天理医学紀要
Online ISSN : 2187-2244
Print ISSN : 1344-1817
ISSN-L : 1344-1817
14 巻, 1 号
選択された号の論文の13件中1~13を表示しています
特別講演
原著
  • 武田 親宗, 松村 正彦, 南部 光彦, 大林 準, 萬砂 秀雄
    原稿種別: 原著
    2011 年 14 巻 1 号 p. 26-37
    発行日: 2011/12/25
    公開日: 2022/03/14
    ジャーナル フリー

    背景:川崎病(KD)は未だ原因不明の熱性疾患であり,最も多くかつ重篤な合併症は冠動脈瘤である.第一選択の治療法はガンマグロブリン大量静注(IVIG)であり,炎症を静め,冠動脈瘤発生を減らすことが知られている.しかし10-20%の患者はIVIG後も発熱が持続または再発し,動脈瘤合併の高リスク群となる.我々はどの因子がIVIGに対する反応性の低下と最も関連が深いかを検討した. 方法:対象はKDIVIG治療を受けた53名の患者で,その診療録を後顧的に調査した.まず,1 g/kgないし2 g/kgIVIGで治療を完了し得た39 名(反応群)と,それに反応せず更に追加治療を要した14名(不応群)の2群に分けて合計16項目の変数を分析した.それらは年齢,性,各種臨床検査値,及び3 種のスコア,即ち群馬スコア,久留米スコア,天理スコアである.後者は尤度法に基づくロジスティック回帰変数選択で推定した.各変数がどれだけ反応群と不応群とを見分けられるかの尺度としては,標準化距離(Δ),ROC曲線下面積(AUC),単変量ロジスティック回帰の統計量(Wald P)を計算した.ついで反応群の中で,1 g/kgで治療を完了した患者と,2 g/kgを必要とした患者の二つのサブグループに分け,同様の分析を行った. 結果:Δ値, AUC 値,及びWald P 値からみれば,群馬スコアは天理スコアとほぼ同等の結果を示し,他の変数や久留米スコアを凌駕していた.両スコアの基礎となったモデルを比較すると,群馬モデルではその開発と検証は別々のデータで行われたため,IVIG に対する不応性を予測する上では信頼性が高いといえる.ただ天理モデルが4変数からなるのに対して,群馬モデルは7変数からなり,その中には治療開始日数が含まれる.これは疾患の重篤度を反映する交絡因子とみなされる.群馬モデルから不要な因子を除き,もっと単純なモデルが作れないかという疑問が残る(Ockhamの剃刀).一方,反応群の中の二つのサブグループの判別では血清Na値と天理モデルが有意な予測因子であり,群馬モデルは有意とはならなかった. 結論:群馬スコアは久留米スコアや他の変数と比べて,IVIGに対するKD患者の不応性を予測する上で有用であり,天理スコアとほぼ同等な結果を達成した.しかし最適の変数の組み合わせ理想的な予測モデルを構築するためには,更に症例数を増やし分析を行う必要がある

  • -FDP とD-dimer との比較-
    長畑 洋佑, 次橋 幸男, 下村 大樹
    原稿種別: 原著
    2011 年 14 巻 1 号 p. 38-44
    発行日: 2011/12/25
    公開日: 2022/03/14
    ジャーナル フリー

    背景:肺血栓塞栓症(pulmonary thrombo embolism : PTE)は致死的な疾患であり,その診断において,病歴と臨床症状によるWells criteria と,感度の高い検査であるD-dimerは,PTEの除外診断に有用であることが知られている.一方でFDPも同じ凝固線溶系マーカーとして広く実施されている検査である.海外の臨床現場においてはPTEを検索する際にD-dimerFDPよりも優れていることを示すことが既に報告されている.しかしながら,日本国内の臨床現場において,本邦で利用可能な測定法やカットオフ値を用いてPTEに対するD-dimerFDPの有用性を比較した研究はなく,PTEの頻度も海外の頻度と異なる.そこで今回我々は,日本独自の診断体系を構築するための基礎として,FDPD-dimerPTEにおける診断能を比較することとした. 方法:研究デザイン:後ろ向きコホート研究.対象:200511日から201012 31日の期間に,PTEの診断で天理よろづ相談所病院に入院し,かつFDPD-dimer が測定された59例.201111日から131日までの期間に,PTEを認めず,FDPD-dimer が測定された178 例.主要アウトカム:全PTE 症例(59 例)におけるPTE に対するFDPD-dimerの感度.副次的アウトカム:Wells criteriaを評価可能であった52例のうち低リスク群及び中高リスク群それぞれにおけるPTEに対するFDPDdimer の感度.FDPD-dimer PTE に対するROC 曲線とそのAUC. 結果:全PTE症例(59 例)において,FDPD-dimerの感度はそれぞれ78%95%であった.Wells criteriaの低リスク群9例では,FDPの感度は78%(7/9),D-dimerの感度は100%9/9)であった.Wells criteria中高リスク群43例ではFDPの感度は74%D-dimerの感度は93%であった.ROC 曲線のAUC FDP0.688D-dimer0.745 であった. 結論:D-dimerFDPに比較してPTEに対して優れた感度を示した.本研究の結果,PTEを除外する検査として,D-dimerFDPより有用性が高い可能性が示唆された

