天理医学紀要
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12 巻, 1 号
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特別講演
原著
  • 前谷 俊三, 西川 俊邦, 長谷川 傑, 瀬川 義朗, 萬砂 秀雄, 大林 準
    原稿種別: 原著
    2009 年 12 巻 1 号 p. 19-32
    発行日: 2009/12/25
    公開日: 2022/04/15
    ジャーナル フリー

    背景:近年,癌の全治例が増加するにつれて臨床医は治療が実際に癌を全治するのか,それとも癌死を先に延ばすだけなのかを知ることや,更にどれだけの確率で全治が達成できるかを知ることが必要となってきた.この疑問に答えるためには,Boag モデル(パラメトリック治癒モデル)の三つのパラメータ,就中,全治率と平均対数生存期間を求めればよいが,伝統的に使用されてきたCoxモデルでは全治と延命とを区別できない.ただ,Coxモデルはハザード比というパラメータを一つだけもつのに対して,Boagモデルには不要なパラメータがあるおそれがある.そこでBoag モデルに冗長性がないか,また,両者を回帰モデルに拡張して,その回帰係数同士の関係を調べた. 方法:組織学的に漿膜または漿膜下に浸潤して治癒切除を受け,術後無作為に高用量または低用量のMMC UFT の補助化学療法を受けた1410 例の胃癌患者の追跡データ(T10試験)を用いた.18個の説明変数は二値変数に変換し,一個ずつGamel-Boagモデルを変更した三つの回帰モデルとCoxの回帰モデルに組み込んで,それぞれの回帰係数を最大尤度法で求めた.これらの係数は,各共変量が全治率と生存期間,及びハザード比に及ぼす効果を表す.Gamel-Boagモデルのデータ適合度は赤池の情報量基準で比較し,その各係数とCoxの回帰係数の間の関係は回帰分析で調べた. 結果:化学療法や他の因子は全治率のみに働くという仮説は,化学療法が全治率と生存期間の両者に働くという仮説と同等の適合度をもっていた.全治率を評価するためのGamel-Boagの回帰係数とCoxの回帰係数の間には高度に有意な相関と比例関係を認めた(|r| = 0.98, P < 0.0001).これと比べると生存期間を評価するためのGamel-Boag の回帰係数とCox の回帰係数の間の相関は,有意ではあるが低かった. 結論:全治可能な癌患者を対象にすれば,ハザード比から治療が全治効果をもつか否かを判定できるかもしれず,生存期間のための回帰係数は不要なパラメータかもしれない.しかし治療がもたらす生存利得の大きさを測り,よりよい治療法を選択するためには,Gamel-Boag のパラメトリック生存分析をすべきである

  • 田中 正巳
    原稿種別: 原著
    2009 年 12 巻 1 号 p. 33-41
    発行日: 2009/12/25
    公開日: 2022/04/15
    ジャーナル フリー

    目的:小腸コレステロールトランスポーター阻害剤エゼチミブを単独投与あるいはスタチンに併用した場合の脂質異常改善作用と安全性について検討する. 方法:当院外来通院中の脂質異常症患者55例(男性22例,女性33例)を対象として,エゼチミブ10 mg6 か月間投与した. 結果:エゼチミブは単独療法群,スタチンとの併用群いずれにおいても,LDL-コレステロール(LDL-C)を有意に改善させた.単独療法群に比べ,スタチン併用群の方が改善度は大きかった.HDLコレステロール,中性脂肪は有意な効果を認めなかった.エゼチミブのLDL-C低下作用は,糖尿病,高血圧合併例でも認められた.動脈硬化性疾患予防ガイドライン2007年版におけるLDL-C管理目標値への到達率は,冠動脈疾患のリスクが高まるにつれて低下したが,エゼチミブとスタチンの併用群では二次予防群でも達成率が高まる傾向を示した.エゼチミブ投与前後で肝,腎機能,尿酸,CK, 電解質, HbA1c は有意な変化を認めなかった.有害事象は認めず,全例がエゼチミブ内服を継続できた. 結論:エゼチミブの優れた脂質代謝改善作用,高い忍容性及び安全性が確認された.糖尿病,高血圧などの心血管病ハイリスク群でも有効かつ安全であり,本邦の心血管イベント減少に寄与する可能性のある薬剤と考えられた.スタチン単独投与でLDL-C低下が不十分な症例や二次予防群では,エゼチミブとスタチンの併用療法が有効と考えられた

