を有し,外来理学療法施行期間が2ヶ月未満である中学生4名(以下;分離群),現在腰椎・下肢に障害がなく,既往も有さない中学生4名(以下;Con群)とした.重心動揺測定にはMedicaputures製のWin-podを用いた.測定肢位は両脚立位とし,両上肢を前方で組ませ,両踵中央部を10cm離した状態とした.重心動揺測定は,まず静的バランスを静止立位にて測定し,次に動的バランスを望月らの姿勢安定度評価指標(Index of Postural Stability;以下IPS)にて,足底が浮かずに,安定して姿勢保持が可能な範囲で重心を支持基底面内中央保持,前方移動,後方移動,右方移動,左方移動してもらい,初期の身体動揺が収束した後,測定した.測定箇所につき,測定時間10秒,試行回数3回とし,測定間の休憩は30秒間とした.また,測定中に足底が浮いた場合,体幹が大きく動揺した場合,その測定は無効とした.これらの測定から総軌跡長,外周面積,重心動揺面積,安定域面積,IPSを算出した.統計処理にはSPSS ver.17.0 for Windowsを使用し,各指標の関連についてMann-WhitneyのU検定を用いた.有意水準は5%未満とした.本研究は,対象者,保護者に目的及び内容,対象者の有する権利について口頭にて十分な説明を行い,参加の同意を書面にて得た上で実施した.
    【結果】
     対象者の基本属性の群間に有意差はみられなかった.各指標による比較では重心動揺面積,IPSの群間に有意な差が認められた(p<0.05).その他の指標には有意差は認められなかった.
    【考察】
     重心動揺面積とIPSについて有意差が認められ,静止立位の総軌跡長と外周面積では有意差は認められなかった.これより分離群では動的バランス能力が低下していることが示唆された.しかし,本研究の結果である動的バランスの低下が,腰椎分離症の発生機序因子であるかは明らかになっていない.諸家により,腰痛患者は姿勢保持のための姿勢戦略が変化することが報告されている.今後は,腰椎分離症の発生機序における動的バランスの影響を明らかにするため,動的バランス時の姿勢戦略について検討していくことが課題と考える.
  • 田中 彩乃, 岡 浩一朗, 石阪 姿子, 岩崎 さやか, 立石 圭祐, 八木 麻衣子, 西山 昌秀, 近藤 千雅, 大沼 弘幸, 清水 弘之 ...
    セッションID: 65
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    我々は人工膝関節置換術(TKA)後に,筋力など身体機能の回復より術後の疼痛の程度が生活の改善に関与している可能性を報告してきた.今回,痛みの解決のために意図的に学び行動を変えるような「自分自身で痛みをうまく管理する」痛み対処方略に着目し,術前と比較した疼痛軽減の程度が,退院時の身体機能,痛み対処方略にどのような違いを示すのかを検討した.
    【方法】
    対象は変形性膝関節症に対しTKAを施行した42名である.測定は退院時に,等尺性膝伸展筋力体重比(以下膝伸展筋力,使用機器:アニマ社製μ-tas),Timed up and go test(以下TUG),10m歩行時間を測定,またJapanese Knee Osteoarthritis Measure(以下JKOM)を調査した.痛みの程度はVisual Analogue Scale(以下VAS),痛み対処方略はCoping Strategy Questionnaire日本版(以下CSQ)を使用した.うち,疼痛軽減効果のある「注意の転換」「自己教示」,痛みを増強させる「願望思考」「破滅思考」を選択,得点が高いほどその対処方略を採用することを示す(0~12点).術前のVASより改善したA群と悪化したB群に分け各項目を比較した.差の検定にMann-Whitney検定を採用,有意水準は5%未満とした.本大学倫理委員会の承認を得て実施した(第1313号).
    【結果】
    A群34名(平均年齢73.1±6.5歳,VAS28.4±18.5点),B群8名(75.5±2.2歳,54.8±23.4点)で,A群vs B群の順に中央値(四分位範囲)を示す.術側膝伸展筋力は0.19(0.07) vs 0.11(0.08),非術側は0.32(0.15) vs 0.32(0.09)kgf/kgであった.TUGは11.49(4.39) vs 15.43(7.47)秒,10m歩行時間は8.62(3.38) vs 11.69(7.51)秒,JKOMは39.0(18.0) vs 44.5(15.8)であった.2群間の差は術側膝伸展筋力(p<0.01),TUG(p<0.01),10m歩行時間(p<0.05)でみられた. CSQは「注意の転換」4(5.0) vs 7(7.5),「自己教示」6(3.0) vs 8(3.25),「願望思考」6(6.5) vs 6(4.5),「破滅思考」1(2.5) vs 5(4.5)となり,2群間の差は「破滅思考」でのみみられた(p<0.05).
    【考察】
    A群では退院時の機能が良く,痛みと退院時のよりよい身体機能の獲得は関連していた.痛みに対する認知では「破滅思考」といったnegativeな要素がA群で少なかった.認知的な対処方略の採用は,術後の短期入院中により効果的に身体機能を獲得することとの関連が示唆された.
    【まとめ】
    臨床の疼痛管理では,患者自身の疼痛に対する認知面の把握や活用があまり行われていないが,早期退院が推奨される現状において患者自身の疼痛管理は重要となり,術後の身体機能と痛み対処方略の変化は患者指導における有用な情報となると思われる.
  • 前田 慎也, 佐々木 一成, 齋藤 哲也, 済陽 輝久, 野村 栄貴
    セッションID: 66
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
    会議録・要旨集 フリー
    【背景と目的】
    人工膝関節置換術(TKA)を施行する患者は除痛と関節可動域(膝ROM)の拡大が主なニーズとなっている。術後の膝ROMでは他動運動時に疼痛に伴う防御性収縮や随意的な筋収縮を伴うことがあり、真の他動運動はこれらを除いて実施することが基本とされ、術後早期の除痛には腫脹が関与され、腫脹の改善が膝ROM、歩行能力に影響があるとされている。そのため当院では理学療法プログラム(PTex)に加えて病棟での時間で実施できる弾性包帯法と端坐膝屈曲練習と膝伸展練習を指導し、早期退院に向けて膝ROM改善を努めている。これらの取り組みによって膝ROMと周径おいて良好な結果を得られたので報告する。また歩行能力についても検討した。
    【方法】
    対象は片側TKAを施行した12名(平均年齢69.1±6.9歳、男性3名、女性9名、平均入院期間15.9±1.6日)とし、対象者には研究の趣旨を説明し同意を得て行った。弾性包帯法、端坐屈曲練習、膝伸展練習は術前より指導し、弾性包帯法は時間毎の巻き直し、端坐膝屈曲練習は端坐位にて自動屈曲を行い、膝伸展練習は臥位で砂嚢を使用した。頻度は術翌日より退院時まで毎日実施することとした。評価項目は他動ROM、周径、VAS、10m歩行時間、TUG、下肢荷重を術前(手術前日)と術後(退院日前日)に測定した。なお、周径は膝蓋骨上縁、5cm、下腿の最大、最小値とした。それらの各測定値を術前と術後においてWilcoxon符号付順位和検定を用いて比較した。さらに10m歩行時間、TUG、下肢荷重をPeason相関係数検定を用い、各評価項目についての関係性を検討した。なおp<0.05を有意差ありとし、0.05<p<0.1を有意傾向とした。
    【結果】
    術前、術後の膝ROMは屈曲・伸展共に有意に改善し(p<0.01)、VASにおいては有意差が認めらなかった。周径では各項目において有意差は認められなかった。歩行能力に関して10m歩行時間は有意な低下を認め(p<0.05)、TUGは低下傾向を示したが(p<0.1)、下肢荷重は有意差が認められなかった。
    【考察】
    今回の研究では病棟でも実施可能なプログラムを提示することでPTex以外の時間を活用でき、また術後早期の腫脹の軽減による除痛と端坐屈曲練習では防御性収縮などが起こりにくく視覚による構成運動の再教育が容易となることで膝ROM拡大に繋がったと推察される。歩行能力の向上も期待したが術前より疼痛回避性歩行を呈していたことが考えられ、2週間での歩容改善には至らず歩行能力の低下が認められた。
    【まとめ】
    PTexに加えて患者自身が出来るプログラムの指導により早期に疼痛の軽減が図ることができ、膝ROMの拡大に繋がることが示唆された。
  • 松岡 磨美, 川井 誉清, 福岡 進, 亀山 顕太郎, 岩永 竜也
    セッションID: 67
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    本研究の目的は、荷重位で膝へのストレスを確認するスクワッティングテストと階段降段時の疼痛の再現性について調査することである。
    【方法】
    対象は当院にて変形性膝関節症(以下、膝OA)と診断され、理学療法を開始した階段降段時に膝痛を有する患者20名22肢(平均年齢70.2±11.4歳)とした。歩行困難な症例は除外した。スクワッティングテストは、疼痛側下肢を一歩前へ出し、反対側下肢は膝関節伸展位で足底接地した肢位から、疼痛側下肢へ荷重させた。足の前後幅は、疼痛側の踵から反対側の足尖の距離を30㎝とし、足部内外反中間位とした。下腿前傾角度は腓骨に水平角度計をあて測定した。その際、neutral、knee-in、knee-out方向で荷重を行わせ、下腿前傾10°、20°、30°の各角度における膝痛の有無を確認し、疼痛出現角度と回旋肢位の割合を求めた。研究に実施にあたり被験者に対し本研究の趣旨を十分に説明し、同意を得た。
    【結果】
    階段降段時に膝痛が出現する患者にスクワッティングテストを行った結果、neutral、knee-in、knee-outのいずれかの方向で、下腿前傾10°では18%、下腿前傾20°では50%、下腿前傾30°では86%の患者が膝痛を認めた。下腿前傾各角度における1)neutral、2)knee-in、3)knee-out方向の割合は、下腿前傾10°では1)14%、2)9%、3)5%、下腿前傾20°では1) 27%、2)14%、3)23%、下腿前傾30°では1)36%、2)36%、3)50%であった。
    【考察】
    スクワッティングテストは、膝関節をneutral、knee-in、knee-out方向へスクワットさせ膝関節内外側へのストレスを再現し関節誘導方向を再現できるテストである。結果より、下腿前傾30°のスクワッティングテストにおいて22肢中19肢(86%)で疼痛が再現できた。neutral、knee-in、knee-out方向での回旋肢位の違いによる疼痛は様々であった。膝OA患者ではknee-outのスクワッティングテストで疼痛を惹起するものが多いとの報告があるが、本研究の結果からは必ずしもknee-outに画一化されたものはなく個々によって違うことが明らかになった。以上を踏まえ、スクワッティングテストを用いて階段降段時の痛みを評価する場合、まずは下腿前傾30°以上で矢状面ストレスを評価し、さらに膝関節の回旋方向への肢位を変えて回旋ストレスを評価することにより、個々のアライメントに合わせた迅速な評価、治療へ発展させていけると考える。
    【まとめ】
    膝OA患者における階段降段時痛は「荷重時の痛み」とひとくくりにせず、スクワッティングテストを用いて矢状面ストレスと回旋ストレスを分け評価を行うことで、個々の疼痛の原因を絞り込む一助となることが示唆された。
  • 藤本 静香, 藤本 修平, 金丸 晶子
    セッションID: 68
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    変形性膝関節症(膝OA)患者の症状は,疼痛を主とする膝関節自体の障害,それに起因する基本動作の障害,日常生活活動(ADL)の障害が特徴的である.理学療法では,関節機能や基本動作の改善を目的に介入を行うが,それらがADLの改善へ結びつくか検証する必要がある.本研究では,膝OA患者における基本動作の障害とADLの障害の関連を検討した.
    【方法】
    対象は膝OAと診断され,外来受診により保存療法を受けている女性30名(平均年齢73.1±10.4歳)とした.なお,対象にはヘルシンキ宣言に沿い,本研究の概要を十分に説明し,書面で同意を得た.方法はADL7項目(A1~A7),基本動作6項目(B1~B6)の計13項目を評価した.計13項目を評価方法により,測定項目,動作確認項目,質問項目に分類した.測定項目はB1:立ち上がり速度(5回椅子立ち座りテスト),B2:歩行速度(10m歩行所要時間),B3:片脚立位保持時間であった.動作確認項目はB4:階段昇降(20cm台の昇降),B5:膝立ち,B6:床に身体をかがめる,A1:床の物を拾う,A2:靴下着脱,A3:重い物を運ぶ(10kgの重錘を把持しての10m歩行)とし,動作の可否を判断した.質問項目はA4:掃除,A5:炊事,A6:トイレ動作,A7:外出からなり,可否を調査した.なお,A7:外出はa:バスや電車を使う外出,b:日用品の買い物,c:友達の家を訪ねる,の下位項目を設けた.統計解析はADL項目と基本動作項目の関連を検討するために,従属変数をADL項目,独立変数を基本動作項目とした正準相関分析を行った.有意水準は5%とした.
    【結果】
    A1:床の物を拾う,A2:靴下着脱,A6:トイレ動作はすべての対象者が実施可能であったため解析対象から除外した.正準相関分析の結果,第1正準変量は,基本動作のB1:立ち上がり速度,B2:歩行速度,B4:階段昇降の順にADL項目全般に影響していた(正準相関係数r=0.947).第2正準変量は,基本動作のB1:立ち上がり速度,B4:階段昇降,B2:歩行速度の順にADLのA7c:友達の家を訪ねるに影響していた(r=0.760).
    【考察】
    膝OA患者において,立ち上がり速度,歩行速度,階段昇降の可否といった基本動作能力を知ることでADL能力の予測に役立つと考える.また,友達の家を訪ねる項目は特殊性があり,身体機能だけでなく行動様式の把握も必要な可能性がある.
