関東甲信越ブロック理学療法士学会
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第31回関東甲信越ブロック理学療法士学会
選択された号の論文の305件中151~200を表示しています
  • 茂原 亜由美, 江戸 優裕, 上條 史子
    セッションID: 151
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    臨床において身体の前方及び前側方にある手すりを利用して立ち上がる症例がいる一方,車いすのアームレストやベッド端のように身体の後側方での上肢支持により立ち上がる症例も散見する.こうした立ち上がり方法の違いは個々の身体機能特性を表していると考えられる.そこで本研究は立ち上がり時の手すり位置による下肢筋活動の差異を検討することを目的とした.
    【方法】
    対象は本研究の主旨に同意した健常成人6名(男性3名,女性3名,平均年齢22.2±0.4歳)とした.課題動作はいすからの立ち上がりとし,胸の前方で上肢を組んだ姿勢(腕組み)と前側方手すり(前方)及び後側方手すり(側方)を使用した方法の3条件で各3回計測した.動作速度はメトロノーム(bpm60)を用い3秒間で立位姿勢となるよう規定した.筋電図計(Noraxon社マイオシステム1400,サンプリング周波数1500Hz)により大腿直筋(RF),内側広筋(VM),大腿二頭筋(BF),大殿筋(GM)を計測した.得られた筋電位からバンドパスフィルタ(10~500Hz)処理後の全波整流筋電位を得た.離殿から500フレームを第1相,500から1000フレームを第2相とし各々の積分値を算出した.それらを腕組みの値で除して百分率で示し,各々の筋活動パターンを対応のあるt検定により比較した.また動作を側方よりビデオで撮影した.
    【結果】
    腕組みに対する前方,側方の積分筋電位を以下に[前方(%)/側方(%)]として示す.第1相のGMは[36±13/54±17]であり有意差が認められた(p<0.05).他の3筋はRF [60±22/49±26],VM[54±12/71±27],BF[56±23/63±24]であり,有意差はなかった. 第2相のVMは[66±14/105±23]であり有意差が認められた(p<0.05).他の3筋はRF[67±21/100±33],BF[61±20/78±21],GM[56±37/66±25]であり,有意差はなかった.
    【考察・まとめ】
    結果より大腿の筋活動は前方,側方共に腕組みと比べ低下することが示唆された.中でも前方での第1相のGMと第2相のVMが側方よりも低値を示した.また動画より,主に第1相は重心前方移動,第2相は重心上方移動が行われていることを把握した.第1相は体幹前傾位であり,その際体幹の前方で上肢支持することで姿勢保持としてのGM活動が減少したと考えられる.また第2相のVMについては,側方では膝関節に対し体幹が後方にあるため活動が高くなり,前方では膝関節の上方に体幹が位置するため減少したと考えられる.しかし,今回は体幹角度や上肢にかかる力が明確でないため更なる検討が必要である.
  • 山本 一樹, 根本 悟嗣, 赤津 雄也, 尾池 健児, 渡辺 新, 栗田 慎也, 田村 綾子
    セッションID: 152
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
     大腿骨近位部骨折患者の術後、医師から全荷重可と指示をもらうが、荷重に難渋するケースが多い。今回、歩行再獲得に向けSAFETYWALKERの使用が患者に与える影響について考察する。
    【方法】
     症例は80歳代女性であり、診断名は左大腿骨転子部骨折(骨折分類はtype1group4)、H24.1.14受傷し当日手術施行。術式はORIF(髄内釘Smith&Nephew社製INTERTAN使用)、術後翌日より可及的に全荷重可と医師から指示あり。術後患側下肢の疼痛が強く、荷重は困難であった。理学療法は術後2日目から7日目までSAFETYWALKERを用いて歩行練習(その後は荷重量が増加し痛みの訴えが減少したためU字歩行器、ピックアップ歩行器、T字杖へ順々に移行)、スリングエクササイズセラピー、関節可動域練習、起居動作練習を実施した。
     本研究はヘルシンキ宣言に沿い、患者に研究内容を十分説明し同意を得た上で実施した。
    【結果】
     術後3日関節可動域評価(R°/L°)股関節伸展-5/-5、膝関節屈曲130/130、膝関節伸展-20/-15であった。同日の徒手筋力検査MMT(R/L)上肢筋力4/4、股関節屈曲・伸展・外転3/2、膝関節伸展4/4。そして、術後14日の静的バランスはACTIVEBALANCERを用いて計測し、総軌跡長(mm)は開眼571、閉眼1011、ロンベルグ率1.7であった。同日T字杖を使用してのTimed Up and Go Test(以下TUGT)では右回り39"57、左回り40"11であった。
     退院時(術後30日)の患側股関節屈曲・伸展・外転の徒手筋力検査MMTは2から3へ、関節可動域、静的バランスに著明な変化なく、TUGT(T字杖使用)は右回り18"78、左回り19"18となり、T字杖歩行・身辺動作自立し自宅退院した。
    【考察】
     本研究より、SAFETYWALKERの使用が歩行再獲得に向けて有効なのではないかと感じることができた。本研究では術後の疼痛、異常筋緊張などを客観的に評価する指標がない為、数値が出ないことがやや不十分であるが、SAFETYWALKERが歩行再獲得に向けての良いきっかけとなると考えられる。また、今回の症例では視力が悪かったため、安心して歩行ができる環境を作ったことが早期にT字杖自立となった要因ではないかと考える。
    【まとめ】
     自分が動けるということを実感することで早期から病棟でのトイレ自立、身辺動作自立に繋がり入院期間中の廃用症候群を最小限にすることができた。また、大腿骨近位部骨折患者だけでなく、他の疾患を有する患者にもSAFETYWALKERは使用でき、多様性に富んでいる。今後は、SAFETYWALKER使用・非使用群での歩行獲得までの期間の検討、客観的な筋緊張評価指標の検討をしたい。
  • 座間 拓弥, 強瀬 敏正, 上野 貴大, 森田 直明, 荻野 雅史
    セッションID: 153
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    当院では、トレッドミル上で高運動負荷を目指す歩行練習を介助者の負担を減らし進行させる事を目的とし開発された歩行補助装置(以下ASSWS)を脳卒中片麻痺患者に使用している。鈴木らの報告によると、歩行速度・歩幅・麻痺側単脚荷重時間が有意に長くなるとしている。この報告より筋活動が向上すると推測できるが実際の歩行中における筋活動の変化に関しての報告はない。今回、トレッドミル歩行時にASSWS装着の有無が筋活動にどのような影響を及ぼすかを、表面筋電図・歩行観察・感想から脳卒中患者1症例で検討した。
    【方法】
    対象は発症より約3ヶ月経過した脳梗塞右片麻痺患者、70歳代の女性であり下肢Brunnstrom recovery Stage4で歩行はT字杖・PAFO使用で見守りレベル。トレッドミル歩行での歩行条件は、ASSWS装着のあり、なし2種類とし、歩行速度は安定した歩容で可能な0.6km/hとした。筋電計はNORAXON社製MYOSYSTEM1400を用い、被検筋は両側の外側広筋・大腿二頭筋・腓腹筋外側頭・前脛骨筋の計8筋とした。その際、筋電図の測定と同時にビデオで歩行を撮影し、得られた画像より歩行観察を行った。また、各歩行条件におけるASSWS装着のあり、なしで歩行前後の感想を聴取した。得られた各筋の表面筋電図を整流化した後、4歩行周期中の立脚初期から終期までを抽出し、立脚期の平均積分値を算出し、ASSWS装着のあり、なしでの平均積分値を各筋別に比較した。対象に対し本検討の趣旨を説明し同意を得た上で検討を行った。
    【結果】
    立脚期においてASSWSを装着している右下肢では外側広筋・大腿二頭筋・腓腹筋外側頭に平均積分値の増加を認めた。歩行観察においてASSWS装着なしでは膝にロッキングを認めていたが、装着ありではスムーズな立脚初期から立脚中期への移行を認め、麻痺側立脚時間向上に伴う非麻痺側の歩幅向上も認めた。ASSWS装着ありのトレッドミル歩行後は装着なしと比較すると足を踏み込みやすく歩きやすいという感想が得られた。
    【考察】
    今回の結果より、トレッドミル歩行とASSWSを併用する事で立脚期での筋活動の平均積分値が増加し、特に外側広筋・大腿二頭筋に関しては平均積分値が向上しており大殿筋と共に股関節伸展の補助として働いている事が示唆された。また、ASSWS装着による満足感が得られている事から対象者、介助者共に負担が軽減され効率の良い歩行練習を実施できる事も有用と考えられる。
    【まとめ】
    トレッドミル歩行時にASSWSを使用する事で、ロッキングの抑制等立脚期における関節運動の正常化と共に、筋活動の増加が図れ、更に対象者の満足感も得られた事からその有用性が示された。
  • 園 英則, 上杉 睦, 筒井 麻理子, 入江 武志, 鈴木 伸生
    セッションID: 154
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
     透析患者に対する運動療法は運動耐用能,日常生活動作(ADL),代謝の改善に効果があると報告されている.しかし,現在の医療・保険制度では血液透析患者に対するリハビリは積極的に実施されないのが現状である. 近年,慢性腎不全患者に対する運動療法の効果は広く報告されているが,具体的な運動療法の検討についてはさらに検討が必要である.今回,血液透析患者に対する効果的な運動療法種目の検討として,マシントレーニングを実施し,その効果を検証したので報告する.
    【方法】
     当施設に入所中の15名(男性8名,女性7名,平均年齢78.2±8.4歳,平均身長156.9±8.9cm,平均体重49.3±8.2kg)の血液透析患者を対象とした.本研究は,善仁会横浜第一病院倫理委員会より承認を得ており,対象者には,本研究の概要を説明し,同意を得た上で行った.実施期間は3ヵ月間とし,マシントレーニング(OG技術研社製)4種類(レッグプレス,レッグエクステンション,ローイング,ヒップアブダクション)を週4回,非透析日に実施した.測定項目は、握力,膝伸展トルク,長座立位前屈,Functional reach test(FRT),Timed up and go test(TUG),最大歩行速度,開眼片足立ち時間の7項目で,開始時,1か月後,2ヶ月後,3ヶ月後間の時点で測定を行った.また,腎機能への影響をみるため血液データの経過を測定し比較した.各項目の前後の比較にはWilcoxonの符号付順位検定を用いた.
    【結果】
     開始時と1ヶ月後を比較すると,膝伸展トルクについては、運動開始時(139.0±59.4N),1か月後(152.3±56.3)と有意な改善を認めた。TUGについては運動開始時(27.7±7.1秒),1ヶ月後(16.1±11.4秒)と,有意な改善を認めた。
    【考察】
     膝伸展トルクとTUGの値が改善し,透析患者に対するマシントレーニングが効果的な運動療法であることが示唆された.慢性期の透析患者は,運動耐用能の低下,廃用症候群が生じやすいが,今回の結果では,研究開始後1か月の比較的短期間において,下肢筋力強化が生じている.その要因としては,短期間・低負荷の筋力トレーニングでも神経性の筋力増強は可能であるため,マシントレーニングの介入が、機能改善につながったと考える.
    【まとめ】
    近年,腎臓疾患は増加傾向にあり,腎臓リハの重要性は増すと予想される.今後は,運動耐用能,ADL,QOL,代謝の改善にも効果的な運動療法の実施方法や頻度について検証の必要がある.
  • 富田 博之, 土田 裕士, 横山 晋平, 渡辺 彩乃, 井田 真人, 桐山 功
    セッションID: 155
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
    大腿骨転子部骨折,頚部骨折は一般的には手術の対象となる事が多い.今回,透析患者が大腿骨転子部骨折を受傷し保存的に加療され,透析患者特有の合併症により全荷重時期及び在院日数が長期化し,難渋した症例について報告する. 尚,発表に際し本症例に主旨を説明し署名にて同意を得た.
    【症例紹介】
    70歳代女性,慢性腎不全により10年前から歩行自立にて外来血液透析を導入していた.左大腿骨転子部骨折を受傷され,Jensen分類はtypeⅡ、内科的疾患より全身状態不良,手術困難と判断され保存的に加療された.
    【経過】
    受傷後6週より,toe touchでの荷重開始となり当院へ転院.入院時画像所見より骨折再転位が生じており完全免荷でのリハビリ開始となった.主に廃用症候群の予防と片脚での日常生活活動練習,骨折再転位予防に重点をおいた.部分荷重開始時期には歩行練習に向けて補高靴の処方や病棟でのトイレ動作練習など立位関連動作の機会を増やした.しかし本人の骨折再転位リスクの認識の低さや,合併症の影響などから全荷重までの時期が長期化した.
    【考察】
    白水らの報告によると,大腿骨転子部骨折の保存療法の歩行能力に関して,病前に歩行可能であったものが,退院時にも歩行可能であった例は全体の64%,平均在院日数は42.9日であったとしており,早期リハビリの重要性を示唆している. また大腿骨頚部骨折術後の透析患者と非透析患者の歩行自立度や在院日数に有意差はなかったという報告もある.しかし保存療法の実際については,早期リハビリに重点をおいたものが散見されるが,実際には骨癒合まで長時間を要し活動性低下から廃用症候群を合併し,骨癒合期には歩行能力が不十分な例もあった.本症例においても,大腿骨転子部骨折に対しては骨転位を認め手術適応であったが,内科的リスクが高く保存療法を選択された.骨折部の固定が得られにくく,慢性腎不全の合併頻度の高い腎性骨異栄養症により骨癒合遅延が影響し,全荷重時期及び在院日数が長期化したといえる.完全免荷の時期が長期化したため,本人のモチベーションの維持や透析日の易疲労性があり,積極的なリハビリ介入は困難な事もあったが,立位・歩行練習に繋げるための段階的アプローチを行ってきた.
    【まとめ】
    透析患者は多様な合併症を呈し大腿骨転子部骨折の保存療法においても再転位のリスクから慎重になりやすいが,全身状態を考慮した上で, 医師・看護師とのチームアプローチを図り,早期より積極的な運動処方を行うよう努めたい.
  • 實 結樹, 山口 賢一郎, 嘉藤 啓輔, 西尾 匡紀, 山名 智也, 成塚 直倫
    セッションID: 156
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    肺炎は本邦における死亡原因の第4位であり,なかでも誤嚥性肺炎(以下,AP) は脳血管障害や認知症を含む併存疾患が多く,ADLの低下した症例に多いと報告されている.そのため,たとえ肺炎が治癒しても,肺炎を起因とする二次的な身体機能低下の影響が著しく,ADLの低下を避けられない症例も少なくない.そこで本研究の目的は,後方視的な臨床データの収集・分析により,AP患者の離床の特徴・傾向性を明らかにし,離床に関わる遅延因子を検証することである.
    【方法】
    対象は,平成23年7月から12月までの間にA病院内科病棟にAPの診断で入院加療を要し,理学療法介入があった28症例(うち男性16名,年齢81.9±9.1歳)とした.測定項目は,基本情報(年齢,性別,身長,体重,BMI),Barthel Index(BI),Pneumonia Severity Index(以下,PSI)による肺炎の重症度,嚥下機能・食事内容(食事自立度,食事摂取方法,食事形態),経過期間(安静臥床期間,端座開始期間,車椅子乗車開始期間)とした.また,理学療法開始から車椅子乗車獲得までの期間を介入期間とし,理学療法介入による離床の特徴や遅延因子を統計学的に抽出した.統計には,SPSS16.0を用いて,介入期間と各測定項目との相関関係(Pearson・Spearmanの順位相関係数)を求めた.また,介入期間の中央値により早期離床群・遅延群とに分け,群間比較(Mann-WhitneyのU検定,X2独立性の検定)を行った.いずれも有意水準は5%(p<0.05)とした.
    倫理的配慮に関しては,ヘルシンキ宣言に則り当院倫理委員会の承認を得た.
    【結果】
    対象者の介入期間は6.2±9.9日,中央値は3日であった.介入期間と各測定項目との検定では,介入時食事摂取方法(r=0.58,p<0.05),介入時食形態(r=0.6,p<0.01),端座位開始時期(r=0.56,p<0.01)において,有意な正の相関が示された.また,早期離床群,遅延群との比較では,認知症の有無が独立した因子として,有意に抽出された.(p<0.01,オッズ比2.5(1.3-4.6))
    【考察】
    竹中らによると,AP患者の特徴として,認知症の合併や嚥下機能低下を述べており,本研究においてもこれを支持する結果となった.特に,介入時の摂取方法や食形態が介入期間と相関しており,嚥下機能の低下している症例に対する理学療法介入による離床の重要性が示唆された.また,認知症の有無を検証することで,離床の予後予測に有用だと考える.今後は,嚥下機能・認知症とも詳細な尺度を用いて,介入時期や方法を含めた検証が必要であり,摂食機能療法を含めた,早期離床への取り組みが課題である.
    【まとめ】
    介入期間と介入時の嚥下機能及び認知症の有無が相関しており,AP患者の離床の特徴が示唆された.
  • 秋山 響子, 後藤 吾郎, 田中 直樹, 金森 毅繁, 斉藤 秀之, 長澤 俊郎, 小関 迪
    セッションID: 157
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    臍帯血移植を行った患者に対し,血液所見から理学療法中止基準に該当する時期に,医師の指示のもと無菌室で移植前後の理学療法を実施した.全身状態に留意し理学療法を継続したこと,退院調整を早期から行えたことが,医師が退院許可した時期に遅れることなく自宅退院となったので,若干の考察を加え報告する.
    【症例】
    急性骨髄性白血病を発症し,臍帯血移植目的で当院に入院した50歳代女性である.入院前ADLは全自立,主婦業の他に造園業も営み全般的に活動的であった.入院時血液所見は,ヘモグロビン13.1g/dl,血小板267,000/μl白血球3,900/μlであった.今回の報告についてご本人に説明し同意を得た.
