関東甲信越ブロック理学療法士学会
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第31回関東甲信越ブロック理学療法士学会
選択された号の論文の305件中51~100を表示しています
  • 吉田 峻祐, 上倉 洋人, 木名瀬 彩花
    セッションID: 144
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    Gait Solution継手付金属支柱付短下肢装具(以下GS-AFO)を用いて体重免荷トレッドミル歩行練習(以下BWST-ex)を行い, 歩容及び歩行速度に改善がみられたため報告する.
    【方法】
    症例は右視床出血により左片麻痺(Br.stageすべてIV),重度感覚障害,注意障害を呈し,左半身へ注意を向けることが困難な状態であった.年齢は40歳代後半,体重は65kgであった.発症85日から97日の13日間のうち10日間, GS-AFO を用いてBWST-ex を行った.BWST-ex実施前,10m努力歩行は12.7sec(2.9km/h),歩行率は80.6steps/m,6分間歩行試験は189.8mであった.歩行はT字杖とGS-AFOを用い,2動作前型で全歩行周期を通じて努力的であった.麻痺側遊脚時には屈曲パターンが著明に出現し,股関節最大屈曲となった位置で動作が停止した.その後,踵を強く打ち付けて立脚期へ移行していた.麻痺側立脚期は短く,立脚後期の股関節伸展が少ないまま努力的に遊脚期へ移行していた.また,障害物への対応や方向転換時,麻痺側遊脚期に非麻痺側の過剰努力が強くなりバランスを崩す場面がみられた.介入にあたっては初期接地時に足部外旋と反張膝が出現しないようにGS-AFOのダンパーを設定し,非麻痺側の過剰努力が出現しないように速度と免荷量を調節した.実施量は1セット3分,3セットとした. PTは麻痺側股関節の伸展と踵接地を促した.本報告については,症例に対して書面にて説明し同意を得ている.
    【結果】
    10日間の介入後,10m努力歩行は9.6sec(3.8km/h),歩行率は106.6steps/m,6分間歩行試験は247.9mへと改善した.歩行時の努力性は全体的に軽減した.麻痺側遊脚時の屈曲パターンは改善し,踵の打ち付けが減少した.麻痺側立脚後期の股関節伸展が増大し,立脚時間の対称性が向上した.障害物への対応や方向転換時に努力的になる点は残存しているものの,バランスを崩す場面は減少した.感覚障害,注意障害に大きな変化はみられなかった.
    【考察】
    歩容及び歩行速度が改善した理由として, GS-AFO を用いてBWST-exを行ったことにより,麻痺側立脚後期の下腿の前傾を促すことができ,股関節伸展相の延長に繋がったため,立脚期から遊脚期への移行が努力的でなくなり,遊脚期から立脚期への移行も円滑になったと考えられる.また,BWST-exは重度感覚障害及び注意障害を呈した症例に対しても効果があると考えられるが,直線歩行にしか介入できないために障害物への対応や方向転換の練習にはならず,生活レベルでの実用歩行を獲得するためには応用歩行練習が必要と考えられる.
    【まとめ】
    GS-AFOを用いたBWST-exは重度感覚障害及び注意障害を呈した症例に対しても有効であり,歩容(直線歩行),歩行速度,歩行率の改善に効果があることが示唆された.
  • 那須 直史, 佐藤 祐, 市村 篤士
    セッションID: 145
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
     当院での先行研究で脳卒中患者に対しニューステップを用い上下肢同時律動運動(以下律動運動)を行った所、非麻痺側への重心偏倚が減少し、立位姿勢の改善や麻痺側/非麻痺側間での協調性向上に繋がり、歩行能力が向上したという結果が示唆された。そこで今回、脳卒中患者に対し筋電図と重心動揺計を用い、客観的な評価を行い検討した。
    【方法】
     対象は当院入院中の右片麻痺患者(歩行動作見守り5名、軽介助2名。下肢Brunnstrom Recovery Stage4レベル3名、5レベル4名)に対しニューステップによる運動を行い評価した。なお対象者にはヘルシンキ宣言に則り説明を行い同意を得た。方法としてニューステップ運動前後に10m歩行、重心動揺計、筋電図を用い統計学的な評価を行った。運動内容としてニューステップを用いた10分間の運動を行い、10分間の休憩の後、再評価を行った。運動負荷はVorg Scaleにてややきつい(12~14)とした。重心動揺計は静止立位の麻痺側/非麻痺側の総軌跡長と内部面積の数値を比較し、筋電図は麻痺側/非麻痺側の外側広筋(以下VL)、大腿二頭筋(以下BF)、前脛骨筋(以下TA)、腓腹筋内側頭(以下GA)の平均パワー周波数(以下MPF)を比較した。統計はT検定を用い、有意水準は5%とした
    【結果】
     筋電図では麻痺側BFを除きMPF値が有意に増加し、非麻痺側ではTAを除き有意に減少した。10m歩行の平均タイムも有意な減少を認めた。重心動揺計は麻痺側内部面積に有意な増加を認め、麻痺側総軌跡長に有意な減少を認めた。
    【考察】
     歩行時の筋活動は運動前後と比較し概ね麻痺側に有意な増加を認め、非麻痺側は有意な減少を認めた事から、ニューステップによる律動運動により麻痺側の筋活動向上と非麻痺側の過剰努力減少に繋がったと推察される。また、静止立位では麻痺側総軌跡長や内部面積に有意差が認められた事から、麻痺側/非麻痺側間のアンバランスな筋活動が是正された事で重心偏倚の差が減少したと推察される。これらの要因から歩行時の下肢筋活動が正常歩行の活動パターンに近づき、10m歩行の平均タイム減少に繋がったのではないかと考える。
    【まとめ】
     今回の結果から、ニューステップを用いた律動運動が麻痺側下肢の筋活動向上や、非麻痺側下肢の過剰努力減少に繋がり、立位バランス能力や歩行能力が向上するという結果が得られた。しかしながら、今回の検証では器械的抵抗の程度をVorg Scaleで決めた為、運動負荷量の統一が不十分であった。また、律動運動と下肢のみの律動運動での違いについては検証していないため、今後はサンプリングを増やし、律動運動が神経学的にどのような効果があるのかを検討していきたい。
  • 菊地 裕美, 原嶋 創, 高柳 愛, 山際 正博, 廣瀬 圭子, 田口 孝行
    セッションID: 146
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
     高齢障害者は自力避難困難・逃げようとして逃げきれず・逃げるタイミングの遅れにより死亡している割合が6割以上と高いことを報告している(野竹ら・2003)。したがって、高齢障害者死亡率を減少させるためには災害時における避難方法の想定状況について把握する必要があると考える。本研究では在宅で生活している要介護者を対象として調査し、通所・訪問リハビリテーションにおいて、生活状況別に必要な災害時の避難方法の指導を取り入れることの必要性について明らかにすることを目的とした。
    【方法】
     対象者は2カ所の介護老人保健施設にて通所または訪問リハビリテーションを利用している者34名(男16名, 女18名)とした。対象者には本研究の趣旨を説明し書面にて同意を得た。対象者に災害時の避難方法に関する調査を聞き取りにて実施した。調査項目として1)独居(日中独居を含む)か家族と同居の別、2)普段の外出時の介助の有無、3)居間・寝室からの自力避難方法の想定の有無、4) 居間・寝室からの介助避難方法の想定の有無、5)災害時の避難方法の指導を受けた経験の有無、6) 自宅での避難訓練実施の有無とした。
    【結果】
     独居者29%、家族との同居者70%であった。独居者のうち60%の者が普段の外出で介助が必要であり、そのうち83%は居間および寝室から自力での避難方法を想定していない状況であった。家族との同居者のうち58%の者が普段の外出で介助が必要であり、そのうち57%は居間および寝室から介助されての避難方法を想定していないことが分かった。また、すべての対象者が避難方法の指導を受けた経験がなく、避難訓練も実施していなかった。
    【考察】
     これらの結果から、普段の外出に介助が必要な独居者は災害時自力で避難することが必要であるにもかかわらず、その方法について想定がなされていない。また、普段の外出に介助を必要とする家族との同居者は災害時における介助での避難方法について想定していない。これらのことが高齢障害者の死亡率を高くしている状況と考える。したがって、独居者では普段の外出に介助が必要であっても、自力での避難が想定できるように指導(動作・環境設定等)を行う必要がある。家族との同居者では、介助での避難方法が想定できるように家族介護者を含めた指導を行う必要がある。また、すべての対象者において避難訓練の実施がされていないことからいずれにおいても、実際的な練習が必要と考える。
    【まとめ】
    災害時の高齢障害者の死亡率を減少させるためにも、災害時の避難方法指導を通所・訪問リハビリテーションのゴールドスタンダード(至適基準)として取り入れる必要があると考えた。
  • 土田 裕士, 井田 真人, 富田 博之, 横山 晋平, 渡辺 彩乃
    セッションID: 147
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    障害の回復過程において,装具作製の時期や処方内容に苦慮することがある.今回,脊髄梗塞患者に対しプラスチック短下肢装具(以下PAFO)を両側作製したが,障害の回復に応じて装具の上位カフベルトに2種類の張力の異なるゴムベルトを用いたことで,歩行の改善が得られたので報告する.
    【症例紹介】
    症例は50代女性.Th9からL2髄節レベルの脊髄梗塞(前脊髄動脈症候群)にて入院.身体機能は対麻痺.感覚は解離性感覚障害により触圧覚の軽度鈍麻,温痛覚の重度鈍麻.筋力は両側股関節および足関節周囲筋群に低下を認め,筋緊張は両側下腿筋群にて軽度亢進.歩行は四脚歩行器と両側PAFO装着にて左下肢先行3動作揃え型にて屋内軽介助であった.
    【方法】
    装具作製時は股関節・膝関節の不安定性,下腿筋群の痙縮を認め一般的な靴べら式PAFOの適応であった.そのため,装具処方においては足関節背屈モーメントを制動することで膝関節の動揺を軽減するとともに足底面からの感覚フィードバックが得られる構造のPAFOが望ましいと判断し,厚さ4mm・両側中足趾節関節及び踵部をカットした両側PAFOを作製した.回復過程において股関節の支持性や足関節背屈機能の改善,触圧覚向上も認めたため,足関節背屈モーメントを誘導することを目的として,張力の異なる(以下,張力強・張力弱)2種類のゴムベルトを装着し10m歩行・歩容の評価を行った.尚,症例に対しヘルシンキ宣言に基づき研究内容に関する説明を行い,署名にて同意を得た.
    【結果】
    10m歩行では張力強ゴムベルト:53秒25歩,張力弱ゴムベルト:43秒19歩と差を認めた.張力強ゴムベルトでは左下肢立脚中期で足関節背屈の増加から反張膝の軽減は得られたが,右立脚後期での足関節背屈は不十分であった.しかし張力弱ゴムベルトでは右下肢立脚後期での足関節背屈に増大を認めた.また,本症例からは張力弱ゴムベルトにおいて右足趾の蹴り出しやすさという実感も得られた.
    【考察】
    本症例にとって,回復過程において張力の異なるゴムベルトを使用したことは,足関節背屈モーメントを段階的に誘導する上で有効と考えられた.今回の検証では,ゴムベルトの張力の違いにおいて,歩容評価・10m歩行に差が認められた.張力弱ゴムベルト使用時は,張力強ゴムベルトでは抑制されていた右下肢立脚後期での足関節背屈が増大することで,左下肢歩幅が増加し,歩行速度の向上に繋がったと考える.膝関節・足関節の可動性確保に対し,上位カフベルトにゴムベルトという張力のある素材を使用することで障害の回復に応じた装具処方が可能となったと考える.
  • 岡村 弘子, 須田 良子, 浅川 康吉
    セッションID: 148
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    運動機能の改善は通所リハビリテーションの目的のひとつである。しかし、どのような利用者にどのような運動機能の変化が期待できるのかは不明な点が多い。本研究では利用開始時と6ヶ月後の運動機能の変化とその関連要因を検討した。
    【方法】
    本研究は当苑が定期的に実施している運動機能測定の記録を用いて行った。記録抽出の対象者は、利用開始時と6ヶ月後の測定に参加した者で、理学療法士の介入を受けていた23名とした(男性7名、女性16名、平均年齢80.5 ±8.5歳)。抽出項目はTimed Up &Go Test (TUG)(秒)、5m歩行速度(秒)、Functional Reach Test(FRT)cm)の運動機能3項目と年齢(歳)、性別、身長(cm)、体重(kg)、体脂肪率(%)、介護度の基本属性6項目とした。抽出したデータから運動機能3項目における利用開始時と6ヶ月後の比較と、変化量(6ヶ月後-利用開始時)に対する基本属性および運動機能との関連を分析した。統計学的検定にはWilcoxonの符号付き順位検定とSpearmanの順位相関係数を用い、有意水準は5%未満とした。本研究は「臨床研究に関する倫理指針」を遵守し、施設長の了解を得て行った。対象者には運動機能測定記録の利用について個別に口頭で説明し、口頭で同意を得た。
    【結果】
    TUG(秒)は利用開始時24.9 ±18.0から6ヶ月後22.6 ±15.6となり、変化量は1.9 ±5.6秒であった(n=16)。同様に5m歩行速度(秒)は9.8 ±4.7から10.6 ±7.7となり、変化量は-0.8 ±4.2であった(n=22)。FRT(cm)は18.1 ±4.7から18.4 ±6.8となり、変化量は0.3 ±5.0であった(n=23)。運動機能は3項目とも利用開始時と6ヶ月後の間に差を認めなかった。変化量については、FRTの変化量と体脂肪率との関連を認めた(ρ=-0.463, p=0.026)。運動機能3項目の変化量間には関連を認めなかった。
    【考察】
    利用者集団の運動機能は通所リハ利用により維持できていたと思える。変化量の検討からは、体脂肪率が高い者ではFRTの改善量が低くなる関係があること、運動機能3項目は互いに独立して変化することが示唆された。
    【まとめ】
    通所リハ利用者23名を対象に利用開始時と6ヶ月後の運動機能の変化を検討した。利用者集団の運動機能は6ヶ月後も維持されていたが、個別にみると体脂肪率が高い者ではFRTが改善しない傾向がみられた。また、バランスや歩行能力の変化は互いに独立なことが示唆された。
  • 尾崎 麻子, 北原 絹代
    セッションID: 149
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    住民主導の地域づくりは介護予防事業の重要な視点であり、事業推進において住民ボランティアを育成、活用することが求められている。前橋市では介護予防サポーター(以下、サポーター)と名付けたボランティアの養成をしている。本研究の目的は、サポーター活動を5年間継続している女性へのインタビュー内容からサポーターへの参加及び継続のプロセスを明らかにすることである。
    【方法】
    サポーター活動を5年間継続している60歳代の女性1名を対象にサポーター参加前から現在の生活について半構成インタビューを実施し逐語録を作成した。その内容を修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチ(以下、M-GTA)を用いて分析した。本研究は介護予防事業主管課の了承を得たうえで「疫学研究に関する倫理指針」を遵守して実施した。対象者には本研究への参加について書面と口頭にて説明し、同意を得た。
    【結果】
    分析結果から4つのカテゴリーが生成された。サポーター活動を継続している女性は、サポーター参加前に[感謝される体験]や[市の事業という意識]を持っており、サポーターとしての経験の中で[他者との交流から得る感動][地域のサポーターとしての自覚]というプロセスを経て現在に至っていた。
    【考察】
    [市の事業という意識]から参加へのきっかけになったのは市の事業である安心感や民生委員等の市からの委嘱を受けている者特有の使命感であると思われた。
    [他者との交流から得る感動]では市が独自作成したピンシャン!元気体操等を用いてサロンを運営し参加者と交流を持つ中で参加者の変化に感動を得ていた。この感動から、参加者や地域づくりに役に立っている実感を得、地域のサポーターとしての自覚を新たにしていた。この感動から自覚へというプロセスが長期継続に必要な要素として示唆された。介護予防事業を担う理学療法士は、サポーターが参加者との交流を持ち、感動や実感を得られるような活動場所やプログラムの情報提供などを行う中で、サポーターと協働した地域づくりをすることが求められると考えられた。
    本研究の対象は1名であり理論的飽和には至っておらず、今後、対象を拡大し比較検討する必要がある。
    【まとめ】
    前橋市の介護予防サポーターを5年間継続している女性へのインタビュー内容からM-GTAを用いてサポーターへの参加及び継続のプロセスを明らかにした。得られたプロセスから、参加の要因として[感謝される体験][市の事業という意識]、継続の要因として[他者との交流から得る感動][地域のサポーターとしての自覚]が考えられた。
  • 藤田 康孝, 土屋 翔大, 清水 拓也, 笠井 信
    セッションID: 15
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
    麻痺側足関節捻挫により歩行能力が低下した維持期脳卒中患者に対して,短下肢装具(AFO)の使用と歩行トレーニングが有用であり歩行能力の改善が認められた.これに関連した報告は非常に少なく,考察を加えてここに報告する.