    【まとめ】
    女性膝OA患者に対し基本動作とADLの関連を検討した結果,立ち上がり速度,歩行速度,階段昇降といった基本動作とADLの関連が明らかとなった.
  • 龍嶋 裕二, 萩原 礼紀, 高橋 龍介
    セッションID: 69
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    近年,高位脛骨骨切り術(以下HTO)と自家骨軟骨移植術の併用にて,臨床成績が向上するとされている.先行研究では疼痛や大腿脛骨角(以下FTA)に関するものが多いため,今回, 三次元動作解析装置を用い,術前後の疼痛と下肢運動機能の経時的変化を測定した.その結果を報告する.
    【症例紹介】
    身長180cm,体重97Kg,BMI29.9の50代後半男性.15年前より柔道時に左膝痛自覚.平成23年に症状増悪,左HTO及び自家骨軟骨移植術施行.術後4週目より1/3荷重開始,6週目に全荷重開始.術前の左膝関節屈伸角度は-15~135°,9ヵ月の時点で0~140°となった.FTAは術前181°から術直後169°に矯正された.
    【方法】
    左立脚期における膝関節屈伸角度と膝内反角度のピーク値,片脚立位時の骨盤傾斜角を測定し,5施行を平均した.測定日は術前,術後2,3,6,9ヵ月目とした. 同時に筋力は徒手筋力計(μTas F-1,アニマ社製)を用いて,膝関節屈伸と股関節の全運動方向を測定し,疼痛はNumeric rating scaleにて歩行時痛を評価した. 目的および方法については十分に説明し,書面にて同意を得た.本研究は,本学医学部の倫理委員会の承認を得て行った.
    【結果】
    術前時と2ヵ月時では初期接地時から荷重応答期にかけて軽度膝屈曲位から屈曲角度が一時増加し,その後は立脚期を通して常に軽度膝屈曲位であった.3ヵ月以降は初期接地時から荷重応答期にかけて軽度膝屈曲位から屈曲角度が増加し,立脚後期にかけて膝伸展方向の推移を示し,正常パターンと類似する傾向を示した.膝内反角度は術前時21°,2ヵ月時11°であり,その後は著名な変化は認めなかった.骨盤傾斜角度は術後2ヵ月で15°,術後3ヵ月で8°となり,その後は著名な変化は認めなかった.疼痛は術後経過共に低下し, 3ヵ月時点でほぼ消失した.筋力は3ヵ月時点の健患比では膝関節屈曲71%,伸展53%,股関節屈曲67%,伸展63%,内転55%,外転61%,内旋48%,外旋68%であり,9ヵ月時は膝伸展87%,股関節外転83%,外旋87%となり, 9ヵ月時は膝関節屈曲89%,伸展87%,股関節屈曲93%,伸展97%,内転85%,外転83%,内旋70%,外旋87%であった.
    【考察】
    本症例からは術後3ヵ月時に粗大筋力を除いて著名な改善を認めた.術後3ヵ月から9ヵ月時点の歩行時の膝関節屈伸,膝内反角度及び片脚立位時の骨盤傾斜角度の変化が小さかった点から歩行能力には粗大筋力よりもアライメントと疼痛が主因子として関与することが推察された.今後,症例数を重ね引き続き傾向を検討していく必要があると考えられた.
  • 大熊 克信, 大川 信介, 藤野 祥子
    セッションID: 7
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    当センターは造血器腫瘍患者に対して、廃用症候群・ADLの維持・予防・改善のため、従来型の個別療法を実施する場合(以下個別療法群)に加えて、骨髄抑制期等で活動制限となる時期でもベッド上や病室内で可能な自主トレーニングの指導を開始した(以下自主トレ群)。造血器腫瘍患者の理学療法の報告は、造血幹細胞移植前後の場合が多く、化学療法中の特に高齢造血器腫瘍患者の検討はまだ少ない。そこで今回は個別療法群と自主トレ群の特徴を示すことを目的に報告する。
    【方法】
    2011年4月~2012年3月までに理学療法処方された化学療法中の入院造血器腫瘍患者24名(男性10名、女性14名)。年齢の中央値70歳。診断名は白血病9名(骨髄異形成症候群含む)、多発性骨髄腫6名、悪性リンパ腫9名。個別療法群は13名、自主トレ群は11名。転帰は自宅18名、死亡2名、転院4名。調査項目は、①PT開始時と終了時のECOGのPerformance Status(以下PS)、②入院日からPT処方までの日数、③実施単位数、④PT処方日の直近の白血球、血小板、ヘモグロビン、アルブミンを調べ、さらに有害事象共通用語規準v4.0日本語訳JCOG版でGrade化した。2群間の差をするために、年齢は2標本t検定を、それ以外の項目はMann-Whitneyの検定を実施。PSの変化を開始時と終了時でWilcoxonの符号付順位検定を実施した。研究はヘルシンキ宣言、厚生労働省の「臨床研究に関する指針」に従った。
    【結果】
    PT処方までの日数は中央値12日。実施単位数は中央値13単位(3~104)。有害事象は白血球減少が54%(自主トレ群72%,個別療法群38%)。血小板減少が33%(55%,15%)、貧血は79%(82%,77%)、低栄養は88%(72%,100%)。全体では貧血と低栄養を示す例が多かった。2群間で有意な差を認めたのは、年齢(個別療法群:73歳vs自主トレ群:65歳、p<0.05)、アルブミン(2.5vs3.6、p<0.01)、実施単位数(29単位vs6単位)、開始時PS(4vs2)・終了時PS(2vs1)であった。PSは開始時より終了時で有意に改善していた(p<0.01)。
    【考察】
    個別療法群は年齢70歳代、PS不良、低栄養で、ADL障害を認める例が多く、ADLや基本動作指導の時間をかけた理学療法が必要であった。自主トレ群は年齢60歳代、PS良好、白血球減少例が多く病室内に活動制限され、廃用症候群の予防の理学療法の提供が必要であった。今後はプログラム選択時の評価指標の検討を行いたい。
  • 松宮 美奈, 島津 尚子, 柿沼 綾美, 渡辺 拓也, 上杉 上, 水落 和也
    セッションID: 70
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    痙性不全対麻痺を若年で発症し、主婦業・子育て中の中年期に歩行困難となった症例を10年以上の長期に渡りフォローアップしてきた。今回、除痛目的で左キアリー・大腿骨外反骨切り術を施行した。手術後の理学療法(PT)に加え、長期フォローを振り返り、今後の同様症例に対する対応・課題を検討する。〈BR〉【方法】
    症例は47歳の女性。診断名は家族性痙性対麻痺・両側変形性股関節症、障害名は痙性不全対麻痺・両側股関節機能障害。診療録と本人からの聴取により後方視的に調査・検証した。研究・発表の同意を得ている。〈BR〉【結果】
    経過は、幼少期に発症し小学校高学年で走行困難となった。仕事は立ち仕事だったが20歳頃には両側変形性股関節症を併発し、移動能力は出産後の35歳頃から屋内は両側ロフストランド杖での歩行と6輪車いすの併用、屋外は電動車いすとなった。下肢装具の受け入れは不良だった。育児困難となり子供は実家に預け、自宅と実家を頻繁に行き来した。過度の杖歩行の負担で45~46歳で両側肘部管症候群を併発、両側とも尺骨神経移行術を施行した。47歳で歩行困難となり室内四つ這い移動となった。生活環境は丘陵地帯で坂道や階段が多い。屋内玄関も段差あり。今回、座位でも両股関節痛が増強し、左股関節の除痛目的でキアリー・大腿骨外反骨切り術を施行した。術後現症は、精神機能はMMSE29点・IQ73で障害認知は不良。両肘に運動時痛があり、上肢MMT(右×左)はG×G。痙性不全対麻痺でMASは1+×1+、下肢MMTはP~F×P。PT内容はROMex、筋力強化から開始し、早期離床に努め、術後8日目より車いす乗車、術後42日目より左部分荷重を開始し斜面台での立位訓練を追加した。術後56日目より左全荷重を開始し歩行器を使用した立位、腹臥位・四つ這い・床上動作訓練等を実施。移乗動作は自立し術後75日目に自宅退院した。自宅環境整備も指導し、段差解消機の導入も勧めた。〈BR〉【考察】
    振り返ると関節温存のための活動制限や体重管理の指導を行っていたものの、実際は下肢装具なしでの長距離歩行、坂道歩行や階段昇降を過度に繰り返し、関節破壊を早めていた。その原因は、障害認知と理解力が低下していたこと、及び、踏み込んだ指導ができなかったことが考えられる。家族性痙性対麻痺の複合型は一般に若年発症であり知能低下を伴うとされる。関節温存のための生活自己管理が困難な症例では、医療者主導での生活管理を家族にも理解してもらい長期に渡り行う必要がある。〈BR〉【まとめ】
    痙性対麻痺患者では活動性と生活環境を考慮し、将来起こり得る関節機能障害を予測し、関節温存のための生活指導を行うことの必要性が示唆された。
  • 中出 裕一, 池田 崇, 鈴木 浩次, 隆島 研吾
    セッションID: 71
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
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    【はじめに】
    近年、生体適合性材料を用いた「ゆるみにくい人工関節」が開発されたものの、人工股関節再置換術(以下revision)を受ける患者はまだまだ多い。今回、人工股関節全置換術(以下THA)後20年で著明な変形を呈し、カップ及びステムのrevisionを施行された症例を経験した。その前後の患者心理を聴取し、導き出された共通項や理学療法士(以下PT)の行うべき取り組みについての考察を報告する。
    【症例紹介・方法】
    自転車で転倒し右腓骨神経麻痺を有する70歳代女性。40歳代後半に他院にて左THA施行。術後12年目にステムの前外側偏移、大転子裂離を指摘。術後14年目にrevisionを勧められるも本人が保存的加療を選択し近医で経過観察となった。徐々に疼痛が増悪し、術後20年目に当センター受診。医師の入念なリスク説明を受諾しrevision施行。経時的なFIM、外転筋力、JOAスコアを評価するとともに、退院後1年時にrevision前後の心境を半構造的インタビューにて聴取した。データの分析には、木下による修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチを用いた。本研究は書面で同意を得た上でヘルシンキ宣言に準じて行った。
    【経過・結果】
    術後安静度は外転装具着用にて1/2部分荷重可、付着部癒着切除のため中殿筋の連続性はわずかであり筋力増強は自動介助運動まで。脚長差5㎝。両松葉歩行自立、階段昇降見守りとなり16日目に自宅退院。以後、外来診察時にリハビリ継続となったが、FIM・外転筋力の著明な変化は認めず。この期間において、自宅でのADLの介助や家事動作の大半は夫が担った。診察以外は外出せず、自身の判断で短下肢装具(以下装具)の作成や3か月間の訪問リハビリ導入がなされた。インタビュー内容から抽出されたカテゴリーは「歩行に対する欲求」「手術に対する思いの変遷」「治療に対する自己判断」「不安が日常生活に及ぼす影響」であった。
    【考察】
    本症例の心理として手術による股関節痛の消失、歩けるという喜びの一方で、右腓骨神経麻痺のための歩きづらさという問題意識が大きくなっていた。この歩きづらさは症例にとって股関節痛にも匹敵する重要な問題であったため、装具に対する主観的な思いがより強くなった。またTHA後、行いたくないと考えていた手術は徐々に増悪する痛みにより、行いたい手術へと思いが変遷した。装具や生活に関する思いに加え、当センターではリハビリの間隔が長いことが日々募る不安となり、結果的に治療に対する自己判断を呼んだものと考えられた。機能改善に難渋する症例にPTが行うべき取り組みとして、患者Needsの徹底した把握が心理的不安を軽減させ、歩行や日常生活に対する満足度向上につながるものと考えた。
  • 安田 耕平, 安達 みちる, 大鶴 任彦, 猪飼 哲夫
    セッションID: 72
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
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    【目的】
    我々は第46回日本理学療法学術大会において人工股関節全置換術(以下THA)症例の深部静脈血栓症(以下DVT)予防に早期歩行が有用であると報告した.当院では術後翌日から患肢全荷重を許可し,可及的に離床をおこなっているが,各症例において歩行開始までの期間に差が生じていることがある.そこで今回, THA後のDVT発生と歩行開始時期に影響する因子を検討したので報告する.
    【方法】
    対象は2009年4月から2011年12月までの間に当院でTHAを施行後,自宅退院した症例のうち,術後超音波検査で診断されたDVT発生群10例である.年齢・性別・術側を一致させ,術後にDVTが発生しなかった10例を対照群とした.対象者には本研究の趣旨と内容に関して十分に説明をおこない同意を得た.2群間のBody mass index(BMI),術前の日本整形外科学会股関節機能判定基準(以下JOAscore),術中出血量,手術時間,術後3日後・1週間後のDダイマー値と手術日から平行棒内または歩行器で初回歩行を実施するまでの日数(歩行開始日数)を検討した.統計処理はMann-WhitneyのU検定を用い,有意差を認めた項目間のSpearmanの順位相関係数を求めた.DVT発生に対しての受診者動作特性曲線(ROC曲線)による分析をおこなった.統計ソフトはJMPver.9を使用し,いずれの検定も危険率5%とした.
    【結果】
    有意差を認めた検討項目は術前JOAscore(DVT発生群47.8±12.7点,対照群62.2±7.9点)と歩行開始日数(DVT発生群4.1±1.6日,対照群2.7日±0.5日)であった.術前JOAscoreと歩行開始日数はr=-0.46と中等度の負の相関を認めた.術前JOAscoreの最適カットオフ値を60.0点に設定すると感度100%,特異性60%の確率でDVTが術後発生する結果となった.