    【初期評価】
    意識清明,コミュニケーションは良好,Performance Status(以下PS)はグレード1,Karnofsky Performance Status(以下KPS)は90%であった.下肢周径は下腿最大が右32.0cm・左32.5cm,膝蓋骨上10cmが右41.0cm・左39.0cm,両下肢筋力はMMT5,基本動作は全て可能,ADLは入浴以外は自立で,FIMは108点であった.
    【経過】
    移植9日前に入院,無菌室へ入室した.移植8日前より前処置が開始され,同日より理学療法を開始した.移植10日後に白血球0/μlとなり,同時期に全身発赤や発熱等の副作用が出現し臥床傾向となったが,全身状態に留意し理学療法を継続した.移植30日後,白血球数は改善したが赤血球・血小板は1日毎に輸血が必要な状態であった.発熱や全身倦怠感により離床に消極的だったが,足浴やリラクゼーションをきっかけとして座位時間の延長を図った.移植64日後より立位での運動を開始し,移植72日後に医師より退院の許可があり,移植77日後に自宅退院となった.
    【最終評価 移植76日後】
    PSはグレード2,KPSは70%であり,下肢周径は下腿最大が右28.0cm・左28.5cm,膝蓋骨上が10cmは右37.0cm・左37.5cm,両下肢筋力はMMT3-4,基本動作は初回評価と変化なく,FIMは113点となった.
    【考察】
    臍帯血移植患者は,無菌室という特異的な環境の中で全身状態の悪化や血液所見の低下は避けられず,積極的な理学療法を実施することは困難と言われている.本症例も移植後の活動量低下が著しく,筋力やADL能力の低下を認めた.中止基準に該当する時期に血液所見を重視するあまり理学療法を中止すると,不要な廃用を招き,入院期間の延長や退院時のADL能力低下がさらに進行していたと考える.しかし,医師と相談しながら病態に合わせた理学療法プログラムを設定し,血液所見の改善に合わせて離床や活動量維持・向上を意識付けたこと,早期より退院調整が可能になったことが,医師が許可した時期に遅れることなく自宅退院へつながったと考える.
  • 松井 裕人, 前野 里恵, 石田 由佳, 長谷川 哲也
    セッションID: 158
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
    自己免疫性脊髄炎によるTh5~6レベルの完全対麻痺を既往に持ち,右下葉に無気肺を呈した症例に対して呼吸理学療法を実施し,無気肺の改善,酸素療法からの離脱に至った.さらに,身体機能・日常生活を考慮し喀痰の喀出方法の獲得を目標に介入し,病前の生活の維持に寄与したと考えられたので報告する.
    【症例紹介】
    60歳代の女性.感冒様症状の悪化に伴い当院受診し,肺炎の診断にて入院となる.胸部CTにて右下葉に無気肺を認めた.入院前の生活は,ベッドと車いすとの併用で,ADLは自立され,ガーデニングや夫との旅行などを楽しまれていた.また,日常的に体位交換は少なかった.理学療法(以下PT)初期評価は,意思疎通は良好,呼吸状態は酸素療法2~4L(カニューレ),SpO2は95%前後で胸式呼吸優位であった.腹筋群の筋収縮は認めなかった.聴診では全肺野にラ音を認め,触診では前胸部にラトリングを認めた.尚,本症例には書面にて発表の趣旨を説明し同意を得た.
    【経過】
    3病日,気管支鏡が行われたが,無気肺の改善には至らなかった.4病日,酸素療法からの離脱を目標にPTが開始され,体位排痰・用手的排痰手技を実施した.喀痰量が多く,酸素化能がなかなか改善しなかった.7病日,在宅酸素療法の可能性について説明を受け,悲観的な発言が多くなった.しかしPTではさらに,看護と協力し,積極的に体位排痰を行い,自己による体位交換練習や咳嗽練習を追加した.徐々に酸素化能は改善し,前向きな発言が認められるようになった.それに伴い10病日,酸素療法から離脱された.胸部X線では無気肺の改善を認めた.この頃より,方針を喀痰の喀出方法の獲得に変更した.この際,病前の生活や身体機能を考慮し,自宅環境を踏まえた設定で腹臥位までの体位交換や,上肢を使用した咳嗽などの実践指導を行った.18病日,自己による体位交換,咳嗽を獲得し自宅退院に至った.
    【考察】
    無気肺の改善には気道内分泌物の除去が最優先であると考え,体位排痰・用手的排痰手技を実施した.これらは重力の効果,末梢気道の換気改善,呼気流速を高めることで効果的に排痰を促すことに寄与したと考えられた.酸素療法離脱後は,喀痰の喀出能力が重要になると考えられた.しかし腹部筋群の麻痺により,十分な強制呼気ができないこと,入院時に既に無気肺を生じていたこと,さらに日常的に自宅では背臥位と側臥位のみであったことなどを考慮し,自己による腹臥位までの体位管理と,上肢の利用による咳嗽の獲得が重要と考えられた.今回,酸素療法からの離脱,喀痰の喀出方法の獲得に至ったことは,病前の生活の維持に寄与すると考えられた.
  • 呉 和英, 佐藤 博昭, 渡辺 彩季, 一ノ宮 悟史, 関谷 恵偉子, 野崎 琴美, 田口 靖, 岡崎 大征, 池澤 里香
    セッションID: 159
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    頸髄損傷急性期においては呼吸筋麻痺を呈し,副交感神経優位となり気道分泌物亢進,気道狭搾を生じ,換気障害を伴うことから,呼吸管理に難渋することが多い.今回,受傷約3週間後に急性呼吸不全を呈した頸髄損傷者の呼吸理学療法(CPT)介入方法を検討し,実施に至ったので報告する. 
    【方法】
    カルテより後方視的に検討.発表にあたり当院倫理委員会にて承認を得た.
    【経過】
    70歳代男性.傷病名は第6頚椎脱臼骨折,頸髄損傷.自宅の柿木から転落し受傷.既往歴なし.理学療法(PT)評価にて意識レベル清明.会話は概ね良好.聴診にて両側肺雑音なし.胸部レントゲン上,異常所見認めない.触診では腹筋,肋間筋の収縮は認めない.運動機能は麻痺レベルZancolli分類C5B,感覚は胸骨下端まで残存.4病日にPT開始.7病日に前方椎体固定術施行.手術後SpO2低下認め酸素療法(鼻カヌラ2L)開始.9病日にPT再開.意識清明,運動機能は手術前と変化なし.自己喀出能力低下ありCPT開始.PT時以外での体位管理を看護師(Ns)と検討し,日中ファーラー位と完全側臥位を午前・午後で施行.24病日に酸素化不良の為,気管内挿管行い人工呼吸器管理となる.胸部レントゲン上,左肺透過性低下と胸水貯留,左下葉無気肺を認めた.聴診にて左肺野と両側背側部に呼吸音低下を認めた.血液データはpH7.321、PCO293.3mmHg、PO248.3mmHg.病棟での体位管理を前傾側臥位と腹臥位へ変更,複数回施行.方法を図示し,Nsと共に手技を統一.28病日に胸部レントゲン上,無気肺の改善.聴診にて呼吸音の改善を認めた.血液データはpH7.441,PCO255.6mmHg,PO2144.1mmHg.PTでは胸郭可動域練習や腹臥位療法を行い,9病日より車椅子乗車練習,21病日より斜面台開始.
    【考察】
    本症例は受傷約3週間後に急性呼吸不全を認めた.問題点は1)予防的な介入では急性呼吸不全を防げなかったこと、2)起立性低血圧から離床に時間を要したことが挙げられた.急性増悪前後の介入方法の変化は,病棟での体位(側臥位から腹臥位)と頻度(午前・午後2回から複数回)である.一般的に呼吸器合併症の予防として腹臥位が行われているが,当院においてNsが一定時間同一患者を管理することは困難な為,安全性の問題から完全側臥位を予防的介入として施行.増悪後はNsと相談し治療的介入として腹臥位の導入が可能となった.頻度において,複数回の方が有効との報告あり,Nsと協力することで複数回の体位管理が可能となった.これらが無気肺を改善する一要因になったと考える.
    【まとめ】
    今後,呼吸器合併症を予防するためにもCPTの手技や頻度等,症例の状態に合わせた介入方法を検討していく必要がある.
  • 小川 順也, 寄本 恵輔, 立石 貴之, 丸山 昭彦, 前野 崇, 三橋 佳奈, 小林 庸子, 平崎 重雄
    セッションID: 160
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    本研究の目的は,不随意運動の多い長期臥床患者のエネルギー消費量について、栄養管理という視点から理学療法アプローチを考えることにある.
    【対象】
    60歳代男性(身長170cm,体重41kg,BMI:14.2)、発症12年が経過したハンチントン舞踏病患者である。ShoulsonとFahn分類:stageⅤ,modified rankin scale:5であり、胃瘻による栄養管理で在宅療養を行っていた。経過として,誤讌性肺炎からARDSを併発,また、イレウスを合併した。人工呼吸療法、薬物加療にてARDSは緩解、胃空腸吻合術施行によりイレウスは解除され、胃瘻及び IVHポートによる栄養管理となった.長期臥床となった一方で不髄意運動が強く、低栄養が続き、仙骨部に褥瘡を認めた。 本研究にあたり,包括的同意書及び口頭にて家族の了解を得て実施した.
    【方法】
    まず、Harris-Benedict(以下HB)による基礎代謝(BEE)の予測値を算出、次に呼気ガス代謝モニターはメータマックス3B(ドイツコールテックス社)(以下MM3B)とMETA VINE(VINE社)(以下MV)を使用し実測値を測定する。HB、MM3B、MVを比較するため検討項目として、エネルギー消費量(EE),呼吸商(RER),METS,呼吸数(RR)とした.また、経過的な検討項目を後方視的調査として、診療録より本症例の実際の摂取カロリー、血液検査(TP,ALB,Hb,CRP)、理学療法プログラムの経過について調査した.
    【結果】
    HBによるBEEは1054.5kcalであり,MM3B,MVはそれぞれ,2435kcal,2400kcalであった.MM3Bのその他の項目結果として,RER:1.4,METS:2.3,RR:25.4であった.また,MM3B測定中の不随意運動が著明であった時間帯(10分)のEEは平均2794kcalである.臥床当初の摂取カロリーは1120kcalで,血液検査はTP:5.1,ALB:2.7,Hb:8.5,CRP:14.58であった.呼気ガス分析の結果より医師にカロリー不足の状況を伝えた結果,退院時の摂取カロリーは1710kcalとなった.また,血液検査はTP:6.8,ALB:3.1,Hb:11.8,CRP:0.17である.理学療法プログラムは,1日3時間の車椅子座位,端座位,立位保持訓練,歩行器歩行など在宅に向けたプログラムである.最終的に,自宅療養時と同様に歩行器歩行可能となり自宅退院となった.
    【考察】
    通常寝たきりであればエネルギー消費量は低下していると考えられるが,本症例は呼気ガス分析によりEEが予測値を上回っていた.呼気ガス分析も含めた身体•栄養状態の評価のもと,理学療法プログラムを進めたことが自宅退院し歩行器歩行を可能にしたと考える.
    【まとめ】
    今回の症例を通じて,栄養科だけでなく,医師,リハビリテーションスタッフ,看護部などチーム全体による栄養管理の重要性を実感した.
  • 池上 直宏
    セッションID: 161
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    パーキンソン病の患者において、すくみ足は転倒の危険因子とされている。今回、方向転換時に著明なすくみ足を呈し転倒を繰り返す患者を経験し、即時的効果のある介入方法について検討する機会を得た。その過程で、足関節矯正起立板(以下、起立板)を用いた2種類の介入について比較検討し、いくつかの知見を得たのでここに報告する。
    【対象】
    74歳、女性、Hoehn-Yahr重症度分類にて重症度Ⅲ。UPDRS34点。パーキンソン病の罹病期間は約6年であった。外来にて週2回の頻度でリハビリテーションを行っている。本研究の趣旨については事前に説明を行い、同意を得られている。
    【方法】
    研究デザインはシングルケースデザイン(操作交代デザイン)を用いた。独立変数は大槻らの研究を参考にし、起立板20°上で立位保持1分(傾斜板から臀部を離し、手支持なし)を介入A、起立板20°上で立位保持1分(傾斜板によりかかり、手支持あり)を介入Bとし、毎回の運動療法後にランダムに交代して行った。両者とも、膝は伸展位にて行った。従属変数は、立位にてその場で360°回転するのに要する時間(以下、立位回転速度)とした。各期の介入A(または介入B)の前後に測定、その差を改善度とし、介入Aと介入Bの効果を比較検討した。薬の影響を考慮し、服薬時間が一定であることを確認の上、治療と測定は毎回同一の時間帯で行った。
    【結果】
    介入Aでは立位回転速度に一定の改善がみられた。一方、介入Bではごくわずかな改善、または遅延がみられた。
    【考察とまとめ】
    対象において、起立板上での立位保持は、すくみ足に対して即時的効果があることが示された。一方で、傾斜板や手支持を利用した場合、その効果は薄れることが示された。これらの結果から、下腿三頭筋の伸張に加え、足関節を利用した前方への重心移動と股関節・体幹伸筋群を利用した姿勢保持が、すくみ足の改善に関与したと考えられる。しかし、本研究では改善の要因を明確にすることはできなかった。また、立位回転速度は測定方法の信頼性や妥当性についての検討が必要であることから、今後の課題としたい。
  • 勝山 志野, 代 美穂, 臼田 由美子, 田島 弘, 南 侑希, 松下 郁江, 鮫島 希代子, 臼田 滋
    セッションID: 162
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    染色体異常症の中でダウン症候群は一番多く1,000人に1人の頻度で、群馬県内における年間出生は20前後と推定される。当院ではダウン症候群児に対して理学療法士、作業療法士、言語聴覚士による個別リハビリテーションとダウン症候群児の家族に対して多職種によるグループ診療を行っている。当院におけるダウン症候群児に対する発達支援の取り組みについて報告する。
    【方法】
    平成19年4月から平成23年9月までに理学療法の依頼があったダウン症候群児を対象に、カルテから情報収集し当院でのダウン症候群児に対する個別リハビリテーションについてまとめた。また、平成21年度より2歳以下のダウン症候群児の家族を対象に、障害の理解と受容をサポートする目的でグループ診療を開始した。平成21年度から23年度までのグループ診療の活動実績を集計した。対象者家族には個人情報を提示しないことを説明し同意を得た。
    【結果】
    理学療法の依頼があった86名のダウン症候群児に対して個別で運動発達アプローチを行った。86名中、64名(74%)に先天性心疾患があった。また、理学療法開始月齢は5~6ヶ月が多く、開始時の運動発達レベルは未定頚と、早期の段階から理学療法士が介入した。運動獲得月齢は平均で、心疾患が無い群は定頚6.6ヶ月、座位13.2ヶ月、四つ這い移動16.1ヶ月、独歩25.1ヶ月で、心疾患が有る群は定頚7.8ヶ月、座位14.7ヶ月、四つ這い移動20.4ヶ月、独歩27.8ヶ月で、統計学的には有意差は認めなかった。さらに、全体でいざり移動を経て独歩を獲得した例は無かった。
    グループ診療は遺伝科医師、理学療法士、言語聴覚士、小児歯科医師、栄養士による講義と家族のフリートークを主体とし年間2コース(初回コース年間3回、卒業コース年間1回)開催した。参加家族は、平成21年度は延べ31組、平成22年度は延べ60組、平成23年度は延べ70組と増加傾向であった。参加家族からは継続開催の要望が強かった。
    【考察】
    先天性心疾患が有ると運動発達が遅れる傾向にあった。独歩を獲得した症例全ての発達過程で、ダウン症候群児に特徴的ないざり移動を経ずに、四つ這い移動を経ていた。これは、介入初期からしゃがみ位、四つ這い、横座り、起き上がりなどの動作と運動を取り入れた効果が一因と考えられる。グループ診療では、早期に発達に関する知識を家族に提供し、障害に対する正しい理解と受容を促し、積極的な治療、療育への参加につなげている。
    【まとめ】
    ダウン症候群児に対する発達支援は、個別リハビリテーションとグループ診療それぞれの利点を生かした発達支援が重要である。
  • 楠本 泰士
    セッションID: 163
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    脳性麻痺患者(以下CP患者)において最も頻発する2次障害は頚髄症であり、その症状は感覚障害や運動麻痺など様々である。頚髄症の治療の1つに椎弓拡大術や椎体固定術などの整形外科手術があり、この前段階として頚部筋解離術がある。頚部筋解離術後に低下した運動機能を再獲得するCPの症例や知覚障害が改善する症例を多く経験する。しかし、頚部筋解離術後と運動機能・知覚障害がどのように関係しているかは不明である。そこで本研究の目的はCP患者において頚部筋解離術後の運動機能・知覚障害変化の特徴を明らかにすることとした。