    【方法】
    症例は64歳男性.診断名:右視床出血(H21.7発症).H23.3時点の評価は10m快適歩行速度(10mgait):43m/min,timed”up&go”test(TUG):16secであった.H23.5自宅で足を捻り麻痺側足関節捻挫を受傷.約2週間リハビリを休んだ.リハビリ再開後は歩容の乱れが目立ち,プレスイング(PSw)からイニシャルスイング(ISw)への移行がスムーズではなく3動作の歩行パターンとなり,ターミナルスイング(TSw)からイニシャルコンタクト(IC)への移行もスムーズではなく前足部からの接地で場所も一定ではなかった.H23.10歩容の乱れが続き10mgait:21m/min,TUG:21secと歩行能力の低下が認められた.これに対し,足関節の底屈制限と側方安定性の付加を目的にオルトップAFOを使用し,前方へのステップ練習など歩行周期を部分的に抽出した自重による歩行トレーニングを週2回実施した.なお,対象者およびその家族より研究上の目的と作業内容についての了解を得て,インフォームドコンセントの形成に至ったものとみなした.
    【結果】
    H24.1に再評価を行い,AFO使用にて10mgait:44m/min,TUG:15secと改善を認めた.さらにAFO不使用でも10mgait:40m/min,TUG15secと改善を認めた.
    【考察】
    歩行の改善をPerryがロッカーファンクションと呼ぶ動きに着目して考察する.AFOを使用して麻痺側ステップ練習を行うことで,ICの場所のばらつきが減少しTSwからスムーズに移行することが可能となった.しかし,踵接地が得られずヒールロッカーの機能を得ることはできなかった.非麻痺側のステップ練習を行うことで麻痺側単脚支持期の支持性向上が図れたと考えられる.このときAFO上部のマジックテープを緩めることで麻痺側足関節背屈が得られ,アンクルロッカーとフォアフットロッカーの機能を得ることができターミナルスタンス(TSt)からPSw,ISwへの移行がスムーズになったと考えられる.この結果,前方への重心移動速度が向上し歩行速度が改善したと考えられる.さらにAFOを外してもこの効果が持続しており,AFOを使用しての歩行トレーニングにより歩行パターンの再構築が得られたと考えられる.
    【まとめ】
    低下した歩行能力に対してAFOの使用と自重による歩行トレーニングがロッカーファンクションの獲得につながりその向上を認めた.歩行能力の向上を目的とした理学療法を考える上での一助となると考えられる.
  • 横山 あゆみ, 中村 睦美, 小泉 裕誠
    セッションID: 150
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    要支援高齢者を対象とした座位足開閉ステッピングテスト(以下ステップテスト)を用いて経時的に身体機能を評価した報告は少ない。そこで本研究では,ステップテストを用いて,要支援高齢者に対して実施した1年間の低負荷筋力トレーニング(以下トレーニング)の効果を調査し,さらにステップテストとTimed up and go test(TUG),握力との関連を明らかにすることを目的とした。
    【方法】
    対象者は,要支援高齢者8名(男性4名,女性4名,56~86歳)とし,評価記録より後方視的にデータを収集した。トレーニングは,週に1回,体幹筋と下肢筋の筋力トレーニングを中心に合計約20分間行った。測定時期は12か月間で月に1回,ステップテストと,TUG,握力の測定を行った。ステップテストは,椅子に座り両足を30cm間隔に開閉動作を繰り返し20秒間の回数を測定した。統計手法として,各評価の変化を経時的に検討するために一要因分散分析を用いた。また,TUG,握力,ステップテスト間の関連を明らかにするためにPearsonの相関係数を用いた。対象者には研究の主旨を説明し,十分理解を得た上でデータの使用について文書による同意を得た。
    【結果】
    各指標の平均値±標準偏差は,ステップテストは初回20.1±4.2回,1年後は20.1±2.7回であり,TUGは初回14.8±5.9秒,1年後は14.7±3.6回であり,握力は初回18.3±5.5kg,1年後は21.4±6.9kgであった。一要因分散分析の結果,各指標ともに測定時期による有意差は認められなかった。また,各指標との相関は,ステップテストとTUGでは有意な相関を示し,握力との有意な相関は認められなかった。
    【考察】
    ステップテストを用いてトレーニング効果を評価した結果,身体機能の改善は見られなかったものの,維持はされていた。本研究の対象者となる要支援者に対するトレーニングは,維持を目的としているため,今回の研究では改善がみられなかったと考えられる。ステップテストはTUGと相関が認められたが,TUGのように歩行や方向転換を必要とせず,椅子座位の状態で行えるため危険も少なく簡便に安全に行える。したがって,ステップテストはTUGの測定が困難であるケースなど幅広い対象者に用いることができると考えられる。今後はサンプル数を増やし,さらに幅広い対象を用い調査していきたい。
    【まとめ】
    ステップテストは,安全かつ簡便に行える検査として有用であると考えられ,さらに調査を継続していく必要がある。
  • 笠原 剛敏
    セッションID: 16
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    作業動作に関連した職業性ジストニアを認めた一症例に対し、運動療法を行う機会を得た。運動療法後、即時効果ではあるが機能改善が得られた。障害特徴と運動療法内容を報告する。
    【方法】
    症例:70歳代、男性。X年2月27日に脳梗塞を発病。同日当院入院。X年3月4日から理学療法を開始。極軽度の左片麻痺を認めたが、経過とともに軽快。左上下肢の機能障害は改善された。しかしX-10年から右手指の動作障害が見られていた。X年3月8日当院神経内科診察で、右上肢の職業性ジストニアと診断。右上肢手の機能障害に対する理学療法に指示変更となった。
    身体所見:アルバム問屋業を営み、毎日千枚以上の伝票作業を繰り返す事で、右手指の異常肢位が生じた。右手指は伝票作業以外で、手指の開排・把持動作が困難であった。右母指は屈筋・内転筋群の持続的筋収縮を強いられ、第1~第3指は常同性に屈曲位が生じ、深部感覚障害を認めた。右母指球部、右手背部の接触で感覚トリックを認めた。
    評価:(1)Burke-Fahn Marsden Scaleのdystonia movement Scale、disability Scaleを用い、理学療法後、経時的に評価した。(2)右全手指の屈曲・伸展を10秒間繰り返し行わせ、回数を理学療法後、経時的に測定した。(3)障害に対する自覚的評価として、罹患期間中最悪の場合を10点、正常・全く問題ないを0点とし、理学療法後問診で、症状変化を経時的に評価した。
    運動療法:X年3月9日~11日、1回60分、計3回実施した。右母指の異常筋収縮に対し、触圧覚刺激を通し筋緊張の調整を求めた。そして右前腕・手関節・手指の距離感、アライメント調整を固有感覚刺激によって識別させ、自律的姿勢反応の中、右上肢手の自発運動・作業課題を促した。
    【説明と同意】本学会の演題発表にあたり、対象患者本人の了承・同意を得ている。
    【結果】
    (1) dystonia movement Scale:13点→7点→2点。disability Scale:5点→2点→1点(2)屈伸運動回数:1回→8回→14回(3)自覚的評価:10点→4点→2点。
    【考察】
    局在性動作特異性の職業性ジストニアは、過度な筋負荷、特定の姿勢・動作の持続で、脳の可塑性異常を引き起こす特定の運動サブルーチンの障害が考えられている。その中で感覚入力処理の問題を伴う事から、感覚運動連関の異常が推測される。運動療法として感覚運動統合を通し、感覚情報処理の再組織化をはかる事で、即時効果としての機能改善が得られた。今後は継続した運動療法介入と経時的機能評価が必要と考える。
    【まとめ】
    職業性ジストニア患者に対する運動療法を報告した。即時効果ではあるが、感覚運動統合を用いた運動療法によって機能改善が得られた。
  • 谷 康弘, 倉山 太一, 田所 祐介, 後藤 悠人, 村神 瑠美, 太田 進, 相本 啓太, 近藤 国嗣, 大高 洋平
    セッションID: 17
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    膝関節屈曲アシスト装具(以下、アシスト装具)は支柱付き軟性膝装具にゴムを装着し、その牽引力を利用して歩行中の膝関節屈曲をアシストする装具である。これまでに膝関節疾患や脳卒中患者において遊脚期クリアランスを改善させることが示されている(太田・相本ら2011)。一方、本装具は膝関節の伸展制動機能も有しており、反張膝の抑制効果が期待できる。そこで今回我々は、歩行中に反張膝が観察される脳卒中片麻痺患者一例を対象に、本装具の伸展制動効果の検証を行った。
    【方法】
    対象は、本研究の内容を説明し同意の得られた発症後131日経過した脳卒中左片麻痺患者1名(67歳、女性、下肢Br.stageIV、歩行はT字杖および短下肢装具で自立レベル)および対照として健常成人1名(24歳、女性)とした。課題は、トレッドミル上の最適速度歩行とし、屈曲アシストのゴムの強度を張力0、1、2,3kgの4条件とした。光学マーカーを左第5中足骨頭・足関節外果・装具膝軸・大転子・上前腸骨棘・肩峰・耳垂に付け、3次元動作解析装置を用いて計測した。歩行周期は足部の圧センサーにより同定した。解析は20歩分の膝関節屈曲角度・角速度・角加速度を立脚期・遊脚期に分けて算出した。尚、本研究は当院倫理委員会の承認を得て行った。
    【結果】
    健常成人はゴム張力の違いに関わらず膝関節角度・角速度・角加速度の波形パターンは一定であった。一方、片麻痺患者はゴム張力0kg、1kgでは麻痺側立脚中期から膝関節の完全伸展が認められ、また最終伸展域で急激な角加速度の変化が認められた。2kg、3kgの張力では急激な角加速度の変化は認められず波形も健常成人のパターンに近づいた。
    【考察】
    本装具を使用することで立脚期の最終伸展域における急激な膝関節伸展が制動され、反張膝が抑制されていることが示唆された。反張膝は大腿脛骨関節への圧縮ストレス、後側部靭帯組織への伸張ストレスとなるため、これを放置しての歩行は好ましくないと推察される。しかし、強固な固定を前提とする装具は受け入れが悪い。今回使用したアシスト装具はゴム張力によるソフトな制動力を利用しており、患者の受け入れも比較的良く、「足が軽い」などと前向きな感想も聞かれた。本症例においてはアシスト装具を適用することで膝関節への負担を軽減しながら歩行量を確保できる可能性があると考えられた。なお、反張膝はその原因が多岐にわたるため、今後は本装具がどのような症例に対して最も有効であるかなど、複数症例での検討が必要である。
    【まとめ】
    反張膝のみられる患者に対してアシスト装具を適用することで膝関節への負担を軽減しながら歩行量を確保できる可能性が示唆された。
  • 宇都木 康広, 熊倉 康博, 静岡 大輔, 押山 徳, 大屋 晴嗣
    セッションID: 18
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    脳血管疾患を発症し、回復期リハビリテーション病棟(以下、回復期病棟)でのリハビリテーション(以下、リハビリ)を終え、退院後自宅での夜間の排泄の問題を抱える症例は少なくない。今回、当院入院患者の入退院時のFunctional Independence Measure(以下、FIM)とShort Form of the Berg Balance Scale(以下、SFBBS)を用い、それらの相関関係を比較・検討をすることで脳血管疾患に対するリハビリの治療の一助となることを提案することを目的とした。
    【方法】
    対象は平成23年1月以降に当院に入院された脳血管疾患を有する患者113名(年齢70.8±13.5歳、脳出血49例、脳梗塞57例、その他7例)とした。SFBBSは各担当PT・OTが入院時と退院時の2回評価したデータを用い、夜間排泄状況に関しては、FIMの評価項目から夜間のトイレ動作の項目をデータ算出した。それらをSpearmanの順位相関係数を用い、日中の立位バランス能力と夜間の排泄能力の相関を調べた。有意水準は5%とした。また全対象を、退院時点で夜間排泄が1)車椅子を使用し自立群、2)車椅子を使用し要介助群、3)歩行で自立群、4)全介助群の4群に分類し、各群の退院時SFBBSを、多重比較検定Tukey-Kramer法を用い、有意水準を1%とし比較した。本研究はヘルシンキ宣言に基づき、対象者に趣旨・目的を口頭で説明し、同意を得て行った。
    【結果】
    SFBBSの合計点数とFIMにおける夜間のトイレ動作の点数間には有意な相関が認められた(入院時r=0.90、退院時r=0.86)。全介助の患者を除外した場合にも相関が認められた(入院時r=0.78、退院時r=0.70)。退院時のSFBBSの各群の退院時におけるSFBBSにおいては全群間において有意差を認めた。
    【考察】
    今回の研究の結果、日中の立位バランス能力と夜間帯の排泄の自立度には相関が認められた。このことから夜間帯の排泄動作の獲得に対し、立位バランス能力の改善に介入することは非常に重要であると考えられる。また夜間帯の排泄の自立度に分類し各群間においてSFBBSに有意差が認められたことから、日中の立位バランス能力が夜間帯の排泄形態を左右する要因になりうると示唆された。
    【まとめ】
    回復期病棟において立位バランス能力へのリハビリは日中のみならず、夜間の排泄に対しても有効であることが示唆された。我々のリハビリが退院後の自宅生活において患者のみならずその家族の夜間の介護面における負担を軽減する可能性があるともに必要性があると考える。
  • 渡辺 隼史, 栗林 亮, 亀山 顕太郎, 荻野 修平MD
    セッションID: 19
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    臨床場面で肩甲骨の評価を行う場合、肩甲骨の脊椎に対する高位や距離を測定するが、基本軸・移動軸が存在しない肩甲骨の可動域を測定することは困難である。本研究の目的は、結帯動作において、体表から簡易的に肩甲骨前額面回旋運動がどの程度把握できるか、健常成人を対象に検討を行い明らかにすることである。
    【方法】
    肩関節及び体幹に既往のない健常成人男性10名20肩を対象とした。(平均年齢24.3±1.6歳)測定肢位は安静端座位にて行った。上肢下垂位、Th10結帯動作、最大結帯動作の3条件の肩甲骨の動きとした。測定はA肩甲棘根部から水平な脊椎棘突起の距離(Sucapular-Spine Distance以下、上部SSD)、B肩甲骨下角頂点から水平な脊椎棘突起の距離(以下、下部SSD)、C上部SSDの脊椎棘突起と下部SSDの脊椎棘突起を結んだ距離(以下、棘突起間距離)の3カ所の距離を計測した。上部SSDと下部SSDの差と棘突起間距離から三角関数を用いて、下部SSDと肩甲骨内側縁の交わる角度を算出した。角度の増加を下方回旋、角度の減少を上方回旋とした。統計学的分析にはSPSS12.0J for Windowsを用い、3肢位での回旋角度に対して対応のある一元配置分散分析を用い、有意水準は1%とした。被験者にはヘルシンキ宣言に基づいて研究の主旨を説明し、同意を得た上で研究を行った。
    【結果】
    安静端座位時結帯動作の肩甲骨回旋運動は、19肩(95%)が下方回旋、1肩(5%)が上方回旋した。上肢下垂位からTh10結帯動作での肩甲骨回旋角度が90.6±2.2°(P<0.01)と有意に下方回旋していた。最大結帯動作は95.8±2.7°であった。上肢下垂位での肩甲骨回旋角度は84.9±2.2°であり、上肢下垂位から最大結帯動作までの肩甲骨下方回旋角度は平均10.9°であった。
    【考察】
    健常成人男性の結帯動作において、肩甲骨は下方回旋することが示された。諸家の三次元動作分析システムを用いた研究においても同様の結果が得られている。今回の方法では、体表から3カ所の測定で肩甲骨の可動域・運動方向を求める事が可能であった。今後は肩関節疾患を有する患者と健常成人の肩甲骨の可動域とを比較し、臨床場面で肩甲骨に対する評価などの一助になるような基準を得たいと考えている。
    【まとめ】
    健常成人男性を対象に結帯動作時の肩甲骨回旋運動を調査した。結帯動作において肩甲骨は下方回旋することが認められた。三次元動作解析システムを用いずとも肩甲骨の回旋角度を求めることができたことは臨床においても有用ではないかと考える。
  • 小須田 恵美, 文沢 靖, 大見 朋哲
    セッションID: 2
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    僧帽弁置換術(以下MVR)、三尖弁輪縫縮術(以下TAP)、Maze施行後、心内膜炎を合併し、置換後の僧帽弁脱落を認め、再置換術を施行。長期間の入院加療を必要としたが、身辺ADLを獲得し自宅復帰した症例の心臓リハビリテーション(以下リハ)の経過についてまとめた。
    【症例紹介】
    71歳、女性。入院時のUCGにてMr3/3、LVDd48.5mm、LVDs34.2mm、LVEF56.6%、胸部X線よりCTR56%、NTproBNP 784.7 pg/ml NYHA心機能分類Ⅱ度。長男夫婦、孫2人の5人暮らし。
    患者には症例報告の内容説明し同意を得た。
    【経過】
    平成22年12月MVR、TAP、Mazeの手術施行。術後10病日に心内膜炎を合併し、僧帽弁脱落を認め、急性心不全、間質性肺炎を併発。内科的加療を行うが約13週にわたりNYHA分類Ⅳ度を認め根治困難のため、132病日僧帽弁に対し再置換術を施行。再手術の術前評価では、Mr3/3、LVDd46.7mm、LVDs30.5mm、LVEF63.8%、心胸郭比CTR66%。再手術前リハは、離床、ROM練習中心に実施。術後5日よりリハ再開。重症心不全後に伴う廃用性筋萎縮を認め、離床開始時の下肢筋力MMT2、再手術後31病日の大腿四頭筋筋力はハンドヘルドダイナモメーターにて6.7kgf/kg。リハはBorg scale11~13を目安に運動負荷を設定し、筋力強化、ADL練習を術後合併症の評価を継続しつつ実施。一般病棟へ転棟後、動作手順の貼紙や記録用紙を作成し、家人も参加できるようなリハプログラムを実施した。家人が関わりを持ちながら、床上でのROM練習から段階的にADL練習へアップし、家人の誘導で離床、排泄介助が実施された。
    【結果】
    入院後より221病日(再手術後78病日)に自宅退院。退院時FIM100/126点、下肢筋力19.3kgf/kg。排泄はポータブルトイレ自立、入浴は家族介助にて可能となった。歩行は歩行器を使用し家族監視、連続歩行距離80m可能となり、自宅内の移動を獲得。退院後は週2回の訪問リハを利用し、毎日の自主練習を継続している。
    【考察】
    田村らは、ソーシャルサポートは、療養生活上の課題解決へのモチベーション保持する支援の役割を果たすと捉えている。僧帽弁脱落後、重症心不全の状態が長期化した中、家人を中心としたソーシャルサポートを重視し、術後早期より家人がリハに関わるプログラムを施行し、段階的にADL練習へ移行できたことで、患者自身が自宅復帰に向け自信を持つことが出来たと考えられた。また、患者と家族の自宅復帰の不安を解消し、自宅退院へ繋がったと考えられた。
    【まとめ】
    ソーシャルサポートは代表的なリハアプローチであるが、特に本症例のような重症心不全、長期入院例に対しては術後早期からのソーシャルサポート導入が、円滑的な自宅退院へ繋げられる可能性を示唆する。
  • 田中 優路, 加藤木 丈英, 白井 智裕, 園田 優, 石田 拓未, 齋藤 義雄, 見目 智紀, 小谷 俊明
    セッションID: 20
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    2011年肩の運動機能研究会にてCine-MRI(以下,FIESTA法)の腱板機能評価としての有効性を報告した.今回FIESTA法にて腱板機能評価中に,肩甲下筋の収縮不全が疑われた一症例について報告する.
