天理医学紀要
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24 巻, 1 号
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2020年度学術講演会
原著
  • スタッフナースの倫理的感受性及び倫理的看護実践の向上を目指したアクションリサーチ
    丹生 淳子, 池嶋 三賀, 正田 世津子, 竹之内 沙弥香
    2021 年24 巻1 号 p. 15-26
    発行日: 2021/12/25
    公開日: 2021/07/01
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    目的:アクションリサーチの研究手法にもとづいて看護管理者が自部署で倫理カンファレンスを開催することによって,スタッフナースの倫理的感受性及び倫理的看護実践を向上させ,倫理カンファレンスの継続的な開催に繋げることを目的とした.方法:研究計画に従い,看護管理者に,自部署で倫理カンファレンスの開催と,毎回のカンファレンス開催後に評価と課題について振り返りを依頼した.同時に,倫理カンファレンス開催後に実施するグループインタビューへの参加も依頼した.グループインタビューで語られた内容は,録音し,個人が同定できないよう逐語録を作成し,質的内容分析を行った.倫理的配慮:天理よろづ相談所病院倫理委員会の承認を得て実施した(通知番号925号2018年5月1日).自由意思による参加者の同意を得て,個人情報保護等を配慮した.結果:研究に同意した,A病院4部署の看護管理者9名が参加した.倫理カンファレンスは【参加者・人数を選択した計画】【開催時間を考慮した計画】により開催され,次第に【多職種倫理カンファレンスの計画】【スタッフナースの意向によるタイムリーな開催】となっていた.本研究に参加した看護管理者は,スタッフナースの【倫理的感受性の向上】【患者・家族の見方が変化】【倫理カンファレンス定着化に向けた変化】を感じ,この過程を通して<看護の方向性を作る立役者><倫理カンファレンス継続の環境作り>の役割を認識していた.さらに【倫理カンファレンスの事前準備】【倫理問題を捉える助言】をするなど,倫理カンファレンスの開催を繰り返すことによって【倫理カンファレンス開催への自信】を得ていた.結論:看護管理者による倫理カンファレンスの開催は,看護師の倫理的感受性及び倫理的看護実践を向上させ,倫理カンファレンスの継続的な開催につながることが示唆された

  • 影林 純佳, 川原 清哉, 久保 武, 沢村 博一, 小林 久人
    2021 年24 巻1 号 p. 27-36
    発行日: 2021/12/25
    公開日: 2021/07/01
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    【目的】肝臓腫瘍の局所療法としてラジオ波焼灼術(RFA)は広く普及し施行されている.新世代のマイクロ波焼灼術(MWA)はRFAと比べ短い時間で球状の広い焼灼野を得ることができる.この特徴は穿刺回数の減少や手技時間の短縮につながり,より低侵襲の治療が可能になると期待される.そこで我々は,肝細胞癌(HCC)と転移性肝腫瘍の治療における有効性と焼灼時間,穿刺回数についてMWAをRFAと比較検討した.【方法】2014年1月から2018年12月の間に行われたMWA 34例(HCC 26例,転移性肝腫瘍8例),およびRFA 274例(HCC 263例、転移性肝腫瘍11例)を対象として焼灼時間および穿刺回数,直後奏効率,3か月後と6か月後の局所再発率,合併症について比較検討を行った.【結果】直後奏効率はMWA 88.2%,RFA 92.3%で両者に差は見られなかった.3ヵ月後および6か月後の局所再発率はそれぞれMWAで6.7%と15.0%,RFAで5.4%と10.7%で, いずれもMWAとRFAの間に有意差は見られなかった.焼灼時間および穿刺回数はMWAで10.40 ± 4.26分,1.42 ± 0.56回,RFAでは23.20 ± 10.54分,2.76 ± 1.27回と,有意差をもってMWA群で少ない値を示した.合併症の発生頻度は両者で有意な差は見られなかった.【結語】MWAは少ない穿刺回数と短い焼灼時間でRFAと同等の効果を得ることができた.長期予後については検討が待たれるが,MWAはより侵襲度の低い治療として,肝腫瘍治療の重要な位置を占める可能性がある.