    【考察】
    JOAscoreは疼痛,関節可動域,歩行,ADL動作を総合的に点数化している評価方法である.何の評価項目が最も重要であるかは現在のところ明らかではないが,歩行開始時期とDVT発生を予測できる有用な評価の1つであることが示唆された.ガイドラインではDVTリスク因子として長期臥床が挙げられ,予防に早期荷重歩行が推奨される.術前JOAscoreが低い症例は歩行開始が遅れ,DVT発生リスクが高い傾向にあり,今後,術前JOAscore が低い症例に対してのDVT予防を含めた理学療法を検討していく必要がある.
    【まとめ】
    術前JOAscoreによりTHA後の歩行開始時期とDVT発生を予測できることが示唆され,理学療法プログラム立案や離床時のリスク管理において有益であると考える.
  • 柴 朋秀, 亀山 顕太郎, 栗林 亮, 鈴木 則幸, 佐々木 晃子, 保田 智彦, 川井 誉清, 岩永 竜也
    セッションID: 73
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
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    【目的】
    本研究の目的は、骨盤傾斜角度と肩関節回旋角度の違いが、肩関節外旋運動時の肩関節周囲筋の筋活動に与える影響を明らかにすることである。
    【方法】
    対象は、ヘルシンキ宣言に基づき研究の主旨を十分に説明し、同意を得られた健常成人男性13名(年齢24.6±2.5歳)とし、全て右側を測定した。測定肢位は端座位にて上肢下垂位での肘関節90°屈曲位、前腕・手関節中間位とし、測定条件は骨盤前傾位、後傾位の骨盤2肢位と、肩関節内旋20°、内外旋0°、外旋20°の肩関節3肢位の計6条件とした。骨盤傾斜角度の設定は、上前腸骨棘と上後腸骨棘を結んだ線が床面に対し10°前方に傾斜した肢位を骨盤前傾位、10°後方に傾斜した肢位を骨盤後傾位とした。測定方法は上記6条件において、プーリーのグリップに1kgの重錘バンドを巻きつけ肩関節内旋負荷が水平方向にかかるよう設置し、もう一方のグリップを把持して各肢位の保持を行わせた。測定筋は僧帽筋中部線維、棘下筋上部線維とし、各測定を2回ずつランダムに行い、5秒間の等尺性収縮のうち安定した3秒間の筋積分値を計測し、各肢位において比較した。統計学的処理は二元配置の分散分析を行い、有意水準は5%未満とした。
    【結果】
    測定した2筋ともに、骨盤肢位の変化における筋積分値の有意差や傾向はみられなかった。僧帽筋中部線維は骨盤2肢位ともに肩関節内旋20°に比べ外旋20°で有意に筋積分値が増加した。棘下筋上部線維は骨盤前傾位では肩関節外旋角度の拡大に伴い有意に筋積分値が増加し、後傾位では内旋20°に比べ外旋20°で、内外旋0°に比べ外旋20°で有意に筋積分値が増加した。
    【考察】
    僧帽筋中部線維と棘下筋上部線維は骨盤前傾位、後傾位ともに筋積分値に有意な差は認められなかった。これは対象とした2筋の走行から水平面上の運動に大きく関与し、骨盤前後傾のような矢状面上の運動への関与が少ないためと考えられる。また、両筋ともに内旋位より外旋位で筋積分値が増大する傾向にあった。これは、外旋角度の拡大に伴い肩甲骨は内転、上腕骨は外旋するため筋長が短くなり、筋長-筋張力の関係により多くの筋活動を必要としたと考えられる。〈BR〉本研究より、下垂位での肩関節外旋運動のような水平面上の運動における僧帽筋中部線維、棘下筋上部線維の筋活動に関しては、骨盤前後傾のような矢状面上の運動の影響は大きく受けず、運動時の外旋角度が重要であることが示唆された。
    【まとめ】
    肩関節外旋運動は骨盤傾斜角度よりも運動時の外旋角度が重要であることが明らかとなった。また下垂位での肩関節外旋筋の訓練では、外旋角度の拡大に伴い負担が増大することを念頭に置く必要性が示唆された。
  • 佐々木 佳祐, 福岡 進, 川井 川井誉清, 亀山 顕太郎, 岩永 竜也
    セッションID: 74
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
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    【目的】
    入谷式足底板で用いられる骨盤回旋テストは、荷重位での骨盤回旋量や疼痛などを確認する評価であり、臨床現場で使用する評価の1つである。骨盤回旋テストと足部肢位との関連を示した報告は散見されるが、荷重位での骨盤回旋に影響を及ぼすと推測される他動的な股関節回旋可動域との関連を示した報告はないのが現状である。そこで本研究の目的は、骨盤回旋テスト時の骨盤回旋角度と他動的な股関節回旋可動域を比較検討し、2つの関連を明らかにすることである。
    【方法】
    対象は下肢に既往のない健常成人21名42肢とした。ヘルシンキ宣言に基づき、対象者に研究の趣旨を説明し、同意を得た上で研究を行った。荷重位における骨盤回旋角度の測定方法は静止立位から一側下肢を半足前に出し、足はつま先が正面を向くように置き、膝を伸展させた状態で、骨盤より上位を左右に回旋させ、左右の相対的な可動性を確認した。その際の前額面と左右の上前腸骨棘を結んだ線のなす角度を骨盤の回旋角度とし、頭側よりデジタルカメラで撮影し、画像処理ソフトimageJにて前方回旋および後方回旋角度を算出した。続いて、被験者を腹臥位にて股関節内外転中間位、膝関節90°屈曲位を取らせ、移動軸を下腿の中心線とし、検者が水平角度計を用いて他動的股関節内旋(以下、IR)・外旋(以下、ER)を各々2回ずつ測定し、平均値を求めた。統計学的処理には、股関節回旋可動域と前方回旋および後方回旋角度の関係をspearmanの相関係数を用いた。有意水準5%とした。
    【結果】
    IRと後方回旋角度は弱い正の相関しかみられなかった(r=0.27(p=0.83))。また、ERと前方回旋も弱い正の相関しかみられなかった。(r=0.28(p=0.07))
    【考察】
    本研究の結果より、他動的な股関節回旋可動域は荷重位における骨盤回旋テストの骨盤回旋角度に、ほとんど影響を与えないことが明らかになった。岩永らは、距骨下関節の肢位により骨盤回旋角度が変化すると報告し、土居らは足部外反、内反強制で骨盤回旋角度が変化すると報告している。つまり、骨盤回旋テストは、足部肢位の影響を強く受け、他動的な股関節回旋可動域との関連は少ないことが示唆された。今回は健常成人で股関節に可動域制限を有さない者を対象としたが、今後は変形性股関節症などの過度な股関節可動域を有する股関節疾患も、股関節可動域の影響を受けないかどうかを調査していきたい。
    【まとめ】
    健常群において、荷重位で行う骨盤回旋テストは、非荷重位で行う股関節回旋可動域の影響を受けないことが示唆された。
  • 野口 博司, 岡村 弘人, 中里 順子, 丹伊田 康介
    セッションID: 75
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
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    【目的】
    母指MP関節の可動域は個人差が非常に大きいため、可動域訓練を行う際には健側の可動域が重要な指標となる。そこで健常成人の母指MP関節可動域の左右差がどの程度であるかを明らかにし、母指MP関節拘縮に対する可動域訓練目標値を検討する。
    【方法】
    本研究の実施にさきだち、病院倫理委員会に本研究の申請を行い、目的と意義について説明し、研究実施の許可を得た。また年齢その他の条件を満たす被験者に対し、事前に本研究の目的と意義を説明し、同意を得た上で関節角度の測定を行った。母指に既往がない健常成人150名(男性75名、女性75名、平均年齢36.1歳)の母指MP 関節、計300関節を対象とした。加齢に伴う変性疾患を除外するために、年齢は20歳以上、50歳未満とした。方法として、母指MP関節の最大自動屈曲角・伸展角をそれぞれゴニオメーターで1°間隔で測定し、最大角度の分布、男女差、左右差の統計学的処理を行った。
    【結果】
    屈曲角は平均59.5°(16°~90°)、伸展角は平均7.9°(-32°~58°)で、男女間に有意差を認めなかった。屈曲角の左右差は平均4.8°(0°~28°)、伸展角の左右差は平均6.4°(0°~36°)、上側100P%点(スチューデントt分布)はP=0.05で屈曲角10.6°、伸展角14.3度、P=0.01で屈曲角15.1°、伸展角20.4°であった。
    【考察】
    屈曲角の最大値90°と最小値16°との差は74°、伸展角の最大値58°と最小値-32°との差は90°であり、いずれにおいても個人差が非常に大きかった。一方、左右差は屈曲角で平均4.8°、伸展角で平均6.4°と非常に小さく、健側の可動域が指標として有用であると思われた。また上側100P%点の値から、屈曲角で11°以上、伸展角15°以上健側に比し低下している場合は、可動域制限が十分改善していない可能性が高く、さらに屈曲角16°以上、伸展角21°以上健側に比し低下している場合は、可動域制限が改善されていないことが強く示唆された。
    【まとめ】
    母指MP関節の可動域は個人差が大きいため、一定の角度を正常値として用いることはできない。唯一指標として用いることが出来るのは健側MP関節の可動域のみである。本研究では健常人における母指MP関節可動域の左右差がどの程度存在するかを調査し、統計学的検討を加えることにより母指MP関節のリハビリテーションにおける関節可動域の目標値を明らかにした。
  • 稲垣 郁哉, 小関 博久(MD), 財前 知典, 小関 泰一, 松田 俊彦, 古橋 さやか, 平田 史哉, 藤田 仁
    セッションID: 76
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    前鋸筋は肩甲帯機能に深く関与しており、上肢運動時に肩甲骨を動かす役割だけでなく胸郭への固定作用も担うため、理学療法を展開する上で非常に重要な筋であることは知られている。臨床においては、前鋸筋に対する直接的な収縮運動のみより、手部に誘導を加えることで前鋸筋機能が高まることは多い。特に第5中手骨の背側誘導にて前鋸筋機能が改善することを経験する。そこで今回、手部からの運動連鎖を検証する目的として荷重位での第5中手骨テーピング誘導が前鋸筋活動と手圧分布に及ぼす影響を検討した。
    【方法】
    対象はヘルシンキ宣言に基づき本研究の主旨を説明し同意を得た健常成人男性12名(平均年齢24.75±4.69歳)とし、課題動作は上肢を荷重位にさせた四つ這い位でのプッシュ動作とした。動作は右上肢のみとした。右手部の位置は、下顎垂直下に位置させ両膝関節との3点支持とした。第5中手骨誘導は入谷式足底板の評価に用いる5列外返し誘導テーピングを参考に、背側の第5中手骨頭と舟状骨間に貼付した。テーピングは長さ8cm、張力200mgに統一し、同一験者が施行した。筋活動は能動電極型筋電図、手圧分布は圧分布計にて測定した。テーピング誘導と誘導無しの動作時に得られた筋電波形を積分処理、手圧分布を数値化し、それぞれ対応のあるt検定を用いて比較検討した。有意水準は5%未満とした。
    【結果】
    テーピング誘導では誘導無しと比較し、前鋸筋活動が有意に増加し(平均値12.9±11.8%、p<0.01)、手圧分布は内側荷重が有意に増加した(平均値5.6±3.3%、p<0.01)。
    【考察】
    本研究では第5中手骨外返し誘導テーピングにて前鋸筋活動と内側荷重が有意に増加した。これはテーピング誘導により外側縦アーチが挙上し、手圧が中央へ偏移した結果、手部での支持機能が向上したことでプッシュ動作時の前鋸筋活動が増大したものと考えられる。この動きは足部における第5列外返し誘導にて外側から内側への荷重移動を早める連鎖に類似しており、手部も足部同様の運動連鎖機能を有することが予測される。このことは、第5中手骨の誘導が前鋸筋機能に影響を与える可能性を示しており、手部のアライメントを含めた上肢機能評価の重要性を示唆しているものと推察される。
    【まとめ】
    本研究の結果から荷重位において第5中手骨の位置関係が前鋸筋活動と手圧分布に影響を及ぼすことが示唆された。この動きは上肢でも足部に類似した運動連鎖を生じることが予測され、上肢の運動連鎖を考慮した理学療法の重要性を示していると考える。今後は非荷重位での運動連鎖も比較検討しより臨床に応用できる研究へと展開させたい。
  • 平田 史哉, 小関 博久, 財前 知典, 関口 剛, 大屋 隆章, 多米 一矢, 松田 俊彦, 平山 哲郎, 川崎 智子, 稲垣 郁哉
    セッションID: 77
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
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    【目的】
    臨床において明らかな外傷がないにも関わらず手関節痛をきたし,日常生活を大きく制限されている症例を多く見受ける.これらの症例の特徴として安静時に尺屈位を呈していることが多い.尺屈の主動作筋である尺側手根屈筋は豆状骨を介し小指外転筋との連結が確認でき,双方の筋が機能的に協調することは既知である.小指外転筋は小指外転運動や対立機能,手指巧緻動作に関与し,筋出力低下に伴い手関節周囲筋群の筋バランスの破綻に繋がると考える.そこで尺側手根屈筋との連結がみられる小指外転筋の筋出力低下を,尺屈位で補償し小指外転筋機能を代償しているのではないかと仮説を立てた.そこで本研究では手関節を中間位,尺屈位の二条件にて,各肢位の小指外転運動(以下AD)時における小指外転筋及び手関節尺側筋活動の違いについて表面筋電図を用いて比較検討した.
    【方法】
    対象はヘルシンキ宣言に沿った説明と同意を得た健常成人6名12手であった(男性5名,女性1名:平均年齢28.6±3.77歳).測定肢位は端座位とし,上肢下垂,肘関節90度屈曲,前腕回外位にて計測した.前腕を台に置き,他動的に中間位,尺屈位を設定し各肢位でADを行った.尺屈位は手関節掌背屈が出現しない最大尺屈位と規定した.被検筋は小指外転筋(以下ADM),尺側手根伸筋(以下ECU),尺側手根屈筋(以下FCU)とした.各被検筋に対して5秒間の最大等尺性随意収縮を行い,安定した2秒間の筋電積分値(以下IEMG)を基準として各筋におけるAD時の%IEMGを算出した. 統計処理には,対応のあるt検定を用い,中間位,尺屈位における各筋のAD時の%IEMGに対して比較検討を行った. なお有意確率は5%とした.