    【症例紹介】
    性別:男性.年齢:32歳身長:165㎝体重:61kgBMI:22.4運動歴:沖縄県の伝統舞踊エイサー太鼓.8年間.週1〜2回,練習時間3時間一回の演舞は20分間連続して行う.
    【理学評価】
    ROM(IR).RtTh6.LtTh3.(ER)Rt45°Lt60°(IR2)Rt55°Lt70°(IR3)Rt30°Lt45°整形外科テスト(Lift off test)Rt+Lt−(Belly press test) Rt+Lt−(Alignment)肩関節前方挙上90°位carring angle:Rt30°Lt15°.
    【画像評価】
    MRIはSigna1.5T(GE社製)を使用. 撮像はFast Imaging Employing Steady state Acquisition(FIESTA法)にて実施.撮像高位は肩甲下筋小結節付着部近位1/2の軸位画像とした. 動作中の肩甲下筋(以下,SSC)の弛緩時と収縮時の断面積をOsiriXを用いて計測し3つの動作における形態学的変化について検討した. Belly press test:(SSC)Rt弛緩時26.611 cm2収縮時26.553 cm2 Lt弛緩時21.725cm2収縮時17.408 cm2 .Rtは収縮時と弛緩時に差が無かった. Ltは収縮が強かった.  肩関節内旋外旋動作(自動)では,最大内旋位(SSC)Rt30.684cm2最大外旋位(SSC)30.617cm2.Lt最大内旋位(SSC)Rt19.936cm2最大外旋位(SSC)24.504cm2.Rtは最大内旋位と最大外旋位に差が無かった.Ltは最大内旋位の収縮が強かった. 肩関節内旋動作時にYellow TUBING(Thera-Band社製)を用いて内旋動作,張力:0.55kg(伸長率100%) (SSC)Rt弛緩時29.755cm2収縮時29.274cm2 Lt弛緩時22.136cm2収縮時16.151cm2. Rtは収縮時と弛緩時に差が無かった. Ltは収縮が強かった.
    【説明と同意】
    本研究はヘルシンキ宣言に基づき,研究の目的,方法を十分に説明し同意を得て行った.
    【考察】
    Lift-off test,Belly press test等の理学所見は代償運動の見分けが困難である.藤澤らは,エコーガイド下による針筋電図の施行は解剖学的位置関係から,技術的に筋電図学的検討が難しいと報告している.見目らはFIESTA法による筋断面積の評価では,腱板の断面積は遠心性収縮よりも求心性収縮が有意に小さいと報告している.本症例のSSC断面積は,3動作において右肩甲下筋求心性収縮時に断面積の変化が乏しいことから機能不全が示唆された.FIESTA法では,肩甲下筋の機能不全が肉眼的に評価可能であった.エイサー太鼓を叩く動作の様な力を込めた反復性の内旋動作が肩甲下筋の機能不全に繋がった可能性が示唆された.
  • 雨宮 克也, 赤坂 清和, 乙戸 崇寛, 澤田 豊, 渡部 賢二, 仲川 真悟, 丸尾 竜也
    セッションID: 21
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    肩関節機能障害の原因のひとつとして、肩甲骨周囲筋群の筋活動の不均衡による肩甲帯の機能低下が注目されている。近年理学療法では、肩関節周囲筋の筋活動に着目したエクササイズが重要視されている。しかし、これらのエクササイズが肩甲骨角度に与える影響を検討している報告はない。本研究の目的は、これらのエクササイズの肩甲骨アライメントに与える即時的な効果について、磁気センサー式3次元位置測定装置を用いて明らかにすることである。
    【方法】
    対象は肩関節に障害の無い健常男性23名の利き腕とし(全員右利き)、無作為に4群に分類し、その介入前後で磁気センサー式3次元位置測定装置(FASTRAK,POLHEMUS,USA)により、肩甲骨面外転運動時の肩甲骨角度(後傾、外旋、上方回旋)を計測した。無作為化割り当ては、肩甲骨周囲筋群の出力バランスが良いとされるPush up plus群(P群)、側臥位で上腕を体側として2kg重錘を用いての肩関節外旋運動群(1st群)、背臥位で肩関節90度外旋位から1kg重錘を用いての肩関節過外旋運動群(2nd群)、そして対照群として、背臥位での棒の挙上運動群(C群)を加えた4群とした。統計学的検定は4群間をエクササイズ前と後でそれぞれKruskal-Wallis testを用いて検定し、有意差を認めた場合に多重比較を実施した。なお本研究の実施に先立ち、埼玉医科大学保健医療学部倫理委員会の承認を得て、全ての被験者には書面にて同意を得た後、本研究を実施した。
    【結果】
    肩甲骨角度は肩甲骨面外転0°を基準として、肩関節外転運動に伴う角度変化を求めた。エクササイズ後の肩甲骨面外転60°における肩甲骨外旋角度の平均値はP群、1st群、2nd群、 C群でそれぞれ6.3±5.3°、2.2±2.8°、0.1±5.0°、1.5±1.5°であり、P群がC群より有意に大きかった(p>0.05)。
    【考察】
    Push up plusの実施により、肩甲骨面外転60°で肩甲骨が有意に外旋していたことは、この運動が前鋸筋の強い収縮と弛緩を繰り返すことにより、前鋸筋への促通効果に加えて、前鋸筋弛緩時の肩甲骨外旋方向へのストレッチ効果によるものと考えられた。
    【まとめ】
    肩甲骨エクササイズのうち、Push up plusは即時的に肩甲骨面外転60°で肩甲骨を有意に外旋させることが明らかとなり、前鋸筋の促通だけではなく、肩甲骨外旋方向へのストレッチング効果が肩関節機能障害の機能改善に有効である可能性が示唆された。
  • 山室 慎太郎, 田島 泰裕, 雫田 研輔, 荻無里 亜希, 高橋 友明, 畑 幸彦(MD)
    セッションID: 22
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    腱板断裂手術例において肩関節周囲筋群の筋スパズムが原因で術後早期の後療法がスムーズに進まない例をしばしば経験する.しかし筋スパズムの臨床成績に及ぼす影響について言及した報告はほとんど無い.今回,われわれは術後に筋スパズムが出現しやすい大胸筋に注目し,大胸筋のスパズムが臨床成績及ぼす影響について調査したので報告する.
    【対象と方法】
    対象は腱板修復術後に大胸筋のスパズムを認めた22 例22肩とした.術前と術後2週で大胸筋の筋活動量と筋硬度および肩関節の運動時痛と可動域を測定した.大胸筋の筋活動量は背臥位で術側手関節を前額部にのせた状態で表面筋電計Noraxon社製Myosystem1400Aを用いて10秒間測定し,積分値(μV×秒)を算出した.大胸筋の筋硬度は前述の測定肢位でTRY ALL社製NEUTONE TDM-NI/NAIを用いて同一点を3回計測し,平均値を求めた.肩関節の運動時痛はVisual Analog Scaleを用いて測定した.肩関節可動域は屈曲,外転,水平屈曲,水平伸展および90°外転位外旋方向の各角度を測定した.なお、大胸筋の筋活動量と筋硬度の術前と術後2週との間の比較はウィルコクソン符号順位和検定を用いて行い,大胸筋の筋硬度と肩関節の運動時痛または可動域の間の相関はスピアマン順位相関係数を用いて行い,危険率0.05未満を有意差ありとした.
    【説明と同意】
    本研究の趣旨を十分に説明して同意を得られた患者を対象とした.
    【結果】
    大胸筋の筋活動量と筋硬度はともに術後2週時が術前より有意に高かった(P<0.01,P<0.01).また,術後2週においてのみ,大胸筋の筋硬度と肩関節の運動時痛との間に中等度の正の相関を認め(r=0.43,P<0.05),大胸筋の筋硬度と屈曲角度との間に強い負の相関を認め(r=-0.63,P<0.05),大胸筋の筋硬度と90°外転位外旋角度との間にとの間に中等度の負の相関を認めた(r=-0.48,P<0.05).
    【考察】
    大胸筋の筋活動量と筋硬度は術後早期に高くなっており,筋硬度と運動時痛は正の相関をしており,さらに筋硬度と屈曲角度および筋硬度と90°外転位外旋角度は負の相関をしていた.したがって,術後早期の運動時痛が肩関節周囲筋群のスパズムを引き起こし、結果的に関節可動域制限につながると考えられるので,腱板断裂術後早期の後療法は疼痛を誘発しないように軟部組織の伸張を図ることが重要であると思われた.
    【まとめ】
    術後2週の運動時痛が大胸筋の筋スパズムを引き起こし筋活動量や筋硬度を増加させ,結果として関節可動域を制限すると思われた.
  • 小林 雄也, 仲島 佑紀, 石垣 直輝, 鈴木 智, 早坂 仰, 高橋 真, 岡田 亨
    セッションID: 23
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    オフシーズンに腰痛を愁訴とする高校野球選手が増加する傾向を経験する。今回は、高校野球選手におけるオフシーズンの腰痛の特徴を明らかにするためにフィジカルチェックとアンケート調査を行った。
    【方法】
    当院の倫理委員会の承認のもと、2010年度に千葉県内の某高校野球部に在籍し、本研究の目的に同意を得た52名を対象とした。チームサポートを行っている理学療法士・トレーナーへオフシーズンに腰痛を訴えた11名を腰痛群、その他の41名を対照群とし、両群にフィジカルチェックを実施した。検討項目は、身体組成、筋力(WBI、背筋力、上体起こし)、柔軟性(下肢伸展挙上角度、踵臀部間距離、トーマステスト、指床間距離、股関節内旋・外旋可動域)とした。また、腰痛群には独自に考案したアンケート調査を行った。内容は自由記入式と選択式を組み合わせ、痛みやトレーニングに関する項目とした。フィジカルチェックのデータは腰痛群と対照群の群間比較を行った。統計学的処理はMann-WhitneyのU-検定、x2検定を用いた。
    【結果】
    フィジカルチェックの両群の比較では有意な差を認めなかった。アンケートは全例回収し、痛みを感じたきっかけはランニング4名(36%)、バッティング4名(36%)、守備・スローイング2名(18%)、ウエイトトレーニング1名(9%)であった。腰痛を我慢してトレーニングを継続していた選手は、9名(81%)であった。また、トレーナー記録より腰痛を以前から有しオフシーズンに悪化していた選手は7名(64%)であった。
    【考察】
    今回の結果でフィジカルチェックのデータと腰痛の関連性は見られなかった。アンケート調査から、痛みを感じたきっかけはランニングやバッティングが多かったが、ウエイトトレーニングでの腰痛発生は少なかった。ランニングやバッティングと腰痛との因果関係については今後の追跡調査が必要である。また、腰痛群にはシーズン中からの腰痛が悪化したケースが多かった。その原因として、オフシーズンのトレーニングは走り込み、打ち込み、投げ込み、特守やウエイトトレーニングなどの同一動作の練習量が増えたことが考えられる。さらに、痛みを我慢して行っていた選手が多かったことから、今後フィジカルチェック時に腰痛を有する全選手を事前に抽出し、練習量の調整や自己管理指導が必要であると考える。
    【まとめ】
    高校野球選手のオフシーズンの腰痛に関する調査を行った。フィジカルチェックと腰痛の関連性は見られなかったが、アンケート調査により腰痛誘因動作としてランニングとバッティングであることが示唆された。
  • 平田 大地, 佐藤 謙次, 石山 裕暁, 黒川 純, 岡田 亨
    セッションID: 24
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    膝前十字靭帯(ACL)再建術後の膝関節伸展制限は、大腿四頭筋筋力低下・膝蓋大腿関節障害の原因の一つであると報告されている。近年ではHeel-Height Difference(HHD)が推奨されており、術前から術後のHHDの経過に関連する要因を把握することは、術後リハビリテーションの一助になると考える。本研究の目的は、ACL再建術後の術前から術後12ヶ月のHHDの経過を調査し、男女間・年齢で比較することである。
    【方法】
    対象は2005年6月から2010年9月の間に当院にて、ハムストリングス腱を用いた片側ACL再建術を施行し、術後12ヶ月間経過観察が可能であった261例261膝(男性124例、女性137例、平均年齢27.0±10.1歳)とした。HHDはSachらの方法に準じ、腹臥位で膝蓋骨を検査台の端に乗せ左右の踵の高さの違いを測定した。測定には肋骨隆起測定器を用いた。診療記録より術前、術後3、6、9、12ヶ月のHHDの値を抽出し、各時期で比較した。また、男女の2群間におけるHHDの値を各時期で比較した。さらに、術後12ヶ月のHHDの値を制限あり群(1mm以上)と制限なし群(1mm未満)の2群に分け、両群間で年齢を比較した。統計学的処理はSPSSver12.0を用い、HHDの経過は反復測定による分散分析の後に多重比較法を用いた。また、男女間・年齢の比較はMann-whitneyのU検定を用いた。それぞれの有意水準は5%とした。本研究は当院倫理委員会の承認を得て行なった。
    【結果】
    HHDの経過は、術前に比較し術後3ヶ月は有意に高値を示し、術後3ヶ月に対して術後6ヶ月、9ヶ月、12ヶ月は有意に低値を示した。また、術後6ヶ月に対して術後12ヶ月は有意に低値を示した。HHDの男女間の比較は、術後12ヶ月で男性と比較して女性が有意に高値を示したが、術前、術後3、6、9ヶ月では有意差を認めなかった。年齢の比較は、HHD制限なし群と比較して制限あり群が有意に高値を示した。
    【考察】
    ACL再建術後の膝関節伸展制限は術後3ヶ月で大きく、術後6ヶ月以降は緩やかに改善することが明らかになった。HHDの男女間の比較では術後12ヶ月のHHDは女性で有意に大きく、女性は男性と比較して膝関節伸展制限が残存しやすいことが明らかになった。また、年齢の比較ではHHD制限あり群が有意に高値を示し、膝関節伸展制限がある症例は年齢が高いことが明らかになった。膝関節可動域に関連する要因を把握することは、ACL再建術後の関節可動域の予後予測において重要であると考える。
  • 仲川 真悟, 赤坂 清和, 丸尾 竜也, 澤田 豊, 乙戸 崇寛
    セッションID: 25
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    前十字靱帯損傷の受傷機転の1つとされるカッティング動作において,予め決められたタイミングで動作を行う場合(予測下)と,突発的な判断で動作を行う場合(非予測下) では生じる運動特性が異なる可能性がある.本研究では,非予測下のカッティング動作において課題提示のタイミングを変化させた際の大腿四頭筋とハムストリングスの筋活動特性を筋電図学的に明らかにすることを目的とした.
    【方法】
    対象はバスケットボール経験者の健常成人女性9名(年齢25.6±4.2歳,身長160.2±5.4cm,体重52.3±3.1kg,競技歴4.9±2.3年)とした.本研究は埼玉医科大学倫理委員会による承認を得て実施し,全ての対象者に本研究の内容を書面と口頭にて説明し同意を得た.対象者は40cm台から降下し,左60度,右60度,前方の3方向へ走り出す課題を,着地後に走り出す方向がわかった状態で台から降下を開始する群,台から降下200msec後に走り出す方向が示される群(非予測200群),同様に台から降下300msec,400msec後に方向が示される群(非予測300群,非予測400群)の4群にて実施した.全ての課題において両側の内側広筋(VM)・外側広筋(VL)・半腱様筋(ST)・大腿二頭筋(BF)の計8筋の筋電図信号を計測した.解析は非予測群3群において,着地後に進行方向へ先に振り出す下肢(振り出し脚)と,支持している下肢(支持脚)に左右方向のカッティング動作を分け,着地時を0secとし,-100~+700msecの区間を100msecごとに8区間に対して,最大随意等尺性収縮にて正規化した積分筋電値にて解析した.総計学的処理は各区間の筋活動の差をFriedman検定,事後検定はWilcoxon の符号付き順位検定を実施し,有意水準は5%未満とした.
