理学療法学Supplement
Vol.41 Suppl. No.2 (第49回日本理学療法学術大会 抄録集)
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口述
  • 岩月 宏泰, 由留木 裕子, 文野 住文, 中村 あゆみ
    セッションID: 0751
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】近年,本邦では医療や福祉の領域でも雇用就業形態や若者を中心とした職業観の変化が急速に進み,理学療法士を確保したい施設や企業のニーズとの間に解離が生じている。このため,理学療法士養成校では各方面との連携を深め,企業などの最新の情報や人材についてのニーズを把握する必要がある。また,在学中の学生に,将来従事する仕事や職場の状況を理解させ,自己の職業適性,職業生活設計について考える機会を与えることが不可欠である。例えば,理学療法士養成校や地域の実情に応じて,就業やボランティアの体験,卒業生との対話など多様な機会を与えることも前述の目的を達成する上で有用と考えられる。これまで理学療法学生が入学時から卒業までにどのような過程を経て就業意識を培うか,入職後の職業生活に対する適応力を高める教育方法に言及した報告は少ない。今回,理学療法学生の職業生活に対する意識について,質問紙調査の結果から学年別特徴を明らかにし,卒業後に社会的・職業的自立が可能となるような教育的方策について検討した。【説明と同意】本研究の対象者には,青森県立保健大学研究倫理委員会の指針に従って,予め調査の趣旨を説明し了承した上で実施した。また,調査票表紙には「調査票は無記名であり,統計的に処理されるため,皆様の回答が明らかにされることはありません」と明記され,集められた調査票は研究者が入力し,入力後はシュレッダーで裁断した。【方法】対象は青森県,北海道及び高知県に所在する理学療法学専攻の大学及び4年制専修学校に在籍する学生のうち,回答した569名(1年生146名,2年生143名,3年生143名及び4年生137名)であった。調査(留め置き法)時期は2011年6~9月と2013年6月の2回であり,調査票は基本属性,職業志向尺度(若林1983,12項目),成人キャリア成熟尺度(坂柳1999,9項目),職業決定尺度(研究者が作成,4項目)ほかで構成されていた。統計学検討はSPSS VER.16.0Jを使用し,各測定尺度の下位尺度別に集計を行い,学年別比較には多重比較検定(Tukey法)を実施した。なお,各々の下位尺度間でPearson相関係数を算出した。【結果と考察】職業志向尺度の下位尺度のうち,「労働条件」と「人間関係」では学年差を認めなかった。しかし,「職務挑戦」については1~3年生が12.5点台であったが,4年生で11.7±2.8点と下位3学年より有意な低値を示した。また,成人キャリア成熟尺度の「関心性」には学年差を認めなかったが,「自律性」と「計画性」で4年生が下位3学年より有意な低値を示した。なお,職業決定尺度では学年差を認めなかったが,4年生における成人キャリア成熟尺度の下位尺度との相関係数は「関心性」0.27,「自律性」0.22及び「計画性」0.45(p<0.05)であった。1~3年生では学年進行に伴い,自己のキャリアに対して積極的な関心を持ち,それに対する取り組み姿勢も自律的と考えられるので,職業観や職業意識を高める啓発活動の継続性が重要と考えられた。一方,成人キャリア成熟尺度の学年別比較では「自律性」と「計画性」について,4年生では下位学年より有意な低値を示し,職業志向尺度の「職務挑戦」でも同様の結果を認めたことから,彼らには職業生活設計に対する積極的な関心が見出されず,社会的・職業的自立するためのレディネスの確立が遅れていることが推察された。【理学療法学研究としての意義】本研究の結果,4年生が下位学年より「職務挑戦」やキャリア形成で重要な位置を占める「自律性」と「計画性」で消極的な態度を示した事から,長期休暇や入職前に理学療法職場でインターンシップを体験させるなどの機会を与えることで,主体的に選択する職業観や就業意識を育成する必要性が示唆された。
  • 高木 綾一, 畠 淳吾, 鈴木 俊明
    セッションID: 0752
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】一般的に人事考課の成績は,処遇に反映し,動機付け,人材育成を図ることを目的に活用される。しかし,セラピストの人事考課に関する報告は少なく,組織マネジメントへの活用には至っていない。そこで当院の平成22年から平成25年までの人事考課成績を分析し,人事考課成績に影響する要因を検討したので報告する。【方法】対象は,平成22年から平成25年までの間に人事考課を受けたセラピスト504人(平均経験年数2.8±1.9年,男性322名,女性182名)であった。考課者は被考課者の上司2名が行った。人事考課は1.職能2.成績3.情意のそれぞれ構成する下記に記載する項目に対して5段階評価(1点から5点)にて加点し,全項目の合計点により総合評価を定めるものである。1.職能は法人が定めたセラピストの業務や臨床に必要な能力の基準を定めたものである。2.成績は,目標達成,改善行動,計画的行動の項目より構成される。3.情意面は努力,挨拶,言葉遣い,身だしなみ,コスト意識,期限厳守,感情コントロール,コミュニケーション,部署方針順守,責任感,研修会参加,自己啓発,人間関係,他者支援の項目より構成される。初めに全項目合計点の上位より20%(上位群:101名),60%(中位群:303名),20%(下位群:101名)の3群に分類した。次に各群間における1.職能2.成績3.情意の項目を分散分析,多重比較を用いて比較した。また,対象者全員の職能を従属変数,業績,情意の17項目を独立変数とし,ピアソンの相関係数(r)を算出した。なお,統計処理ソフトにはエクセル統計2012を用いた。【説明と同意】対象者に本研究の目的及び方法を説明し,同意を得た。【結果】3群間において職能(上位:4.0±0.1中位:3.0±0.2下位:2.1±0.5),成績(上位:3.4±0.4中位:2.9±0.4下位2.5±0.5),情意(上位:3.4±0.5中位3.0±0.4下位2.7±0.5)となり,すべての項目において3群間に有意に差が認められた(p<0.01)。また,成績,情意の17項目と職能の間におけるピアソンの相関係数(r)は以下の結果となった。目標達成(r=0.48),改善行動(r=0.51),計画的行動(r=0.49)努力(r=0.54),挨拶(r=0.28),言葉遣い(r=0.28),身だしなみ(r=0.14),コスト意識(r=0.41),期限厳守(r=0.36),感情コントロール(r=0.39),コミュニケーション(r=0.61),部署方針順守(r=0.46),責任感(r=0.5),研修会参加(r=0.07),自己啓発(r0.19),人間関係(r=0.47),他人支援(r=0.44)となった。すなわち,職能との間に中程度以上の相関がみられたのは成績の3項目すべて,情意面の努力,コスト意識,コミュニケーション,部署方針順守,責任感,人間関係,他者支援であった(r=0.41~0.61)。なかでも,情意面のコミュニケーションはもっとも強い相関(r=0.61)が見られた。【考察】職能,成績,情意において職能の能力開発が最重要と言われている。しかし,実際の現場では職能だけなく,成績や情意の高低が人事考課成績に大きく影響を与えている印象がある。また,現場では職能だけでなく,目標達成や同僚や組織に対する態度などの指導も行っている。そこで本研究では成績上位,中位,下位群の職能,成績,情意の比較と対象者の各項目の相関関係を算出し,効果的な介入を検討した。結果より,上位,中位,下位において職能,成績,情意のすべてにおいて有意差が認められた。つまり上位成績を得るためには職能,成績,情意面の全ての能力開発が重要であると考えられた。また,職能と成績の項目である目標達成,改善行動,計画的行動には中等度の相関があった。成績の項目は仕事の結果水準を評するものであることから,仕事の結果を求める目的志向への介入が重要と考えられた。職能と情意の項目である努力,コスト意識,コミュニケーション,部署方針順守,責任感,人間関係,他者支援には中等度以上の相関があった。コスト意識や部署方針順守は経営的関与であり,努力,コミュニケーション,責任感,人間関係,他者支援は責任性と協調性を示すものである。つまり,職能の能力開発において情意面からの相乗効果を出すためには経営的関与並びに責任性と協調性への介入が重要と考えられた。【理学療法学研究としての意義】セラピストの人材育成は組織マネジメントにおける重要な経営課題の一つである。本研究は人材育成において職能だけでなく成績,情意の介入の必要性を示唆するものである。
  • 安田 雅美, 岩月 宏泰, 中村 あゆみ
    セッションID: 0753
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに】近年,理学療法士の職場でも職員を100名以上要するところも珍しくなくなり,女性管理職も増えてきた。女性管理職のストレスを引き起こす要因には,職業人として男性と共通する職務上の悩みだけでなく,女性特有のものが幾つか見出されている。例えば,女性に対する根強い性ステレオタイプ的な偏見に伴うキャリア形成の阻害や家庭と仕事の両立からくる葛藤のストレッサーである。これら女性特有のストレッサーはキャリアを獲得する過程で経験されるものであり,これが高じれば女性のキャリア意識を損ない,職務不満足や不安感を助長させかねない。今回,理学療法士を対象に男女平等意識と女性管理者に対する態度について測定し,回答者と直属上司の性別の違いが結果に影響を及ぼすか検討した。【方法】対象は質問紙調査に回答した3医療機関に勤務する理学療法士152名(年齢階級の中央値は30歳台)であった。全対象者を回答者,直属上司が共に女性の場合をFF群(53名),両者が男性の場合をMM群(31名),回答者が女性,直属上司が男性の場合をFM群(35名)及び回答者が男性,直属上司が女性の場合をMF群(33名)の4群に分けた。質問紙調査(留め置き法)時期は2013年6~9月であり,調査票には基本属性,平等主義的性役割態度スケール(SESRA)短縮版(鈴木1994,15項目),女性管理職に対する態度尺度(若林・宗方1985)の短縮版14項目などで構成されていた。統計学検討はSPSS VER.16.0Jを使用し,SESRAについては総点を算出し,女性管理職に対する態度尺度については,「職場の男女平等」因子(7項目)と「管理職としての女性の適正」因子(7項目)の各々で総点を算出し,上述の4群間で多重比較検定(Tukey法)を行った。なお,各々の構成因子の因子得点間でPearson相関係数を算出した。【説明と同意】対象者は本研究の趣旨を了承した者であり,調査票表紙には「調査票は無記名であり,統計的に処理されるため,皆様の回答が明らかにされることはありません」と明記され,集められた調査票は研究者が入力し,入力後はシュレッダーで裁断した。【結果と考察】SESRA得点はFF群58.6±5.7点,FM群59.0±7.0点であり,両群ともMM群とMF群より有意な高値を示した。対象者のうち,女性は性役割に対する意識について平等主義を肯定していたが,男性は伝統主義的と考えられた。一方,4群の「職場の男女平等」因子の得点は満点35点中31点台であり,全ての群で男女平等を好意的に捉えていた。特に,FM群ではこの因子の得点とSESRA得点間に正の相関を認めた(r=0.56,p<0.01)。また,4群の「管理職としての女性の適正」因子の得点は満点35点中18点台であり,全ての群で女性管理職を非好意的に捉えていた。本研究の対象者のうち,女性では職業人としての男女平等観についての2尺度で肯定的とみなすことが出来た。しかし,同性であっても女性の管理職としての適性については,厳しい評価をしていることが推測された。坂田ら(1993)は本邦におけるリーダーシップ機能の性差について,女性管理職は男性管理職よりも職場環境の改善に努力するが,集団維持機能を多く取るわけではなく,むしろ部下に圧力行動を頻繁に取ることを指摘している。本研究の対象が性別に関係なく,「管理職としての女性の適正」因子の得点で低値を示した背景には,このリーダーシップ機能の性差が影響を与えたことも考えられる。今後,理学療法士の職場においても女性管理職の登用の際に彼らの持つ心理的特性やリーダーシップ機能を考慮することで,複雑な人間関係を含む課題に積極的に取り組む機会を与えることが出来得ると考えられた。【理学療法学研究としての意義】本研究の結果,理学療法士の職場においても職員の男女平等観に性差を認め,また女性管理職の職務遂行能力に厳しい目を注いでいることが示唆された。そのため,女性管理職の職務を全うさせるためには,リーダーシップ機能に配慮した組織的な支援体制を考慮する必要性がある。
  • 平林 弦大, 久住 治彦, 内藤 太善
    セッションID: 0754
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに】我々の先行研究では理学療法士を目指す学生は,当初,社会貢献を中心とした内発的な動機(やりがい)に価値を見出していた。その後の調査では,臨床実習などを経て職業の詳細を知るに従い,生活の安定や調和へ価値を置くように変化が生じていた。卒業後は,専門職としてキャリアの第一歩を踏み出すわけだが,ミスマッチ・リアリティショックという言葉に代表されるように,早期退職する者も後を絶たない。キャリア形成の援助は分野や条件など個別の価値観に左右されるところが大きく,画一的に実施することができない。そこで今回は,専門職のキャリアサポートの一助とするべく,大半を占める病院勤務の専門職はどのような価値観を持っているのか調査を行う。【方法】某総合病院に勤務するリハビリテーション科専門職40名(男性14名,女性26名)を対象とした。専門職の属性は理学療法士22名,作業療法士14名,言語聴覚士4名で,平均経験年数は4.0±3.3年であった。専門職の価値観については,Edgar H.Scheinにより開発されたキャリア指向質問票40項目を用いた。質問は価値観に対する8つのカテゴリー,各5問で構成され,個人の持つキャリアに対する動機や価値観についての質問を,「全くそう思わない=1」から「全くその通りだと思う=6」の6段階にて共感度を指数化する。さらに,非常に強く共感した質問を3つ選択し4を加算する。それらすべてをカテゴリーごとに合算し平均を求め,最も高い数値を示したカテゴリーが,キャリアに対する犠牲にしたくない自身の価値観(キャリアアンカー)となる。この手続きにて得られた個人の価値観,各カテゴリーの共感度を職種や経験年数にて比較し検討を行った。なお,統計学的処理はSPSS.Ver16にて5%未満を有意水準とし,χ二乗検定を用いた。【倫理的配慮・説明と同意】対象者の属する病院の倫理委員会承認のもと,口頭および書面にて説明し同意を得た上で実施した。【結果】総合病院に勤務するリハビリテーション専門職の価値観は「特定専門」11名「総合管理」「自由自律」「安全安定」「創意創業」は0名「奉仕貢献」4名「挑戦克服」3名「生活様式」22名であった。全体の傾向としては,「特定専門」「生活様式」に価値観を持つ専門職が多かった。また,各カテゴリーでの共感度の比較では,リーダーシップを発揮することやマネジメントに価値を見出す「総合管理」は「3」(あまりそう思わない)を下回り共感度が低かった。【考察】「特定専門」にキャリアアンカーを持つものは,自身の技能を発揮できる機会を求め,常にその技能に磨きをかけることに価値を見出し,「生活様式」では個人・家族・キャリアのニーズを統合させ,生活の調和と自身をどう成長させるかに価値を見出すといわれている。金井らによれば,キャリアの発達には概ね10年以上かかり,キャリアの段階は仕事選びから退職まで10段階の過程があるといわれている。今回の対象は平均経験年数が4年程度と,この段階に照らし合わせると第3段階の「仕事生活に入る」から,第5段階の「一人前の成員になる」までに相当する。このことから今回の結果は,専門職として一人前になるために技能を磨くことや,社会生活と自分自身の仕事での成長に調和を求めることに価値を置いたのであろう。また,「総合管理」の共感度が低かったことも,これらの理由からすれば,自身の価値とは正反対の価値となり共感は得られにくかったと考えられる。リハビリテーションに対する社会的ニーズが高まるとともに,活躍の場である病院,施設に所属する専門職は増加かつ若年化が急激におきている。それらの多くは質を向上させるための研鑽の必要性が高く,同時に結婚や出産というライフイベントを控えている世代でもある。ミスマッチや生活的な問題が生じると離職につながり,良好なキャリアが形成できないばかりか,病院では対象者に十分なサービス提供ができなくなる可能性がある。良好なキャリア形成のためには,個々が自身のニーズや価値を十分理解するとともに,管理者も個別性を踏まえた計画的な援助をすることが重要であると考えられた。【理学療法研究としての意義】近年は社会情勢の変化により「働き方」が多様化している。理学療法業界も若年層が大半を占め,ライフステージの変化に応じキャリアを継続的に支援できるシステムの構築が急務である。就労における個々の価値観は確立までに期間を要し,その発達過程の把握から方略を検討することは意義のあることといえる。
  • ―アテローム血栓性脳梗塞患者との比較―
    山本 鉄大, 久我 宜正, 齋藤 圭介, 平上 二九三, 鈴木 康夫
    セッションID: 0755
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】1989年にCaplanが提唱したBranch Atheromatous Disease(BAD)は,アテローム血栓性脳梗塞と同様の機序で発症する穿通枝領域の梗塞で,ラクナ梗塞との中間の病態と言われ,National Institute of Neurological Disorders and Stroke分類(NINDS III)ではその他の脳梗塞に分類される。BADの先行研究では,ラクナ梗塞より運動麻痺は重度であり予後不良とされている。しかし移動能力の予後について検討した報告は少なく,また閉塞部位がラクナ梗塞よりも中枢部が閉塞するアテローム血栓性脳梗塞との予後を比較した研究は少ない。本研究の目的は,BAD患者の移動能力と日常生活自立度(ADL)の予後について,アテローム血栓性脳梗塞患者との比較から検討することである。【方法】対象は,岡山県内一ヵ所の病院の回復期リハビリテーション(リハ)病棟に2010年8月から2013年8月までの間に入院したBADならびにアテローム血栓性脳梗塞の診断を受けた53名(男33名,女20名,平均年齢75.3±10.1歳)である。BAD患者は23名で,その内訳は,レンズ核線条体動脈領域18名,橋傍正中枝領域5名であった。一方,アテローム血栓性脳梗塞の症例は30名であった。調査項目は,基本属性・医学的属性,認知機能障害の有無,一次障害の指標として下肢Brunnstrom Recovery Stage(BRS),移動能力の指標としてRivermead Mobility Index(RMI),ADLの指標としてMotor Functional Independence Measure(mFIM)を診療録より収集した。統計解析では,アテローム血栓性脳梗塞30名をコントロール群としリハ開始時と退院時のBRS,RMI,mFIM得点について,Mann-Whitney検定,Wilcoxon検定,カイ二乗検定を用い比較検討した。【倫理的配慮,説明と同意】対象患者よりデータ使用について書面による同意を得て行った。【結果】各指標のリハ開始時と退院時の状態についてみると,下肢BRSはBAD群ではリハ開始時がI 4名,II 3名,III 4名,IV 4名,V 4名,VI 4名,退院時がI 1名,II 1名,III 2名,IV 3名,V 5名,VI 11名であった。RMI得点は入院時ではBAD群2.5±1.9点,コントロール群5.2±3.2点,そして退院時ではBAD群10.4±3.5点,コントロール群10.6±4.3点であった。mFIM得点は入院時ではBAD群29.2±14.8点,コントロール群48.2±25.4点,そして退院時ではBAD群72.4±18.7点,コントロール群74.5±20.1点であった。Wilcoxon検定を用い各指標の回復状況について検討した結果,BAD群ならびにコントロール群共にBRS,RMI,mFIMは統計的に有意な回復を示した(p<0.01)。群間比較の結果,リハ開始時ではBAD群がコントロール群よりもBRS,RMI,mFIMが統計的に有意に低い(p<0.01)のに対し,退院時ではBRSのみ有意に低く(p<0.05),RMIとmFIMは有意差を認めなかった。認知機能障害の有無については,BAD群では有り2例,無し21例,コントロール群では有り11例,無し19例であり,BAD群が統計的に有意に少なかった(p<0.01)。【考察】BADの予後に関して,先行研究ではラクナ梗塞よりも重症であることが指摘されているが,本研究におけるアテローム血栓性脳梗塞との比較では,発症後早期・予後共に一次障害としての運動麻痺はより重度であった。しかし運動麻痺,移動能力,ADLともに全て改善を示すと共に,二次障害で多要因から規定される移動能力やADLは,リハ開始時は相対的に低いものの,予後としてアテローム血栓性脳梗塞と同等に回復することが示唆された。なおBADと認知機能障害との関連はこれまで十分な検討は行われてこなかったものの,本研究ではアテローム血栓性脳梗塞に比べ発生率が有意に少なく,BADの症状特性を反映している可能性が示唆された。【理学療法学研究としての意義】本研究は,BAD患者の予後を明らかにし,理学療法を検討する上での基礎資料を提示した。度うどやしゅうやるぃて代償的BADは一次障害の知見から予後不良と理解されているが,運動麻痺は相対的に重度であるものの理学療法の主要な目標である移動能力とADLが遜色のない回復を示すことを明らかにしたことは,一次障害を補完する動作学習や機能代償的アプローチ,環境面を重視した介入の重要性を示唆するものである。
  • 藤野 雄次, 網本 和, 深田 和浩, 井上 真秀, 蓮田 有莉, 高石 真二郎, 牧田 茂, 高橋 秀寿
    セッションID: 0756
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに】ヒトは生来,前庭,視覚,体性感覚からの情報入力とその統合により,空間における垂直性が保障されている。脳血管障害患者では,この既得の垂直認知が変容することにより平衡機能障害が生じ,特にPusher現象はADLを著しく阻害する症候であるため病巣分析や治療の開発が重要とされる。このPusher現象の生起には島後部や中心後回,視床後外側部などが関与することが明らかにされている(Abe et al., Johannsen et al., Karnath et al)。一方,Ticiniらは視床病変のないPusher現象例では,頭頂葉白質の灌流低下が生じていることを報告している。注目すべきことに,この深部白質の変化は健常高齢者においても歩行やバランス能力を低下させることが示されている(Baezner et al)。このことは,加齢とともに発症率が増加する脳血管障害患者では,主病変のほかに深部白質病変が潜在的に姿勢制御を低下させている可能性を示唆するものである。そこで本研究の目的は,Pusher現象に関連する脳損傷領域と深部白質病変によるPusher現象の重症度の差異を検証することである。【方法】対象はScale for Contraversive Pushing(以下,SCP)を用いてPusher現象が陽性と診断された(SCP各下位項目>0)発症早期の初発脳血管障害患者36例(年齢68.9±12.5歳(平均±SD),性別:男性25名・女性11名,右片麻痺7名・左片麻痺29名,測定病日20.3±9.1日,全例右手利き)とした。脳損傷部位の評価方法は,出血例では頭部CT画像,虚血例ではMRI(拡散強調像)を用い,深部白質病変はMRI(FLAIR像)から判定した。深部白質病変の画像情報は,深部白質におよぶ脳損傷や脳浮腫などの影響を除外するため,脳損傷側と反対側の所見を用いた。脳損傷部位は,先行研究で示されているPusher現象の責任病巣に基づき,皮質下出血例や中大脳動脈領域の脳梗塞例(皮質損傷あり群;以下,C+)と,視床や被殻,放線冠などに病変を有する皮質下病変例(皮質損傷なし群;以下,C-)に大別した。深部白質病変の評価はFazekas分類に基づき,側脳室周囲病変(以下,PVH)と深部皮質下白質病変(以下,DWMH)のスコア(grade0-3)いずれかがGrade1以上であった場合を深部白質病変あり群(以下,S+),いずれもGrade0の場合を深部白質病変なし群(以下,S-)に分類した。皮質損傷と深部白質病変の有無により,対象者をC+S+群,C+S-群,C-S+群,C-S-群の4群に分けた。臨床的指標としてStroke Impairment Assessment Set(以下,SIAS)とSCPを評価した。統計的手法にはKruskal-Wallis検定,一元配置分散分析ならびに多重比較検定を用い,各群のSIAS,SCPを比較した(有意水準5%未満)。【倫理的配慮】本研究は当院倫理審査委員会の承認を得て実施し,対象者には事前に本研究の内容を書面にて説明し同意を得た。【結果】各群の病変は,C+S+群(n=12)が内頚動脈領域梗塞(以下,ICA)3例,中大脳動脈領域梗塞(以下,MCA)8例,広範皮質下出血1例であった。同様にC+S-群(n=10)はICA3例,MCA5例,広範皮質下出血2例,C-S+群(n=8)はMCA3例,被殻出血4例,視床出血1例,C-S-群(n=6)はMCA3例,被殻出血3例であった。C+S+群,C+S-群,C-S+群,C-S-群のSIASは順に27.5(中央値),26.0,28.0,31.5であり,有意差はなかった。同順でSCPは4.4±0.8(平均±SD),4.5±1.1,3.7±1.0,2.0±0.2であり主効果を認めた。多重比較検定の結果,C-S-群は他の群に比べてSCPが有意に低値を示した。【考察】本研究結果から,広範な皮質損傷を伴う患者では深部白質病変に関わらずPusher現象が重度となる一方,皮質下損傷例では深部白質病変の有無によりPusher重症度に差が生じることが示された。深部白質病変は前頭葉と感覚運動野のネットワークや投射線維の障害によりバランスを低下させるとされており,皮質下損傷例では深部白質の障害がPusher現象の症候を修飾している可能性が示唆された。今後さらに症例数を増やし,病態や病型を一致させた条件での群間比較が追跡課題と考えられる。【理学療法学研究としての意義】脳画像情報を用いてPusher現象の重症度に関連する要因を明らかにすることは,理学療法の意義と専門性を高めるとともに,より的確な理学療法の評価や目標設定に役立つことが期待される。
  • 深田 和浩, 藤野 雄次, 網本 和, 井上 真秀, 高石 真二郎, 牧田 茂, 高橋 秀寿
    セッションID: 0757
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】Pusher現象は,非麻痺側上下肢で接触面を押し,他動的な姿勢の修正に対し抵抗する現象であり,その評価と治療は重要である。Pusher現象を客観的に評価するための方法として,Karnathらが開発したScale of Contraversive Pushing(以下,SCP)が一般的に用いられ,測定再現性や妥当性が良好であることが報告されている。このSCPは,Pusher現象の診断において感度や特異度が優れているものの,Pusher現象の回復の変化における敏感度が低いことが指摘されている。この点に関して,Pusher現象の経時的変化を鋭敏に捉えるためのスケールとして,D‘Aquilaらは,Burke Lateropulsion Scale(以下,側方突進スケール)を開発した。この側方突進スケールは,寝返り・座位・立位・移乗・歩行の5項目で構成され,0~17点の範囲でPusher現象の重症度を評価するものであり,ADLやバランスとの関連が高いことが報告されている。しかしながら,新たに開発された評価法は,基準関連妥当性の検証が必要とされるが,従来のPusher現象に対するスケールとの関連を検討した報告はない。そこで本研究の目的は,発症早期のPusher現象例に対して,側方突進スケールと従来のPusher現象に対するスケールとの基準関連妥当性を検証することとした。【方法】対象は,当院に入院し理学療法を処方されたテント上の脳血管障害患者のうち,SCPにてPusher現象ありと診断された25例(年齢66.8±15.5歳(平均±SD),性別:男性19例・女性6例,全例右手利き,左片麻痺17例・左片麻痺8例,測定病日17.3±7.0日,SIAS 26点(中央値),半側空間無視21例)とした。取り込み基準は,JCS1桁かつ全身状態が安定していることとし,Pusher現象の診断には,Bacciniらの方法に従ってSCPの各下位項目>0(合計≧1.75)を採用した。脳損傷部位は,脳梗塞:中大脳動脈領域8例・内頚動脈領域6例・前大脳動脈領域1例,脳出血:皮質下4例・被殻3例・視床3例であった。評価は,理学療法を開始後,座位・起立練習が可能となった段階で実施し,側方突進スケール,SCP,Pusher重症度分類を同日に測定した。各スケールの評価は,当院の脳卒中チームに勤務している経験年数4年目以上のPT3名が実施した。側方突進スケールとSCP,Pusher重症度分類との関連については,Pearsonの積率相関係数を用いて検討し,統計処理にはSPSSver16を用い,有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮】本研究は当院の倫理審査委員会の承認を得て実施し,事前に本人もしくは家族に本研究の内容を説明し,同意を得た。【結果】側方突進スケール,SCP,Pusher重症度分類の合計得点はそれぞれ8.5±2.7点,3.7±1.4点,3.4±1.3点であった。側方突進スケールは,SCPとPusher重症度分類との間にそれぞれ強い正の相関(r=0.821,0.858,P<0.01)を認めた。【考察】本研究により,側方突進スケールは,SCPとPusher重症度分類のいずれとも強い相関があることが明らかとなった。側方突進スケールは,従来のスケールにはない寝返りや移乗の項目が含まれているが,SCPやPusher重症度分類と同様に座位・立位を中心に評価している点やPusher現象に特異的な他動的な姿勢の修正に対する抵抗に重きを置いているため,強い相関が得られたことが推察される。以上のことから,発症早期のPusher現象例における側方突進スケールの基準関連妥当性が示され,Pusher現象を客観的に評価し,経時的変化を捉えるためのツールとしての臨床的な有用性が示唆された。【理学療法学研究としての意義】側方突進スケールは,従来のスケールでは評価できないPusher現象の特性や回復の変化をより詳細に捉えることが可能であり,急性期からの戦略的な治療を考える上で有用な指標となることが期待される。