    【結果】
    尺屈位においてADM,ECUの活動に有意な増加を認めた(ADM:p<0.01 ECU :p<0.01).しかし,同肢位ではFCUの活動に有意な増加は認められなかった.
    【考察】
    本研究によりFCUの活動増加を伴わない手関節尺屈位においてADMの活動が有意に増加することが示唆された.ADMは豆状骨から起始し,近位手根骨列と機能的に協調する.手関節尺屈位において,豆状骨は三角骨と共に橈側へ滑り,かつ尺側近位へひかれる.これにより豆状骨の腹側部に起始するADMは中枢へ牽引され筋張力により豆状骨が安定し,ADMの筋活動が向上したと考える.これらのことから日常生活を尺屈位で過ごすことでADMの筋出力を補償しうる可能性があるのではないか.
    【まとめ】
    手関節尺屈位が手関節筋群に影響を与えることが示唆された.ADM筋出力低下は,代償的な手関節尺屈位をもたらし,手関節構成体にメカニカルストレスを与える可能性が示唆された.また肘関節,肩関節への影響も考慮した追加研究を行う.
  • 新谷 益巳, 木村 朗
    セッションID: 78
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
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    【目的】
    野球は運動習慣の面から人々の健康に有効であると考えられるが、リスクとして怪我の発生も生じる。少年期の主な原因として、行き過ぎた練習内容や試合日程が障害発生の大きな要因であると考えられている。肘症状の悪化の原因には様々なものがあると考えられるが、局所の筋運動による局所皮膚表面温度の変化に注目し、これらの関係を分析検討することで、予防に関わる運動条件を探索する。
    【対象】
    野球経験のある健康男性5名(平均年齢20.2±0.8歳)。身長173.4±3.1cm、体重67.2±10.3kg、経験年数5.4±2.1年。投球時に身体に痛みのある者と喫煙をしている者は除外した。室内の温度25.4℃±0.5、湿度42.6±2.5%。
    【方法】
    室内環境は、日本サーモロジー学会のテクニカル・ガイドライン基準案を基準とした。投球距離は10mとし、10m先に縦2m、横3mのネットを設置した。投球間隔は6秒に1球とし、20球を1セット、計10セット行った。セット間隔を5分とし、その間にシンワ社製の皮膚表面温度計(測定精度:±2%または±2℃、放射率:0.95)を用いて両側の肘関節内・外・後側の計6箇所計測を行った。投球フォームは、スリークウォーターからオーバースローの範囲であった。被検者は、検査内容についての十分な説明を受け同意を得た上で実施した。解析方法は投球回数と皮膚表面温度について、各単位ごとの皮膚表面温度の平均値の差について対応のあるt検定を用いた(有意水準5%)。5例の解析以外に、コッキング期の肘関節屈曲角度が十分な1例を除いた4例について比較した。
    【結果】
    肘関節皮膚表面温度(投球側/非投球側)の開始前は内側32.0±1.5℃/31.5±1.5℃、外側32.1±1℃/31.8±1.3℃、後側31.5±1.4℃/31.3±1.5℃であり、終了時は内側30.6±1.5℃/30.2±0.8℃、外側31.1±1.2℃/30.9±0.5℃、後側30.2±1.5℃/29.5±0.9℃であった。投球側に関しては(n=5)投球開始後20球で肘関節内側に有意差を認めた(p<0.05)。4例の解析では投球開始後140球で肘関節内側に有意差を認め(p<0.05)、外後側では有意差を認めなかった。非投球側内側の関連について比較したところ、同様に投球開始後140球で有意差を認めた(p<0.05)。
    【考察】
    投球回数の増加とともに両側の皮膚表面温度は徐々に低下したが、投球側の表面温度は高い傾向が示された。4例において140球で両肘関節内側に有意差を認めた。この結果から自律神経による影響も示唆する必要があると考えられた。今後はフォームの影響による違いについても検討を進めていく。
  • 宗村 和幸, 佐藤 成登志, 塩崎 浩之, 高田 治実
    セッションID: 79
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】〈BR〉腱板損傷の理学療法は保存療法の場合、腱板の自己修復を妨げないように機能の修復、改善を図る必要がある。また、特徴的な症状として疼痛・筋力低下が認められ慢性期においては、疼痛による二次的関節拘縮を主訴としているのが現状である。そこで今回、外来患者の右肩腱板損傷の保存療法症例に対して、Myotuning Approach(MTA)を施行し、シングルケース実験計画法のA-B-A-B法により1st外旋に対する効果検証を行ったので以下に報告する。〈BR〉【方法】〈BR〉外来肩腱板損傷患者1名に対して平成23年6月7日~6月28日の期間で、治療頻度は週1回、治療時間を20分とした。治療は、基礎水準期とMTA導入期を交互に行いその結果を検証した。基礎水準期にROM訓練、セラバンドを使用した1st肢位での肩腱板の筋力強化訓練、ストレッチを行った。MTA導入期にはMTA静的、動的施行法を行った。原因筋線維は棘下筋下部とした。評価方法は、1st外旋筋力(isometric)・1st外旋ROM・1st外旋動作により誘発される疼痛の強さをNRSにて測定し、治療前後で記録し比較した。なお筋力測定には、MDS社製ISOForceを使用した。開始肢位は椅子座位で下肢が床から接地していない状態にて肩関節1st内外旋0°で行った。そこからisometricにて外旋筋力を5秒間測定し、最初の1秒間の平均値をForce starts(Fs)、測定サイクル区間での最大値をForce max(Fm)、最後の1秒間の平均値をForce end(Fe)とした。尚、対象者には本研究の主旨を説明し、同意を得て実施した。〈BR〉【結果】〈BR〉1st外旋筋力(isometric)は第1、第2基礎水準期共に、Fs・Fm・Feの値に治療前後において変化が認められなかった。第1・第2MTA導入期では共に、Fs・Fm・Feの全ての値において治療前後に増加が認められた。また1st外旋ROM・NRSもMTA導入期の治療前後において改善が認められた。〈BR〉【考察】〈BR〉本症例は、腱板に対する外的ストレスやoveruseなどにより腱板のstabilizerとしての機能が破綻して静的・動的アライメント異常を認め、疼痛によるROM制限をきたしていた。また、1st外旋制限では鳥口上腕靭帯を含めた関節包の上前方部の伸張性が影響を与え、肩関節周囲組織の柔軟性が低下していたと考えられる。今回、MTAの施行により疼痛抑制及び軟部組織を含めた効率的な筋収縮の再獲得による関節運動の正常化が得られた。その結果ROMや筋出力、筋協調性の獲得が得られ、MTA導入期において改善が得られたと考える。〈BR〉【まとめ】〈BR〉本症例においては、MTAにより肩腱板損傷の1st外旋に対して効果が示唆された。今後は、多様な肩関節疾患に対して有効性の検証が必要である。
  • 臼井 直人
    セッションID: 8
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
    維持血液透析(HD)患者において,intact PTH(i-PTH)が高い時期に一致し膝関節の変形が進む症例を経験した.これまでの我々の検討により,HD患者では膝関節荷重痛発生頻度が高く,i-PTH長期管理状態が高値な程膝関節痛発生頻度が高い事が明らかとなった(腎リハ,2012).しかし長期管理状態より,一時的であってもi-PTHがより高い値を示す症例で膝関節痛発症頻度が高い傾向がみてとれた.今回は,i-PTHが一時的でもより高い値を示す程膝関節痛発症リスクが高いという仮説の下検討を行った.
    【方法】
    対象は独歩自立した50歳以上の当院外来HD患者124名(68.9±8.3歳,透析歴9.6±7.4年),内男性79名女性45名とし,関節リウマチ,膝関節外傷の既往があるものは除外した.評価項目は膝関節荷重痛, i-PTH(低PTH群<300≦高PTH群),年齢,BMIとした.i-PTHは過去5年間の最大値を測定値とした.対象者には研究目的と個人情報の取扱いについて説明し同意を得た.統計解析はx2-test,Mann-Whitney U-testを用い,統計学的有意水準は危険率5%未満とした.
    【結果】
    低PTH群に比して高PTH群で有意に膝関節痛発生頻度が高かった(p<0.01,オッズ比:3.71).男女別の検討では男性に比べ女性で有意に膝関節痛発生頻度が高く(p<0.01,オッズ比:2.8)、男女共に高PTH群で有意に膝関節痛発生頻度が高かった(男性:p<0.01,オッズ比:4.4,女性:p<0.05,オッズ比:3.5). 膝関節痛の有群,無群間に年齢, BMIの差は認めなかった.
    【考察】
    HD患者におけるi-PTH高値例では,変形性膝関節症(膝OA)の危険因子である骨密度が減少する(藤森ら,2000).我々が以前同様の集団を対象に行った検討ではPTH長期管理状態が高値を示す群で疼痛発生頻度が高かった(p=0.007,オッズ比:2.79).この結果を踏まえ本検討結果(p=0.001,オッズ比:3.71)を考察すると,本結果の方がより疼痛発生頻度を反映している事がわかる.よってi-PTHが期間に関係なく一時的でもより高い値を示す症例程膝関節痛発症リスクが高いという仮説は証明されたと考える.男女別の検討では男女とも高PTH群で疼痛発生頻度が高かったが,女性では男性ほど高PTH群と低PTH群に顕著な差は認めなかった.女性では男性に比し疼痛発生頻度が高い事から,女性ではそもそも閉経後のエストロゲン減少による骨密度低下という膝OA危険因子を抱えているためと考えられる. また,膝OAの主要危険因子であるBMIや高齢と膝関節荷重痛に関連を認めなかった.HD患者では,低栄養から体重が減少し易い事や高PTH血症による骨代謝異常の影響が強いためと考えられる.
    【まとめ】
    HD患者におけるi-PTHの評価は膝OAの予測に有用である事が示唆された.
