敬心・研究ジャーナル
Online ISSN : 2434-1223
Print ISSN : 2432-6240
1 巻, 2 号
選択された号の論文の17件中1~17を表示しています
  • ―新たな地域開発理論:地域生命学的アプローチの提示―
    宮嶋 淳
    2017 年 1 巻 2 号 p. 1-12
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/09/20
    ジャーナル フリー

     本稿では、わが国の地方都市と日本型ソーシャルワーカーの現状を題材に、筆者が行なったフィールド調査から得た知見を提示し、日本型ソーシャルワーカーの新たな養成のための教育改革への視点を検討した。

     筆者の認識は、地方都市が活性化するためには、地域の「助」から排除され、周縁化した人々の「生と死」に関わる歪められた選択を「幸せな選択」に修正していく必要がある。そのために、すべての人の「生と死」を受け入れる地域での居場所が必要であり、それが伝承される土台としての文化と教育がなされることが大切だというものである。

     そうした認識を日本型ソーシャルワーカーが学び、包括的な相談支援力を発揮するためには、日本型ソーシャルワーカーの新たな養成教育カリキュラムに、筆者による試みなど、事実や事例から抽出された実践理論が取り込まれるべきであろう。

  • 根岸 裕, 坂本 雄, 比嘉 和也, 井上 諒, 沖野 桃子
    2017 年 1 巻 2 号 p. 13-18
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/09/20
    ジャーナル フリー

    [目的] 慢性閉塞性肺疾患(Chronic Obstructive Pulmonary Disease:COPD)患者の在宅酸素療法(Home Oxygen Therapy:HOT)の外出用酸素運搬手段の違いが運動耐容能にどのような影響を及ぼすのかを検証する。

    [方法]COPD 急性増悪にて入院しHOT 導入に至った2症例と、COPD 急性増悪にて入院し労作時の酸素流量を再検討した1症例の計3症例に対し、1日2回の7日間、牽引型とシルバーカー型の酸素運搬手段をランダムに使用し、6分間歩行試験(6MWT)の歩行距離と経皮的酸素飽和度(SpO2)の変化量を比較した。

    [結果]歩行距離は3症例ともシルバーカー型が延長した。SpO2の変化量は歩行開始時から最大低下時の差を算出し、3症例ともシルバーカー型の変化量が少ない値を示した。

    [考察]シルバーカー型の酸素運搬手段は左右非対称姿勢を 改善し、上肢支持による下肢筋の負担軽減と呼吸補助筋の効率性向上、体幹前傾姿勢による高肺気量位での換気効率向上をもたらし、運動耐容能を向上させたと考えた。

  • 吾妻 導人, 玉田 良樹, 四方田 博英, 大曽根 有美, 香川 賢司
    2017 年 1 巻 2 号 p. 19-23
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/09/20
    ジャーナル フリー

    両側延髄内側梗塞は極めて稀な疾患で、その多くは中枢性呼吸障害や誤嚥性肺炎により予後不良である。今回われわれは、両側延髄内側梗塞によって重度の四肢麻痺や誤嚥性肺炎を呈した65歳男性に対し、発症早期から多職種が連携してリハビリテーション介入したことによって良好な転帰を得ることができたので報告する。経過中、多職種による継続的な呼吸療法を実施して呼吸機能を維持することで、より積極的なリハビリテーションが可能となった。また発症早期より離床・歩行訓練を実施したことにより運動機能の回復が促され、ADLの再獲得ならびに介助量の軽減につながったと考えた。

  • 榎本 陽介, 坂本 雄, 小諸 信宏
    2017 年 1 巻 2 号 p. 25-29
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/09/20
    ジャーナル フリー

    脳神経外科病棟における転倒転落予防に向けた多職種連携の効果について検討した。多職種連携としては、5職種による転倒転落チームを設立し、転倒転落の予防策として早期からの情報共有や病棟環境整備、用語の統一や勉強会を実施した。また、転倒転落発生後、都度カンファレンスを開催し、転倒転落状況の分析と情報共有を行った。本研究の対象期間は転倒転落チーム設立前1年間と設立後3年間、更に活動終了後の1年間の計5年間とした。方法は各年の当該病棟年間入院延べ患者数と転倒転落発生件数から転倒転落発生率を求め、チーム設立前と設立後の各年、および設立後3年目と活動終了後の転倒転落発生率の差について検討した。結果、設立前と1年目で有意差は認められなかった。設立前と2年目および3年目では設立前が有意に高かった。また、3年目と活動終了後で有意差は認められなかった。このことから、複数年の活動により多職種連携の効果が得られること、また活動終了後もその効果が持続することが示唆された。

