【背景】回復期リハビリテーション病棟( 回復期病棟) では疾患別に入院期間が決められており,その期間内での適切なリハビリテーション目標の設定が肝要である.脳卒中患者では自立歩行の獲得は重要な目標の1 つであり,入院時に歩行自立が獲得可能かを予測・推定することはプログラムを立案する際に重要となる.近年,回復期病棟入院時の基礎情報,身体・認知機能評価から歩行獲得に関連する因子の報告は散見されるが,観察期間の相違や小脳・脳幹病変,くも膜下出血や高次脳機能障害の評価が含まれていないことから,歩行自立の獲得を予測・推定することはしばしば困難である.そこで,今回我々は,自立歩行の目標設定に有用な歩行自立の獲得に関連する因子の解明を試みた. 【対象および方法】2017年4月から2018年10月までの期間に当院を入・退院された脳卒中患者105名(男性53名,女性52名,平均年齢73.6±11.3)を対象とした.発症7 ヶ月までの機能的自立度評価法(FIM)6 点以上を歩行自立可として2 群に分け,入院時の身体機能(端座位の可否・下肢麻痺レベル[BRS]・非麻痺側の下肢筋力[MMT]),認知機能(注意障害・FIM 認知項目[認知FIM]),基礎情報(年齢,性別,体重,脳卒中のタイプ,発症部位,下肢疼痛,糖尿病)を調査し比較した.統計解析は,入院時の身体・認知機能評価,基礎情報を用いた2 変量解析にて有意であった項目を独立変数に,歩行自立の可否を従属変数に,発症から歩行自立までの日数(歩行非自立群は観察日数)を時間変数としてCox 比例ハザード分析を行い,歩行自立と関連する因子を抽出した.抽出された因子については,ROC 曲線を用いてarea under curve (AUC)とcut off 値を算出した.なお本研究は天理よろづ相談所病院倫理委員会で承認を得た(承認番号973). 【結果】FIM 6点以上の歩行自立群は41名(39.0%)であった.Cox比例ハザード分析の結果,自立歩行と関連する因子として,認知FIM(ハザード比[HR]1.06, P <0.01),BRS(HR 1.62, P = 0.02) ,端座位の可否(HR 7.92, P = 0.04)が抽出さ れた. ROC 曲線によるAUC とcut off 値は,認知FIM では AUC 0.81, cut off 値は27 点(感度0.63, 特異度0.82),BRS ではAUC 0.77,cut off 値は ステージⅤ(感度0.89, 特異度0.50)であった. 【考察】本研究で抽出された下肢麻痺レベルおよび座位能力は,歩行自立への関連因子として先行研究でも報告されており,同様の結果であったが,認知FIMと歩行自立との関連に関する報告は見当たらず,新しい知見と考えられた.今後,臨床応用を目的に認知FIM の詳細項目と歩行自立との関連を,さらに対象者を増やし検討を行いたい.
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