  • 木村 雅巳, 前田 伸悟, 濱田 健司, 宮村 岳
    セッションID: 80
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
    人工骨頭置換術後において,肩関節の拘縮や縫着した大結節の転位により,屈曲可動域の回復が不良であるという報告は散見される。今回上腕骨近位端骨折を呈し人工骨頭置換術を行った症例に対し,良好な可動域を得ることができたので報告する。
    【症例紹介】
    基本情報は68歳女性,右利き。現病歴は転落受傷,診断名は右上腕骨近位端骨折(Neerの分類4-part骨折)。手術は受傷21日後に人工骨頭置換術が施行された。棘上筋腱,肩甲下筋腱が付着していた骨片をステムと骨幹部へ縫着した。後療法は,3週間三角巾固定。術翌日より振り子運動のみ許可され,4週目から可動域練習が制限無く許可された。合併症はなく,経過中X線所見において骨片の転位等の異常はなく,術後12週にて退院した。なお,今回の報告に関し,本症例に説明し同意を得た。
    【理学療法評価及び治療経過】
    術後2日目より理学療法を開始した。治療方針は,振り子運動での屈曲可動域改善と,縫着した骨片の転位の防止とした。初期評価では,可動域は振り子運動にて屈曲60°程度であった。筋緊張は大円筋や大胸筋,小胸筋が亢進しており,振り子運動時肩甲骨の過剰な外転運動と上方回旋不足がみられた。これらに対し肩峰下インピンジメントによる大結節の衝突回避のため肩甲帯の機能練習を,骨片の付着筋による牽引ストレスを生じないよう振り子運動最終域手前でのダイレクトストレッチを行った。4週目の評価では振り子運動での屈曲90°を獲得し,可動域は他動屈曲120°,外旋0°,自動屈曲60°だった。振り子運動での肩甲骨の異常運動はみられなかった。術後12週では,他動屈曲165°,外旋40°,自動屈曲135°だった。
    【考察】
    人工骨頭置換術後の他動可動域の平均が屈曲129.2±21.4°との報告がある。また良好な可動域獲得のためには,年齢が60歳以下,受傷後2週以内の手術,術後1週での内・外旋可動域練習開始,大結節の転位の防止が重要と報告されている。不良な可動域が予測された本症例が良好な可動域を得られた要因として,早期から振り子運動にて肩甲上腕リズムが改善できたことと,縫着した骨片の転位が起こらなかったことが考えられる。縫着した骨片への負荷として,肩峰下インピンジメントによる大結節の衝突と,骨片の付着筋による牽引ストレスを念頭に理学療法を行った。その結果屈曲可動域制限を最小限に抑えることができ,骨片の安定により回旋筋腱板が機能したことで他動,自動屈曲可動域とも順調に回復した。
    【まとめ】
    人工骨頭置換術後の良好な屈曲可動域獲得のためには,早期からの振り子運動での肩甲上腕リズムの改善と,大結節の転位の防止が重要と示唆された。
  • 村田 健児, 井所 拓哉, 藤井 貴弘, 大宮 めぐみ, 久保 和也, 安井 謙二
    セッションID: 81
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
    会議録・要旨集 フリー
    【緒言】
    近年,患者主体の医療の重要性が提唱されるようになり,多くの理学療法領域で患者立脚型の評価法が用いられている。しかし,肩疾患特異的な患者立脚型評価を用いた報告は少なく,その原因として評価指標自体が寡少であることがあげられる。本研究は,日本整形外科学会および日本肩関節学会作成による「患者立脚肩関節評価法Shoulder 36 V.1.3」を用い,理学療法分野における患者立脚型の評価指標として検証した。
    【方法】
    対象は2011年11月から2012年2月まで当院に肩関節疾患で入院及び外来受診後理学療法を開始した28名(男性12例,女性16例)とした。評価方法は「患者立脚肩関節評価法Shoulder 36 V.1.3」を用い,すべて初診理学療法前に回答を得た。本評価表は36項目の質問を6つのドメイン(疼痛,可動域,筋力,健康感,日常生活機能,スポーツ能力)に分類し,各領域について重症度5段階(0-4)の平均値を計算,値が大きいほど良好な状態であることを示す評価指標である。解析は各ドメインの関連性検討にSpearmanの順位相関係数,各ドメインの内的整合性の検討にクロンバックのα係数を用いて解析した。
    【倫理的配慮】
    本研究は当院当科倫理委員会の承諾を得た上,患者に対して研究内容を口頭および書面にて説明し同意を得た。
    【結果】
    対象者の内訳は Zuckermanの定義により一次性肩関節周囲炎20名,二次性肩関節周囲炎8名であった。年齢中央値62(12-73)歳,罹患側は右22肩,左6肩の回答を得た。結果,各ドメイン間で有意な関連を認め,相関係数は可動域–日常生活機能(r=0.921,p <0.01),疼痛-可動域(r=0.914,p <0.01),可動域-筋力(r=0.875,p <0.01),疼痛-日常生活機能(r=0.853,p <0.01),疼痛-筋力(r=0.822,p <0.01)であった。内的整合性は疼痛(α=0.865),可動域(α=0.929),筋力(α=0.944),健康感(α=0.732),日常生活機能(α=0.896),スポーツ能力(α=0.539)であった。
    【考察および結論】
    患者立脚型評価法による相関関係から,疼痛が可動域制限をきたし,筋力低下,日常生活機能低下をもたらす過去の報告と一致している。さらに,各ドメインの内的整合性は高く,患者立脚型の評価指標して有用である。しかし,スポーツ能力における内的整合性は低値を示していることを考慮すべきである。今後,臨床で肩関節疾患を伴う症例に対しての効果の検証や経過観察などに患者立脚型評価法として検証していく必要性がある。
  • 木勢 千代子, 中村 睦美, 山形 沙穂, 森田 真純, 長谷川 恭一
    セッションID: 82
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    褥創危険要因は、病的骨突出、関節拘縮、栄養状態低下、皮膚湿潤、浮腫が挙げられる。その中で関節拘縮の評価は有無の項目のみで、今まで具体的に関節可動域と褥創の関連を明らかにしたという報告はない。本研究では、関節可動域制限に着目し、褥創の有無で関節可動域に差があるかを明らかにする事を目的とした。
    【方法】
    対象者は、理学療法施行中の入院患者のうち日常生活自立度B・Cランクの者とし、仙骨、大転子部に褥創を有する者を褥創有り群(以下、有群)、無い者を褥創無し群(以下、無群)と2群に分けた。対象者の診療録から基本的情報(年齢、体重、身長)、褥創の有無、褥創がある場合は褥創の部位の情報を得た。また、下肢の股、膝、足関節の関節可動域を測定した。統計解析には対応のないT検定を使用し、有意水準は5%未満とした。対象者には研究説明を十分に行い、書面にて同意を得た。なお、本研究は当院の倫理委員会の承認を得て実施した。
    【結果】
    対象者48名中、無群は41名(男性14名、女性27名、平均年齢80.9±9.5歳、BMI20.1±4.1)、有群は7名(男性1名、女性6名、平均年齢77.6±8.3歳、BMI19.6±5.1であり、有群における褥創部位は仙骨5名、大転子部2名であった。2群に有意差が認められた項目は、右股関節伸展(無群2.9±7.6度、有群-1.4±4.8度)、左股関節伸展(無群1.5±7.9度、有群-2.1±3.9度)、左股関節内転(無群12.0±6.8度、有群6.4±6.9度)であった。
    【考察】
    有群は、有意に左右股関節伸展、左股関節内転に可動域制限が認められた。仙骨や大転子は骨盤と大腿骨から成る股関節の運動に大きな影響を受ける。本研究の対象者は日中ベッド上で過ごす事が多く、特に股関節の伸展制限があると、股・膝関節は屈曲位をとり易く、臥位では仙骨部に体圧がかかる。さらにギャッジアップは仙骨部にずれる力が働くため、褥創発生には環境因子も大きな影響を及ぼしていると思われる。褥創は圧力とずれ力が原因で、阻血性障害や再灌流障害となり、褥創発生に至る。今回は関節可動域制限と褥創のどちらが先に発生したか、原因追究は困難だが、両者の関連は改めて認められた。褥創発生には、個人因子や環境因子などの影響も大きく関与していると考えられる為これらの因子も考慮に入れ、今後は褥創部位と関節拘縮の部位の関連性があるか症例数を増やし検討したい。
    【まとめ】
    褥創の有無で左右股関節伸展と左側内転の関節可動域に差が見られ、両者に関連がある事が示唆された。
  • 神原 孝子, 吉岡 明美, 白子 淑江, 花町 芽生, 碓井 愛, 平良 勝章, 根本 菜穂, 跡部 武浩
    セッションID: 83
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
     大腿骨の片側低形成の場合、成長により低形成側の膝の位置が高位となることで靴の補高のみでの対応が難しくなる。今回、左大腿骨低形成と診断された女児一例の生後11ヶ月から5歳までの補装具の作製に関わったので報告する。
    【結果】
     初診時、MRIでは骨頭は臼蓋の中にみられるがやや小さく、骨幹部は不明瞭で偽関節も疑われ、遠位部も右に比較し小さい構造であった。運動発達は、左下肢はつま先立ち、右下肢は膝屈曲位でのつかまり立ちまで可能であった。ROMは股関節伸展-10°以外は問題がなく、立位脚長差約5㎝に対し、中敷き1㎝外4㎝補高靴を作製し安定した荷重を促した。独歩可能となった1歳4ヶ月時に脚長差が10㎝となり、靴への補高のみでは膝関節の側方不安定と足関節の外反、過背屈が見られたため、補高9.5㎝のプラスチックAFOと屋外用の靴型AFOを作製した。2歳3ヶ月時に脚長差13㎝となり、足底全面の補高では重くなったため、靴型AFOの下にあぶみをつけて補高を行ったが、砂場や不整地であぶみが引っかかり転倒が増えた。このため、再度全面補高とし、toe springを増やし、踵も大きく削ることで走行し易くした。4歳7ヶ月時に約18㎝の脚長差になり、底屈位のプラスチックAFOの足底にソケットアダプタで義足のパイプを取り付け、SACH足をつけた装具を作製した。膝の高位と装具長が長くなったことによる膝の不安定を考慮し、膝単軸継ぎ手と大腿カフをつけた。
    【説明と同意】
    対象児およびご家族に本報告の主旨を説明し、報告および写真等の提示に関しても同意を得た。
    【考察】
    本症例は、左大腿骨の低形成以外は発達面での問題はなく、乳児期の運動発達では脚長差に対して適応していた。しかし、大腿骨骨幹部の形成不全に伴う捻れと彎曲と大腿周囲の筋のゆるみによる股関節の伸展制限、膝の側方不安定もみられていた。近位大腿骨限局性欠損症の装具の報告は、坐骨支持のソケット付きの装具の補高をリングロック膝継ぎ手支柱でSACH足との連結をしたものがある。本症例は、膝関節の形状に問題が無く、脚長差を補正するための装具として、義足のパイプとSACH足を使用することで安定した歩行が獲得できた。義足パイプを使用したことで長さを調整することが容易となり、成長に合わせて迅速に対応することが可能になった。また、AFO足底への補高に比較し、靴の履き替えが可能となり屋内外兼用でき、外見上も目立たなくなった。今後の装具作製には、就学により坐位時間も増えるため左右の膝位置の差や、坐位姿勢に関しても考慮が必要と思われる。
  • 長谷川 恭一, 山元 佐和子, 森田 真純, 中村 睦美
    セッションID: 84
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    本研究の目的は看護職員の腰痛経験者の把握と,運動療法が看護職員の腰痛軽減予防対策に有効であるか明らかにすることである。
    【方法】
    当グループ6施設の看護職員を対象に腰痛経験の有無に関してアンケート調査を行った後,腰痛経験者に対して腰痛予防及び軽減を目的とした運動療法を指導した。また,参加者のうち同意を得られた者を対象として運動療法の介入効果を検討するために介入前後で評価を行った。評価には,日本整形外科学会が作成した腰痛評価質問票(JOA Back Pain Evaluation Questionnaire:以下JOABPEQ)を用いた。運動療法は体幹深部筋に注目したストレッチと筋力トレーニングを含んだ3種類の簡便な運動で,1カ月間,週に3回以上自主トレーニングを行うように指導した。介入効果の判定にはSPSS 19.0を用いWilcoxonの符号付き順位検定を行った。有意水準は5%未満とした。なお,対象者には研究に対する十分な説明をして書面にて研究参加の同意を得た。本研究は当院倫理委員会において承認を得ている。
    【結果】
    アンケートは219枚回収され(回収率95.6%),「腰痛あり」,「腰痛時々あり」の回答は全体の81.7%であった。運動療法を指導した17名(女性13名,男性4名)のうち1ヵ月後に評価が行えたのは13名(女性9名,男性4名)であった。JOABPEQの介入前後の中央値(最小値-最大値)は,それぞれ「疼痛関連障害」は71(0-100),71(0-100),「腰椎機能障害」は75(8-100),67(0-100),「歩行機能障害」は100(57-100),100(21-100),「社会生活障害」は57(19-100),62(14-86),「心理的障害」は51(21-67),53(21-67)であった。全ての項目において介入前後で有意差は認められなかった。
    【考察】
    本研究では,看護職員における腰痛経験者は81%と高値を示した。今回の介入では,JOABPEQにおいて有意差は見られず,運動療法が看護職員の腰痛軽減予防対策に有効かは明らかにならなかった。しかし,個々の対象者でみると実施頻度が多く継続して運動を行えた者で大きく改善する印象をうけた。今回,介入効果がみられなかった原因として対象者が少数であったこと,介入期間が1ヶ月という短期間であったことや運動療法の実施頻度が少なかったことが挙げられるため,対象者を増やし,理学療法士の長期的統合的介入を行い,さらなる調査が必要であると考えられる。
    【まとめ】
    今回の研究では,腰痛経験のある看護職員は高率であり,腰痛予防や腰痛軽減に対する運動療法の指導や教育が必要であると考える。
  • 濱田 健司, 川邊 祐子, 前田 伸悟, 木村 雅巳, 濵野 祐樹, 西岡 幸哉
    セッションID: 85
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    鏡視下腱板縫合術(以下、ARCR)において、術後の臨床成績と機能回復の報告は散見される。しかし、それらは長期成績に関する報告がほとんどで、運動器リハビリの標準算定日数である150日という比較的短期間での成績に着目した報告は少ない。また、肩内外旋筋力と臨床成績の関係性を検討した報告も少ない。よって今回、肩内外旋筋力と術後短期成績の関係性を明らかにするため検討を行った。
    【対象・方法】
    〔対象〕当院にて、2010年9月から2011年9月までに腱板断裂に対しARCRを施行した症例中、術後3ヶ月・6ヶ月に日本整形外科学会肩関節疾患治療成績判定基準(以下、JOA)にて評価を、3ヶ月時に肩内外旋筋力評価を行い経過観察が行えた18症例とした。〔方法〕先行文献に基づき疼痛・筋力・ADL・ROM項目の合計点数の8割を満たした例をexcellentとした。3ヶ月評価時にexcellentに達した例をA群(8例 男5名 女3名 平均年齢68.5±11.4歳)、6ヶ月評価時にexcellentに達した例をB群(7例 男5名 女2名 平均年齢66.7±3.0歳)、6ヶ月評価時にexcellentに達しなかった例をC群(3例 男3名 女0名 平均年齢67.0±8.5歳)とした。肩内外旋等速性筋力は1stポジションでの評価を行い、角速度を60°/秒,180°/秒としBiodex System3(Biodex社,USA)を用いて3ヶ月のJOA評価と同日に測定した。筋力はピークトルクを体重で除した値を使用した。統計学的検定には、3群間での肩回旋筋力の各変数の差を明らかにするため、一元配置分散分析を行った。有意水準はp=0.05とし、すべての統計解析のためにR 2.8.1を使用した。尚、この研究は、厚生労働省が定める「臨床研究に関する倫理指針」に基づき、診療情報は匿名化したうえで、後方視的なデータを収集・分析するとして、当院の倫理委員会の承認を受けた。