  • ―2 症例の検討―
    景山 卓, 守田 純一, 宮西 節子, 末長 敏彦
    原稿種別: 原著
    2009 年 12 巻 1 号 p. 42-51
    発行日: 2009/12/25
    公開日: 2022/04/15
    ジャーナル フリー

    背景:水チャネル蛋白のひとつ,aquaporin 4 (AQP4)に対する自己抗体は,視神経炎と脊髄炎を来す脱随疾患,Neuromyelitis Optica (NMO) の患者血清で検出される.NMO は同じ中枢神経脱随疾患である多発性硬化症(Multiple Sclerosis, MS) との異同が長年議論されてきたが,近年この自己抗体の有無に基づいて両者の臨床型の違いが明らかにされてきた.またこれらに対する治療方針を決定するうえでも,抗AQP4抗体の有無が重視されるようになっている. 方法:ヒトAQP4 green fluorescent protein (GFP) のキメラ蛋白を強制発現させたHEK293 細胞を,臨床的にNMOまたはMS (Classical MS, CMS)と診断された2 症例から得られた血清と共に2 時間培養したのち,赤色蛍光でラベルした二次抗体で免疫染色を行い,蛍光顕微鏡下で観察した.NMO またはMS の診断はそれぞれWingerchuk の基準およびMcDonald の基準に基づいて行った. 結果:AQP4発現細胞に,臨床的にNMOと診断された患者の血清を反応させた例では,AQP発現細胞に一致して点状の赤い蛍光が観察された.これに対し臨床的にMS と診断された患者の血清を反応させた例では,赤い蛍光はみられなかった.一方、NMO患者の血清をAQP4非発現細胞に反応させた際にも赤い蛍光は確認できなかった.結論:NMO患者から得た血清はAQP4 発現細胞と特異的に反応することが示され,今回の抗AQP4抗体検出法の有用性が確認された

  • 松谷 泰男, 兼田 直美, 田中 希世子, 中島 壽恵, 内田 雅子, 福原 真美, 杉村 充子, 阿部 教行, 木下 真紀, 畑中 徳子, ...
    原稿種別: 原著
    2009 年 12 巻 1 号 p. 52-60
    発行日: 2009/12/25
    公開日: 2022/04/15
    ジャーナル フリー

    背景:悪性疾患終末期の経口摂取不能例に対する在宅静脈栄養(home parenteral nutrition :HPN)に関しては,一定した方針は定まっておらず,ガイドラインにも明確な記載がない. 天理よろづ相談所病院で腹部悪性疾患終末期患者に施行したHPN例を検討することにより,客観的な評価指標としての余命の推定を試みた. 方法:19944月~20084月の間に腹部悪性疾患により経口摂取不能となり中心静脈栄養(total parenteral nutrition : TPN)を試みた124 例につき,HPN 実施76 例,非実施48 例の比較検討を行うと共に,余命の推定を試みた. 結果:HPNの実施期間は98.1日(中央値33.5日),TPN開始後生存期間中央値は108.5日, 一方HPN の非実施例の生存期間中央値は32.0 日であった.HPN 実施例中48 例(71%)は本人若しくは家人1人のみの管理で,主たる管理者の体調急変時の管理体制等,今後に課題を残した.HPN非実施の理由は,原疾患の悪化が大半(34 例,71%)で,在宅管理には移れなかったが,HPN指導は完了していた例が18例あり,これらは約2か月の余命が見込めた.残り14例の指導が完了できなかった症例では平均生存期間は1か月を切っていた. 小野寺の予後栄養指標(PNI)が末期癌の余命と関連するかを調べたところ,有意な相関を認めた.更に小野寺らと同様に予測因子としてアルブミンとリンパ球を用いて,重回帰分析により余命の推定を試み,対数余命(日) = 0.19 × 血清アルブミン(g/dl) + 0.0002 × 末梢血リンパ球数(/mm3) + 1.04 という式を得た. 実際の余命とは有意な相関を示したが,散布図より見ると回帰直線よりの乖離がなお大きく,新しい予測因子を組み入れて,予測精度の更なる改善が望まれる. 結論:当院での腹部悪性疾患進行例に対するTPN施行例を用いて余命推定を行った結果,小野寺のPNI及び我々が重回帰分析から導いた推定余命と実際の余命は有意に相関することがわかった.しかし個々の患者の余命をより正確に推測するためには,新たな予測因子を組み込んだ重回帰分析の吟味が必要である

症例報告
  • 日和 良介, 佐田 竜一, 東 光久, 石丸 裕康, 八田 和大, 郡 義明
    原稿種別: 症例報告
    2009 年 12 巻 1 号 p. 61-67
    発行日: 2009/12/25
    公開日: 2022/04/15
    ジャーナル フリー

