地球環境
Online ISSN : 2758-3783
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20 巻, 2 号
生命を育む地球環境の変動;将来予測と適応を目指して
選択された号の論文の10件中1~10を表示しています
  • 植松 光夫
    2015 年20 巻2 号 p. 125-126
    発行日: 2015年
    公開日: 2025/08/27
    ジャーナル フリー

    “Science is facts; just as houses are made of stones, so is science made of facts; but a pile of stones is not a house and a collection of facts is not necessarily science.”

    Henri Poincare, French mathematician and astronomer(1854~1912)


    アンリ・ポアンカレはいう。事実を集めただけでは、必ずしも科学にはならないと。もし、それに付け加えるならば、多くの石を積み重ね数多くの家々を築いたとしても、それだけでは街にはなりえない。

    地球という生命が育まれ、維持されている惑星は、人間という生物の存在によって、今までの気候や生態系に新たな変化を生じさせてきた。IGBP(International Geosphere - Biosphere Programme、地球圏-生物圏国際協同研究計画)は、1990年に立ち上げられた。その目的は、百年後の地球を見据えて、全地球を支配する物理的・化学的・生物的諸過程とその相互作用を究明することによって、過去から現在、未来に至るまでの生命を生み出している地球独特の環境とその変化、さらに人間活動による変化について解明し、記述し、理解することである。IGBPの下には、陸面・大気・海洋を中心に、いくつかのコアプロジェクトが提案され承認された。それぞれのコアプロジェクトは、地球環境に関する各研究領域の基礎科学的な基盤を確立させ、新たな知見を得てきた。

    コアプロジェクトは、ただ寄せ集めの石ではなく、積み重ねられた堅牢な石の家となり、科学の研究基盤を築き上げたと言えよう。これらの家々が有機的につながることにより、街として更に機能的に躍動する。IGBPは、これらのコアプロジェクト間の連携交流を深め、それぞれの研究領域を補完するようなコアプロジェクトを更に立ち上げて、分野横断的な研究体制を整えた。街全体を統括し都市計画を推し進めるように、過去を知り、現在を見据え、未来への統合的な設計図を作ることになる。

    街には人が住み、社会生活が営まれる。豊かな生活には科学だけではなく、人やそこに住む人々の規律、社会経済の確立が必要となる。IGBPは、その流れの中で、IGBPの科学を政策決定者の判断のための知見として提示するという重要な貢献をしてきた。IGBPは2015年12月をもって25年間の活動を終了し、各コアプロジェクトは新たに立ち上がったFuture Earthという新しい枠組みへ移行する。何代にもわたって家々に人々が幸せに住み暮らせるように、さらに、科学・政策・実践を強化し、地球環境の統合的な理解と持続可能な開発を推し進めることになった。

    我が国のIGBPへの科学的な貢献は、東アジアの大気への物質の放出や、大気組成分布と気候影響、土地利用・土地被覆変化の研究、太平洋を中心とした海洋の炭素循環に対する生態系動態の役割などにおいて、定量的な知見を得た。また、境界領域である沿岸域の環境修復・再生から、水産資源の持続的利用、地表と大気の熱・水・二酸化炭素フラックス観測の高精度化、大気物質沈着による海洋生態系への影響評価など、人間活動がかかわる地球環境変化の実態を把握し、物理・生態・人間システムのつながりの過去・現在・未来を予想するモデル化を進めてきた。

    我が国の今までのIGBP研究の流れを振り返ると、1984年に、我が国がIGBPという国際協同研究計画の立ち上げに初めて参画したことに始まる。日本学術会議が、我が国におけるIGBPの研究を組織的に進めたが、分野の異なる多くの研究者が集い、これをまとめて国際的にも高い評価を受ける存在となった。この礎を築かれた多くの先達の先見の明に改めて驚愕の念とともに、そのご尽力に深く感謝の意を表したい。そしてその前後から、インターナショナルという言葉に加えて、グローバルという言葉を頻繁に耳にする時代を迎えた。各国の研究者が国際的な研究課題に対して、その国による独創的な研究に取り組むという風潮があったが、それと同時に、世界の各地域や海域を共通の観測研究手法を用いて、国際協力として取り組むようになった。また、得られたデータを共有し、地球全体の統合的な解析が進んだ。我が国はアジア・太平洋を中心に研究を展開したが、地球環境変化を捉えるジグソーパズルの多くのピースを繋ぎあわせたのではないだろうか。

    本特集号は、積み重ねられてきたその膨大な研究成果を書き記すのではなく、人々がどのように街を作り上げてきたのかのように、IGBPコアプロジェクトが我が国においてどのような経緯でまとまって取り組んできたのか、通常の科学論文集からでは知り得ない流れとして紹介することにした。このような研究者達によるボトムアップの国際共同研究計画に対して、当時の文部省、現在の文部科学省の深い理解と長期にわたる支援に、感謝の意を表したい。