症例報告
  • 飯岡 大, 前迫 善智, 中村 文彦, 大野 仁嗣
    原稿種別: 症例報告
    2011 年 14 巻 1 号 p. 45-51
    発行日: 2011/12/25
    公開日: 2022/03/14
    ジャーナル フリー

    臍帯血移植後に甲状腺中毒症を合併した成人T細胞白血病/リンパ腫(ATLL)症例を経験した.症例は,60歳女性で,第二寛解期に骨髄非破壊的前処置による臍帯血移植を施行した.移植後第21日に,急性GVHD(gradeⅡ)を発症したが,免疫抑制剤の増量により数日以内に改善した.第28日に生着を確認し,その後寛解を維持している.移植から約80日経過後,発熱,下痢や頻拍の症状と,検査所見で遊離サイロキシン高値(>7.7 ng/dL),甲状腺刺激ホルモン(TSH)定値(<0.1 μU /mL ),抗TSH受容体抗体陰性,99m-テクネシウム甲状腺摂取率低値を認めた.甲状腺痛は伴わず,無痛性甲状腺炎による甲状腺中毒症と診断した.発症時の中毒症状を強く認めたため,β遮断薬とプレドニゾロンの一時的投与を必要としたが,発症から2週間後には臨床症状・検査所見は改善した.無痛性甲状腺炎による甲状腺中毒症の病因は十分に解明されておらず,その疾病発症予測は未だ困難なことが多い.臍帯血移植後に発症した今症例では,発症因子として移植前処置における甲状腺傷害と,臍帯血移植に伴う免疫応答の賦活化が考えられた.一方で,GVHD反応とは発症時期や病勢が一致しなかった.ATLL患者における移植後発症の既報告は未だないが,特に自己免疫性甲状腺炎の併発頻度が高いHTLV-1キャリアにおける移植後疾病発症頻度,危険因子,病態の解析が今後望まれる.

  • 日和 良介, 飯岡 大, 前迫 善智, 中村 文彦, 西村 理, 岸森 千幸, 奥村 敦子, 大野 仁嗣
    原稿種別: 症例報告
    2011 年 14 巻 1 号 p. 52-58
    発行日: 2011/12/25
    公開日: 2022/03/14
    ジャーナル フリー

    症例: 64歳女性.15年前,左乳癌のため左乳房全摘術.27か月前,右乳癌のため右乳房部分切除術の後,FEC療法(フルオロウラシル,エピルビシン,サイクロフォスファミド),放射線照射(50 Gy),ドセタキセル療法を受けた.今回は労作時呼吸苦を訴えて救急車で来院した. 検査結果: ヘモグロビン4.5 g/dl,血小板1.3×104/μl,白血球1,200/μl,芽球70.0%.骨髄は正形成で芽球86.3%.芽球は細胞質豊富で,ペルオキシダーゼ8%陽性,非特異的エステラーゼ陰性,CD11c+, CD13+, CD14, CD33+, CD36.核型は46, XX,t(9;11)(p22;q23)FISHMLL遺伝子のスプリットシグナル,RT-PCR AF9-MLL融合mRNA を認めた. 治療経過: イダルビシン+シタラビン,ミトキサントロン+シタラビンによる化学療法で寛解に至った.しかし,経過中に上室性・心室性期外収縮,心室性頻拍をきた した.近々,非血縁者間同種骨髄移植を行う予定である. 考案: 本症例は,化学放射線療法後短期間で発症,単球様の形態,t(9;11) (p22;q23)転座から,トポイソメラーゼⅡ阻害剤による治療関連白血病と考えられる.治療歴からエピルビシンが責任薬剤であろう.乳癌化学療法による治療関連白血病の頻度は0.37%と報告されているが,両側乳癌患者での発症率は報告されていない.一方,アンスラサイクリンによる心毒性は心不全だけでなく不整脈も報告されており,本症例も該当する