    症例は42歳女性で,8年前から摂食障害があり,特定の食物(キュウリ,キノコ,焼き海苔,コンニャク,大根)のみを摂取するという食習慣を持っていた.入院2か月前からやせと浮腫が増悪したため近医を受診した際に,肝機能異常と甲状腺機能低下症を指摘され当院総合内科へ紹介された.外来加療中,妄想のエピソードがあり精神科へ入院した.入院後は病院食を全量摂取し,妄想は軽快したが肝機能異常が増悪したため,総合内科へ転科した.リフィーディング症候群による臓器障害と考えられ,経口のリン補充を行って経過を観察したところ,肝機能異常は改善した.甲状腺機能低下症はノリ大量摂取によるヨード過剰が原因と思われ,海藻類の摂取を禁止して経過を観たところ,euthyroidとなった. リフィーディング症候群は,稀な病態ではないが,広く一般に知られていない.低栄養状態の患者を認識し,栄養補給の際に予防を行うこと,および早期にリフィーディング症候群の病態に気付き治療を開始することが重要である.本症例では高度肝機能障害がみられたが,リフィーディング症候群による肝機能障害と,脂肪性肝炎によるリン需要亢進が互いに病態を増悪させていた可能性が考えられる. ヨード過剰摂取では,ヨードの有機化が抑制される.健常人では通常この現象は一過性であるが,健常人の中に機能低下が続く例もある.海藻類の摂取量が多い我が国では,甲状腺機能低下症の鑑別に,ヨード過剰摂取を挙げる必要がある

  • 水田 匡信, 庄司 和彦, 髙橋 淳人, 伊木 健浩, 松原 真美
    原稿種別: 症例報告
    2009 年 12 巻 1 号 p. 68-74
    発行日: 2009/12/25
    公開日: 2022/04/15
    ジャーナル フリー

    上縦隔から頸部におよぶリンパ管腫に対し頸部切開のみのアプローチで摘出しえたので報告する.症例は28歳男性.健康診断時の胸部単純X線写真にて異常を指摘され当院を受診した.胸部造影CTにて大動脈弓下部レベルから甲状腺下極レベルにおよぶ約8 cm大の低吸収域を呈する腫瘤を認め,嚢胞状腫瘤と考えられた.胸腺嚢胞やリンパ管腫,甲状腺嚢胞などが鑑別に挙がったが,高度の気管狭窄を認めたために摘出術を施行した.術中に嚢胞液を排液することにより良好な視野が得られ,頸部切開のみで合併症なく完全摘出することができた.術後胸部単純X線写真にて気管偏移および狭窄の軽快を確認した.病理組織検査ではリンパ管腫の診断であった.良性腫瘍の場合,縦隔の腫瘍であっても腫瘍の下端が大動脈弓レベルであれば,適切な手順,剥離により頸部切開のみで摘出することは可能であり,特に本症例のように嚢胞状のものならば内用液を排液することで摘出はより容易になると考えられた.

  • 津崎 光司, 佐田 竜一, 東 光久, 石丸 裕康, 八田 和大, 郡 義明
    原稿種別: 症例報告
    2009 年 12 巻 1 号 p. 75-81
    発行日: 2009/12/25
    公開日: 2022/04/15
    ジャーナル フリー

    症例は24歳男性.2週間持続する40℃前後の発熱と脾梗塞による左季肋部痛を主訴に受診し,精査の結果Haemophilus parainfluenzaeによる感染性心内膜炎と診断した.セフェピム1 g × 2 回を3 日間,セフトリアキソン2 g × 1 回を3 日間投与するも効果不十分だったため,セフトリアキソン2 g × 2 回に増量し,6週間投与を行った.6週間のセフトリアキソン投与終了後,右季肋部痛を訴え始めたため,精査すると胆嚢結石を発見した.入院時には胆嚢結石は認めておらず,セフトリアキソンによる胆石症と診断した.絶食補液,ウルソデオキシコール酸にて経過観察としたが,胆石発作を繰り返したため,腹腔鏡下胆嚢摘出術を施行した.摘出された胆汁,胆嚢結石からはセフトリアキソンを検出した.成人男性でセフトリアキソン使用による胆石症をきたす例は稀で,また手術適応となることは珍しい.高用量でのセフトリアキソンの長期投与を行う際には胆石症のリスクに関して注意する必要があると考え,報告した.

各科から推薦された研究発表(2008年度)
天理医学研究所 研究発表会2008
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