  • ―褥瘡ケアにかかるコスト―
    喜多 智里, 小武海 将史, 奥 壽郎
    2017 年 1 巻 2 号 p. 31-36
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/09/20
    ジャーナル フリー

    【目的】介護老人保健施設での包括的褥瘡ケアシステム導入が、経済面へ及ぼす影響を検討することである。【方法】平成23年9月から3年間の入所者759名を対象とし、システム導入後の褥瘡ケアに関する経済面への影響を後方視的に調査した。【結果】総額、クッション購入費、褥瘡委員会人件費には変化はみられなかった。物品代、栄養補助食品代、受診代、受診付添代は減少した。一方、治療およびカンファレンスにかかる人件費、写真代、エアマットレンタル代は増加した。【考察】総額には差はなかったが個々を比較すると、増加がみられたエアマットレンタル代、写真代、褥瘡カンファレンス人件費などは、褥瘡ケアにおける必要経費であり、システム導入により経済面には好影響であったと考えられた。

  • 内田 学, 山田 真嗣, 岡野 祥悟, 宮澤 龍聖, 山﨑 優斗, 宮地 司, 山口 育子
    2017 年 1 巻 2 号 p. 37-42
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/09/20
    ジャーナル フリー

    大腿骨頸部骨折を呈し人工骨頭置換術を施行した患者は、歩行時に呼吸困難感を訴えるが、加齢による体力の低下と捉えられることが多い。手術侵襲が加わることにより、出血や炎症によるタンパク異化作用の亢進によって、タンパク質由来である赤血球(Red blood cell:以下RBC と略す)やヘモグロビン(Hemoglobin:以下Hb と略す)が減少するため、酸素運搬能が低下していることも考えられる。本研究では、栄養状態を表す総タンパク(Total Protein:以下TP と略す)の値を基準として、TP の値が正常値(6.7mg/dl)以上(以下、高栄養群)と正常値未満(以下、低栄養群)の2群に分類し、運動機能、個人特性、呼吸機能、血液・生化学検査、栄養状態を検査測定し、栄養状態と血液生化学所見の関係性について調査し、これらが運動機能に及ぼす影響について検討した。統計学的解析は対応のないt-検定を行った。結果として二群間で有意差が得られたものは、C 反応性タンパク(C-reactive protein:以下CRP と略す)、総タンパク(Total Protein:以下TP と略す)、アルブミン(Albumen:以下Alb と略す)、RBC、Hb、6分間歩行テスト(6 minutes walking distance test:以下6MD と略す)、SpO2、Borg スケールであり、手術侵襲の影響を背景としたタンパク異化作用の亢進により、低栄養を示すと同時に酸素運搬能が低下し連続歩行距離の低下や呼吸困難感が増悪するという結果が得られた。人工骨頭置換術術後の評価項目として、血液生化学所見から栄養状態や炎症、酸素運搬能を把握する必要があるものと推察された。

  • 山口 育子, 鈴木 輝美, 内田 学, 丸山 仁司
    2017 年 1 巻 2 号 p. 43-49
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/09/20
    ジャーナル フリー

    [目的]本研究は、要支援高齢者の下肢筋力、握力、歩行能力、バランス機能、心肺機能等の総合的な運動機能評価を行い、呼吸筋力や呼吸機能との関連性について検討することを目的とした。[対象]通所型介護予防事業に参加している地域在住高齢女性31名(平均年齢86.1±4.6歳)、要支援1が18名、要支援2が13名であった。[方法]呼吸筋力の指標としてPImax, PEmax、呼吸機能の指標としてVC、FVC、FEV1.0、PEFR、筋力の指標として握力、等尺性膝伸展筋力、移動能力の指標として5m 歩行速度、TUG、バランス能力の指標として片脚立位時間、FRT、運動耐容能の指標として6分間歩行テストによる歩行距離を測定した。呼吸筋力、呼吸機能と各運動指標との関連をspearmanの順位相関係数にて分析した。[結果]対標準値である%VC、%PEmax、%PImax はいずれも低い値を示し、6分間歩行距離も標準値より低い傾向を示した。また、呼吸筋力と握力、等尺性膝伸展筋力の間に、%PEmax、PEFR は6分間歩行距離との間に有意な相関関係を示した。[考察]呼吸筋力評価の有用性が示唆されたとともに、従来の介護予防の現場で行なわれる運動機能だけに直接的にアプローチするプログラムに併せて呼吸筋力も強化する必要があると考える。