  • ―運動学的評価を用いたcTBSの即時効果・波及効果の検証―
    万治 淳史, 松田 雅弘, 和田 義明, 稲葉 彰, 平島 富美子, 中島 由季, 網本 和
    セッションID: 0758
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】近年,脳卒中後片麻痺患者に対する反復経頭蓋磁気刺激(repetitive trans cranial magnetic stimulation:以下rTMS)の利用による麻痺の治療の報告がなされている。rTMSによる麻痺肢の治療戦略には病巣半球皮質に対する高頻度磁気刺激による促通と非病巣側に対する低頻度磁気に刺激による抑制が用いられている。さらに技術の発展によりContinuous Theta Burst Stimulation(:以下cTBS)がrTMSの刺激方法の一種として開発され,より短時間で皮質の興奮性の抑制効果が得られることが報告され,臨床場面への応用も徐々に進んでいる。rTMSの治療効果について,麻痺肢のパフォーマンス評価を指標として用いたものが多く,その効果機序については十分に明らかになっていない。他方,上肢対応領域への刺激による下肢運動の改善などといった刺激対象とする運動領域に対応する筋の運動改善効果に加え,他の部位への治療効果の波及効果についても報告が見られる。しかし,cTBSによる治療効果に関して,rTMS同様その効果機序については不明であり,詳細な治療効果の分析が必要である。また,刺激部位に対応した領域以外への波及について検討したものは見られない。そこで本研究の目的はcTBSによる非病巣側への治療刺激が麻痺側肩関節運動に与える即時効果を運動学的評価指標を用いて明らかにする事とした。なお,本研究は平成24年度日本理学療法士協会研究助成研究の一部として実施した。【方法】対象は回復期リハビリテーション病院入院中の初発脳卒中後片麻痺患者6名(平均年齢58歳:45~68歳,男性3名,女性3名,脳梗塞4例 脳出血2例)とした。対象にはcTBS(100Hz磁気刺激の3連発刺激を毎秒5回,40秒間で計600回の刺激)による治療とSham(偽刺激)を別日に行った。cTBS刺激部位は非病巣側運動野の非麻痺側背側骨間筋対応領域とした。刺激強度は刺激部位同定後,運動時閾値の測定を行い,閾値の80%として設定した。Sham刺激は刺激部位の同定,閾値の測定などの手順はcTBSと同様とし,刺激入力時のみコイルの向きを垂直にして,磁気刺激の入力がされないように設定した。刺激には磁気刺激装置MagPro(Magventure社製)を使用した。評価はcTBS,Sham刺激それぞれの前後に患者に座位にて肩関節屈曲・外転運動を行わせ,運動をデジタルビデオカメラ(Sony社製)にて撮像した。運動学的分析には動画解析ソフトFrameDiasIV(DKH社製)を使用し,各試行における肩関節屈曲・外転の最大運動角度,平均運動角速度を算出した。各関節運動は2回ずつ実施した。統計学的分析は各試行の分析によって得られた最大運動角度,平均角速度を指標として,cTBS・Sham刺激前後での各指標の改善率(=刺激後/刺激前)を算出し,2回分データの平均値を代表値として用いて,Wilcoxon符号付き順位和検定によって,cTBS・Sham刺激前後での改善率の比較を行った。有意水準はp=0.05とした。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は日産厚生会玉川病院倫理委員会の研究倫理審査の承認を得ており,cTBS施行および患者の選定は臨床神経生理学会による磁気刺激運用上の安全指針に基づき行った。【結果】各関節運動平均角速度の改善率について,肩屈曲はcTBS前後=1.4±0.3:Sham前後=1.0±0.1,肩外転はcTBS前後=1.5±0.4:Sham前後=0.8±0.3であり,cTBS前後の改善率がSham刺激前後に比べ,有意に改善率が大きかった(p<0.05)。各運動の最大運動角度の改善率について,cTBSとShamの間で有意な改善率の差は見られなかった。【考察】cTBSによる麻痺肢の治療効果については非病巣側皮質への抑制刺激により,対側への抑制効果(半球間抑制)が低減し,病巣側運動野の活動性が高めるという機序が背景となっている。本実験の結果にて刺激した手領域とは異なる肩関節での運動の変化が見られたことについて,背景としてrTMSの空間分解能特性から,波及効果は刺激側ではなく反対側皮質において,刺激部位に対応した領域の他に周辺への効果の波及が起こっている可能性が考えられる。他に刺激部位に対応する手・手指部の運動性や筋緊張が変化したことにより二次的に肩関節運動に影響をもたらした可能性が考えられる。次に運動速度に改善が見られたことについて,cTBSによる抑制刺激による効果は麻痺肢の痙性を低減する効果を有することが考えられる。【理学療法学研究としての意義】手領域への刺激を行うcTBS治療が肩関節運動に与える影響を運動学的指標を用いて,Sham刺激との比較によって明らかにした。cTBSの効果機序の一部を明らかにしたこと,治療を実施する上での情報として有用であると考えられる。
  • ―運動学的評価を用いた検討―
    松田 雅弘, 万治 淳史, 和田 義明, 稲葉 彰, 平島 富美子, 中島 由季, 網本 和
    セッションID: 0759
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】脳卒中後遺症に関する治療の1つに反復経頭蓋磁気刺激(repetitive transcranial magnetic stimulation;rTMS)で脳を直接刺激する手法がみられる。非病巣側運動野を過剰使用することで,対応する病巣側運動野を抑制する(半球間抑制)。その理論より非病巣側に低頻度の1Hzの刺激を与えることで過剰な神経活動を抑制し,病巣側の活動が向上する。同様に,continuous theta burst stimulation(cTBS)は,脳組織に低頻度rTMSよりも短時間で抑制効果がある磁気刺激方法である。しかし,従来のrTMSによる治療の報告は慢性期患者,上肢のパフォーマンス評価,日常生活動作能力の評価によるものが多い。それに比べ,cTBSに関して報告が少なく,磁気刺激の皮質興奮性抑制効果がどのような機序で麻痺肢の回復に寄与するのか,麻痺肢運動そのものについてどのような効果を与えるのかについて,麻痺肢の運動学的評価に基づき回復期脳卒中患者で検討したものは見られない。そこで本研究の目的は,cTBSによる非病巣側への治療刺激が麻痺肢運動に与える即時効果に関して運動学的分析を用いて検討した。本研究は平成24年度日本理学療法士協会研究助成を受けて実施した。【方法】対象は回復期リハビリテーション病院入院中の初発脳卒中後片麻痺患者6名(平均年齢62.7歳;45~74歳),上肢・手指Br-stageII~Vとした。対象にはcTBS(100Hz磁気刺激の3連発刺激を毎秒5回,40秒間で計600回の刺激)による治療と,Sham(偽)刺激を別日に行った。cTBSは非病巣側運動野の背側骨間筋の対応領域同定後,同部位を刺激部位として,次に運動時閾値の測定を行い,閾値の80%を刺激強度として設定した。Sham刺激は場所の同定,閾値の測定などの手順はcTBSと同様とし,刺激入力時のみコイルの向きを垂直にして,磁気刺激の入力がされないように設定した。刺激には磁気刺激装置MagPro(Magventure社製)を使用した。刺激前後での評価は,cTBS,Sham刺激それぞれの前後に,反射マーカーを貼付し座位にて最大速度と大きく手関節背屈運動,母指外転運動を行わせ,運動をデジタルビデオカメラ(Sony社製)にて撮像した。運動学的分析には動画解析ソフトFrameDiasIV(DKH社製)を使用し,各試行における手関節背屈・母指CM関節の最大運動角度,平均運動角速度を算出した。各関節運動は2回ずつ実施した。統計学的分析は各試行から得られた最大運動角度,最大角速度を指標として,cTBS・Sham刺激前後での各指標の改善率(刺激後/刺激前)を算出し,2回分のデータの平均値を代表値として用いて,Wilcoxon符号付き順位和検定によって,cTBS,Sham刺激前後での改善率の比較を行った。有意水準は5%とし,統計にはSPSS ver.21を使用した。【倫理的配慮,説明と同意】全対象者に対して,事前に本研究の目的と方法を説明し,研究協力の同意を得た。本研究は植草学園大学倫理審査委員会と玉川病院倫理審査委員会の承認を得て実施した。適応基準はWassermannのガイドラインに記されているrTMSの禁忌を認めないこととした。【結果】cTBS前後の平均運動角速度の改善率は,手関節背屈1.38±0.1・母指外転運動1.35±0.15と,Sham刺激前後の手関節背屈1.03±0.14・母指外転運動1.08±0.2に比べ有意に大きかった(p<0.05)。しかし,手関節背屈運動角度(cTBS1.03±0.14,Sham0.95±0.02)・母指外転運動角度(cTBS1.40±0.30,Sham1.35±0.57)となり,cTBS・Sham刺激前後の改善率の有意差は見られなかった。【考察】cTBS前後で関節運動速度の改善がみられ,最大運動角度の変化がみられなかったことから,cTBS刺激は運動速度を規定する因子に影響を与えることが示唆された。麻痺肢の運動速度の低下に影響を与える因子として,当該部位や周辺の痙性や拮抗筋の過緊張・同時収縮などが挙げられる。cTBSの効果として,麻痺肢痙性の低減の効果があるという可能性が示唆される。半球間抑制を減弱させ,病巣周辺領域の運動野が抑制から開放される(脱抑制)ことで筋緊張が減弱し,麻痺側上肢の動きが改善したことが考えられる。【理学療法学研究としての意義】cTBS治療が手関節・母指関節運動の運動学的に与える影響をSham刺激との比較によって明らかとした。磁気刺激の効果として,過剰な半球間抑制を減弱することでの痙性抑制がある。その程度を明らかにすることで,その後の理学療法が円滑に実施可能になると考えられる。今まで維持期での効果報告が多かったが,回復期脳卒中患者,また麻痺の程度が重度であっても即時効果が明らかになったことにより,回復期においても磁気刺激を利用し痙縮抑制,その後の理学療法へ継げられることが示唆された。
ポスター
  • ―健常群と若年腰痛者の比較による検証―
    松岡 健, 岩本 博行, 江口 淳子, 須﨑 裕一, 長和 伸治, 中山 彰一
    セッションID: 0760
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】大腿四頭筋に関してはこれまでに機能解剖学的報告,また腰痛・腰部疾患との関係を示すものなど多くの報告がある。さらに近年は超音波診断装置の進歩により深層に位置する中間広筋機能に関する報告も散見する。我々は,超音波診断装置および表面筋電図を用いて膝伸展筋力と大腿四頭筋各筋厚・面積積分値・各筋積分値比について検証し,いずれも膝伸展筋力,特に屈曲位70度から45度間における中間広筋の貢献度が高い事を報告した。そこで今回は,健常人および慢性腰痛者を対象とし,膝伸展運動時における大腿四頭筋各筋活動量の両群間での比較,また角度変化での活動量の推移について,表面筋電図を用い検証したので報告する。【方法】対象は下肢・体幹に整形外科的疾患の既往のない健常人男性17名(平均年齢24.4±3.64歳,平均体重64.2±10.1kg,平均身長169.13±7.9cm),2ヵ月以上の持続した腰痛を有する慢性腰痛者男性16名(平均年齢24.1±4.57歳,体重63.7±9.1kg,平均身長168.53±8.5cm)とした。表面筋電図の測定筋は右側の大腿直筋,内側広筋,外側広筋,中間広筋の4筋とした。導出部位として大腿直筋は下前腸骨棘と膝蓋骨上縁を結ぶ線の中央部位,内側広筋は膝蓋骨上縁より筋腹に沿って4横指部位,外側広筋は膝蓋骨上縁より筋腹に沿って5横指部位,中間広筋は外側広筋腹停止部位から膝蓋骨上縁までの間隙とした。なお中間広筋導出に際しては超音波診断装置(SONIMAGE513,コニカミノルタエムジー株式会社製)を用いて,中間広筋腹が表層近くで膨隆する部位を確認したうえ行った。電極は皮膚の電気抵抗を考慮し十分な処理を行い,電極中心距離は10mm,各筋線維走行に並行に貼付した。まず座位にて膝屈曲5度における膝伸展最大随意等尺性収縮(以下,MVC:maximum voluntary contraction)時の大腿四頭筋活動量を計測した。筋活動量は付属のプログラムによって計算された面積積分値により評価した。次に右膝関節屈曲30度,45度,70度位からの伸展運動時の大腿四頭筋各筋MVCより面積積分値を計算し,膝関節屈曲5度でのMVCに対する割合(以下,%MVC)を計算して各筋間で比較検討した。測定は1回で5秒間のMVCを実施し,あいだ3秒間の面積積分値を用いた。測定肢位はBIODEX上端座位とし,角度調整もBIODEXにて行った。比較項目は各筋の角度別筋積分値の変化とした。比較項目は,健常群,慢性腰痛群それぞれに各肢位での大腿四頭筋各筋%MVCの変化,および両群間の各肢位のおける各筋%MVCを比較検討した。統計処理にはSPSSを用い,各肢位での大腿四頭筋各筋%MVCの比較には,一元配置分散分析法,および多重比較(Bonferroni法)を用い,両群間の比較には対応のないt検定を用いた。有意水準は5%未満とした。結果は平均±標準偏差で表記した。【倫理的配慮,説明と同意】全ての被験者には動作を口頭および文章にて研究趣旨を十分に説明し,同意を得たのちに検証を行った。【結果】膝関節各肢位における大腿四頭筋各筋の変化は,健常群・慢性腰痛群とも70度で%MVCは最大値を示し,45度,30度と減少する結果であった。中でも中間広筋は,健常群・慢性腰痛群ともに70度(健常群平均434.9±131.0,腰痛群338.6±108.9),45度(健常群平均235.9±81.2,腰痛群178.0±60.5),30度(健常群平均178.5±82.4,腰痛群120.1±66.4)と角度変化に伴い有意に変化した(p<0.01)。他3筋は70度と30度間で有意差を認めたが,70度と45度間,45度と30度間で有意差は認められなかった。群間比較では,腰痛群の中間広筋%MVCが,健常群の中間広筋%MVCに比較し有意に減少していた(p<0.01)。他3筋に有意差は認めなかった。【考察】両群間での比較で,大腿直筋・内側広筋・外側広筋に有意差は認められず,腰痛群中間広筋のみが有意に低い値を示したことから,腰痛群での膝伸展筋力低下・筋出力低下に中間広筋の関与が示唆された。また,両群の角度変化による各筋%MVC推移は,同様の変化を示し,腰痛群の特異性は認めなかった。【理学療法学研究としての意義】膝伸展筋力における中間広筋の貢献度を示す健常人による前回まで報告から,慢性腰痛者による検証を加えた。結果,慢性腰痛者で中間広筋に有意な低下を認め,健常人同様,膝伸展筋力への中間広筋貢献度の大きさを示すものであった。今後は,対象疾患を増やしていき,これまでの結果と比較し検証したい。また膝関節は荷重関節であり,末梢からの感覚入力系との関係について明らかにする必要があると考え今後の課題とする。
  • 西沢 喬, 今井田 憲, 佐分 宏基, 馬渕 恵莉, 吉村 孝之, 桂川 純弥, 田中 優介, 長谷部 武久
    セッションID: 0761
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに,目的】股関節疾患において大殿筋や中殿筋といった股関節周囲筋が萎縮しやすいとされている。萎縮の予防として,整形外科疾患術後早期からopen kinetic chainによる股関節周囲筋の選択的な筋力トレーニングが重要となる。大殿筋は歩行の立脚相初期時に最も働くとされており,大殿筋の萎縮は,跛行の原因と報告されている。大殿筋萎縮予防として,腹臥位股関節伸展運動が知られているが,代償動作として腰椎前弯が出現しやすい。腰椎前弯の過剰な増強は腰痛を惹起する可能性があるとされている。脊柱起立筋の過剰収縮が腰椎前弯方向へのストレスを大きくすると報告されている。腰椎前弯増強の予防として,骨盤を自動後傾させる方法が考えられるが,骨盤肢位の変化による筋活動の詳細な報告は少ない。そこで,我々は,健常成人を対象として表面筋電図を用い,腹臥位での骨盤肢位の変化による股関節伸展運動時の股関節周囲筋の筋活動を測定・解析した。さらに,運動時の骨盤後傾角度にて,2群に分け,筋活動について明らかにすることを目的とした。【方法】対象は腰部・股関節に疾患のない健常成人男性18名(平均年齢28.4±5.0歳,平均身長172.0±4.7cm,平均体重61.9±6.6kg)とした。筋活動の測定には表面筋電図(Myosystem G2)を用い,測定筋は左側の大殿筋,脊柱起立筋,腹直筋,外腹斜筋の4筋とした。開始肢位は腹臥位,左膝関節90度以上屈曲位とし,重錘負荷として大腿後面に体重5%の重錘をバンドで固定した。測定課題は1)骨盤を規定しない(以下,無規定),2)恥骨結合を床に押し付け骨盤を自動後傾させた(以下,自動後傾)の2条件とした。股関節伸展運動時の上前腸骨棘と上後腸骨棘を結んだ線と体幹と平行な線の頭側になす角度を正とし,画像解析ソフトImage Jを用いて測定し,骨盤傾斜角とした。また,骨盤傾斜角度の無規定と自動後傾での差が5度以上骨盤後傾群(以下,遂行群),5度以下骨盤後傾群(以下,非遂行群)とした。筋電図の測定は,各条件において波形が安定した3秒間の筋活動を記録した。得られたデータは最大等尺性収縮(以下,MVC)時の筋活動を100%として正規化し,各条件での筋活動を%MVCとして算出した。各条件間における筋活動の比較には,対応のあるt検定を行った。統計学的分析にはSPSS12.0Jを用い,有意水準は5%とした。【倫理的配慮,説明と同意】対象者には,本研究の主旨および方法,研究参加の有無によって不利益にならないことを十分に説明し,書面にて承諾を得た。また本研究は当院・平成医療短期大学の倫理委員会の承認を得て行った。(承認番号130607,H25-37号)【結果】全対象者において,大殿筋活動,腹直筋活動,外腹斜筋活動では自動後傾が無規定に比べ有意に高かった(P<0.05)。脊柱起立筋では有意差を認めなかった。以下の表記は,(無規定,自動後傾)とする。骨盤傾斜角は,(65.3±5.7度,68.1±4.5度)であり,自動後傾が無規定に比べ有意に高かった(P<0.05)。骨盤傾斜角により2群分けは,遂行群8名,非遂行群10名であった。遂行群で大殿筋活動は(30.1±11.6%,42.3±10.9%),脊柱起立筋活動は(28.0±7.8%,30.3±18.1%),腹直筋活動は(2.5±1.8%,6.5±6.6%),外腹斜筋活動は(3.3±1.5%,6.8±4.5%)であった。非遂行群で大殿筋活動は(29.0±6.9%,37.2±13.0%),脊柱起立筋活動は(38.2±17.7%,37.6±20.9%),腹直筋活動は(1.9±1.6%,4.8±6.2%),外腹斜筋活動は(5.5±7.8%,14.1±16.6%)であった。遂行群活動では自動後傾が無規定に比べ大殿筋,外腹斜筋有意に高かった(P<0.05)。非遂行群では大殿筋活動のみ自動後傾が無規定に比べ有意に高かった(P<0.05)。【考察】今回の結果,骨盤傾斜角では自動後傾が無規定より骨盤後傾していることが分かった。しかし,同様の指示にも関わらず骨盤傾斜角は,ばらつきが大きく,遂行群と非遂行群に分けられた。外腹斜筋は,遂行群では有意であったにも関わらず,非遂行群では有意差を認めなかった。これは,遂行群で,骨盤後傾作用の外腹斜筋が働き,骨盤を意識下でコントロールして,骨盤後傾位になったと考えられた。骨盤後傾位になることで,腰椎の前弯を減少させると報告されており,遂行群では,腰椎前弯増強を予防できると可能性がある。また,骨盤を自動で床に押し付けるという課題により,骨盤・体幹が固定されたため,大殿筋の筋力が発揮しやすい環境になったと考えられた。【理学療法学研究としての意義】骨盤を自動後傾させることで代償動作を予防させ,有効な運動となりえる事が示唆された。また,骨盤肢位を変化させた腹臥位股関節伸展運動の筋活動を知ることで,腰痛予防の一助になる可能性が考えられた。
  • ―支持側股関節外旋角度の変化による検討―
    伊藤 陸, 貝尻 望, 藤本 将志, 大沼 俊博, 渡邊 裕文, 鈴木 俊明
    セッションID: 0762
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】股関節伸展,外旋を主作用とする大殿筋の活動性低下により,歩行の立脚側股関節に屈曲,内旋,内転位を呈する事で前方への体重移動が困難となる患者をみる。この場合振り向く様な方向転換時に立脚側股関節外旋,外転,伸展方向への運動が困難となる。そこで立位にて一側下肢を前外側方向に配置した台上へステップさせ,支持側股関節外旋,外転,伸展方向への運動や保持により大殿筋上部線維(Upper gluteus maximus fiber:以下,UMG)には外旋,外転,伸展作用を,大殿筋下部線維は外旋,伸展作用を考慮して活動性向上を図っている。著者らは先行研究にて立位でのステップ肢位における支持側股関節外旋角度(以下,外旋角度)変化が支持側UGMと大殿筋下部線維の筋電図積分値に及ぼす影響について検討した。この時外旋角度の増加に伴い自律的な股関節伸展が生じると共に,ステップ側下肢は開始肢位における前額面に対して外側方に位置する肢位となる事から,ステップ側下肢,体幹,頭部,上肢を含む重みは外側方へ落ちようとする働きが増す事で,支持側股関節では内転しようとする働きが増大すると述べた。これに対しUGMは股関節外旋,外転,伸展作用として,大殿筋下部線維は外旋,伸展作用にて関与すると報告した。今回は外旋角度の増加に伴う支持側股関節が内転しようとする働きの増大に対して外転作用にて関わると考えられるUGM,中殿筋(glteus medius muscule:以下,GMe),大腿筋膜張筋(Tensor fasciae latae muscle:以下,TFL)の筋電図積分値について検討した。【方法】対象は健常男性10名(平均年齢24.2±2.6歳)とし,直立位にてUGM,GMe,TFLの筋電図を5秒間3回測定した。筋電図測定には,テレメトリー筋電計MQ8(キッセイコムテック社製)を用いて双極導出法にて測定し,それぞれ3回の平均値を個々のデータとした。次に直立位での一側足尖より10cm前方に高さ15cmの台を配置し,一側足尖が台上に軽く触れるステップ肢位を保持させた。この肢位を開始肢位(外旋角度0度位)とし,支持側股関節において基本軸を支持側上前腸骨棘を通る矢状面への垂線,移動軸を両側上前腸骨棘を結ぶ線として,外旋角度15,30,45度位となるステップ肢位を保持させ筋電図を測定した。この際支持側下肢の膝蓋骨の向きは開始肢位を維持させ,外旋角度の増大に伴う自律的な股関節伸展は許可した。直立位での各筋の筋電図積分値を1とした相対値を求め,外旋角度変化と各筋の相対値との関係を検討した。各筋の相対値について正規性検定と等分散性検定を行い,正規性を認めず等分散性が仮定できなかった事から,フリードマン検定とScheffe’s F testの多重比較検定を実施した。【説明と同意】本研究はヘルシンキ宣言を鑑み,実験に同意を得た者を対象とした。【結果】UGMの相対値は外旋角度の増大に伴い増加傾向を認め,外旋0度と比較して30,45度で,15度と比較して45度で,30度と比較して45度で有意に増加した(p<0.05)。GMeは外旋角度の増大に伴い増加傾向を認めたが,有意差はなかった。TFLは外旋角度の増大に伴い減少傾向を認め,外旋0度と比較して45度で有意に減少した(p<0.05)。【考察】UGM,GMeの相対値は外旋角度の増大により増加傾向を認め,UGMは有意な増加を認めた。外旋角度の増大に伴い,ステップ側下肢は開始肢位における前額面に対して外側方に位置する肢位となる事から,ステップ側下肢,体幹,頭部,上肢を含む重みは外側方へ落ちようとする働きが増す事で,支持側股関節では内転しようとする働きが増大する。これに対してUGM,GMeは外転作用として関与したと考える。また本課題は外旋角度の増大と共に自律的に支持側股関節が伸展位となる事から,UGMは外旋,伸展作用により有意な増加を認め,GMeは外転作用のみの関与により有意差がなかったと考える。またTFLの相対値は外旋角度の増大により有意に減少した。TFLは外転作用として肢位保持に関与するが,屈曲,内旋作用を有する事を考慮すると外旋角度の増加に伴って外旋,伸展位を保持するうえでの積極的な活動は肢位保持を妨げると考えられ,開始肢位より筋の伸張が必要で活動が減少したと考える。【理学療法学研究としての意義】理学療法場面で本課題を用いる場合,各筋に対し以下を考慮する必要がある。1)UGM,GMeは外旋角度の増加により,支持側股関節では内転しようとする働きが増大する事に対して外転作用にて関わり,UGMは外旋,伸展作用を有する事から自律的な伸展を伴った外旋位保持に関与する。2)TFLは外転作用にて肢位保持に関与するが,伸展,外旋位保持には伸張するための活動減少が必要となる。
  • 川端 悠士, 澄川 泰弘
    セッションID: 0763