  • 山本 浩孝, 児嶋 剛, 岡上 雄介, 大槻 周也, 長谷部 孝毅, 柚木 稜平, 堀 龍介
    2021 年24 巻1 号 p. 37-43
    発行日: 2021/12/25
    公開日: 2021/07/01
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    背景:バセドウ病に対する甲状腺亜全摘出術は,バセドウ病の再発のリスクはあるものの,甲状腺機能の正常化が期待でき,その場合は術後抗甲状腺製剤,LT4製剤などの薬物の内服なしで寛解を持続させることができる.近年,再発を確実に回避することを意図して甲状腺全摘出術や甲状腺準全摘出術が推奨されているが,全摘出術は術後甲状腺機能低下が必発であり,LT4製剤を内服しなければならない.当科でのバセドウ病に対する甲状腺亜全摘出術は,2002年よりその術式を甲状腺両葉の亜全摘出術(以下両側亜全摘術)から甲状腺片葉切除と他葉の亜全摘出術であるHartley-Dunhill法 (以下Dunhill法) に変更した.Dunhill法では甲状腺片葉しか残っていないため, バセドウ病が再発し再手術が必要となった場合でも,片側のみの手術のため両側反回神経麻痺などの合併症リスクを低減することが可能である.今回,当科で施行した甲状腺亜全摘術の成績を報告する.方法:1997年から2019年までの22年間に甲状腺亜全摘出術を行い,術後6か月以上経過観察が可能であった128例について術後甲状腺機能を評価した.結果:51例に両側亜全摘術,77例にDunhill法を施行した.Dunhill法は両側亜全摘術よりも手術時間が短く,出血量が少なかった.両手術間で合併症や再発率に有意差は認めなかった.術後,最終観察時の甲状腺機能は,機能亢進17例,寛解27例,機能低下84例であった.甲状腺の残置量で再発率に有意差は認めなかった.再発した17例のうち3例に再手術を行ったが,術後に有意な合併症なく,現時点まで再々発なく経過している.結論:当科の過去22年間の甲状腺亜全摘出術の成績を報告した.甲状腺亜全摘出術は甲状腺機能を寛解できる可能性があるものの再発を完全に防止することは難しい.バセドウ病の手術としては甲状腺全摘出術が第一選択であるが,患者背景を鑑みて寛解を目指す甲状腺亜全摘出術を行うこともあり,その場合,初回手術をDunhill法とすることで,再発した際でも再手術を安全に行うことが可能である.

症例報告
  • 切石 達範, 中尾 真也, 近江 正俊, 保倉 祥太, 溝口 周作, 大橋 啓一, 西脇 弘一
    2021 年24 巻1 号 p. 44-48
    発行日: 2021/12/25
    公開日: 2021/07/01
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    目的:原田病に裂孔原性網膜剥離を合併し,遷延する炎症のため網膜下増殖が進み,網膜下索のため網膜復位を得られず,網膜下索を抜去することで網膜復位を得た症例を経験したので報告する.症例:63才男性が両眼充血を主訴に近医を受診した.右眼優位の両眼硝子体混濁を認め,ぶどう膜炎と診断された.全身の精査を行った結果,最終的に原田病と診断された.右眼トリアムシノロンテノン嚢下注射施行後,眼内透見性が向上し,裂孔原性網膜剥離を認め手術加療を行った.術後7日目に再剥離を認め手術を行うも,網膜皺襞のため復位を得られず当院紹介となった.原因裂孔は閉鎖されていたものの網膜下索を認め,網膜復位を妨げていると考え網膜下索抜去を行ったところ,網膜復位を得た.考察:原田病に裂孔原性網膜剥離が合併する例は多くはない.その理由として,炎症が脈絡膜および網膜色素上皮に限局するために硝子体変性が起こり難いことが挙げられる.しかし,原因裂孔が閉鎖されていても網膜下索のため網膜復位が得られない症例では,手術によって網膜下索を除去する必要がある.本症例では,稀ではあるが,原田病による炎症に裂孔原性網膜剥離が加わることによって網膜下索を形成し,網膜復位が妨げられていたと考えられる.結論:原田病に伴う裂孔原性網膜剥離において,網膜下索による網膜非復位例では,手術加療による網膜下索抜去にて網膜復位が得られる可能性がある.

総説
  • 大野 仁嗣, 大花 正也
    2021 年24 巻1 号 p. 49-62
    発行日: 2021/12/25
    公開日: 2021/07/01
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    胃MALTリンパ腫は,胃に発症する悪性リンパ腫の40%を占め,低悪性度B細胞リンパ腫に分類される.心窩部症状,嘔気などの非特異的な消化器症状を訴えることが多いが,検診で受けた上部消化管検査で異常を指摘されることもある.多発びらん・潰瘍,敷石状粘膜,早期胃癌IIc様陥凹,隆起性病変などの多彩な内視鏡所見を呈する.腫瘍細胞は小型ないし中型の胚中心細胞様の形態を示し,粘膜固有層で浸潤・増殖する.CD20,CD79a,BCL2陽性,CD5,CD10,CD23,BCL6,cyclin D1陰性である.6–26%の症例にt(11;18)(q21;q21)/API2-MALT1転座が認められる.転座は生検材料のFISH検査で検出する.約8割の症例はLugano分類のⅠ期またはII1期の限局期である.我が国では,胃MALTリンパ腫患者のHelicobacter pylori陽性率は90%である.H. pylori感染の診断法は,上部消化管内視鏡検査下に実施される検査法と,内視鏡検査を必要としない検査法がある.H. pylori陽性限局期胃MALTリンパ腫では,除菌治療が第一選択である.一次除菌の成功割合は67.5–92.6%,二次除菌の成功割合は83.9–98.0%で,除菌治療による胃MALTリンパ腫の奏効割合は50–80%である.治療効果判定には,Wotherspoon分類またはGELA分類が用いられる.t(11;18)/API2-MALT1は多くの研究で除菌治療抵抗性のバイオマーカーであることが明らかになっている.除菌治療抵抗例やH. pylori陰性胃MALTリンパ腫では低~中線量の放射線治療を実施する.Lugano分類II2期以上,Ann Arbor分類III期以上の進行期の症例では,リツキシマブ単剤投与や化学療法との併用治療を実施するが,症状がない場合や,低腫瘍量である場合はwatchful waiting policy(慎重な経過観察)を適用してもよい.