  • ―村上春樹「ふわふわ」論のために―
    原 善
    2017 年 1 巻 2 号 p. 51-61
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/09/20
    ジャーナル フリー

    児童文学からの影響を大きく受けていたと思われる村上春樹の「ふわふわ」は、エッセイ風の小品として発表された初出が目立たない場所だったこともあって、もっぱら絵本とその文庫化されたものが問題にされてきた。しかしその反面絵から切り離された文字テクストだけが小中学校教材・名作童話としても流通しているという、多種複雑なヴァリアントを持っている。その中で一切省みられることのない初出から初刊への改稿過程をつぶさに辿ってみれば、現行流通している本文の末尾には大きな改稿があったことがわかる。先行研究の多くが根拠を示さないながら指摘する〈喪失感〉も、改稿前には書かれていた《死》のイメージが齎すものとして漂っているのだ。そのことはレトリックとしても言え、直喩の能喩部分に痕跡を残して作品に《死》の影を落としている。また能喩の加筆部分などには明らかな生命のイメージがあり、改稿の過程には《再生》の方向が見てとれるのである。

  • ジリアン ヨーク, 森下 均
    2017 年 1 巻 2 号 p. 63-77
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/09/20
    ジャーナル フリー
  • ―日本における理解の仕方―
    金井 守
    2017 年 1 巻 2 号 p. 79-86
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/09/20
    ジャーナル フリー

    難民問題を始め全世界的に人権と平和の問題が今ほど注視されている時はない。特に、東アジアに生を受けた人間として、東アジア諸国民の人権問題と国家間の平和構築の問題に関心を持たざるを得ない。人権と平和の問題は、ある意味統合の問題と考えることができる。この統合の問題にアプローチするため、今やEU(ヨーロッパ連合)の盟主となったドイツの首相であり欧州の女帝とも評されるアンゲラ・メルケルの思想と行動を研究対象とする。方法として日本におけるメルケル理解のあり方に着目する。現役の首相で特定の個人を研究対象とする点について、研究上のリスクを伴うが、人権と平和に関わる統合の問題についてそれを実践する人の内側から理解したいとの願いによる。本研究では、その糸口として、限られた文献やニュース等から日本においてメルケルがどのように紹介され理解されているかの状況把握を試みた。合わせて、日本におけるメルケル理解についての幾つかの課題を提示した。

  • ―格助詞「ガ」を中心に―
    宮本 恵美
    2017 年 1 巻 2 号 p. 87-92
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/09/20
    ジャーナル フリー

     軽度失語症者の格助詞「ガ」の構文ネットワーク構造について明らかにするために、軽度失語症者に対して文想起課題を実施した。文想起課題の結果から、軽度失語症者は、プロトタイプである「動作主」の用法は、比較的良好に保たれていることが明らかとなった。

     以上の結果をもとに、軽度失語症者の格助詞「ガ」に関する評価法と訓練法について提案した。格助詞「ガ」の評価法は、中心的な用法である「動作主」の用法について調査し、その後、周辺的な用法に移行していく。また、訓練方法は、状況画とイメージ図を用い、評価結果から明らかとした障害された意味用法から周辺的用法に向けて改善を図っていくことを提案した。

  • ―膝痛予防・改善希望者の数値評価スケール(Numerical Rating Scale)に焦点をあてて―
    包國 友幸
    2017 年 1 巻 2 号 p. 93-101
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/09/20
    ジャーナル フリー

    促通コンセプトを応用した即座に効果を実感することができる運動プログラムは1997年に開発され大手スポーツクラブA をはじめ様々な組織で展開され現在も実施継続されている。本研究の目的はその運動プログラムの効果を検証することであり、対象者は千葉県のB 市主催の「膝痛予防改善セミナー」に参加した42名(男性14名、女性28名)の中高年者であった。質問紙による調査項目とその結果は次のようである。①NRS 調査では膝に対する主観的な感覚が運動後に有意に改善し(p<0.01)、②状態不安調査では運動後に有意に低下した(p<0.05)。③年齢区分では60歳・70歳代が約80%、④参加動機では「現在痛みはないが痛みに悩まされたことがある」が43%であった。⑤運動後の膝の感覚では「とてもすっきりした」が52%・「ややすっきりした」が41%、⑥セミナーの内容についてでは「大変良い」が74%、⑦自由記述では肯定的内容がほとんどであった。

  • 松永 繁
    2017 年 1 巻 2 号 p. 103-107
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/09/20
    ジャーナル フリー

     介護福祉分野において外国人介護職が増加している。その中にはイスラーム教徒も多数存在しており、彼らとの協働の機会も増えているが、宗教への理解や生活習慣への理解の困難さも報告されている。