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【目的】下腿三頭筋は歩行における立脚中期から終期にかけて,身体の姿勢制御と前方への推進力を提供しており,なかでもForefoot Rocker(FR)における下腿三頭筋の役割は重要である。足部・足関節周囲の外傷・術後例や長期下肢免荷例では,このFRが機能せずHeel offが生じないために前方への重心移動が困難となる例が少なくない。FRの機能低下を予防するためのExercise(Ex)として,つま先立ち運動(CR;Calf Raise)が実施されることが多いが,完全免荷期から部分荷重期に実施されることの多い座位でのCRは,荷重を伴わないといった点で閉鎖性運動連鎖の運動様式とは言い難い。また部分荷重期から全荷重期に実施されることの多い立位でのCRは荷重開始早期には運動負荷が過大となることが少なくない。このような座位・立位におけるCRの欠点を補うべく,われわれはFRの機能低下予防・改善を目的としてブリッジ姿勢でのつま先立ち運動(Calf Raise on the Bridge Position;CRBP)を考案した。本研究では健常成人を対象として考案したCRBPの荷重率および下腿三頭筋の筋活動量を明らかにすることを目的とする。【方法】対象は下肢・体幹に整形外科的疾患の既往の無い健常成人14例(年齢:25.3±4.9歳)とした。CRBPはBHU(Bilateral Hip Up)条件,UHU(Unilateral Hip Up)条件,UHUCLE(Unilateral Hip Up and Contralateral Lower Extremity Elevation)条件,UHUCLUE(Unilateral Hip Up,Contralateral Lower Extremity and Upper Extremity Elevation)条件といった4条件とした。BHU条件は両膝関節最大屈曲・殿部最大挙上位とし,可能な限り左右均等に母指球に荷重させた。踵部は3cm程度挙上させ,両上肢は対側に置いた姿勢とした。UHU条件は運動側膝関節最大屈曲・非運動側下肢伸展位とし,その他の条件はBHU条件と同様とした。UHUCLE条件は非運動側下肢挙上位(運動側膝高まで)とし,その他の条件はUHU条件と同様とした。UHUCLUE条件は両肩関節を90°屈曲させ,その他の条件はUHUCLE条件と同様とした。運動は立位片脚CR,BHU条件,UHU条件,UHUCLE条件,UHUCLUE条件の順でいずれも5秒間,等尺性収縮にて各3回ずつ実施した。荷重率の測定にはデジタル体重計を使用し,荷重量を体重で除して荷重率を算出した。被検筋は腓腹筋内側頭(Gastrocnemius Medialis;GM),腓腹筋外側頭(Gastrocnemius Lateralis;GL),ヒラメ筋(Soleus;So)とした。表面筋電図の測定にはホルター筋電計ME-3000P4RS(株式会社日本メディックス社製)を用い,各Ex5秒間の等尺性収縮のうち安定した3秒間の積分値を算出し,3回の平均値を求めた。Ex中の積分値については立位片脚CR時の筋電図積分値で除することによって正規化し,%IEMGを算出した。各Ex間の荷重率・%IEMGの比較には,反復測定による一元配置分散分析またはFriedman検定を使用し,多重比較法としてShaffer’s methodまたはHolm’s methodを用いて群間比較を行った。統計学的検定には改変RコマンダーによるR2.8.1を使用し,有意水準は5%および1%未満とした。【倫理的配慮,説明と同意】本研究はヘルシンキ宣言に則って行った。対象には研究の趣旨を説明し同意を得た。【結果】各Exにおける荷重率の中央値はBHU条件16.9%,UHU条件21.5%,UHUCLE条件30.8%,UHUCLUE条件32.3%であった。UHUCLE条件・UHUCLUE条件間を除いては各Ex間の荷重率に有意差を認めた(p<0.01)。各Ex間における筋活動(%IEMG)の中央値(GM/GL/So)はBHU条件:22.5/34.7/67.3%,UHU条件:30.1/43.8/96.3%,UHUCLE条件:39.9/58.3/115.9%,UHUCLUE条件:43.3/65.5/119.1%であった。GM・SoにおいてはUHUCLE条件・UHUCLUE条件間を除いたEx間に,GLにおいては全条件間に筋活動の有意差を認めた(p<0.05)。【考察】荷重率の結果よりBHU条件・UHU条件については1/4以上の部分荷重が許可されていれば,他の2条件についても1/3以上の部分荷重が許可されていれば実施可能と考えられる。筋活動の結果よりCRBPはGL・GMで立位片脚CR時の25~60%の筋活動が得られることが明らかとなった。全てのExにおいて荷重量に対するGL・GMの筋活動割合が高く,少ない荷重量で高い筋活動を得られるといった意味で効率的なExである可能性が示唆された。またSoにおいては片脚CR時の65~120%と高い筋活動が得られることが明らかとなり,CRBPはSoの選択的トレーニングとして有用である可能性が示唆された。【理学療法学研究としての意義】本研究により,考案したCRBPにおける荷重率および下腿三頭筋の筋活動量が明らかとなった。本研究は理学療法士がFR機能低下を予防・改善するための運動療法プログラムを選択する際の一助となることが示唆され,意義のある理学療法研究であると考える。
  • 末廣 忠延, 水谷 雅年, 石田 弘, 小原 謙一, 大坂 裕, 岡本 光央, 渡邉 進
    セッションID: 0764
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】大殿筋は仙腸関節に垂直に配置され仙腸関節を圧縮することで骨盤の安定性に関与するが,腰痛者では大殿筋の活動が低下することが報告された(Leinonen 2007)。また腰痛者でBrunoら(2007)は腹臥位の股関節伸展運動時で,Hungerfordら(2003)は片脚立位時の股関節伸展運動時で大殿筋の活動遅延とハムストリングスの早期活動を報告した。これらの結果は,健常者と異なる骨盤周囲筋の筋活動パターンと腰痛における関連性を示唆している。そのため大殿筋の活動パターンを改善することは腰痛を有する患者の治療や腰痛の予防において重要である(Jung 2012)。またCrowら(2011)は筋の活動開始時間を改善させる運動療法として選択的な筋活動を訓練することを推奨している。そのため大殿筋の活動パターンを改善するためには選択的な大殿筋の活動を学習する必要がある。本研究は,より選択的に大殿筋を活動させる運動を見いだすために,股関節肢位が膝屈曲位での股関節伸展運動時の筋活動に及ぼす影響について検討することを目的とした。【方法】対象は,健常成人男性21名とした。測定肢位は,治療台上に腹臥位となり,膝関節は屈曲90°とした。測定条件は,①股関節中間位(neutral:N条件),②股関節外転位(abduction:AB条件),③股関節外転・外旋位(abduction-external rotationAB-ER条件)の3条件とした。N条件では,右股関節を内外転・内外旋の中間位,AB条件では,右股関節を外転15°・内外旋中間位,AB-ER条件では,股関節外転15°・外旋20°とし,膝蓋骨が治療台から5cm上がるまで右股関節を伸展し,5秒間保持を行った。筋活動量の測定には表面筋電計Vital Recorder2(キッセイコムテック株式会社製)を用い,サンプリング周波数は1000Hzとした。測定筋は右側の大殿筋,ハムストリングスとした。得られた筋電波形は,バンドパスフィルター(20 ~ 500 Hz)処理を行った後,全波整流し,中間3秒間の平均振幅を求めた。得られた振幅は最大随意収縮(MVC)時の平均振幅で正規化し%MVCの値とした。統計解析はSPSS ver. 21(IBM社製)を用いた。3群間の筋活動量の比較にはFreidman検定を用いた。また多重比較のためにHolmの修正を伴うWilcoxonの符号付順位検定を行った。すべての検定は5%未満を有意水準とした。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は演者所属施設の倫理委員会の承認を得た上で,被験者に対しては,研究趣旨について説明した後,書面での同意を得た上で実験を行った。【結果】N条件,AB条件,AB-ER条件の大殿筋の%MVCの中央値(四分位範囲)は,それぞれ14.1(9.4)%,22.5(13.6)%,41.0(23.6)%で,多重比較検定の結果,N条件とAB条件間,N条件とAB-ER条件間,AB条件とAB-ER条件間で有意差を認めた。N条件,AB条件,AB-ER条件のハムストリングスの%MVCの中央値(四分位範囲)は,それぞれ9.7(9.3)%,9.2(11.8)%,7.2(10.4)%で,多重比較検定の結果,ハムストリングスはN条件とAB-ER条件間,AB条件とAB-ER条件間で有意差を認めた。【考察】本研究の結果,大殿筋の筋活動はN条件に比べAB条件AB-ER条件が有意に高い筋活動を示した。またAB条件に比べてAB-ER条件で有意に高い結果を示した。AB条件がN条件より筋活動が高値を示した理由として,股関節を外転位で股関節を伸展させたため,挙上側の下肢の重量中心が外側に偏位し,腹側への骨盤を回旋させるモーメントが増加し,骨盤の回旋が生じたと考える。Tateuchiら(2012)は,腹臥位での股関節伸展時に下肢挙上側の腹側への骨盤回旋と下肢挙上側の大殿筋の筋活動に相関があることを示しており,本研究において,この腹側への骨盤回旋を代償するためにより高い大殿筋の筋活動が生じたと考える。また大殿筋はAB条件に比べAB-ER条件で有意に高値を示した。これは,股関節外転に外旋を加えることで,大殿筋が短縮位となり,筋の長さと張力の関係から筋の収縮が非効率となったことが挙げられる。これにより,大殿筋の運動単位の補充が余儀なくされたと考える。2つ目にハムストリングスがAB-ER条件で筋活動量が減少したためにAB条件に比べAB-ER条件で大殿筋の作業負担が増加し大殿筋が高値を示したと考える。ハムストリングスのAB-ER条件でN条件とAB条件に比し筋活動が減少した。これは股関節を外旋させることにより,重力による膝伸展モーメントが減少したことに起因すると考えられる。本研究結果より,膝屈曲位での股関節伸展運動において,股関節を外転外旋させることは,ハムストリングスの活動を最小にして大殿筋を選択的に活動させることが示唆された。【理学療法学研究としての意義】本研究結果は膝屈曲位での股関節伸展運動において,ハムストリングスの活動を最小にし,大殿筋を選択的に強化させるためには,股関節を外転外旋させることが最も効果的であることを示した点で意義がある。
  • 牧野 圭太郎, 井平 光, 水本 淳, 古名 丈人
    セッションID: 0765
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに】高齢者の膝伸展筋力は基本動作の遂行に必要な機能であり,身体的自立度や移動能力低下の予測に繋がることから,その評価の重要性が認識されている。筋力と関連する指標としては筋の形態や神経系による制御が一般に知られているが,関節運動の中で神経筋活動を考える場合,その質的側面を表す指標として同時収縮が注目されてきた。同時収縮とは,静的および動的場面の随意収縮における,主動作筋と拮抗筋の同時的な活動と定義される。これまで,高齢者は若年者と比較して同時収縮が増大し,様々な機能低下と関連することが報告されている。特に単関節運動においては,拮抗筋作用は主動作筋作用と対立するため,同時収縮の増大が発揮トルク減少に影響している可能性が指摘されている。したがって,高齢者にとって同時収縮の評価意義は大きく,膝伸展筋力の正確な評価には,発揮された関節トルクに加え形態学的指標や神経学的指標,特に同時収縮を含めた検討が必要である。しかしながら,等尺性膝伸展運動において各指標の年代比較を行った研究は少なく,一致した見解が得られていない。本研究の目的は,等尺性膝伸展運動における最大トルクと大腿筋厚,同時収縮率について,若年者と高齢者の間で比較することとした。【方法】対象は,健常若年成人19名(22.7±2.2歳)および地域在住高齢者21名(74.5±4.4歳)とした。取り込み基準は自立歩行が可能な者とし,下肢の整形外科的および神経学的障害,疼痛,著明な認知機能低下を有する者は除外した。測定項目は,等尺性膝伸展最大トルクおよび最大筋力発揮中の外側広筋および大腿二頭筋の筋活動量,大腿前面の筋厚とし,すべて利き足で測定した。膝伸展トルクの測定には,等速性筋力測定器Biodex System 3(Biodex社)を使用した。対象者には3秒間の等尺性膝伸展運動を3試行行わせ,最大トルクを体重で除し百分率に補正した値を等尺性膝伸展最大トルク(Nm/kg)として算出した。筋活動量の測定には表面筋電計(Biometrics社)を用い,被験筋は外側広筋および大腿二頭筋長頭とした。各筋の活動はトルクと同時に計測し,最大トルクの前後0.5秒間(計1秒間)を解析区間とした。同時収縮の指標として,2×大腿二頭筋波形の積分値/(外側広筋波形の積分値+大腿二頭筋波形の積分値)の式から同時収縮率(%)を算出した。筋厚の測定には超音波診断装置SONOACE pico(Medison社)を用いた。7.5MHzのリニア型プローブにて,大腿骨大転子~外側膝裂隙の中点の高さ,大腿直筋直上の筋厚を2回計測し,平均値を大腿筋厚(cm)とした。統計学的分析として,等尺性膝伸展最大トルクと大腿筋厚,同時収縮率それぞれついて年代差の有無を検討するため,対応のないt検定を実施した。統計処理にはSPSS19.0を使用し,有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮,説明と同意】対象者にはヘルシンキ宣言の趣旨に沿い本研究の主旨および目的を口頭と書面にて説明し,書面にて同意を得た。なお,本研究は著者所属機関の倫理審査委員会の承認を受けて実施した。【結果】等尺性膝伸展最大トルクは,高齢群(205.4±67.6 Nm/kg)と比較して若年群(311.1±84.8 Nm/kg)で有意に高い値を示した(p<0.01)。また,大腿筋厚も高齢群(2.7±0.6 cm)と比較して若年群(3.7±0.8 cm)で有意に高い値を示した(p<0.01)。一方,等尺性膝伸展運動中の同時収縮率は,高齢群(34.0±11.2%)と若年群(33.2±9.2%)に有意差は認められなかった。【考察】本研究の結果から,高齢者は若年者と比較して膝伸展筋力の低下と筋厚の減少が生じていることが改めて確認された。また,等尺性膝伸展運動においては,同時収縮率に年代差がないことが明らかとなった。同時収縮率の加齢変化は,運動速度や筋収縮様式,運動歴など複数の要因が関連している可能性があるため,今後も知見の蓄積が必要であると考えられる。本研究の限界として,筋厚と筋活動の測定は膝伸展筋群の一部においてのみ実施された点,横断的研究であるため膝伸展トルクと大腿筋厚および同時収縮の加齢変化の関連性については言及できない点が挙げられる。【理学療法学研究としての意義】本研究の結果は,高齢者の膝伸展筋力低下を形態学的および神経学的な側面を含め多角的に評価するために必要な知見を補完するものと考える。理学療法場面において,高齢者の動作の緩慢性,特に動作開始時の協調的な運動の困難さは多く観察され,このことが動作障害や転倒につながることも経験される。今後,動的場面を含めさらなる研究を継続することで,高齢者の筋力低下および身体機能低下のリスクを明確化することができると考える。
  • 村上 賢一, 芥川 佳奈子, 武田 華奈, 但木 優香, 高橋 輝, 藤澤 宏幸
    セッションID: 0766
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】跨ぎ動作は障害物につまずかないように重力に抗して下肢を拳上し,障害物クリアランスを確保する動作である。歩行と跨ぎ動作を連続に遂行することは難易度が高く,転倒に結びつきやすい。中枢神経疾患などにより機能障害を呈した場合,小さな段差などで転倒することが多く,動作の再建において跨ぎ動作の獲得は重要な課題になる。村上らは,各傾斜角度の変化において障害物高の増加に対応するために,先にまたぐ下肢(leading limb)は大腿傾斜角,後にまたぐ下肢(trailing limb)は下腿傾斜角と足部傾斜角の角度を増加させていると報告している。さらに障害物高増加に伴い骨盤傾斜角は増加することについても合わせて報告されている。一方,運動力学的分析として,Patlaらにより,leading limbの筋活動の検討がなされている。しかしながら,各体節の傾斜角との関連性について検証が十分になされていない面もある上,trailing limbに関しては検証されていない。以上のことから本研究では健常男性を対象とし,跨ぎ動作におけるleading limb,trailing limbの下肢筋活動の変化を明らかにすることを目的とした。【方法】健常な若年男性10名を対象とした。対象者は,下肢長を同程度となるように170±3cmの者を条件に選出した。筋電活動測定は,被験筋を両側中殿筋(GMe),両側大腿直筋(RF),両側大腿二頭筋(BF),両側前脛骨筋(TA),両側ヒラメ筋(sol)とした。相を特定するために両側の踵骨外側と第一中足骨底に感圧センサを取り付けた。相区分は,Patlaらによるものを採用し,Phase1~2が立脚相で前半をPhase1(P1),後半をPhase2(P2)する。Phase3(P3)は,両側支持相,Phase4~5は,遊脚相で前半をPhase(P4),後半をPhase5(P5)とした。障害物高(以下obstacle)は7課題(0,5,10,15,20,25,30cm)とした。測定した筋電図データの検証のため三次元動作解析装置を使用した。赤外線反射マーカーは両側肩峰,両側上前腸骨棘,両側大転子,両側大腿骨外側上顆,両側腓骨外果,両側第一中足骨頭,両側第五中足骨頭,両側踵骨とした。統計処理は,一元配置分散分析と事後検定にTukey多重比較を行った。統計学的有意水準は5%とした。【倫理的配慮,説明と同意】対象者に対し,口頭で測定項目について説明し,書面にて同意を得た。本研究は,所属機関の倫理審査委員会の承認を得て実施した。【結果】Leading limbの筋活動変化はP3-4でBFおよびTAの筋活動増加が生じていた。P5では障害物高増加に際しSolとRFの筋活動も増加していた。Trailing limbの筋活動変化はP2にてSolはobstacle10cmにて増加したが,obstacle30cmでは筋活動の減少が生じていた。P3-4ではBFの筋活動が増加しobstacle20cmで最大となったがobstacle25cmを境に減少した。obstacle 25cm以上になるとGMeの筋活動が増加した。【考察】安全に跨ぎ動作を遂行するためには障害物クリアランスの確保が重要となる。Leading limbにおけるBFの活動増加は下腿の前方傾斜を抑制し,障害物への衝突を防いでおり,TAの筋活動増加は障害物クリアランスを確保と推察した。BFの筋活動増加が生じるとSolのタイミングが早くなるが,P3-4でBFの筋活動が増加したことで膝関節屈曲角度が増加するためと考えられる。このBFの筋活動増加により,P5ではRFの筋活動を増加させ床接地に備えていると推察した。Trailing limbにおけるP2後半のSol筋活動減少は,推進よりも下肢を高くあげることが優先されたためと考えられる。P2-4でTAの筋活動増加は,足部傾斜角増加に伴う障害物クリアランス確保と考えられた。P3-4でのBFの筋活動増加は下腿傾斜角を増加と推察される。obstacle25cmを境に生じるBFの筋活動減少とP3-4でのobstacle20cmを境に生じるGMeの筋活動が増加は,下腿傾斜角での対応が頭打ちとなり骨盤傾斜角にて対応するため骨盤傾斜角を増加させているからと考えられる。【理学療法学研究としての意義】跨ぎ動作における運動力学的分析は,身体運動学としての基礎的な知見として有用である。加えて,運動学的理解は臨床応用として機能障害推定や動作再建に繋がるため,意義が高いと考えている。
  • ~立脚後期の下肢関節角度と関節モーメントのピーク値とそのタイミングに着目して~
    岩下 航大, 梅澤 慎吾, 興津 太郎, 田邊 泰雅, 山本 澄子
    セッションID: 0767
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】第47回日本理学療法学術大会での発表にて高活動レベルにある大腿切断者は切断側立脚後期に骨盤の切断側への回旋を小さく留めながら,健側対側Initial Contact(以下健側対側IC)以降も切断側股関節を伸展させ続けることで股関節点と床反力作用線との距離を大きくし,切断側股関節屈曲モーメントを大きく発生させることが分かった。前回の研究では義足構成要素の条件の一つとして常用でOSSUR社Vari-FlexEVO(エネルギー蓄積型)を使用している高活動大腿切断者4名を対象とした。そのため足部の影響がどの程度あったのかの検証にまでは至らなかった。足部は立脚制御機能全般に影響を与える可能性が高いとされている 。よって本研究の目的は前回と同一被験者1名を対象とし,足部(9種類)を使用し,足部の機能が立脚後期の下肢関節角度,関節モーメントのピーク値に与える影響を明らかにすることを目的とした。【方法】対象者は歩行の逸脱が顕著でない最も高い活動レベル(MobilityGrade4)にある大腿切断者男性1名(年齢22歳)と対照として健常成人男性4名(年齢33.5±5.4歳)とした。義足構成パーツは常用で膝継手を3R80(油圧制御),足部はVari-FlexEVO(エネルギー蓄積型)を使用している切断者であった。計測には三次元動作解析装置VICON MXとKistler社製床反力計を同期させた計測システムにて行った。計測課題は通常歩行で行い足部9種類(単軸は単軸足,エシュロン油圧制御,無軸はサッチフット,エネルーギー蓄積型はトリトンフット,トリトンフットVS,VariFlexEVO,VariFlexXC,Jfoot,shiera)を取り替え,各施行回数は10施行とした。関節角度と関節モーメントの算出は臨床歩行分析研究会プログラムDIFF GaitとWave Eyesを使用し,得られた関節モーメントの値は身長と体重で除した。計測対象は,切断側踵接地から始まる一歩行周期とし,切断側立脚後期(健側対側IC前後)のタイミングに着目した,データより関節角度と関節モーメントのピーク値を採り10試行分の平均値と標準偏差を求めた。タイミングは健側対側IC(立脚後期)の地点を0%とし,その地点より手前を負(-),それ以降を正(+)とした。【倫理的配慮,説明と同意】対象者には本研究の目的と方法について事前に口頭及び紙面で説明し,その権利を保障した上で同意書を締結した【結果】足部の種類によって関節角度,関節モーメントのピーク値にはばらつきがあった。しかし足部を換えてもタイミングにおいては普遍的な戦略がみられた。よって今回は足部を換えての高活動大腿切断者のタイミング(健側対側IC前後)における普遍的な共通点と,それが健常者とどのような相違点があるかを中心に示す。代表例として健常者と大腿切断者足部はOttobock社トリトンフットのタイミングの結果を示す。健常者の立脚後期の股関節の伸展角度ピーク値は対側IC時より-4%手前,股関節屈曲モーメントのピーク値は対側IC時より-4%手前で発生していた。足部の足関節背屈角度のピーク値は-7%手前,足関節底屈モーメントのピーク値は-4%手前で発生していた。足関節背屈角度のピーク値は-7%手前で足関節底屈に切り替わり始めるその地点から膝関節が屈曲しはじめていた。大腿切断者の立脚後期の股関節伸展角度のピーク値は対側IC時より+3%後,股関節屈曲モーメントのピーク値は対側IC時より+4%後にピーク値が発生していた。足部の足関節背屈角度のピーク値は0%,足関節底屈モーメントのピーク値は-1%で発生していた。その直後に膝継手が屈曲し始めていた。【考察】健常者の立脚後期(対側IC手前)は,単脚支持期に足関節底屈モーメントを大きく活動させ身体を前方に推進させ踵離れがおきる。その時,床反力作用線は膝の後方を通り,膝関節も屈曲し始める。しかし,大腿切断者は,立脚後期に筋活動を発揮できないため単脚支持期に義足足部の機能でその全ての動作を補うことは難しい。特に,立脚後期の単脚支持期に力源の少ない前足部で動的バランスを保つことは非常に難しく,単脚支持期に義足足部の最大背屈位からの急激な底屈への移行は困難な動作となる。義足足部の足関節背屈角度のピーク値と足関節底屈モーメントのピーク値が対側IC直後で発生しその直後に膝継手が屈曲し始めていたのはそのためだと考えられる。高活動大腿切断者は足部を換えても対側IC以降も股関節を伸展させ続け,床反力作用線を膝継手の前方に通し続け,膝継手完全伸展位と足部の最大背屈位を保ち,安全を担保(健側対側IC直後)してから足部の蓄積された反発力を開放し遊脚期へ移行する戦略は変わらなかった。【理学療法学研究としての意義】高活動大腿切断者のタイミング(健側対側IC前後)からみた歩行戦略は足部を換えても普遍的な戦略であり,臨床においても立脚後期の歩行訓練介入と足部処方の重要な視点になると考える。
  • 早坂 裕
    セッションID: 0768
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】膝前十字靭帯(以下ACL)損傷はスポーツ活動において高い頻度で発生することが報告されている。ACL損傷後は膝の安定性欠如により諸動作において機能不全が生じることが知られている。それは,スポーツ活動などで顕著に現れるが,ADLレベルの歩行動作においても膝の不安定感や膝が抜けるような感覚,いわゆる膝崩れを経験しているものは少なくない。近年に至るまでACL損傷者に関する歩行分析は数多く実施されており,健常者と比較して逸脱した歩行パターンが見られるとされている。しかしながらその報告は損傷部位である膝関節や,それに隣接した股関節に関するものが多く,骨盤や体幹の動きに関しては詳細な分析がなされていない。そこで本研究ではACL損傷者を対象とし,歩行時の骨盤・体幹の動きを運動学・運動力学的観点から分析することを目的とした。【方法】対象はACL損傷者8名(男性3名,女性5名,年齢21±3歳,身長165.8±8.0cm,体重62.2±8.0kg),とした。そのうち再建術施行者は6名,保存療法は2名であり,術後・損傷後から計測までの期間は平均4.6年だった。また整形疾患を有していない健常若年者10名(男性7名,女性3名,年齢21±1歳,身長166.6±6.1cm,体重66.6±9.1kg)をコントロール群とした。計測課題は裸足での歩行動作とし,計測室内に設けられた10mの直線歩行路での歩行を計測した。計測回数は3回,歩行速度は設定せずに自由速度とした。計測の際は床面に埋め込んだ床反力計の上を正確に通過するように指導した上で十分な練習を行い,より自然な歩行を計測した。計測機器は三次元動作分析装置(VICON社製),床反力計6枚(Kistler社製2枚,AMTI社製4枚),赤外線カメラ12台(床面4台,天井8台設置)を用いた。被験者には直径14mmの赤外線反射マーカーを全身計47箇所に貼付した。貼付位置は被験者の頭頂,耳垂直上,胸骨柄,剣状突起,第7頸椎,第10胸椎,肩峰,上腕骨外側上顆,上腕骨内側上顆,尺骨茎状突起,橈骨茎状突起,第2中手骨頭,第5中手骨頭,上前腸骨棘,上前腸骨棘と大転子の線上の大転子側から1/3の点,腸骨稜,上後腸骨棘,第5腰椎,仙骨,膝関節内側と外側(膝蓋骨中点の高さで膝蓋骨後面と膝後面の中点),下腿外側中央,腓骨外果,脛骨内果,第5中足骨頭,第1中足骨頭,踵とした。動作中の歩行パラメータ(歩行速度,ステップ長,歩隔,立脚期歩行時間,遊脚期歩行時間),骨盤・体幹・下肢3関節の関節角度,下肢3関節の関節モーメント,床反力鉛直方向・左右方向・前後方向成分,身体重心位置を算出した。分析には3施行の平均値を用いACL損傷群とコントロール群の比較を実施した。統計処理はMann-WhitneyのU検定を用い,歩行周期1%ごとにACL損傷者-健常者間の比較を行った。なお危険率は5%未満をもって有意とした。【倫理的配慮,説明と同意】研究の実施に先立ち,国際医療福祉大学の倫理委員会にて承認を得た。また,全ての被験者には事前に本研究の目的・内容・リスクを十分に説明し,書面による同意を得た後に計測を行った。【結果】ACL損傷者において歩行周期の0~8%に骨盤前方回旋角度の有意な増加が認められた。また,歩行周期の14~22%,25~29%にかけ股関節外旋モーメントの有意な増加が認められた。【考察】健常歩行において,骨盤は立脚初期から立脚終期にかけて後方への回旋が生じるとされる。本研究において,ACL損傷者は立脚初期の骨盤前方回旋角度を有意に増大させていた。その後の立脚期中期・終期においては,2群間の骨盤回旋角度に差はみられていない。そのことからACL損傷者は踵接地時に骨盤を大きく前方に回旋させた状態から,立脚中期・終期にかけて後方へと回旋させることで,骨盤の後方への回旋変化量を増加させていることが分かる。先行研究においてこの作用と床反力後方成分には高い関係性があると報告されていることから,ACL損傷者は骨盤の回旋を制動に用いていたことが考えられる。また,下肢末端が床面に固定された状態での外旋筋は大腿骨上で骨盤を回旋させる働きがあることから,ACL損傷者の骨盤後方回旋に対し股関節外旋モーメントが制動力として作用した可能性がある。【理学療法学研究としての意義】ACL損傷者の歩行動作において骨盤回旋角度の変化と股関節外旋モーメントの増加という新たな知見が得られた。また,今回報告したACL損傷者の歩行時の骨盤回旋や回旋モーメントは明らかにされていない点が多々有り,本研究が今後の研究発展の一助になるのではないかと考える。
  • 柚原 千穂, 笠原 敏史, 齊藤 展士, 吉田 美里
    セッションID: 0769