    【方法】
    対象は2007年4月から2011年12月の間に当院で頚部筋解離術を施行した全71例中、過去1年間に整形外科手術の既往のないアテトーゼ型・混合型CP28名 (男性14例、女性14例、平均年齢45.2[27-58]歳、アテトーゼ型12例、混合型16例)とした。対象を脊髄症状が主であるmyelopathy群(以下M群、13例)と神経根症状が主であるradiculopathy群(以下R群、15例)にわけ、手術記録やカルテより後方視的に術前後の状態を日本整形外科学会頚髄症治療成績判定基準(以下、JOA スコア)にて下肢運動機能、上肢・体幹・下肢知覚機能の4項目を調査した。下肢運動機能は過去に獲得した最大の下肢運動機能(以下最大の運動機能)・術前・術後の運動機能の3種を調査し、知覚機能は術前後の状態を調査した。平均経過観察期間は114[46-389]日だった。2群間の各項目を一元配置分散分析および多重比較検定にて検討した。統計処理にはSPSS社製PASW Statistics 19.0を使用し、有意水準を5%とした。なお、全例で同意を得てリハビリテーションを実施し、倫理的配慮に基づきデータを取り扱った。
    【結果】
    M群において最大の運動機能と比べ術前の運動機能が有意に低下していた。両群で上肢知覚機能が有意に改善し、下肢知覚機能に有意差はなかった。体幹知覚機能はM群のみ術後有意に改善した(p<.05)。
    【考察】
    M群において最大の運動機能と比べ術前の運動機能が低下していたことより、M群の方が頚髄症が進行しておりR群と比べ運動機能の悪化が重度だったといえる。頚部筋解離術の効果は過度な筋緊張による圧迫の軽減と不随意運動の減少である。M群では体幹の知覚障害も同様に痛みやしびれなどの脊髄症状が出現していたが頚部筋解離術により症状が改善したといえる。
    【まとめ】
    両群で上肢知覚機能が改善したことから頚部筋解離術は上肢知覚障害により有効な可能性が示唆された。下肢運動機能・知覚機能が術後に悪化した例はなく、全例で症状は維持・向上していたが統計的な有意差はみられなかった。今後は歩行機能など質的な評価が必要であると思われる。
  • 芝崎 伸彦
    セッションID: 164
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    筋萎縮性側索硬化症(以下:ALS)は進行すると呼吸障害のため死に至るが、現在では人工呼吸器の装着により長期療養が可能になった。しかし、人工呼吸器を装着しても全身の筋萎縮は進みコミュニケーションが困難となるケースが存在する。
    今回、人工呼吸器装着後にALSが進行し開眼不全を呈した一症例に対し、前頭部のマッサージを行い、改善がみられるかを検討した。
    【方法】
    本研究は対象者また家族に対しヘルシンキ宣言に基づき研究の趣旨と内容を説明し同意を得ている。
    対象は70歳代の女性1名、ALSを発症し気切・人工呼吸器管理を経て計5年が経過している。症例には上眼瞼と眼球以外に随意的に運動を行える箇所はなく、情報伝達手段として視線による直接選択方式の五十音表透明文字盤(以下:透明文字盤)を利用している。主訴は「話をしたい」とのこと。コミュニケーション手段として視線を用いるが、上眼瞼の挙上が行いにくくなっている(以下:開眼不全)。開眼不全ため視線が読み取りにくく、介助者に患者の発する情報が伝わりにくくなっている。
    方法として前額部のマッサージ(軽擦法また揉捻法)を(前頭筋の走行に垂直また平行に)行った。施行時間は15分。効果判定はマッサージ実施直前および直後に測定し比較を行った。測定は最大努力で開眼させ、下眼瞼から上眼瞼の直径の最大値を測った。治療と効果判定の頻度は1日1回のペースで週5回、期間は2週間にわたり計10回施行した。
    【結果】
    結果としてフェイシャルマッサージ実施前の開眼は4.3 ±0.67(単位:mm、平均±標準偏差)、フェイシャルマッサージ実施後の開眼は6.3 ±0.67で、両結果は有意差(p <0.01)がみらた。開眼不全のある本症例に対し、フェイシャルマッサージを施行すると即時的に眼を大きく開けられるようになるという結果を得た。
    【考察】
    フェイシャルマッサージを行うことで、一時的にでも開眼不全が改善する症例が存在する。つまり、開眼不全を問題とするALS患者様が一時的にでも効果を求める場合、フェイシャルマッサージを試してみる価値があるといえる。
    また透明文字盤は文字を伝える最後の手段となってしまうケースを多く経験する。一人でも多くのコミュニケーションを長期的、また円滑にしていくための喚起となれば幸いである。
    【まとめ】
    開眼不全のあるALS患者にマッサージを施行し効果が得られ、コミュニケーションの円滑となった症例を紹介した。
  • 澤 和子
    セッションID: 165
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    病棟でpositioningが難しい患者に対して、その改善のための指導を依頼されることがある。そういった患者は看護師により基本的なpositioningがなされているにもかかわらず、ベッド上で適切な姿勢でいられないことが多い。そこで今回は、ベッド上背臥位、側臥位のpositioningの改善ために必要な内容を考察することを目的として、検討を行った。
    【方法】
    対象を寝返り、起き上がり動作困難な重症患者5症例とし、次のように仮説をたて、以下1-5の手順で検討を行った。
    仮説「適切な姿勢調節能力を獲得できていれば、看護師による基本的なpositioningに患者は適応し、安定して動きやすい状態でいられる。」
    1.病棟でのベッド上姿勢を写真に記録
    2.数日間姿勢調節の改善を目的とした治療介入 (PT.OT.ST)
    3.病棟でのベッド上姿勢を写真に記録
    4.治療介入前後の写真の比較により、効果を判定
    5.結果の考察
    尚、1、3の病棟でのベッド上姿勢は、治療介入直後のものではなく、日常の看護師によるpositioningを写真に記録した。PT、OT、STの治療介入の効果を明確にするために、検討期間中は看護師に対してpositioningの指導は行っていない。写真の記録については、御本人、御家族に口頭にて説明、了承を得ている。
    【結果】
    5症例全ておいて、positioningは改善された。よって、仮説は正しかったと言える。
    【考察】
    患者の姿勢は、本人の姿勢調節の能力によるものと、環境からの両方からの影響がある。患者の姿勢調節の問題を明らかにし、それを改善するための適切な治療介入を行うことにより、患者は環境によく適応できるようになる。また看護師による基本動作の介助やpositioningによく適応できるようになる。これは、病棟での日常生活動作の改善やpositioningの改善につながる。このことにより、positioningの改善のためには、セラピストの治療介入により、患者の姿勢調節能力の改善が得られることが重要であると考える。他方で、環境の要因も患者の姿勢には大きく影響する。今回の良好な結果が得られた背景には当院では日頃から看護師とのpositioningに対する意識の共有が良く得られており、看護師が患者の変化に適切に応答してpositioningを細かく変更してくれたことも影響している。セラピストや看護師が姿勢運動に対して共通意識を持ち、患者の様子を敏感にとらえ、適宜細やかなpositioningの変更ができることはとても大切なことである。
    【まとめ】
    positioning の改善のためには、セラピストの治療介入により、患者の姿勢調節能力の改善が得られることが重要である。また、看護師の協力も重要な要因である。
  • 竹内 伸行, 桑原 岳哉, 臼田 滋
    セッションID: 166
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    痙縮評価指標のModified Ashworth Scale(MAS)は痙縮の程度との関連性の低さが指摘されている。本研究目的はMASの基準関連妥当性を明らかにすることである。
    【方法】
    同意を得た脳血管障害患者74人(年齢:77.5±10.0歳,性別:男31人/女43人,診断名:脳梗塞56人/脳出血12人/くも膜下出血6人,麻痺側:右32人/左42人,罹患期間:1084.2±2103.2日)を対象とし本庄総合病院倫理委員会の承認を得て実施した。麻痺側足関節底屈筋の筋緊張をMAS,Ankle Plantar Flexors Tone ScaleのStretch Reflex(SR),Middle Range Resistance(MR),Finale Range Resistance(FR),クローヌス持続時間(クローヌス)[秒],他動的背屈抵抗トルク(トルク)を用いて,膝伸展位(伸展位)と90度屈曲位(屈曲位)で測定した。MASは0~4(1+を含み6段階),APTSは各0~4(5段階)で,高値なほど筋緊張亢進を示す。SRとクローヌスは主に筋緊張の中枢性要素,MRとFR,トルクは主に末梢性要素を評価する。理学療法士1人が測定し1人が補助した。SRとクローヌスは”できるだけ速く”,MRとFR,トルクは”できるだけゆっくり”,MASは辻ら(2002)の方法を参考に”ゆっくり(全可動域を1秒)”筋を伸張して測定した。クローヌスは足クローヌス持続時間をストップウォッチで計測し,トルクは徒手筋力計のパッド中心を足底の第2中足骨骨頭に当て他動的に背屈し,最大背屈に必要な最小の力[N]を測り,内果下端から第2中足骨骨頭間の距離[m]を乗じて求めた。MASと各指標間のスピアマン順位相関係数を求め統計解析した(有意水準5%未満)。
    【結果(伸展位/屈曲位)】
    MASは1.9±1.1/1.3±1.0,SRは1.2±1.3/1.4±1.4,MRは1.4±0.9/0.8±0.8,FRは2.0±0.9/1.5±0.9,クローヌスは2.6±6.7/3.6±8.1秒,トルクは6.4±1.8/5.9±1.6Nmであった。MASとの相関係数は中枢性要素を示すSRが0.26/0.41,クローヌスが0.14/0.34,末梢性要素を示すMRが0.59/0.61,FRが0.67/0.68,抵抗トルクが0.55/0.51であった(伸展位クローヌスはp>0.05,伸展位SRはp<0.05,他は全てp<0.01)。
    【考察】
    痙縮は伸張反射の持続的亢進状態(Lance,1980)である。伸展位のMASとクローヌスは相関を認めず,屈曲位のMASとクローヌス,両肢位のMASとSRの間に弱い~中等度の相関を認めた。また両肢位のMASとトルク,MR,FRの間に中等度の相関を認めた。MASは中枢性要素とある程度の関連性を示すが末梢性要素をより強く反映すると考えられた。痙縮評価の基準関連妥当性は低いと示唆され,Bakheit ら(2003),関(2001)の報告を支持する結果であった。
    【まとめ】
    MASは痙縮というよりは主に筋緊張の末梢性要素を評価すると示唆された。
  • 杉本 諭, 大隈 統, 古山 つや子, 小島 慎一郎, 佐久間 博子, 町田 明子, 小宮山 隼也, 谷本 幸恵, 尾澤 勇海, 中城 美香 ...
    セッションID: 167
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    Trail Making Test(以下TMT)は,注意機能の検査の1つであり,本邦では鹿島らが作成したTMT日本語版(以下TMT-S)が広く普及している.PartAは25個の数字,PartBは13個の数字と12個の平仮名で構成され,鹿島らの健常人を対象とした研究では,65歳以上の者は64歳以下の者に比べ,PartAとPartBの所要時間は長くなるが,TMT比(PartB/PartA)は年齢に関係せず,1.3~1.4程度であると報告されている.しかし65歳以上の者の平均年齢は70.2歳であり,前期高齢者を対象としていた.またTMTは直径1cmの円の中に文字が書かれており,「文字が小さくて見えにくい」との声を臨床でも耳にすることがある.そこで我々は,文字を大きくし,文字数を少なくしたTMT簡易版(以下TMT-M)を作成し,TMT-Sとの相関および各項目の成績について比較,検討した.
    【方法】
    当院および関連の介護老人保険施設で理学療法を実施している高齢者のうち,明らかな高次脳機能障害を有さない30名(平均年齢80.9歳:高齢群),当院職員18名(平均年齢28.2歳:若年群)を対象とした.高齢群のMMSEは28.6点であった.TMT-MはA4用紙を横向きに使用し,直径2cmの円の中に文字を書き,文字数は20個とした.PartAは数字,PartBは数字と平仮名で作成した.施行はTMT-MのPartA(以下MA),PartB(以下MB),TMT-SのPartA(以下SA),PartB(以下SB)の順序で行った.分析は,まずTMT-MとTMT-Sの関連について,ピアソンの相関係数の検定により相関分析を行い,次に各項目およびTMT比(以下M-B/A,S-B/A)について,TMT-MとTMT-Sの違いを対応のあるt検定により各群で比較した.統計解析にはSPSSver13.0を用い,有意水準は5%とした.なお対象者には本研究の趣旨を説明し,書面にて同意を得た.
    【結果】
    相関分析の結果,MAとSAではr=0.883,MBとSBではr=0.849の高い相関が見られた.高齢群の各項目の成績は,MA94.7秒,MB193.7秒,SA175.2秒,SB327.1秒と,TMT-MがTMT-Sよりも時間が短かったが,TMT比には差が見られず,M-B/A2.07,S-B/A1.88と,鹿島らの報告よりも長かった.若年群でもTMT-Mのほうが時間が短かったが,TMT比はM-B/A1.36,S-B/A1.27と鹿島らの報告とほぼ一致していた.
    【考察】
    以上の結果より,高齢群ではPartBで特に必要とされる配分性の注意が低下していると推察された.また困難な課題を5分以上行うことは,精神的にも負担が大きく、課題に対する意欲の低下にもつながると考えられる.TMT-Mは後期高齢者であっても2~3分で施行可能であり,TMT-Sとの相関も高いことから,臨床応用の可能性が示唆された.
  • 長田 智絵美, 中島 はる香, 柿崎 亜純, 高橋 幸司, 須戸 絵里香, 小竹 康一, 大木 雄一
    セッションID: 168
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
     日常生活動作の中で,排泄動作の自立度は脳卒中片麻痺者の自宅退院に影響する一要因であると言われている.本研究は,排泄時下衣更衣動作能力(以下,下衣更衣動作)に影響を与える要因を明らかにすることである.
    【方法】
     対象は平成23年11月から平成24年2月の期間に当院回復期リハビリテーション病棟へ入院されていた初発脳卒中片麻痺者37名(男性28名,女性9名).平均年齢および標準偏差は75.3±9.7歳であった.検査内容が理解できない者,検査遂行を阻害するような重篤な整形疾患を有する者は除外した.尚,対象者には本研究の目的を十分に説明し同意を得た上で検査を実施した.方法は立位での下衣更衣動作を評価した.衣服を下ろす基準は膝窩まで下ろすこととし,衣服を上げる基準は腸骨稜まで上げることとした.動作自立度の判定として動作が介助せずに行えるものを自立群,手を触れる介助が必要なものを非自立群と分類した. 調査項目は,年齢,性別,体重,Functional Assessment for Control of Trunk (以下,FACT),上田式12段階片麻痺機能テスト(以下,麻痺側下肢グレード),Functional Balance Scale(以下,FBS),麻痺側および非麻痺側下肢伸展筋力体重比(最大トルク値を体重で除した値を採用.以下,下肢伸展筋力),Mini Mental State Examination(以下,MMSE)とした.統計処理は,FACT,麻痺側下肢グレード,FBS,麻痺側及び非麻痺側下肢伸展筋力,MMSEについて下衣更衣動作自立群,非自立群の両群間の比較に対応のないt検定を用いた.次に下衣更衣動作自立群,非自立群を従属変数,t検定において両群間に有意差が得られたものを独立変数とし,多重ロジスティック回帰分析を行った.有意水準は5%未満とした.
    【結果】
     t検定の結果,FACT,麻痺側下肢グレード,FBSで両群間に有意差が認められた. FACT,麻痺側下肢グレード,FBSを独立変数とし多重ロジスティック回帰分析を行った結果,FBSが有意な変数として抽出された.
    【考察】
     下衣更衣動作は支持基底面を変化させない中で,安定した上下の重心移動を伴う立位バランスが要求される.多重ロジスティック回帰分析でFBSのみが抽出されたことは,下衣更衣動作に立位バランスが重要である事を示唆しているものと考える.
    【まとめ】
     下衣更衣動作の獲得には立位バランス能力を高めることが必要であると考える.
