岡山県中西部には,「阿哲石灰岩」と呼ばれる石灰岩が分布している.羅生門はこの阿哲石灰岩地に位置している.羅生門は,標高約400mの石灰岩台地(草間台)の古い石灰洞が崩壊した4つのドリーネと,2つの石灰岩の天然橋からなり,東西・南北ともに約250m,高度差約40mのすり鉢状の地形をなしている.この羅生門の最下部の洞口からは高湿度の冷気が吹き上がってきている.このため,瀬尾ほか(1985)によれば,洞口付近では8月初旬の日中で約10℃,上部に行くに従って気温は上昇し,ドリーネの上部では約27℃という調査報告がされている.このように,羅生門一帯は特有の地形や地質と,特異な気象環境をもつために多くの動植物が生育している.蘚苔類についても多くの研究者が訪れ,その採集品に基づきいくつかの重要な報告がされている.野口(1956)は,羅生門の標本を元にセイナンヒラゴケNeckeropsis calcicolaを新種として発表した.Ando & Higuchi (1981)は,日本の石灰岩地に固有のキャラハラッコゴケGollania taxiphylloidesを新種として記載している.また,服部(1956)は,イギイチョウゴケLeiocolea igiana(=Lophozia igiana)を新種として発表している.また,羅生門の蘚苔類については,西村(1996)により蘚類31科,88属,128種,5亜種,8変種が報告され,古木・西村(1998)では,苔類19科,26属,39種が確認されている.羅生門一帯は,戦後幾度か人手により大きな自然破壊を受けてきた.近年,関係者の努力により,調査保護活動がなされてきているが,危機的状況が回避されたとは言えない.ただ,近年保護活動の一環として遊歩道が整備された.このため,最下部手前まで,入ることができ,好石灰性の種や,懸垂性の種を観察することが出来る.
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