中国の雲南省北西部から四川省南西部,チベット南東部にかけて位置する横断山脈は維管束植物相が豊富なこと,特に中国ヒマラヤ要素の植物が多様なことでよく知られている.最近この地域から,ヒマラヤナンジャモンジャゴケ,Voitia grandis, Apotreubia yunnanensisなど興味あるコケ植物が報告された.今回,著者らによる本地域の採集品からキレハコマチゴケとApotreubia yunnanensisを確認した.キレハコマチゴケはヨーロッパ,グリーンランド,北米,ネパール,インド,日本,シベリアから報告されていたが,今回雲南省北西部と四川省南西部でその生育が確認され,これが中国からの初めての記録となる.これらは形態上ヨーロッパのものと区別できない.ただ,四川省のものは針葉樹林の林床の腐葉土上に生じており,このような生態はすでに日本の八ヶ岳においても観察されているが,他地域における本種の生態とは異なっていた.Apotreubia yunnanensisはHiguchi(1998)により記載され,雲南省の二カ所から知られていたが,今回四川省からもその生育が確認された.また,本種は通常先端で二又に分枝するが稀に介在分枝も見られることが報告されていた.雲南省で採集された植物にも稀ではあるが介在分枝が認められた.
抄録全体を表示