タイ類ツボミゴケ科のNardia minutifolia Furuki(イトウロコゴケ,新称)を新種として記載した.イトウロコゴケの特徴は,植物体が小さくてつねに鞭状であること,茎は側面からの介在分枝を欠き主にヤスデゴケ型分枝をすること,葉は小さくて円頭であること,腹葉は顕著でその基部が葉と癒合しないこと,油体はすべての葉身細胞にあり,時々眼点を持つこと,雌苞葉は先端がしばしば凹み,弱い鋸歯状であること,ペリギニウムは直立すること,花被は長くて苞葉から突出していることなどである.この特徴のうち,茎の側面からの介在分枝を欠くことやペリギニウムが直立すること,花被が長いことなどの特徴は,本種がApotomanthus亜属sect. Apotomanthus節に属することを示している.本節には世界に3種が知られているが(Engel 1988),その中で本種に近いのは,雌苞葉から長く突出する花被を持っアカウロコゴケNardia assamica(Amak.)Amak.とオリーブツボミゴケN. subclavata(Steph.)Amak.である.しかし,アカウロコゴケは植物体がしばしば鞭状になるが,ふつうは鞭状ではないこと,葉の幅は茎幅よりも広いこと,腹葉がふつう葉と癒合すること,油体が葉身細胞の半分以下にしか含まれないなどの特徴を持ち(Amakawa 1959),本種と区別できる.オリーブツボミゴケは植物体が鞭状にならず,葉の幅は茎幅よりも広いこと,腹葉が葉と癒合することなどの特徴があり(Amakawa 1959),本種と区別できる.本種はブナ帯以上の湿った土手や岩上などに生え,東北地方や北関東地方,御蔵島,八丈島,屋久島において確認された.なお,和名は葉が小さく,植物体が鞭状で糸のように見えることにちなむ.
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