  • 植松 光夫, 小池 勲夫, 甲山 隆司, 安成 哲三
    2015 年20 巻2 号 p. 127-134
    発行日: 2015年
    公開日: 2025/08/27
    ジャーナル フリー

    1990年に国際共同研究プログラムであるIGBPは、地球環境変動に関する科学的な基盤を確立することを目標に開始された。地球システムに関するさまざまな相互関連について、人間活動によって引き起こされた変化も理解することを含め、世界各国が共同して、科学的な知識を集積し地球環境変動の予測と適応を目指して研究を進めた。その後、分野横断的な地球システムの統合研究体制を整えるフェーズへ移行し、共同研究の実施主体であるコアプロジェクトが見直され、現在、8つのコアプロジェクトとして取り組まれている。2010年には国際科学会議などの勧告を受け、社会科学や政策立案など社会への貢献を考慮した方向で検討が始まった。その結果、IGBPは2015年12月を以って25年間の活動を終了し、新たに立ち上がったFuture Earthに向けて各コアプロジェクトはそれぞれに取り組むことになった。

  • 高橋 潔, 三枝 信子, 及川 武久, 河宮 未知生, 羽島 知洋, 山中 康裕, 平田 貴文, 阿部 彩子
    2015 年20 巻2 号 p. 135-142
    発行日: 2015年
    公開日: 2025/08/27
    ジャーナル フリー

    IGBPコアプロジェクトの1つであるAIMESは、システムを構成する個別要素の挙動理解やモデル化を基礎としつつ、その個別要素に関する理解を統合化して相互作用を考慮することで、要素別には捉えられない挙動まで扱う地球システム科学の推進に取り組んできた。本稿の目的は、AIMES及びその前身プロジェクトの活動概要について、特に連携して実施されたモデル比較評価研究群に焦点を当てて紹介するとともに、今後の展開について論ずることである。AIMESの活動は、近年、社会経済モデルと地球システムモデルの統合など、自然科学と人文社会科学の連携をより明確に志向してきている。その連携は、我々人類がかつてなく大規模に地球システムに作用し負荷を与え、その結果としてさまざまな問題が生じつつあることを強く懸念し、その問題の解決・管理のために必須であるがゆえに、志向されるものである。

  • 柴田 英昭, 石原 正恵, 渡辺 悌二, 氷見山 幸夫, 甲山 隆司, 占部 城太郎, 吉村 暢彦
    2015 年20 巻2 号 p. 143-150
    発行日: 2015年
    公開日: 2025/08/27
    ジャーナル フリー

    全球陸域研究計画(GLP)は変動環境下における陸域システムの変化について、人間-環境結合システムに注目し、土地利用・土地被覆および陸上生態系の構造・機能の変化パターンやメカニズムを明らかにするための国際共同研究計画である。また、IGBPとIHDPの共同プログラムとして、持続可能な陸域システムの管理や保全に向けた科学的示唆を創出することを目指している。日本では、日本学術会議がGLP小委員会を設置している。また、札幌拠点オフィスが設置されており、陸域システムの脆弱性、回復力、持続可能性に関する国際共同研究の奨励や研究情報交流、シンポジウム・ワークショップの開催、成果出版、トレーニングコース等を通じてGLPに貢献を続けている。今後は、Future Earthにおける先導的なコアプロジェクトの1つとしてさらなる発展が見込まれており、拠点オフィス活動を含む各種研究プロジェクトを通じた日本の貢献に対する期待は大きい。

  • 谷本 浩志, 秋元 肇, 中澤 高清, 小池 真, 近藤 豊, 河村 公隆, 松見 豊, 高橋 けんし
    2015 年20 巻2 号 p. 151-162
    発行日: 2015年
    公開日: 2025/08/27
    ジャーナル フリー

    「大気化学」と銘打った、我が国における化学的な大気の研究は、1989年の地球大気化学国際協同研究計画(IGAC)発足と時を同じくして開始され、その後も継続的に発展してきた。日本から提案、または主体的に実施された地球規模の大気化学研究は、例えば、東アジアにおける地域大気汚染研究、温室効果気体の高精度観測と循環の解析、オゾンの光分解に関する実験室的研究など幅広いテーマにわたる。平行して国内の大気化学者の組織化も行われ、近年では200名程度の研究者がコミュニティを形成している。発足から四半世紀を経て、野外観測、三次元化学輸送モデル、対流圏衛星観測などを統合的に駆使した研究が行われているほか、最近では大気化学と地球システム・社会システムに関する研究が活発になりつつある。今後、さらなる国際化はもとより、世界の大気化学研究をリードしていく活動・役割が日本の大気化学者に求められており、宇宙からの大気環境監視、大気組成とモンスーン研究、不均一反応研究などの研究がなされようとしている。