    【結果】
    支持脚のVMは500~600msec,VLは200~300msec,300~400msec,STは-100~0msec,400~500msec,BFは-100~200msec,300~400msecの区間において3群間に有意差を認めた(p<0.05).多重比較法においては有意差を認めなかった.振り出し脚のSTは200~300msecにて,非予測200群に比べて非予測400群の筋活動は低値を示し,多重比較法にて有意差を認めた(p<0.017).一方,統計学的に有意差は認めなかったが各筋において非予測200群に比べて,非予測300群・非予測400群にて筋活動が低い傾向を示した.
    【考察】
    今回の結果より,非予測下での運動特性を考慮する重要性が示唆された.また,今後は非予測下の課題提示時間を適切に設定することが重要であり,課題提示時間を設定する方法としては筋活動の大きい運動特性から筋活動が小さい運動特性へと切り替わるタイミングが一つの指標になる可能性が示唆された.
  • 三瓶 良祐, 小林 龍生, 宝田 雄大, 三尾 健介
    セッションID: 26
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    当部において、膝前十字靭帯(以下ACL)再建術後にリハビリテーションを行ったにもかかわらず、期待した大腿四頭筋筋力の改善が得られなかったことから、新たな筋力トレーニング方法として、2009年5月より早稲田大学スポーツ科学学術院との共同研究として血流制限下トレーニングを導入した。血流制限下トレーニング導入前後の大腿四頭筋萎縮および筋力について報告する。
    【方法】
    当院整形外科で膝屈筋腱を用いたACL再建術後の評価可能であった24例を対象とした。血流制限下トレーニングを行った9例(男性5例、女性4例)、平均年齢30.3±6.3歳を血流制限群(制限群)、通常のリハビリテーションを行った15例(男性8例、女性7例)、平均年齢30.6±12.3歳を血流非制限群(非制限群)とし、BIODEXによる膝伸展ピークトルク体重比および大腿周径を比較検討した。本研究は防衛医科大学校倫理委員会の承認を得て行った。
    【結果】
    大腿周径の健患差に関して、制限群で術後1ヶ月の1.9±0.7cmと術後4ヶ月、0.9±0.8cm、5ヶ月、0.9±0.7cm、1年、0.5±1.0cmとで平均値に有意差(P<0.05)を認め、非制限群では術後1ヶ月の2.4±1.3cmと術後1年、1.0±1.3cmとで有意差(P<0.05)を認めた。また大腿周径の経時的変化では、非制限群は術後2ヶ月で萎縮の進行が見られたが、制限群では萎縮の進行はなく順調な改善を認めた。患側膝伸展筋力平均値は制限群で術前48.6±19.3%、術後1年70.0±21.1%(P<0.05)、非制限群では術前49.6±18.1%、術後1年50.7±16.1%(P=0.85)となり非制限群では術後1年でやっと術前の筋力に回復したが、制限群では術前と比して有意な改善を認めた。
    【考察】
    通常、筋力増強には、65%1RM以上の負荷が必要であるが、血流制限下トレーニングは、20%1RMというほぼ日常生活レベルの負荷でも筋肥大、筋力増強が得られるとされている。靭帯や筋・関節へのメカニカルストレスが少ない血流制限下トレーニングは、強い負荷が掛け難いACL再建術後のリハビリテーションに適していると思われる。
    【まとめ】
    今回の調査では、制限群の患側膝伸展筋力で良好な改善が認められACL再建術後の大腿四頭筋萎縮と筋力改善において、血流制限下トレーニングの有用性が示唆された。
  • 永瀬 数馬, 鈴木 勝, 高間 省吾, 加藤 邦大, 石田 佳子, 森川 嗣夫, 土屋 敢
    セッションID: 27
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
     膝前十字靱帯(以下ACL)再建術後の急性期には関節水腫を頻繁に認める。今回われわれは、再建術後1カ月未満に関節水腫が消失した群(以下1カ月未満群)と1カ月以上継続した群(以下1カ月以上群)の、術後1年時の体重支持指数Weight Bearing Index(以下WBI)にて筋力の比較を行い、関節水腫が術後1年時WBIに与える影響を検討した。
    【対象と方法】
     2008年10月から2011年1月までに当院で半腱様筋腱、薄筋腱による2重束再建法による鏡視下ACL再建術を施行され、複合靭帯損傷などを除いた症例226例のうちデータ収集可能であった79例、年齢は14から63歳(平均年齢29.8歳)を対象とした。このうち関節水腫1カ月未満消失群33例(男性15、女性18)と、1カ月以上継続群46例(男性30、女性16)の術後1年時WBIについて比較検討した。関節水腫については膝蓋跳動の有無を指標とした。筋力測定にはMYORET-RZ-450を用いて膝屈曲60°での等尺性膝伸展筋力を測定しWBIを算出した。統計には対応のないt検定を用いて両群間の比較を行った。(p<0.05)尚、本測定はヘルシンキ宣言に則り被験者の同意を得た。
    【結果】
     術後1年時でのWBI健患比は、1カ月未満群の平均値91.52%、1カ月以上群の平均値が86.87%であり両群間に有意差を認めた。(p<0.05)患側WBIは、1カ月未満群と1カ月以上群の間に有意差を認めなかった。健側WBIは、1カ月未満群と1カ月以上群の間に有意差を認めなかった。
    【考察】
    今回の結果、術後1年時WBI健患比は1カ月未満群の平均値91.52%、1カ月以上群の平均値が86.87%であり、1か月未満群が有意に高値を示した(p<0.05)。Stratfordらは、膝の関節水腫があると関節包膨張と関節内圧上昇のため反射性抑制が生じ、膝伸筋の筋活動量が減少すると述べている。また、櫻井らは、ACL再建術後に関節水腫を認めた群は水腫無し群と比較して有意に筋力が低かったと報告している。また、当院では全荷重となる1カ月前後よりスクワット訓練が開始されるが、関節水腫の継続により、筋力強化に効果的なスクワット訓練やCKCプログラムの開始時期が遅延した事も影響したと思われる。以上の、(1)反射性抑制、(2)関節水腫による筋力回復への影響、(3)CKCプログラムの遅延などの理由により筋力が有意に低かったと考えられた。
    【まとめ】
     本研究の結果から、術後1年時WBI健患比は、1カ月未満群が1カ月以上群より有意に高値を示した。この結果より、術後1カ月以上の関節水腫継続は筋力回復に影響することが示唆された。
  • 矢口 春木, 橋本 貴幸, 村野 勇
    セッションID: 28
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    膝蓋骨骨折術後に、膝関節屈曲運動に伴う膝蓋骨の動態や骨折部の間隙を超音波画像診断装置(以下,エコー)を用いてリアルタイムに測定することで、骨折部の離開がないことを確認し、骨癒合を遅延させることなく、早期に膝関節機能を獲得することである。
    【方法】
    50歳代後半男性。右膝蓋骨骨折(Rockwood分類Transverse type)。転倒受傷し2週間のシーネ固定後、Fiber Wire を用いた観血的整復固定術(以下、ORIF)が施行された。術中の固定性は屈曲60°までは安定しているが、90°で若干の離開を確認した。そのため、理学療法処方は、術後2週まで0°〜45°、術後3週まで0°〜60°、術後4週まで0°〜90°の範囲で自動運動中心でのROM練習と等尺性筋力強化練習、荷重は膝伸展位knee brace固定にて全荷重歩行、extension lagがなくなり次第knee brace除去であった。術後に膝関節機能評価と合わせて、エコー(日立アロカメディカル社製、MyLabFive、B-mode、18MHz)を使用し、膝関節屈曲運動に伴う膝蓋骨の動態や最終屈曲時の骨折前面部の間隙(脛骨粗面矢状面上で膝蓋骨下端から中央部で各骨片前面部の距離)を測定した。なお、症例報告にあたり、発表の主旨を十分に説明し、書面にて同意を得た。
    【結果】
    膝関節機能評価結果は、extension lag 消失は術後2週、90度獲得は術後3.1週、正座獲得は8.9週、WBIは術後5.9週0.4(患健比45.4%)、術後8.9週0.53(患健比63.8%)であった。骨折前面部の間隙の測定結果は、膝伸展位5.2mm、術後2週5.3mm(45°)、術後3週5.2mm(60°)、術後4週5.2mm(90°)、術後5.9週5.2mm(145°)、術後8.9週5.2mm(正座)であった。なお、術後8.9週時に骨癒合良好と判断された。
    【考察】
    Fiber Wireを用いた膝蓋骨骨折のORIFは、長瀬らにより良好な成績が報告されている。本症例は、術中の深屈曲時に骨折部の固定性に不安定さがみられた。そのため、理学療法は、膝関節運動に伴う骨折部の離開ストレスに十分配慮しながら施行すべきであると考えた。そこで、リアルタイムに骨・軟部組織の動態を確認できるエコーを使用し、膝蓋骨の動態や骨折部の間隙を確認しながら実施したことで、骨癒合を遅延させることなく、より早期に膝関節機能の再獲得することができた。
    【まとめ】
    エコーは、リアルタイムかつ選択的に評価することが可能であり、術後の骨折部の固定性を確認する評価方法として有益であると思われる。
  • 西山 昌秀, 松永 優子, 田中 彩乃, 八木 麻衣子, 立石 圭祐, 石阪 姿子, 岩ウ さやか, 海鋒 有希子, 堀田 千晴, 松下 和 ...
    セッションID: 29
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    近年,包括医療の導入により入院期間の短縮が求められている.下肢術後に一定期間の免荷が必要となる場合,退院に際しては松葉杖免荷歩行の自立が必要となるが,自立に至らない患者も多く経験する.そのため,松葉杖免荷歩行自立の可否を早期に判断することが重要となるが,その関連因子は明らかになっていない.よって,本研究は下肢術後患者を対象に術後翌日の評価から松葉杖免荷歩行の可否を予測することが可能か検討することを目的とした.
    【方法】
    対象は2010年12月から2012年1月までに当院で下肢の手術を行った64名中48名(男性33名,女性15名,平均年齢44.37±19.77歳)である.除外基準は2週間以上の臥床,術後下肢下垂困難,上肢骨折,深部静脈血栓症,認知症,創外固定である.診療録より年齢,性別,松葉杖の使用経験,運動歴,同居者の有無,入院期間を後方視的に調査した.身体機能は術後翌日に膝伸展筋力体重比(μTas使用)及びMMT(上肢),握力,片脚立位(非術側),手支持なしでの40cm台からの立ち上がりの可否,歩行距離を測定した.1週間以内に歩行自立した者を自立群,自立できなかった者を非自立群とし,各項目について2群間の差を検討した.統計はχ2検定, t検定,Mann-WhitneyのU-testを施行し,有意水準は5%未満とした.尚, 本報告は当院倫理委員会に研究計画を提出し,ヘルシンキ宣言を順守,個人の情報が特定されないよう倫理的な配慮を行い実施した.
    【結果】
    自立群が31名,非自立群が17名であった.非自立群は自立群に比して高齢(56.41±21.81vs37.77±15.21歳,p=0.001)であり,女性の割合(58.82vs16.12%,<0.001)が高かった.さらに膝伸展筋力体重比(44.63±9.51vs65.38±17.52kgf/kg,p=0.003)や握力(27.03±12.89vs37.35±9.83kg,p=0.003)などの筋力および歩行距離(21.91±29.54vs156.45±87.07m,p<0.001),片脚立位(23.25±12.08vs29.35±3.59秒,p=0.046)は低値を示し,立ち上がり(17.64vs83.33%,p<0.001)を行える割合が低かった.それ以外の因子は有意差が認められなかった.入院期間は,非自立群が自立群に比して長かった(38.88±23.10vs12.26±7.34日,p<0.001).
    【考察】
    2群間で身体機能,年齢や性別,歩行距離に有意差を認めた.これらの因子をさらに検討する事により,術後翌日の評価から松葉杖免荷歩行自立の可否を予測できる可能性があると考えられた.また,早期退院のためには転院や介助者への介助方法の指導,介護保険導入などを早期から検討する必要があると思われた.
    【まとめ】
    下肢術後早期の評価から松葉杖免荷歩行自立の可否を予測できる可能性が示唆された.
  • 原田 真二, 平安名 常宏, 大工廻 賢太朗, 岸本 敬史, 菊地 慶太, 倉田 篤
    セッションID: 3
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
    当院では、心臓血管外科手術後の呼吸管理の一環として振動・呼気陽圧療法(以下;VPEP療法)である呼吸器具、アカペラを使用している。VPEP療法に関する臨床研究は少なく、心臓血管外科手術後を対象としたものはない。そこで今回、心臓血管外科手術後にアカペラを使用し、その付加効果について検証したので報告する。
    【方法】
    1.研究デザインアカペラ導入前後に心臓血管外科手術を受けた患者を対象に、それぞれの群での「患者・手術因子」と「術後因子」をカルテにて後方視的に調査し比較した。「患者・手術因子」は1.年齢、2.性別、3.術前左室駆出率、4.麻酔時間、5.手術時間、6.体外循環時間、7.大動脈遮断時間、8.術後挿管時間、9.出血量と定めた。「術後因子」は1.術後肺炎発症の有無、2.リハビリ進行度(歩行開始日、100M歩行開始日、200M歩行あるいは階段昇降開始日、病棟歩行自立までに要した日数)、3.術後在院日数と定めた。統計学的処理は統計解析ソフトJSTATを使用しMann-WhitneyのU検定にて有意水準を5%未満とした。2.対象対象は当院に待機入院し、胸骨正中切開による心臓血管外科手術を受けた患者とした。対象の除外基準は、1.透析導入患者、2.術前の活動性が低い患者、3.術後24時間以内に人工呼吸器の離脱ができなかった患者、4.再開胸手術を行った患者、5.術後神経学的合併症が生じた患者、6.術後の精神異常が遷延した患者とした。本研究の対象はアカペラ導入前の平成22年12月から平成23年2月までの3ヶ月間に当院で心臓血管外科手術を受けた103例のうち本研究の適応基準を満たした50例(以下;A群)とアカペラ導入後の平成23年4月から6月までの同期間に当院で心臓血管外科手術を受けた115例のうち同基準を満たした68例(以下;B群)とした。
    【説明と同意】
    入院時に全患者に対し、医学データを学術的研究の目的にて使用する事を説明し同意を得た。
    【結果】
    患者・手術因子はA・B群間にて、麻酔時間(327.0±86.0vs363.8±97.7min)と体外循環時間(148.1±62.5vs176.3±58.3min)のみ有意差を認め、B群が有意に長かった。術後因子は全ての項目において有意差を認めなかった。
    【考察】
    術後因子において有意差を認めなかった為、今回の調査ではVPEP療法の付加効果を見出す事が出来なかった。しかし、麻酔時間と体外循環時間においてB群が有意に長かったにもかかわらず術後因子にて有意差を認めなかった事は、VPEP療法が早期離床の誘因となった可能性が示唆される。
    【まとめ】
    心臓血管外科手術後にVPEP療法を行い、その効果を検証した本邦初の臨床研究であった。今後も標本数を増やすかあるいは他の評価項目を追加するなどの工夫が必要である
  • 梅田 真太朗, 志茂 聡, 堀内 俊樹, 渡邉 造文
    セッションID: 30
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
    近年、股関節鏡手術発展とともに股関節インピンジメント(以下、FAI)と診断されるアスリートが増加してきている。しかし、股関節鏡手術の歴史は浅くリハビリテーションの方針が現在も検討されている。今回、FAI股関節鏡手術術後の症例に対し競技復帰を目標としたリハビリテーションを行い、検討を行った。術前評価から術後12週までの経過をここに報告する。また、ここで使用される情報は本人に研究参加への説明をし同意を得た。
    【症例紹介】
    症例は20代男性の野球部投手でリーグ戦中に右股関節痛出現し、他院に受診。3DCT、MRI画像所見にてFAI(CAM type)と診断される。3ヶ月保存療法行うも症状改善せず。当院にて股関節鏡手術行い、翌日より理学療法開始となる。
    【術前理学所見】
    長時間座位や投球時のコッキング相の右股関節内旋時、股関節過屈曲時で股関節痛を認めた。インピンジメントテスト陽性、腸腰筋、股関節外旋筋、内転筋に圧痛認めROMは、股関節屈曲50°伸展5°内旋0°であった。股関節屈曲・外転筋MMT3、内・外旋は疼痛のため実施できず、股関節周囲に筋力低下、歩行時に跛行を認めた。
    【リハビリテーション方針】
    術後2日目より全荷重開始し、術後3週間は関節唇保護のため可動域制限(股関節屈曲30°伸展・回旋禁忌)が設定され筋力トレーニングは股関節外転筋・体幹筋を中心に等尺性収縮で行い移動は両松葉杖歩行とした。術後4週目より全可動域の可動・独歩許可、術後12週間で競技復帰を目標とした。
    【治療と経過】
    術後4週目で全可動域可動許可となり独歩にて自宅へ退院、その後外来通院となった。全可動域可動許可後、術後6週目で股関節屈曲120°伸展15°内旋15°獲得し、術後10週目でインピンジメントテストは陰性、内旋は左側同様30°となった。また、股関節屈曲・外転筋MMT5と筋力向上を認めたが骨頭を求心位に保つために必要な股関節外旋筋に疼痛を認めた。術後12週目では疼痛消失しスポーツテスト実施、18点に達しピッチング練習の開始とともに競技復帰となった。
    【考察】
    本症例に対し、股関節鏡手術術後の理学療法の内容を検討した。術後3週間は活動制限あり可動域制限と著しい筋力低下が想定されたが、術後12週目の時点では著しい筋力低下や股関節の違和感はなく、競技復帰へと進めていくことが可能であった。股関節鏡手術術後のFAI患者に対し今回のリハビリテーション内容は有用だったのではないかと考えた。今後も、様々なFAIに対するリハビリテーション内容や長期的な経過をさらに検証し取り組んでいきたい。
  • 吉田 啓晃, 川幡 麻美, 相羽 宏, 中山 恭秀
    セッションID: 31
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    大腿骨近位部骨折患者において術後歩行再獲得に関わる術後早期の動作能力を探るため、退院時歩行能力により自立群と非自立群に分類し、荷重開始時および荷重開始1週後の動作能力を比較することを目的とした。
    【方法】
    当院にて手術、理学療法を施行した患者37例のうち、受傷前歩行能力がT字杖歩行自立以上の21例を対象とし、指示理解が困難な者は除外した。内訳は男性3例、女性18例、大腿骨頚部骨折17例、転子部骨折4例であった。術式は人工骨頭置換術、CHS、γ-nailで、後療法は術後1週間以内に全荷重が許可された。
    退院時に杖なしあるいはT字杖使用下での歩行が自立した者を自立群(13例)、T字杖歩行に付き添いが必要か、他の補助具を使用している者を非自立群(8例)に分類し、術後早期の基本動作能力を比較した。基本動作能力はAbility for Basic Movement Scale(ABMS)を用い、寝返り・起き上がり・座位保持・起立・立位保持の各項目を6段階で評価した。歩行は長さ3.5mの平行棒による直線歩行にて、監視以上と要介助に分類した。また年齢、受傷前Barthel Index(BI)、在院日数を調査した。2群間の比較はMann-Whitney U検定、χ2検定を用いた。本研究はヘルシンキ宣言に基づき患者の同意を得て行った。
    【結果】
    年齢(自立群/非自立群:79.3±7.5歳/82.5±8.2歳)、受傷前BI(98.8±4.2点/98.1±5.3点)、在院日数(31.8±8.1日/34.0±6.9日)は、2群間に差はなかった。荷重開始時のABMS(24.7±4.1点/19.0±2.9点)、荷重開始から1週後のABMS(27.2±2.7点/21.7±3.5点)は、両時期ともに自立群が有意に高値であった(p<.01)。各項目をみると、寝返り・起き上がり・起立・立位保持で自立群は高値を示した。平行棒内歩行能力(監視以上:要介助)は、荷重開始時(12:0/2:6)、荷重開始1週後(12:0/6:2)であり、自立群は荷重開始時の歩行能力が高かった(p<.05)。
    【考察】
    荷重開始時に平行棒内歩行ができた者が退院時に杖歩行自立に至っていたことから、術後早期の患肢支持性が歩行の予後予測因子となりうると考えられた。また、ABMSの各項目をみると、退院群は患肢の支持性を必要とする起立、立位保持能力の得点が高いだけでなく、寝返り、起き上がりについても高かった。これは、術後早期より患側股関節周囲の筋力を発揮できることでそれらの動作を可能としていると考えられ、自立群は患肢の機能改善が早いと推察される。
    【まとめ】
    自立群と非自立群では荷重開始時のABMS得点や平行棒内歩行の可否に差がみられ、これらの評価によって術後早期に自立歩行の再獲得を予測できる可能性が示唆された。
  • 保地 真紀子, 中山 裕子, 袴田 暢, 細野 敦子
    セッションID: 32
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    大腿骨近位部骨折症例の移動能力に栄養学的因子が与える影響を調査し,その関連を明らかにする.