令和2年度受賞
  • 石川 翔, 佐田 竜一, 明保 洋之, 三宅 啓史, 石丸 裕康, 八田 和大
    原稿種別: 受賞
    2021 年24 巻1 号 p. 66-67
    発行日: 2021/07/01
    公開日: 2021/07/01
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    【症例】87 歳 男性. 【主訴】急性発症の腹痛,腹部膨満感 【既往歴】リウマチ性多発筋痛症,2 型糖尿病 【現病歴・経過】5 日前から間欠的な腹痛を自覚し,1 日前には38℃台の発熱を認めたため,近医に入院し抗菌薬治療が開始されたが改善なく,CT にて腹水貯留,腸間膜脂肪織濃度の上昇を認めたため当院に転院搬送となった.入院5 日目に診断目的で行った試験開腹にて大網・腸間膜に多数の黄色結節性病変を認め,病理で壊死を伴わない類上皮肉芽腫を多数認めた.結核罹患歴はなくT-spot も陰性であったが結核性腹膜炎を疑った.全身状態の悪化が著しく,4 剤併用療法での結核治療を開始したが,その後も全身状態は増悪の一途であった.腹水抗酸菌培養も陰性であったことから腹膜サルコイドーシスの可能性を考え,入院28 日目にプレドニゾロン30mg/ 日投与開始したところ,全身状態は著明に改善した.最終的には6 週間の腹水抗酸菌培養も陰性であり抗結核薬中止し,腹膜サルコイドーシスと最終診断した.3ヶ月の経過で退院し,その後も,1 年半外来でフォローしているが,再発なく経過している. 【考察】高齢発症や肺外症状のみのサルコイドーシスは稀である.肺外症状のみの場合,結核などとの鑑別が問題となるが,どちらの疾患も確定診断が難しい.急性腹症の経過で発症し,治療と診断に難渋した腹膜サルコイドーシスの一例を報告する.

  • 林田 雅彦, 前川 ふみよ, 小橋 陽一郎, 大野 仁嗣
    原稿種別: 受賞
    2021 年24 巻1 号 p. 68-69
    発行日: 2021/07/01
    公開日: 2021/07/01
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    末梢血を用いた血管免疫芽球性T 細胞リンパ腫(AITL) の診断法を報告する.【材料と方法】リンパ節生検でAITL または類似の病理形態を示した20 例の末梢血から調整した白血球・単核球と,EDTA 血漿cell-free DNA (cfDNA) を用いた.リンパ腫細胞の検出と定量のために,2 種類の抗体パネルを用いた2 ステップの10 色 multicolor flow cytometry (M-FCM)を構築した.CD3 陽性例はTCRVβレパトア解析でクロナリティを判定した.RHOAG17V/ IDH2R172 変異はAS-PCR で検出した.【結果】全例でリンパ腫細胞を検出した.11 例でCD3dim,7 例でCD3,3 例でCD4dim,3 例でCD5++,7 例でCD7dim/–.リンパ腫細胞のCD10 陽性率は0–100%(中央値15.7%).10 例で TCRVβレパトアのクロナリティを認めた.これらの形質はリンパ節の結果と概ね一致した.末梢血白血球に占めるリンパ腫細胞は0.01–18.22%(同0.26%),絶対数は0.5–1491.6 個/μL(同29.3 個).RHOA 変異は14 例(70%), IDH2変異は3 例(15%)(RHOA変異と重複)で認め,これらの結果はリンパ節,末梢血,骨髄,腹水などと一 致した.【考案】AITL では末梢血中にリンパ腫細胞が高頻度に認められる.一方,cfDNA はAS-PCR のテンプレートとして使用可能である.従って,末梢血M-FCM とcfDNA のRHOA/IDH2 変異解析を組み合わせたliquid biopsy はAITL の迅速・非侵襲的診断法である.

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