  • 山口 英典, 末永 達也, 中村 学, 伊藤 貴史
    セッションID: 169
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
     基本バランス能力テスト(Basic Balance Test;以下BBT)は望月らによって考案された、臨床的バランス指標である。BBTは座位・立位での姿勢保持、座位・立位での重心移動、立位でのステップ動作、端座位からの起立と着座などからなる25項目から構成されている。本研究の目的は、回復期脳卒中患者におけるBBTの臨床的有用性について検討し、病棟歩行自立を判断するBBT境界値を明らかにすることである。
    【方法】
     本研究はヘルシンキ宣言に沿って実施した。対象者には事前に研究の方法・目的・倫理的配慮を十分説明し、書面にて同意を得た。対象は、当院に入院している脳卒中患者41名(男性26名、女性15名、平均年齢±標準偏差:69.9 ±12.5歳)であった。除外条件は、脳卒中再発の者、高次脳機能障害により動作指示を理解できない者、当院入院が1週間未満の者とした。方法は、対象者にBBTによるバランス能力の測定と屋外歩行自立から歩行不能まで8のレベルに区分した歩行能力を調査した。臨床的有用性については、記述統計によりBBTの平均値と標準偏差、歩行能力レベルによる合計点の推移、度数分布を検討した。カットオフポイントに関しては、BBTが病棟歩行自立度を判断するうえで有用な予測要因となるかROC曲線を求め、曲線下面積によって検討した。また、病棟歩行自立・非自立を判断する際の最も適したBBTの境界値を選択した。判別制度は、感度、偽陽性率、陽性適中率、正診率を用いた。
    【結果】
     BBT平均値±標準偏差は19.85±16.0となり、歩行能力レベルの増加に伴いBBT合計点も増加していたが、度数分布よりBBT合計が5点以下の者が全体の39.0%となった。ROC曲線での曲線下面積は0.97と有意であった(p<0.05)。境界値を25点とした場合、感度0.90、偽陽性0.05、陽性適中率0.94、正診率0.93となり、いずれも高い値を認めた。
    【考察】
     BBTの度数分布においては、床効果の傾向を示したことから、回復期脳卒中患者に適応するには対象者の重症度の考慮が必要であると考える。また、ROC曲線の曲線下面積において高値を示したことから病棟歩行自立度の予測能力としてBBTは有用であることが確認された。境界値を25点とした場合、高い精度で病棟歩行自立度を判別できたことから、25点が病棟歩行自立のカットオフ値となり得ることも示唆された。
    【まとめ】
     本研究は、BBTの臨床的有用性と境界値を明らかにした。本研究の結果は、臨床での病棟歩行自立度判断の一助として活用が可能であると考える。
  • 赤羽 智樹, 鵜飼 正二, 大塚 功
    セッションID: 170
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    脳卒中患者に対する装具療法は脳卒中治療ガイドラインにおいて推奨されており、その有用性について多く報告されている。一方で、短下肢装具から装具なし歩行に至るまでの判断基準や理学療法(PT)介入に関する報告は少ない。今回、ラクナ梗塞患者に対して急性期から油圧緩衝器足継手付長下肢装具(KAFO)、Gait Solution Design (GSD)を使用し、最終的に装具なしでの歩行を獲得した症例を経験したので報告する。
    【方法】
    症例は左上下肢のしびれを主訴に来院し、右被殻から放線冠にかけてラクナ梗塞を呈した64歳男性で病前mRS1。2病日からPTを開始し、左下肢12grade 6、MMT前脛骨筋0、歩行分析にgait judge systemを用いて荷重応答期の底屈モーメントを測定した。歩容は麻痺側立脚期に膝折れが生じアライメントの崩れを認めた。本症例の退院時目標を装具なし歩行とし、急性期からKAFO、GSDを使用した歩行練習を実施し、装具を外す条件に、踵ロッカーが機能し、立脚期の膝アライメント、クリアランスが保てることとした。また、踵ロッカー時の前脛骨筋の活動指標に底屈モーメントの測定を挙げた。なお、本症例に症例報告をする主旨を伝え了承を得た。
    【結果】
    入院後、神経症状の増悪を認め、5病日に起立練習、KAFOを用いた歩行練習を開始、12病日にはGSDを使用した歩行練習、麻痺側立脚期のステップ練習を行った。22病日には左下肢12grade9、MMT前脛骨筋3、底屈モーメント3.3Nmとなり、GSDを装着した上で上記条件を満たした為、GSDを使用し病棟内歩行自立とした。31病日に自宅退院し、月1回の外来リハビリと週2回の訪問リハビリを継続した。254病日に12grade左下肢11、MMT前脛骨筋5に改善し、底屈モーメントは徐々に低下し1.8Nmとなり、装具なし歩行において上記条件を満たした為、装具なし歩行獲得とした。
    【考察】
    踵ロッカーにおける荷重応答期の底屈モーメントは前脛骨筋の遠心性収縮によりコントロールされており、先行研究において健常者の底屈モーメントは平均1.9Nmと報告されている。本症例において底屈モーメントが徐々に低下してきたことは、踵ロッカー時に前脛骨筋の遠心性収縮が可能になってきた事が考えられ、装具を外す為の判断基準の一つとして底屈モーメントの測定は有用な情報となることが考えられた。
    【まとめ】
    急性期ラクナ梗塞患者に対してGSDを用いたステップ練習、歩行練習を実施した。動作分析や荷重応答期の底屈モーメントを計測することは、装具を外すための判断基準の一つとして用いることが出来ると考えられた。
  • 高橋 祐也, 本吉 優子, 石渡 正浩, 鈴木 潤一, 遠藤 麻耶, 新堀 健士, 長谷川 肇, 矢口 愛, 宮崎 紳一郎
    セッションID: 171
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    平成22年度より,がん患者リハビリテーション料の算定が可能となり,癌に対する   リハビリテーションの評価が見直されている.今回,著明な小脳失調を呈した転移性脳腫瘍に対し,サイ   バーナイフ治療(以下:CK)を分割照射し理学療法を介入,歩行自立となり自宅退院可能となった症例に   対し介入の重要性を再認識したので報告する.
    【方法】
    70歳代女性,平成12年に右乳癌発症しOPEせず抗がん剤治療施行.その後,経過観察し,H23年10月,悪    心・嘔吐出現し他院へ入院,頭部MRIにて大きな小脳転移を認め,適当な治療法は見つからず保存的治療   で経過していた.患者家人がCK治療を求めて当院来院.入院と同時にCK治療と理学療法開始.入院時,身   体機能は右上下肢に協調性障害,両下肢・体幹MMT3,歩行時ワイドベースにて前方へふらつき,転倒を数   回繰り返す為,移動は車椅子レベル.効果判定はBerg Balance Scale(以下BBS),10m歩行,Time Up    and Go Test(以下TUG)を実施.   尚,症例には本研究の趣旨を説明し書面にて同意署名を得た.
    【結果】
    CK治療は10日間10分割の低分割定位放射線治療の手法で実行され終了した.同時に筋力強化訓練,立位バ   ランス訓練,歩行訓練を中心に実施.入院時BBS:16点,退院時41点,10m歩行・TUGともに入院時は施行困   難,退院時10m歩行:24歩11.78秒,TUG:18.09秒,屋内ADLにて移動時,杖使用し自立となり,自宅退院   となる.
    【考察】
    従来の症状を示す大きな転移性脳腫瘍における治療は放射線での全脳照射又は,外科的治療が中心となっ   ていたが,当院ではCK治療にて放射線の短期間の分割照射が可能であり,全脳照射や外科的治療に見られ   がちな後遺症や合併症が少なく又,治療医との連携を取りながら治療と並行してリハビリの介入ができる   こととなった.当症例においても,早期よりCK治療と並行し介入できたことで二次的な廃用を防ぐととも   にADLの向上,早期自宅退院につながったものではないかと考えられる.
  • 播本 真美子, 藤野 雄次, 網本 和, 井上 真秀, 細谷 学史, 高石 真二郎
    セッションID: 172
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
    身体が傾斜する現象として,座位姿勢などで病巣と同側に傾倒するlateropulsion(以下,LP)があり,その責任病巣は延髄外側とされる.このLPの機序の1つとして,脊髄小脳路の障害が示唆されているが,小脳病変におけるLPの報告は少ない.今回,小脳出血後にLPに類似した症状だが,LPと相違し病巣と反対側への傾倒を認めた症例を経験し評価・治療する機会を得たので報告する.
    【症例】
    62歳,女性,右手利き.小脳出血(左小脳半球・虫部,血腫量26ml)を発症し,翌日に血腫ドレナージ術を施行,第3病日から理学療法(以下,PT)を開始.脳血流検査(第25病日)では左小脳,左頭頂葉皮質,左側後部帯状回,両側前頭葉皮質の血流が低下していた.なお,本症例には本研究の主旨を説明し同意を得た.
    【方法】
    垂直軸測定に基づく治療1週間の前後で,PT評価,視覚的垂直軸(以下,SVV)・身体的垂直軸(以下,SPV)測定を行った.SVV・SPVの測定には垂直軸測定装置を用い,足部を接地させずに座位とし,患者が垂直と認知した位置での傾斜角を計4回測定し,平均値を評価値とした.SVVは開眼条件,SPVは閉眼条件とした.
    【結果】
    垂直軸測定に基づく治療前(第30病日)のPT評価では,感覚障害は深部・表在共に軽度鈍麻,指鼻指試験・踵膝試験で終末時動揺が著明,Trunk Control Test(以下,TCT)36点,躯幹協調ステージⅣであった.座位・立位で右側に傾倒し,自覚症状もなく保持困難であり,ほとんどの基本動作に介助を要した.垂直軸測定ではSVVが4.3°±1.9°(平均±SD)・SPVが6.5°±3.1°で右に傾いていた.そこで,治療では視覚情報の付与を徹底し,体幹に前額・矢状面上の真の垂直軸認知を促した.治療後(第38病日)は,感覚障害・協調性検査は治療前評価と同様,TCT61点,躯幹協調ステージⅢであり,基本動作は監視レベルとなった.SVVは2.5°±2.4°,SPVは1.5°±1.3°で右への傾きは減少していた.
    【考察】
    以上の結果より治療1週間前後において,運動機能に著変はなかったものの,基本動作能力・垂直軸認知の改善を認めた.このことから,本症例において垂直軸認知の障害に対し視覚情報の付与が有効であったことが示唆された.また,本症例は身体が傾く方向と垂直軸の傾きが病巣と反対側であるという点でLPと相違しており,大脳半球損傷によって生じる傾きの方向と同様であった.このことから,脳幹病巣と同側の頭頂葉に血流低下が起こるipsilateral supratentorial diaschisisが垂直認知の障害を招いたものと考えられた.
  • 藤野 雄次, 網本 和, 井上 真秀, 播本 真美子, 大塚 由華利, 細谷 学史, 篠崎 かおり, 高石 真二郎
    セッションID: 173
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
    脳血管障害患者において,半側空間無視(USN)やPusher現象は垂直軸認知の障害をもたらす.この垂直軸認知障害の特徴として,USN例では主観的な視覚的垂直認知(SVV)の動揺性を示す標準偏差値が大きくなることが示されている.一方,Pusher現象例ではSVVや身体的垂直認知(SPV)などの偏倚,すなわち垂直定位の方向性を示す偏倚量平均値(恒常誤差)が重要視されている.しかし,USNを合併したPusher現象例において,垂直軸認知に対する偏倚量や動揺性の影響は十分明らかではない.本研究の目的は,USNを合併したPusher現象例の重症度と,垂直軸認知の偏倚量および動揺性との関連について検証することである.
    【方法】
    対象はUSNとPusher現象を呈する左片麻痺患者15例(年齢68.0±7.2歳,全例右手利き,BIT通常検査49.4±18.3点,測定病日23.1±9.2日)とした.対象者は,体幹の後側面を囲い,台座上に角度計,台座下に前額面上で台座を回転させる半円状のレールを取り付けた傾斜測定器に足部非接地で腰掛けさせた.測定方法は,検者が座面を20度傾斜させた位置(開始位置)から2°/秒の速さで水平方向に座面を動かし,対象者が垂直と認知した位置での座面の傾斜角度を記録した.SVVは開眼条件,SPVは閉眼条件とし,開始位置を非麻痺側・麻痺側・麻痺側・非麻痺側の順で計4回測定した.角度は鉛直位を0°,非麻痺側への偏倚をプラス・麻痺側への偏倚をマイナスとし,4回の平均値を偏倚量平均値,標準偏差値を動揺性として算出した.Pusher現象はScale for Contraversive Pushing(SCP)を用いて評価し,SCPとSVV・SPVそれぞれの偏倚量平均値,動揺性との関連性をピアソンの積率相関係数を用いて検討した.なお,対象者には事前に本研究内容を十分説明し,書面にて同意を得た.
    【結果】
    SVVの偏倚量平均値は-2.3°,動揺性は7.9,SPVの偏倚量平均値は0.7°,動揺性は5.9であった.SCPは4.63±1.36点であり,SVVの動揺性にのみ有意な中等度の相関を認めた(p<0.05).
    【考察】
    これまで,Pusher現象の生起メカニズムとして,SVVやSPVの偏倚量や偏倚の方向性について議論されてきたが,本研究からUSNを合併するPusher現象例では,垂直定位の動揺性がPusher現象の重症度と関連することが示された.以上から,USNは視覚情報による垂直定位の認知に影響をおよぼし,Pusher現象の症候を修飾することが示唆された.
  • 井上 真秀, 藤野 雄次, 網本 和, 大塚 由華利, 播本 真美子, 細谷 学史, 小泉 裕一, 篠崎 かおり, 高石 真二郎
    セッションID: 174
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
    Pusher症例における治療方法の選定には視覚的垂直認知(以下,SVV)と身体的垂直認知(以下,SPV)の評価が重要とされる.垂直軸認知は半側空間無視(以下,USN)によっても偏倚することが報告されているが,Pusher症例においてUSNの有無が垂直軸認知に及ぼす影響は十分明らかでない.今回我々は,Pusher症例におけるUSNの有無がSVVとSPVに及ぼす影響を2症例において検討した.
    【症例】
    症例①:Pusher例(以下,P例),71歳,男性,右手利き,診断名は脳梗塞(右前頭側頭葉,頭頂葉の一部).意識清明,Brunnstrom Recovery Stage(以下,BRS)上肢Ⅲ手指Ⅲ下肢Ⅳ,感覚障害は軽度,Scale for Contraversive Pushing(以下,SCP)4.75点,Trunk Control Test (以下,TCT)12点であった.症例②:PusherにUSNを合併した例(以下,P+U例),74歳,女性,右手利き,診断名は脳出血(右視床,内包を含む被殻).意識清明,BRS上肢Ⅰ手指Ⅰ下肢Ⅲ,感覚障害とUSNは重度,SCP6点,TCT36点であった.
    【測定】
    患者を左右及び後面が板状のもので囲まれた座面に足底を接地させず座らせた.検者は座面を前額面で2°/秒の速さで回転させ,患者は垂直と認知した位置で合図をした.SVVは開眼条件,SPVは閉眼条件とし,開始位置は非麻痺側に20°傾斜した位置から行い,ABBA法で左右2回ずつSVV,SPVをそれぞれ計測した.真の垂直から非麻痺側への傾きをプラス,反対方向をマイナスとし,SVV,SPVそれぞれの平均値を傾斜方向性(恒常誤差),標準偏差値を動揺性(絶対誤差)として算出した.P例は第33病日,P+U例は第14病日に測定した.なお,測定に際して患者に内容と目的を十分説明し,同意を得た.
    【結果】
    P例における傾斜方向性はSVV,SPVの順に2.3°,1.5°であり,動揺性は同順で10.8,7.6であった.また,P+U例における傾斜方向性はSVV,SPVの順に-5.0°,0.3°であり,動揺性は7.4,3.6であった.
    【考察】
    P例におけるSVVとSPVは共に傾斜方向性は小さいが動揺性は大きい傾向にあった.Pusher現象の責任病巣は視床後外側部や島後部,中心後回であるのに対し,今回のP例の主病巣は前頭側頭葉であり,病巣の違いが傾斜の少ない要因と考えられた.すなわち,今回のP例におけるPusher現象は,運動麻痺や体幹筋緊張の不均衡に起因したものと思われた.一方,P+U例ではSPVに比べSVVは大きく麻痺側に傾斜し,かつ動揺性も大きかったことから,USNが視覚的な垂直軸認知をより偏倚させPusher現象に影響することが示唆された.
    【まとめ】
    P例とP+U例の垂直軸認知の測定から,Pusher症例におけるUSNの合併がSVVをより偏倚させる可能性が示唆された.
  • 渡辺 学, 米澤 隆介, 海老澤 玲, 絽カ 慶太, 廣瀬 隆一
    セッションID: 175
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    半側空間無視は脳損傷により空間性注意の一側偏倚が生じ病巣反対側空間の刺激の認知や処理が障害される病態である。さらに病巣の部位や範囲によって無視以外の視空間認知障害や身体図式の障害などが加わり、抗重力位での体軸傾斜現象が臨床上しばしばみられる。垂直性について患者が身体のどの部位を基準としているかは漠然としているようで、実際に傾きを身体のどの部位で捉え、その部位の傾斜をどの程度知覚できるかについてはあまり調査されていない。そこで我々は、無視患者が座位において身体各部位の垂直性傾斜をどの程度知覚しているかを調査し、姿勢バランス改善の治療指針を得ることを目的とした。
    【方法】
    対象は半側空間無視を認めた6例(左無視4例、右無視2例、年齢70.8±5.8歳、発症からの経過日数31.3±18.5日)であった。比較対照として無視を有さない3例(左麻痺2例、右麻痺1例)を対象に加えた。調査時期は端座位が30秒以上自力で保持可能となった時点とした。測定項目は、閉眼下端座位での、頭部と胸部の前額面傾斜および座面と足底の左右荷重差の知覚の聴取、主観的身体正中位と主観的正中軸の測定とした。比較する客観的データとして重心動揺計によるx軸方向平均荷重位置と、後方からの姿勢撮影による頭部と胸部および骨盤傾斜角度の計測値を採用した。このほか視覚的垂直知覚として、視覚的垂直定位、線分傾きテストを検査した。全ての対象者には、ヘルシンキ宣言に基づき個人情報の秘匿性に配慮し口頭での説明と同意を得た。
    【結果】
    身体部位の傾斜知覚では胸部の左傾斜を知覚したのが左無視と右無視で1例ずつ、荷重差知覚では座面での右偏倚を知覚したのが左無視で2例、右無視で1例、主観的身体正中位は左無視2例で右に偏倚し、主観的正中軸は左無視2例で右に傾き、左無視1例で知覚困難であった。重心動揺計によるx軸方向平均荷重位置では1例で麻痺側に大きく偏倚していた。姿勢撮影による身体各部位傾斜角度と主観的な傾斜角度はほぼ一致していた。視覚的垂直定位は左無視と右無視で1例ずつ右への彎曲を知覚し、線分傾きテストでは4例で異常を認めた。無視のない比較対照例は各測定での異常を認めなかった。
    【考察】
    全例とも身体各部位とその傾きに注意を向けることができた。主観的傾斜と客観的傾斜に乖離を認めたのは1例であった。一方で視覚的な垂直認知の異常が目立つことから、体軸傾斜姿勢の発現には視覚的垂直認知の異常が関わる可能性が示唆された。
    【まとめ】
    無視患者においては視覚座標系に頼らず身体知覚を意識化させることが垂直位獲得をもたらす可能性が示唆される。
  • 万治 淳史, 網本 和, 諸持 修, 内田 亮太, 河方 けい, 大河内 真奈
    セッションID: 176
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
    垂直性の認知は座位や立位での活動においてバランスを保つための基盤として重要な役割を果たしている.脳血管障害後症例においては垂直認知システムの障害により,座位・立位活動の回復の妨げとなることが多い.脳血管障害後のリハと座位姿勢の関連については特に骨盤の前後傾姿勢がバランスやリーチなどの能力と関連するとの報告がされており,垂直認知との関連についても言及されている.そこで本研究の目的は健常者における座位姿勢の違いが垂直認知に及ぼす影響を明らかにすることとした.