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに】スクワット動作は下肢の筋力トレーニングとして,また,固有感覚に刺激を与え,下肢全体の協調性向上も期待できる運動として重要視され(池添,2003),傷害後の理学療法だけでなく,スポーツ傷害予防プログラムや高齢者の健康増進プログラム(ロコモーショントレーニング:大江,2010)の一つとして広く用いられている。スクワット動作を行うとき,体幹の傾きや沈み込みの深さとともに重心の変化は下肢の筋活動や各関節角度に影響を与える。これまでの研究報告は重心の変化を調べたものは少なく,また,若年者を対象としており,得られた知見が異なる年代に必ずしも適用できるとは限らない。今回,加齢の影響を考慮した高齢者へのスクワット動作の適切な指導を目的として,高齢者のスクワット動作時の重心運動を詳細に調べ,加齢の影響の明らかにしたので報告する。【方法】対象は健康高齢者18名(平均年齢70.7±3.7歳;平均身長:164.4±4.9 cm;平均体重:62.6±9.2 kg),1年以内に転倒歴のない者とした。開始肢位は安静直立位,歩隔は上前腸骨間距離の150%,足角は第2足趾と踵を結んだ線が平行となるようにして被験者を床反力計上に立たせた。上肢は胸部の前でクロスした状態とした。コンピュータスクリーンを被験者の眼前の高さで1m前方に設置し,前後及び左右の2次元座標系の足圧中心の位置をフィードバック情報として与えた。足圧中心が外果前方5cm,両内果の中央の位置に静止した後,閉眼させ,聴覚刺激によりスクワット動作を開始させた。「音の合図後,出来るだけ素早く腰を落として下さい。踵やつま先を浮かせてはいけません。また,胸の前に組んだ腕が太ももに当たらないようにして下さい。」と指示し,5回実施した。スクワット動作時の重心運動を算出するために3次元動作解析(Motion Analysis社製)を用いた。サンプリングレートは100Hzとした。Winterらの方法に従い反射マーカーを設置し,重心位置を算出した。データ処理は,10Hzのローパスフィルター処理後,運動開始の聴覚刺激の合図を基準として各データを再配列し,5試行の加算平均を各被験者のデータとして求めた。スクワット動作の評価は,聴覚刺激から下方向への重心移動開始までの反応時間(msec),身長で正規化した重心の下方への最大変位(%),重心の下方への最大速度(mm/s),足長で正規化した重心の前後方向の最大変位(%),両外果間距離で正規化した重心の左右方向の最大変位(%)とした。さらに,加齢の影響の推移を調べるために対象を60代と70代にわけ,統計処理には対応の無いt検定を行い,有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は本学に設置されている倫理委員会の承認を得ており,同意を得た者が実験に参加した(11-03)。【結果】全体の平均反応時間は310.2±140.3 msec,70代は312.6±134.0 msec,60代は307.3±116.4 msecであった。重心の下方への最大変位は17.6±5.8%,70代は14.9±4.7%,60代は20.9±5.6%であり,70代は60代に比べ有意に高位であった(p<0.05)。下方への重心の最大速度は443.1±168.1 mm/s,70代は360.2±145.9 mm/s,60代は553.7±140.0 mm/sであり,70代が有意に低下していた(p<0.05)。重心の前後方向の最大変位は13.0±5.3%,70代は14.9±6.2%,60代は10.7±2.8%であった。重心の左右方向の最大変位は4.0±1.2%,70代は4.3±1.5%,60代は3.7±0.8%であった。【考察】スクワット動作時の重心の変化を調べた報告は少なく,足圧中心に関する研究報告が散見する。佐々木やSriwarnoらの報告では,スクワット動作時の足圧中心の前後振幅は左右方向に比べ大きいことを示しており,今回の結果とほぼ一致する。足圧中心を用いた研究では前後及び左右の変化は計測可能であるが,上下方向への姿勢の変化を客観的にとらえることは不可能である。今回の研究では,高齢者のスクワット動作時の重心の下方向への運動の大きさを客観的に示すことが出来た。さらに,60代と70代では重心の下方への最大変位と最大速度について有意差を認め,垂直方向の運動にも加齢の影響を受けけていた。70代高齢者の遅く浅いスクワット動作は,転倒防止のための防御姿勢(重心を低くした姿勢)を取ることを困難にさせ,より転倒のリスクが高くなる可能性を示唆する。重心の上下方向の姿勢の変化は下肢全体の屈曲・伸展運動によって遂行される(鈴木ら)ことから,今後は下肢関節運動との関連を調べる必要がある。【理学療法学研究としての意義】今回の研究は幅広く用いられているスクワット動作への加齢の影響を重心運動の特性から明らかにした。本研究結果は理学療法の高齢者に対する健康増進および介護予防の運動プログラムに役立ち,国民の健康増進に寄与する。
  • 玉地 雅浩, 青山 宏樹, 佐伯 武士
    セッションID: 0770
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】姿勢制御は視覚,体性感覚や前庭迷路系などさまざまな感覚系と運動系が協調的に連携しながら実行されている。しかし近年,これらの感覚系以外にも運動系との連関関係を結んでいる感覚系が存在する可能性が示唆されている。例えば腹部の臓器の大きさや位置など体幹の臓器に重力を感知する受容体としての働きがあるのではないかと言われ始めている。特にMittelstaedt H(Neurosci Biobehav rev 1998;22:473-478)は腎臓からの情報が体幹から姿勢を整えるために寄与しているのではないかと述べている。しかしその説を支持するために内蔵臓器の位置関係と姿勢制御の関係を具体的に調べた研究は未だ少ない。そこで本研究では内蔵臓器の位置関係と姿勢制御の関係を調べるために,飲水する事により胃の重量を変化させる事にした。飲水前後で安静椅座位での重心動揺や姿勢が変化するか否かを重心動揺計並びに三次元動作解析装置を用いて計測し確認する事を本研究の目的とする。【方法】対象は本学学生の健常男性10人,平均年齢21.6歳とした。被験者は前日21時より絶食状態で,測定開始3時間前より飲水も行わない状態とした。胃の中の貯留物を確認するために超音波画像診断装置(FUJIFILM社製FAZONECB)を用いて確認した。被験者は,重心動揺計(ユニメック社製JK101+UM-ART:測定周波数20Hz)の上に設置された椅子に1分間の安静座位をとった後,90秒間の重心動揺を計測した。計測項目は総軌跡長,矩形面積,外周面積,単位軌跡長とした。この計測項目で得られた値は,その後の計測の妥当性を判断するための基準とした。また同時に三次元動作解析装置(Motion Analysis社製MAC3D)を用いて計測部位,C7,両肩峰,Th7,L4,両上前腸骨棘,両上後腸骨棘の計9カ所の位置変化を計測した。計測は条件①飲水無し及び条件②飲水有りにて2回計測した。条件①飲水無しでは,1分間の安静座位後90秒間の計測を実施した。その後1分間のインターバルを挟んで90秒間の計測を計4回行った。条件②飲水有りでは,1分間の安静座位後90秒間の測定を行い,その直後の1分間のインターバル中に60秒かけて500mlの微炭酸飲料を摂取した。その後1分間のインターバルを挟んで90秒間計測を計4回行った。計測開始時から終了時まで超音波を用いて胃の位置や形が変化する様子を視覚的に確認した。各重心動揺計測項目についての統計は,各条件における重心動揺と90秒間計測区間の二要因について2×5の分散分析を実施した。有意差の認められたものは,多重比較検定としてBonferroni法を用いて検討した。三次元動作解析装置を用いての計測結果の統計には,ランドマーク間と90秒間計測区間(平均移動量)の二要因についての3×5の分散分析を実施した。ランドマーク間には有意な主効果が認められた。計測区間間には有意な主効果が認められなかった。ランドマーク間には主効果が認められたため,各ランドマーク間において一元配置分散分析を行った。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は,へルシンキ宣言に基づき,事前に研究目的や測定内容等を明記した書面を用いて十分な説明を行った。その上で,被験者より同意を得られた場合のみ測定を行った。【結果】重心動揺計による計測条件②飲水有りにて,飲水直後の90秒間に総軌跡長,外周面積,単位軌跡長に有意な増加が認められた(P<0.05)。条件①と②の比較では飲水直後の90秒間にて総軌跡長,外周面積,矩形面積,単位軌跡長に条件②に有意な増加が認められた(P<0.05)。三次元動作解析装置による計測条件②飲水有りにて,飲水後2回目の90秒間と3回目の90秒間の間に有意にTh7が前方に移動した(P<0.05)。条件②飲水有りにて,飲水後2回目の90秒間と3回目の90秒間の間に有意にC7が前方に移動した(P<0.01)。また飲水後2回目の90秒間と4回目の90秒間の間にも有意にC7が前方に移動した(P<0.05)。【考察】本実験において飲水直後と飲水前,そして飲水後に一定時間経過した状態では安静椅座位における重心動揺の計測において有意差が認められる指標を確認できた。また飲150秒後からは骨盤に対してC7,Th7が前方に移動する事が確認できた。飲水により胃の重量が増加した際に,各ランドマークが一度後方に移動したにも関わらずC7とTh7が有意に前方への移動に反転した現象は骨盤の位置が変化しない分,上部体幹や頭部が前方に移動して姿勢調節を行う過程で起こった可能性が示唆された。【理学療法学研究としての意義】飲水直後に重心動揺が大きくなった結果から,臨床で使用されているバランス評価のためのテスト課題を飲水前,そして後と継時的に計測することによって,飲水によるバランス評価テストへの影響を確認していくための基礎的な資料となる。
  • 拜藤 繁彰, 奥谷 拓真, 小松 菜生子, 西川 依里, 野副 友菜, 藤井 萌, 吉岡 奏
    セッションID: 0771
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】歩行におけるPreactivationは,立脚期の事前に生じる筋活動で,下肢の関節安定化を担う作用がある。変形性膝関節症患者(以下,膝OA)では,しばしば歩行の立脚初期から中期で,外側スラストなどの膝関節不安定性に起因する動的アラインメントの変化が起こる。膝OA患者では,筋力低下,関節可動域制限の影響も受けて,下腿回旋アラインメント異常を呈することが多く,立脚期の動的アラインメント異常を誘発する要因にもなる。この下腿回旋アラインメントとPreactivationの関係を検討することで,歩行における動的アラインメントについて筋電図学的に考察することができると考える。そこで,筋力低下,関節可動域制限などの機能障害を有さない健常者を対象にテーピングによる人為的な下腿回旋アライメント変化の要因が,歩行,走行における下肢筋のPreactivationに及ぼす影響を明らかにすることを目的とした。【方法】対象は,運動器疾患の既往を有さない健常男性10名(平均年齢19.5±1.3歳,身長171±3.7cm,体重:61.7kg±5.9kg)とした。また,ニトリート社製のテープEB50mmを用いて(このテープを貼付するためのアンカーテープにEB-H50mm,CB50mmも使用)対象者の下腿を膝関節20°屈曲位で可及的最大の内旋位および外旋位になるように固定した。下腿の回旋角度は上前腸骨棘と膝蓋骨中央を結んだ線と膝蓋腱のなす角度を計測した。また,上記のアラインメントを保持する際,テープの貼付によって-20°の膝関節伸展制限が生じるため,コントロールとして対象者の下腿回旋アラインメントを変えずに膝関節伸展を制限するコントロールテープも貼付した。その後,対象者にはトレッドミル上を6km/hの速度で歩行,次いで走行させ,右側の内側広筋斜頭,大腿直筋,大殿筋,外側ハムストリング,内側ハムストリングス,前脛骨筋,腓腹筋より,テレメントリー筋電計MQ8(キッセイコムテック社)を用いて筋電図を記録した。そして足底に貼付したフットスイッチからの信号も筋電図と同期収録し,それをもとに各々の筋より踵接地の100ms前の平均振幅値を算出し,これを本研究でのPreactivationとした。また,右側の上前腸骨棘,大転子,膝関節外側裂隙,外果,第5中足骨頭の計5ヶ所にマーカーを貼付し,側方からデジタルビデオカメラを用い動作を60Hzのサンプリングで収録し,解析ソフト(Frame Dias,DKH)を用いて股・膝・足関節の矢状面角度を算出した。測定は歩容が安定した後,右下肢の3歩を対象として平均値を算出した。そしてコントロールを基準として,内旋位,外旋位をDunnett検定によって比較した。その際の有意水準は5%とした。【倫理的配慮,説明と同意】対象者には実験の目的および概要,結果の公表の有無と形式,個人情報の取り扱いについて説明し,同意を得た。なお,本研究は関西医療大学倫理委員会の承認のもとで実施した。【結果】テーピング前の下腿の回旋角度は15.1±0.6°であったが,内旋テープで11.4±1.1°,外旋テープで21.1±1.1°となった。筋電図の平均振幅値は下腿内旋位では歩行,走行ともに内側ハムストリングスのみ有意な増加を認めたが,その他は有意差を認めなかった。また,Preactivation時の3群間の股・膝・足関節の矢状面角度には有意差を認めなかった。【考察】本結果では下腿を内旋位にした際,歩行および走行の両条件で内側ハムストリングスのみ平均振幅値の増加が認めた。下腿を内旋位にすることで,前十字靭帯の緊張を介した反射性の筋活動がハムストリングスにみられるという報告もあるが,本研究では,どの機序が関与したのかを言及することができない。しかし,内旋位にすることで歩行のみならず走行においても再現性よく内側ハムストリングスのPreactivationの活動は増加した。膝OA患者においては膝内反に加え下腿外旋を伴っている場合が多く,動的アラインメントの変化は決して二次元で生じていない。本結果を参考にすると下腿内旋位に補正することで内側ハムストリングスのPreactivationも作用し,接地後に生じる下腿外旋が誘引となって起こる下肢の動的アラインメント変化を軽減させることが出来る可能性も考えられる。【理学療法研究としての意義】本研究ではトレッドミル上の歩行であるが,下腿の回旋アラインメント変化によってPreactivationに相違を生じることが明確になった。本結果より下腿回旋アラインメントの調整は関節安定化に貢献できる可能性が示唆された。
  • 石倉 英樹, 小野 武也, 沖 貞明, 梅井 凡子, 積山 和加子, 田坂 厚志, 相原 一貴, 佐藤 勇太, 松本 智博, 大塚 彰
    セッションID: 0772
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】関節拘縮とは,長期的な関節の不動から関節周囲に存在する皮膚,皮下組織,筋,腱,靭帯,関節包などの軟部組織が器質的に変化したことによる関節可動域の制限である。30日間の関節不動において,各組織が関節可動域制限に与えている影響は皮膚が約15%,筋が約40%,その他の関節構成体が約45%と報告されている。このことから,筋は関節拘縮に大きく影響していることがわかる。臨床では,ギプス固定や長期臥床により発生した筋性拘縮に対し,筋の柔軟性増大を図る目的でストレッチングを行うことが多い。先行研究において,ストレッチングに加える力は弱い力の方が強い力よりも関節可動域が改善することが報告されている。しかし,先行研究のストレッチングはラットという小動物に対して非常に強い力を加えている。そこで本研究では,ラットの足関節を最低限度で背屈させる力を弱い力,ラットの体重分の力を強い力として検討を行った。また,筋自体の柔軟性は筋性拘縮に対するストレッチングの先行研究で検討されていない。そこで今回の研究の目的は,筋性拘縮に対するストレッチングに加える力について筋の引張試験を用いて検討した。【方法】実験動物は8週齢のWistar系雄ラット18匹を使用した。実験動物はすべて4週間の関節固定を実施した。関節固定は左後肢を膝関節最大伸展位,足関節最大底屈位で保持し,ギプスを用いて実施した。ギプスは固定期間中の破損を防ぐために金網で保護した。対象は関節固定終了後に1週間自由飼育する自由運動群(n=6),関節固定終了後に1週間0.3Nで足関節背屈ストレッチングを行う0.3N群(n=6),関節固定後に1週間ラット体重と同じ力でストレッチングを行う体重群(n=6),固定していない右後肢であるコントロール群(n=6)に分けた。実験期間中,すべてのラットは飼育ゲージ内で水と餌を自由に摂取できるようにされた。ストレッチングはバネばかりを用いて麻酔下で足関節背屈ストレッチングを30秒間,1日10回実施した。ストレッチング間の休憩時間は30秒とした。実験期間終了後,ラットを麻酔下で腹大動脈より脱血して屠殺し,各群のヒラメ筋に対して筋の引張試験を実施した。引張試験を行う肢の大腿骨を切断し,足関節最大底屈位となるよう距骨と脛骨を鋼線で固定し,足根骨にワイヤーを刺入し引張試験機に取り付けた。次に,脛骨と腓骨を切断しワイヤーを介してヒラメ筋のみを伸張した。引張速度は先行研究を参考に10mm/minとした。ヒラメ筋の最大伸張距離,最大張力について,自由運動群,0.3N群,体重群,コントロール群の間でKruskal-Wallisの検定を実施し,有意差を認めた場合は多重比較検定にScheffe法を適用した。危険率5%未満をもって有意差を判定した。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は所属大学の付属動物実験施設を使用し,所属大学の研究倫理委員会の承諾(承認番号:第12MA002号)を受けて行った。【結果】最大伸張距離の平均値および標準偏差は,コントロール群が21.9±1.9mm,自由運動群が15.7±1.3mm,0.3N群が16.2±1.3mm,体重群が12.7±2.2mmであり,群間に有意差が認めた(p<0.05)。また,多重比較検定ではコントロール群とその他すべての群,自由運動群と体重群,0.3N群と体重群の間に有意差を認めた(p<0.05)。最大張力の平均値および標準偏差はコントロール群が7.8±0.5N,自由運動群が5.1±0.3N,0.3N群が5.1±0.6,体重群が3.9±0.7であり,群間に有意差が認められた(p<0.05)。また,多重比較検定ではコントロール群とその他すべての群,自由運動群と体重群,0.3N群と体重群の間に有意差を認めた(p<0.05)。【考察】引張試験の結果より,体重群は0.3N群・自由運動群よりも最大伸張距離・最大張力が低下していた。筋の損傷は,その筋が関与する関節可動域を減少させることが報告されている。体重と同じ力でのストレッチングは筋を損傷させ,筋の伸張機能を減少させたと考えられる。自由運動群と0.3N群の間には最大伸張距離,最大張力に有意差がなかった。筋性拘縮に対するストレッチングは0.3Nよりも強い力が筋の柔軟性を改善させるために必要であったと考えられる。【理学療法学研究としての意義】本研究はリハビリテーションの臨床で広く行われているストレッチングについて検討した。強すぎる力を加えたストレッチングは,臨床で多く直面する筋性拘縮に対して筋の損傷を惹起し,筋の柔軟性を増悪させる。筋性拘縮に対するストレッチングは加える力に注意し,十分なリスク管理をする必要がある。
  • 松本 智博, 小野 武也, 沖 貞明, 梅井 凡子, 積山 和加子, 田坂 厚志, 石倉 英樹, 相原 一貴, 佐藤 勇太, 大塚 彰
    セッションID: 0773
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】臨床において,関節拘縮に対して関節可動域の改善を目的とし,ストレッチングが用いられることが多い。しかし,関節可動域を改善させるためのストレッチングの最適な力に関する研究は少ない。本研究の目的は,関節可動域の改善を目的として用いられるストレッチングの最適な力を検討することである。【方法】対象は18匹のWistar系雄ラット,338.3±14.5gである。関節の固定期間は4週間である。関節の固定は左足関節最大底屈位としギプスを用いた。各個体は無作為に,処置を施さない「コントロール群」,関節固定除去後に1週間の自由運動を行わせる「自由運動群」,関節固定除去後に1週間30gの力で足関節背屈ストレッチングを行う「30g群」,関節固定除去後に1週間体重と同じ力で足関節背屈ストレッチングを行う「体重群」に分けられた。なお,「コントロール群」は「自由運動群」の右後肢とした。各個体は4週間の固定後,自由飼育を行った。ストレッチングにはバネはかりを用いた。ストレッチングの方法は,実施時間30秒で休止時間30秒とし,これを1日10回,10分間で行う事とした。背屈角度の測定には,ひずみゲージ式変換機を用いた。関節可動域測定時に加える力は30gとした。足関節背屈角度の基本軸は腓骨と外果を結んだ線,移動軸は踵骨底面とした。背屈角度の測定時期は関節固定前と関節固定除去後およびストレッチング期間終了1日後とした。群間の背屈角度の検定にはKruskal-Wallsi検定を実施し,多重比較検定としてScheffe法を用いた。また,群内の測定時期における背屈角度の違いは,Friedman検定を実施し,多重比較分析としてScheffe法を用いた。危険率5%未満をもって有意差と判定した。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は所属大学の研究倫理委員会の承諾を受けて行った(承認番号:第12号MA003号)。【結果】各群の固定前の背屈角度は「コントロール群」43.2±2.5°,「自由運動群」42.9±1.3°,「30g群」42.9±2.1°,「体重群」44.0±1.6°であった。全群間に有意差は認められなかった。関節固定除去後においては「コントロール群」42.6±2.4°,「自由運動群」113.0±7.1°,「30g群」107.8±5.6°,「体重群」112.0±6.0°であり,「コントロール群」と比べて「自由運動群」,「30g群」,「体重群」において,有意に高い値を示した。ストレッチング期間終了1日後では,「コントロール群」41.9±2.6°,「自由運動群」80.4±6.9°,「30g群」80.0±9.9°,「体重群」94.2±5.5°であり,「自由運動群」「30g群」,「体重群」の背屈角度は,「コントロール群」と比べて,有意に高い値を示した。また,「体重群」と比べて「自由運動群」と「30g群」において有意に低い値が認められた。「自由運動群」,「30g群」の間に有意差は認められなかった。「コントロール群」は実験期間中,有意な背屈角度の変化は認められなかった。「自由運動群」においては,固定前の背屈角度に比べ,関節固定除去後の背屈角度で有意な増加を示した。そして,「自由運動群」の関節固定除去後の背屈角度とストレッチング期間終了1日後の背屈角度では,後者において有意な減少が認められた。「30g群」,「体重群」の実験期間中における背屈角度の変化は「自由運動群」の背屈角度の変化と同様の結果が得られた。【考察】先行研究において,関節拘縮に対するストレッチングは筋損傷を惹起するという報告がなされている。また,筋損傷と関節可動域の関係性を検討した報告によると,筋損傷は関節可動域を減少させる要因になるとしている。本研究において,ストレッチングによる関節可動域の改善効果は,「自由運動群」を基準として比較すると,「30g群」で変化はなく,「体重群」で低かった。これらのことから,ギプス固定除去後に関節可動域改善を目的として用いられるストレッチングの最適な力は「自由運動群」と「30g群」であり,両者には差がないといえる。以上のことから,本研究においても先の報告と同様,体重と同じ力による関節拘縮へのストレッチングは筋損傷を惹起し,関節可動域の改善効果を減少させたと考えられる。さらに,「自由運動群」と「30g群」において自由運動時に加わった下肢への体重負荷でさえ過負荷であり,関節可動域を悪化させた可能性が考えられる。【理学療法学研究としての意義】関節拘縮改善を目的としたストレッチングの力の違いは,関節可動域の変化に影響を及ぼしている事実を示し,関節固定除去後に行われるストレッチングが,その程度によって関節可動域改善に悪影響を及ぼす可能性があることを示した。
  • 松﨑 太郎, 吉田 信也, 池田 亜美, 細 正博
    セッションID: 0774
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【目的】我々は以前よりラット後肢膝関節を不動化する事によって生じる関節構成体の変化について報告を行っているが,我々を含め先行研究では関節不動化を行ったまま自由飼育を行い,関節が荷重された状態となっている。しかしながら,我々が臨床で関節不動を行った症例を診る場合,また長期臥床と寡運動や麻痺による関節拘縮では荷重される事はなく,研究モデルとして異なる可能性がある。そこで今回我々は荷重を生じない状態での関節不動化を行い,関節構成体の病理組織学的変化を検討することを目的に実験を行った。【方法】8週齢のWistar系雄性ラット24匹を使用した。ラットは無作為に4群に分けそれぞれ対照群,不動群,懸垂群,懸垂不動群とした。全ラットを全身麻酔下で膝関節可動域と体重を測定した。この時,関節可動域は先行研究に倣って伸展制限の角度を計測した。その後,拘縮群,懸垂不動群は創外固定を施行して右膝関節を不動化した。ついで懸垂群,懸垂不動群は尾部にK-Wire鋼線を刺入した。刺入の部位は触診により尾骨の中心部とし,椎間板に刺入しないように留意した。刺入後0.5φのワイヤーを通し,ラットをケージに入れた後にワイヤーをケージのフタより引きだして後肢が接地しないように懸垂を行った。実験期間は2週間とし,期間中に懸垂ラットは尾部,後肢を懸垂したまま水と餌を摂取する事が可能であった。照明は12時間おきに点灯・消灯を繰り返した。実験期間終了後,全ラットを麻酔下で体重測定,膝関節可動域を測定し,その後ペントバルビタールの過剰投与により安楽死させ,先行研究と同様に右後肢を股関節より離断して採取した。採取した下肢は中性緩衝ホルマリンで組織固定を行い,プランク・リュクロ液を用いて脱灰を行った。その後,矢状面にて二割し,5%無水硫酸ナトリウム溶液で中和した後にパラフィン包埋し組織標本を作製した。その後ミクロトームを使用して使用して3μmの厚さで薄切し,スライドガラスに添付した後にヘマトキシリン・エオジン染色,軟骨基質に含まれる多糖類を染色する目的でトルイジンブルー染色を行った。【倫理的配慮】この実験は所属機関の動物実験委員会の承認を得て行われたものである。【結果】実験期間終了後の各群の平均体重は対照群312.0±19.7g,不動化群307.0±12.5g,懸垂群304.5±21.3g,懸垂不動群285.6±25.1gであり,平均関節可動域は対照群19.3±3.0度,不動化群77.3±7.4度,懸垂群30.3±2.9度,懸垂不動群58.3±3.2度であった。病理組織学的観察では不動化群には関節軟骨表層に紡錘型細胞からなる膜様の組織が観察され,肉芽様組織の関節腔内の侵入,上記膜様組織との癒着が観察されたが,懸垂不動群では軟骨表層の膜様組織は限局的に観察され,肉芽様組織の関節腔内への侵入も一部のものに見られた。また,組織の癒着も観察されたが不動化群と比較して組織変化は軽度であった。関節包は対照群,懸垂群ではコラーゲン線維間に間隙を認め,比較的疎性であったが,不動化群,不動化懸垂群の両群ではコラーゲン線維束はやや組硬化し,線維素区間が狭まり密生化しており,全例でうっ血像が観察された。【考察】関節可動域制限(関節拘縮)の病態はまだ十分に解明されてはいない。近年,関節を様々な手法で不動化し,関節構成体の変化について報告がなされている。我々は先行研究で滑膜表層細胞の増生,滑膜組織の関節腔内への侵入,関節軟骨表層での膜様組織の増生,肉芽様組織による軟骨組織の置換,関節包の肥厚とコラーゲン線維の密生化等を報告している。今回の実験と同様の手法を用いて後肢懸垂を行った殷らはラットの体重が減少したとしているが,今回の実験では体重は維持または増加しており,有効な懸垂法である事が示唆された。関節包は荷重の有無による変化は見られず,関節を不動化する事により関節包は密生化を生じる事が明らかとなった。関節軟骨,滑膜については懸垂群では膜増生,軟骨の癒着などは見られるものの拘縮群と比較して組織変化は軽度であり,荷重する事により組織の変化は影響を受ける可能性がある。今後はより長期に渡る観察と予防・治療効果などの検討を行う必要がある。【理学療法学研究としての意義】従前より,動物の関節を不動化して可動域制限を生じさせ,拘縮の病態について研究が行われてきたが,荷重の有無により組織の変化が生じる事が明らかとなった。今後はより臨床で見られる廃用性の関節拘縮の病態解明,また予防・治療についての知見を得られる事が期待される。
  • 吉田 信也, 松崎 太郎, 大下 美奈, 坂下 茉以, 堀 健太郎, 森 和浩, 細 正博
    セッションID: 0775
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに】関節可動域制限の原因の一つとして神経系の可動性や柔軟性の低下が関与していることが考えられており,我々は先行研究においてラット膝関節拘縮モデルにおける坐骨神経周膜の肥厚および坐骨神経束と神経周膜の密着(神経周囲腔の消失)を報告し,これが神経の滑走を妨げている可能性を示した。また膝関節不動化期間中に拘縮予防目的に関節可動域運動(以下,ROM-ex)を行った結果,神経周膜と神経束の間に神経周囲腔が観察され,神経の滑走が神経周膜と神経束との間で生じている可能性を報告した。そこで今回,ラット膝関節拘縮モデルに拘縮治療目的でROM-exを施行し,それが坐骨神経周囲組織に与える影響について病理組織学的に検討することを目的に実験を行った。【方法】対象には9週齢のWistar系雄ラット28匹を用い,それを無作為にコントロール群(n=7),拘縮群(n=14),実験群(n=7)の3群に分けた。拘縮群および実験群は麻酔後,右膝関節をキルシュナー鋼線と長ねじを使用した創外固定を用いて膝関節屈曲120°にて不動化した。この際,股関節,足関節に影響が及ばないように留意し,ラットはケージ内を自由に移動でき,水,餌は自由に摂取可能とした。コントロール群は自由飼育とした。実験群は不動化処置の2週間後より腹腔内にペントバルビタールナトリウム溶液(40mg/kg)を注射して深麻酔下で膝関節に対しROM-exを2週間行い,ROM-ex時以外の期間は不動化を維持した。ROM-exはラットの体幹を固定した状態で行い,まず膝関節屈曲位を5秒間保持し,次にバネばかりを使用して右後肢を坐骨神経に伸張ストレスが加わるように体幹より120°腹頭側方向へ約1Nで牽引し5秒間保持する運動を3分間繰り返した。ROM-exは1日1回,週6回,2週間施行した。拘縮群の半数(n=7)は不動化2週間後にジエチルエーテルにて安楽死させ,可及的速やかに右後肢を股関節より離断し標本を採取した。実験期間終了後,同様に残りのラットを安楽死させ,右後肢を標本として採取した。採取した右後肢は10%中性緩衝ホルマリン溶液にて組織固定を行い,次いで脱灰液を用いて脱灰を4℃にて72時間行った。その後,大腿骨の中間部にて大腿骨に垂直に切断し大腿部断面標本を採取した。5%硫酸ナトリウム溶液で72時間の中和後,パラフィン包埋して組織標本を作製した。作製したパラフィンブロックをミクロトームにて約3μmにて薄切した。薄切した組織切片はスライドガラスに貼付し,乾燥後にヘマトキシリン・エオジン染色を行い封入した。観察部位は大腿中央部の坐骨神経周囲組織とし,光学顕微鏡下に病理組織学的に観察した。【倫理的配慮】本実験は所属機関の動物実験委員会の承認を受けて行われたものである。【結果】コントロール群は全例で坐骨神経束は神経周膜と遊離しており,神経周囲腔が観察された。実験群においては7例中6例で神経周囲腔を認めた。一方,拘縮群では全例で坐骨神経内の各神経束は神経周膜と密着しており,神経周囲腔の消失が観察された。また拘縮群および実験群では神経周膜の線維性肥厚が全例で観察された。【考察】今回,ラット膝関節拘縮に対してROM-exを行った結果,坐骨神経の神経束と神経周膜の間に神経周囲腔が観察された。これは神経の滑走が神経周膜と神経束との間で生じている可能性を示唆するものであると考えられる。また,一度拘縮を生じた膝関節にROM-exを行うことで,坐骨神経の神経周囲腔に関しては可逆的な組織学的変化が生じ,コントロール群に類似した組織像が観察されたと考えられる。一方で,神経周膜の線維性肥厚は拘縮群と同様に実験群全例で観察されており,ROM-exは神経周膜には影響を及ぼさないものと思われた。【理学療法学研究としての意義】臨床場面において使用頻度の高い治療手段であると思われるROM-exが坐骨神経周囲組織に与える影響について病理組織学的に観察・検討することにより,神経滑走性に対するROM-exの治療効果やその運動方法などの妥当性に対して示唆を与えうると考えられる。
