地球環境
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19 巻, 2 号
地球規模の化学物質汚染
選択された号の論文の12件中1~12を表示しています
  • 森田 昌敏
    2014 年19 巻2 号 p. 97-100
    発行日: 2014年
    公開日: 2025/09/11
    ジャーナル フリー

    本特集は地球規模で広がる化学物質汚染について、その実態を広域汚染を引き起こす POPs 系化学物質を中心に、モニタリング手法に重心を置きつつ、広域汚染を引き起こす物質の物理化学的特性、生物学的、毒性学的研究の進展、地球規模の監視手法とモデル化を取りまとめたものである。あわせて、ローカルな汚染監視や途上国におけるさまざまな課題とキャパシティビルディングに関する話題、化学物質国際管理にかかわるいくつかの話題にも触れている。持続可能なこの惑星の未来を考えるうえで、環境の状態を把握し将来を予測して早めの対策を準備することが重要であり、本誌をその一助にしていただければと考える次第である。なお、本特集で取り上げられた化学物質の主なものについて、残留性有機汚染物質と内分泌かく乱化学物質に分けて、次ページ以降に化学構造式を記載した。 実際には、非常に多くの類縁化学物質の混合物として存在するものも少なくない。例えば、PCBs やダイオキシン類等は、それぞれ 209 種類の構造異性体からなる。また、DDTs も塩素の位置が異なる o, pʼ-DDT と p, pʼ-DDT の二つに加えて、その代謝産物であるo, pʼ-DDE,o, pʼ-DDD,p, pʼ-DDE,p, pʼ-DDD のあわせて 6 種類が環境中で見つかっているが 、図には一例だけをあげていることに留意されたい。

  • 鈴木 規之
    2014 年19 巻2 号 p. 101-108
    発行日: 2014年
    公開日: 2025/09/11
    ジャーナル フリー

    広域汚染を引き起こす化学物質の特性を、大気や水など複数の環境媒体にまたがった挙動を記述する多媒体モデルを基礎として説明する。化学物質の広域汚染とは、ストックホルム条約にいう POPs( 残留性有機汚染物質 )のように、例えば温帯や熱帯域で環境中に排出された化学物質が極域に到達し、その場の生物に濃縮されるような 性質であると考えられる。この性質は、単にその物質の大気中の安定性のみならず、多くの環境媒体にまたがった挙動を支配する物理化学的性質と密接な関連がある。こうした多媒体動態の概念 、物性値と動態特性、長距離移動ポテンシャルの概要とその応用、さらに今後の動向などについて記述した。

  • 北野 大
    2014 年19 巻2 号 p. 109-114
    発行日: 2014年
    公開日: 2025/09/11
    ジャーナル フリー

    締約国から提案された化学物質が POPs( 残留性有機汚染物質 ) に該当するか否かの審議を行う POPRC( 残留性有機汚染物質検討委員会 )の活動について述べる。ここでの判定基準であるが、分解性や濃縮性については明確な基準が示されているが、実際には総合的かつ weight of evidence( 証拠の重み付け ) に基づく専門家の判断に任せられる柔軟な運用がされているといえる。本稿では、POPRC 発足以降のこれらの専門家の柔軟な判断により POPs と指定された物質及び現在検討中の物質についての審議結果及び審議状況について述べる。

  • 井口 泰泉, 宮川 信一, 荻野 由紀子, 鑪迫 典久, 太田 康彦
    2014 年19 巻2 号 p. 115-124
    発行日: 2014年
    公開日: 2025/09/11
    ジャーナル フリー

    コルボーンらによって執筆された『 Our Stolen Future 』(1996)により提起された内分泌かく乱化学物質問題は、1997年から、国際機関であるWHO(世界保健機関)や OECD(経済協力開発機構)に加えて、日本をはじめ世界各国の取り組みが始まった。日本では、環境省、厚生労働省、経済産業省などを中心に、OECD の内分泌かく乱化学物質の試験法の開発に大きな貢献をしている。2002 年と2012 年には、WHOを中心に、内分泌かく乱化学物質の生物影響に関して発表された論文をまとめた報告書が公表されている。現在では、オーストラリアやブラジルなども内分泌かく乱化学物質問題への対応や研究を開始している。本稿では、最近の重要な研究成果と、2012 年の報告書で取り上げられている野生哺乳動物の有機塩素系汚染物質の蓄積と生殖影響、ヒトへの健康影響の可能性についての知見についても解説する。

  • 田辺 信介, 磯部 友彦
    2014 年19 巻2 号 p. 125-134
    発行日: 2014年
    公開日: 2025/09/11
    ジャーナル フリー