    【方法】
    対象は健常者14名(女性7名),平均25.7歳(23‐31歳),全例右利きであった.実験は座面板を前額面上で回転できる半円状のレールを座面板下部に取り付けた台座(Vertical Board:以下,VB)上で座らせ,身体を固定した.測定は検者がVBを15°傾斜させた位置から2°/秒の速さで反対方向に傾斜させていき,被験者が垂直だと感じた時点を確認し,その時点のVBの傾斜角度を角度計より記録した.測定条件は開眼(視覚性垂直:Subjective visual vertical;以下,SVV)と閉眼(身体性垂直:Subjective postural vertical;以下,SPV)の2条件,骨盤中間位(Neutral:以下N)と骨盤後傾位(Posterior Tilting:以下P)の2条件,これらを組み合わせた計4条件(開眼:SVV,閉眼:SPV,骨盤中間位:‐N,骨盤後傾位:‐P)とした.各条件の順序はランダムとした.各条件で4回,計16回の測定を行った.統計方法は垂直位からの偏倚値を従属変数,条件を要因とした反復測定分散分析および多重比較を用いて比較分析を行った.有意水準はp=0.05とし,統計にはSPSS.ver19を使用した.対象者には本研究参加に際し,口頭と書面にて研究内容の説明を行い,書面にて同意を得た上で実験を行った.
    【結果】
    各条件での垂直認知はSVV-N:1.7±0.6°(平均値±標準偏差),SPV-N:1.8±1.2°,SVV-P:2.5±1.0°,SPV-P:2.5±1.0°,であり,条件に有意な主効果が見られ(p<0.05),多重比較の結果,SVV-P・SPV-Pの2条件がSVV-N条件に対し,誤差が大きかった.
    【考察】
    結果より骨盤後傾条件でのSVV・SPVは骨盤中間位条件に比べ,垂直位からの誤差が大きかった.垂直認知については表在感覚や内臓感覚などの関与が報告されている.これら感覚器官の配列や位置的条件といった器質的な条件の変化によって垂直認知のための知覚に影響を与えることが示唆された.
    【まとめ】
    垂直認知に対し,座位姿勢の影響を明らかにすることで垂直認知の障害された患者に対する評価や治療を検討していくうえでの基礎的な知見として有用となる.
  • 丸山 邦彦, 大塚 功, 関谷 俊一
    セッションID: 177
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    脳卒中治療ガイドライン2009の中で、急性期リハビリテーション(以下急性期リハ)では早期座位、立位、装具を用いた歩行訓練などが推奨されている。身体機能改善に主眼をおいたPTを実施したが、PT実施に難渋し、せん妄及び重度注意障害、左半側空間無視などの高次脳機能障害に配慮することで効果を認めた症例を経験したのでここに報告する。
    【方法】
    症例は46歳の男性。内頚動脈解離に起因する右中大脳動脈領域の脳梗塞を発症し、入院同日にSTA-MCAバイパス術を施行。術翌日からPTを開始し、開始時のNIHSSは13点。意識レベルはGCSでE3V4M6。昼夜逆転とせん妄状態であった。上田式12段階片麻痺機能評価(以下12grade)は上肢1手指0下肢4、体幹機能障害、左側感覚障害、左半側空間無視を認め、基本動作は重介助であった。当院での短期目標を排泄動作軽介助、歩行は多点杖、長下肢装具(以下KAFO)を使用して軽介助に設定し、1日4単位実施した。起立訓練は、麻痺側荷重を促しながら、反復して実施し、鏡を用いた視覚的フィードバックにより、立位バランスの改善に努めた。歩行練習は多点杖、KAFOを使用し、3動作前型で進めた。またOT、STを含め9単位のリハを毎日実施した。なお本症例には症例報告をさせて頂く主旨を説明し同意を得た。
    【結果】
    2病日目より離床開始。6病日目より歩行練習を開始した。しかし意識障害と重度の注意障害のため、積極的なPTは実施困難であった。24病日目より注意障害に配慮し練習場所を他の患者、スタッフのいない静かな環境へ変更した。また日中の生活はスケジュール管理をし、生活リズムの構築に努めた。その後せん妄は改善し、集中的なPT実施が可能となり、座位、立位姿勢が安定した。35病日目、12gradeは上肢3手指1下肢5に改善し、起居動作、起立、移乗動作は監視となった。歩行練習では多点杖、KAFO使用して3動作軽介助で20m可能となり、排泄動作は下衣更衣に介助を要すものの軽介助へ改善し日常生活活動へ汎化。機能的自立度評価表は58点に改善し、短期目標を達成した。
    【考察】
    脳卒中急性期において、精神症状の合併症は、不眠23.5%、せん妄14.6%であり、病巣にもよるが発現頻度が多いことが報告されている。今回、練習環境を整え、スケジュール管理によるチームアプローチを行ない、精神機能面にも配慮することで濃厚なPTが実施可能となり、短期目標の達成に繋がったと考えられる。
    【まとめ】
    右中大脳動脈領域の脳梗塞による重度左片麻痺患者に対して、急性期リハを実施した。早期座位、立位、装具を用いた歩行訓練と合わせて環境調整に配慮することで、より効果的なPTが可能であった。
  • 上倉 洋人, 川ウ 仁史, 檜山 陽菜, 吉田 峻祐, 木名瀬 彩花
    セッションID: 178
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    脳卒中片麻痺者に対し,理学療法アプローチ及び自主練習としてトレッドミルを用いた歩行・走行練習を実施し,走行が可能となったので報告する.
    【方法】
    対象は50歳代男性.脳出血(左被殻~視床)により右片麻痺(Br.stage上肢・手指・下肢すべてIV),表在・深部感覚障害(上肢重度鈍麻~脱失,下肢中等度鈍麻)を呈していた.屋内はオルトップAFO,屋外はGait-Solution-Design(以下GSD)を使用し歩行は自立していた(10m最大努力歩行8.3sec,21steps).発症7ヶ月後,3~4回/週の自主練習と隔週1回の外来理学療法にて,トレッドミルを用いた歩行及び走行練習を開始した.自主練習は,麻痺側下肢にGSDと重錘(0.75㎏)を装着し,非麻痺側上肢で支持をしながら実施した.速度は,「10分間の連続実施により持続困難となる速度」と「1~2分間の連続実施により持続困難となる速度」の2条件を設定し,1回の自主練習で2条件ともに実施した.外来理学療法では,麻痺側下肢にGSDを装着し,非麻痺側上肢による支持をせず体重免荷装置(体重の10%免荷)を使用した.実施中,理学療法士は麻痺側上肢の振りに介助を加えた.速度は自主練習と同様の条件とした.なお対象には本報告について説明を行い,同意を得た.
    【結果】
    発症11ヶ月(介入4ヶ月)で,速度5.7km/hで体重を免荷し,介助を加えれば走行が可能となった(跳躍相が出現した).発症13ヶ月(介入6ヶ月)には,体重免荷と理学療法士による介助がなくても,速度8.0km/hで走行が可能となった(10m最大努力歩行5.0sec,15steps).その後,約6ヶ月間練習が中断したものの,発症21ヶ月で平地での走行が可能となった(10m走行4.1sec,12steps).
    【考察】
    トレッドミル上では下肢が後方へ引っ張られるため,後方への蹴り出しによる前方への推進力はさほど要求されず,下肢を前方へ出せれば歩行及び走行が可能である.さらに,加速が緩徐なために大きな力を必要としないことが考えられる.また,速度を任意で設定することができるため,介助方法を工夫することにより通常以上の速度で歩行及び走行が可能となる.これらの要素に加え,非麻痺側上肢による支持や免荷装置を用いたことにより,重心の上方移動が容易となり跳躍相の獲得に繋がったのではないか.また,トレッドミル上走行から平地走行へ移行するためには,後方への蹴り出しと重心の上方移動に着目してのアプローチが重要であると考えられる.
    【まとめ】
    トレッドミル上走行から平地走行へ移行するメカニズムは不明であるが,トレッドミルを用いた練習が歩行速度の向上や走行の獲得に有効である可能性が示唆された.
  • 寄本 恵輔, 丸山 昭彦, 立石 貴之, 矢島 寛之, 渡部 琢也, 岩田 泰幸, 脇田 瑞木, 小川 順也, 佐々木 康治, 前野 崇, ...
    セッションID: 179
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
     本研究の目的は、部分部分免荷装置を用いた床上歩行訓練(BWSOT)の有用性について、脳卒中(CVA)を呈したパーキンソン病(PD)患者3症例から検討することである。
    【対象】
     対象はPD病患者であり、CVA発症にて当院入院加療、理学療法を必要とした3症例である。症例1は、80代男性、PD発症4年経過(Yahr3)であり、脳梗塞(右内包)発症。症例2は、70代女性、PD発症20年経過(Yahr4)であり、脳梗塞(左中大脳動脈領域)発症。症例3は、80代女性、PD発症8年(Yahr3)であり、脳出血(右視床出血)発症。症例1,3は発症前に監視下歩行、また症例2は軽介助歩行が可能であったが、CVA発症後は歩行不能となった症例である。本研究にあたり、包括的同意書及び口頭にて患者・家族の了解を得て、実施した。
    【方法】
     CVA発症早期より通常の理学療法開始、車椅子乗車が可能となり、リハ室開始となった時点でBWSOTを週5日間、3週間実施した。評価はBWSOT開始時、BWSOT実施3週間後に評価した。検討項目として、Glasgow Come Scale(GCS)、modified rankin scale(mRS)、Unfied Parkinson’s Disease Rating Scale (UPDRS):part2- 3、Brunnstrom stage(Br-stage)、麻痺側手・足関節ROM test、patient report outcome(PRO)について調査し、BWSOTの安全性についても検討を加えた。
    【結果】
     全ての症例においてGCS、UPDRS、mRSは改善した。症例1は歩行能力を再獲得し、症例2は介助歩行再獲得、PROが極めて高く、症例3は継続的な立位保持により関節可動域の拡大を認めた。実施期間中、固定不足に伴う腋下荷重による疼痛が認められる程度であった。
    【考察】
     近年、部分免荷装置を用いたトレッドミル歩行練習(Body weight-supported treadmill training:BWST)における臨床研究が多く行われているが、パーキンソン病の病態を反映したBWSOTについての報告は少ない。本研究において、症例数が少なく、比較試験も行っていないため統計学的解析は困難であるが、pilot studyとしては、BWSOTは極めて有効な治療法であり、安全性が高いことを示した。今後、症例数を増やし、BWSOTにおける有用性を示していくことでPDの歩行困難となった症例に提供できる新しい理学療法アプローチの一つになるものと考える。
  • 小宅 一彰, 山口 智史, 田辺 茂雄, 横山 明正, 近藤 国嗣, 大高 洋平
    セッションID: 180
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    回復期脳卒中者において、早期から歩行を自立させるためには安定した歩行が求められる。短下肢装具は、脳卒中者の歩行を安定させる方法として推奨されている。歩行安定性の評価には、時間距離因子の変動性(歩行変動性)が用いられ、歩行変動性の増加と転倒発生は密接な関連が報告されている。本研究では、短下肢装具の着用が回復期脳卒中者の歩行安定性を改善するか検証した。
    【方法】
    対象は、同意が得られた回復期脳卒中者15名、性別は男性9名/女性6名、年齢は59±13歳であった。診断名は脳梗塞8名/脳出血7名、麻痺側は右6名/左9名、発症からの期間は15±6週であった。全対象者は、装具の有無にかかわらず、監視にて10m以上の杖歩行が可能であった。本研究は、当院倫理委員会の承認後に実施した。
    測定課題は、快適速度での10m歩行テストとした。測定条件は、装具未装着(装具無)と装具装着(装具有)の2条件とし、各条件2回ずつ測定した。課題中は、杖および対象者が所有する短下肢装具を用いた。測定中は、理学療法士1名が付き添い、所要時間と歩数を測定した。測定後、それらの結果から歩行速度、歩行率、重複歩距離を算出した。
    歩行変動性の測定には、小型無線加速度計(ワイヤレステクノロジー社)を用いた。装置は第三腰椎棘突起部に弾性ベルトで固定し、サンプリング周波数60Hzで加速度を測定した。前後加速度のピーク値から歩行周期時間を特定し、定常歩行10周期分の標準偏差値を歩行変動性として評価した。
    統計解析には、各条件2回測定した平均値を採用した。装具着用によって、歩行速度、歩行率、重複歩距離、歩行変動性に生じる変化を対応のあるt検定で検定した。有意水準は5%とした。
    【結果】
    全ての測定項目において、装具着用による有意な変化を認めた(p<0.01)。歩行速度(m/s)は、装具無0.33±0.13から装具有0.49±0.24へ増加した。歩行率(steps/s)は、装具無1.15±0.29から装具有1.34±0.36へ増加した。重複歩距離(m)は、装具無0.56±0.16から装具有0.70±0.22へ増加した。歩行変動性(s)は、装具無0.13±0.07から装具有0.09±0.05へ減少した。
    【考察】
    回復期脳卒中者における装具の着用は、時間距離因子の改善だけでなく、歩行安定性も改善する可能性が示された。今後は、装具着用による歩行変動性の減少に影響する要因について、身体機能や歩行時間距離因子から検討したい。
    【まとめ】
    本研究より、回復期脳卒中者の歩行を安定させるために装具着用が有効であることが示唆された。
  • 小島 賢司, 糸数 昌史, 安永 好宏, 山海 嘉之
    セッションID: 181
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    ロボットスーツHAL福祉用(以下HAL)は,筋活動電位及び足底の荷重分布,関節の角度情報を基に,股・膝関節のモーターを駆動してトルクをアシストする装着型の動作支援機器である.しかし,その効果についての報告は少なく,疾患別の症例報告もほとんどみられていない.
    今回,重度の感覚障害と片麻痺を呈する維持期片麻痺患者に対して立位保持の改善に向けたHALを用いた訓練の有用性を検討した.
    【方法】
    症例は63歳男性,頭部外傷(被殻出血)による左片麻痺と麻痺側上下肢に重度の感覚障害を呈していた.また,受傷より約12年が経過しており,麻痺側の運動機能評価はBr-stage2-2-2,立位保持はなんとか独力で可能だが,麻痺側下肢による体重支持はほとんど行われていない.
    介入内容は,HAL装着下における座位での下肢屈伸運動と立ち上がり練習(以下HAL練習)を4週間,週2回20分,合計8回実施した.
    介入効果の評価は,HAL練習2回毎に三次元動作解析装置(VICON612),床反力計(AMTI社)を用いてHAL未装着での立位保持を計測した.測定項目は両下肢それぞれの床反力鉛直成分と前額面上での体幹傾斜角度とし,立位保持安定後の3秒間の平均値を算出した.介入効果の検討は,介入前を含め5回(計4週間分)の計測を行った.統計処理は対応のあるt検定を行い危険率は5%未満とした.
    本研究を実施するにあたり,症例本人に対して口頭と書面による十分な説明を行い,同意を得た.なお,本研究は国際医療福祉大学倫理審査小委員会で了承された(11-154).
    【結果】
    介入効果として,床反力鉛直成分は麻痺側で有意に増加し,非麻痺側では有意に減少した.前額面上での体幹傾斜角度は,非麻痺側から麻痺側に大きくなる傾向がみられた.
    【考察】
    HALを使用した4週間のトレーニングによって,受傷から12年が経過した慢性期片麻痺者の麻痺側への荷重量を増加させることが出来た.荷重量は増加したが自重に抗するだけの筋出力が発揮できなかったため,下肢関節のアライメントに変化は見られなかった.また,体幹傾斜角度に有意差がみられなかったのは,長年の両側下肢による荷重経験の少なさから麻痺側への荷重を意識するあまりに上半身重心の位置調節に対して様々な運動戦略を用いたため再現性が乏しかったと考えられる.
    【まとめ】
    ロボットスーツHALによる関節運動のアシスト機能により麻痺側への荷重経験が増加し,慢性期片麻痺者の麻痺側への荷重を改善する傾向がみられた.
  • 鳥谷 将由, 黒澤 保壽, 村田 康成, 井上 愛理, 鎌倉 みず穂, 水上 昌文, 居村 茂幸
    セッションID: 182
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    ロボットスーツHAL福祉用(以下:HAL)右単脚を使用した歩行練習の介入効果を,シングルケース・スタディABA法を用い検証した.
    【方法】
    症例は60歳代男性.左中大脳動脈領域の心源性脳梗塞,発症30病日に当施設に入所.ヘルシンキ宣言に従って本症例に同意を得て行った.初期評価はBrunnstrom stage(以下Brs)で上肢・手指・下肢Ⅲ.端座位保持は可能.注意障害・失語症を有するも指示理解は可能.歩行はwalker caneとSLBにて3動作中等度介助で代償動作での振出しであった.最終評価は下肢Brs Ⅲと著変はなかったものの,T字杖とSLBにて2動作歩行が軽介助で可能となった. <BR>研究モデルはABA型デザインのABA´B´A´とした.Phase A・A´をベースライン期(以下BL期),Phase B・B´をHAL介入期とした.期間は発症37から68病日間でPhase Aは3日間,その他は各7日間の期間を設けた.介入期のPhase Bで4回とB´3回の計7回で各20分程度使用した.評価項目は10m歩行速度,麻痺側下肢最大荷重率(以下:麻痺側荷重率)とし,理学療法実施毎にwalker cane とT字杖の歩行速度を測定,各Phaseの最終時に麻痺側荷重率を測定した(Phase A・BはT字杖歩行速度を除外).測定は2回行ない最大値を採用した.麻痺側荷重率は体重計を用い麻痺側最大荷重を5秒間保持できた値を体重比で求めた.歩行速度は前日比の速度増減を百分率にて求め,各Phaseの平均値を算出した.介入方法はBL期に通常理学療法を実施した.介入期では股関節をCAC mode(自律制御:荷重をトリガーに振り出しを制御する)にて行い,二次変数を最小にするため,それ以外の練習内容はBL期と大きく変更しなかった.