    【方法】
    2010.12~2011.12に当院を退院した大腿骨近位部骨折症例のうち,受傷前歩行自立であった82名(男性16名,女性66名,平均年齢84.9±6.9歳)を対象とし,食事量(主食・副食・補助食品量)から算出した推定摂取エネルギー量,蛋白量,入院中の血清アルブミン値(以下Alb値),退院時移動能力(歩行自立,歩行介助,車椅子に分類)について調査した.統計処理にはピアソンの相関係数,一元配置分散分析及びTurkey法を用い,有意水準は5%とした.また,本研究は当院の倫理委員会の承認を得て行った.
    【結果】
    術後1週の平均総エネルギー量,蛋白量は,1169.5±320.8kcal,47.2±14.0gで,3週にかけて有意に増加し(1326.8±294.0kcal,53.6±12.4g),その後ほぼプラトーに達していた.一方,補助食品を含まない主食副食から算出したエネルギー量,蛋白量の増加のピークはやや遅く,術後5週になって有意な増加が認められていた.Alb値は入院時平均3.6±0.5g/dlであったが,術直後は2.8±0.3g/dlと有意に低下を示し,術後2週には3.1±0.4g/dlと上昇に転じていた.退院時移動能力は,歩行自立群が42%,歩行介助群が40%,車椅子群が18%で,退院時移動能力が高い群ほどAlb値は高値を示し,歩行自立群の74%は術後2週で平均値に達していた.また,歩行自立群は車椅子群に比べ主食副食のエネルギー量,蛋白量が術後2週で有意に高かった.自立歩行は平均術後5週で獲得されているが,それに要した日数は入院期間と相関を示し,術後1週~3週における主食副食のエネルギー量,蛋白量と関連を示した.
    【考察】
    これまでの我々の研究において,術後2週までの食事摂取状況,Alb値は機能予後と入院期間に影響することが確認されている.今回の結果からも,歩行自立群の多くは術後2週で平均以上のAlb値に回復し,自立に要した日数は術後1~3週の主食副食量と関連を示すなど,予後予測の一助となる可能性が考えられた.また,補助食品の使用により,総エネルギー量や蛋白量はある程度確保できるものの,予後には主食副食の摂取量との関連が高く,補助食品に依存し過ぎない工夫が必要と思われた.
    【まとめ】
    大腿骨近位部骨折症例の歩行予後は術後早期の主食,副食量を基本とする摂取エネルギー量,蛋白量とAlb値の回復が関連する可能性が示唆された.
  • 近藤 千雅, 西山 昌秀, 松永 優子, 田中 彩乃, 八木 麻衣子, 立石 圭祐, 石阪 姿子, 岩崎 さやか, 武市 尚也, 松下 和彦
    セッションID: 33
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    現在,包括医療制度導入により入院期間の短縮が求められており,早期の移動能力獲得が困難なため回復期病院転院となる場合がある.先行研究において,大腿骨頚部骨折術後患者の退院先に社会背景や認知面が影響するという報告が多いが,これらに問題が無い場合でも自宅退院できない症例を経験することが多く,他の要因が関連している可能性が考えられる.しかし,大腿骨頚部骨折術後患者の退院先に関して,運動機能に着目した研究は少なく,また自宅退院と回復期病院転院を比較した報告は非常に少ない.よって本研究は,大腿骨頚部骨折患者の術後1週目の運動機能評価により退院先が予測可能か検討することを目的とした.
    【方法】
    対象は,2010年3月から2011年11月の期間に大腿骨頚部骨折でT病院に入院し手術を施行された141名中47名である(男性10名,女性37名,平均年齢77.4±9.7歳).取り込み基準は,(1)方針が最終的に自宅退院,(2)指示動作が可能,(3)術後プロトコール通りに経過,(4)入院前は自宅で生活し,屋内歩行自立,(5)自宅に介助者がある者とし,自宅へ退院した群(自宅群)と回復期病院へ転院した群(回復期群)の2群に分類した.
    運動機能評価は,術後1週で握力,等尺性膝伸展筋力体重比(μTas使用),前方リーチ距離,片脚立位時間,手支持なしでの40cm台からの立ち上がりの可否,平行棒内歩行3往復の可否を実施した.また,診療録より性別,年齢,身長,体重を調査した.統計は,χ2検定,t検定,Mann-WhitneyのU検定を用い,有意水準を5%未満とした.
    尚,本研究はT病院倫理委員会(承認番号91号)の承認を得て実施した.
    【結果】
    自宅群(n=15)と回復期群(n=32)の比較で2群間に有意差を認めた項目は,年齢(69.27±9.81vs81.28±7.03歳,p<0.001),以下中央値(四分位偏差)で示すと,握力(21.00(6.00)vs11.25(3.00)kg,p=0.024),等尺性膝伸展筋力体重比(患側:20.90(5.45)vs14.80(3.60)kgf/kg,p<0.001,健側:47.50(11.45)vs27.20(6.80)kgf/kg,p=0.002),前方リーチ距離(30.75(5.50)vs22.00(10.50)cm,p=0.001),片脚立位時間(健側:16.76(19.00)vs0.00(1.00)秒,p<0.001),40cm台からの立ち上がり可能(35.71vs6.45%,p=0.023),平行棒内歩行3往復可能(100.00vs48.39%,p=0.001)であった.その他の項目は有意差が認められなかった.
    【考察】
    術後1週の運動機能において,回復期群は自宅群と比較し,筋力,バランス機能,移動能力が低値を示し,高齢であった.これらの因子をさらに検討することで,術後早期の運動機能評価にて退院先が予測できる可能性が示唆された.
    【まとめ】
    大腿骨頚部骨折患者において,術後早期に退院先を予測できる可能性がある.
  • 大澤 達也, 藤原 慎也, 倉田 勉, 松本 徹, 矢内 宏二
    セッションID: 34
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
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    【はじめに】
    Compression Hip Screw (CHS)はlag screwのtelescopingによる近位と遠位骨片への圧着により骨癒合を促進させる特徴をもつ。しかし10mm以上の過度なtelescopingは術後患者のADL能力低下、術後成績不良につながると報告され、我々も同様の印象をもっている。そのため術後早期のtelescoping経時変化を調査し、歩行能力や関連要因との関係を知ることは臨床上意義のあることと考え、調査を行った。
    【対象と方法】
    対象は当院で2010~2011年にCHS法を施行した45例(男性7例、女性38例)とした。年齢は全例70歳以上で平均84.8歳であった。X-Pの前額面画像より、スレッド部とslidingするスクリュー部との割合からtelescoping率を算出した。また術直後から1週毎のtelescoping率を計測し、術直後~1週の変化を第1週変化率、以後第2週変化率、第3週変化率、第4週変化率と定義した。移動能力は清水分類に準じて点数化、独歩(点数:1)、杖(2)、歩行器または介助歩行(3)、車椅子(4)に分け、退院時移動能力と受傷前との差を評価した。また身体要因として年齢、性別、身長、体重、BMI、X-Pより骨折型(Evans分類)、骨強度(Singh分類)、術後要因として関節可動域、全荷重開始時期を調査し、各週変化率との関係を見た。各週変化率に対する移動能力変化と他要因との関係については、スピアマンの順位相関係数を用いて検討し、統計学的有意水準は0.05とした。なお本研究は放射線技師がX-P撮影し、当院倫理委員会の承認を得て調査を行った。
    【結果】
    各週変化率と移動能力変化との関係は、第1週のみ有意な正の相関(相関係数r=0.34)を認め、第1週変化率が大きい症例ほど、移動能力が低下する傾向を認めた。各週変化率と他要因の関係は、移動能力と関係のあった第1週変化率のみ、骨折型(r=0.28)、全荷重開始時期(r=0.30)と有意な相関を認め、不安定型骨折であるほどtelescopingは進行しやすく、術直後より全荷重を行った場合も同様の傾向があった。 骨折型と全荷重時期との関係は有意な相関を認めなかった。
    【考察】
    高齢者における大腿骨近位部骨折では寝たきり防止や術後早期退院のために早期荷重を推奨する意見が多い。しかし移動能力変化と関係のあった第1週変化率は骨折型と全荷重時期と非常に弱い相関であるが関係性を認めたことから、その時期の後療法については慎重な判断を要すと考えられる。我々は医師と骨折型と術後全荷重時期について情報共有し、CHS術後の移動能力低下を避けるためにtelescopingを最小限にする工夫が必要と考える。また、術後免荷期間における運動機能回復に悪影響を及ぼす廃用症候群、認知機能低下などへの対応策の検討も並行して進めるべきと考える。
  • 白井 智裕, 竹内 幸子, 加藤 宗規
    セッションID: 35
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
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    【目的】
    本研究は、大腿骨近位部骨折手術後患者に対し認知機能が与える影響と、認知機能と受傷前ADLを含めたADL予後との関係について検討することを目的とした。
    【方法】
    対象は2011年4月から12月までに大腿骨近位部骨折を発症し、当病院で手術後理学療法を施行した患者44例のうち、術後免荷期間が生じた患者3例を除く41例とした。内訳は男性6名、女性35名、平均年齢80.7±10.7歳であった。認知症判定基準には改訂長谷川式簡易知能評価スケール(以下HDS-R)を用い、20点以下を認知症(以下認知症群)とした。対象41例を認知症群21名と対照群20名に分類し、年齢、性別、受傷から手術までの日数、手術後在院日数、受傷前Barthel Index(以下BI)、退院時BI、ADL改善率(退院時BIを受傷前BI点数で除した値)、退院時歩行能力について2群間で比較した。次に認知症群においてHDS-Rと上記項目との関連、また受傷前BI80点以上と75点以下に群分けし、それぞれHDS-RとADLの関連について検討した。統計学的手法はχ2検定、t検定、Mann-WhitneyのU検定、Spearmanの順位相関係数を用い、有意水準5%とした。なお、本研究の主旨を本人または家族に説明し同意を得た。
    【結果】
    認知症群、対照群の2群間では年齢、受傷時、退院時BI、ADL改善率、退院時歩行能力に有意差を認め、認知症群で有意に年齢が高く、各BIおよび退院時歩行能力が低くなった。認知症群におけるHDS-RとADLの関連について、HDS-Rと退院時BIに0.73、ADL改善率に0.46の有意な相関を認めた。さらに認知症群において、受傷前BIが対照群の分布と重複する80-100点の群15名と75点以下の群6名に分けて検討すると、受傷前BI80点以上の群はHDS-Rと退院時BIに0.76、ADL改善率に0.75の有意な相関を認めたが、受傷前BIには相関を示さなかった。受傷前BI75点以下の群はいずれも相関を示さなかった。
    【考察】
    今回、認知症群では各BI、ADL改善率、退院時歩行能力が低値となった。これは認知症を有する方は歩行能力、ADLとも低いレベルになるという他の先行研究と同様の結果であった。しかし認知症群のなかにも、対照群と同様のBIであった対象も多く存在していたことから、さらに認知症群を対照群と受傷前BIが同様であったBI80点以上群と、75点以下群に分けて検討した。結果、HDS-Rは受傷前BIが80点以上の高い場合に退院時BIやADL改善率に関連するが、BIが75点以下の場合は関連しないことが考えられた。
    【まとめ】
    認知症を有する大腿骨頸部骨折手術後患者では、受傷前BIによりADL改善や退院時BIにHDS-Rが関連する影響が異なるため、受傷前BIを考慮した理学療法および予後予測が必要であると考えられた。
  • 大谷 知浩, 邑口 英雄, 平石 武士(OT)
    セッションID: 36
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    近年、転倒に関する心理的影響として転倒恐怖が注目されている。転倒恐怖は、活動範囲制限、対人交流減少、quality of life(QOL)低下などを引き起こすことが報告されている。この転倒恐怖に対し、日常生活動作練習等を通じて軽減を試みた報告など散見されるが、床での立ち座り練習との関連を報告したものは少ない。本研究では、床での立ち座り練習が自己効力感の向上に寄与するか、他の身体能力の評価も含めて反復型実験計画(以下、ABA型デザイン)を用いて検証していくこととした。
    【方法】
    対象は、左大腿骨頚部骨折を発症した70代の女性。転倒受傷後6日目に左股関節人工骨頭置換術を施行。術後44日目に当院回復期病棟へ入院。入院時、左下肢は全荷重可能で、T字杖歩行は見守りであった。安静時・運動時ともに下肢関節痛や腰痛等は認めなかった。コミュニケーションは良好、改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)は25点であった。測定は入院後5日目(術後49日目)より開始。介入はABA型デザインを用い、第1基礎水準測定期(以下、A1期)、第2基礎水準測定期(以下、A2期)では通常の練習を行い、操作導入期(以下、B期)では、通常の練習時間を短縮し、床での立ち座り練習を15~20分間施行した。立ち座りのために必要とする手支持台の有無は問わず、介助に関しては最小限とした。介入期間は各1週間(連続5日間)とし、計3週間行った。測定項目は、日本語版Modified Falls Efficacy Scale(以下、MFES)、Timed"Up and Go"Test(以下、TUG)、Berg Balance scale(以下、BBS)とし、測定時期は、測定開始前、2週目、3週目、測定終了後の計4回とした。対象者には十分な説明をした後、文書にて同意を得た。
    【結果】
    A1期の開始前は、MFES:52点、TUG:15.69秒、BBS:54点であった。A1期終了時(2週目)は、MFES:66点、TUG:15.25秒、BBS:55点であった。B期終了時(3週目)は、MFES:116点、TUG:10.46秒、BBS:55点であった。A2期終了時は、MFES:125点、TUG:10.37秒、BBS:55点であった。MFES、TUGに関しては、B期終了時に著明な改善値を示した。
    【考察】
    床での立ち座り練習は、自己効力感や歩行能力に肯定的な影響があることが示唆された。この要因として、床での立ち座り練習にて生じる身体の固有感覚の変化と、前庭迷路における加速の変化などと視覚の変化が能動的に統合され安定感が得られたのではないかと考えられた。これらが、自己効力感や歩行能力にも反映されたものと考えられた。
    【まとめ】
    床での立ち座り練習の実践は、自己効力感や身体能力を向上させ生活範囲の拡大に影響する可能性があることが示唆された。
  • 伊能 幸雄, 村永 信吾, 東 拓弥, 宮本 瑠美
    セッションID: 37
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
     メタボリックシンドローム(以下メタボ)は動脈硬化性疾患の発生頻度を高めるとして,2008年より特定健診・保健指導(通称メタボ検診)が始まった。メタボ改善の方法として,ウォーキング,ジョギング,水泳,レジスタンストレーニングなど様々な運動方法がある。
     しかし,これらの運動の弊害として,関節痛を訴える者があるという報告がある(宮地,2010)。これは,メタボ対策として運動が推奨されているが,同時に,骨,関節,筋などの運動器の問題も考慮し,対象者の痛みや筋力に合わせた運動指導が必要であることを示している。
     この運動器の不具合について日本整形外科学会(2009)では,ロコモティブシンドローム(運動器症候群,以下ロコモ)という概念を提唱した。これは,加齢に伴って運動器の問題により疼痛,筋力低下,バランス能力低下が生じ,歩行困難をきたし日常生活自立度が低下することである。
     以上のことから,本研究の目的は,メタボ健診の受診者の中に運動器の問題を持った者がどれくらいいるのかを把握し,同検診に運動機能検査を追加する必要性を示すこととした。
    【方法】
     対象は,2011年9月1日~12月31日までに当院人間ドックを受診した444人(男性297人,女性147人),年齢60.2±8.0歳。測定項目は、通常健診項目(身体計測,血液検査など)に加え,運動機能検査として,生活機能チェック,関節痛,脚筋力の検査である立ち上がりテスト(村永,2001)を測定した。なお,対象者への説明と同意については当院の個人情報保護方針に従った。
    【結果】
     メタボ判定について,該当は17.6%(78人),予備群は18.5%(82人),非該当は64.0%(284人)であった。生活機能チェックについて,5項目のうち一つでも該当した者は45.7%(203人)。疼痛について,腰・膝・足のどれかに疼痛を有している者は62.2%(276人)。脚筋力について,立ち上がりテストの片脚40cmが立てない者は27.2%(121人)であった。
    【考察】
     当院人間ドック受診者のなかには,メタボ該当者とともに,脚筋力低下や膝・腰の疼痛を抱えるロコモ該当者が存在していることがわかった。メタボ改善の運動メニューも疼痛の有無,筋力低下の有無を考慮して運動負荷を調整する必要があると考える。
    【まとめ】
     当院人間ドック受診者のなかには,メタボ該当者とロコモ該当者が存在していた。従来のメタボ改善としての運動をより効果的また安全に行うために,ロコモという運動器の問題も考慮して運動負荷設定を行うことが望ましいと考える。
  • 入山 渉, 加藤 仁志, 鳥海 亮
    セッションID: 38
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    近年,急速な高齢化に伴い高齢者を対象とした介護予防事業(以下,事業)が全国各地で展開されている.しかし,これまでの事業の評価指標は,実施回数や事業内容,参加人数などをあげているものが多く,アウトカム評価(実施効果に関する評価)を行っているものは少ない(川越,2006).そのため,事業に関するデータを蓄積していくことは重要であると考えられる.そこで本研究では,地域在住高齢者を対象に事業を実施し,効果を検証することを目的とした.