  • 岡野 明浩, 高鍬 博, 中村 武史, 大花 正也, 久須美 房子, 鍋島 紀滋
    原稿種別: 症例報告
    2011 年 14 巻 1 号 p. 59-64
    発行日: 2011/12/25
    公開日: 2022/03/14
    ジャーナル フリー

    家族性大腸腺腫症を有さない特発性胃底腺ポリープはHelicobacter pylori 感染のない胃に発生すると報告されてきた. われわれはH. pylori に感染している胃に発生した特発性胃底腺ポリープの2例を記述した. その胃底腺ポリープは内視鏡的萎縮のない粘膜に発生した. 特発性胃底腺ポリープはH. pylori に感染すると消失し, H. pylori を除菌すると発生することが報告されている. すなわち特発性胃底腺ポリープはH. pylori 感染による炎症がある粘膜には発生しないとされてきた. しかしながら, 今回の2人の患者の内1人では胃底腺ポリープの周囲粘膜にH. pylori 感染と組織学的炎症所見が認められた. 我々の症例報告は,特発性胃底腺ポリープはたとえ H.pylori 感染による炎症があっても萎縮がない粘膜であれば発生しうることを示している.

  • 村田 光麻, 森田 和政, 宇谷 厚志, 宮地 良樹
    原稿種別: 症例報告
    2011 年 14 巻 1 号 p. 65-72
    発行日: 2011/12/25
    公開日: 2022/03/14
    ジャーナル フリー

    水疱性類天疱瘡は,後天性の自己免疫性水疱症で,主に皮膚を侵す疾患である.粘膜類天疱瘡では時に食道粘膜に病変を生じるが,水疱性類天疱瘡では稀である.水疱性類天疱瘡を発症し,上部食道粘膜に血疱,全周性の潰瘍を生じた82歳の日本人男性の症例を経験したので,報告する.食道潰瘍の形成は抗BP180抗体の抗体価に相関し,食道病変が水疱性類天疱瘡そのものによることを示唆した.抗BP180抗体陽性の水疱性類天疱瘡における食道病変については,日本人における数例しか報告がなく,それらの報告についてまとめた

  • 田中 寛大, 芝 剛, 佐野 史絵, 吉村 真一郎, 岡田 雅行, 三木 直樹, 松村 正彦, 水田 匡信, 野間 惠之, 南部 光彦
    原稿種別: 症例報告
    2011 年 14 巻 1 号 p. 73-79
    発行日: 2011/12/25
    公開日: 2022/03/14
    ジャーナル フリー

    3歳女児.左頸部腫瘤を主訴に当院へ入院した.腫瘤は硬く可動性不良で炎症所見は明らかではなかった.白血球数13,300/μlCRP 1.9 mg/dl.コンピュータ断層撮影および核磁気共鳴画像にて,主に左頸動脈間隙から甲状腺左葉にかけてひろがる病変を認めた.悪性腫瘍を疑い生検を行ったところ,術中に白色膿汁が流出した.膿汁の培養から,口腔内常在菌であるStreptococcus parasanguisを検出した.病理組織では,強い線維化を伴う慢性炎症像を主体とし,好中球浸潤を伴う急性炎症像を散見した.膿瘍が左側にあり,口腔内常在菌が起炎菌と考えられたため,梨状窩瘻を疑った.咽頭食道造影は,梨状窩瘻の診断に有用であると言われているが,患者の恐怖と不安のため施行困難であった.女児は普段からグレープジュースを好んで飲んでいた.そこで,グレープジュースとバリウムを等量ずつ混ぜて,グレープジュースの紙パックに戻し,ストローを用いて飲ませるように工夫した.中身が見えない紙パックに入ったグレープ味の造影剤を,普段のようにストローを用いて飲むことで,比較的良好な協力が得られ,検査を完遂することができた.この時の咽頭食道造影では瘻管を認めなかったが,切開排膿および抗菌薬治療により膿瘍は縮小し,退院した.退院3 か月後に再検した咽頭食道造影にて,左梨状窩から下方に伸びる瘻管を認めた. 小児報告例を集計したところ,特に就学前の小児において咽頭食道造影の有効性が低い可能性が示唆され,これは十分な協力が得られないためと考えられた.本症例の経験から,就学前の小児においても,検査方法を工夫することで,梨状窩瘻診断における咽頭食道造影の有効性が改善する可能性が示唆された

  • 佐田 竜一, 西田 誠, 橋本 就子, 東 光久, 石丸 裕康, 八田 和大, 郡 義明, 本庄 原
    原稿種別: 症例報告
    2011 年 14 巻 1 号 p. 80-86
    発行日: 2011/12/25
    公開日: 2022/03/14
    ジャーナル フリー