    【結果】
    外旋60°/秒、180°/秒、内旋60°/秒、180°/秒それぞれ、ABC群間での有意な差はみられなかったが、内旋筋力においてA群・B群・C群の順で減少傾向であった。
    【考察】
    肩内外旋筋力の回復に伴い疼痛やROMの回復が得られ、筋力と術後成績は正の相関を示すという報告がある。今回の検討では3ヶ月時点での肩内外旋筋力にて機能回復期間での有意差は示されなかった。外旋筋力に関しては、術後3ヶ月以降に回復傾向を示すとされるため良好例・不良例ともに3ヶ月時点での筋力差は生じなかったと考える。一方、内旋筋力は、外旋筋力に比べ早期に機能回復するとされるため一定の傾向性が示唆されたと考える。
    【まとめ】
    ARCR術後の短期成績良好例と不良例にて3ヶ月時点での肩内外旋筋力は有意な差を示さなかったが、内旋筋力において一定の傾向性を示唆した。
  • 深井 晃, 中山 敏也, 坂爪 隼
    セッションID: 86
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    肩腱板断裂に対する鏡視下腱板縫合術(Arthroscopic Rotator Cuff Repair:ARCR)のリハビリのあり方を検討するため、術後の経過を日本整形外科学会肩関節治療成績判定基準評価(JOAスコア:疼痛、総合機能、日常生活動作)、関節可動域(ROM)、筋力の各項目について経時的に評価した。
    【対象】
    2010~2011年の間に、肩腱板断裂と診断されARCRを施行した57例中、術後6ヵ月間の経時的評価をし得た20例(女7例、男13例)、平均年齢68.5歳±8を対象とした。
    【方法】
    JOAスコアに基づいて疼痛、総合機能(外転筋力、耐久力)、日常生活動作を術前、術後1ヵ月、3ヵ月、6ヵ月で経時的に評価した。また、ROMと第一肢位での内外旋筋力についても経時的に評価した。ROMは、前方挙上(AE)、伸展(EXT)、外転(ABD)、下垂位外旋(1stER)をそれぞれ計測した。内外旋筋力は日本メディックス社製Power Trackを用いて測定した。理学療法については当院のプロトコールに則って、理学療法士がそれぞれ実施した。
    【結果】
    JOAスコアの疼痛は、経時的な改善を示し、術前平均11.1点±4.9から術後6ヵ月には平均24.5点±5.7まで改善した。総合機能では外転筋力、耐久力は、術後6ヵ月時にはじめて有意な改善を認めた。日常生活動作は、術後3ヵ月、6ヵ月で各々有意な改善を認めた。
    ROMは、AE、ABDは術後1ヵ月で低下するものの、術後6ヵ月には有意に改善した。EXT、1stERは経時的に漸次改善し、術後6ヵ月で有意な改善を示した。
    Power Trackを用いての内外旋筋力評価では、外旋筋力が術後3ヵ月、6ヵ月で各々有意な改善を認めた。内旋筋力は術後1ヵ月時で低下するものの、その後は漸次改善を示すが、統計学的有意差は認められなかった。
    【考察】
    ARCR術後は、疼痛は、1ヵ月後には有意に軽減し、日常生活動作は約3ヵ月で有意に改善した。一方ROM、外旋筋力など機能障害の改善には、術後6ヵ月間を要することが判明した。ARCRにより解剖学的な構造修復を行うことで疼痛は早期に改善するが、術後外固定の影響もありROM及びInner muscleへのアプローチが遅れてくるものと考えられた。
    【まとめ】
    ARCR術後20例のJOAスコア及びROM、内外旋筋力について6ヵ月間経時的評価を実施した。疼痛が早期に改善し、これに続いてADLが改善したが、ROM、Inner muscleの機能改善には6ヵ月間を要していた。今後、固定期間中の機能障害に対する理学療法アプローチの変更が必要のように思われた。
    ※データの使用には予め対象者の同意を得た。
  • 源 裕介, 長谷川 彰子
    セッションID: 87
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    握力発揮時の橈側手根伸筋(以下ECR)は手関節の固定に働いており、また強い握力動作に応じてECRは強い筋活動を起こすという報告が散見される。これにより、握力訓練を行う際はECRの筋活動を意識した訓練を行うべきであると提唱されているが、その方法についての研究報告は少ない。今回2つの異なる握力訓練方法を考え、表面筋電計によるECR筋活動の測定と、2ヶ月間の握力訓練を実施し、その結果からECRの筋活動は握力訓練効果に関係があるかを比較検討した。
    【方法】
    方法は、ボール群と新聞紙群の2種類を用意した。
    ボール群は、直径6cmのゴム製のボールを使用し、前腕回内位、手関節軽度背屈位でボールを把持し、強く握る動作を行った。新聞紙群は、新聞紙1枚を用いて前腕回内位、手関節軽度背屈位で新聞紙を中央から把持し新聞紙を丸めて球体を作っていく動作を行った。
    表面筋電計の計測では、被験者9名(健常者男性4名・健常者女性5名・平均年齢25.11±3.37)のECRに電極を貼付し、2つの方法を3分間実施した際の計測を行った。表面筋電計は酒井医療製TELEMYOG2を使用し、測定したデータの平均振幅を2群間で比較し、統計処理は対応のあるt検定(有意水準5%)を行った。
    握力訓練は、被験者8名(健常者男性4名・健常者女性4名・平均年齢24.5±3.02)でボール群(男性2名・女性2名)と新聞紙群(男性2名・女性2名)に分かれ、各訓練を1回で3分間、1日2回、2ヶ月間実施した。筋力測定はスメドレー式ハンドダイナモメーターを用いて初回-最終、初回-1ヶ月、1ヶ月-2ヶ月の増加率を算出し2群間で比較した。
    なお実験に先立ち,対象者には研究内容について口頭にて十分に説明を行い、同意を得た。
    【結果】
    筋電図における平均振幅は、新聞紙群の方が活動電位の高値を示し有意差も認められた。また握力訓練での増加率は、初回-最終でボール群が14%、新聞紙群が16%とわずかに新聞紙群でわずかに効果が高かった。しかし、1ヶ月-2ヶ月ではボール群がわずか0.6%の増加率に対し、新聞紙群は6%と訓練効果に差が見られた。
    【考察】
    今回の結果より両群の差はわずかであったが、1ヶ月-2ヶ月の効果をみると新聞紙群の方で効果が高いことから、新聞紙群はボール群より長期的な訓練効果が期待できると考えられた。これにより、ECRの筋活動は少なくとも訓練効果に関与していると考えられた。
    【まとめ】
    今回握力訓練の効果をECRの筋活動に着目して検討した。結果はECRの筋活動が有意に高かった新聞紙群でわずかに訓練効果が高かった。しかし、その有効性を示す要素はまだ不十分であるため、今後の検討課題となった。
  • 田中 龍太, 今屋 健, 戸渡 敏之, 勝木 秀治
    セッションID: 88
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    我々は2009年2月よりJリーグ下部組織(ジュニアユース)のメディカルサポートに携わる機会を得た。その中で、2009年にグローインペイン症候群(以下、GPS)の症例が多く見受けられたため、2010年はチーム全体としてストレッチやバランス練習の予防指導を行った。今回GPSの罹患要因や復帰期間など後方視的に調査し、予防指導効果を検証した。
    【対象】
    GPSと診断された症例は、2009年は53名中9名(17%)12股で年齢14.1±0.7歳、2010年は50名中6名(12%)8股で年齢14.0±0.9歳であった。また調査にあたりチームや選手に本研究の主旨を十分に説明し同意を得た。
    介入頻度は週に1回で、物理療法、運動強度の調節、ストレッチ、筋力訓練、振り子運動などを行った。2010年はチーム全体にストレッチやバランス訓練の指導を行った。
    【評価および分析】
    病態把握は、1)疼痛部位、2)障害側、3)股関節柔軟性(股伸展・外旋・開排・鳶座、体前屈)、4)片脚バランス能力(片脚スクワットと片脚爪先立ち)の4項目とした。障害側の傾向はχ2乗検定で調査した。介入効果の検証は、2009年と2010年の5)罹患率と6)復帰期間を対応のないt検定を用いて比較した。有意水準は5%とした。
    【結果】
    2009年は、1)恥骨結合1股、内転筋付着部付近7股、大腿直筋付着部付近4股、2)利き足9股、非利き足1股、両側2股、3)股伸展12股、外旋5股、開排5股、鳶座6股、体前屈8股、4)全例が両側共にできなかった。2010年は、1)内転筋付着部付近5股、大腿直筋付着部付近3股、2)利き足6股、非利き足2股、3)股伸展8股、外旋2股、開排2股、鳶座3股・体前屈3股、4)全例が両側共にできなかった。障害側は利き足に多くみられたが有意差はなかった。予防トレーニング効果について、5)2009年17%、2010年12%であり、6)2009年15.2±10.7週(8週~40週)、2010年7.3±3.0週(4週~14週)であったが有意差はなかった。
    【考察】
    GPSは、頻回なキック動作を繰り返すサッカー選手に多く、復帰までに期間を要するスポーツ障害である。罹患側は利き足に多く、今回全例で股関節伸展の柔軟性や片脚バランス能力の低下がみられたため、2つの項目がGPS罹患率を高める要因と考える。そして、2010年からはこの2項目の改善とチーム全体にストレッチなどの指導の強化を行った。そのため、統計学的な差はみられなかったものの、復帰の早期化や症状悪化の回避に良い印象を持っている。さらに、現場ではGPSを発症してから治療までの期間が短いほど復帰が早く、症状を抱えてのプレーの継続は復帰遅延を招くと考える。GPSの治療には病態に対するチームと本人の理解を得て、早期発見、早期治療が極めて重要だと考える。
  • 内藤 慶, 桜井 進一, 赤岩 修一, 佐藤 玲果, 川越 誠
    セッションID: 89
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
     当院において膝半月板損傷の手術件数増加がみられ、今後の治療のデータベース化と課題の抽出が必要とされる。これまでの治療経過・傾向の把握を行い選択的な治療を行う事を最終的な目標とし、今回は膝半月板単独損傷術後患者の損傷部位と、円板状半月板(以下Discoid)の有無を群分けし、そのリハビリ実施期間を明確にする事を目的とした。
    【対象と方法】
      対象は当院にて半月板損傷の診断で鏡視下手術を行ったスポーツ患者のうち、縫合術を除外した33例である。
     方法は、外側半月板のうちDiscoid有り(以下DLM+群)と、Discoid無し(以下DLM-群)、内側半月板(以下MM群)の性別・年齢・リハビリ実施期間の平均値を比較した。また、各群の合併症・損傷部位の比率を算出した。合併症は前十字及び後十字靱帯損傷を除いたものとした。
    【説明と同意】
     診療録に関しては調査の趣旨を十分に説明し、本人と家族の同意を得て取り扱った。
    【結果】
     全体は、男性26例、女性7例、年齢24.5歳(12~60歳)であった。
     DLM+群は、男性12例、女性4例、年齢20.3歳(12~49)、リハビリ実施期間86.1±46.7日であった。比率は、合併症で骨変形が6.2%、無しが93.8%であった。損傷部位は中節56.3%、複数31.2%、前節6.3%、の順に多かった。
     DLM-群は、男性10例、女性1例、年齢22.7歳(14~48)、リハビリ実施期間130.9±97.6日であった。比率は、合併症で骨変形が9.1%、靱帯損傷が9.1%、無しが72.7%、その他が9.1%であった。損傷部位は中節27.3%、前節18.2%、後節9.1%の順に多かった。
     MM群は、男性4例、女性2例、年齢39.2歳(14~60)、リハビリ実施期間143.3±113.9日であった。比率は、合併症で骨変形が33.3%、靱帯損傷が16.7%、無しが50%であった。損傷部位では後節が66.7%、複数が33.3%であった。
    【考察】
     リハビリ実施期間の平均値はMM群で最も長く、次いでDLM-群、DLM+群の順であった。他項目と比較すると、骨変形比率と靱帯損傷比率が同様の順である事から、半月板損傷以外の傷害がリハビリ実施期間の遅延に影響したと考えられた。また平均年齢も高い群ほどリハビリ実施期間が長いことが確認された。そのため早期復帰などの治療期間を想定したアプローチには、合併症と年齢の把握が不可欠と考える。しかし各群で有意差は認められないため、今後さらに対象数を増やし詳細に区分したデータ収集を行うことが課題となる。
  • 水澤 一樹, 澤栗 三宜, 深海 直子(OT)
    セッションID: 9
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    がん患者に対するリハビリテーション(がんリハ)の目的は他疾患と同じく,Performance Status(PS)・基本動作能力・日常生活活動(ADL)・生活の質(QOL)の維持・改善とされるが,他疾患よりもQOLに重点が置かれている点は特徴的である.なおPS・基本動作能力・ADLなどの身体能力は臨床アウトカムであり医療従事者側からの客観的評価だが,QOLは患者立脚型アウトカムであり患者側からの主観的評価となる.したがって両者は整合性がないことも考えられ,その際にはがんリハのアプローチ方法を再考しなければならない.そこで本研究では,がん患者の身体能力とQOLの整合性について横断的に検討することとした.
    【方法】
    対象はがん患者20名(男性8名,女性12名)とした.年齢は62.9±13.1歳,がんリハのステージは予防的0名,回復的9名,維持的9名,緩和的2名,がんの種類は癌腫9名,肉腫9名,造血器由来2名であった.PSはEastern Cooperative Oncology Groupの定義,基本動作能力はFunctional Movement Scale(FMS),ADLはFunctional Independence Measureの運動項目(mFIM),QOLはSF-36によって評価した.なおSF-36からは身体的側面(PCS)・精神的側面(MCS)・役割/社会的側面(RCS)の3サマリースコアを算出した.統計解析としては,身体能力とQOLの関連性を検討するため,Pearsonの相関係数を求めた.さらにそれらの整合性を検討するため,Cronbachのα係数も求めた.なお本研究はヘルシンキ宣言に沿って実施した.本研究は観察研究であり, いずれの使用データも日常の臨床において必要な項目である.しかし対象者には書面・口頭にて十分な説明を行い,書面にて同意を得た.
    【結果】
    身体能力とQOL間では,PSはPCSとのみ有意な相関(r=-.78)を認めたが,FMSとmFIMはすべてのQOL側面と有意な相関(r=.50~.71)を認めた.なお全項目におけるα係数は0.54であったが,RCSを除外すると0.67,さらにMCSも除外すると0.76へ向上した.
    【考察】
    個々として身体能力とQOLはある程度関連していたが,全体として身体能力とQOLに整合性があるとはいい難い.ただし,がんリハの目的として身体能力と身体側面のQOLには整合性があるため,身体能力の改善が身体側面のQOL向上に結び付く可能性が推測された.ただし今回は横断研究であるため,身体能力の改善がQOLの改善に結びつくとは断言できず,今後は縦断的な調査を行う必要がある.
    【まとめ】
    がん患者20名を対象として,身体能力とQOLの整合性を検討した.身体能力と身体側面のQOLには整合性が認められ,身体能力の改善が身体側面のQOL改善に結びつく可能性が示唆された.