  • 竹田 圭佑, 細 正博, 小島 聖, 渡邊 晶規, 松崎 太郎
    セッションID: 0776
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】臨床現場では関節可動域障害を有する症例は非常に多く,理学療法士にとってその治療頻度は極めて高い。関節拘縮は手術後の安静臥床やギプス固定などによる不動性変化によって容易に生じる。不動による関節拘縮による関節構成体の変化として①関節包の密性化と肥厚,②滑膜の増生と軟骨表面の膜状組織,軟骨の置換,③癒着の進行,④脂肪体の脂肪細胞の萎縮と線維増生が認められるとされている。また,関節拘縮の予防及び治療として臨床現場では運動療法,物理療法を行うことが多い。これまでに,臨床的効果に関する報告,基礎的研究による報告がいくつかみられる。しかし,治療効果や治療によって生じる組織学的変化についてはまだまだ不明な点が多い。そこで今回,関節固定期間中に温熱療法を実施し,関節拘縮の進行予防に対する効果を明らかにすることを目的として実験を行った。【方法】対象は9週齢のWistar系雄ラット25匹(247~304g)を用い,それらを無作為に正常コントロール群(以下,正常群)(n=6),拘縮作成のみ行う群(以下,C群)(n=10),拘縮期間中に温浴を行う温浴群(以下,CH群)(n=9),に分けた。正常群はケージ内で1匹ずつ個別に飼育し,4週間通常飼育を行った。C群は右後肢をギプスによる擦傷予防するため,予め膝関節中心に後肢全体をガーゼで覆い,股関節最大伸展位,膝関節最大屈曲位,足関節最大底屈位の状態で骨盤帯から足関節遠位部までギプスで固定した。固定肢の足関節遠位部から足趾までは浮腫の有無を確認するために露出させた。ギプスは1日1回(7回/週)巻き直しを行った。CH群はC群と同様に4週間のギプス固定を行った。固定期間中は1日1回(7回/週)ギプスを解除し,温浴を行った。温浴に用いる温水の温度は38°で,治療時間は10分間で治療を行った。温浴治療直後はギプスを巻き替えた。関節可動域の測定は固定2週間及び4週間で計測を行った。測定方法は大腿骨を基本軸とし,下腿中央線を移動軸とした。実際の測定では大腿骨大転子,下腿近位端の前後径中央,下腿遠位端の前後径中央に印をつけ,ラットを側臥位にさせ膝関節の外側面をデジタルカメラで撮影し,パーソナルコンピューターに取り込みimageJで可動域測定を行った。実験期間終了後,実験動物をネンブタール麻酔により安楽死させ,右後肢膝関節を一塊として採取した。採取した膝関節を通常手技にてHE染色標本を作製した。標本は光学顕微鏡下で観察し,病理組織学的検討を行った。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は実験動物の飼育及び保管等に関する基準,動物の保護及び管理に関する法律を遵守して,金沢大学動物実験指針に基づき,さらに同大学が定める倫理委員会の承認のもとに飼育,実験を行った。(AP-122520)【結果】1.膝関節可動域の変化2週間のギプス固定によりC群は平均67.6±11.0度,CH群は平均55.5±15.2度の伸展制限が生じていた。4週間のギプス固定により,C群は平均60.6±11.1度,CH群は69.5±11.6度の伸展制限が生じていた。ギプス固定2週間,4週間共に,C群とCH群の2群間では有意差は認められなかった。2.膝蓋下脂肪体及び関節前方滑膜の観察正常群の脂肪体では2~3層の滑膜表層細胞が脂肪細胞を覆う像が認められた。C群は脂肪細胞の萎縮,大小不同が認められた。さらに滑膜表層細胞の増生と滑膜下層での線維増生が認められた。CH群では,C群同様に脂肪細胞の萎縮,大小不同が認められた。そして滑膜表層細胞の増生と滑膜下層での線維増生が認められた。また今回,C群,CH群に肥満細胞が観察された。【考察】膝関節可動域は,実験開始2週間,4週間共にC群,CH群において有意差は認められなかった。C群とCH群の滑膜表層細胞及び,脂肪体はほとんど同様の組織像であった。温浴治療単独では拘縮による可動域制限,関節構成体の組織学的変化における予防効果の期待値は低値であることが示唆される。【理学療法学研究としての意義】関節拘縮の予防及び治療については運動療法や物理療法が行われており,臨床的効果に関する報告,基礎的研究による報告がいくつかみられがまだまだ不明な点が多い。本研究の結果から関節の不動化に対して,温熱療法単独では関節可動域制限及び組織的変化に対する予防は困難であると考えられる。可動域制限の改善はADLに直結することから,今後は治療法についても科学的に検討する必要性が示唆された。
  • 中村 早紀, 田中 美帆, 本田 祐一郎, 坂本 淳哉, 森本 陽介, 片岡 英樹, 中野 治郎, 沖田 実
    セッションID: 0777
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】近年,理学療法の対象者の多くが障害を抱えた高齢者になってきており,これらの対象者は様々な理由で積極的な運動療法が実践できないことが多い。そのため,これらの対象者にも適用できる低強度で,しかも障害の回復に有効な運動療法の開発が求められている。短時間の歩行運動は臨床で実践できる低強度の運動療法に位置づけることができ,廃用症候群の予防といった観点からも重要かつ不可欠な介入方法と思われる。しかし,その効果を明確に示した報告は少ない。また,Yoshidaら(2013)は筋肥大効果のない低強度の運動に温熱負荷を併用すると筋萎縮の進行が抑制されると報告しており,これを参考にすると短時間の歩行運動に温熱負荷を併用することでその効果が高まる可能性がある。そこで,本研究では筋萎縮と拘縮に焦点をあて,これらの進行が短時間の歩行運動で抑制できるのか,また,これに温熱負荷を併用することでその効果が高まるのかをラットの実験モデルを用いて検討した。【方法】8週齢のWistar系雄性ラット24匹を無処置の対照群(n=5)と両側足関節を最大底屈位で2週間ギプスで不動化する実験群(n=19)に振り分け,実験群はさらに不動のみを行う不動群(n=6),不動の過程で一旦ギプスを外し歩行運動を行う歩行群(n=5),同様に温熱負荷と歩行運動を行う温熱+歩行群(n=8)に分けた。温熱負荷は42℃の温水に60分間後肢を浸漬する方法で行い,実験開始日のギプス固定前とその後は2日おきに実施した。一方,歩行運動は小動物用トレッドミルを用い,ギプス固定開始翌日から2日おきに10 m/分の速度で10分間実施し,温熱+歩行群においては温熱負荷の翌日に実施することとした。実験期間終了後は麻酔下で体重と足関節背屈可動域(以下,ROM)を測定し,その後,両側ヒラメ筋を採取した。そして,右側試料は筋湿重量を測定し,その後,作製した凍結横断切片をH&E染色し,病理組織学的検索と筋線維横断面積の計測を行った。一方,左側試料はreal time RT-PCR法にてタイプI・IIIコラーゲンのmRNA発現量を検索した。なお,今回の検索では筋湿重量を体重で除した相対重量比と筋線維横断面積を筋萎縮の指標に,ROMとタイプI・IIIコラーゲンmRNA発現量を拘縮の指標に用い,一元配置分散分析とその事後検定であるSchffe法にて各群間の有意差を判定した。【倫理的配慮】本実験は所属大学の動物実験委員会で承認を受け,同委員会が定める動物実験指針に準じて実施した。【結果】病理組織学的検索では各群とも筋線維壊死などの炎症所見は認められず,筋萎縮の指標に用いた相対重量比は対照群に比べ実験群の3群は有意に低値で,実験群間では温熱+歩行群が不動群より有意に高値を示した。また,筋線維横断面積に関しても対照群に比べ実験群の3群は有意に低値で,実験群間では温熱+歩行群,歩行群,不動群の順に有意に高値を示した。次に,拘縮の指標に用いたROMは対照群に比べ実験群の3群は有意に低値で,実験群間では歩行群と温熱+歩行群が不動群より有意に高値を示し,この2群間に有意差を認めなかった。また,タイプI・IIIコラーゲンmRNA発現量に関しては,対照群,歩行群,温熱+歩行群の3群間に有意差は認められず,これらは不動群より有意に低値を示した。【考察】今回の結果から,筋萎縮に関しては10分という短時間の歩行運動を行うだけでその進行が抑制され,これに温熱負荷を併用するとその効果が高まることが明らかとなった。そして,このメカニズムには温熱負荷によって発現する熱ショックタンパク質が関与していると推測しており,今後検索を進める予定である。次に,拘縮に関しても短時間の歩行運動でその進行が抑制され,これは歩行運動がもたらす骨格筋への周期的な機械的刺激の負荷がコラーゲンの過剰増生,すなわち線維化の発生を抑制したためと推測している。しかし,温熱負荷を併用してもその効果を高める可能性は低く,この点に関しては温熱負荷とストレッチングを併用した場合とストレッチングのみを行った場合で拘縮の回復促進効果に差はないとしたKondoらの報告(2012)を支持している。したがって,運動療法の前処置として行う温熱療法は,治療ターゲットによっては効果が異なる可能性があり,これを適用する際は考慮すべきと思われる。【理学療法学研究としての意義】本研究は臨床で実践できる低強度の運動療法として短時間の歩行運動を取り上げ,これを単独で行った場合と温熱負荷を併用して行った場合で筋萎縮と拘縮の進行にどのように影響するのかを検証した基礎研究であり,その成果は理学療法のエビデンス構築に寄与できるもので,理学療法学研究としても意義のあるものと考える。
  • 江渕 貴裕, 小山 照幸, 金丸 晶子, 太田 隆
    セッションID: 0778
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに】拡張型心筋症は,心筋収縮不全と左室内腔の拡張を特徴とし,難治性心不全や突然死をきたす予後不良の疾患である。治療は,薬物療法・心臓再同期療法・和温療法などが行われる。しかし,それらの治療に反応しない末期心不全に陥った拡張型心筋症の最終的治療は心臓移植しかないのが現状である。2010年に改正臓器移植法が施行され,心臓移植件数は増加したものの,2011年までに国内で心臓移植を受けた120名の平均待機期間は961.8日と長く,心臓移植までのブリッジとして左室補助人工心臓は重要な役割を果たしている。今回,拡張型心筋症により末期心不全状態を呈し,心臓移植待機のために体外設置型左室補助人工心臓(以下LVAD)を装着した症例に対する理学療法を経験したので報告する。【方法】[症例]拡張型心筋症と診断された48歳男性。既往歴は特記すべきものなし。弟と叔母が心疾患で突然死。[現病歴]4年前に胸水貯留し,心不全を疑われた。冠動脈造影検査では冠動脈病変を認めず,拡張型心筋症と診断され,内服治療を開始し,定期的に外来フォローアップされていた。その後,症状は安定し,電気工事関係の仕事に従事し,支障なく生活していた。入院3ヶ月前,発熱を認め,上気道炎を発症した。その後,めまい・息切れを自覚し,自宅にて2ヶ月間安静にしたが症状改善しないため,近医を受診した。内服治療及び和温療法目的に当院紹介され,入院となった。入院時,意識清明,心音・呼吸音共に異常なし,下腿浮腫は認めなかった。BNP 1457pg/ml,胸部レントゲン上CTR 58%,心エコー上EF 11%,左室拡張末期径76mm,左室収縮末期径70mm,心室中隔厚5.3mm,左室後壁厚6.2mm,びまん性に重度の左室収縮能低下と重度の僧帽弁逆流を認めた。[経過]入院時T-BilとGPTは軽度上昇,低心拍出量症候群の進行と考えられた。血圧は105/70mmHgと低めで,ドブタミン3γ,頻発する心室頻拍にはアミオダロン投与が開始された。第9病日にはBNP 769 pg/mlまで低下したが,第13病日には,心不全傾向悪化。第14病日に和温療法が導入されたが,その夜,息切れ・悪心を訴え,レントゲン上著明な肺うっ血を呈し,末梢循環不全の診断でICUに収容された。ICU収容後はカテコラミン依存状態となり,NYHA IV度の心不全状態となった。第22病日に肝機能増悪し,低心拍出量症候群の増悪認めた(BNP 3927 pg/ml)。心電図上,QRS幅は正常範囲であったが,心エコーでは非同期の状態を示していたため,両室ペーシング機能付き埋込型除細動器の植込が実施された。第23病日より頻脈性心房細動を認め,ペーシングに同期しなくなり,血圧低下を来したため,大動脈内バルーンパンピングが留置された。第28病日に僧帽弁弁輪形成術及び,LVAD装着が施行された。同日抜管。術後4日目ドレーン抜去。術後7日目車椅子乗車開始。術後9日目に一般病棟へ転棟し,同日PT介入開始。術後18日目歩行練習開始。術後31日目自転車エルゴメーター開始。術後71日目下肢レジスタンストレーニング開始。術後95日目に埋め込み型補助人工心臓手術のため転院した。【倫理的配慮,説明と同意】本発表はヘルシンキ宣言に基づき計画され,症例には書面にて説明を行い,同意を得た。【結果】・心肺運動負荷試験の経過を術後31日目:術後100日目として以下に示す。ATレベルのVO2/W(ml/kg/min)は9.3:10.5,HR(bpm)は121:72であった。peakでのVO2/W(ml/kg/min)は12.0:15.8,HR(bpm)は130:120であった。VE vs. VCO2 slopeは47.1:28.2であった。いずれもend pointは下肢疲労であった。・握力(kg)の経過を術後17日目:術後95日目として以下に示す。右33.3/左29.1:右24.1/左42.2であった。・膝伸展トルク(Nm/kg)の経過を術後39日目:術後95日目として以下に示す。右2.05/左1.90:右2.79/左2.68であった。【考察】本症例の術後経過は,牧田が報告したLVAD装着後のリハビリテーションの経過と比較しても順調に経過したと考えられる。LVADを装着し,運動療法を行ったことで,運動耐容能の向上が得られたと考える。一方,LVAD装着や長期にわたる入院生活では心理的ストレスが生じやすい。今回,医師や看護師,臨床工学技士など多職種のチームで介入することより,心理的ストレスの軽減に努めた。LVAD装着直後は不安を訴えることもあったが,次第に前向きな発言が多く聞かれるようになり,意欲的に理学療法に取り組めたことは多職種による介入の効果があったと考える。【理学療法学研究としての意義】今後,重症心不全の治療手段としてLVADの必要性は更に高くなり,LVAD装着下での運動療法の重要性も更に高まってくるものと思われる。LVAD装着患者に対する運動療法の効果については既に報告されているが,今回の結果も先行研究を支持するものである。
  • 主に心肺停止を想定して
    碓井 孝治, 満保 紀子, 唐島 ゆかり, 作田 清子, 中﨑 謙一, 椎名 実希, 中波 暁, 高木 泰孝
    セッションID: 0779
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに】当院ではあらゆるリハビリテーション(以下,リハ)ニーズに対応すべく,様々な疾患に対してリハを行なっているが,これまで急変時対応に関しては年1回の講習会以外には,積極的な勉強会・実技練習を行なっていなかった。そこで,以前から当院で開催されていた総合的品質管理(以下,TQM)活動をきっかけに,リハ中の急変に対処するため,2011年以降,様々な活動・勉強会を行なってきた。今回は心肺停止を想定しての活動に主眼を置き,その内容を報告する。【方法】1.対象当院総合リハセンターに在籍する理学療法士(以下,PT)・作業療法士・言語聴覚士・理療士の計28名(ただし,TQM活動期間中に限ってはPT・理療士の計13名)2.TQM活動のまとめ基礎テストの実施・解説/急変時対応のアルゴリズム作成・説明/各種機器の保管位置の確認/実際の機器の使用練習/急変時対応のビデオ作成・解説・ディスカッション/急変時対応の実技練習/報告内容のマニュアル作成・説明/カルテ記録・インシデントレポートの見本作成・説明 の8つの項目に関して順次実施した。3.評価方法TQM活動初期,最終および終了後約1年半での一次救命処置(以下,BLS)模擬練習について,その一部始終をビデオ撮影した。それをもとに,コード・ブルー(緊急事態発生を意味する隠語)コールまでに要した時間,救急への搬送開始までの時間,実技力について評価した。実技力はTQMメンバー6名で,あらかじめ設定した19項目について,A:対処が適切,B:不十分だができた,C:不適切または遅い,で各自評価し,その後話し合いながら最終判定した。結果に対しては統計学的分析を行なわず,TQM活動初期,最終および終了後で直接比較検討した。【説明と同意】リハスタッフにはビデオ撮影内容の,評価目的以外での非公開を約束し,同意を得た。【結果】それぞれTQM活動初期;最終;終了後の順に,コード・ブルーコールまでに要した時間は1分20秒;30秒;48秒,救急への搬送開始までの時間は2分42秒;4分16秒;3分30秒であった(ただし,TQM活動初期では胸骨圧迫マッサージや自動体外式除細動器の装着・作動がなされないままの搬送であった)。また,実技力は同じ順にA21%,B21%,C58%;A63%,B21%,C16%;A50%,B38%,C12%であった。【考察】概して,TQM活動初期には行動に時間を要し,実技力も低かったが,活動期間中の学習を通じて所要時間は短縮し,実技力はアップした。1960年代に米国National Training Laboratoryが提唱した「学習ピラミッド」によれば,講義(聞く)のみならず,読む,視聴する,デモンストレーション,グループ議論,実践,教授(他人に教えること)を通じて学習定着率がアップするとされている。この概念に即してTQM活動を行なったわけではないが,様々な学習方法を取り入れたことにより,結果的に学習ピラミッドに沿った形での学習となり,BLSが上達したものと考えられる。しかし,およそ1年半経過してしまうと,TQM活動初期ほどではないが,行動時間は再び延長し,実技力も低下していた。これは練習しなければ忘れる,あるいは固まって動けない・躊躇してしまう実情を示しているものと考えられた。さらにそれを助長する因子として,TQM活動終了後の勉強会では,BLS以外のものがテーマだったこと,TQM活動時とは対象が異なったことが挙げられる。本来,すべての回で対象者を統一すべきであったことは明らかだが,PT部門単独の活動ではないことからやむを得なかった。これらのことから,より確実なBLSを行なうためには,定期的に学習会(実技練習)を開き,それをもとに皆で議論しながら学習を進めていく必要があると考えられる。【理学療法学研究としての意義】理学療法にて多様なニーズが求められる現代,急変のリスクも多くなっているのが現状である。急変時対応の知識・技術を有しておくことは,臨床場面での活動の可能性を広げ,チーム医療の一端を担う上で非常に重要と考える。よって,このような活動報告を行なうことで,様々な施設でリスク管理について再考し,対策が講じられることを願う。
  • 運動療法継続により在宅酸素療法を離脱できた1症例
    小林 直樹, 堀越 一孝, 菊池 佳世, 渡邊 宏樹
    セッションID: 0780
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに】近年,慢性閉塞性肺疾患(COPD)と虚血性心疾患(IHD)の併存が,運動機能低下や呼吸困難感増強,症状の悪化などに関連するとされ注目されている。COPD患者やIHD患者への運動療法は骨格筋機能を改善させ,運動耐容能,呼吸困難感,ADL,QOL,予後などを改善することが示されており強く推奨されている。今回,重症COPDにより在宅酸素療法(HOT)中に心筋梗塞を発症し重症化した症例に運動療法を継続した結果,良好な運動機能や冠危険因子コントロール,呼吸困難感改善が得られ,HOT離脱が可能となった症例を経験したため報告する。【症例紹介】症例は71歳,男性。2か月前に重症COPD(1秒率29.2%,1秒量620mL,%1秒量34.3%,慢性呼吸不全あり)と診断され,LAMAによる薬物療法とHOTを行っていた。冠危険因子は喫煙と高血圧があった。前日から続く呼吸苦を主訴に救急搬送され心筋梗塞と診断,入院となった。血液検査ではBNP712.9 pg/dL,pH7.183,pCO277.2,pO262.4,HCO327.9,BE-2.6(酸素2L/分投与下)と心不全,高二酸化炭素血症の状態であり,また血圧低下も認められたため気管挿管人工呼吸器管理,IABP挿入されるなど重症であった。心臓超音波検査(UCG)で心室中隔から前壁部にかけて無収縮認められ,緊急冠動脈造影検査の結果LAD♯6の完全閉塞あり,POBA施行され血流改善した。IABP抜去,抜管,NPPV導入後,第7病日に理学療法開始となった。【倫理的配慮,説明と同意】学会にて公表する趣旨を本人に口頭にて十分に説明し,同意を得た。【理学療法と経過】開始当初は呼吸苦や心不全遷延しADL拡大に難渋した。第17病日頃より症状落ち着き,第19病日より歩行練習を開始できた。第20病日ICS/LABA追加,第21病日NPPV完全離脱,第23病日LADにステント留置と治療進み,合わせて症状を確認しながら運動量漸増した。第29病日に酸素1L/分投与下で連続200m歩行を獲得でき,第30病日にHOT1L/分で自宅退院となった。退院後は運動耐容能向上,冠危険因子コントロール目的に外来にて運動療法を継続した。外来運動療法開始時所見はUCGでLVEF69%,E/e’15,MRC息切れスケールGrade3,血液検査ではBNP312.5pg/dLであった。外来運動療法プログラムとしてはストレッチ,下肢筋力トレーニング,自転車エルゴメータでの持久力トレーニングを酸素1L/分投与下で週1回実施した。筋力トレーニングは自宅での継続性を考慮し,自重や軽重錘,ゴムバンドを利用したものとした。持久力トレーニングの運動強度はBorgスケール11~13を目安とし,時間は10分から開始した。加えて外来運動療法時の運動強度・時間を目安に在宅トレーニングを指導した。外来運動療法は休むことなく継続され,在宅トレーニングもほぼ毎日実施された。1カ月後,呼吸機能検査で1秒率49.1%,1秒量860mLと改善みられ,UCGでLVEF64%,E/e’11,血液検査ではBNP89.6pg/mLと心不全増悪はなかった。3カ月後,持久力トレーニングは25分まで延長でき,6分間歩行距離415m,膝伸展筋力値0.76kgf/kg,MRC息切れスケールGrade2であった。血液検査はBNP53.8pg/mLと心不全さらに改善し,血圧120/60mmHg,禁煙継続,脂質値も入院時より改善見られ,冠危険因子コントロールも良好であった。4カ月後に終了となったが,同時期に医師よりHOT離脱の許可がおりた。終了後も自己で運動を継続され,HOT再開や心筋梗塞再発はなく,MRC息切れスケールGrade1に改善した。【考察】COPDと心筋梗塞を併発し重症化した症例においても,運動療法を継続することで良好な結果を得ることができた。膝伸展筋力値は同世代健常高齢者以上,6分間歩行距離は外出制限が生じないとされる値を獲得できた。これは薬物療法により呼吸機能が改善したうえに,これまで報告されているように運動療法により骨格筋機能改善が得られ,酸素摂取量が改善したためであると考えられる。さらにこれらの効果により運動時の息切れ感軽減やSPO2維持が図れ,HOT離脱が可能となったと思われる。運動強度は低強度であったがアドヒアランスがよく,運動療法を高頻度に行え,禁煙など生活習慣の是正ができたことも良好な結果が得られた要因であると思われる。またHOTは呼吸困難感の改善により呼吸器疾患患者のQOLを改善するとされる一方,外出等の活動範囲の制限を来すなどADLを制限する要因にもなるとされている。HOT離脱となり,活動制限が緩和されたことでADL改善が図れたとともに,患者の希望するHOT離脱が達成できたことでQOL改善にも寄与できたと思われる。【理学療法学研究としての意義】運動療法はCOPDとIHDが併存し重症化した症例においても運動機能や症状の改善,疾患管理に寄与すると思われる。またHOT離脱の一助となりHOT導入患者のADL,QOL改善効果も期待できると思われる。
  • 武良 知美, 足立 博史, 尾崎 就一
    セッションID: 0781
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】我が国のサルコイドーシス有病率は10万人に対して10~20人であり,心病変合併頻度は67.8%と高い。心サルコイドーシスに特異的な臨床症状はなく,病変の部位・範囲により多彩な臨床症状を呈する。現在,心サルコイドーシスに対する心臓リハビリテーション(以下心リハ)のプロトコルは明らかにされておらず,報告も少ない。今回,心サルコイドーシス患者に対して心リハを施行した結果,有害事象無く筋力,運動耐容能の維持・改善を認めるなどの経験を得たため報告する。【方法】症例は50歳代男性。食品製造業。30歳代より心電図異常,不整脈指摘も精査せず。40歳頃より高血圧症指摘あるも未治療であった。仕事中15分間の強い左前胸部痛あり受診,下壁誘導のST低下あり。精査の結果サルコイドーシスとして特定疾患申請し認可され,ステロイド導入のため入院となった。入院時検査所見は,心電図は洞調律,上室性期外収縮,心エコーで前壁・中隔・高度低収縮~無収縮,後壁・下壁・心尖部低収縮,中隔基部菲薄化,カテーテル検査でForrester I型,左室駆出率37.1%を認めた。プログラムは,心臓リハビリテーション指導士(理学療法士)による監視の下,5日/週,40分~60分,入院期間の2ヶ月間心リハを実施した。運動メニューは①ウォーミングアップ(低強度の上下肢レジスタンストレーニングを含む)②自転車エルゴメーター20~30分③クーリングダウンとした。運動強度はBorg指数11~13とし,Karvonenの式で得られた脈拍数を超えないよう実施した。介入開始時,1ヶ月,2ヶ月時に6分間歩行,握力,膝伸展筋力を計測し運動機能を評価した。【倫理的配慮,説明と同意】患者に本研究の趣旨を十分説明し,書面で同意を得た。【結果】運動機能では6分間歩行(m)は開始時525,1ヶ月後630,2ヶ月後645,握力(kg)は開始時23/25,1ヶ月後27/27,2ヶ月後30/31,膝伸展筋力(Nm/kg)は開始時2.10/1.91,1ヶ月後1.93/1.51,2ヶ月後1.89/1.58であった。検査所見ではBNP(pg/ml)は開始時145,2ヶ月後42.3であった。運動中,運動後の有害事象は認めなかった。【考察】心サルコイドーシスに対する治療は,1)免疫抑制療法,2)心不全治療,3)不整脈治療に要約されると言われている。本症例でも1),2)に対して薬物療法による介入がなされており,今回理学療法は2)に対して運動療法,3)に対して運動前後の不整脈モニタリングが可能と考えた。心肺運動負荷試験の設備がない状況での運動処方が課題であったが,血圧,脈拍数,Borg指数をモニタリングしながら介入した。その結果,BNP値は改善し心不全の増悪も認めなかったことから,運動の過負荷を避ける事ができたと言える。心疾患患者の上肢および下肢筋力は予後規定因子となり得ると言われており,上下肢筋力を評価し訓練することは意味のあることと思われる。今回評価を行うことで随時プログラムを検討することができ,筋力,運動耐容能の維持・改善を図ることができたと考える。【理学療法学研究としての意義】心サルコイドーシスに対する心リハの具体的なプロトコルは明らかにされておらず,報告も少ない。今回の報告は心サルコイドーシスに対する心リハ介入方策の一助となると考える。
  • 重度脳卒中片麻痺患者に対する歩行介助方法の違いによる比較
    明日 徹, 石倉 龍太, 大宅 良輔, 松垣 竜太郎, 緒方 友登, 村上 武史, 久原 聡志, 舌間 秀雄, 越智 光宏, 和田 太, 蜂 ...
