行動医学研究
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9 巻, 1 号
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原著
  • 東京大学医学部心療内科外来データベースとの比較
    中尾 睦宏, 久保木 富房
    2003 年 9 巻 1 号 p. 1-8
    発行日: 2003年
    公開日: 2014/07/03
    ジャーナル フリー
    ハーバード大学医学部心身医学研究所のMedical Symptom Reduction Program (以下、本プログラム) に参加する身体不定愁訴患者の臨床的特徴を明らかにするため、主要身体症状の有無と年齢、性別、心理社会的ストレス、気分状態との関連を調べた。
    1994-98年の間に本プログラムに参加した971人の初診患者を対象とした。すべての患者は身体不定愁訴を訴えて医師からの紹介状をもって受診した。日本の心療内科との患者属性を比較するため、同期間に東京大学医学部心療内科外来を受診した1,280人の初診患者の年齢、性別、教育歴、雇用状態、紹介元、身体症状数、ICD-10診断名を対比した。本プログラムの参加者はMedical Symptom Checklist, Symptom Checklist-90R (SCL-90R), Self-rated Stress Perception Scale, Health Promoting Lifestyleの自記入式質問紙を初診時に回答し、身体症状 (疲労、不眠、頭痛、腰痛など主要16症状)、心理社会的ストレスの自覚度、気分状態 (不安、うつ、敵意) の評価を受けた。各症状が有る群と無い群の間で、性別、心理社会的ストレス度、SCL-90R不安・うつ・敵意の得点の差異を調べた (Studentのt検定またはカイ2乗検定)。
    対象患者は日本の患者に比べて平均年齢が高く (43歳)、女性が多く (75%)、内科医からの紹介が多く (67%)、身体症状数は少ない (1つ以下22%) 特徴があった (いずれもp<0.05)。身体症状の有訴率は14% (耳鳴り) から64% (疲労) までの範囲であった。16の身体症状中5症状において女性の方が男性より訴える割合が高く、7症状において高ストレスを感じている者の方がそうでない者より訴える割合が高かった (いずれもp<0.05)。また不安 (12/16症状)、うつ (15/16症状)、敵意 (11/16症状) それぞれのSCL-90R得点が、身体症状がある群の方が症状の無い群に比べて高得点を示した (いずれもp<0.05)。
    身体不定愁訴をもち行動医学的な治療を求める患者の身体症状は、心理社会的ストレス度や気分状態と密接な関連があった。治療においては身体症状のみに注目するのでなく、患者のストレスや心理状態に配慮した心身両面からのアプローチが大切なことが改めて示唆された。
  • 教育年数がドロップアウトに与える影響の評価
    中尾 睦宏
    2003 年 9 巻 1 号 p. 9-15
    発行日: 2003年
    公開日: 2014/07/03
    ジャーナル フリー
    ハーバード大学医学部心身医学研究所のMedical Symptom Reduction Program (以下、本プログラム) の治療成果を報告するとともに中途脱落する要因について検討した。
    身体不定愁訴を訴えて本プログラムに参加した1,312人の初診患者を対象にした (平均年齢43歳、女性75%、研究期間1992-1999年)。約15人を1グループとして、リラクセーション練習や認知再構成法の指導などを組み合わせた教育セッションを週1回、計10週間行なった。10回のセッションのうち参加回数が7回未満の者をドロップアウトとした。治療効果判定のため治療期間前後でSymptom Checklist-90R (SCL-90R)を実施した。最終学歴を高卒 (教育年数13年未満)、大卒 (同13-16年)、大学院レベル (同17年以上) の3つに分けてドロップアウトと治療効果について学歴毎に詳細に検討した。SCL-90Rの各指標に関して分散分析を行い、学歴 (df=2) とプログラムの完了 (df=1) の主効果と交互作用を調べた。
    結果: 対象患者のうち1,012人 (77%) がプログラムを完了し、300人 (23%) がドロップアウトした。プログラム完了群はドロップアウト群に比べて、学歴が高く、既婚者が多く、働いている者が多かった (p<0.05)。またプログラム完了群はドロップアウト群に比べて、SCL-90Rの身体化、強迫性、うつ、全体的重症度の4指標の得点が低かった (p<0.05)。分散分析の結果、うつと全体的重症度の2指標がプログラム完了群とドロップアウト群の間で有意な得点差を認めた (どちらもp<0.05)。プログラム完了者は治療によりSCL-90Rのいずれの指標も改善したが (p<0.001)、学歴の違いによって治療効果の差は認めなかった (p>0.05)。
    本プログラムを完了する者は高学歴でうつ傾向が少ない傾向があった。ただしプログラム完了者の治療効果は学歴による影響がなかった。例えば治療の途中で患者のニーズや時間的都合をできる限り配慮するなど、中途脱落しにくいシステム作りが大切かもしれない。
  • 井澤 修平, 依田 麻子, 児玉 昌久, 野村 忍
    2003 年 9 巻 1 号 p. 16-22
    発行日: 2003年
    公開日: 2014/07/03
    ジャーナル フリー
    人の心理・行動特性と疾病の関連について多くの研究が行われている。とくに近年、海外では怒り・敵意と冠動脈疾患の関連について数多くの研究が多様な視点から行われている。しかし日本においてそのような試みは十分に行われていない。本研究では、怒り・敵意の次元と心臓血管系反応の関連について調査する事を目的とした。