    症例は64 歳女性.約6 週間前から緩徐進行性の両下腿浮腫・体重増加が出現し,腹部膨満により屈伸できないほどの全身浮腫に至ったため当院に入院した.腹骨盤部造影CTにて胃壁の著明な脳回状肥厚を認め,上部消化管内視鏡にて胃体上下部大彎に巨大皺襞を認めたため,悪性腫瘍に伴う低栄養と癌性腹膜炎を考えた.腹腔穿刺により得られた腹水の細胞診は陰性であり,胃粘膜生検組織では腺窩上皮過形成と間質のリンパ球浸潤を認めるのみであった.尿素呼気試験陽性からHelicobacter pylori (H.pylori) 感染に伴うMénétrier's disease を疑い,H.pylori 除菌療法と共に高カロリー食摂取を促したところ,約2 週間の経過で急速に浮腫・低栄養が改善した. Ménétrier's diseaseは疾患概念が未だ曖昧だが,一般的には腺窩上皮細胞の過形成を特徴とする胃の巨大皺襞症で,酸分泌の低下および胃からの蛋白漏出による低蛋白血症を伴うものとされている.成人ではH.pylori感染が発症に関与していることが知られており,H.pylori 除菌により改善する. 本症例のように急速に進行する全身浮腫の鑑別疾患として,Ménétrier's diseaseは稀な病態であるため報告した

  • - 超音波凝固切開装置を用いた新しい手術 -
    藤村 真太郎, 庄司 和彦, 堀 龍介, 森田 真美, 岡上 雄介, 脇坂 仁美
    原稿種別: 症例報告
    2011 年 14 巻 1 号 p. 87-92
    発行日: 2011/12/25
    公開日: 2022/03/14
    ジャーナル フリー

    上咽頭に発生した良性の隆起性腫瘤2例を経験し,超音波凝固切開装置と硬性内視鏡の併用がその摘出において有用であったため報告する.いずれの症例も上咽頭後壁に基部を持つ血流豊富な隆起性病変であり,診断と治療のために全身麻酔下に摘出術を行った.確実な止血と摘出のための工夫として,軟口蓋を上方に牽引して口腔内より硬性内視鏡と超音波凝固切開装置を挿入し,腫瘍を切離した.いずれも手術時間は5 分以下,出血は少量と最低限の侵襲で腫瘍を摘出できており,また術後の疼痛や出血といった問題も認めなかった.組織診断の結果,1 例は化膿性肉芽腫,もう1 例は神経鞘腫であり,いずれも上咽頭に発生する病変としてはまれなものであった.

技術開発
  • 前谷 俊三, 瀬川 義朗, 萬砂 秀雄, 大林 準, 西川 俊邦, 高橋 康生
    原稿種別: 技術開発
    2011 年 14 巻 1 号 p. 93-107
    発行日: 2011/12/25
    公開日: 2022/03/14
    ジャーナル フリー

    癌治療においては全治を達成するのと,癌死を先延ばしするのとでは,患者の生存利得やQOLにおいて極めて大きい差が生じる.不幸にもlog-rank検定やCoxの回帰分析など従来の生存分析は,この二つの転帰を区別できず,癌治療や予後因子の評価において,臨床医の判断を狂わせることがあった.Cox自身も最近彼のモデルの限界を認めている.これらの問題は本研究を遂行する動機となり,医師が適切な生存情報を癌患者と共有できるようBoag モデルとその拡張に基づく癌の生存分析のコンピュータプログラムを開発し,そのCDROMを臨床腫瘍医に広く配布することを試みるに至った.本論文ではBoag モデルとその拡張について説明し,そのコンピュータプログラムをいかに実行するかを解説する. Boagモデルとは癌患者集団の中でcの割合は全治し,残りの1-cの割合は原病死(癌死)すると仮定する.更にその癌死までの期間の対数値は平均m,分散s2 の正規分布をすると仮定する.我々の第一の課題は与えられた患者集団においてこのBoag の三つのパラメータを推定することにある.第二の課題は競合リスクモデルに基づき,あらゆる原因の死亡リスクを考慮した上で全患者の平均余命を推定することに ある.第三の課題は予後因子(例えば治療法,検査データ,臨床病理学的所見)がBoagのパラメータに与える効果をGamelらの三つの回帰式を用いて推定することに ある.ここでは予後因子が独立変数であり,Boagの三つのパラメータc,m,sが従属変数となる.このコンピュータプログラムは最初HTBasic for Windowsで書かれ(前谷),Visual Basic for Application に翻訳された(萬砂).本生存分析は従来の方法よりも遥かに意味のある生存情報を,臨床腫瘍医や患者に提供すると期待している

各科から推薦された研究発表
天理医学研究所 研究発表会
feedback
Top