  • 檜山 哲哉, 三枝 信子, 八木 一行
    2015 年20 巻2 号 p. 163-172
    発行日: 2015年
    公開日: 2025/08/27
    ジャーナル フリー

    BAHCとiLEAPSに関わるこれまでの世界的な動きや我が国の研究活動をレビューした後、今後の研究の方向性を展望する。iLEAPSがFuture Earthに今後貢献するためには、大気化学的な物質循環研究とともに、25年前にBAHCが目指した陸域水循環研究を発展させることが重要である。気候変動による水循環・物質循環の変動の定量評価とともに、緩和策や適応策の策定に貢献する学際・超学際研究の推進が不可欠である。

  • 小川 浩史, 鈴木 亨, 杉本 隆成, 齊藤 宏明
    2015 年20 巻2 号 p. 173-180
    発行日: 2015年
    公開日: 2025/08/27
    ジャーナル フリー

    海洋における物質循環と生態系動態の研究において1990年以降中心的な役割を果たしてきたIGBPの3つのコアプロジェクト、JGOFS、GLOBEC、IMBERに関する国際的な背景と、太平洋を主対象とした我が国における共同研究の取り組みについて取りまとめた。JGOFSは、観測・研究手法の統一化を通じて海洋の物質循環研究の基盤を確立し、IMBERへと受け継がれた。また、JGOFSの研究を通じ、物質循環における生物の役割の重要性が共通認識され、IMBER発足にあたっては、地球化学と生態学の研究の統合が強調された。一方、気候変動に対する高次生態系の応答に焦点を当てたGLOBECの研究は、2010年以降IMBERへ統合され、IMBERは、物質循環から高次生態系まで取り扱う総合的なプロジェクトに発展した。さらに、今後のIMBERは、海洋の物質循環と生態系動態の研究成果を、人間社会と海洋との関係構築の枠組みの中に反映させていくための取組に向け、大きく展開していくことが期待されている。

  • 柳 哲雄, 斎藤 文紀, 山室 真澄, 小池 勲夫
    2015 年20 巻2 号 p. 181-188
    発行日: 2015年
    公開日: 2025/08/27
    ジャーナル フリー

    国際学術連合(ICSU: International Council for Scientific Unions(1998年に国際科学会議: International Council for Scienceに名称変更))が1986年に組織した地球圏-生物圏国際協同研究計画(IGBP)のコアプロジェクトの1つとして1993年から行われた地球環境変動における沿岸域の課題を世界規模で研究する陸域-海域相互作用研究計画(LOICZ)について、研究の第1期と第2期に分けて、それぞれの国際的な研究活動の動きと、対応した我が国での活動をまとめた。国内の研究では国際共同研究であるLOICZが主導し、その目的を前面に出した研究活動を主に紹介したが、我が国では沿岸域の抱える課題は環境修復・再生から水産分野を含め多岐にわたっており、このため、課題解決のためのLOICZの趣旨に合致した沿岸域に関する多方面での研究が種々の研究費を得て継続的に行われている。

  • 横山 祐典, 中塚 武, 多田 隆治
    2015 年20 巻2 号 p. 189-194
    発行日: 2015年
    公開日: 2025/08/27
    ジャーナル フリー

    現在進行中の気候変化の将来予測をより正確に行うためには、過去の高時間分解能・高精度のデータを気候モデルの検証に利用することが有効であるとの認識は、IPCCなどの国際的な取組の中でも広く認められている。PAGESは将来の気候・環境変動理解のための近過去復元研究を行っており、日本もこれまで多くの貢献を果たしてきた。ここではその中の一部について紹介し、今後のPAGESの方向性などについて議論することとしたい。

  • 植松 光夫, 武田 重信, 野尻 幸宏, 谷本 浩志
    2015 年20 巻2 号 p. 195-202
    発行日: 2015年
    公開日: 2025/08/27
    ジャーナル フリー

    SOLAS(海洋・大気間の物質相互作用研究計画)は、海洋と大気の境界を中心に物理・化学・生物分野を統合した生物地球化学的物質循環の研究プロジェクトである。我が国では、太平洋を中心とした大気と海洋の同時総合観測により、物理場の中で化学物質がどう動き、いかに生物が反応するか、従来の大気圏、海洋圏でお互いに独立した系では見えなかった相互作用(リンケージ)を明らかにすることに取り組んできた。海洋生物による炭素の固定をはじめ、海洋大気中の海洋生物起源、人為起源、陸起源の物質との相互作用が地球環境へ与える影響について定量的に評価可能となりつつある。このような大気と海洋とのリンケージ過程が、地球環境将来予測モデルの高度化に不可欠なものとなるであろう。温暖化抑制を目指すジオエンジニアリング(geoengineering)などの評価を含め、社会への影響を考慮した課題をもって新たに立ち上がったFuture Earthへの移行を進めている。

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