DDS耐性患者の問題が重大化し,DDS耐性菌をマウス足蹠法で検索せねばならないという声が高まっているが,われわれは,薬物耐性といっても,DDS耐性の場合は,DDSの免疫抑制作用とその長期使用によってDDSがらい症状の進行に伴い生じる免疫不全を加速する結果,薬物治効の現われにくい状態に立至らせるのではないかと考えて,実験動物を用いDDS, B663の宿主免疫への影響を調べたところ,次の知見を得た。なお体液性免疫への影響は改良カニンガム法(橋本ら)で,細胞性免疫への影響は遅延型過敏症検査とモルモットリンパ球を用いた兎赤血球とのロゼット形成法(横室ら)により調べた。
1. DDSは体液性免疫には影響を示さなかったが,羊赤血球によるマウス足蹠腫脹を弱く抑制し,T細胞ロゼット%を正常モルモットで明瞭に,胸腺摘出後2ヵ月経過したモルモットでは著明に低下させた。これらからDDSの細胞性免疫への低下作用はGheiらの人での所見同様明瞭になった。
2. B663は体液性免疫を弱く抑制する一方,DDSを投与後胸腺を摘出1ヵ月以内のモルモットにおいて著明にT細胞ロゼット%を増大させ,胸腺摘出前の無処置モルモットのレベル迄回復した。しかもB663を投与後胸腺を摘出した際,体内に残留する持続性のB663が人為的免疫不全化に抵抗する故か,摘出による細胞性免疫低下が余り見られなかった。しかしこのモルモットに更にB663を投与すると一層なおT細胞ロゼット%が増大した。この新知見は,なぜB663がENLに奏効するかの点と,将来の治療法改善に役立つのではあるまいかと考える。
3. 基準物質として用いたレバミゾールは体液性免疫と細胞性免疫の双方を明瞭に亢進したが,B663のように超持続性でないので体内貯留に関しては少量の故か,胸腺摘出による人為的免疫不全化への抵抗作用はB663より弱い傾向が見られた。
4. モルモットリンパ球上の対兎赤血球受容体に薬物が結合するとT細胞ロゼット%は低下する。そこで予めDDS, B663を管内でモルモットリンパ球と接触後兎赤血球とロゼットを形成させたところ,DDSには影響が見られず,B663は僅かにT細胞ロゼット%を低下させた。それ故DDSとB663のモルモット免疫への影響は薬物のモルモットリンパ球上受容体との反応により影響されているとは考えられないし,B663の細胞性免疫亢進作用は,少なくとも結果以上のものと推定された。
5. モルモットリンパ球と兎赤血球とのロゼット形成法は,当該受容体への被検物質の影響により形成%低下が起る例でもなお多数試料を迅速に検査できる好便な細胞性免疫検査法と考えられるし,今回の実験で胸腺摘出後1カ月は免疫賦活物質の,摘出2カ月以後は免疫抑制物質の検査に適することも判明したので,今後は胸腺摘出モルモットを用いロゼット法を多用して行きたい。
6. これら結果に基づき,DDS耐性患者の問題や,らいでの抑制性T細胞の意義,その賦活などが討論され,特に一般的免疫賦活療法と免疫賦活性消炎療法の区別につき論じられた。
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