    ストックホルム条約の締結により、世界の多くの国々はPCBs(ポリ塩化ビフェニル類 )やDDTs(ジクロロジフェニルトリクロロエタン類 )など Legacy POPs( 既存の残留性有機汚染物質 )と呼ばれる有機塩素化合物の生産・使用・流通・廃棄を禁止したが、その環境汚染は今なお継続しており、解決すべき課題は依然として多い。また、近年ではプラスチック製品や繊維製品に添加された臭素系難燃剤(BFRs)による地球規模の環境汚染と生態系への影響が懸念されている。とくにアジア地域では急速な工業化・都市化にともない物流が活性化し、先進諸国からの中古家電・電子機器等の輸入量が増大するとともに、その不適正な廃棄・処理による BFRs 汚染の拡大が危惧されている。 しかし、これらの物質の環境モニタリング調査が本格化したのは2000 年代中盤以降であったため、汚染実態の解明やばく露リスクの評価等に関する研究はいまだ途上にある。アジアの発展途上国では、廃棄物処理施設などのインフラや汚染防止対策等にかかわる法規制の整備が遅れているため、BFRs による汚染の実 態把握は急務と考えられる。本稿では、Emerging POPs(新規残留性有機汚染物質)と呼ばれる臭素系難燃剤に注目し、アジア - 太平洋地域の生物汚染について明らかにした研究成果を論述した。

  • 高田 秀重
    2014 年19 巻2 号 p. 135-146
    発行日: 2014年
    公開日: 2025/09/11
    ジャーナル フリー

    レジンペレットとはプラスチックの中間材料で、輸送・取り扱いの過程で環境中へ漏出し、世界中の海岸に漂着している。ペレットは海水中の POPs(残留性有機汚染物質)を100 万倍程度に濃縮・吸着している。IPW(国際ペレットウォッチ)では海岸でのペレットの採取と東京農工大学への送付を世界的に呼びかけ、届いたペレット中の POPs の分析を行い、分析結果を web(http://www.pelletwatch.org/)で公開している。2005 年の開始以来、世界 50 か国約 400 地点からペレットが送付されてきた。PCBs(ポリ塩化ビフェニル類)についてはレガシー汚染、DDTs(ジクロロジフェニルトリクロロエタン類)についてはマラリア対策での使用等により高濃度域が観測された。HCHs(ヘキサクロロシクロヘキサン類)と他の有機塩素系農薬については南半球での汚染が示唆された。国や地域レベルでの pellet watch と組み合わせて、e-waste(電気・電子機器廃棄物)などのローカルな POPs 負荷源を明らかにしてきた。さらに、POPs の汚染レベルの経時変化の把握へも応用された。

  • 河合 徹, 鈴木 規之, 半藤 逸樹
    2014 年19 巻2 号 p. 147-154
    発行日: 2014年
    公開日: 2025/09/11
    ジャーナル フリー

    広域多媒体に渡って輸送され、高い生物濃縮性と毒性をもつ化学汚染物質の一つに残留性有機汚染物質(POPs)が挙げられる。筆者らは POPs の環境中における動態を地球規模で推定する数値モデル(FATE)の開発を行っている。本報では、FATEより得られた結果を用いて、代表的な工業起源の POPs であるポリ塩化ビフェニル類(PCBs)の海洋における動態を概説した。具体的には、まず、PCBs の海洋におけるホットスポットとこの発生源の推定結果を示した。 次に、PCBs の海洋内部における全球収支の推定結果を示し、物理学的プロセスと生物学的プロセスが PCBs の深海輸送に担う役割について論じた。さらに、POPs の海洋水産資源( 中-高次消費者 )への曝露量を推定し、人為的要因 ( 漁業 ) による輸送量を地球規模で推定するための方法論を述べた。

  • 柴田 康行, 高澤 嘉一
    2014 年19 巻2 号 p. 155-163
    発行日: 2014年
    公開日: 2025/09/11
    ジャーナル フリー

    汚染物質の監視にかかわる生物モニタリングとは、野生生物を捕集・濃縮装置、あるいは鋭敏なセンサーとして利用しながら、環境中に存在する化学物質や重金属類等の汚染物質の濃度とその変化を監視するものである。ムラサキイガイ等の二枚貝、巻貝、魚、ミミズ、ネズミ、植物の葉、さらには昆虫等の短寿命生物を使った生物モニタリングが世界のさまざまな国で実施され、化学物質適正管理のための基礎情報を提供している。本稿では、実際の例を含めて生物モニタリングの概要を紹介したあと、筆者らが試みているトンボを使った市民参加型環境モニタリング手法について紹介する。さらに化学物質の一斉分析手法や毒性研究、バイオロギング研究などの急速な進歩を背景に、生物モニタリング手法の将来展望についてもまとめる。

  • 門上 希和夫
    2014 年19 巻2 号 p. 165-172
    発行日: 2014年
    公開日: 2025/09/11
    ジャーナル フリー