    【方法】
    対象は事業に参加した14名(男性5名,女性9名,平均年齢76.8±5.1歳:66-86歳,身長152.5±10.2cm,体重58.6±11.1kg).対象者に対し,事前に本研究の趣旨を文章と口頭にて説明し,署名にて同意を得た.理学療法士の指導のもと,講義と運動指導を1回60分,概ね二週間に一度の頻度で6ヶ月間,計12回実施した.講義は,家屋環境のチェックポイント,ウォーキング,腰痛予防の生活習慣,転倒について行った.運動指導は,座位や立位で行える体幹・下肢筋力強化,ストレッチ,バランス練習を行った.また,自宅でも運動を行えるよう,理学療法士が作成したパンフレットを配付した.運動の動機付けとして,自宅で運動を1種類行うたびにペットボトルにおはじきを1つ入れるよう指示した.事業参加時にペットボトルの重さを計測し,グラフ化して対象者に示した.体力測定として,事業の1回目と11回目に長座体前屈,握力,Timed Up & Go Test(以下,TUG),5m最大歩行速度,開眼片脚立ち,Functional Reach Testを実施した.統計学的解析は,各測定項目を対応のあるt検定を用いて検討し,有意水準は5%未満とした.
    【結果】
    有意な改善を認めたのは,TUG(p<0.01,95%信頼区間:1.24~2.18)と5m最大歩行速度(p<0.05,95%信頼区間:0.06~0.72)であった.その他の項目は有意差を認めなかった.
    【考察】
    5m最大歩行速度は95%信頼区間の下限値が0.06と低く,臨床的に有意な改善とは言い難い.一方,TUGは有意な改善と考えられた.この2項目で異なる点は,椅子の立ち座り動作と方向転換の有無である.今回の指導内容により,これらの動作速度が速くなり,それに伴ってTUGの速度が速くなったと考えられた.
    【まとめ】
    地域在住高齢者に対し,事業の効果検証を行った.本研究の事業内容は,TUGの改善に繋がることが示唆された.
  • 山之口 夏子, 隆島 研吾, 田中 あづみ, 宮ウ 津子, 松野 竜一朗
    セッションID: 39
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
    会議録・要旨集 フリー
    【研究背景】
    以前,退院後ADLは事前指導した方法から変化することを報告した.今回は,退院後のADL変化についてその原因をより明らかにするために症例を増やし直接面接調査を行ったので報告する.
    【方法】
    対象は当法人施設の通所リハビリテーションを利用しており,病院直接もしくは老人保健施設経由で在宅生活開始後半年以内の利用者及びその家族5例である.ただし入院理由が廃用症候群であるものは除いた.基本情報の収集と,本人及び家族に直接面接を行い、FIM運動項目の変化の有無,変化例には具体的な方法,時期,理由等を直接面接により聴取し,逐語禄作成と質的整理を行った.尚、本研究実施については当法人組織の承認の下,対象者には調査の趣旨,方法,録音等について書面および口頭による説明を行い書面にて同意を得ている.
    【結果】
    対象者は男性3例,女性2例である.平均年齢76.2歳,平均介護度3.2,退院後の平均在宅滞在日数98.2日であった.FIM運動項目の退院時と調査時の変化は,向上したものは3例で2例は変化なかった.点数が向上した項目は,更衣動作が3中2例, 1例は,階段介助から監視になっていた.また1例は中等度の介助歩行をしていたものが、車いすでの介助となった.次に,点数の変化がない2例では点数への影響はないが,1例は移乗動作を変更し,下衣の上げ下ろし方法にも変化があった.動作の変更理由としては,「やってみたらできた」,「動作に自信がついた」,「日中の動作なので夜間でもできると判断した」等が多く,自分自身での判断で変更していた.変化した時期は,在宅生活開始後1週間程度から1ヶ月程度と比較的短い期間に行われていることが明らかとなった.
    【考察】
    退院前のADL指導では,遂行能力に応じて指導し、機能低下予防,介助量軽減を目的としている.また,家屋の環境や介助者の問題などの要素を考慮した指導を心掛けている.それでも今回の調査でも在宅生活へ移行し何らかのADL変化が起きることが明らかとなった.そこから治療者側が考える介助量での事前指導と,実際生活場面で繰り返し行う介助者側の介助負担感というものの相違についての更なる認識が必要であることが示唆された.また、比較的早期に動作内容や介助方法などが変更されていたことは,実際の生活への移行前の指導内容が適切かどうかという評価とともに,実際在宅生活移行後のADL変化とその要因についてさらなる検討が不可欠であろう.今後は,生活場面へのスムーズな移行のために,身体的能力に依存する項目と退院後の環境因子に依存する項目などについても検討を進める予定である.
  • 小川 優美, 佐々木 史博, 坂倉 理子, 平川 功太郎, 金子 弘子, 福家 晶子, 三輪 快之, 金森 太郎, 井上 武彦, 市原 哲也
    セッションID: 4
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
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    【はじめに】
    心大血管手術では体外循環が用いられ,大腿動脈を送血部位とすることが少なくない.大腿動脈送血時の合併症として送血末梢側遮断による下肢虚血障害(3%)が報告されている.今回, Stanford A型急性大動脈解離 (以下AAD-A)に対し緊急手術を施行,左総大腿動脈からの送血により横紋筋融解症,重度運動障害,重度感覚障害を合併した症例を経験したので報告する.
    【症例紹介】
    47歳男性.診断名:AAD-A.身長175.0cm,体重63.2kg,BMI20.6.既往歴:高血圧.現病歴:2011年12月胸痛・呼吸苦出現,翌朝胸背部痛増強したため他院へ搬送,緊急手術目的に当院へ搬送,同日手術. 入院期間:17日,転院後1ヶ月で独歩獲得し自宅退院.術式:基部~半弓部大動脈置換,送血部位:左総大腿動脈.手術中の末梢側遮断による左下肢虚血時間は約4時間,その後遮断解除し血行再開.合併症:左下肢横紋筋融解症(CPKmax95381),重度運動障害,重度感覚障害.コンパートメント症候群は否定.なお,対象者には本報告に際して事前に説明し同意を得た.
    【理学療法経過】
    POD2:抜管後に理学療法介入.足背動脈触知可,明らかな冷感・色調異常なし.左下肢筋痛・腫脹・筋硬結著明,重度運動障害・感覚障害を認めた.筋痛により立位保持困難,立位練習と並行して関節可動域訓練,DYJOCトレーニング開始.POD6:平行棒内歩行開始,左下肢荷重困難だったため,起立台による荷重練習開始.POD12:補助具にて歩行練習開始.横紋筋融解症による筋痛・腫脹・筋硬結の軽減に伴い,術後約2週で運動機能はMMT1→2へ,感覚も大腿から下腿にかけては軽度鈍麻に改善.遠位においては表在覚・深部覚ともに重度鈍麻,痺れ残存.腫脹により早期から左足関節底屈拘縮を認め,退院時背屈-15°.なお理学療法介入後のCPK上昇は認めなかった.
    【考察】
    本症例では,筋痛・腫脹・筋硬結が著明,CPKも高値であったことから,術後早期の歩行練習の適応について判断に苦渋した.しかし,理学療法介入後も症状増悪がないことやCPK上昇を認めないことから歩行練習を開始し,補助具歩行まで施行できた.臨床的には,虚血肢の神経は4~6時間,筋は6~8時間,皮膚は8~12時間で不可逆的変化を生じると言われている.手術中の重症虚血肢に対し,虚血時間が許容範囲内であれば,重症度に関わらずリスク管理下にて歩行練習が可能であると示唆された.
  • 丸谷 康平, 藤田 博曉, 細井 俊希, 新井 智之
    セッションID: 40
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
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    【目的】
    高齢者の栄養状態は日常生活動作能力や生活の質、歩行能力などと関連するといわれている。高齢者の栄養状態をスクリーニング的に評価するツールとしてMini Nutritional Assessment-Short Form(MNA-SF)があり、近年その有用性が報告されている。しかし地域在住高齢者におけるMNA-SFと身体機能の関連についての報告は少なく、その関連を明らかにすることを本研究の目的とした。
    【方法】
    対象は、埼玉県A町の健康推進イベントに参加された高齢者51名(男性:17名、女性:34名、平均年齢71.0±4.4歳)であり、全員屋外独歩が可能で、以下に示す調査項目にて支障となる身体および認知的な低下はなかった。対象者には、研究概要および匿名にてデータを使用することを説明し、同意を得ている。調査項目はMNA-SF、足趾把持力、開眼片脚立位保持時間(片脚立位)、Timed up and go test(TUG)とした。足趾把持力は足指筋力測定器(竹井機器工業TKK3362)を使用し、左右2回ずつ測定し、最大値の平均を求めた。また片脚立位は2分間を上限として左右1回ずつ測定し、平均値を測定値とした。MNA-SFは低栄養の恐れありとされる11点未満の者(低栄養群)、12点以上の者(非低栄養群)の2群に分けた。統計解析はスピアマンの順位相関係数検定にてMNA-SFと身体機能の相関を分析し、その後低栄養群・非低栄養群の2群に対し、T検定にて調査項目ごとに群間比較を行った。
    【結果】
    MNA-SFの結果、低栄養群は11名(21.6%)であった。相関分析の結果、MNA-SFと性別(ρ=0.289)、足趾把持力(ρ=-0.299)、片脚立位(ρ=-0.331)、TUG(ρ=0.396)に軽度の相関がみられた。また群間比較において足趾把持力、片脚立位、TUGに有意差がみられた。
    【考察】
    今回の対象は、地域の健康推進イベントに参加され屋外独歩が可能であり健康意識や身体機能が高いと思われるが、MNA-SFにて約5人に1人が低栄養の恐れがあった。そして軽度だが、栄養状態により身体機能が影響を受けることが示唆された。このように日常生活が自立している地域在住高齢者においても栄養状態が問題視されることもあると思われ、介護予防を図っていく上では運動指導のほか、適切な栄養指導も必要であると考えられる。
    【まとめ】
    地域在住高齢者を対象にMNA-SFにおける栄養状態評価と身体機能との関連を調査した。その結果、足趾把持力、片脚立位、TUGに軽度の相関を認め、低栄養の恐れがある者は有意に身体機能の低下を示した。
  • 加藤 仁志, 竹内 翔太, 主藤 夏美, 吉田 慎吾
    セッションID: 41
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    現在,高齢化が急速に進み,介護保険制度の導入により介護予防事業が実施されるようになったが,介護予防を必要とする対象者全てが参加しているわけではない.遠藤らは,介護予防事業に参加している方は女性が圧倒的に多いと報告している(2007).都市部の男性高齢者の介護予防事業への参加要因についての先行研究はあるが,特定の地域であるため他の地域に適用することはできないと小野寺らは述べている(2008).そこで本研究では,山間部在住の男性高齢者を対象に介護予防事業への参加要因を調査することとした.
    【方法】
    A町の介護予防事業に参加している特定高齢者男性5名(以下A~E)に対し,介護予防事業への参加に関するアンケート調査,インタビューを実施した.内容は介護予防事業への参加のきっかけ,参加しての感想,継続の意思の有無などであり,それらをもとに参加要因について検討した.
    倫理的配慮として,対象者に対して書面と口頭による説明を十分に行った上,同意を得た.
    【結果】
    対象の平均年齢は75.0歳(71歳~80歳)であった.参加された男性高齢者の介護予防事業に参加されたきっかけは,「地域の保健師に勧められて」がA,B,C,Dの4名,「お知らせを見て自発的に」がEの1名であった.参加してみた感想は,良いがB,C,D,Eの4名,普通がAの1名と言う結果となった.参加継続の意思は,全員が継続の意思があると答えた.
    【考察】
    先行研究では介護予防事業への参加には,内的動機づけ(自己課題への明確化)と外的動機づけ(役場からのお知らせや手紙,保健師による直接的な促し)が必要であるとされている.本研究では,保健師の勧めで参加された対象者が多く(4名),自発的に参加された対象者(1名)であったことから,外的動機づけはあるものの,内的動機づけが弱いことが考えられた.そのことから,役場のお知らせには参加を促す効果があるものの,その効果は低いと示唆された.これらの結果から,介護予防事業に対する情報量,知識の少なさによって,介護予防事業に参加することの重要性の認識が低いため,行政の保健師,理学療法士などによる直接的な参加の促しが必要であることが示唆された.また,男性参加者全員が参加の継続意思があることから,参加率の低い男性でも,一度参加すれば継続することが示唆された.したがって,参加のきっかけを作り,参加してもらうことが重要であると考えられた.
    【まとめ】
    山間部の高齢者男性の介護予防事業への参加率を上げるためには,行政などの地域支援事業者に加え,地域住民の活動により,介護予防事業への知識や認識を深めることが重要であると示唆された.