    202人の大学生にBuss-Perry Aggression Questionnaire (BAQ) を実施し、そのうちの32人に実験協力の依頼が行われた。安静期測定の後、被験者は鏡映描写器を用いた迷路課題を2回行った。1回目は統制条件で、彼らは通常どおり課題を行った。2回目は対人ストレス条件であり、彼らは課題の遂行中に、「もっと速くやってください」「枠からはみ出さないように丁寧にやってください」「もっと本気をだしてやってください」などの言語刺激が与えられた。またBAQに対する因子分析の結果、「怒り表出」「怒り経験」「自己主張」の3因子が得られ、これらの因子得点を各被験者の怒り・敵意特性得点とみなした。
    結果、統制条件から対人ストレス条件にかけて、血圧・心拍率が有意に上昇しており、また怒り気分が上昇していた。BAQの3因子と対人ストレス条件から統制条件への心臓血管系の変化値の相関を求めたところ、「怒り表出」は収縮期血圧の上昇と有意に関連していた。また男性の「怒り経験」と平均血圧・拡張期血圧の間に有意傾向の負の相関係数が認められた。
    これらの結果は、怒り・敵意の次元のうちでも、怒り表出の要素が心臓血管系の賦活と関連していることを示唆している。近年の日本の横断的研究では、怒り表出に関連する因子と冠動脈疾患の関連を述べているが、本研究の結果はこれらの研究成果と一致するものとなった。対人ストレス葛藤に伴うエピソード的な怒り表出が過剰な心臓血管系賦活を引き起こし、冠動脈疾患の発症と関連する可能性が示された。また男性における「怒り経験」と平均血圧・拡張期血圧の間の負の相関係数は実験状況による可能性が推測された。
  • ―運動に関する意思決定のバランス―
    岡 浩一朗, 平井 啓, 堤 俊彦
    2003 年 9 巻 1 号 p. 23-30
    発行日: 2003年
    公開日: 2014/07/03
    ジャーナル フリー
    わが国でも行動変容のトランスセオレティカル・モデルは、身体活動増進に関する研究に応用されつつある。本研究は、運動することの恩恵と負担を測定するための運動に関する意思決定のバランス尺度を開発した。加えて、運動行動の変容段階の分布を調べ、運動に関する意思決定のバランスとの関係について検討した。608名の中年者が、運動することの恩恵 (pros) と負担 (cons) に関する内容で構成される30項目の調査票に回答した。ステップワイズ因子分析の結果、次のような2因子が抽出された: 1つは、10項目の運動に対するポジティブな知覚で構成される恩恵に関する内容、もう一つは、運動することを避けるような負担に関する内容で構成されている。計量心理学的特性について分析を行った結果、運動に関する意思決定のバランス尺度は、高い信頼性と妥当性を有することが示された。運動行動の変容段階に対する調査対象の回答から、203名 (33.4%) が無関心期、123名 (20.2%) が関心期、114名 (18.8%) が準備期、48名 (7.9%) が実行期、120名 (19.7%) が維持期に属していた。運動行動の変容の5段階別にみた、恩恵、負担および意思決定のバランス (恩恵から負担を引いた) 平均得点において有意差が認められた。定期的に運動をしている人と比べて運動を始めていない人は、運動することについて感じる恩恵とほぼ同じくらい負担を感じていた。わが国における身体不活動に関連する制御可能な要因を理解するためのさらなる継続的な研究と介入効果を示す実証研究が、身体活動および運動を効果的に増進させるための重要な情報をもたらすであろう。
短報
  • 不安軽減に効果的な介入成分と自尊心に及ぼす影響
    本田 久仁子
    2003 年 9 巻 1 号 p. 31-35
    発行日: 2003年
    公開日: 2014/07/03
    ジャーナル フリー
    目的 本研究の対象者は、思い過ごしによる怒りや不安に悩んでいた。また、確認を過剰に行なう傾向があり、それを気にしていた。本人の精神的苦痛には自尊心の欠如が深く関係すると見られた。そこで、自尊心を高める目的で確認行動の減少のための介入を試みた。ただしこの標的行動には非常に高い不安が伴っていた。
    本研究の目的は、本事例を通し、(1) 高不安を伴う行動の修正に効果的な介入、(2) 行動修正と自尊心の関係、を検討することであった。
    対象 30代男性。境界知能 (田中ビネー知能検査・IQ72)。アスペルガー症候群。
    方法 独立変数は、(1) セルフモニタリング、(2) フィードバック、(3) 励ましの言葉、(4) 数かぞえ、であった。従属変数は、(1) 標的行動頻度、(2) 標的行動に伴う不安程度、(3) 自尊心、であった。
    測定は、標的行動頻度は対象者の自己記録により、不安程度はSUD得点により、自尊心は自尊心尺度の質問紙により行なった。
    手続きは、介入1: セルフモニタリング+フィードバック+励ましの言葉、介入2: セルフモニタリング+フィードバック+数かぞえの順序で行なった。
    結果 標的行動頻度はベースライン (BL) から介入1にかけて減少したが、最終目標値には達しなかった。介入2の間に最終目標値まで達して安定を示し、フォローアップではその値を保った。
    SUD得点は介入1でBLよりも更に上昇しその水準を保った。しかし介入2で大幅に減少し、フォローアップでは低い値を保った。
    自尊感情の得点は介入前から介入後にかけて上昇した。
    結論 (1) 標的行動が高い不安を伴う場合、不安軽減の実現が行動修正を促進する上で重要である。(2) 本人にとって重要度の高い行動の修正が自尊心を高めることが本事例でも支持された。
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