    セッションID: 0782
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【目的】我が国の理学療法士(PT)における筋骨格系の職業性傷害は,腰部が69%と最も多く,その要因として移乗介助や歩行介助の影響が大きいと報告している(斉藤ら,2002年)。近年,急性期施設で勤務するPTは,対象患者の疾患の多様化,障害の重症に加えて脳卒中治療ガイドラインで推奨されている早期離床・早期歩行を実践するために重症患者の移乗介助や歩行介助に迫られ,身体的負担は大きくなっていると思われる。PTの身体的負担を軽減する目的でロボット機器等の導入する例が散見される。しかし,歩行介助中のPTの身体的負担に関する報告はほとんどない。そこで,歩行介助への懸垂式歩行器導入による歩行介助が,PTの身体的負担を軽減するのかを検証することを目的に,歩行困難な重症脳卒中片麻痺患者(重度CVA患者)に長下肢装具装着下の歩行介助に,Walker-caneと懸垂式歩行器の2種類の介助機器を使用し,PTの客観的および主観的身体的負担度を比較した。【方法】被介助者は,歩行練習時に長下肢装具を必要とする重度CVA患者9名(男性6名,女性3名;年齢65.8±7.9歳,脳出血6名,脳梗塞3名,右片麻痺5名,左片麻痺4名;下肢Brunnstrom Stage II 6名,III 3名,歩行状態はFunctional Ambulation Classification(1~6)で2が3名,3が6名),介助者は歩行介助技術が同等レベルで体格も同等な資格取得後2年目の男性PT3名(年齢25.0±0.0歳;身長172.8±1.8cm,体重60.0±3.6kg)とした。PTが重度CVA患者に対し,①Walker-caneを使用した従来の歩行介助(通常介助),②懸垂式歩行器による歩行介助(懸垂介助)を実施した。PTの身体的負担は,客観的指標として酸素摂取量,心拍数,腰背部筋活動量,ならびに主観的指標としてVisual Analogue Scale(VAS)を評価した。使用機器は携帯式呼気ガス代謝モニター装置(Meta Max 3B,Cortex),心電ワイヤレストランスミッター(T31 codedTM transmitter,Polar),心電図モニター(ベッドサイドモニタBSM 2401,日本光電),ホルター筋電計(ME3000P,Mega Electronics)を用いた。実験方法は,介助者に3分間安静座位を取らせた後,安静立位3分間と歩行介助を行い,同時に酸素摂取量と心拍数を測定した。3~5分間の歩行介助中に酸素摂取量が安定した最終30秒間のデータを解析対象とした。酸素摂取量は,歩行介助時から安静立位を減じ,単位時間当たり正味の酸素摂取量を求めた。腰背部筋活動量はSorensen test施行時の表面筋電図の単位時間当たりの積分値を基準とし,歩行介助時の筋活動量(% Voluntary Contraction;%VC)を算出した。PTの自覚的身体負担は歩行介助後にVASにて評価した。通常介助ならびに懸垂介助の順番はランダムとした。統計解析は対応のあるt-検定で行い,有意水準は5%とした。【説明と同意】本研究は当大学の倫理委員会にて承認を受けて実施した。なお,被介助者ならびに介助者にはヘルシンキ宣言に則り,研究の趣旨,目的,研究結果の取り扱いなどについて十分に説明し,書面にて同意を得た。【結果】酸素摂取量,心拍数,ならびにVASは,懸垂介助が通常介助と比較して有意に低値を示した。しかし,腰背部筋活動は,懸垂介助と通常介助との間に有意差を認めなかった。【考察】本研究では,懸垂介助の方が客観的及び自覚的身体負担が通常介助よりも軽い結果となった。これはLouiseらが重度CVA患者の歩行介助に懸垂機能を用いることで,PTの身体的負担を減少し,結果として患者の運動量確保が十分可能になったと述べている報告と一致した。懸垂介助による歩行練習は,患者の転倒を防ぎ安全を確保し,PTの身体的負担を軽減するだけでなく,患者が歩行しやすくなり歩行練習量をより増加させることが期待できる。これは脳卒中ガイドラインで推奨されている歩行練習量の増加を実現できる良い方法であるといえる。懸垂介助でPTの自覚的身体負担は低下したにもかかわらず,腰背部筋活動には有意差は認めなかった。藤村らは,持ち上げ動作時の腰背部筋活動は,その重量ならびに体幹の姿勢(体幹屈曲角度)によって異なると報告している。今回の2条件での歩行介助では,歩行介助中の介助者の体幹屈曲角度に大きな違いがなかったことが影響しているのではないかと推察された。【理学療法学研究としての意義】本研究結果により,懸垂式歩行器を導入した重度CVA患者の歩行介助が,PTの身体的負担を軽減することが明らかになり,懸垂式歩行器の導入がPT自身の傷害予防において意義あると考えられた。また,機器の導入によるPTの身体的負担軽減は,重度CVA患者に十分な運動量を安全に確保できる可能性があり,脳卒中の運動療法をより効果的に行うことが可能となると期待される。
  • 田中 大地
    セッションID: 0783
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】病気や怪我などで障がいを呈した後,在宅生活を継続していくには家族の介護が不可欠になることが多く,介護者の身体的および精神的な負担にも配慮が必要である。また,在宅介護者の介護負担についての報告ではADL能力や基本動作能力との関連など,身体的負担と介護負担についての報告はしばしば見られるが,精神的負担と介護負担との報告は少ない。本研究の目的は,在宅介護者の介護負担に関する要因について検討することである。【方法】対象は,平成24年4月から平成25年3月までに当院の訪問リハビリを利用し,改訂長谷川式簡易知能評価スケール21点以上であった要介護者16名(平均年齢72.9±11.4歳)とその介護者16名(平均年齢69.6±10.2歳)の16組32名とした。方法は,日本語版Zarit介護負担尺度(以下,J-ZBI)の中央値から介護負担の低い群(以下,低負担群)8組と介護負担の高い群(以下,高負担群)8組の2群間で検討項目を比較した。検討項目は,要介護者の基本情報(年齢・性別・既往歴の有無・屋内移動手段・移動自立度・介入期間・介護度・転倒経験),日常生活動作(Functional Independence Measure:以下,FIM),転倒恐怖感(Modified Falls Efficacy Scale),食事機能(物を集める・運ぶ・飲み込む)とした。介護者からは年齢,介護協力者の有無,在宅介護期間,利用者との関係を検討した。またJ-ZBIの評価項目から,介護そのものからくる負担であるPersonal strain(以下,PS)点数と今までの生活が送れない事に対する負担であるRole strain(以下,RS)点数の中央値割合を比較した。分析は2群間で各検討項目を対応のないt検定,χ2検定,Mann-Whitney検定を用い有意差を求めた。【倫理的配慮,説明と同意】この研究はヘルシンキ宣言に沿って行った。対象者またはその家族には研究の趣旨について十分に説明し同意を得た。【結果】要介護者の疾患分類は中枢神経疾患8名,骨関節疾患7名,代謝疾患1名であった。2群間比較の結果,要介護者因子では転倒経験の有無・FIMの食事項目(いずれもp<0.05)に,介護者因子では介護協力者の有無に有意差(p<0.05)を認めた。また,要介護者の食事機能の2群間比較では有意な差は認められなかった。FIM食事点数の詳細な割合は高負担群では7点(自立)が8人中7人(87.5%),低負担群では6点(修正自立)が8人中5人(62.5%)と最も多い割合であった。J-ZBI点数の中央値割合では低負担群のPSが48点中12点(25%),RSが24点中4点(16.6%),高負担群のPSが48点中21.5点(44.7%),RSは24点中12.5点(52%)であった。【考察】介護負担の2群間比較で転倒経験の有無に有意差が認められた。これは介護者の再転倒不安感が影響していると考えられる。また,牧迫らは介護協力者の有無が介護負担感に影響を及ぼすとしており,本研究においても同様の結果となった。今回は有意差の認められた検討項目の中でも理学療法として身体機能面,環境面で介入できる食事動作に着目した。FIMの食事動作に有意差が認められたが,詳細な評価である食事機能に有意差は認められず,高負担群ではFIM6点(修正自立)が63%を占めていた。牧迫らは要介護者のADL能力や基本動作能力は介護者の介護負担感に影響を与えるとしているが,本研究結果からは,実際の介護者への食事介助量が必ずしも介護負担感に直接的に影響を及ぼしているとは思われなかった。また基本的に食事動作は,一日3回あり介護者の時間的拘束が長いことや,J-ZBIの点数割合から高負担群ではRS(今までの生活が送れない事に対する負担)の割合が高いことから,自分の時間がとれないことへの負担が強いと考えられた。本研究から食事動作で直接的介助が少ない場合でも,食事に時間のかかる例や,介助者の安全性の配慮が必要など,介助者の精神的配慮によっても介護負担が生じる可能性が示唆された。今後介護負担を減らすためには,介護者の身体的負担の軽減を目指すと共に精神的な負担軽減を図り,介護者自身の時間を作れるような支援が重要になってくると思われた。【理学療法学研究としての意義】介護負担に関する要因は要介護者の動作能力など身体的負担に関する報告は見受けられるが,精神的負担に関する臨床データは十分ではない。本研究は,訪問リハビリで必ず遭遇する介護者の精神的負担を考えるうえで意義のある示唆を含むものと考える。
  • 井口 大平, 張 振志, 齋藤 崇志, 大沼 剛, 阿部 勉, 大森 豊, 柴 喜崇
    セッションID: 0784
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに,目的】近年,要介護者数が急速に増加する中で老老介護が新たな問題となっている(高齢社会白書,2011)。介護の実態調査では,身体的負担として介護者には腰痛を持っている人の割合が高いこと(鈴木ら,2012),精神的負担としてQuality of lifeが低いことや抑うつ度が高いこと(安田,2011)が明らかである。このように,介護負担は主介護者の健康状態を悪化させるため,要介護者が増加する日本において喫緊の課題と言える。すでに本邦では,主介護者の介護負担感に関連する因子として,主介護者の外出頻度が高いことや社会的サポートが有ることなどが明らかである。一方,要介護者の身体機能・生活機能に着目した研究では,要介護者の日常生活活動(ADL)能力に関して統一された見解がなく,要介護度に関しても主介護者の介護負担感には影響しない(山崎,2012)。しかし,要介護者の身体機能・生活機能など外面的なものではなく,要介護者の生活意欲など精神機能に着目した報告はない。そこで本研究の目的は,主介護者に直接会って調査することができる訪問リハビリテーションの利用者を対象とし,主介護者の介護負担感に要介護者の精神機能が寄与しているか明らかにすることである。【方法】対象は,神奈川県内と東京都内の2事業所の訪問リハビリテーションを利用している要介護者54名(男性35名,女性19名,平均年齢80.4±7.8歳)とその主介護者54名(男性13名,女性41名,平均年齢71.9±11.7歳)とした。調査は要介護者と主介護者の両者に対し,対象者の自宅にて質問紙による面接調査法で行った。要介護者から,服薬種類数,地域高齢者の社会的孤立の指標として日本語版Lubben Social Network Scale短縮版(LSNS-6)を聴取した。主介護者から,年齢,性別,介護期間,最近2週間における1日の平均介護時間,要介護者の意欲の指標としてVitality Index,介護負担感の指標としてZarit介護負担尺度日本語版(J-ZBI)を聴取した。また,各事業所のカルテから,要介護者の年齢,性別,要介護度,ADLの指標としてFunctional Independence Measure(FIM)の情報を得た。統計は介護負担感に影響する因子を明らかにするために,J-ZBI得点と各項目とのSpearman順位相関係数を算出した。そして,J-ZBI得点と有意な単相関が認められた項目を独立変数,J-ZBI得点を従属変数として,ステップワイズ法を用いて重回帰分析を行った。なお,有意水準は5%とした。解析には,SPSS Statistics 21.0を使用した。【倫理的配慮,説明と同意】本研究の対象者には,研究目的,内容,プライバシーおよび個人情報の管理,協力中止の自由に関して,書面および口頭にて説明を行った後,書面による同意を得た。また,本研究内容および研究手順は研究倫理審査委員会によって承認されたものである。【結果】要介護者の年齢(80.4±7.8歳),要介護度(要支援1が1名,要支援2が3名,要介護1が4名,要介護2が21名,要介護3が12名,要介護4が7名,要介護5が6名),FIM得点90.2±27.0(点/126点満点),服薬種類数(中央値5種類 最小値1種類 最大値15種類),LSNS-6得点9.7±4.4(点/30点満点),Vitality Index得点8.5±1.5(点/10点満点)。介護期間73.9±67.6(ヵ月),最近2週間における1日の平均介護時間9.1±7.9(時間)のうち,J-ZBIと有意な単相関が見られたのは,服薬種類数(r=0.364,p<0.05,n=54),介護期間(r=0.460,p<0.05,n=54),最近2週間における1日の平均介護時間(r=0.276,p<0.05,n=54),Vitality Index得点(r=-0.480,p<0.05,n=54)だった。また,単相関が認められたこの4項目を独立変数,J-ZBIを従属変数として重回帰分析を行った結果,J-ZBIに寄与していたのは,服薬種類数(標準化係数β=0.318),介護期間(標準化係数β=0.284),Vitality Index得点(標準化係数β=-0.529)だった(重決定係数R2=0.469)。最近2週間における1日の平均介護時間は独立変数から除外された。【考察】主介護者の介護負担感には要介護者の意欲が寄与していたが,要介護度やADL能力は寄与していなかった。このことから,主介護者の介護負担感には要介護者の身体機能・生活機能が保たれているかよりも,要介護者が自身の生活に対して意欲的・自主的かどうかが重要と言える。一方,主介護者の介護負担感には介護期間が寄与していたのに対し,最近2週間における平均介護時間は除外された。このことから,1日の介護時間が少なくても,介護を長く続けている主介護者に対しては社会的サポートを利用したレスパイト・ケアが必要だと考えられる。【理学療法学研究としての意義】主介護者の介護負担感には,要介護者の生活に対する意欲を保つことが有効であること,介護年数が長い主介護者には,より個別に介護負担感の軽減を図る必要があることが示唆された。
  • 第一報
    福村 祥平, 山口 孝太郎, 太鼓 聖也, 鳥井 大輔, 大坪 宗一郎, 田口 光, 川元 大輔, 横山 尚宏, 高田 和真, 山下 喬之, ...
    セッションID: 0785
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】運動療法を行う際,運動実施状況をモニタリングし,定量的情報として取り扱う様々な方法が実施されている。非侵襲的かつ簡便で生体反応から運動実施状況をモニタリングし,定量的情報として取り扱う事が出来れば,国民の健康向上の一役を担えるかもしれないと考える。日常生活場面で取り扱われる事の多い生体反応として体温上昇が挙げられる。運動による体温上昇をモニタリングする際,衣類などに被覆されておらず発汗等の影響が少ない身体部位として耳朶が考えられるが,耳朶皮膚表面温度を利用した運動実施に関する報告は散見されない。そこで本研究では,健康な学生を対象に低負荷反復のマシントレーニングを実施した際,体温(腋下温)や耳朶皮膚表面温度を計測,運動実施による温度変化を比較検討し,運動療法を行う際の基礎的データ収集を目的とした。【方法】対象は,鹿児島医療技術専門学校理学療法学科在籍中の学生で,ボランティアとして参加協力が得られた健康な女性13名とした。対象者の服装は半袖・半ズボン,室温は空調にて約24度と設定し,エアコン等の風が直接当たらない様に配慮した。事前にトレーニング機器(チェストプレス)を使用して最大筋力を測定。最大筋力の約20%を,今回は低負荷と規定した。5分間の安静時をベースラインとし,運動を実施。低負荷反復運動10回を1セットとした。反復スピードはメトロノームにて120テンポ(2Hz)とした。セット間に30秒間の休憩時間を設定し,計3セット実施。温度測定部位は,1)デジタル体温計(テルモ電子体温計C203)にて安静時ならびに運動終了直後の腋下温を測定,2)赤外線放射温度計(DUAL赤外線放射温度計AD-5612A)にて安静時・運動終了直後・1分後・2分後・3分後・4分後・5分後の耳朶皮膚表面温度を測定した。統計学的分析は,腋下温に関して,安静時・運動終了直後の2群間で対応のあるt検定を行った。耳朶皮膚表面温度に関して,安静時をベースラインに運動終了直後・1分後・2分後・3分後・4分後・5分後の温度変化量を算出し,温度変化量間の多重比較検定を行った。いずれも有意水準は5%とした。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は,鹿児島医療技術専門学校倫理委員会の承認を得た上で,ヘルシンキ宣言に遵守して実施した。なお,対象者には,本研究の趣旨および目的を書面および口頭にて説明し,同意を得た。【結果】腋下温に関して,安静時腋下温は36.76±0.30度,運動終了直後腋下温は36.63±0.30度であった。安静時腋下温と運動終了直後腋下温間に有意差は認めなかった。次に耳朶皮膚表面温度に関して,安静時31.32±0.70度,運動終了直後31.57±0.76度,1分後31.71±0.74度,2分後31.79±0.73度,3分後31.83±0.73度,4分後31.51±0.58度,5分後31.26±0.58度であった。耳朶皮膚表面温度は,安静時と比べて,運動終了直後から3分後にかけて温度上昇傾向を示し,4分後・5分後と温度下降傾向の推移を示した。安静時をベースラインに算出した温度変化量に関して,運動終了直後0.25±0.32度,1分後0.39±0.32度,2分後0.46±0.50度,3分後0.51±0.48度,4分後0.19±0.42度,5分後-0.06±0.32度であった。2分後と5分後間(P<0.05),3分後と5分後間(P<0.01)に有意差を認めた。【考察】赤外線放射温度計を利用した耳朶皮膚表面温度測定は,非侵襲的かつ簡便に計測する事ができた。耳朶皮膚表面温度変化から,運動実施後の温度変化をとらえる可能性が示唆された。今回の研究の限界は,深部体温や自律神経系の計測が同時に行えておらず,温度変化と運動実施との関係性を直接的に計測出来ていない。今後は複数のパラメーターを組み合わせ,生体反応の関係性を踏まえたさらなる研究が必要である。【理学療法学研究としての意義】本研究は,運動による体温上昇の計測において,衣類などに被覆されておらず発汗等の影響が少ない身体部位として耳朶に着目し,非侵襲的かつ簡便に皮膚表面温度を測定する事で,運動実施状況をモニタリングするための基礎的データを収集したものであり,理学療法学研究としての意義がある。
  • 新岡 大和, 田口 孝行, 鈴木 英二
    セッションID: 0786
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】ボツリヌス(以下,BTX)療法は脳卒中治療ガイドライン2009で痙縮に対する治療として推奨グレードAとされており,現在広く普及し始めている。イギリスの内科医師ガイドラインではBTX療法はリハビリテーションプログラムの一部であるとされ,中馬はBTX療法と併せたリハビリテーションの重要性を指摘している。しかし,BTX療法と理学療法の併用における効果報告はまだ散見される程度であり,それらの報告においてもBTX療法実施後の短期集中理学療法の効果を報告するものが多く,一定期間継続的に介入した報告は少ない。本研究ではBTX療法によって痙縮が改善した者と改善しなかった者の相違について明らかにすることを目的とした。【方法】対象は2012年7月より2013年5月の間に,当院で脳卒中後の下肢痙縮に対してBTX療法を実施した60名のうち,3ヵ月間理学療法を継続した18名(男性12名,女性6名,平均年齢63.5±8.8歳)とした。対象者には下肢痙縮筋(腓腹筋,ヒラメ筋,後脛骨筋)にGlaxo Smith kline社製のボトックス(R)を投与した。注射単位数は対象者の痙縮の程度によって医師とともに判断した。投与後より3ヵ月間,週1~2回,各40分程度の理学療法を外来通院にて行った。理学療法プログラムは各種物理療法(電気刺激療法,温熱療法),関節可動域練習,筋力強化,麻痺側下肢荷重練習,歩行練習などを実施した。また,対象者に対してBTX療法施行前,3ヶ月後にそれぞれ理学療法評価を行った。評価項目は脳卒中発症からの経過期間,足関節底屈筋群の筋緊張検査としてModified Ashworth Scale(MAS),足関節背屈の関節可動域検査としてROM検査(ROM),下肢筋力検査として5回椅子立ち座りテスト(SS-5),歩行能力検査として10m歩行時間,バランス検査としてFunctional Reach Test(FRT)をそれぞれ評価した。その後,BTX療法施行前と3ヵ月後を比較してMASが改善した群(痙縮改善群),変化がなかった,または悪化した群(痙縮非改善群)に分類した。BTX療法施行前の痙縮改善群と非痙縮改善群間の各評価項目の差を比較するために対応のないt-検定を用い,痙縮改善群,非痙縮改善群それぞれの群においてボツリヌス療法施行前と3ヶ月後の各評価項目の変化を明らかにするために対応のあるt-検定を用いた。統計学的分析にはSPSS for Windows10.0を用い,有意水準を5%とした。【倫理的配慮,説明と同意】調査にあたって対象者に対して本研究の目的及び内容を説明し,研究参加への同意を得た。【結果】BTX療法施行前の痙縮改善群と非痙縮改善群の評価項目を比較した結果,BTX療法施行前の歩行能力において痙縮改善群で有意に歩行時間が短かった。有意な差は認められないもののSS-5では痙縮改善群が施行前で短い傾向であった。また,発症からの期間では痙縮改善群が有意に発症からの期間が短かった。非痙縮改善群においてBTX療法施行前と3ヵ月後を比較した結果,SS-5とFRTが3ヵ月後に有意に改善していた。また,有意な差は認められないものの歩行時間において改善傾向であった。【考察】MASの結果において分類した痙縮改善群と非痙縮改善群を比較した結果,BTX療法施行前において痙縮改善群では発症からの期間が短かく,10m歩行時間が短かった。つまり,発症からの期間が短い者,もともとの歩行能力が高い者はBTX療法による痙縮抑制効果を維持しやすいものと考えられた。一方で,非痙縮改善群においてBTX療法施行前と3ヵ月後を比較した結果,痙縮の改善が得られなかったにも関わらずSS-5とFRTに有意な改善が認められ,10m歩行時間においても改善傾向が認められた。これは発症からの期間が長期に渡ることによる廃用性機能低下に対する理学療法効果の可能性がある一方で,BTX療法によってMASでは評価できない何らかの痙縮の変化があった可能性も考えられる。痙縮の評価として用いたMASは安静時の他動運動によって評価されることから,動作時の痙縮状態を評価できない可能性がある。この点に関しては今後の検討課題である。【理学療法学研究としての意義】本研究はBTX療法によって痙縮が改善する者の特性を示唆したことで,その適応を考える一助となるものと考えられる。
  • 井澤 和大, 渡辺 敏, 岡 浩一朗
    セッションID: 0787
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】栄養状態の指標としてのGeriatric Nutritional Risk Index(GNRI)は,高齢心疾患患者の日常生活活動や生命予後を予測する指標として活用されている(Kinugasa et al., 2013)。また,高齢心疾患患者に対する新たな取り組みとして栄養状態の評価ならびに介入の重要性についても提唱されている(Tsuchihashi-Makaya et al., 2013)そこで,本研究では,“高齢心疾患男性患者における低栄養状態では,身体機能の各指標も低値を示す‘という仮説を立て,それを検証すべく,以下の検討を行った。本研究の目的は,高齢心疾患男性患者におけるGNRI高低による身体機能指標の差異について明らかにすることである。また,高GNRIレベルの身体機能の各指標について抽出することである。【方法】対象者は,当院の診療科に入院中で身体機能指標の測定に同意が得られた高齢男性心疾患患者251例(平均年齢74.7歳)である。除外基準は,診療記録より各指標の調査不能例,重篤な不整脈,呼吸器疾患,整形外科疾患を有する例であった。本研究で我々は栄養状態の指標としてGeriatric Nutritional Risk Index(GNRI)を用いた。全対象者は,GNRI(14.89*血清アルブミン値(g/dl)+41.7* Body mass index(BMI)/22)により,GNRI高値(≧92)群178例と低値(<92)群73例の2群に選別された。身体機能の指標は,握力(kgf),膝伸展筋力(kgf/kg*100),10m最大歩行速度(m/sec)および開眼片足立位時間(sec)である。我々は,握力,膝伸展筋力は左右最高値の平均値を,10m最大歩行速度および片足立位時間はそれらの最高値を指標とした。解析は,2群間における年齢,,左室駆出率(LVEF),血清アルブミン値,基礎疾患,薬剤などの患者背景および身体機能の各指標の比較にはt検定および共分散分析を用いた。GNRIが高いレベルの身体機能のカットオフ値の抽出には,受信者動作特性(ROC)曲線を求め,感度と特異度より判定した。統計学的有意差判定の基準は5%未満とした。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は,当大学生命倫理委員会により承認されている。本研究の実施にして我々は全対象者に研究の趣旨を説明後,同意を得た。【結果】患者背景は,年齢, BMI,および血清アルブミン値を除き2群間に差はなかった。年齢を調整した分散分析の結果,GNRI低値群は高値群に比し,握力(25.5 vs. 29.4 kgf,P<0.01),膝伸展筋力(44.7 vs. 53.6%,P<0.01),10m最大歩行速度(1.4 vs. 1.7 m/sec,P<0.01)および片足立位時間(14.6 vs. 24.1 Nm/kg,P<0.01)と各指標において低値を示した。また,ROC曲線より抽出された身体機能指標の各カットオフ値は,握力は25.7(kgf),膝伸展筋力は46.1(%),10m最大歩行速度は1.46(m/sec),片足立位時間は11.3(sec)であった。【考察】本研究は,GNRIを用い栄養状態による身体機能指標の差異について明らかにすることであった。年齢を調整した分散分析の結果,GNRI低値群の身体機能指標は高値群に比し,全てにおいて低い値を示した。Kinugasa et al.(2013)は,低栄養状態の患者は,高栄養状態に比しBarthel Indexによる日常生活活動は低下することを示している。本研究の高齢心疾患男性患者における低栄養状態は,身体機能の低下に少なからず影響を及ぼす可能性があり,先行研究を支持するものと考えられる。また,本研究では栄養状態が高いレベルの身体機能の各カットオフ値を抽出した。これらの指標は,栄養状態から見た身体機能向上のための指導方策の一助となる可能性がある。本研究は,横断的研究であるため,栄養状態の改善が,身体機能や日常生活活動レベルの向上に直接寄与するのかについては言及できない。また本研究は,男性のみを対象としているため,女性においては更なる研究を要する。【理学療法学研究としての意義】本研究は,高齢心疾患患者の身体機能は,栄養状態の高低により差異があり,また,各指標のカットオフ値が明らかとなった。以上より,本研究成果は,理学療法学研究における指導方策の一助となる可能性がある。
  • 野嶌 一平
    セッションID: 0788