    【結果】
    結果はPhase A→B→A´→B´→A´(T字杖A´→B´→A´)の順で示す.歩行速度増減率はwalker caneで92→108→97→112→102%,T字杖で110→113→101%,麻痺側荷重率は51→71→71→76→78%,となった.HAL前後の歩行速度増減はPhase Bのwalker caneで98%,Phase B´のwalker caneは111%,T字杖で122%であった.
    【考察】
    介入期間の歩行速度はPhase B・B´ともに向上を認め,同様に麻痺側荷重率も向上した.先行研究でもHAL使用により麻痺側荷重率は増加するといわれており同様の結果を得た.また本症例は重度片麻痺にも拘らず歩行速度および歩行能力は介入期で向上を認めた.ロボットの能動的アシストは脳賦活を促し可塑性を高めるといわれており,HALを用いた正常歩行に近似しリズム良く歩く練習は,壊れていた歩行様式の再学習させる呼び水として働いている可能性が考えられる.
    【まとめ】
    HALは片麻痺患者の歩行能力向上に働くことが示唆された.
  • 鎌倉 みず穂, 黒澤 保壽, 堅田 明靖, 西潟 亘, 和田 祥平, 鳥谷 将由, 水上 昌文, 居村 茂幸
    セッションID: 183
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    当院では脳卒中急性期よりロボットスーツHAL福祉用(以下,HAL)を使用している.今回単脚HALの自律制御モードがPusher現象の軽減と立ち上がり動作の能力向上に有効であるかを知ることを目的とした.
    【方法】
    対象は脳血管障害によるPusher現象のみられた8症例で,全症例とも左半球損傷(脳梗塞3例,脳内出血5例)による重度右片麻痺を呈していた.全症例ともPusherの重症度はContraversive pushing臨床評価スケールで6(最重度)であった.発症から単脚HAL導入までの期間は平均29.8日であった.なお症例に対してはヘルシンキ宣言に従って同意を得た.
    方法は,平行棒を支持した立ち上がり・立位保持を補装具を使用せずに5回行った後,対象に右単脚HALを装着し同様に立ち上がり・立位保持を20回行った.HALの設定は膝関節・股関節ともに自律制御モードにし,介助を行いながらインターフェースユニットを操作し立ち上がりと同時にSTANDモードに,着座と同時にNO TASKに切り替えた.立ち上がり・立位保持練習は全てビデオカメラで撮影し動画及び静止画像に処理した.HAL装着前,中,後ともにPusher現象が最軽度であったものを比較し,1.平行棒内立位姿勢での体軸(左右の上前腸骨棘を結ぶ線の中央と胸骨柄上端を通る線)の傾斜,2.平行棒内立位姿勢での頸部の立ち直り,3.セラピストの感じた主観的な介助量の変化の3項目を評価項目とした.
    【結果】
    1.体軸は鉛直軸とのなす角で示し,8症例の装着前傾斜角は平均9.6°(5~15°)右へ偏位し,装着中は平均4.5°(1~11°)右偏位,装着後は3.8°(2~10°)右偏位であった.2.頸部の立ち直りがみられなかった7症例のうち4症例に装着中に立ち直りがみられ,装着後も持続してみられた.3.介助量は全症例において軽減し,中等度介助から軽介助が3例,重度介助から見守りが1例,中等度介助には変化はないが介助量が軽減した例が4例であった.
    【考察】
    重度のPusher現象を認める例は運動麻痺も重度である印象があり,垂直軸認知障害に加えて非麻痺側の上下肢においても出力のコントロール能力が低下していると思われる.HALによる自律的な動きにより正常に近い立ち上がり動作が行え,さらに麻痺側下肢の支持性を補うことで非麻痺側の出力のコントロールスキルが向上しPusher現象が軽減したと考える.しかし発症より約30日経過した時点でのHAL導入であったため,自然回復も考慮し今後も検討が必要である.
    【まとめ】
    脳卒中急性期おいてHALの自律制御モードによる立ち上がり・立位保持練習は,Pusher現象の軽減と立ち上がり動作の能力向上に有効である可能性があることが示唆された.
  • 石川 雅望, 片柳 聡, 三田 哲也, 青柳 正寛, 吉松 竜貴
    セッションID: 184
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
     当院では人工股関節全置換術(以下THA)患者に、3週間のクリニカルパスに沿って、理学療法を実施している。具体的には、手術翌日より術側への全荷重を許可して立位練習及び歩行練習を開始し、その後は患側への荷重量や疼痛、筋力に応じて練習内容を調整する。このように術後の患者の状態は様々であるにもかかわらず、病棟での杖歩行開始の許可については、担当理学療法士の主観的判断に委ねられている。そこで、病棟で歩行が自立した患者のデータを分析し、THA後の患者における病棟での歩行自立の客観的な基準について検討したので報告する。
    【対象】
     対象は、平成23年11月~12月にTHA目的で当院に入院した患者(男性4例、女性12例、平均年齢60.3±6.9歳)で、医師よりクリニカルパスに沿った理学療法を処方された者である。なお、対象者には、本研究の趣旨と目的を詳細に説明し、書面にて同意を得た。匿名性の保持と個人情報流出防止に留意した。方法 THA後、T字杖での見守り歩行を開始した時点(以下開始時)と病棟での独歩が許可された時点(以下自立時)において計2回の10m歩行および術側への荷重量の計測を実施した。10m歩行は助走路(各3m)を含めた計16mの直線を自由速度で歩行させた。計測は2回実施し平均値を採用した。10m歩行から、歩行速度、歩幅、歩行率を算出した。術側への荷重量はウエイトバランサーを使用して、非術側を踏み出す動作を行わせ計測した。計測は5回実施し、平均値を採用した。統計学的分析として開始時から自立時までの測定値の変化を検討するためにt検定を行った。また、荷重割合との相関性をPearson の相関係数にて検討した。有意水準は5%未満とした。
    【結果】
     開始時と自立時の比較では、歩行速度・歩幅・歩行率で有意差が認められた。(p<0.01)荷重割合に有意差は認めなかった。いずれの時点においても荷重割合と歩行速度・歩幅・歩行率との間に有意な相関は認められなかった。自立時の10m歩行時間の最大値は、16.5秒、歩数の最大値は22歩だった。
    【考察】
     歩行能力の指標として10m歩行がしばしば用いられ、歩行速度は歩幅と歩行率により決定される変数である。この関係性は開始時と自立時の比較で確認された。荷重量は開始時でほぼ確立され、その後の速度変化は歩行率、歩幅の向上によるものと考えられる。術側下肢の機能的変化や転倒、疼痛への不安の軽減に影響されたものと考えられる。まとめ 歩行能力と術側への荷重量の関連性は低く、歩行自立に対する荷重量の影響は少ないことが示唆された。本研究で得られた歩行自立時の10m歩行時間と歩数は、THA患者の病棟での歩行自立の判定基準の参考になると思われる。
  • 近藤 佳克, 松本 直也
    セッションID: 185
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    変形性股関節症(以下股OA)に対する人工股関節全置換術(以下THA)後のリハビリテーションにおいて、跛行を問題視することが多い。従来、股OAが跛行を呈する原因として、股関節外転筋の筋力低下が挙げられてきた。しかし、臨床において外転筋力の回復が図られているにも関わらず、跛行が改善しない場面に少なからず遭遇する。跛行は多因子決定の現象であるとされ、報告では外転筋MMT4以上ある患者の跛行因子は、疼痛・股関節伸展制限(5°以内)・股関節回旋筋の筋力低下が挙げられている。今回THA後、股関節疼痛が軽減し、股関節伸展可動域が規定範囲内で、外転筋・回旋筋群MMT4に達しているにも関わらず、跛行を呈している症例を経験した。この事から量的因子に加え、質的因子として、中殿筋トルク立ち上がり時の遅延が跛行の原因と考えた。中殿筋トルクの問題を、踵接地(以下H.C)時の矢状面での骨盤傾斜不良に起因する中殿筋収縮効率低下として捉えた。文献では、健常者は遊脚後期に骨盤前傾、足尖離地に骨盤は後傾していくが、股OAは患側遊脚後期の骨盤前傾が減少または後傾しているとある。患側遊脚後期の骨盤前傾減少により、股関節伸展時に有意に活動すると言われる大腿筋膜張筋の活動を立脚初期の段階で開始させると推測した。この事が中殿筋の初期からの収縮を抑制し、H.Cの中殿筋トルクを低下させる要因と考えた。したがって、H.C時の中殿筋出力を向上させる目的で、術側遊脚後期の骨盤アライメントへのアプローチを行った。
    【方法】
    70歳代男性。MIS THAを施行した症例。疼痛軽減が図られた、術後4週の股関節機能は、屈曲95°・伸展5°。筋力は腸腰筋 ・大殿筋・中殿筋・回旋筋群MMT4であった。歩容は、デュシェンヌ歩行を呈していた。本研究は、目的・主旨を十分に説明し、同意を得て行った。術後4週目に1.下部体幹筋伸張性の向上2.骨盤前後傾による腸腰筋促通3.壁を利用した立位での股関節屈曲訓練を実施した。訓練は歩行を撮影したのち実施。直後に再度歩行を撮影し、跛行変化を分析した。
    【結果】
    股関節での分離した下肢振り出し動作を促した事により、H.C時の骨盤アライメントが改善した。結果、跛行は未だ残存しているが改善を認めた。
    【考察】
    遊脚後期~H.C時の骨盤アライメントが、H.Cからの中殿筋収縮効率に、影響を与える事が結果より推測された。これは、遊脚後期の骨盤アライメントが、跛行を生じさせる一因となることを示唆した。
    【まとめ】
    跛行という現象を、多面的に捉え治療する必要性を再認識した。
  • 瀬川 佑樹, 美崎 定也, 佐和田 桂一, 三井 博正, 坂本 雅光, 杉本 和隆
    セッションID: 186
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
     人工股関節全置換術(以下THA)後の爪切り動作は、脱臼肢位回避のため動作方法が限定される。爪切りが可能な股関節可動域(以下股ROM)についての先行研究はあるが、患者が快適に爪切り動作を行うために必要な股ROMに関する研究はない。本研究の目的は、爪切り動作を快適に行うことができる股ROMの臨床基準を作成することである。
    【方法】
     2010年3月から2011年5月までに当院で初回THAを施行した88名(93股)を対象とした。除外基準は、両側例、中枢神経疾患、認知症、他関節に整形外科的手術の既往がある患者とした。基本属性は、年齢、性別、BMI、測定項目は、股ROM、爪切り動作能力とした。股ROMはゴニオメーターを使用し他動的に5度刻みで屈曲、外転、外旋を計測した。爪切り動作能力は、5段階(1:困難なし 2:少し困難 3:中程度困難 4:困難 5:かなり困難)のリッカートスケールを用い自己記入させた。快適群を1および2、不快群を3から5と定義して2群に分け、性別、年齢、BMI、診断名でマッチングした。統計解析は、快適群・不快群を従属変数、股ROM(屈曲、外転、外旋、それぞれの組み合わせの合計角度)を独立変数とした総当たり法によるロジスティック回帰分析を行った。その後、Receiver Operating Characteristic曲線(以下ROC曲線)によりカットオフ値を算出した。対象者には研究の目的を説明し、同意を得た。
    【結果】
     対象者のマッチングの結果、快適群19名(男性3名 女性15名、平均年齢±標準偏差65.6±2.0歳、BMI25.4±0.7、変形性股関節症19名)、不快群19名(男性3名 女性15名、65.7±1.8歳、BMI23.7±0.9、変形性股関節症19名)が抽出された。ロジスティック回帰分析の結果、最も影響のある因子は股関節屈曲+外旋の合計角度であった。ROC曲線による曲線下面積(以下AUC)は0.859でカットオフ値は122.5°であった。
    【考察】
     先行研究では、爪切り動作に必要な股ROMとして股関節屈曲と外旋の合計角度の重要性が述べられており、本研究でも同様の結果となった。爪切り動作を快適に行うためには、股関節屈曲と外旋の合計角度増大が特に重要になると考えられる。多軸関節である股関節は、屈曲、外転、外旋各々のROM不足を相互に代償する特性があるが、今回の結果では快適な爪切り動作に必要な股ROMは股関節屈曲と外旋角度の計測で判断することができると考えられる。
    【まとめ】
     THA後の爪切り動作を快適に行うことのできる因子として、股関節屈曲+外旋の合計角度の影響が強いことが示された。ROC曲線から算出したカットオフ値は122.5°であり、快適に爪切り動作を行うために必要な股ROMの一指標になりうると考えられる。
  • 金子 友里, 木下 一雄, 吉田 啓晃, 中島 卓三, 樋口 謙次, 中山 恭秀, 安保 雅博
    セッションID: 187
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    人工股関節全置換術(以下THA)後の患者満足度は手術による除痛効果に影響されると言われている。しかし術直後は疼痛が患者満足度に影響しうるが、経過と伴に影響する因子は変化すると考える。そこで、本研究の目的はTHA前後の主観的動作能力から生活動作満足度に関与する動作を明らかにすることである。
    【方法】
    対象は4病院で初回片側THA患者87名、平均年齢63.7±11歳である。方法は術前、退院時、術後2ヶ月時に生活動作満足度と主観的動作能力を問診にて調査した。生活動作満足度は視覚的尺度のVASを使用し、主観的動作能力は基本動作を含む15項目(寝返り、起き上がり、トイレ動作、坐位での仕事、立位での仕事、階段上り、階段下り、靴下はく、足爪切る、荷物を持つ、歩行、浴槽出入り、床に座る、床の物拾う、車乗り降り)、5段階尺度(5:楽にできる~1:できない)を使用した。検討方法は術前より退院時の生活動作満足度VASが向上した者を退院時満足群、低下した者を退院時不満足群、2ヶ月時においても同様に群分けし、各時期での2群間において各主観的動作項目を比較検討した。統計処理はMann-WhitneyのU検定(SPSS Ver16)を使用し有意水準は5%未満とした。尚、本研究は当院倫理委員会の承認を得た。
    【結果】
    各主観的動作能力の中央値(退院時満足群n=65vs退院時不満足群n=22)は寝返り(3.5vs3)起き上がり(4vs4)トイレ動作(3vs4)坐位での仕事(3vs3)立位での仕事(3vs3)階段上る(3vs3)階段下り(3vs3)靴下はく(3vs2.5)足爪切る(1vs2)荷物を持つ(2vs2)歩行(3vs3)浴槽出入り(2.5vs2)床に座る(2vs2)床の物を拾う(3vs3)車乗り降り(3vs3)で、全項目で2群間に有意差は認めなかった。同様に(2ヶ月時満足群n=25vs2ヶ月時不満足群n=52)、寝返り(4vs3)起き上がり(3vs3)トイレ動作(3vs4)坐位での仕事(4vs4)立位での仕事(3vs3)階段上る(2vs2)階段下り(3vs3)靴下はく(2vs2)足爪切る(2vs2)荷物を持つ(3vs3)歩行(3vs3)浴槽出入り(3vs3)床に座る(2vs2)床の物を拾う(2vs2)車乗り降り(3vs3)で、全項目で2群間に有意差は認めなかった。また退院時に満足の患者は全体の75%であり、そのうち術後2ヶ月で不満足へ転じた患者は57%であった。
    【考察】
    退院時満足度に影響する因子は動作能力のみで抽出するのは困難であり、除痛やその他の身体機能、各個人の多様性が示唆された。しかし、退院時に満足であったが術後2ヶ月で不満足となった患者が57%であることから術後2ヶ月の患者は退院後の生活で入院中には無かった動作困難感を感じていると考えられる。
  • 市村 芙美, 高橋 友明, 畑 幸彦(MD)
    セッションID: 188
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    人工股関節全置換術(以下,THA)施行後早期に,術側下肢にうまく荷重がかけられないために歩行動作がスムーズにできない症例をしばしば経験する.しかしこのことに関する報告はほとんどなかった.今回,われわれは,THA術側下肢が荷重脚となる要因について調査したので報告する.
    【方法】
    対象は,当院でTHAを施行された32例(男性6名・女性26名,手術時年齢68.5±5.5歳,術後経過期間4.8±5ヵ月)で,再置換例と両側例は除外した.手術時年齢,性別,疼痛,股関節可動域,下肢徒手筋力(MMT),股関節機能判定基準,脚長差,術側下肢荷重量および立位バランスの9項目について同一検者が評価を行った.なお,術側下肢荷重量はエルクコーポレーション社製スマートステップを用いて歩行時の体重に対する荷重の割合(%body weight)を計測し,立位バランスはアニマ社製ツイングラビコーダG5500を用いて左右方向では非術側を+,前後方向では前方を+として重心位置を求めた.次に,症例を術後経過期間の平均値(4.8ヵ月)で2群に分けて,術後4.8ヵ月未満の群(以下,短期群)18例と術後4.8ヵ月以上の群(以下,長期群)14例に分けて2群間で比較した.性別はχ2乗検定を用い,その他の項目はMann-Whitney’s U testを用いて2群間で有意差検定を行い,危険率5%未満を有意差ありとした.なお,対象者には本研究の主旨を十分に説明し同意を得た.
