仏伝の記述において、五比丘に対する初転法輪の直前に、異教徒であるウパカとの邂逅
エピソード
が挿入されている。本稿は、特にパーリ『律蔵』「大品」において、その
エピソード
にどのような意義があるかを明らかにすることを目的とする。その
エピソード
ついては、ウパカに対して釈尊の説得が失敗した、と解釈される場合が多い
1)。すなわち、釈尊自身も順風満帆な伝道活動を送っていたのではないのであるから、仏教教団の出家者たちも失敗に落胆することなく、伝道活動に従事せよというメッセージが含まれているというものである。
この
エピソード
自体は、仏伝資料の成立と発展という観点では、決して最古層に属するプロットではないようである
2)。であるならば、初転法輪の直前に、あえて失敗例としての
エピソード
を挿入したという解釈を見直す必要があるのではないか? そこで、本稿では、このウパカとの邂逅
エピソード
が初転法輪の直前に置かれているというその意義について、テキスト編纂の意図に顧慮しながら、検討することとしたい。
本稿の概要は以下のとおりである。まず、パーリ『律蔵』「大品」における、ウパカとの邂逅
エピソード
直前までのプロット構成を確認する。そして、当該パーリ語テキストならびに『南伝』の和訳を引用し、その内容について検討する。さらに、ウパカとの邂逅
エピソード
が他のテキストでは、どのように取り扱われているかを概観しつつ、パーリ『律蔵』「大品」との差異等を指摘する。そして、最後に、ウパカとの邂逅
エピソード
の意義について、私見を述べることとする。
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