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】Olivieroらが,1テスラ程度の小型ネオジム永久磁石を頭表に留置することでヒト一次運動野の興奮性を抑制できることを2011年に報告して以来,国際的に静磁場刺激に対する関心が高まっている。非侵襲的に大脳皮質の興奮性を調整する方法として,経頭蓋磁気刺激法(TMS)や経頭蓋直流電気刺激法(tDCS)が幅広く使用され,運動学習や記憶学習に対する促通効果が知られている。臨床への応用に関しては近年,複数の刺激パラメータを組み合わることで付加的な効果を生み出す戦略が模索されている。特にこの方法は,大脳皮質を刺激することによる包括的な下行性促通に末梢刺激を組み合わせることで限局した効果を導き出す手段として,臨床上有用な方法になる可能性がある。一方,TMSやtDCSは刺激部位に異常発火や皮膚障害を誘発するリスクが報告されており,長時間または頻回な使用には十分注意する必要がある。そこで今回,これらの代わりに安全性の高い静磁場刺激を用いて,末梢神経電気刺激との組み合わせによる局在効果について検討する。【方法】対象は神経学的障害を有していない右利きの健常成人13名(24.5±4.3歳,男性10名,女性3名)である。脳機能計測にはTMSを使用した。TMSでの刺激領域は左一次運動野(M1)とし,右短母指外転筋(APB)と右小指外転筋(ADM)より運動誘発電位(MEP)を表面筋電図にて導出した。運動域値は,安静時にAPBより10回中5回以上MEP振幅が50µVを越える最小の刺激強度とした。MEPは1.0mVとなる強度での刺激を介入前後で実施した。またM1への二連発刺激を用いて,皮質内抑制(SICI)と促通(ICF)も検討した。脳機能計測は,介入刺激前,直後,15分後,30分後に分けて経時的に測定した。介入方法は静磁場刺激として表面磁束密度5.3MGOe(吸着力88kg)のネオジム磁石(直径45mm,幅30mm)に取手をつけて使用した。この刺激強度は,先行研究で有意な大脳皮質の抑制効果を認めた強度と同等である。被験者はリクライニング椅子上に半臥位となり,左一次運動野に器具で固定された磁石を5分間当てられた。磁石を当てる部位は,介入前にTMSにて右APBの筋収縮が最も出現しやすい部位であることを確認した。磁石はN極を頭皮上に当てた。末梢神経刺激は,右手関節部で正中神経に対して運動閾値レベルの刺激強度を,刺激頻度1Hzで実施した。介入条件は,①静磁場刺激+末梢神経刺激,②sham刺激+末梢神経刺激を任意の順序で実施した。そして各々の介入条件における一次運動野の機能を経時的に検討した。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は,大学医学部倫理委員会の承認を得て実施した。また,被験者は医師から口頭で実験内容を十分説明され,実験への参加は任意とした。【結果】静磁場刺激と末梢神経刺激による介入前後の皮質脊髄路の興奮性変化を以下に示す。MEPはAPBにおいて,介入前1046.3±156.3µV,介入0分後709.0±102.7µV,15分後874.7±124.4µV,30分後1104.2±121.8µV,ADMに関しては,介入前522.5±146.4µV,介入0分後396.2±82.7µV,15分後432.8±89.1µV,30分後488.4±109.2µVとなり,APBでのみ約20%程度の興奮性抑制効果が示された。二連発刺激を用いた皮質間機構の検討においては,SICIにおいてAPBで介入前0.60±0.08,介入0分後0.45±0.06,15分後0.49±0.04,30分後0.47±0.10,ADMで介入前0.55±0.10,介入0分後0.55±0.09,15分後0.69±0.17,30分後0.45±0.08となり,APBにおいてのみ有意なSICIの増大を認めた。一方ICFに関しては,どちらの介入においても有意差は認めなかった。一方,sham刺激と末梢神経電気刺激の刺激条件においては,MEP,SICI,ICF,rMTなどのTMSを用いた指標に有意な変化は見られなかった。【考察】静磁場刺激が大脳皮質の興奮性を抑制する神経生理学的機序に関しては不明な点も多いが,二連発刺激の結果よりGABA系の抑制回路を介した抑制機構の関与が示唆されている。また正中神経刺激と組み合わせることで,正中神経支配のAPBを支配する脳領域に限局して抑制効果が見られたことは注目に値するものと考える。【理学療法学研究としての意義】電気刺激を組み合わせることで,任意の筋または神経の興奮性を調整することができれば,疾患または症状に合わせた治療介入を提供する有効な手段になる可能性がある。今回は脳機能変化のみの検討であったが,今後は行動レベルへの影響についても検討し臨床応用を進めていく必要がある。
  • 大門 恭平, 川村 博文
    セッションID: 0789
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【目的】近年,欧米においては,情動や疼痛に対する頭蓋電気刺激療法(以下:CES)が注目されている。CESは,1mA未満の電流を頭蓋に対して使用する新しい電気刺激療法である。CESは疼痛,不安,抑うつ,睡眠障害などに効果を示している。しかしながら,CESの効果として米国においては多くの研究結果が示されているものの,本邦におけるCESの効果を検討した報告はない。また,脳卒中後には,うつ状態が高頻度に出現されることが報告されているが,脳卒中後のうつ状態に対する物理療法の効果を示した報告は少ない。よって,本研究の目的は,予備的研究として脳卒中患者の抑うつ気分を改善するためのCESの効果を検討することである。【方法】対象は同意の得られた通所リハビリテーション(以下:通所リハ)利用者1名であり,平成12年に脳梗塞を発症した70歳代の男性である。抑うつ症状と注意障害があり,ADLは,屋内動作自立であったが,屋外は近位監視が必要であった。通所リハ利用時は,気分や意欲に日差変動があり,自宅では抑うつ気分の際,全く会話をしないなどの症状がみられた。また,対話時には「死にたい」,「生きていても仕方がない」などの発言がみられたが,危険行動は認められなかった。介入はABデザインであり,各期間は週5日の3週間とした。ベースライン期としてA期は通常理学療法と自主練習を合わせて40分実施した。介入期としてB期は,通常理学療法と自主練習に加えてCESを20分実施した。CESの使用条件として,使用機器はElectromedical Products lnternational(EPI)社製Alpha-StimM(薬事法承認番号:225AGBZX00010000)を用いた。刺激強度は100μA,周波数は0.5Hz,波形はバイポーラ非対称矩形波形,50%負荷サイクルの定期反復,パルス幅は0.25,0.5,0.75及び1秒の幅で変動,実施時間は安静座位で20分間実施した。電極は専用ゲルを塗布した耳クリップ電極を両耳介に装着した。評価項目は,気分の状態を評価する日本語版POMS短縮版(以下:POMS),主観的幸福度を評価するVisual Analogue Scale of Happiness(以下:VAS-H),不安と抑うつの程度を評価するHospital Anxiety and Depression Scale(以下:HADS),内省報告とした。評価はA期介入前後とB期介入後の3回実施した。【説明と同意】本介入は医師の処方に基づき,対象者に本研究の趣旨を書面にて説明し,同意を得たのちに治療を行った。【結果】POMSの改善点数は,緊張-不安項目はA期0点,B期3点,抑うつ-落込み項目はA期0点,B期6点,怒り-敵意項目はA期1点,B期2点,活気項目はA期1点,B期2点,疲労項目はA期-1点,B期4点,混乱項目はA・B期共に0点であった。VAS-Hは,A期は-100%の最大の不幸から変化はなく,B期で0%に改善を示した。HADSは,不安項目はA期1点,B期6点,抑うつ項目はA期-1点,B期6点であった。内省報告として,B期介入2週目において「自分でも分からないけど気分がいい」,「ポジティブに考えられる」との発言がみられた。【考察】POMSの抑うつ-落ち込み項目とHADSの不安・抑うつ項目においては,B期で特に改善傾向を示し,内省報告から対象者自身も情動面への変化を認めている。先行研究においては,CESが心的外傷後ストレス障害患者の不安や抑うつを改善させる報告や,CES介入後の脳波において,アルファ波の活動増加が報告されている。また,CESの効果のメカニズムとしては,主に脳幹のセロトニン作動性縫線核に作用するとの報告がある。セロトニンはドーパミンやノルアドレナリンの調節に作用し,自律神経や攻撃性の調節,不安といった心的な情動の調節を行っている。よって,CESは不安や抑うつに効果がある可能性がある。しかしながら,そのメカニズムはまだ十分に明らかにされておらず,今後メカニズムを明らかにする研究が必要であると同時に,詳細な研究デザインを検討した本邦におけるCESに関する臨床研究が必要である。【理学療法学研究としての意義】本邦におけるCESに関する報告は皆無であるため,CESの臨床介入効果を検証することは,今後の健康関連分野におけるCESの発展に寄与できる可能性が考えられる。また,本邦における電気刺激療法に関する研究は,疼痛や運動麻痺などに対する報告は多いが,心理機能に対する電気刺激療法の効果を検証した報告は少ない。よって,CESは,今後の電気刺激療法の対象の幅を広げる新しい電気刺激療法として期待できる。
  • ―症例報告―
    喜多 頼広, 中村 潤二, 岡田 洋平, 庄本 康治
    セッションID: 0790
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】脳卒中患者の合併症のひとつとして半側空間無視(unilateral spatial neglect:USN)があり,USNはADLの自立において阻害因子となることが多い。近年,USNを呈する患者に対する治療として直流前庭電気刺激(galvanic vestibular stimulation:GVS)が報告されている。GVSは両側の乳様突起に貼付した電極から直流電流によって前庭器官を刺激する方法である。現在,USNに対しGVSを実施した先行研究として,急性期脳卒中患者に対し即時的な効果が報告されている。また反復的なGVSがUSNへ与える影響を調査した報告として,2症例のケーススタディーではあるが改善が報告されている。しかし,反復的なGVSに運動療法を組み合わせた影響を調査した報告はない。そこで本研究の目的は,反復的なGVSと運動療法の組み合わせがUSNを呈する脳卒中患者に与える影響を予備的に調査することである。【方法】対象は左USNを呈した脳卒中患者2名である。症例1は右頭頂葉から後頭葉領域に多発性脳梗塞発症後8ヶ月経過した73歳女性である。症例2は右前大脳動脈領域出血性梗塞発症後4ヶ月経過した84歳女性である。GVSは両側の乳様突起に貼付した電極から刺激された。電極配置は陰極を左側,陽極を右側とした。刺激強度は対象が耐用可能な強度まで漸増し,最大強度は1.5mAとした。刺激時間は1セッションあたり20分とした。介入期間は2週間とし合計10セッション実施した。GVSは理学療法と組み合わせて実施した。評価項目は線分二等分試験,線分抹消試験,星印抹消試験とした。評価は介入前後に実施した。【倫理的配慮,説明と同意】本研究はヘルシンキ宣言に基づき,施設長および主治医の許可を得た後に,対象の安全を配慮して評価と介入を実施した。また本人に対し,本研究の趣旨を説明し同意を得てから評価と介入を実施した。さらに評価,介入毎に対象の全身状態や電極貼付部位の確認をした。【結果】2名とも10セッションを完遂した。GVS実施中に電極貼付部位に掻痒感やチクチクするような疼痛を訴えたが,火傷やめまい,嘔気などの副作用は起こらなかった。刺激強度は症例1は0.6mA,症例2は0.7mAであった。星印抹消試験において症例1は介入前の抹消数が36個であったのに対し,介入後は46個に増加した。症例2は介入前の抹消数が47個であったのに対し,介入後は54個に増加した。線分二等分試験においては症例1で介入前は平均56.7mmであったのに対し,介入後は平均39.0mmであった。症例2は11.3mmから11.6mmと変化がなかった。線分抹消試験においては症例1,2ともに介入前後とも40個と変化を示さなかった。【考察】今回,USNを呈する脳卒中患者2名に対し反復的なGVSを運動療法に組み合わせて実施し,副作用を引き起こすことなく完遂することが可能であった。結果より,2症例とも星印抹消試験において抹消数が増加しており,USNが改善したと考えられた。GVSは陰極側と反対側の大脳半球の頭頂島前庭皮質や下頭頂小葉を活動させると報告されている。2症例ともGVSによって損傷半球への刺激入力が増加したことで損傷半球の活動が高まり,USNが改善したと考えられる。一方,症例1においては線分二等分試験で改善を認めたが,症例2においてはほぼ変化がなかった。星印抹消試験は線分二等分試験と比較し,疲労や運動維持困難などの影響をうける包括的な試験であると報告されている。そのため今回,星印抹消試験において増加を認めた要因の一つに,GVSによって持続性注意および選択性注意が向上したことで星印抹消試験の改善を認めたと考えられた。今後は症例数を蓄積するとともに比較対照群を設置し,GVSがUSNに与える影響のみならずGVSが注意障害に与える影響もさらに調査する必要がある。【理学療法学研究としての意義】USNは脳卒中後の問題点のひとつであり,ADLを低下させることが多い障害であるが科学的根拠の高い治療法はなく,治療法の確立が必要であると考えられる。本研究は2症例と少数例であり比較対照群がないため研究デザイン上,限界が多いが反復的なGVSによりUSNを改善させた可能性があった。また注意障害に対し影響を与える可能性も考えられた。さらにGVSは運動療法と併用することが可能であり,副作用が少なく臨床的に簡便に使用しやすいツールのひとつであったため,臨床的有用性の高い治療法として効果が期待できる可能性があった。以上より,反復的なGVSと運動療法の組み合わせがUSNや注意障害に与える影響を検討することは理学療法研究として意義があると考える。
  • ―a single-blind, sham-controlled crossover study―
    前岡 浩, 冷水 誠, 松尾 篤, 森岡 周
    セッションID: 0791
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】痛みは「組織の実質的または潜在的な損傷と関連したあるいはこのような傷害と関連して述べられる不快な感覚的・情動体験」と定義(国際疼痛学会)され,感覚的側面,認知的側面,情動的側面から構成される。近年,痛みに対する治療手段の一つとして,選択的に大脳皮質領域を刺激する経頭蓋直流電気刺激(transcranial direct current stimulation:tDCS)が注目されている。これは非侵襲性に頭皮上に設置した電極を介して微弱な電流を適応し,膜電位の変化や大脳皮質を興奮させ,電極直下領域の脳活動を調整するという治療である。実際に,健常者や慢性痛患者に対する鎮痛効果が報告されつつある。しかしながら,これまでの先行研究は疼痛閾値や耐性閾値を指標に一時的な痛み刺激に対する即時効果や持続効果についての報告が大部分である。本来,痛みが発生するとその痛みは持続的に知覚される。さらに,物理的な痛みだけでなく,不快感や不安感などの情動も痛みに大きく影響を与える。このような持続的に加えられた痛みに対し,tDCSの効果を検証した報告は認められない。したがって今回,反復した痛み刺激に対し,tDCSが痛みの感覚的側面および情動的側面に与える影響について検証することを目的とした。【方法】対象は健常大学生7名(女性:4名,男性:3名,平均年齢:20.6±0.5歳)とした。測定手順は,はじめに温熱を使用した痛覚計(ユニークメディカル社製)により,左前腕近位内側部,左前腕遠位内側部,右前腕近位内側部における痛み閾値および痛み耐性閾値を測定した。反復刺激する部位は左前腕近位内側部とし,痛み刺激の強度は測定した痛み閾値に1℃加えた温度とした。その後,tDCS装置(NeuroConn社製)を使用し,参加者7名を陽極刺激(anode)および偽物(sham)刺激から開始する2群に無作為に割り付け,測定2日目に各条件を入れ替えて実施した。各条件間には1週間以上の間隔を設けた。tDCSの刺激部位は国際10/20法に基づき,陽極を右背外側前頭前野領域(F4),陰極を左眼窩上領域に固定し,2mAで20分間刺激した。Sham条件は,同様の電極位置で最初の30秒間のみ通電し,その後通電を停止させ20分間実施した。tDCS実施後,1回の刺激時間が6秒間,刺激回数6回を1ブロックとする反復した痛み刺激を10ブロック連続(合計60回刺激)して実施した。皮膚の感作回避のため刺激部位に近接する3ヶ所で1ブロックごとに刺激部位を移動させた。評価項目は各刺激に対する痛み強度および不快感とし,Visual Analogue Scale(VAS)にて評価した。10ブロック終了後,痛み閾値および痛み耐性閾値を再度測定した。また,tDCS実施前および反復刺激終了後に不安感の尺度であるState-Trait Anxiety Inventory(STAI)を使用し,状態不安の測定もあわせて実施した。分析のため,tDCSにおける刺激条件間での痛み閾値および痛み耐性閾値,そしてVASによる痛み強度および不快感,STAIスコアの平均値を算出した。統計学的分析には,痛み閾値および痛み耐性閾値,STAIについて反復測定二元配置分散分析を使用し,有意差が認められたものにはBonferroniによる多重比較検定を実施した。また,VASによる痛み強度および不快感の刺激条件間での比較にはt検定を使用した。統計学的有意水準は5%とした。【倫理的配慮,説明と同意】全ての被験者に本研究の目的,方法について事前に説明を行い,実験参加の同意を得た。そして,本研究は所属機関の倫理審査委員会の承認を得て実施した(承認番号H25-14)。【結果】anode条件とsham条件の比較において,痛み閾値および痛み耐性閾値,痛み強度,STAIに有意な変化は認められなかった。一方,不快感ではsham条件(58.31±11.43)と比較し,anode条件(52.98±11.99)で有意な低下(p<0.05)が認められた。【考察】反復した痛み刺激に対し,anode条件で痛みの情動的側面である不快感に有意な減少が認められた。背外側前頭前野への刺激による鎮痛メカニズムは十分解明されていないが,この領域は主に痛みの情動に関わる情報を伝える内側経路と接続し,痛みの情動的側面に関与するとされる。また背外側前頭前野は前帯状回を介し痛みの下行性疼痛抑制系とも接続する。我々もこれまでに情動喚起画像により起こる痛みに関連した不快感に対し,背外側前頭前野へのtDCSによる軽減効果を報告している。今回の結果により,反復した痛み刺激においても痛みの情動的側面へのtDCSの有効性が示唆された。【理学療法学研究としての意義】今回,健常者を対象に反復した痛み刺激に対する背外側前頭前野へのtDCSの有効性が示唆された。本研究結果は,実際の有痛者へのtDCSの応用に向けた予備的データとして有益な情報になると考える。
  • ―無作為化比較対照試験による検討―
    甲斐 太陽, 永井 宏達, 阪本 昌志, 山本 愛, 山本 ちさと, 白岩 加代子, 宮﨑 純弥
    セッションID: 0792
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】運動場面におけるアイシングを用いた寒冷療法は,これまで広く行われており,運動後の疼痛の制御や,疲労の軽減,その他急性外傷による炎症や腫脹の軽減などが目的となっている。運動後のアイシングについては,オーバーユーズによる急性炎症反応の抑制や,組織治癒の際に伴う熱,発赤などを減少させる効果が確認されている。具体例としては,投球後の投手が肩をアイシングすることがあげられる。一方で,筋力トレーニング実施後に生じる副次的作用として遅発性筋痛があるが,トレーニングした筋そのものに対してのアイシングは,その効果に関する報告が少なく,また統一した見解が得ているわけではない。アイシングによる遅発性筋痛への影響を明らかにすることは,運動療法を効率よく行う上でも重要な知見となる。本研究では,アイシングによる寒冷療法は,遅発性筋痛の軽減に関与するのかを検証することを目的とした。【方法】対象は健常若年者29名(男14名,女15名18.6±0.9歳)とした。層化ブロックランダム割り付けにより,対象者を介入群14名,対照群15名に分類した。研究デザインは無作為化比較対照試験とし,両群に対して遅発性筋痛が生じうる負荷を加えた後に,介入群にのみアイシングを施行した。対象者の非利き手側の上腕二頭筋に遅発性筋痛を生じさせるため,ダンベル(男性5kg,女性3kg)を用いた肘関節屈曲運動を動作が継続できなくなるまで実施した。運動速度は屈伸運動が4秒に1回のペースになるように行い,メトロノームを用いて統制した。運動中止の判断は,肘関節屈曲角度が90°未満なる施行が2回連続で生じた時点とした。3分間の休憩の後,再度同様の運動を実施し,この過程を3セット繰りかえした。その後,介入群には軽度肘関節屈曲位で上腕二頭筋に氷嚢を用いてアイシングを20分間実施した。対照群には,介入群と同様の姿勢で20分間安静をとるよう指示した。評価項目はMMT(Manual Muscle Test)3レベル運動時のVAS(Visual Analog Scale),および上腕二頭筋の圧痛を評価した。圧痛の評価には徒手筋力計(μ-tas)を使用した。圧痛の測定部位は肩峰と肘窩を結んだ線の遠位3分の1を基準とし,徒手筋力計を介して上腕二頭筋に検者が圧追を加え,対象者が痛みを感じた時の数値を測定,記録した。VASは介入群,対照群ともに課題前,課題直後,アイシング直後,その後一週間毎日各個人で評価した。圧痛は課題前,課題直後,アイシング直後,実験一日後,二日後,五日後,六日後,七日後に評価した。圧痛の評価は同一の検者が実施し,評価は同一時間帯に行った。実験期間中は介入群,対照群ともに筋力トレーニング等を行わず,通常通りの生活を送るよう指導した。統計解析には,VAS,圧痛に関して,群,時間を要因とした分割プロットデザイン分散解析を用いた。交互作用のみられた項目については事後検定を行った。なお,圧痛の評価は,級内相関係数(ICC)を算出し信頼性の評価を検討した。【倫理的配慮,説明と同意】本研究はヘルシンキ宣言に沿って,対象者には研究の内容,身体に関わる影響を紙面上にて説明した上,書面にて同意を得た。【結果】今回の研究では,最終評価まで脱落者はおらず,全参加者が解析対象となった。圧痛検査のICC(1,1)は0.83であり,良好な信頼性を有していた。VASに関しては,介入群において,疼痛が有意に抑制されていた(交互作用:p<0.05)。VASにおける群間の差が最も大きかったのは,トレーニング三日後であり,介入群4.8±3.1cm,対照群6.8±1.7cmであった。圧痛に関しては,有意ではないものの中程度の効果量がみられた(交互作用:p<0.088,偏η2=0.07)。圧痛における群間の差が最も大きかったのはトレーニング二日後であり,介入群76±55N,対照群39±28Nであった。【考察】本研究の結果,筋力トレーニング後にアイシングを用いることによって,その後の遅発性筋痛の抑制に影響を与えることが明らかになった。遅発性筋痛が生じる原因としては,筋原線維の配列の乱れや筋疲労によって毛細血管拡張が生じることによる細胞間隙の浮腫および炎症反応などが述べられている。一方,アイシングの効果としては血管が収縮され血流量が減少し,炎症反応を抑えることができるとされている。今回の遅発性筋痛の抑制には,アイシングにより血流量が減少され,浮腫が軽減されたことが関与している可能性が考えられた。【理学療法学研究としての意義】運動療法後のアイシングにより遅発性筋痛を抑制することができれば,その後のパフォーマンス低下の予防や,よりスムーズなリハビリテーション介入につながる可能性がある。今後,これらの関係性を明らかにしていくことで,理学療法研究としての意義がさらに高くなると考える。
  • 五十嵐 祐介, 平野 和宏, 鈴木 壽彦, 田中 真希, 石川 明菜, 姉崎 由佳, 川藤 沙文, 樋口 謙次, 中山 恭秀, 安保 雅博
    セッションID: 0793
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【目的】変形性膝関節症(以下膝OA)に対する人工膝関節全置換術(以下TKA)は整形外科領域において数多く行われており全国的に認知度の高いものとなっている。膝OAやTKA患者の歩行時間と下肢筋力の関係については先行研究により報告がされており,大腿四頭筋やハムストリングスの筋力が強いほど歩行時間が短いとされている。しかし,膝関節伸展筋力と屈曲筋力の割合を示すH/Q比(ハムストリングス/大腿四頭筋)に対する検討は少なく,歩行時間との関係においても報告が見当たらない。我々は第47回日本理学療法学術大会にて筋力が低いが歩行速度が速い群と,筋力が高いが歩行速度が遅い群のH/Q比を比較し有意差がみられたことを報告した。今回は膝OA及びTKA患者をH/Q比の値により群分けし,歩行時間との関連を検討することで歩行速度に反映する適切なH/Q比を探ることを目的とする。【方法】当大学附属4病院ではTKA患者に対し共通の機能評価表を術前,術後3週,8週,12週の各時期に使用しており,今回の検討は機能評価表のデータベースより後方視的に検討を行った。対象は2010年4月から2013年8月までに当大学附属4病院においてTKAを施行した患者で術前,術後3週,8週,12週のいずれかで評価を行った598例とした。H/Q比の算出に使用する筋力の測定はHand-Held Dynamomater(ANIMA社製μ-tas)を使用し,端座位時に膝関節屈曲60°の姿勢で膝関節伸展と屈曲が計測できる専用の測定台を作成し,ベルトにて下肢を測定台に固定した状態で伸展と屈曲を各々2回測定した。測定値は2回測定したうちの最大値を下腿長にてトルク換算し体重で除した値を使用し,得られた伸展・屈曲筋力よりH/Q比を算出した。その後,H/Q比の平均値により2群に分け,それぞれの群の平均値を使用し更に2群へと分けることで,全部で4つの群に分類した(1群・2群・3群・4群)。また,歩行時間は5mの最大歩行時間とし2回測定したうち,より時間が短い方の値を使用した。統計学的解析は4群間における歩行時間を一元配置分散分析にて検討を行った。【倫理的配慮】本研究は,当大学倫理審査委員会の承諾を得て施行した。【結果】1群では70例(平均年齢72.6±8.8歳,平均H/Q比0.97±0.3)平均歩行時間6.88±3.9秒,2群149例(平均年齢74.4±7.6歳,平均H/Q比0.56±0.07)平均歩行時間5.86±2.9秒,3群196例(平均年齢74.6±6.6歳,平均H/Q比0.39±0.04)平均歩行時間5.24±2.2秒,4群183例(平均年齢74.3±6.8歳,平均H/Q比0.23±0.05)平均歩行時間5.01±2.5秒となり,1群と3群・4群,2群と4群の間に各々有意な差が認められた(p<0.05)。【考察】各群の平均値より,H/Q比の値が小さくなるにつれて歩行時間も短くなる傾向が伺えた。つまり,H/Q比の平均値より,ハムストリングスに対し大腿四頭筋の割合が大きくなるほど歩行時間が短縮される結果となった。このことから,歩行時間に及ぼす影響がハムストリングスよりも大腿四頭筋の方が大きいということが考えられる。一方,スポーツ科学の分野では肉離れの危険因子としてH/Q比の低下があげられているが,今回TKA患者を対象にした検討においては,H/Q比が低いほど歩行速度時間が短くなるという結果となった。このことから,障害予防の観点とは異なる視点において,H/Q比は動作能力に影響を及ぼす可能性があると考える。また,1群と2群や3群と4群など隣り合う群間では歩行時間に有意差がみられなかったことより,ある程度の幅をもった数値で適切なH/Q比を抽出する必要があるということが考える。先行研究では大腿四頭筋及びハムストリングスともに最大筋力が大きいと歩行時間が短いとされており,TKA患者に対するトレーニングとして,最大筋力の増加は重要である。しかし,TKA患者における動作能力とH/Q比の関係性の検討はなされておらず,今回の結果からスポーツ科学で検討されている障害予防の観点のみでなく,TKA患者の歩行能力にもH/Q比が影響を及ぼすのではないかと考える。【理学療法学研究としての意義】今回の報告より歩行時間に対してH/Q比には適切な値が存在するのではないかと考えられる。今後,更に考察を深めることで適切なH/Q比を抽出し,一つの指標として提案していきたい。
  • 変形性膝関節症罹患前後の生活環境に対する対面聞き取り調査
    道口 康二郎, 佐久田 衛, 長谷川 隆史, 江口 友和, 柴原 奈都美, 南 太貴, 福本 圭, 野口 薫
    セッションID: 0794
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】日本における変形性膝関節症(以下膝OA)は患者数2400万人,女性に多く,その9割が一次性の膝OAとされている。一次性の変形性関節症(以下OA)の原因は,遺伝子的要因と力学的負荷の増大があげられ,危険因子も肥満,加齢など報告されているが,個々の生活環境に違いがあり原因は特定されていない。またOAは慢性に進行し経過が長いことから発生の日時の特定は困難とされており,罹患後の負担となる姿勢や動作などの報告が多い。罹患前を調査するには地域を特定したコホート研究があるが,臨床研究では難しいのが現状である。臨床では「昔頑張りすぎたから膝に負担が…」などという曖昧な患者説明をよく耳にするが,実際にどのような姿勢や動作が負担になっているのか明確ではない。そこで今回膝OAを罹患している女性患者を対象に,対象者の過去の生活環境で負担となる姿勢・動作を調査するため対面聞き取り調査を実施した。【方法】対象は調査日までに膝OAの診断を受けていた女性患者117名(平均年齢77.0±8.4)とした。対象者は認知症がなく,先天性疾患・膝関節外傷のない方とした。期間は平成23年11月から約1年間,調査施設は当院を含む6施設で実施。方法はカルテ及び対面問診により,基本情報,診断名,既往・外傷歴,スポーツ歴を収集。対面聞き取り調査問診シートにて,I.39歳までII.40歳から59歳までIII.60歳以降の3つの年齢層で,①主な仕事(歩き仕事・座り仕事・荷物運びなど5項目),②主な職場・自宅周辺の移動手段(徒歩・自動車など4項目),③主な職場・自宅及び周辺環境(階段・坂道の2項目)をチェック形式で記載(重複回答可)とした。また仕事をしている対象者の職場と無職・主婦などの自宅の移動手段,生活環境で日中の移動手段,日中の生活環境とした。なお解析は解析ソフトSTAT VIEWを用いロジスティック回帰分析で解析し,有意水準は全て5%とした。結果記載は(VS説明変数)とし,それぞれ目的変数に対するオッズ比を示し,信頼区間(95%CI)上限・下限は記載省略とした。【説明と同意】各施設の倫理委員会または病院長の承諾を得て,患者・患者家族に研究の目的・方法を十分に説明した上で協力の可否を問い,同意書にて同意を得た。【結果】I.39歳まで①仕事(VS歩き仕事)は,立ち仕事オッズ比8.582(p<0.0001)座り仕事5.256(p<0.0001)荷物運び2.596(p<0.05),②日中移動手段(VS自動車)は,徒歩12.992(p<0.0001)公共手段6.148(p<0.0001),③日中の活動環境では有意差は認められなかった。II.40歳~59歳まで①仕事(VS歩き仕事)は,立ち仕事オッズ比8.737(p<0.0001)座り仕事2.278(p<0.05),②日中移動手段(VS自動車)は,徒歩5.045(p<0.0001)公共手段3.032(p<0.001),③日中の生活環境(VS平地)は,階段3.411(p<0.0001)坂道1.967(p<0.05)。III.60歳以降①仕事(VS歩き仕事)は,立ち仕事オッズ比5.179(p<0.001),②日中移動手段(VS自動車)は,徒歩3.812(p<0.0001)公共手段3.143(p<0.001),③日中の生活環境(VS平地)は,階段6.065(p<0.0001)坂道2.562(p<0.05)。【考察】仕事内容は歩き仕事に比べ,立ち仕事・座り仕事がオッズ比は高く,移動手段は徒歩や公共手段がオッズ比は高かった。どちらも年齢層が上がるとともに低下している。運動機能障害における運動病理学的モデルでは,長い期間関節に負担となる動きを続けることが関節変形や疼痛につながるという考えがある。また軟骨変性は20代から始まり,40代で70%進むと言われており,若い時期からの座位・立位の同一姿勢での仕事や,自動車を使わず公共手段を含む徒歩中心の移動が膝関節への負担を大きくしていると考える。日中の活動環境では平地に比べ階段,坂道がオッズ比は高く,年齢層が上がるとともに高い値となっている。平地歩行に比べると階段や坂道では身体重心を上下へ移動させる距離が長く,特に膝関節周囲筋では身体を引き上げる力,身体を支える力が過剰に必要になる動きである。地域柄長崎では階段,坂道が多く,公共手段を使うまでに徒歩移動する距離が長いことも考えられる。【理学療法研究としての意義】今後は対照群との比較や性別などの比較が必要ではあるが,疾患の危険因子としてさまざまな環境や動作・姿勢を示すことで,理学療法の役割でもある環境調整や動作分析・姿勢分析の臨床的及び研究的意義が向上すると考える。