    開発済みのGC/MS(ガスクロマトグラフィー/質量分析法)及び LC/TOF-MS(液体クロマトグラフィー/飛行時間型質量分析法)向けの全自動同定・定量データベースシステムを活用して 2 種の水試料用網羅分析法を開発した。半揮発性化学物質の網羅分析は、液々抽出又はタンデム型の固相抽出を用いて広範囲の極性から構成される1,000 物質の大半を定量的に分析できた。同様に 300 種の難揮発性化学物質もタンデム型の固相抽出を用いることで、抽出が難しい水溶性物質を定量的に抽出し、精確に分析できた。両手法を用いて、中国、ベトナム及び日本の河川を調査した結果、検出物質の多くが共通していた。このことから、経済のグローバル化により化学物質汚染も世界共通となっていることが確認された。一方、検出濃度は中国とベトナムが日本と比べて大幅に高かった。これは、化学物質の使用・管理・廃棄が適切に行われていないためであろう。以上の結果から、途上国の化学物質汚染の把握には、網羅分析が有効なツールであることが確認された。

  • 伊藤 治, 高下 栄子, 森田 昌敏
    2014 年19 巻2 号 p. 173-180
    発行日: 2014年
    公開日: 2025/09/11
    ジャーナル フリー

    国連大学は、アジア地域の開発途上国の水圏に着目して、科学的なモニタリングに立脚した環境汚染物質の適正管理の確立を目指し、残留性有機汚染物質 (POPs)を主な対象とした研究活動強化や高等教育の支援に関するプロジェクトを 1996 年から行っている。南、東南並びに東アジアにまたがる 10 ヶ国の 800 以上の地点から採取された河川水、沿岸海洋水、堆積物、水生生物等に含まれる 100 種類以上の化合物の分析を行ってきた。プロジェクト参加国の間には、汚染物質の分析能力に大きな隔たりがあり、それにより汚染状況に関する情報量並びに汚染対策に大きな違いが生まれている。分析機器の整備状況や分析能力における差異は、公的機関だけではなく民間機関との協力を得て縮めていくという方向が有用と思われる。今後予想される新たな規制物質のモニタリングのためには、新しい分析技術の習得が必要とされるので、本プロジェクトのような化学物質の適正管理に関する支援プロジェクトを継続的に行っていくことが望まれる。

  • 柴田 康行, 鈴木 規之
    2014 年19 巻2 号 p. 181-188
    発行日: 2014年
    公開日: 2025/09/11
    ジャーナル フリー

    化学物質は現代の人間生活において欠かすことのできない重要な役割を演じている。天然物も含めた化学物質全体の CAS データベースに登録された化学物質数はすでに 8,000 万種類を大きく超えており、うち日常的に人間が作って使っている物質数は数万 ~ 十万種類ともいわれる。その適正な利用を図り、環境の汚染を引き起こしたり人や野生生物の健康に影響を与えないように管理を進めることが化学物質政策の基本となっている。そのために、国際条約をはじめとした国際的な協調体制のもとに、整合性をもった取り組みを進めるための活動が推進されている。本稿ではこうした取り組みを紹介し、化学物質管理の将来像について私見をまとめたい。

投稿論文
  • 大熊 明大, 佐竹 研一
    2014 年19 巻2 号 p. 189-196
    発行日: 2014年
    公開日: 2025/09/11
    ジャーナル フリー

    「焼けイチョウ」とは、自然災害や戦争によって半焼したイチョウのことをいう。東京都内には1923 年の関東大地震、1945 年の東京大空襲によって炭化した焼けイチョウが数多く分布している。本研究では、焼けイチョウの炭化木部を 2010 年から2013年にかけて採取し、沈着・蓄積した水銀量を明らかにした。

    東京都内の 8 か所で採取した炭化木部中の総水銀沈着量は101~327 ngHgcm-2であった。また、炭化前にイチョウに蓄積していた水銀の炭化による水銀揮発率を求めたところ、300℃ 1~2 時間の炭化条件では100% となり、炭化木部に蓄積している水銀は1945年以降に大気から沈着したものと推定された。また、単位面積あたりの水銀飽和沈着量は800~1,000 ngHgcm-2であり、焼けイチョウの炭化木部中の水銀はその約 7.61%~ 32.7% であり飽和には達していなかった。さらに、比較のため山梨県身延山久遠寺にて1875 年の大火により被災した焼けイチョウの炭化木部を採取し、水銀量を測定した結果、総水銀沈着量は60.9 ngHgcm-2であり、東京都内の焼けイチョウと比較して約 2 倍の期間大気にばく露されていたにもかかわらず、東京都内の方が 1.7~5.4 倍高い値を示した。

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