  • 福原 隆志, 坂本 雅昭, 中澤 理恵, 川越 誠, 加藤 和夫
    セッションID: 90
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
    足関節靱帯損傷は多く発生するスポーツ傷害であり,発生・再発要因の一つとして遠位脛腓関節のアライメント異常があるとされる.先行研究から足関節靭帯損傷後の腓骨外果は前方へ移動することが報告されているが,経時的な変化についての報告はこれまでなされていない.本研究は,足関節靭帯損傷後の腓骨外果位置の経時的変化について検討するものである.
    【方法】
    対象は整形外科にて前距腓靭帯損傷の診断を受け,理学療法を実施した女性5名(14.6±1.1歳)の両下肢,計10肢とした.測定項目は腫脹の量及び外果の位置の2項目とし,理学療法開始時並びに開始2週間後の2回測定を実施した.腫脹の測定には,figure eight法を用い,テープメジャーにて0.1cm単位で測定した.外果位置の測定には,我々が先行研究にてデジタルノギスを使用し作成した測定機器(ICC(1,1)=0.97,J.Phys.Ther.Sci 23:919-921,2011)を用い,踵骨後縁から腓骨外果最下端までの前額面における距離について0.1mm単位にて測定した.腫脹の量および外果位置について,受傷側での値から非受傷側での値を引き,両者の差を求めた後,測定時期にてWilcoxonの符号付順位検定を用い比較検討した.解析にはSPSS ver.17を使用し,有意水準を5%とした.
    【説明と同意】
    対象者全員及び保護者に対し,研究の趣旨について十分に説明し,同意を得た上で測定を行った.
    【結果】
    腫脹は,理学療法開始時では0.76±0.65 cm,2週間後は0.26±0.66 cmであり,有意に減少した(p<0.01).腓骨外果の位置は,理学療法開始時では5.92±4.07 mm,2週間後は-1.24±4.42 mmであり,有意に前方から後方へ移動した(p<0.01).
    【考察】
    スポーツ現場では,足関節靭帯損傷後に軽度な足関節可動域制限が残存し,慢性的な疼痛を有するものがしばしば確認される.その際,脛腓関節へのアプローチが有効であることが先行研究にて報告されている.本研究の結果から,足関節靭帯損傷後,時間の経過とともに腫脹は軽減し,外果の位置は前方から後方へ移動していくことが示された.足関節靭帯損傷後の理学療法評価の視点として,脛腓関節のアライメントにも着目していくことが重要であると考えられる.今回の調査により,足関節靭帯損傷後における外果位置の経時的変化が明らかになった.受傷早期からの応急処置の方法を検討することで,スポーツへの早期復帰並びに傷害予防につながると考えられる.
  • 伊藤 彰, 小倉 理枝, 下田 栄次, 安部 総一郎(MD)
    セッションID: 91
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    入谷式足底板の作成には歩行・動作分析による評価やアーチパッドの研磨などの理学療法士としての技術に加え作成技術の熟練を要す。そのため、評価及び作成技術の未熟な施設での導入後1年間の臨床効果を検証し今後の課題を検討する。
    【対象】
    対象はH22年9月から1年の間に当院で入谷式足底板を作成した患者36名の中で本研究の内容及び目的に同意し協力の得られた20名(男性2名、女性18名、平均年齢67.5±9.4歳)である。患者の疾患の内訳は変形性膝関節症13名、変形性股関節症3名、変形性腰椎症1名、腰部脊柱管狭窄症1名、腰椎圧迫骨折1名、外反母趾1名である。
    【方法】
    入谷式足底板の作成手順に従って足底板を作成した後、患者の任意での10m歩行速度(以下FWS)、最速での10m歩行速度(以下MWS)とそれぞれのストライド長、60秒を上限とした開眼片脚立位保持時間を計測した。測定は学習による順序効果を考慮して2日に分け、1日目は足底板無→有、2日目は足底板有→無の順で各項目2回ずつ行い、得られたデータをt検定を用いて統計学的検討を行った。なお、有意水準は5%とした。
    【結果】
    FWSは足底板無71.3±11.0m/分、有73.8±11.7m/分、ストライド長が足底板無1.17±0.16m、有1.21±0.16m、MWSでは足底板無85.5±13.4m/分、有88.5±14.6m/分、ストライド長が足底板無1.26±0.16m、有1.30±0.18mで各項目足底板無と有の間で有意差がみられた。しかし、開眼片脚立位保持時間では足底板無での右脚36.6±23.3s左脚36.8±24.9s、足底板有での右脚37.3±24.0s左脚34.5±25.4sで左右脚とも有意差はみられなかった。
    【考察】
    入谷は歩行の基本力学として安定した歩行の獲得には推進性機能と安定させるバランス機能という2つの機能が協調して機能しなければならないとしている。今回の研究では推進性機能をFWS、MWS、ストライド長で、安定させるバランス機能を開眼片脚立位保持時間で評価し臨床効果の指標とした。今回の結果から推進性機能では、足底板を装着することで歩容を変化させた結果ストライド長が延長しFWS、MWSが改善したと考える。一方、安定させるバランス機能では改善がみられなかった。これは、作成者の評価技術やアーチパットの研磨技術の未熟さによるものと考える。また、今回は静的なバランス評価しか行っていないため今後は動的なバランス評価も併せて行いさらに臨床効果の検証を行う事で技術の向上につなげたい。
  • 原田 長, 板倉 尚子, 渡部 真由美, 西嶋 力, 林 弘康
    セッションID: 92
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
    近年,こどもの運動・スポーツ不足に伴う生活習慣病・体力低下が指摘される一方で,運動・スポーツ過多によると思われるスポーツ外傷・障害が多発していると言われる.発育期である小学校高学年から中学生にかけてはこの時期特有の運動器疾患があり正しい知識をもって対応することで障害予防や症状の重症化を防ぐことにつながる.今回,小学校において「成長期の身体の特徴とケガの予防」というテーマで授業依頼を受け,実施したのでここに報告する.今後の学校教育における理学療法士の関わりも含め考察を加える.
    【方法】
    平成23年度東京都スポーツ教育推進校であるA市立B小学校より研究発表会における授業のゲストティーチャーの依頼を受けた.小学校5年生の2クラスを対象に2日間にわたり計4校時,「成長期の身体の特徴とケガの予防」というテーマで実技を交えた授業を実施した.内容は1.骨の成長に伴う筋腱の柔軟性低下と骨端軟骨の強度低下によって引き起こされやすい運動器疾患の予防について,その身体的特徴,また簡単な柔軟性のチェック方法と,それを改善させるストレッチの実技を通して紹介した.2.神経系の発達,神経筋の発達と転倒予防・外傷予防についてそのメカニズムと簡単なバランスチェックの方法,バランス能力を向上させる運動を実技を通して紹介した.
    【結果】
    こどもたちは運動前後による柔軟性の改善を中心に自分の身体変化を敏感に感じ取っていた.その後の聞き取り調査では,大半のこどもたちが紹介した運動を継続し,その効果に喜びを感じているとの事だった.また教員においてもケガの予防というと環境整備という視点を主としていたが,今回の関わりをきっかけに内的な働きかけによっても予防につながるのだということを理解できたという感想であった.
    【考察】
    専門的な知識をもった理学療法士が授業を通してこどもたちに関わることで,こどもたちが自分の身体に興味をもつ大きなきっかけになった.発育期における運動器疾患はその時期の運動機会を奪うだけでなく,その後のスポーツ活動継続の断念や,加齢に伴う退行性変化がより進行する可能性もあることから,正しい知識を提供する今回のような活動は意義のあるものであると考える.今後もこの活動を継続すると共に,特定の学校だけでなく,市内,都内へと活動の場を広げ,理学療法士がより多くのこどもたちと教育現場に正しい知識を提供し,発育期の運動器疾患の予防の一躍を担えると考える.
  • 遠藤 浩士, 朝倉 敬道, 遠江 朋子, 島 拓也, 柏瀬 周示, 関 正利
    セッションID: 93
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    高校ボート競技におけるコンディショニングサポート活動(以下、サポート活動)支援の質向上のために、その効果検証を行うことを目的とする。なお、本活動は埼玉県理学療法士会(事業局スポーツリハビリテーション推進部)が行う事業の一つとして、例年実施されている。今回、平成23年度活動におけるボート競技の障害特性の実態と活動成果を報告する。
    【対象・方法】
    全国高等学校総合体育大会埼玉県予選ボート競技出場高校生に対し、競技前後のサポート活動を実施し、活動評価表及びアンケート調査結果を基に、学年別、種目間の障害特性、活動成果についての検討を行った。倫理的配慮として、調査前には、選手には十分な説明を行い、同意を得た上で実施した。
    【結果】
    総利用者件数は97件(実人数71名)、再利用率32%であった。男女別割合としては、男性55%、女性45%であった。実施時期としては、競技前25%、競技後75%であり、発症機転としては、具体的にあったが36%、不明瞭が64%であった。今回の利用者種目区分としては、シングル41%、ダブル32%、クウォド27%であった。学年別障害発生率としては、腰背部が男性(1年72%、2年19%、3年13%)女性(1年30%、2年35%、3年27%)、大腿部が男性(1年0%、2年28%、3年37%)女性(1年0%、2年24%、3年6%)、下腿部が男性(1年0%、2年28%、3年34%)女性(1年20%、2年34%、3年30%)、肩が男性(1年0%、2年1%、3年6%)女性(1年0%、2年6%、3年6%)であった。各種目別障害発生率としては、シングルでは男性は、腰背部31%、肩甲帯・肩38%、女性は、腰背部33%、下腿部67%であった。ダブルでは、男性は、大腿部40%・下腿部30%、腰背部14%、女性は、腰背部36%、下腿部27%、クウォドでは、男性は、大腿部37%、下腿部33%、腰背部16%、女性は腰背部28%、下腿部26%、大腿部22%であった。活動成果としては、満足度調査結果から、8点以上が84%、疼痛スケールは、4以下の改善が71%であった。
    【考察】
    障害部位としての特徴は、腰部、下肢(大腿部・下腿部)への発生率が多く、学年別では、男性は、低学年ほど腰背部に集中した傾向が見られ、高学年では、腰背部と下肢症状を伴う傾向にあった。これらは、低学年ほど反復におけるローイング動作そのものが、体力的要素に影響していることや、高学年ほど、動作における下肢・体幹への伝達が、より下肢への負担が強いられているのではないかと示唆される。今回の活動において、より低学年層からの選手自身による日常的なコンディショニングの重要性を改めて感じた。
  • 北野 守人, 柳井 孝介
    セッションID: 94
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
    東京都高等学校野球連盟(以下都高野連)からの依頼を受け、合同練習(以下練習)、壮行試合及び日米親善野球 東京選抜ロサンゼルス遠征(以下遠征)におけるメディカルサポート(以下MS)を実施した。そこで、遠征における活動内容を報告し、今後の課題を考察する。尚、発表するにあたり都高野連の同意を得た。
    【対象と目的】
    東京都の高等学校から1・2年生の選手20名を平成23年度 秋季東京大会の結果を参考に都高野連の役員会にて選抜。練習(4日間)、壮行試合(2試合:日大三高 全国優勝メンバー、東都1部リーグ 選抜チーム)及び遠征:平成23年12月23~31日(4試合)に参加した選手20名を対象に実施。理学療法士は、対 東都1部リーグ 選抜では2名、遠征等は1名参加。遠征のMS目的は、1.傷害・障害予防2.感染予防3.時差ぼけ対策4.体調管理の4点を挙げ、対策・準備・対応を進めた。
    【結果】
    MSを行なった選手は20名中17名、内容別件数は延べ143件(練習・壮行試合:41件、遠征:102件)。内訳は、アイシング70件、野手コンディショニング17件、テーピング15件、外傷14件、今後の指導9件、投手コンディショニング7件、体調管理指導4件、栄養指導3件、処置3件、生活指導1件であった。身体部位別件数は196件(練習・壮行試合:51件、遠征:145件)で練習は肩・肘関節、遠征では肩・肘関節だけでなく手指・股関節・大腿・下腿も多かった。
    【考察】
    1)感染予防:機内では感染対策としてマスクの配布・着用を実施。遠征2日目に選手1人が喉痛を訴えたので、全選手に夜間用のミネラルウォーターを2本に増加、うがい薬・マスクを2日分配布。乾燥防止に就寝前に浴槽への湯張りを指示。その後、感染の悪化・発症はなかった。2) 介入件数・選手との会話の増加:遠征に入ると介入件数・選手との会話が多くなり、食事量が少ないと声も挙がったため夜食にバナナを2本配り対応。遠征では肉料理が多かったため摂取カロリーは足りていたと思われるが、野菜・米が少ないことから腹持ちがしなかった可能性が考えられた。3)野手コンディショニング介入回数増加:遠征時の平均湿度18%のグランドは非常に固く、芝生がない捕手・内野手への疲労が蓄積したと予測した。尚、介入した全選手は日米親善試合には復帰した。
    【海外遠征の課題】
    食事・設備改善だけでなく綿密な遠征日程を把握した上で僅かな時間をどのように有効活用をし、選手のケアにあたるか検討の必要性を感じた。また、遠征後に選手・監督から感謝の言葉を頂いたが、個人的な技術等へのスキルアップを更に図っていきたい。最後に、遠征に帯同させて頂き都高野連・米国の役員に対し心より感謝を申し上げます。
  • 嘉藤 啓輔, 山口 賢一郎, 山名 智也, 西尾 匡紀, 實 結樹, 成塚 直倫
    セッションID: 95
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    当院肺炎患者の理学療法(以下PT)開始時期は,急性症状の改善が得られてから処方されることが多い.しかし,安静臥床による活動性低下は,呼吸・循環障害に加え,筋力低下や関節拘縮など廃用症候群を招き,入院前のADL獲得が得られにくいことを臨床上多く経験している.瀧本らは,急性期からの呼吸療法・可及的速やかな離床の開始がADL能力や在院日数の減少に有用であると報告している.そこで本研究の目的は,肺炎患者の離床に影響を及ぼす因子を検証することである.