  • 杉田 ひとみ, 木下 孝彦, 高木 寛
    セッションID: 42
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    東日本大震災後、群馬県理学療法士協会では当県への避難者に対し、生活不活発病予防のため5ヵ月間の集団体操中心の活動を行った。本研究では長期間集団体操を施行し、体操前後の血圧に変化が見られたので、ここに報告する。
    【方法】
    対象者は当県北部にある杉並区保養施設に避難された福島県の避難区域の方々、体操参加者は延べ人数446名であった。3M程度の集団体操を週1回、40分程度施行した。その体操前後に血圧測定を参加者全員に行い、個別にフィードバックした。統計処理は体操前後の収縮期・拡張期血圧をスチューデントT検定にて比較検討した。また各月毎の収縮期・拡張期血圧を1元配置の分散分析とFisherの多重比較を行った。
    【結果】
    血圧測定において、5月の体操前収縮期血圧133.5±17.6mmHg、拡張期血圧77.6±10.1mmHg、体操後収縮期血圧129.6±16.9 mmHg、拡張期血圧76.0±9.7 mmHgで一番高い平均値を示した。体操前後を比較した結果、収縮期血圧では2~5mmHgの低下傾向にあり、6・7月では有意差を認める結果(6月P<0.05 7月P<0.01)であったが、拡張期血圧ではほとんど変化がなかった。また各月毎に収縮期血圧を比較したところ体操前では5月の結果に対し4・6・7・8月で有意差(P<0.01)を認め低下しており、体操後の収縮期血圧では5月に対し6・7月で低下を示し、有意差(P<0.01)を認めた。各月毎の拡張期血圧の比較では体操前で5月に対して4月が有意差(P<0.01)を認め低下していたが、体操後は各月毎には有意差は認められなかった。
    【考察】
    血圧上昇の因子としてストレス・喫煙・食生活が挙げられている。今回対象となった方々は、震災・原発による避難とストレスを多く抱えている状態であった。体操前後での収縮期血圧の比較で体操後に低い値を示したのは、体操施行より血流改善し血圧低下を促したと考える。この傾向は開始日から現れているため、集団体操において即時効果があるとも考えられる。しかし月毎に体操前、体操後の血圧を比較すると、徐々に低下傾向を示すと仮定していたが、体操前の収縮期血圧4月は避難したことでストレスが一時減少したが、5月になると原発などの状況が明らかになることで心意的ストレスが増加、8月には仮設住宅への転居などがあったことから、ストレスの影響が大きかったのでないかと考える。今回支援活動として集団体操を行うことで、有意差はさほど認められなかったが血圧低下の一因となったのではないかと考える。しかし如何に精神的ストレスを軽減するかが、重要であることもわかる結果となった。
  • 戸渡 敏之, 萩原 麗子, 西島 菜穂子, 小山 浩永, 野村 真弓
    セッションID: 43
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
    当院は総病床数610床、31診療科, 平均在院日数14.3日の急性期総合病院である。本年度の運営方針である急性期医療の充実を目的に、新規活動として摂食・嚥下チーム(以下チーム)の院内運用が計画された。このような状況下に、リハ科主導による設立依頼があり、チーム立ち上げに参加し活動を開始したので今回紹介する。
    【活動までの経緯】
    総合病院の利点を生かし多職種で構成するtransdisciplinaryなチーム作りを目標として、リハ部門で計画する運びとなった。平成23年9月よりチーム設立に関する準備を開始し、各関係部署への協力依頼後、スタッフを選出した。最終的なチーム構成員は, リハ医師2名、耳鼻咽喉科医1名、歯科口腔外科医1名、看護師(Ns)4名、管理栄養士1名、歯科衛生士1名、薬剤師1名、医事課職員1名、OT1名、ST2名、PT1名、の総勢16名となった。
     チーム設立に関する会議は、ほぼ毎月一回実施した。特にチーム運用で中心的な役割となるリハ医師、ST、Nsをコアメンバーとし、必要に応じてmeetingを開催し検討した。主な審議内容は、チーム活動のアウトライン、実際の運用に関する検討、評価票など記録用紙の作成、院内システムの構築であった。
     運用は、電子カルテにチームへの登録機能と申し込み用の依頼票を新設した。チームへの依頼方法は、多くの医療スタッフからの依頼が可能となるように配慮し、医師に限定せずNsなど医療職でも、事前に主治医に報告し同意が得られればチーム依頼できるように設定した。また情報共有化のため、評価票や計画票、カンファレンス記録用紙も電子カルテ内に構築した。
     現行の活動内容は、毎月1回の定例会議、2回のカンファレンスとチーム回診、そして週2回のコアメンバーによる依頼患者の嚥下機能評価が主な活動である。現時点で活動開始後約1ヶ月であるが、依頼患者数は17名となっている。尚、個人情報は電子カルテ内で管理し保護に配慮した。
    【考察】
    急性期医療の現場では、医療チームを編成してアプローチすることが多い。今回の立ち上げに関与した経験では、評価や記録内容に関して、主治医や担当Nsとチームメンバー間の情報共有化を円滑にするシステム作りが重要であると認識できた。またチーム依頼を医師に関わらず医療職からの受付を許可したことにより、嚥下障害患者の早期発見が可能になったと示唆される。現在解決すべき課題として、算定率向上も視野に入れた摂食機能療法に関する院内マニュアルの整備がある。将来的には、NST(栄養サポートチーム)との連携や病棟窓口となるリンクNsの配置、さらに勉強会の開催などチーム活動の役割を院内に啓発していく必要がある。
  • 澤田 小夜子, 熊木 裕
    セッションID: 44
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    腰痛は労働災害の中で圧倒的多数を占めると多く報告されている。一般的に教職員にも腰痛が問題となっている。今回、特別支援学校等から当院へ腰痛予防教室の依頼があった。本研究では、腰痛予防教室実施時に教職員に対し、腰痛に関するアンケート調査を行い、腰痛の実態を把握し、教職員の腰痛の発症に影響する要因を調査した。
    【対象・方法】
    対象は腰痛予防の講演依頼を受けた特別支援学校の教職員とし、事前に本研究の趣旨を説明し書面による同意を得た。方法はアンケート方式を用い、職務中における腰痛の有無および程度(visual analog scale:以下VAS)下肢の痺れなどの神経症状の有無、器質的病変(椎間板ヘルニア、腰椎すべり症など)の診断の有無、腰痛既往の有無、Roland-MorrisDisability Questionnaire(以下RDQ)、腰痛が起こる職務、職場の環境で困っていること、ストレスの有無および程度(VAS)である。日常生活動作については、寝返り動作、立ち上がり動作、洗顔動作、中腰姿勢または立位の持続、1時間くらいの座位、重量物の拳上の6項目について腰痛による影響を調べた。腰痛有無の群間比較における統計学的解析にはt検定、またはMann-Whitney検定を用い、有意水準5%とした。
    【結果】
    対象23名、アンケート回収率100%、男性10名、女性13名、平均年齢39.2歳±3.2歳であった。職務中に腰痛ありと回答したもの11名47.8%、その程度はVASで28.0±23.6また、RDQでは2.2±1.8点であった。27.2%が神経症状、45.5%が器質的病変の診断、90.9%が腰痛の既往があると回答した。腰痛が起こる職務は重いものを持つ、生徒の誘導介助、長時間の立位姿勢が挙げられた。職場の環境で困っていることは、物を持ち上げる動作が多い、休憩施設の確保ができないであった。腰痛有無の群間比較は、ストレスの程度(VAS)では、腰痛群は32.1±22.7、非腰痛群は14.1±14.3であった。(p<0.05)日常生活動作では、寝返り動作、中腰姿勢または立位の持続の2項目に差がみられた。(p<0.05)
    【考察】
    特別支援学校の教職員の腰痛の特色は、生徒の誘導介助時に腰痛が発生している点にある。特に、動こうとしない生徒の誘導や、急に予想しない方向へ生徒が動いたときなどに発生している。RDQ が低い値だったことから対象者が感じる腰痛は日常生活に支障のきたす程度ではないと考えられる。また、ストレスや日常生活では寝返り動作、中腰姿勢または立位の持続が腰痛に関連があることが示唆された。
  • 是永 敦子, 隆島 研吾, 長澤 充城子, 白野 明, 齋藤 薫
    セッションID: 45
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
    タマラック付プラスチック製AFOにて腰痛や胼胝形成などが生じていた脳性まひによる右片麻痺のケースに対して、底屈制動・背屈補助機能を有するプラスチック短下肢装具力源ユニットM5700 Easy Stride(以下Easy Stride)を用いた結果、症状の改善がみられたので報告する。なお、発表に際し本人および保護者には説明の上同意を得ている。
    【対象】
    男性14歳。Brunnstrom StageはⅤ-Ⅳ-Ⅳ。知的能力はWISCにてIQ60。中学2年生で卓球部に所属。杖なし歩行自立。
    【経過】小学3年生頃からプラスチック製AFO(タマラック足継手付)を装着し、中学1年生の夏頃より踵骨の胼胝・水胞形成を繰り返し、中学2年生になり腰痛や右上肢の筋緊張亢進が出現してきた。裸足歩行では装具使用時と比較し、Pre-swing(以下PSw)が観察できたことから足関節底屈をゆるす必要があり、また、Loading Response(以下LR)からMid Stance(以下MS)移行期の推進力低下も認めたため重心の前方移動を補助する必要があった。両機能と活動度を考慮し、Easy Strideを選択した。導入後も調整を行い、完成から1か月後、胼胝・歩行能力ともに改善した。
    【検証方法】
    歩行の改善を確認するために、変更前後の10m歩行および走行の速度・歩数データの比較に加えビデオ解析にて歩容の比較を行った。(ビデオ解析にはMedia Blendを使用)
    【結果】
    10m歩行は変更前9.11秒(15歩)から変更後6.75秒(13歩)、10m走行も2.75秒(10歩)から1.99秒(9歩)と改善を示した。歩行解析では左Initial Contact時(以下IC)の体幹前傾角度が23.1°から13.1°へ減少、右MS時の股関節伸展が-3.9°から13.3°と拡大し、また、IC時の肘関節屈曲が45.5°から18.6°と改善が見られた。同時に踵骨の胼胝・腰痛も改善した。
    【考察】
    変更前の装具では、LR・PSw時の足関節底屈制限により装具内でピストン運動が生じた結果として踵部に胼胝を形成していたものと考えられた。同時にLRからMSに右股関節伸展が出来ずに推進力を生み出すために体幹を前傾させざるを得ず、そのため肩関節屈曲内転筋群の筋緊張も高めていた。加えて、このような体幹や上肢の代償動作により体幹伸展を起し腰痛が発生し、筋緊張を高めていたと考えられる。
    今回Easy Strideを加え、底屈に対して弾性バンパによる制動をかけ、ゴムの反発力を用いて前方への重心移動を補助する特性が機能したことで、歩行周期全体で体幹前傾が修正され股関節伸展も出現し、無理のない姿勢・歩容の変化が得られたものと考えられる。今回用いたEasy Strideは本症例のような早い動きにも十分対応が可能であると思われた。
  • 亀井 実, 浅川 康吉
    セッションID: 46
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
     障害者支援施設では利用者の高齢化が進んでおり、骨粗鬆症予防として理学療法が重要な課題である。本研究の目的は、障害者支援施設利用者の骨密度とその関連要因、理学療法の必要性を明らかにすることである。
    【方法】
      研究計画は施設長の承認を得た。対象者への説明は口頭で行い、同意を得た。研究の計画、実施にあたってはヘルシンキ宣言を順守した。 当施設利用者の男性23名、女性16名の計39名を対象とした。平均年齢は59.9±12.0歳、原因疾患は、脳性麻痺15名、脳血管疾患8名、頭部外傷7名、一酸化炭素中毒3名、脊髄疾患3名、小脳変性疾患2名、先天代謝異常1名であった。 骨密度の測定は、橈骨を日立アロカメディカル株式会社DCS-600EXVを用いて行った。得られた値を原発性骨粗鬆症の診断基準として用いられている若年成人平均値Young Adult Mean(以下YAM)と比較した百分率(以下若年比骨密度)に換算した。診断基準の骨量減少、骨粗鬆症に該当するYAMの80%未満を骨密度低下者とした。関連要因として性別、年齢、骨折歴、施設入所期間、測定側上肢機能を調査した。測定側上肢機能はICFの評価スケールに従った。得られたデータから骨密度低下者の割合を求めるとともに、若年比骨密度を従属変数、関連要因を説明変数とする重回帰分析(ステップワイズ法)用いて若年比骨密度に関係のある要因を明らかにした。
    【結果】
     39名の平均骨密度は0.529g/c㎡±0.155、若年比骨密度の平均は 73.5%±19.0だった。骨密度低下者は39名中名24名(62%)であった。骨折歴は0回28名、1回9名、2回1名、3回1名であった。施設入所期間は平均14.8年±15.0で、上肢機能は機能障害なし2名、軽度の機能障害16名、中等度の機能障害2名、重度の機能障害3名、完全な機能障害16名であった。重回帰分析の結果、若年比骨密度に関連する要因は年齢(p<0.01)、測定側上肢機能(p<0.01)、骨折歴(p<0.05)であった。施設入所期間には関連を認めなかった。
    【考察】
     骨密度低下者は6割を超えた。施設利用者は、骨が脆弱である可能性があり、リハビリテーションや介護場面での介助には注意が必要である。重回帰分析結果、骨密度低下には高齢、上肢機能低下、骨折が関連することを示唆した。施設入所期間には関連を認めなかったが、当施設での入所期間は平均14.8年だったことから、当施設での長期生活は若年比骨密度を低下させるとはいえないと考えた。
    【まとめ】
     本研究の結果は、障害者支援施設利用者の骨粗鬆症の予防に運動機能向上のアプローチとして理学療法が必要なことを示唆している。今後、障害者自立支援法の分野への理学療法士の介入が急務である。
  • 佐藤 悠, 廣吉 和江, 佐伯 まどか, 市川 勝, 吉野 靖
    セッションID: 47
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    回復期リハビリテーション(以下,リハ)病棟では,患者本人の機能障害や活動制限の改善を目的とした介入ばかりではなく,家族に対しての介入も重要であるが,退院後同居家族の主観的な「思い」に焦点を当てた報告は少ない。そこで本研究では,自宅退院後に同居家族が抱く「思い」を聴取・分析し,若干の考察を加え報告する。
    【対象】
    当院回復期リハ病棟に入院し,2011年3月~12月に自宅退院した患者の同居家族のうち,研究参加に同意を得られた25名(夫6, 娘5, 妻9, 息子2, 嫁2, 養女の夫1名)を対象とした。なお,退院後独居のため同居家族がいない例は除外した。一方,対象者が受け入れた患者の基本情報は,男10, 女15名,平均77.0±10.6 歳,CVA13, 大腿骨頚部骨折術後11名, 廃用症候群1名,退院時FIM運動項目58,認知項目28(ともに中央値)であった。
    【方法】
    対象患者の基本情報を診療録より後方視的に抽出したうえで,退院後3ヶ月経過時点で各キーパーソンに対して電話による半構造化インタビューを実施,「思い」を聴取した。対象者の発言から逐語録を作成,その中で「思い」について語られている部分を意味の損なわれないように区切り,カテゴリー化した。分析は,triangulationの一環として筆頭著者を含めた研究者4名が別々に行い,理論的飽和と判断された時点で終了とした。なお,本研究の実施に際しては,当院倫理委員会の承認後,対象者に文書および口頭にて説明,同意を得た。
    【結果】
    インタビューの結果より,同居家族の主観的な「思い」として318の一次コードから,「健康状態の変化に対する喜び」「負担軽減による安堵」「今後への期待」「社会参加への思い」「介護負担感」「患者の状態に関する不安」「環境因子への不安」「介護生活への適応」の8つのコアカテゴリーが抽出された。これらカテゴリーと退院時FIM値や医療依存度等との関連性は見出せなかった。
    【考察・まとめ】
    医療者は当然の支援者として家族に期待しがちであるが,不安や介護負担感など介護者のQOL低下に関わるコアカテゴリーが抽出されたことから,回復期リハ病棟入院中から,これらの軽減を見据えた支援介入が不可欠であることが確認された。一方,喜びや期待,社会参加への思いなどのコアカテゴリーが抽出されたことから,在宅退院に向けてマイナス面のみを強調するのではなく,介護の喜びなどプラスの面も併せて評価していくべきであると考えられる。また多くの同居家族は介護に対する肯定的な思いと否定的な思いの両者を表出していたことから,同居家族の「思い」は必ずしも経時的に一定の方向性を志向するプロセスではないことが推察された。
  • 手塚 潤一, 松本 直人, 山口 育子, 長田 久雄
    セッションID: 48
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    近年の医療では感染症、急性疾患を対象としたものから、生活習慣病、慢性疾患を対象としたものに疾病構造が変化している。そして、慢性疾患患者を取り巻く環境は複雑で長期にわたる治療と、その間の生活の両側面からのケアが必要である。このような変化により、医療に対するアウトカムはQOL、主観的健康感、医療への満足度、日常生活の満足度などが重要とされている。一方ICFでは、患者の健康状態に影響を及ぼす要因として、環境因子、個人因子が挙げられている。本研究では外来でリハビリテーションを継続する変形性膝関節症患者に対し、ICFの環境因子、個人因子に着目し、健康関連QOLに影響を及ぼす要因を明らかにすることを目的とする。
    【方法】
    対象は変形性膝関節症と診断され、病院および診療所に通院する高齢者105名。調査内容は、健康関連QOLとしてSF-8スタンダード版、客観的重要度の指標として日整会膝痛疾患治療成績判定基準(以下JOAスコア)、主観的重症度、周辺環境満足感、趣味活動満足感、家族関係満足感、経済状況、楽観性指標、年齢、性別、他関節疾患の有無の聞き取り調査を行った。分析はSF-8スコアを従属変数、その他の変数を独立変数として重回帰分析を行った。分析にはIBM SPSS Statistics19を用いた。本研究は桜美林大学研究倫理委員会の承認を得ている。
    【結果】
    対象の属性は平均年齢76.5±6.5歳、男性18.8%平均年齢75.4±7.3歳、女性82.2%平均年齢76.8±6.4歳、他関節疾患はあり68%、なし32%であった。SF-8スコアとの重回帰分析の結果、標準偏回帰係数で有意とされた変数は、JOAスコア0.285、主観的重症度-0.295、周辺環境満足度0.210、趣味活動満足度0.203の4変数であった。
    【考察】
    変形性膝関節症に罹患し定期的な通院を余儀なくされても、自宅や周辺環境に満足し、趣味活動を満足に行えていれば、健康関連QOLは維持できる可能性がある。医療関係者のみならず、行政、地域などが協力し、高齢者が安心、安全に生活でき、趣味活動への参加を積極的に行えるような環境作りが高齢者の生活を支えるために必要な視点である。
    【まとめ】
    今回変形性膝関節症で加療を行っている高齢者を対象に、健康関連QOLに影響を与える要因を検討した。健康関連QOLに影響を与える要因はJOAスコア、主観的重症度、周辺環境満足感、趣味活動満足感という結果であった。変形性膝関節症を罹患した高齢者の健康関連QOLを高めるにはICFの背景因子である、周辺環境や趣味活動などの満足感を高める必要があることが示唆された。
  • 大河原 七生, 後閑 浩之, 臼田 滋
    セッションID: 49
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    modified Clinical Test of Sensory Interaction in Balance(以下、mCTSIB)は視覚や体性感覚情報の利用を考慮した立位姿勢制御に関する評価法である。本研究の目的は、mCTSIB時の重心動揺測定とその測定結果のStage分類を実施し、バランス及び歩行能力との関連性を検討することである。
    【方法】
    対象は当院入院中の脳卒中片麻痺患者25名。取り込み基準は研究趣旨が理解可能で、上肢支持なしで立位保持が15秒間可能な者とした。本研究は当院倫理委員会の承認を得た上で進め、測定前に紙面にて同意を得た。
    mCTSIBは、安定した床面(以下、FF)と発泡素材で不安定にした床面(以下、FR)にて、各開眼・閉眼(以下、EO・EC)の4条件で、それぞれ30秒間の静的立位保持時の重心動揺を測定した。重心動揺計(ANIMA社G-6100)の測定はサンプリング周波数20Hzとし、重心動揺計の結果は30秒間立位保持可能であった場合のみ採用した。mCTSIBの各条件において30秒間の立位保持の可否から、以下の5段階のStageに分類した。Stage1:全条件で立位保持困難、Stage2:FFEOのみ可能、Stage3:FF条件は可能だがFREOは困難、Stage4:FREOは可能だがFRECは困難、Stage5:全条件で立位保持可能。また、全ての対象者の表在感覚と振動感覚検査を各Semmes-Weinstein MonofilamentsとRydel Seiffer音叉を用いて検査した。バランス及び歩行能力の指標としてTimed Up and Go Test(以下、TUG)、Berg Balance Scale(以下、BBS)、Functional Ambulation Category(以下、FAC)を測定した。重心動揺計の結果は総軌跡長、前後・左右方向速度のRoot Mean Square(以下、RMS)について検討を行った。統計学的解析は、条件間の比較には一元配置分散分析後にTukeyの多重比較検定を行い、Stage間の比較はKruskal-Wallis検定を用い、有意水準5%未満とした。
    【結果】
    mCTSIBの総軌跡長はFFEO・FFEC・FREO・FRECの順に63.4±52.6、71.6±36.5、125.7±51.1、194.5±73.2cmとなり、全ての条件間に有意差を認めた(p<0.05)、前後・左右方向速度のRMSも同様に有意差を認めた。各Stageの人数はStage2が1名、Stage3が4名、Stage4が8名、Stage5が12名であった。総軌跡長・TUG・FAC・BBSは各Stage間に有意差を認め、Stageが高いものほどバランス及び歩行能力が有意に高くなった(p<0.05)。
    【考察・まとめ】
    閉眼や不安定な床面上では感覚の量・質が低下したことで、重心動揺が増加したと考える。Stage分類の結果とTUG・BBS・FACに関連性を認めたことから、mCTSIB各条件における立位保持能力が標準的バランス能力や歩行能力を反映している可能性が示唆された。
  • 半田 沙織, 高橋 一樹, 薗田 謙, 織田澤 美穂
    セッションID: 5
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    高齢者の加齢に伴う身体機能低下は手術侵襲を受けることでより著明となり,在院日数が延長することがある.そのため身体機能維持・向上を目的とした周術期リハビリテーション(以下リハ)の必要性が高いと感じる.そこで独自に作成した周術期リハプログラムを使用してリハを実施し,標準的なリハを提供できるように考案した.その取り組みを紹介するとともに検討したので報告する.