     本稿では、多文化共生の視座を得る目的で、イスラームの世界観をキーワードに検討した。結果、イスラームはお互いの世界観の存在を前提に自らのイスラーム世界の律法の対象としない等、他世界への侵入を行なわないことで共生を実現してきたイスラーム観が存在していた。

     また、多文化共生の障壁として、対等な関係性を前提としていない社会的構造が存在し、これが並行社会へと向かうことにもつながる。

     以上のことから、多文化共生実現のためには、宗教の教義や文化、習慣といった理解に終始するのではなく、文化相対主義の視点と対等な関係性を前提とした社会的構造の構築の必要性が示唆された。

  • ―実習生の成長を促進する指導の在り方に着目して―
    中西 和子
    2017 年 1 巻 2 号 p. 109-115
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/09/20
    ジャーナル フリー

    幼稚園教諭養成課程において、現場力を培う幼稚園での実習は、学生の将来の職業選択に対して影響を持ち得る貴重な学習機会となるが、現状においては、その機能が十分発揮されているとは言えない。学生の成長に資する実習の在り方について以下の研究を行った。

    1)実習の場面において、実習生と実習指導者との間に構築される関係性について質的分析を行い、学習促進の様相を明らかにすることを目的とした。

    2)実習生から見た二者の関係には、「保護されている関係」「学習者と指導者という立場の関係」「保育者として認められている関係」が見出された。

    3)実習生自身が学習を促進する関係性について知り、学習目標を段階的に組み立てられるようにすることが今後の課題になる。

  • ―2歳児の保育を通して考える保育の総合性―
    今泉 良一
    2017 年 1 巻 2 号 p. 117-119
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/09/20
    ジャーナル フリー

    本稿の目的は、保育実践における保育者と2歳児とのかかわりをもとに、遊びや生活を通して、どのような学びが展開されているのかを考察し、「保育の総合性」について探求することである。『幼稚園教育要領』(2017)には「ねらいが総合的に達成されるようにすること」と明記され、『保育所保育指針』(2017)においても、「生活や遊びを通して総合的に保育すること」と示されている。領域別、活動別という捉え方ではなく、生活のあらゆる面に向けていくこと、そのようなところに「保育の総合性」に通ずるポイントが挙げられると感じる。

  • ―テキストマイニングによる分析―
    安部 高太朗, 吉田 直哉
    2017 年 1 巻 2 号 p. 121-130
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/09/20
    ジャーナル フリー

     本研究の目的は、保育内容総論の教科書において「保育の質」がどのように取り扱われているか、その言説の性格を明らかにするものである。本研究では、テキストマイニングソフト「KH コーダー」を用いた計量テキスト分析を行った。

     「質」をキーワードにして分析を進めた結果、「保育の質」に対する記述は、保育者から見た「実践の質」を議論するパターンと、子どもから見た「体験の質」を議論するパターン、以上の二つのパターンの言説があることがわかった。現状、「保育の質」というのは、もっぱら、プロセスの質であり、PDCA サイクルを踏まえた保育者の自己研鑽によって変わるようなものだけが「質の向上」の対象として語られている。こうした語り方の問題は、第一に数値化しにくい側面はそもそもPDCA による質向上の議論から抜け落ちてしまうことであり、第二にPDCA サイクルを回しても、保育の構造の質、労働の質の改善は期待できないことが見えなくなることである。

  • ―2017年改訂学習指導要領・幼稚園教育要領の検討を中心に―
    水引 貴子, 歌川 光一
    2017 年 1 巻 2 号 p. 131-137
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/09/20
    ジャーナル フリー

     本研究は、本来、個人的な人間関係の選択の問題とも言える「友達」について、学校教育がどの発達段階でどの程度介入すべきかを再検討し、体系性のあるカリキュラムを構想する必要があるという問題意識に基づいた基礎作業として、「友達」をめぐる保育内容(人間関係)と生活科、道徳、特別活動のカリキュラムの接続とその課題について、2017年改訂学習指導要領・幼稚園教育要領の検討を中心に明らかにすることを試みた。

     保育内容(人間関係)の内容は、生活科、道徳、特別活動に分散されながらも接続され、これらの領域、教科の関連性について十分な配慮が確認された。

     しかし、特に生活科にみられるように、教育課程の中で関わりを持つ級友、その中でも特に仲のよい友達、「地域の子供」として学校の教育課程外で関わる友達の存在の異同については特に断りのないまま、その関係性作りが焦点化されている状態も課題として浮き彫りとなった。

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