    【方法】
    対象は,平成23年7月から平成24年1月までの間に当院内科病棟に細菌性・誤燕性肺炎の診断で入院し、安静臥床から離床目的にPT介入があった36症例とした(うち男性24例,年齢81.1±7.2歳).臨床データは,先行研究から検討した離床に関連した因子を診療録より,後方視的に収集した.測定項目は,基本情報(年齢,性別,身長,体重,BMI),Barthel IndexによるADL評価,Pneumonia Severity Index(以下PSI)による肺炎の重症度,合併症の有無,経過期間(安静臥床期間,介入期間,車椅子開始期間,抗生剤開始期間)とした.離床の定義は,Mundyらによる先行研究より,『入院から連続して20分以上の車椅子乗車が可能となるまでの期間(以下離床期間)』とした.分析には,統計ソフトSPSS16.0を用い、離床期間の中央値により早期離床群・遅延群に分け,群間比較(対応のないT検定,Mann-WhitneyのU検定,χ<SUP>2</SUP>独立性の検定)を行った.いずれも有意水準は5%(p<0.05)とした.本研究は,ヘルシンキ宣言に基づく当院倫理委員会の承認のもと実施された.
    【結果】
    離床期間の中央値は11日であった.両群間の比較において,年齢(p<0.01),入院前ADL自立度(入浴・移動、p<0.01),安静臥床期間(p<0.01),介入期間(p<0.05),在院日数(p<0.01),PSI(p<0.05)において有意差が見られた.各群の男女比,病型比(細菌性・誤嚥性)に有意差は見られなかった.
    【考察】
    合併症の有無により離床期間に差がある事が予想されたが,今回の結果より制限因子とはならなかった.今までの介入では,合併症を有する重症例は介入を見合わせることもあったが,リスク管理下での早期PT介入の必要性が示唆された.また,年齢や入浴・移動の入院前ADL自立度において差がみられたことから,これらの測定項目を有する症例はより早期からのPT介入が重要と考えた.今後の課題は,症例数を増やすことにより,明確な離床基準を示すことで在院日数の減少やQOLの向上,二次的障害の予防に努めていくことである.
    【まとめ】
    肺炎患者を対象に離床の特徴について検証をした。結果から,PT介入における離床の遅延因子や傾向が示唆された.
  • 新井 健一, 國澤 洋介, 武井 圭一, 森本 貴之, 丸山 薫, 山本 満
    セッションID: 96
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    肺癌術後の運動耐容能と客観的、主観的指標を用いた運動強度を調査し、肺癌術後患者における6分間歩行距離(6 minutes walking distance:6MD)を用いた運動耐容能評価の特徴を検討することとした。
    【方法】
    対象は、当院入院中の肺癌患者で腫瘍摘出術を施行した後に理学療法を処方された者14名(病期Stage:I8名、II3名、III3名。術式:胸腔鏡下切除術14名。摘出部位:上葉5名、下葉7名、上葉+下葉(部分的)2名、年齢:65±10歳)。測定項目は、6MD、主観的体力(「術前を100%として、今の体力は何%か」)、運動強度は客観的指標として6MD前後の脈拍差、SpO2最小値、主観的指標としてBorg Scale(BS)とした。測定時期は、術後の胸腔ドレーン抜去時を初回評価(術後5±2日)、退院前を最終評価(術後13±2日)として2回行った。分析は、初回・最終間の各測定項目の比較について対応のあるt検定を用いた。統計ソフトは、SPSS Ver. 19を用い、有意水準は5%とした。なお、本研究の実施にあたっては所属機関の倫理機関審査委員会が定める申請規定、個人情報は所属機関の患者個人情報保護規則を順守した。
    【結果】
    6MDの結果(初回・最終)、390±109m・474±113mであり初回に比べ最終で有意に増加した。脈拍差は、24±10bpm・24±9bpmで有意差なし。SpO2最小値は、94±2%・94±2%で有意差なし。 BSは、12±1・13±1であり初回に比べ最終で有意に高かった。主観的体力は、63±18%・78±9%であり初回に比べ最終で有意に増加した。
    【考察】
    6MDは最終で有意に増加したが、初回のBSは12、SpO2は顕著な低下を認めなかった。一般的に、肺癌術後は呼吸機能の低下が運動耐容能の制限因子になる。しかし、今回の結果からは呼吸機能に対して高強度の運動負荷ではなかったと考えられた。このことは、6MDは対象者自身による歩行速度の調整で運動強度を決定する特徴があり、術後早期では呼吸機能の低下以上に運動強度を制限したためと考えられた。BSと主観的体力が最終で有意に増加したことから、肺癌術後の6MDの改善にはより高い運動強度にも耐えうる自信、自己の体力に対する自信といった心理的側面が影響することが示唆された。
    【まとめ】
    肺癌術後は、早期から歩行が可能で全身状態が安定していれば術後2週ほどで自宅退院となる。しかし、「がん」を患うこと、肺を摘出することは心理的・身体的負担は大きく、術後の運動強度を残存機能以上に制限することは多く経験する。肺癌術後患者に対する6MDは、このような自己で運動強度を高められるかという心理的側面を反映した運動耐容能の評価指標であると考えた。
  • 山名 智也, 嘉藤 啓輔, 成塚 直倫, 西尾 匡紀, 實 結樹, 山口 健一郎
    セッションID: 97
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    肺炎は本邦における死亡原因の第4位である。Michaelらは、市中肺炎の診断は症状の急速な寛解や機能的回復に関わることから,重症度を評価することが必要であると報告している。理学療法分野では,肺炎患者に対する早期離床の重要性が示されている。しかし,合併症を踏まえた重症度によって早期離床の傾向性について報告した研究は少ない。そこで本研究の目的は,後方視的な臨床データの収集・分析により,Pneumonia Severity Index(以下PSI)を用いた肺炎の重症度分類と高齢肺炎患者における離床の関連性を検証することである。
    【方法】
    対象は,平成23年7月から平成24年12月までにA病院(以下,当院)に細菌性・誤嚥性肺炎の診断で入院加療を要し,安静臥床から離床を目的に理学療法介入があった57症例(うち男性39例,年齢:80.8±7.6歳)とした。離床に関わる因子を電子カルテより後方視的に収集した。測定項目は基本情報,経過期間,臨床所見,ADL評価(Barthel Index(以下BI),看護スケール),PSI,転帰先とした。経過期間は,安静臥床期間(入院から理学療法介入開始日),介入期間(介入開始日より車椅子乗車開始日),離床期間(入院より20分以上の車椅子乗車が可能になるまでの期間)とした。分析には,統計ソフトSPSS16.0を用いてPSI各群(3,4,5)と各測定項目について一元配置分散分析(Kruskal-Wallis検定)による3群間比較を行った。また,多重比較分析では統計ソフトR2.8.1を使用し,いずれも有意水準は5%とした。また,本研究はヘルシンキ宣言に基づいた当院倫理委員会の承認を得た。
    【結果】
    各群の男女比,年齢,病型に有意差は認められなかった。3群間の一元配置分析において介入期間に有意差が認められ(p<0.05),多重比較において3群と5群に有意差が認められた(3群:3.4±5.3日,中央値1、5群:8.2±8.6日,中央値5)(p<0.05)。
    【考察】
    本研究では,介入期間において各群に有意な差がみられた。瀧澤らは,高齢肺炎患者において,廃用症候群の予防と在院日数の短縮に早期介入が必要と報告している。今回の結果からは,離床期間に関係していると思われた合併症や臨床像に有意差は見られなかったことから,重症例においてもリスク管理下での早期理学療法介入の必要性が示唆された。本研究の意義としてPSIを用いて各群においてどのくらいの介入期間が必要であるのか,一つの基準の作成に反映できるのではないかと考える。今後は,早期介入を実施できる環境を構築していく必要があると考える。
    【まとめ】
    高齢肺炎患者に対して,重症度別に離床の特徴を検証した。重症患者においても早期理学療法介入の必要性が示された。
  • 久保 和也, 松本 純一, 村田 健児, 大橋 聡子, 井澤 克也, 八角 真衣, 山崎 知美, 寺部 雄太, 大平 吉夫, 安藤 弘
    セッションID: 98
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
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    【目的】
    足潰瘍の危険因子として足底圧異常がある。足底圧異常により足底部の胼胝形成から潰瘍形成し、壊疽・切断に至るケースも少なくない。足関節背屈可動域制限は前足部の足底圧上昇をきたすと報告されているが、創傷部位と足関節背屈可動域制限に関する報告は少ない。そこで今回、足関節背屈節可動域と足底部創傷部位との関係について検討した。
    【対象】
    当院循環器科入院およびフットケア外来に通院し、運動療法を施行した末梢動脈疾患(以下PAD)・糖尿病(以下DM)患者15名27肢(男性18肢、女性9肢、平均年齢69.96歳±9.43)を対象とした。内訳はPAD患者5名、PAD・DM合併患者7名、DM患者3名であった。
    【方法】
    基本的情報(年齢・性別・BMI)、人工透析の有無、高血圧の有無、足関節背屈・底屈可動域、膝関節伸展可動域、創傷部位、FIM移動項目、足関節上腕血圧比、皮膚灌流圧をカルテより後方視的に抽出した。足関節可動域測定は、背臥位・膝関節伸展位・受動運動にてゴニオメーターを使用し、5°単位で測定した。足底部創傷部位は横足根関節より遠位を前足部とし、近位を後足部とした。足関節背屈可動域0°以下を制限あり群とし、なし群との2群間比較を行った。統計処理は正規性の検定に従いt検定、Mann-Whitney検定、χ2検定およびFisherの正確確率検定を行った。統計ソフトはRversion2.12.1を用いた。本研究は対象者に対し口頭および文章による十分な説明をし、同意を得て実施した。
    【結果】
    対象は制限あり群17肢(平均角度-2.65°±3.99)・制限なし群10肢(平均角度7.5°±4.25)に分類された。創傷部位は前足部16肢、前・後足部5肢、創傷なし6肢であった。2群間比較の結果、制限あり群に前足部創傷を有する者が有意に多かった(p<0.05)。その他項目では有意差を認めなかった。
    【考察】
    足関節背屈可動域制限がある患者は前足部の創傷に有意差があった。先行研究では足関節背屈可動域制限が前足部の足底圧上昇をきたすと報告されており、今回の結果からPAD・DM患者においても前足部創傷を形成する一つの要因として足関節背屈可動域制限による前足部足底圧の上昇が関与していたことが考えられた。
    【まとめ】
    本研究により前足部に創傷を有する患者の足関節背屈関節可動域訓練の必要性が示唆され、創傷予防・治療の一貫として足関節背屈可動域拡大は十分な介入効果を認める可能性がある。
  • 木村 朗, 田中 日斗実, 星野 雄哉, 萩原 阿富, 河野 愛純, 須藤 一樹
    セッションID: 99
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
    会議録・要旨集 フリー
    【背景】
    エコノミークラス症候群(ECS)は、飛行機のエコノミークラス席のような狭小な空間にいることで、不動状態が静脈血流機能を低下させ深部静脈血栓症や塞栓症を引き起こす疾患である。ECSは理学療法による予防可能性が示唆される。理学療法技術を応用して、静脈血流機能の低下を防ぐ方法を開発するための実験モデル生成条件が求められるが、具体的な条件を報告したものは少ないことが課題である。
    【目的】
    静脈還流回復時間を基にECSモデルの生成の実装性の確認と、必要な不動と低温環境下における静脈血流機能の変化をもたらす累積時間を明らかにすること。
    【対象と方法】
    対象 健常成人35名、平均年齢21歳、平均身長171±4。0(cm)、平均体重61。5±8。4(kg)であった。研究の同意被験者にはヘルシンキ宣言の内容に則り、書面及び口頭にて研究の目的と内容を説明し、研究参加の同意を得た。
    方法 端座位姿勢で静脈環流回復時間(VRT)を測定し、低温暴露を行った。温度環境は20度、湿度40-50%に設定し、身体拘束として被験者に綿の布地を覆わせ、10分毎にVRT、血圧、心拍数を測定した。VRTの測定には、フォトプレチィスモグラフィ(HEDCO-VS100、ヘデコ社製)を用いた。拘束前後のバイタルは血圧計(HEM-642)を用いて調べながら実施した。 5秒間の局所運動による一過性虚血を生じさせた後、下腿静脈血流量を測定した。統計解析は、統計ソフトとしてR (ver2。8。1)を使用し、VRT値の平均値についてベースラインに対する各時間での値を対応のあるt検定を行った。
    【結果】
    拘束前のVRTは平均39。3±8。6秒であった。累積時間60分時点で48。7±16。0秒となり、有意差を認めた。これらより実装性が確認された。10分値から50分値では、有意な変化を示さなかった。ベースライン時血圧の平均は125/79、平均脈拍数が74であり、累積時間60分時点の血圧の平均が125/83、平均脈拍は75であった。
    【考察】
    下腿の局所運動を含む全身の拘束は、下腿の筋ポンプ作用を制限し、圧縮回数が非拘束時の正常な自動運動がポンピングを作り出し、血管内圧を変化させる条件が累積時間で影響を受けることを示唆している。不動時間は低温による自律神経系の機能低下と相乗的に影響しているものと考える。構造的には静脈血管内・弁構造の弾性性能の正常可動性を表しているものと考えられた。
    【結論】
    下腿静脈血流を良好な状態に保つための理学療法技術の開発において実験的エコノミークラス症候群モデルを作成するための条件としての60分の累積時間と実装性が確認された。
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