    【方法】
    平成23年4月~12月に当院消化器外科で手術をした65歳以上の高齢者168例のうちリハを実施した97例を対象とした.今回使用した周術期リハプログラムは,術前リスクスコアと障害高齢者の日常生活自立度判定基準に基づき,術後呼吸器合併症発症リスクを4段階に分けている.全段階共通のプログラムとして術前オリエンテーション,術後の基本動作指導,咳嗽指導を実施している.周術期リハプログラムの有効性について術後呼吸器合併症発生率と在宅復帰で評価した.対象者にはヘルシンキ宣言に基づき,研究の主旨を説明し同意を得た.
    【結果】
    術後呼吸器合併症発生率は97例中3例で発生率3.1%,在宅復帰率は87例中80例(死亡退院10例を除く),91.9%であった.
    【考察】
    術後呼吸器合併症の発生率は低値であり,良好な成績といえる.その要因として早期から術後呼吸器合併症のリスクに合わせたリハを実施できたこと,術後介入がスムーズに行えたことが挙げられる.特に術前オリエンテーションが十分に行えた症例では早期離床に対する患者の理解が良好であった.また動作時の苦痛・不安軽減も図れたことで,リハ以外の時間での離床時間延長につながった.在宅復帰率に関しては,術後呼吸器合併症が低率であったこと,早期離床が可能となり,廃用症候群を引き起こさなかったことが要因と考えられる.そして周術期リハプログラムで術前の身体機能・ADLの評価が簡便に行え,リハのゴール設定が容易となったことで患者自身も意欲的な取り組みが出来たことが成績向上につながったと考えられる.
    【まとめ】
    周術期リハプログラムを使用したリハを提供することで良好な結果を得ることができた.さらに周術期リハプログラムを改善していくため,リスクスコア別に術後呼吸器合併症発生率の調査,術前に行ったオリエンテーションに関する効果の検証を行い,よりよいリハ提供を行えるようにすることが今後の課題である.
  • 望月 香穂里, 白須 彩花, 有賀 美穂, 丸茂 高明, 相原 知英, 大森 裕介, 石塚 和重
    セッションID: 50
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    自動及び他動運動は訓練場面において筋力強化等で用いることが多く,フィードバックには聴覚や視覚刺激を利用することある.自動運動が脳の賦活に関与し,視覚的介入によりさらに脳が賦活するという報告がある.しかし,他動運動や聴覚・視覚に関連した報告は少ない.本研究では,光イメージング脳機能測定装置を用いて, 自動及び他動運動時と聴覚・視覚刺激を加えた時の違いを前頭葉の酸化ヘモグロビン濃度長(以下oxyHb)の変化でその傾向を検証した.
    【方法】
    対象は同意を得られた健常成人10名(年齢22.4±3.3歳).測定機器は,光イメージング脳機能測定装置(Spectratech社製OEG-16)を用いた.測定部位は,前頭葉で全16チャンネルとした.実験デザインは,安静臥床にて30秒,その後右下肢複合屈曲・伸展運動を条件にて30秒(以下m),その後,再び安静臥床で30秒のヘモグロビン値を測定した.条件設定は,自動運動群(以下A群)と他動運動群(以下P群)にて,下記3条件ずつ行った.詳細は,閉眼・声掛けなし群(以下c),閉眼・声掛けあり群(以下Vo),運動肢を注視・声掛けなし群(以下Vi)とし,一人に対し上記6つの条件を実施した.統計処理は,rとm時のoxyHbの平均値と標準偏差を算出し,平均値の差を対応のあるt検定を用いた(p<0.05).今回は,前頭葉上部に着目し報告する.尚,本研究は当院倫理委員会規定に基づき実施した.
    【結果】
    左前頭葉上部を中心にm時に有意な差が認められた.A・P群での比較は前頭前野等の運動関連領域で共にoxyHb増加の傾向がみられ,よりA群に大きな増加が認められた.また,聴覚・視覚での介入ではA・P群共にoxyHb増加がみられ,その中でもVi群により大きな傾向がみられた.
    【考察】
    本研究は,右下肢での運動のため左前頭葉上部に有意な差が多くみられたと考えられる. 前頭前野の主な機能は運動の意志や注意等である.本実験の自動運動は自らの意志による運動であるため前頭前野の活動により大きな増加の傾向が認められたと考えられる.また,聴覚や視覚的介入により運動に注意が向き集中できたことで,運動関連領域における前頭前野の活動が増加したのではないかと考えられる.視覚は人の感覚の中で80%を占めているが,聴覚の比率は少ない.そのため視覚的介入を加えたことでoxyHbが増加したと考えた.
    【まとめ】
    m時では右前頭葉上部を中心に有意な差がみられた。A・P群共にoxyHbの増加傾向が認められ,自動運動がより脳の賦活に関与する傾向がみられた.また,それらを行う際には視覚的介入がより効果的である可能性があると考えられる.
  • 高橋 典明, 倉山 太一, 田所 祐介, 小宅 一彰, 藤本 修平, 大高 洋平
    セッションID: 51
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    歩行中の力学的エネルギー保存効率の指標である%recovery(%R)は、快適とする速度において最大となるような上凸の二次曲線を描く。これは、エネルギー効率が最大となる速度を快適と規定していると考えられる。我々は先行研究において、膝歩きにも快適速度が存在し、そのケイデンスが快適歩行と近いことを示した。本研究は、通常歩行で見られるような%Rと歩行速度の関係性が、膝歩きにも存在するか明らかにし、膝歩きの快適速度の決定因子について検討することとした。
    【方法】
    対象は健常成人20名(23.5±1.4歳)であった。課題は、トレッドミル上での歩行および膝歩きとし、それぞれの快適速度を基準として0.5倍、0.75倍、1.0倍、1.25倍、1.5倍の速度でランダムに実施した。重心変位を第三腰椎棘突起上に貼付した光学マーカーから計測し、%Rおよびケイデンスを算出した。%Rとケイデンスについて課題様式(歩行・膝歩き)と速度(5段階)の間で2要因の反復測定分散分析を実施し、下位検定として膝歩きと歩行との間で対応のあるt検定を実施した。有意水準は5%とした。なお、本研究は当院倫理審査委員会の承認を受け参加者に説明と同意を得た上で行った。
    【結果】
    以下、0.5倍速~1.5倍速の順序で結果値を示す。%Rは、歩行:45.9±10.9、59.8±11.2、64.5±8.8、64.8±7.0、59.0±10.0、膝歩き:56.6±10.3、59.5±7.6、56.9±11.2、57.8±7.4、55.0±8.2であった。ケイデンスは、歩行:91.3±15.0、112.5±18.7、135.0±18.6、144.8±22.6、155.1±25.8、膝歩き:111.1±19.7、115.5±18.4、129.0±17.7、145.3±19.6、155.7±18.6であった。%R、ケイデンスとも課題様式と速度との間に有意な交互作用をみとめた(p<.001)。%Rは0.5倍速、1倍速、1.25倍速にて、ケイデンスは0.5倍速において課題間で有意差を認めた(p<.05)。
    【考察】
    歩行の%Rは先行研究に一致し速度と関連したパターンを示し、快適速度の1.25倍速で最大値を示した。一方、膝歩きの%Rは速度によって大きく変化せずほぼ一定値をとり、快適速度との関連が見られないことが明らかとなった。このことから膝歩きにおける快適速度の判断基準はエネルギー効率以外の要素が関連している可能性が示された。なお、今回歩行と膝歩きのケイデンスはほぼ等しく、有意差も認められなかったことから、膝歩きの快適速度は、快適歩行のケイデンスを参考に規定されている可能性がある。
    【まとめ】
    トレッドミル上にて膝歩きと歩行を実施し、速度と力学的エネルギーの関係を調べた。膝歩きでは速度変化に関係なく%Rはほぼ一定値を示し、快適速度と関連しないことが示された。
  • 安田 欣司, 勝平 純司, 丸山 仁司, 藤沢 しげ子
    セッションID: 52
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    ジャンプ動作開始直前に認知課題を与えることが運動プログラミングの干渉刺激や心理的ストレスとなることで着地衝撃や動作開始前に与える影響を明らかにすることを目的とした.
    【方法】
    対象は男性10名(年齢21.8±0.9歳 身長170.4±5.8cm 体重67.0±10.1kg)とし,国際医療福祉大学倫理審査の承認を得た.計測課題は30cm台からの両脚ジャンプ,両脚着地とした.被験者はジャンプをする際,前方に設置したスクリーンに表示された指示に従い30cm前方か80cm前方にジャンプするかを判断し動作を速やかに行った.対照条件ではスクリーンに『30cm前』または『80cm前』と文字が表示された.被験者は指示の通り30cm前方または80cm前方へ速やかにジャンプを行った.認知課題条件では『2桁同士の足し算』の計算式が表示された.被験者はその式を計算し,解が偶数であれば30cm前方へ,奇数であれば80cm前方へ解を口頭で言いながら5秒以内に速やかにジャンプを行った.以上の条件をランダムに表示し,指示ごとにジャンプを行った.各条件3試行の計12試行実施した.計測機器は3次元動作解析装置,床反力計,表面筋電計を使用した.パラメータは着地時における床反力鉛直方向成分最大値(以下Peak Fz), Peak Fz時の矢状面上の股・膝・足関節角度,股・膝・足関節モーメントの最大値,またスクリーンに指示が表示されてから動作開始までを準備期と設定し,準備期の内外側腓腹筋・ヒラメ筋・前脛骨筋の筋活動を算出した.統計には距離因子と認知課題の有無を2要因とした2元配置分散分析反復測定法を用い,有意水準は5%未満とした.
    【結果】
    認知課題の有無で主効果が得られ,対照条件と比べて認知課題条件では以下のような結果が得られた.Peak Fzが有意に高値を示した.Peak Fz時の股関節屈曲角度が有意に低値を示し,関節モーメント最大値において膝関節伸展モーメントが有意に高値を示した.また,準備期おいて内側腓腹筋の筋活動が有意に高値を示し,前脛骨筋は有意に低値を示した.
    【考察】
     準備期において計算課題を用いたことが心理的ストレスとなり,それが内側腓腹筋の過剰な筋活動として現れたと考えられる.また計算課題によって着地姿勢への注意配分が不十分となり,股関節においてより伸展位で着地したために衝撃吸収を不十分となり,Peak Fzと関節モーメントの増大につながったことが考えられる.
    【まとめ】
     スポーツ場面では相手やボールの位置など認知的判断や心理的ストレスに曝されている場面がある.本研究より着地衝撃の増大の因子は動作開始前にも存在することが示唆され,普段のトレーニングにおいても認知課題を用いることも有効な手段と考えられる.
  • 新宮 かおり, 荻原 多恵子, 浅野 翔平, 岩本 紘樹, 平石 武士
    セッションID: 53
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    Timed up and go test(以下TUG)は先行研究において再現性・信頼性の検証はされている.しかし,日常生活動作が自立していない虚弱高齢者の測定誤差は大きいなどの報告があり,実際の臨床場面でも測定誤差をみかける事があるがその要因や意義を検討した報告は少ない.自身の最大能力を状況に応じ十分に発揮できないことは,日常生活動作場面でも問題となることが予想される.本研究ではTUGを反復測定した際の測定値の変動とそれに影響を与える因子について検討した.
    【方法】
    研究内容は当院倫理審査委員会の承認を受けた.対象者には目的・方法を説明した後,同意を得た.対象は当院入院中で歩行見守り~自立の中枢神経疾患患者(8名)・運動器疾患患者(6名)14名(66.9 ±10.9歳)とした.本研究でのTUG測定は最大速度にて実施した.TUGを3回測定し,その最速・最遅値の幅(秒)を算出し,変動値とした.その変動値と,バランス能力の指標である Berg Balance Scale(以下BBS),日常生活場面での歩行自立度指標としてFunctional Independent Measure(以下FIM)の移動項目との関連性を検証した.統計処理はTUG各回数間の比較には二元配置分散分析を,各変数間の関連性の検討にはSpearmanの順位相関係数を用い,有意水準は5%未満とした.
    【結果】
    TUGの平均変動値は4.03 ±4.64秒であったが,各3回の測定間に有意な差は認められなかった.
    FIMではTUG各3回の測定,変動値で有意な相関を認めた(TUG各3回の測定値r=-.772~-.774,変動値r=-.579).しかし,BBSでは各測定値,変動値で有意な相関は認められなかった(各3回の測定値r=-.322~-.394,変動値-.496).また,疾患別の測定値をみると中枢神経疾患患者の方が変動値は大きい傾向にあった.その中でも変動値が10秒以上の者は,FIMは見守り,BBSは45点以下という傾向であった.
    【考察】
    TUGとFIM間については変動値に比して,各測定値との関連性がより高かった.TUGとBBS間では強い相関は見られなかった.しかし,変動値の高い者が数名みられ歩行能力,総合的なバランスが低い傾向にあった.このことから今後は症例数を増やし変動値とFIM,BBSとの関係を継続し,その他の関連する因子について検討していきたいと思う.
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