    【結果】
    下肢徒手筋力は術側股関節の外転筋力と内転筋力において長期群が短期群より有意に大きかった(p<0.05,p<0.05).術側下肢荷重量は短期群67.8±16.7%・長期群92.9±11.3%で,長期群が短期群より有意に大きかった(p<0.05).立位バランスは左右方向の重心位置が短期群で1.4±1.5cm・長期群で-0.2±1.8cmで,長期群が短期群より術側方向へ有意に大きかった(p<0.05).その他の項目では2群間で有意差を認めなかった.
    【考察】
    「筋力の改善と疼痛の軽減がTHA術後の重心位置を非術側から正中近くに移動させる要因である」という鎌田らの報告や「THA術後に経時的に重心位置が非術側から正中へ変位し,外転筋力も経時的に改善した」という小林らの報告を踏まえて今回の結果を考察すると,術後経過期間が長い症例ほど術側股関節の筋力が改善して術側下肢への荷重が可能となり,その結果として重心位置が非術側から正中へ変位したのではないかと思われた.
    【まとめ】
    今回の結果から,THA術側下肢が荷重脚となる要因は,術側股関節の筋力の改善と,それに伴う重心位置の非術側から正中への変位であることが示唆された.
  • 関 さくら, 浦川 宰, 小澤 亜紀子, 山副 孝文, 溝口 靖亮, 蓮田 有莉, 名嘉 寛之, 山中 徹也, 間嶋 満
    セッションID: 189
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    片脚立位は転倒や歩行能力と関連するとされ,様々な報告がされているが,THA術後の患者を対象とした検討は少ない。本研究の目的は,当院でのTHA術後の患者における退院時(術後4週目)術側片脚立位能力に関する因子を明らかにし,THA術後の患者に対する運動療法の一助とすることである。
    【方法】
    対象:2010年12月~2011年7月に当院で変形性股関節症に対するTHA(後側方侵入)施行後,理学療法を施行した45例のうち,重篤な合併症がなく,本研究の趣旨と目的を説明し同意を得られた26例26股(男性5名,女性21名,年齢63.3±9.2歳)。これらの症例を退院時における5秒間の術側片脚立位の可否を基準に,可能群(21例:年齢61.5±6.1歳,退院時術側片脚時間20.4±9.9秒),不可能群(5例:年齢71.2±10.2歳,退院時片脚時間0.7±0.7秒)に分類した。
    検討項目:基本的項目として年齢,BMI,術後理学療法開始日,術後入院期間,術後歩行獲得日,退院時歩行形態を調査した。測定項目として安静時・歩行時疼痛(VAS),術側・非術側の股関節屈曲・外転可動域,ハンドヘルドダイナモメーターによる腸腰筋・中殿筋・大腿四頭筋の等尺性筋力,time up and go test(TUG),10m歩行速度,6分間歩行距離(6MD)を退院時に測定した。基本的項目と測定項目を可能群・不可能群で比較した。(two sample t-test,Mann-Whitney U-test;p<0.05)
    【結果】
    基本的項目ではいずれの項目においても2群間で有意差を認めなかった。測定項目では不可能群において,安静時・運動時VAS,TUGの値は大きく,非術側片脚立位時間,10m歩行速度,6MDの値は小さい結果となり,2群間で有意差を認めた。また,下肢筋力等には差を認めなかった。
    【考察】
    不可能群では非術側においても片脚立位時間の値が小さいことから,手術前から術側股関節以外の身体機能においても低下していたと推察される。加えて,不可能群では術側下肢の疼痛が強かった為,下肢筋力に差がないにも関わらず片脚立位が困難となったのではないだろうか。片脚立位困難な症例では片側下肢への重心移動が不良であった可能性があり,それによる歩行時の立脚時間の短縮・歩幅の減少が,退院時のTUG,10m歩行速度,6MDの値が不良であった要因の一つであると推察される。したがって,不可能群における退院時のTUG,10m歩行速度,6MDの値を改善する為には,術側・非術側の片脚立位時間を増加させる内容についても考慮する必要があると考えられた。
    【まとめ】
    当院におけるTHA患者の退院時術側片脚立位能力は,非術側片脚立位時間,疼痛,TUG,10m歩行速度,6MDと関連があった。
  • 深田 和浩, 秦 和文, 鳥尾 哲矢, 門叶 由美, 白川 哲也, 河野 義彦, 織田 徹也, 織田 弘美, 牧田 茂
    セッションID: 190
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    骨盤骨折は高エネルギー外傷によって生じ、荷重伝達部位である仙骨・腸骨・仙腸関節から成る後方骨盤輪の垂直不安定性は骨接合術の積極的な適応となる。当院では仙骨骨折症例に対し骨接合術後、早期荷重歩行練習を施行している。一般に、早期荷重の弊害として荷重痛があげられるが、仙骨骨折症例に関する疼痛の評価や荷重痛の経過についての報告はない。今回、VAS(Visual Analog Scale)を用いた骨盤前方及び後方の荷重痛を評価し、良好な経過をたどった症例を経験したので報告する。尚、対象者には研究の旨を説明し発表に際し同意を得ている。
    【症例紹介と理学療法経過】
    症例1(男性、31歳)診断:右仙骨骨折(AO分類C1、Denis分類Zone1)、合併損傷:頸髄損傷(C5)、頸椎骨折。交通外傷。入院2日後に頸椎骨折に対し後方固定、右仙骨骨折に対しscrew固定を施行。術後第1病日に理学療法を開始。同日離床。第2病日に立位荷重練習を施行。VAS(右):前方0後方4。第16病日に片松葉にて自宅退院。VAS:前方0後方1。第24病日に独歩獲得。VAS:前方0後方0。症例2(男性、43歳)診断:左仙骨骨折(AO分類C1、Denis分類Zone2)、合併損傷:恥骨結合解離。転落外傷。入院当日IVR施行の上、左仙骨骨折に対し創外固定器を設置。入院2日後に左仙骨骨折に対しscrew固定、恥骨結合解離に対しプレート固定を施行。術後第1病日に理学療法を開始。同日離床及び立位荷重練習を施行。VAS(左):前方5後方5。第11病日に片松葉にて自宅退院。VAS:前方0後方1。第18病日に独歩獲得。VAS:前方0後方0。症例3(女性、61歳)診断:両側仙骨骨折(AO分類C2、Denis分類Zone2)、合併損傷:右鎖骨骨折、両側恥骨坐骨骨折、多発肋骨骨折、多発左腰椎横突起骨折。交通外傷。入院当日IVR施行の上、両側仙骨骨折に対し創外固定器を設置。入院16日後に両側仙骨骨折に対し、脊椎骨盤後方固定を施行。術後1病日に理学療法を開始。同日離床。第2病日に立位荷重練習を施行。VAS(右/左):前方5後方0/前方0後方0。第16病日にt-caneにて自宅退院。VAS:前方1後方0/前方0後方0。第57病日に独歩獲得。VAS:前方0後方0/前方0後方0。
    【考察】
    本症例らは垂直不安定性を有する仙骨骨折と診断され、術後早期からVASを用いた骨盤前方及び後方の荷重痛を評価し、荷重歩行を施行した。一般的に、荷重伝達部位は後方骨盤輪を通るとされているが、高エネルギー外傷に伴って起こる骨盤骨折では恥骨・坐骨骨折の合併も多い。そこで当院ではVASを骨盤前方と後方とに分けて評価している。本症例らはVASを用いた骨盤後方の疼痛に留意した早期荷重歩行練習を実施することで疼痛の増強や転位もなく、早期自宅退院及び独歩獲得に至ったと考える。
  • 柳田 鷹王, 袖山 知典, 石垣 直輝, 大石 敦史, 草木 雄二
    セッションID: 191
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
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    【目的】
    腰部脊柱管狭窄症(以下LCS)は、患者ADL、QOLを著しく低下させる疾患である。MRI画像診断上の重症例では、保存療法での効果が乏しいとされている。しかし現状では、MRI狭窄形態に対する理学療法の効果を検証した報告は少ない。そこで本研究の目的は、間欠跛行(以下IMC)を主訴とするLCS患者のMRI狭窄形態と、IMCの推移を調査し検討することである。
    【方法】
    対象は2010年1月から2011年8月までに、LCS診断を受け、IMCを主訴とし、MRIを施行した、リハビリ通院が2ヶ月以上であった32名(内訳は男性14名女性18名、平均年齢は70.8±10.1歳)とした。下肢の関節症などの他疾患や麻痺など歩行状態に影響を及ぼす症例は除外した。MRI狭窄形態の分類については、最狭窄部のMRI横断面においてSchizasの研究に則り4グループに分類した。方法は、診療録より脊椎専門医によるMRIの形態Grade分類、初診時、初診から2ヶ月後のIMC時間、理学療法内容の3点を調査した。検討項目として、各GradeにおけるIMC改善率の平均値、各Grade内での初診時から2ヶ月後におけるIMC改善者数の割合、IMC改善例に共通する理学療法内容の施行率を算出した。本研究は当院倫理委員会の承認を得て実施した。
    【結果】
    IMC改善率では、全群にて改善率が増加する傾向が見られた。しかしGrade Dでは改善率が低い傾向が見られた。IMC改善者数の割合では、Grade A~Cでは初診時より2ヶ月後で70%以上が改善する傾向が見られた。一方でGrade Dでは改善者数の割合が少なかった。IMC改善例に共通していた理学療法は、殿筋ストレッチ、ハムストリングスストレッチ、腹式呼吸が、全Gradeにて施行率が高かった。
    【考察】
    本研究よりGrade Dでは改善率が低く、Grade A~Cでは70%以上に改善が見られた。先行研究において、Grade C・Dの症例では、保存療法での効果が乏しいと報告されており、Grade Dでは改善率が低く、治療効果が安定しない事が考えられる。改善例に共通していた理学療法は、骨盤可動性の改善、腹式呼吸による脊柱安定化筋群の促通があり、これがIMC改善につながったと考えられる。
    【まとめ】
    LCS患者のMRI形態とIMCの変化、及び理学療法を調査・検討した。Grade A~CのIMCの改善は、初診から2ヶ月時で70%以上の改善が見られたが、Grade Dでは改善が乏しかった。改善例に共通した理学療法として骨盤後傾筋群のストレッチと腹式呼吸が挙げられた。
  • 袴田 暢, 中山 裕子, 細野 敦子, 渡辺 慶, 山崎 昭義
    セッションID: 192
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
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    【目的】
    前脛骨筋麻痺による下垂足は腰椎変性疾患の症状の一つであるが,その神経支配が重複する筋として中殿筋があげられる.本研究の目的は,下垂足を呈する症例は股関節外転筋(以下,股外転筋)の筋力低下が同時に生じているのか,また下垂足症例の歩行に股外転筋力が影響しているのかを検討することである.
    【方法】
    対象は腰椎変性疾患症例115例(67.9±12.0歳.男性56例,女性59例)とし,股外転筋力,足関節背屈筋力(以下,足背屈筋力),足背屈筋MMT,TUG,10m最大歩行速度(以下,歩行速度)を測定した.筋力はアニマ社製μTas F-1にて最大等尺性筋力を測定,ピークトルク体重比(Nm/kg)に補正した.対象のうち片側足背屈筋のMMTが3未満の13例を下垂足群,両側足背屈筋のMMTが5の32例を対照群とした.下垂足を呈する側もしくは足背屈筋の筋力低下側を劣位側,反対側を優位側とした.また下垂足群を劣位側股外転筋力の中央値で筋力良好群と筋力低下群に分類,対照群を含めてTUG,歩行速度を比較した.統計学的検討は対応のないt検定,対応のあるt検定,Kruskal Wallis検定を用いSteel-Dwass法にて多重比較を行った.有意水準は5%とした.本研究は文書にて説明を行い,署名にて同意を得た.
    【結果】
    股外転筋力は下垂足群劣位側0.65±0.40Nm/kg,優位側0.83±0.38Nm/kgであり有意に劣位側が低値であった.対照群劣位側0.85±0.39Nm/kg,優位側0.88±0.43Nm/kgで有意差を認めなかった.下垂足群と対照群の比較は劣位側,優位側とも有意差を認めなかった.歩行速度は下垂足群0.88±0.31m/s,対照群1.23±0.36m/s,TUGは下垂足群16.44±5.59秒,対照群11.89±4.83秒で,いずれも下垂足群で有意に低値であった.筋力良好群,筋力低下群,対照群の比較は,歩行速度の中央値1.04m/s,0.61m/s,1.28m/s,TUGの中央値12.40秒,20.35秒,10.36秒であり,いずれも筋力低下群と筋力良好群,筋力低下群と対照群で有意差を認めた.
    【考察】
    股外転筋力は下垂足群で有意に劣位側の筋力が低く,対照群では有意差を認めず,下垂足と関連して股外転筋の筋力低下が生じる可能性が示唆された.歩行能力との関係について,歩行速度・TUGとも,筋力良好群と対照群では有意差を認めず,筋力低下群が筋力良好群および対照群より有意に低下しており,下垂足症例の歩行能力に,股外転筋力低下の影響が大きい可能性があるものと思われた.
    【まとめ】
    腰椎変性疾患の下垂足を呈する症例は股外転筋力低下が同時に生じているか,下垂足症例の歩行に股外転筋力が影響しているか検討した.下垂足と関連して股外転筋筋力低下が生じ,股外転筋力が歩行能力に影響している可能性が示唆された.
  • 小宮 良太, 市川 毅, 今村 恵子, 川上 晶子, 佐藤 千明, 赤木 昭博, 三井 裕子, 小山 祐司
    セッションID: 193
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    腰部脊柱管狭窄症(LCS)患者の日常生活活動範囲は、間欠性跛行による歩行持久力の低下によって大きく制限されている。この主な原因は、一般的にしびれや下肢痛といった神経学的症状の増強であると報告されている。しかし、LCS患者の歩行持久力には、神経学的症状のみならず運動機能が大きく影響を及ぼしている可能性がある。そこで、本研究ではLCS患者の運動機能および神経学的症状を評価し、歩行持久力に影響を及ぼす因子について検討した。
    【方法】
    対象は、2008年10月~2011年10月の間に、当院に入院して理学療法を行ったLCS患者32例(男性20例、女性12例、年齢67±12 歳、身長163±11 cm、体重 60±10 kg)とした。除外基準は、LCS以外の原因による歩行障害を有する者とし、評価時期は入院時とした。評価項目について、歩行持久力の評価は6分間歩行距離(6MWD)とした。運動機能は、等尺性膝伸展筋力、腹部引き込み検査による腹横筋収縮圧の変化量、10m歩行速度、バランス機能としてFunctional reach test(FRT)とTime up & Go test(TUGT)を測定した。また、神経学的症状はしびれと下肢痛の程度をVisual analog scaleを用いてそれぞれ評価した。統計学的解析は、6MWDと各評価項目の関連性をPearsonの積率相関係数を用いて行った後、6MWDを従属変数、有意な相関関係を認めた因子を独立変数とした重回帰分析を行った。倫理的配慮について、当院の倫理規定に従って研究活動申請書を提出し、対象には研究内容を十分に説明して書面にて同意を得た。
    【結果】
    6MWDと有意な相関関係を認めた因子は、等尺性膝伸展筋力(r=0.354、p=0.047)、10m歩行速度(r=0.600、p<0.001)、FRT(r=0.663、p<0.001)、TUGT(r=-0.605、p=0.001)およびしびれ(r=-0.428、p=0.014)であった。その他の評価項目は、6MWDとの有意な関連性を認めなかった。その後の重回帰分析では、TUGTおよびしびれが6MWDの規定因子として抽出された(r=0.783、調整済みR2=0.582、p<0.001)。
    【考察】
    本研究の結果から、LCS患者の歩行持久力には従来報告されている、しびれの他に、バランス機能が大きく影響を及ぼしていることが考えられた。このことから、LCS患者では運動機能の中でも、特にバランス機能が低下することで、日常生活活動範囲が制限されている可能性が考えられた。LCS患者における歩行持久力を効果的に改善させるためには、しびれの軽減のみならずバランス機能の改善に対する介入が必要と考えられた。
    【まとめ】
    LCS患者の歩行持久力は、バランス機能およびしびれによって大きく影響を受けていると考えられた。
  • 尾内 勝治
    セッションID: 194
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
     パーソナルコンピューターの作業を代表とするVisual Display Terminals作業(以下VDT作業)は腰痛を生じやすいという報告がある.この原因の1つにSlumped Sitting姿勢(以下SS姿勢)の 長時間保持が挙げられる.SS姿勢は頭部が前方突出し,胸郭が前傾,骨盤が後傾している姿勢と定義されており,腰椎が屈曲している.脊柱構造変化の助長や腰痛発症リスクの増大などの報告があり,作業中にSS姿勢を抑えることが重要であるとされている.これらの予防のためには環境設定だけでなく姿勢意識も重要である.Won-gyuらは言語的教示によりSS姿勢を抑制させる研究をしている.教示には主に視覚的教示と言語的教示が挙げられるが,視覚的教示についての報告はない.そこで本研究の目的は作業中に与える言語的教示・視覚的教示が作業中のSS姿勢を抑制する効果があるか検討することとした.