  • 膝関節屈曲角度の経時的変化に着目して
    小田 太史, 石丸 将久, 佐賀里 昭, 東 友美, 内藤 誠, 古賀 彩佳, 川嵜 真理子, 小路永 知寿, 吉田 佳弘
    セッションID: 0795
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】持続的他動運動(CPM)は,人工膝関節全置換術(TKA)の後療法として,従来,関節組織の修復と関節拘縮の予防を目的に用いられている。一方,関節可動域に関して,Grella(2008)が報告したシステマティックレビューには,TKA後の膝関節屈曲角度の改善には術後超早期より数時間から十数時間にわたるCPMの施行が必要であるとしており,有効性を示している報告の多くは長時間の施行に限局しており,短時間の施行では否定的な見解が多い。また,CPM施行期間に関しても,数日間という短期間の施行に限っており,数週間の施行に関する報告は少ない。そこで本研究では,臨床に即した2つの施行時間を設け,TKA後3週間の在院期間中に施行するCPMの効果を,関節可動域を中心に疼痛,腫脹,身体機能を測定することによって検討した。【方法】2013年2月から2013年10月までに当院で片側TKA(Zimmer社NexGen CR-flex Fixed)を施行された術前歩行が屋内自立レベル以上の患者42例(73.4±7.7歳,男性11例,女性31例)を対象とした。対象者はCPM非施行群(0分群;17例)とCPM施行群に振り分け,さらに,CPM施行群は20分×2回/日群(20分群;13例)と40分×2回/日群(40分群;12例)に振り分けられた。3群とも当院における術後3週間のTKAクリニカルパスを適用し,3群に対して術後1日目より通常の理学療法介入を行った。CPMは術後2日目より術後21日目まで継続して施行した。CPMにはZimmer社製JACE Universal CPM K100を使用し,設定角度は疼痛を誘発しないように毎回膝関節他動屈曲角度を測定して設定した。なお,設定角度の上限は120°であり,角速度は2°/秒とした。測定項目は,術側膝関節の他動屈曲・伸展角度と疼痛,腫脹,そしてTimed Up and Go test(TUG)と日本版変形性膝関節症患者機能評価表(JKOM)とした。ただし,JKOMに関しては,「膝の痛みやこわばり」(JKOM:B)と「日常生活の状態」(JKOM:C)の2項目のみ測定した。膝関節屈曲・伸展角度と疼痛の測定は術前,術後3,7,14,21日目に,腫脹とTUGの測定は術前と術後14,21日目に,JKOM:BとJKOM:Cの評価は術前と術後21日目に実施した。なお,術後21日目以前に退院した場合は,退院前日の測定値を術後21日目の測定値とした。疼痛にはvisual analog scale(VAS)を用い,腫脹は膝蓋骨直上を1mm単位で測定した。統計処理は,術前の群間の基本属性および身体機能の比較にはKruskal-Wallis検定を,群内の術前から術後に至る身体機能変化の比較にはFriedman検定とWilcoxonの順位和検定を用いた。有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮,説明と同意】対象者には事前に本研究の説明を十分に行い,同意を得た。なお,本研究は当院の倫理委員会の承認を得て行った。【結果】3群間の基本属性や術後在院日数に有意差を認めなかった。術前後の膝関節屈曲角度は0分群(術前122.4±17.3°,術後3日目85.0±13.3°,術後14日目107.6±11.8°,術後21日目111.8±11.4°),20分群(術前120.8±18.1°,術後3日目87.7±17.1°,術後14日目115.0±11.1°,術後21日目120.0±9.8°),40分群(術前115.8±10.0°,術後3日目82.1±13.1°,術後14日目110.4±11.3°,術後21日目115.4±10.3°)であった。術前は3群間に有意差を認めなかった。術後の屈曲角度を術前と比較すると,3群とも術後3日目は有意差を認めたが,術後14日目には0分群を除く20分群と40分群は有意差を認めず,術後21日目まで継続して有意差を認めなかった。0分群においては,屈曲角度の改善傾向はみられるものの,術後21日目まで継続して有意差を認めた。膝関節伸展角度と疼痛,腫脹,TUG,JKOM:B,JKOM:Cに関しては,経過とともに改善がみられ,術後21日目には3群ともに伸展角度と腫脹,TUGは有意差を認めず,疼痛とJKOM:B,JKOM:Cは有意差を認めた。【考察】本研究では,TKA後の患者に対してCPMを施行することで,術後の膝関節屈曲角度の回復を促進させる可能性を示唆している。また,疼痛や腫脹はCPM施行群と非施行群とでは変わりがないことから,膝関節の自動運動が困難な術後早期においても,炎症の増強を誘発せずに関節運動を実施することができることを意味している。これらのことは,先行研究にみられる術後超早期から長時間かつ数日間の施行のみならず,術後早期から短時間かつ数週間の施行でも有効性があることを示唆し,臨床に即した効果的な施行が可能であると思われる。今後は,さらに症例数を増やし,CPMの効果的な施行の再検討や退院後の長期的な経過からみたCPMの有効性について検討していく必要がある。【理学療法学研究としての意義】臨床において実施可能なCPMの施行時間,かつ安全にTKA後の膝関節屈曲角度の回復を促す可能性を示した本研究は,臨床に直結した十分に意義のある研究である。
  • 中﨑 亨, 岡嵜 誉, 種田 陽一, 辻村 康彦
    セッションID: 0796
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】人工膝関節置換術(TKA)後の評価項目としては,従来から身体機能の測定や質問紙による日常生活活動(ADL)の調査が中心であり,これらは術後早期から改善が得られている。しかし,院内で評価された術後成績の改善が,患者の在宅生活に反映されているかを客観的に測定した身体活動量を用いて示した報告は少ない。TKA後,患者がいかに活動的な生活を送ることが可能となったかが重要であることは明らかである。そこで本研究では,TKA後患者の身体活動量の経時的変化を明らかにするとともに,その他の術後成績の推移との対比を行い,身体活動量に影響を及ぼす因子を検討することを目的とした。【方法】対象は,2012年5月から2013年7月までに当院とK市民病院でTKAを施行された患者の内,同意が得られ,調査を完遂した23例23関節(女性:20例,男性:3例,手術時平均年齢73.2±7.4歳,BMI:26.7±4.6kg/m2,術後平均在院日数24.1±3.7日)とした。評価時期は,術前,退院後1か月,術後3か月とした。評価項目として,身体活動量の指標は一日あたりの平均歩数とした。その他の術後成績には,術側膝屈曲可動域及び膝伸展可動域,日本版変形性膝関節症患者機能評価尺度(JKOM)の下位尺度である「膝の痛みとこわばり」「日常生活の状態」「ふだんの活動など」とLife-Space assessment(LSA)を用いた。歩数の測定には生活習慣記録機ライフコーダ(スズケン社製)を使用し,2週間以上連続で装着し,装着日及び回収日を除く連続1週間の平均歩数を算出し用いた。統計学的処理は,繰り返しのない二元配置分散分析により評価時期での差がみとめられた場合はTukey-Kramer法にて多重比較検定を行った。有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮,説明と同意】ヘルシンキ宣言に則り,対象者に対して書面および口頭で説明を行い,書面での同意を得た。本研究は当院及びK市民病院における共同研究であり,両施設の臨床研究倫理委員会の承認を受け実施された。【結果】各評価項目のスコアを術前→退院後1か月→術後3か月の順に示す。身体活動量は2783±1199歩→2494±983歩→4116±1751歩であり,術後3か月で有意に改善をみとめた。術側膝屈曲可動域は122.8±18.6°→114.3±8.6°→119.1±10.0°,術側伸展可動域は-10±9.5°→-8.5±7.3°→-5.0±5.6°であった。JKOM「膝の痛みとこわばり」は17.8±6.3→8.2±4.8→4.7±4.2,JKOM「日常生活の状態」は20.0±8.8→12.4±5.5→7.2±5.1であり,それぞれ退院後1か月で有意に改善し,術後3か月でも継続して改善をみとめた。JKOM「ふだんの活動など」は,11.8±5.4→9.6±4.9→5.7±4.0であり,術後3か月で有意に改善をみとめた。LSAは71.6±26.1→66.5±18.0→82.7±21.6であり,術後3か月で有意に改善をみとめた。退院後1か月においてLSAの低下がみられた患者では身体活動量も低下する傾向をみとめた。【考察】退院後1か月では疼痛や身体機能,ADL能力は術前値を上回る改善をみとめたが,身体活動量は術前値までの改善にとどまった。TKA施行により院内における治療成績の改善が得られても,歩行や外出することに対する恐怖心や不安感から,実際の生活空間の広がりには反映されず,退院後1か月の身体活動量に影響を及ぼしている可能性が示唆された。術後3か月では,さらに疼痛や身体機能,ADL能力が改善し,気持ちに余裕が生まれることで,生活空間の広がりとともに,身体活動量の改善がみとめられたと考えられる。TKA後,身体活動量が思うように改善しない症例には,最低限の機能改善に加え,行動変容としてのアプローチが必要かもしれない。また,TKA後患者における身体活動量評価は,これまで術後成績の中心であった疼痛や身体機能,ADL能力とは異なる術後経過をたどり,より患者の在宅生活を反映した評価指標であることが示唆された。今後はさらに症例数を増やし調査を継続するとともに,患者の家族背景や家庭内での役割の有無など生活環境との関連も検討していきたいと考えている。【理学療法学研究としての意義】TKA前の患者への情報提供や,術後身体活動量を改善するための介入の一助となり得ると考えている。
  • 木下 和昭, 橋本 雅至, 中 雄太, 北西 秀行, 大八木 博貴
    セッションID: 0797
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【目的】変形性膝関節症患者(以下,膝OA)の代表的な治療法として人工膝関節全置換術(以下,TKA)がある。膝OAは膝関節の炎症や変形などを主症状とする運動連鎖機能不全の一病態に至ったものであると報告されている。そのためTKA後は膝関節のみでなく,病変の悪化につながる体幹および下肢の運動連鎖を考慮することが重要である。しかし,体幹機能評価は主観的な評価が多く,我々はその機能を客観化することを目的にTrunk Righting Test(以下,TRT)を考案し,その再現性を報告した。TRTは膝OAを対象として,膝伸展筋力や動的バランス,歩行能力との相関が認められている。そこで今回はTKA前の膝OAに対しTRTを用いて体幹機能評価を実施し,TKA後の身体機能の関連性について検討し,またTKA後の体幹機能とTKA後の身体機能との関連性についても検討した。【方法】対象は当院に入院し,TKAを施行された患者30例(年齢72.5±9.8歳,身長153.9±9.6cm,体重58.2±11.2kg)とした。測定項目はTRTと膝伸展筋力,片脚立位時間,台ステップテスト(以下,ST),Timed up and go test(以下,TUG),5回椅子立ち座りテスト(以下,SS-5),30秒椅子立ち座りテスト(以下,CS-30)とした。TRTは昇降台に端座位をとり,10cm外側に体重移動させた肢位をとらせ,ベルトで固定されたハンドヘルドダイナモメーター(以下,HHD)のセンサーパッドを肩鎖関節内側にあて,上方へ押し上げるように立ち直り動作をさせた。測定は3回実施し,平均値を体重比に換算した数値を測定値とした。膝伸展筋力は加藤ら(2001)の方法に従い,端座位から膝関節屈曲90°位での最大等尺性収縮をHHDにて測定した。測定は3回実施し,平均値を体重比に換算した数値を測定値とした。片脚立位時間は姿勢鏡の前で両肩峰が地面と平行になるように片脚立位をとらせ,最大180秒を目標に保持させた時間(秒)を測定し,3回の平均値を測定値とした。STはHillら(1996)が提唱した方法を一部改変し,静止立位をとった対象者の足部から前方に設置した20cm台の上に,最大努力で一側下肢を10秒間ステップさせた回数を測定した。測定は2回実施し,その平均値を測定値とした。TUGは椅子座位を開始肢位とし,任意のタイミングで立ち上がり3m前方のコーンで回転して開始肢位に戻るまでの歩行時間を計測した。本研究では,最大努力を課す変法(2006)を用いた。測定は3回実施し,その平均値を測定値とした。立ち座りテストは自然安静座位を開始肢位とし,最大努力で40cm台からの立ち座り動作を繰り返す課題を行った。SS-5は5回の立ち座り動作の所要時間をストップウォッチにて測定した。CS-30は30秒間にできるだけ多く,立ち座り動作を繰り返させた回数を測定した。それぞれ測定は2回実施し,その平均値を測定値とした。測定は術前(以下,pre)と退院時(以下,post)にて実施した。比較検討は,pre TRTの術側と非術側をその他の項目のpostで関連性を検討し,またpost TRTの術側と非術側とその他の項目のpostで関連性を検討した。統計学的手法はSpearmanの順位相関係数を用い,有意水準を5%未満とした。【倫理的配慮,説明と同意】ヘルシンキ宣言及び,個人情報保護法の趣旨に則り,被験者に研究の趣旨や内容,データの取り扱い方法について十分に説明し,研究への参加の同意を得た。【結果】pre TRTの術側はpost TUG(r=0.38,p<0.05)との間に有意な負の相関が認められた。post TRTの術側はpost TUG(r=0.48,p<0.01),post SS-5(r=0.46,p<0.05)との間に有意な負の相関が認められた。また,post TRTの術側はpost CS-30(r=0.51,p<0.01),post STの術側(r=0.47,p<0.05)との間に有意な正の相関が認められた。その他には有意な相関が認められなかった。【考察】今回,pre TRTの術側はpost TUGと軽度の相関が認められ,またpost TRTの術側はpostのTUGとSTの術側,SS-5,CS-30と中等度の相関が認められた。今回行った体幹機能評価は,荷重時の体幹での支持能力を評価しており,体幹の左右非対称の筋活動による体幹の協調された固定性が要求される。さらにTRTの肢位から殿部が座面を押す力は,立位などの抗重力活動の際に下肢へ伝達され,足底面で床を押す力と加重し,抗重力活動の力源になると考えられる。つまり,TRTで示めされる体幹機能は,動作時の抗重力活動が必要な場面において,より不安定になりやすい姿勢を保持するために体幹の固定性が要求され,結果,各身体機能に関連性を示すにいたったと考えられた。よってTRTにて示されるTKA前後の術側の体幹機能は,TKA後の身体機能に影響を及ぼす因子であることが示唆された。【理学療法学研究としての意義】TKA前後の体幹機能の重要性を定量的評価の中から考察できたこと。
  • 平石 大樹
    セッションID: 0798
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】全人工膝関節形成術(以下:TKA)は,歩行能力の低下した変形性膝関節症や関節リウマチの患者に対し,歩行能力の改善を主目的として行われ高齢化社会の進行と共に年々増加の傾向をたどっている。一般に,TKA後患者の歩行能力に関してはADL能力の改善,あるいはQOLの向上を目指して行く中でその形態変化が重要視されているが,術後超早期の段階では,疼痛管理の観点からも,長時間持続して積極的に歩行練習を行うことは難しい。反重力トレッドミル(以下ALTER-G)は,空気圧を利用することで,自重の80%まで1%単位の免荷を行うことが可能であり,整形外科領域における下肢障害に対するリハビリテーションや,有酸素トレーニングなどの目的で,幅広い層を対象に臨床への導入が進んでいる。当院では,TKA後超早期よりALTER-Gを導入し,積極的に歩行練習を実施している。今回,その使用効果に関する調査内容を報告する。【方法】2011年9月以前に当院でTKAを施行した80例80膝(男性11例,女性69例,平均年齢74.3歳±6.7,Alter-G未使用群:以下P群)と,2011年9月以降に当院でTKAを施行した100例100膝(男性21例,女性79例,平均年齢74.1歳±7.4,Alter-G導入群:以下A群)を対象とした。退院時における術側の膝関節屈曲および伸展可動域,疼痛(安静時,歩行時),10m歩行時間,加えて杖歩行自立レベル獲得日数について,それぞれ両群間で比較検討した。なお,各因子の比較検討として,対応のないt-検定を用い統計解析した。【倫理的配慮,説明と同意】ヘルシンキ宣言に基づき,全ての症例に対して測定前に今回の研究の意義を説明し同意を得た。【結果】在院日数は,P群:平均15.9日±2.3,A群:平均16.0日±2.8であった。退院時の屈曲可動域はP群:平均124.0°±2.5,A群:平均123.7°±3.0,伸展可動域はP群:平均-1.1°±1.8,A群:平均-1.0°±1.7となり共に有意差を認めなかった。退院時の疼痛に関して,安静時痛はP群:平均12.8mm±12.4,A群:平均9.65.mm±11.5,歩行時痛はP群:平均20.2mm±13.7,A群:平均16.4mm±14.2となり共にA群が有意に低値であった(p<0.05)。10m歩行時間はP群:平均12.3sec±2.9,A群:平均10.8sec±3.1となりA群が有意に速かった(p<0.05)。杖歩行自立獲得日数に関しては,P群:5.2日±2.3,A群:4.8日±2.4で両群間に有意差は認められなかった。【考察】当院ではTKA後翌日からALTER-Gを用いて積極的に歩行練習を実施しており,今回その有用性について調査した。結果から,ALTER-Gを用いることで,荷重時の床反力を減少させ,荷重時痛をコントロールすることが可能であったと考える。また前述より,TKA後超早期の症例においても,骨盤以下の各関節運動を円滑に行うことが可能となり,その構造から両上肢の運動が自由に行えるため,より至適歩行に近い状態で歩行動作が可能となる。また,荷重時痛をコントロールすることで,術後超早期より持続的歩行練習が可能となり,より深部静脈血栓症の予防効果を期待し,加えて歩行訓練に対する症例の満足度や歩行能力の向上,及びリハビリテーションに対するモチベーションの向上につながり得ると考える。さらに,ALTER-Gはその構造から,転倒リスクの高いTKA後超早期でも安全に歩行訓練を実施できるため,歩行に対する心理的因子にも影響を及ぼすことが考えられる。今後の展望として,症例数の増加及び長期臨床結果について調査を進めていきたい。さらにEBMの観点から,ALTER-Gの有用性を示すべく様々な視点から研究を重ね,報告しようと考える。【理学療法学研究としての意義】TKA後超早期の症例に対するALTER-Gの使用効果について検討した。調査結果より,TKA後超早期からALTER-Gを導入し積極的に歩行練習を進めていくことは,安全かつ効果的に術後理学療法を進めて行く一手段として有効である可能性を示した。
  • 秋山 茂雄, 相川 律子, 井上 左央里, 佐藤 妙子, 粕谷 博幸, 奥秋 拓未, 小杉 雅英, 宮本 哲, 中川 雅之, 濱畑 智弘, ...
    セッションID: 0799
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】当院では人工股関節全置換術(以下,THA)に対し後側方侵入法を行っており屈曲・内転・内旋位にて脱臼のリスクを伴う。靴下着脱動作方法は長座位,正座位,立位など一般的に臨床で用いられている方法がいくつかある。しかし,脱臼肢位を取り易かったり,片側上肢のみでの動作であったり,習得が困難かつ脱臼に対する十分な注意が必要である。当院では患者の習得を考慮し,簡便な方法である座位での屈曲・外転・外旋位での開排位を取るように指導している。しかし,先行研究において他の方法に比較し,獲得に必要とされる股関節可動域(以下,ROM)が求められ,動作の獲得に難渋し,自助具を使用する例を多く見かける。今回,退院時においてTHA患者の開排位での靴下着脱動作獲得における股関節ROM,年齢,BMIを調査し,自助具使用の有無となる指標を示すこととした。【方法】対象は2011年1月~2013年8月の期間に当院にてTHAを施行し,クリニカルパスを使用し,アウトカム(手術後4週,屋外歩行自立)を達成した97例(年齢68.6±9.1歳,手術後退院日数28.3±3.9日)とした。退院時において靴下着脱における自助具使用の有無により自助具不要群(以下,A群)56例,自助具使用群(以下,B群)41例に分類し,年齢,BMI,手術前および退院時の手術側股関節の屈曲・外転・外旋のROM(°)を調査した。A群とB群の股関節ROMの比較をF検定で等分散を確認した後,対応のないt検定を用いた。有位水準は危険率5%未満とした。【倫理的配慮,説明と同意】患者への説明と同意を得た上で測定を行い,倫理的配慮として当院の倫理委員会の指針に基づき行った。【結果】A群,B群それぞれ年齢66.6±9.5,71.4±7.7。BMI23.1±3.7,24.6±3.8。各群の股関節可動域はそれぞれ,手術前の屈曲87.7±16.6,80.2±22.5,外転22.7±8.8,17.0±8.8,外旋27.5±14.5,21.8±13.2。退院時の屈曲93.6±8.8,89.9±11.4,外転28.2±8.6,24.2±7.4,外旋32.6±11.5,28.6±10.1。すべての項目において有意差が認められた(p=0.001~0.04)。【考察】当院におけるTHA患者において手術前の年齢66.6歳,BMI23.1,股関節屈曲・外転・外旋ROMがそれぞれ87.7,22.7,27.5であり,退院時の股関節屈曲・外転・外旋ROMが93.6,28.2,32.6であれば靴下着脱可能な指標が示された。先行研究において同様の方法における靴下着脱動作獲得のROMは屈曲では三戸らが94.4,南角らが92.5,二木らは91.0と同等の数値も,外転,外旋ROMはそれぞれ宮城らが27.1・28.2,二木らが17.9・28.8と低値であった。年齢による有意差がみられたが木下らは年齢の影響に関しては加齢または長期の疾病期間に伴う関節可動域の低下あるいは着脱時の筋力的な要因と述べている。BMIにも有意差がみられたが宮城らは腹部と大腿部の軟部組織量などの身体的要因が与える影響は大きいと述べている。また,中島らは胸椎屈曲角での相関を認めたとしており,三戸らは十分な膝関節屈曲ROMが必要であるとしている。靴下着脱動作は指先を下肢遠位に到達させる上肢・体幹・下肢の全身の複合動作である。今後は腹囲・大腿周囲,股関節・体幹筋力,体幹・膝関節ROMなど股関節ROM以外の因子の関連性を調査し,より積極的な理学療法により今回示された靴下着脱動作の獲得ROMの指標を低値にできるように努めていきたい。【理学療法学研究としての意義】THA患者が退院時において最も自立を望む動作の一つである靴下着脱動作獲得の指標を示すことができた。
  • 骨盤の動きと股関節周囲筋活動に着目して
    本間 大介, 地神 裕史, 佐藤 成登志
    セッションID: 0800
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】変形性股関節症(以下,変股症)は,骨盤の下制や,体幹の側屈を伴う特徴的な歩容を呈する。それらの歩容に対し,2本のポールを用いるノルディックウォーキング(以下,NW)の1つである,日本式(以下,JS)を行うことにより,歩行時の体幹側屈を軽減させることが報告されている。ポールを斜め後方に使用する従来のヨーロッパ式(以下,ES)とは異なり,JSはポールを垂直に使用する歩行様式であり,より安全に行うことを目的とし提唱されたものである。先行研究では,変股症患者に対する体幹側屈の軽減が報告されているが,脊柱と骨盤は連結していることから,骨盤の動きに対しても影響を与えることが考えられる。また,運動学的な変化は筋活動にも影響を与えることが考えられるが,それらは明らかではない。そこで,本研究は変股症患者を対象とし,NWが骨盤の動きと股関節周囲筋活動に与える影響を明らかにすることを目的とした。【方法】対象は,変股症患者10名(53.3±10.4歳)とした。使用機器は筋電図計測装置一式,荷重量測定器内蔵ポール,三軸角加速度計とした。課題動作は通常歩行(以下,OW),JS,ESとし,2回ずつランダムに実施した。課題動作は,測定前に全日本ノルディックウォーク連盟が推奨している方法に準じ,指導を行った。また,荷重量測定器内臓ポールを用いてポールに加わる荷重量(自重の10%)と,ポール長(身長×0.64-0.67)を規定した。筋電図計測装置と三軸ジャイロセンサーは,サンプリング周波数を1KHzとし,同時に計測を開始した。解析区間は,z軸の加速度波形から,立脚期と遊脚期を同定した。骨盤の動きは立脚期とし,筋活動は立脚期,遊脚期をそれぞれ解析区間とした。骨盤の動きの指標として,前後傾角度,回旋角度,傾斜角度を算出した。また,筋活動に関して,腹直筋,腰部脊柱起立筋,大腿直筋,大殿筋,中殿筋,大腿筋膜張筋を被験筋とした。骨盤の動きは,両側の後上腸骨棘を結んだ中点に三軸ジャイロセンサーを貼付し,解析区間内の最大値と最小値の絶対値の和を算出した。筋活動は帯域通過遮断フィルターを20-500Hzとし,全波整流を処した。各解析区間の筋活動量を,各筋の最大随意等尺性収縮で除し,遊脚期,立脚期の筋活動量として,%IEMGを算出した。OW,JS,ESにおける骨盤の動きと筋活動に関して,反復測定一元配置分散分析を行い,事後検定としてTukey-Kramer法を用い統計学的に検討した。なお,有意水準は5%とした。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は当施設の倫理委員会の承認を得た上で,全対象者には,口頭と書面にて本研究の趣旨を説明し,署名にて同意を得た。【結果】骨盤の動きに関して,骨盤回旋角度はJSで14.6±6.8°,ESで17.5±6.7°となり,JSと比較しESで有意に大きな値となった。骨盤の傾斜角度,前後傾角度に関しては有意な差は認められなかった。立脚期の筋活動に関して,大殿筋はOWで47.0±18.58%,JSで33.8±12.8%,ESで43.4±17.3%となり,OW,ESと比較しJSで有意に活動が減少した。中殿筋はOWで55.0±25.1%,JSで41.3±22.0%,ESで45.0±17.3%となり,OWと比較し,JS,ESで有意に活動が減少した。大腿筋膜張筋は,OWで40.5±28.1%,JSで31.0±25.7%となり,OWと比較しJSで有意に活動が減少した。遊脚期の筋活動に関して,腹直筋はOWで15.9±9.7%,JSで19.7±9.6%,ESで19.3±9.2%となり,OWと比較しJS,ESで有意に活動が増加した。脊柱起立筋はOWで,38.1±20.5%,JSで32.0±17.8%となり,OWと比較し,JSで有意に活動が減少した。なお,すべての結果において,有意水準はp<0.05であった。【考察】JSはOWと比較し,立脚期にすべての股関節外転筋群の活動が減少した。この結果は,ポールを垂直に使用することにより,股関節モーメントに変化が生じた為と考えた。また,JSは腹直筋の活動が有意に増加していた。腹直筋の活動は,腹圧を上昇させ,骨盤や脊柱の安定に寄与することから,OWと比較し安定した歩行となったことが考えられた。変股症患者は,股関節外転筋群の過剰な活動により,疼痛が生じ,逃避性の跛行を行うことが報告されており,跛行の運動学習が歩容の改善を妨げる要因の一つとなる。また,骨盤前傾位をとることが多く,腰背部痛の訴えも多い。よって,本研究の結果から,JSは股関節外転筋群や,腰背部筋の過剰な活動を軽減することが考えられ,良い歩容を獲得する手段となることが示唆された。【理学療法学研究としての意義】本研究により,JSは股関節外転筋群や腰背部筋の過剰な活動を軽減させることが明らかとなり,変股症患者に対し,有効な運動手段の一つとなる可能性が示唆された。このことから,意義のある研究であると考える。
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