タイ国の最高峰インタノン山(標高2565m)の中腹,標高1650-1700mの常緑性山地カシ林内に設けられた15ha(300m×500m)長期モニタリングプロット内に生育する蘚苔類を調査した.このプロット内の林床は薄暗く,上部が開けた沢沿いや林冠ギャップを除いて地上生の蘚苔類は種数・生育量ともに少ないが,乾期にもよく霧がかかることもあいまって,明るい林冠部では着生植物が豊富に見られる.この調査はプロット内全体にわたる徒歩による通常の採集方法に加えて,プロット内にある林冠木11本(ならびにこのうちの2本に着生する絞め殺し植物2個体)についてはロープを使って登攀し,樹幹基部から林冠部までに着生する蘚苔類を採集した.その結果,これまでに同定された蘚苔類は,合計50科117属210種(蘚類33科90属138種,苔類16科26属71種,ツノゴケ類1科1属1種)となった.このプロット内から得た標本に基づき,蘚類の3新種Clastobryopsis imbricata H. Akiyama, Ying Chang & B. C. Tan (Akiyama et al. 2010), Indopottia irieandoana H. Akiyama (Akiyama & Goffinet 2011), Symphyodon leiocarpus H. Akiyama & Tsubota (Akiyama & Tsubota 2009)を報告した.さらに蘚類キブリハネゴケ属Pinnatellaの1新種を記載準備中である.また蘚類Micralsopsis complanata (Dixon) W. R. Buck(コモチイトゴケ科)を初めてタイ国内から報告するとともに,通常は地上に生育する銅ゴケの一種ホンモンジゴケが林冠部の樹幹に生育していることを見いだすなど,従来とは異なる手法によって,タイ北部山地林内に維持されている大きな蘚苔類種多様性をより一層正確に把握することができた.

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