    【方法】
    対象は健常若年男性9名とし,先行研究を参考に脊柱や骨盤に病歴のない者とした.対照条件と言語的教示条件,視覚的教示条件の3つの条件下で,対象者はノートパソコンへの文字入力作業を30分間行った.対象者の作業中の座位姿勢を2次元作計測システムにて頭部傾斜角度,体幹傾斜角度を30分間継続して計測した.また同時に,3次元動作計測システムにて教示のない時間帯40秒間の骨盤に対する胸郭の傾斜角度を5分間隔で計測し腰椎屈曲の指標とした.そして,基準姿勢と作業中の角度との差の平均値を条件間で比較した.対象者には本研究が姿勢に関する研究であることは説明せず,可能な限り多くのパソコンへ文字を入力するように説明を行った.統計は1元配置分散分析を行い,多重比較検定(Dunnet法)を用いた.危険率は0.05%未満とした.
    *国際医療福祉大学倫理審査委員会に研究実施の承認を得た(承認番号:10-175).
    【結果】
    2次元計測システムにおける頭部傾斜角度と3次元計測システムにおける骨盤に対する胸郭の傾斜角度にて,視覚条件のみが対照条件よりも有意に基準値に近い値であった.
    【考察】
    言語的教示では一定の効果が得られなかった原因として作業中の姿勢認識に差が生じたことが考えられる.それに対し,視覚的教示では,作業中の姿勢を画面で確認しながら調節できたためにどの被験者も同等に修正できたと考えられる.
    【まとめ】
    視覚的教示がVDT作業による腰痛予防方法の1つとなることが期待される.
  • 樋口 大輔
    セッションID: 195
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    ローランドモリス質問紙(RDQ)における3つの下位領域(精神的・身体的活動領域、起居動作領域、移動動作領域)が予測的妥当性を有しているかどうかを明らかにすること。
    【方法】
    術後約1年追跡できた腰椎変性疾患患者56人(61.5歳[中央値]、男性29人・女性27人)を対象とした。主な診断名は腰部脊柱管狭窄症(27人、48.2%)、腰椎変性辷り症(22人、39.3%)、腰椎椎間板ヘルニアであった(17人、30.4%)(重複あり)。また、41人(73.2%)が除圧固定術を受け、15人(26.8%)が除圧術を受けた。なお、いずれの対象においても術前に研究計画について説明し、記名による同意を得た。術前、退院時、追跡時にRDQと11-point numerical rating scale(腰痛・下肢痛強度)にて調査を行った。3時点における各調査項目をSteel-Dwass検定にて比較したのち、追跡時におけるRDQの3つの下位領域を従属変数、術前および退院時の3つの下位領域ならびに性別、年齢、内固定の有無を独立変数としたステップワイズ重回帰分析を行った。
    【結果および考察】
    RDQの3つの下位領域および腰痛強度の術前・退院時間の改善は有意であったが(いずれもp<0.01)、退院時・追跡時間の改善は有意ではなかった。下肢痛強度については退院時・追跡時間の改善も有意であった(p<0.01)。また、ステップワイズ重回帰分析により、(1)(追跡時精神的・身体的活動領域)=0.86(退院時精神的・身体的活動領域)+0.10(年齢)-5.11(調整済みR2=0.49)、(2)(追跡時起居動作領域)=0.36(退院時精神的・身体的活動領域)+0.04(年齢)-2.12(調整済みR2=0.44)、(3)(追跡時移動動作領域)=0.24(退院時精神的・身体的活動領域)+0.03(年齢)-1.63(調整済みR2=0.46)との有意な重回帰式が得られた(いずれもp<0.01)。退院時におけるRDQの精神的・身体的活動によって追跡時のRDQの3つの下位領域すべてをある程度説明できたことは、当該領域の予測的妥当性の高さを示していた。退院時の起居移動動作領域が術後約1年時の同領域を予測できなかったことは、退院時における起居移動動作の困難感はあくまでも入院生活の形態に基づく実感であり、退院後の自宅生活の形態や疼痛に対する対処戦略の変化によって個別的に変わりやすいことを反映していると考えられた。一方、精神的・身体的活動領域には、患者の心理学的状態を反映する質問も含まれているが、そのような心理学的状態の方がかえって自宅生活における活動や動作の困難感の予測には適しているのかもしれない。
    【まとめ】
    RDQの精神的・身体的活動領域は予測的妥当性を有している。
  • 飛永 敬志, 岡 浩一朗, 橋本 久美子, 宮崎 千枝子, 谷澤 真, 菅野 吉一, 安村 建介, 大関 覚
    セッションID: 196
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    高齢者の下肢筋力を簡便に評価する方法として、30秒間に何回椅子から立ち上がりが可能かを評価する30秒椅子立ち上がりテスト(CS-30)が行われている。これらの動作は加齢による筋力低下や膝痛を有する場合にその能力が低下することが予測される。人工膝関節全置換術(TKA)患者のアウトカム指標の一つとしても有用と考えられる。本研究はTKA患者のCS-30の経時的変化と各測定時期における身体機能や痛みとの関連について検討した。
    【方法】
    対象は2010年2月から2011年11月までに当院でTKAを施行した変形性膝関節症患者33例39膝とした。手術時年齢は73.0±6.5歳、BMI26.3±3.5 kg/m2、術後在院日数26.5±5.9日、術後リハは当院プロトコールに準じて退院後も術後3ヶ月間外来リハを実施した。CS-30は中谷らの方法に準じて行った。膝伸展筋力はBiodex System3を使い、isokinetic 60 deg/secで最大筋力を体重で除して算出した。バランス能力は開眼片脚起立時間、動的バランス能力はTimed Up and Go test(TUG)を測定した。痛みと機能は準WOMACの各尺度を用いた。各評価は術前、術後1ヶ月(退院時)および3ヶ月(外来通院時)に行った。統計解析はCS-30の変化を一元配置分散分析とBonferroni多重比較、CS-30と各要因との関連性に関してはpearsonの相関係数を用いて解析を行い、有意水準は5%未満とした。本研究は、倫理的配慮として対象者に研究内容の説明文書を用いて説明を行い、研究参加への同意を得た。本研究は当院の生命倫理委員会の承認 (0826) を受けて実施した。
    【結果】
    CS-30は12.4±3.7→13.0±3.5→14.3±4.3回と変化した。術前と比較して術後1ヶ月で有意な変化はなく、3ケ月で有意に改善を示した(p<0.01)。術後1ヶ月と3ヶ月での比較では有意に改善が見られた(p<0.01)。CS-30の術前では術側及び非術側膝伸展筋力、TUG、術側及び非術側の痛み、機能と有意な相関が認められた。術後1ヶ月では非術側膝伸展筋力、TUG、術側及び非術側開眼片脚起立時間と有意な相関が見られた。術後3ヶ月では術側及び非術側膝伸展筋力、TUG、術側及び非術側開眼片脚起立時間、非術側の痛み、機能と有意な相関を示した。
    【考察】
    TKA患者におけるCS-30は術後3ヶ月で改善が認められた。CS-30の成績は術側だけでなく非術側の筋力や痛みなどの影響を受けやすいことが示唆された。TKA患者にとってCS-30は下肢筋力の指標だけでなく、パフォーマンステストとしても応用可能で痛みや機能も反映する有用な指標と考えられる。
  • 圷 真毅, 石坂 正大, 渡邊 裕子, 田波 未希, 貞清 秀成, 齋藤 博樹, 木村 和樹, 久保 晃, 前野 晋一, 斉藤 聖二
    セッションID: 197
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    Functional Reach Test(以下,FRT)は簡便にバランス機能を評価する方法として臨床で広く用いられている方法であり,転倒の危険性を予測する指標とされている(Duncan et al. 1990).FRTは,自然な開脚立位で利き手の肩関節を90°屈曲した状態から,支持基底面を移動させずに上肢をできるだけ前方にリーチした際の到達距離を測定する方法である.今回FRTを用いて,人工膝関節置換術施行患者の,術前後のバランス機能を評価したので報告する.
    【方法】
    対象は,平成23年6月から平成24年2月までに当院で人工膝関節置換術を施行され,研究に同意を得られた変形性膝関節症患者17例18膝(男性5例,女性12例,右10膝,左8膝,平均77歳)である.術式は,単顆置換型人工膝関節置換術が2名,全置換術が14名,両側例が1名であった.全例セメントを用いてインプラントを固定し,ドレーンを使用せず,翌日より歩行を許可した.全ての被験者には事前に実施する課題の内容と目的を説明し,書面にて同意を得た.また,当院の倫理審査会の承認をあらかじめ得て行った.FRT計測は,術前,および術後1週間おきに4週まで行った.統計学的解析は,反復測定の1元配置分散分析を用い,下位検定としてBonferroniの多重比較検定を行った.有意水準はすべて5%未満とした.
    【結果】
    FRTは,術前25.1±7.3 cm,1週間後24.4±7.9 cm,2週間後26.7±7.9 cm,3週間後,25.7±6.8 cm,4週間後29.5±5.8cmであり,術後経時的に高値となる傾向を示した.統計学的に,4週間後のFRTが,術前および1週間後と比べると有意に高値であった.
    【考察】
    本研究において人工膝関節置換術後のFRTは,術後一時的に術前より低値となるものの経時的に改善し,4週後には有意に高値となった.人工膝関節置換術後の患者の歩行能力の改善には,筋力や可動域など様々な要素が絡むと思われるが,今回の研究により,FRTに示されるバランス能力の改善が関与している可能性が示された.
    【まとめ】
    人工膝関節置換術後患者のFRTは,術前より4週後に有意な改善がみられ,手術およびリハビリによりバランス機能の改善も得られていることが明らかとなった.
  • 寺山 圭一郎, 小川 明宏, 秋葉 崇
    セッションID: 198
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
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    【目的】
    変形性膝関節症(以下膝OA)の多くは両側性であり,片側のみ手術で矯正された場合,歩行障害が残存するため,両側同時に人工膝関節全置換術(以下TKA)を施行することがある. 両側同時TKA の利点は,麻酔,手術,理学療法が一度で終了するため総入院期間が短縮されることであり,欠点は,手術侵襲が大きく出血も多いため, 術後合併症が危惧されることである.両側同時TKAと片側TKAの術後理学療法の進行状況について比較した報告は少ない.今回,当院にて両側同時TKAを施行した3例と片側TKAを施行した22例を比較し,理学療法実施における注意点を検討した.
    【方法】
    2011年3月から2012年2月に当院にて両側同時あるいは片側TKAを施行した症例のうち,同意の得られた25例(両側3例,片側22例)を対象とした.それぞれの術後,離床,起立開始,T字杖歩行自立,退院までの期間を算出し,片側施行群の平均を求め,その結果を両側同時の3例と比較した.
    【結果】
    片側群の平均は,離床までが1.68±0.48日,起立開始までが3.59±1.44日,T字杖歩行自立までが13.60±5.15日,退院までが28.86±6.75日となっていた.一方,両側同時は,離床が3例とも2日,起立開始は,症例1が6日,症例2が4日 ,症例3が7日,T字杖歩行自立は,症例1が13日,症例2と3が9日 ,退院は,症例1が26日,症例2が30日 ,症例3が29日となっており,離床と起立開始までは片側群が短かったが,T字杖歩行自立は両側同時が全例とも片側群よりも短かった.
    【考察】
    両側同時TKAは手術による侵襲が大きく,両側に疼痛があるため,離床,起立開始までに期間を要したことが考えられた.しかしながら,手術侵襲による疼痛が軽減されると,両側とも膝OAによる疼痛が認められなくなることからT字杖歩行自立に至るのが早かったと考えられた.両側同時にTKAを施行した症例は,手術侵襲による疼痛が軽減し,荷重が可能となれば,早期にT字杖歩行が自立すると予想されるため,術後早期は離床を焦らず,合併症の予防に務めることが重要であると考えられた.
    【まとめ】
    今回,術後理学療法の経過について,両側同時の3例と片側群の平均を比較検討したところ,両側同時例は離床,起立練習開始までの期間は長かったが,T字杖歩行自立までは短かった.これは,手術侵襲による疼痛が影響していると考えられた.両側同時が3例と少ないため,今後,症例数を増やし,さらなる比較検討を行う必要がある.
  • 渡邉 博史, 古賀 良生, 大森 豪
    セッションID: 199
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
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    【目的】
    X線学的な変形性膝関節症(以下膝OA)と症候性膝OAに差があることは指摘されている。我々はこれまでX線学的膝OAの危険因子を疫学的に検討してきた。今回、症候性膝OAに着目しその要因について検討したので報告する。
    【対象】
    2007年と2010年の新潟県十日町市松代地区住民膝検診を両方とも受診した800名(26-95歳、68.0±11.7歳):1593膝を対象とした。
    【方法】
    検診内容は問診(膝痛の有無等10項目)や視触診(円背、歩容、関節可動域等15項目)で、他に体組成及び筋力測定と立位膝関節前後X線撮影(以下X線)を実施した。X線画像から膝外側角(以下FTA)をデジタイズして求め、膝OA病期はK-L分類の5段階で評価した。また3年間の膝痛変化から、なし→なしを無症群(女性599膝、男性614膝)、なし→ありを出現群(女性82膝、男性54膝)、あり→なしを消失群(女性76膝、男性42膝)、あり→ありを有症群(女性79膝、男性44膝)とし4群に分けた。そして無症群・出現群間、消失群・有症群間を目的変数に、年齢及び膝OA病期進行度を含む2007時のすべての視触診及び測定項目を説明変数として多変量解析を行い、膝痛の出現した要因、膝痛の消失した要因を男女別に検討した。本研究は対象者に説明し同意を得て行った。
    【結果】
    無症群・出現群間の女性では、圧痛の有無と体脂肪率で差を認め、圧痛の割合は無症群5.5%、出現群18.3%、体脂肪率は無症群30.9±7.0%、出現群33.9±5.9%で、どちらも出現群が有意に高い値であった。男性では、膝屈曲制限の有無で差を認め、膝屈曲制限の割合は無症群1.5%、出現群11.1%で出現群が有意に高い値であった。消失群・有症群間の女性では、股関節内旋可動域(以下内旋)と体脂肪率で差を認め、内旋は消失群33.4±18.1°、有症群25.9±14.5°、体脂肪率は消失群32.5±6.1%、有症群34.6±6.6%で、消失群は内旋が有意に大きく、体脂肪率が有意に低い値であった。男性では、膝内反動揺(以下動揺性)の有無とFTAで差を認め、動揺性の割合は消失群45.2%、有症群75.0%、FTAは消失群176.6±3.4°、有症群179.5±5.5°でどちらも消失群が有意に小さい値であった。
    【考察】
    膝痛出現の関連因子として女性では圧痛があることや体脂肪率が高いこと、男性では膝屈曲制限があることが示された。また、膝痛消失の関連因子として女性では、股関節の内旋が保たれていることや体脂肪率が高くないこと、男性では動揺性がないことやFTAが大きくないことが示された。このことから、症候性膝OAに影響する因子には性差があり、男性では膝自体に、女性では膝以外に影響因子が存在することが示され、これらを考慮した理学療法を行っていく必要性が重要である。
  • 松田 孝史, 加賀 なおみ, 水谷 準, 内山 陽子, 涌井 元博
    セッションID: 200
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/07
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
     近年,患者自身のQOLや患者満足度が重要視されてきており健康関連QOL(以下HRQOL)に関する報告を散見する.今回,人工股関節全置換術(以下THA)施行患者のHRQOLを調査し,術前後における股関節機能との関係性と,経時的推移を検討したので報告する.
    【方法】
     対象は2010年5月から2011年8月までに当院でTHAを施行した31例32関節(男性5例,女性26例,平均年齢64.6±11.3歳).調査項目は,股関節機能として日本整形外科学会股関節機能判定基準(以下JOA score)を,HRQOLはSF-36v2日本語版(以下SF-36)を使用し,術前,術後1ヶ月,3ヶ月,6ヶ月で評価を行った. SF-36は身体機能(以下PF),日常役割機能-身体(以下RP),体の痛み(以下BP),全体的健康感(以下GH),活力(以下VT),社会生活機能(以下SF),日常役割機能-精神(以下RE),心の健康(以下MH)の8尺度で構成される.統計的手法にはJOA scoreとSF-36との関係はSpearmanの順位相関を用い,術前後の比較はKruskal-Wallis検定,多重比較はScheffe法を用いた.また,SF-36の結果と年齢層別(60~69歳)国民標準値(以下標準値)との比較には対応のないt検定を用いた.有意水準は危険率5%未満とした.対象者には書面にて説明し,同意を得て行った.
    【結果】
     JOA scoreとSF-36の各項目との関係は,術前でPF,RPと,術後1ヶ月から6ヶ月でPFと正の相関を認めた.術前後の比較は,JOA scoreは術前と術後3ヶ月,6ヶ月で有意差を認めた.SF-36の各項目は,PFとBPで術前と術後3ヶ月,6ヶ月で有意差を認め,RPで術前と術後6ヶ月で有意差を認めた.標準値との比較は,PF,RPは術前後を通して有意差を認めた.BPは術前から術後3ヶ月まで有意差を認め,術後6ヶ月で有意差がなくなった.VT,MHは術前で有意差を認め,術後から有意差がなくなった.SFは術前,術後1ヶ月で有意差を認め,術後3ヶ月以降有意差がなくなった.REは術前から術後3ヶ月まで有意差を認め,術後6ヶ月で有意差がなくなった.
    【考察】
     JOA scoreはSF-36の身体的健康度を示す項目とは関係性が比較的高いが,痛みや精神的健康度とは関係性が低いことが分かった.また術前後の比較では,JOA scoreや,SF-36の身体的健康度を示す項目は術後3ヶ月から改善することが分かったが,標準値と比較すると有意に低値となる項目もあり十分な健康感が得られていない事が示唆された.精神的健康度を示す項目は,標準値と比べ術前は低値であったものの術後6ヶ月までに全て標準値に達していた.このことより,当院THA患者の精神的健康感は術後6ヶ月までに概ね満足度を得られているのではないかと考える.
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