日本造血細胞移植学会雑誌
Online ISSN : 2186-5612
ISSN-L : 2186-5612
4 巻, 4 号
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総説
  • 森 有紀
    2015 年 4 巻 4 号 p. 91-100
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/10/15
    ジャーナル フリー
     侵襲性真菌症は,CT検査や血清学的検査などの診断技術が向上し,効果が高く毒性が少ない新規抗真菌薬が導入された今日でも,依然として造血幹細胞移植後の重要な合併症の1つである。真菌の疫学の変化や薬剤耐性の獲得など病原側の要因はあるものの,移植治療の著しい進歩に伴い多様化しかつ複雑化した宿主側の要因も極めて大きいと考えられる。従って,移植からの各時期における宿主の免疫状態と患者を取り巻く環境要因とを経時的に把握し,その時々の宿主のリスクを詳細に評価した上で,予防・治療にあたる必要がある。抗真菌薬の選択にあたっては,標的とすべき具体的な真菌種を想起する,或いは各種診断手法を駆使して極力真菌種を同定するなどの努力を行いつつ,各薬剤の特性を十分に理解して,有効性と毒性のバランスをとることが重要である。
  • 森 毅彦, 櫻井 政寿
    2015 年 4 巻 4 号 p. 101-107
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/10/15
    ジャーナル フリー
     侵襲性真菌感染症(IFD)は同種造血細胞移植(allo-HSCT)後の生命を脅かす感染性合併症の一つであり,主要な起因菌はカンジダとアスペルギルスである。カンジダ症は主に好中球減少および粘膜障害のみられる移植後早期にみられ,一方でアスペルギルス症は移植後早期に加え,それ以降の時期にもみられる。防護環境は効果的にアスペルギルス症を予防出来るため,移植後早期ではHEPAフィルターを用いた無菌的空調管理(防護環境)での治療が推奨され,その場合はカンジダ症に予防の主眼を置く。急性・慢性GVHDの発症およびそれに対するステロイド投与がIFDのリスクを高める生着以降ではアスペルギルス症を念頭に予防を行う。これまで複数の抗真菌薬のallo-HSCT後の予防効果およびその安全性を評価する試験が行われ,エビデンスが蓄積されてきた。本総説では個々の抗真菌薬の予防試験の結果を要約し,本邦におけるallo-HSCT後のIFD予防の現状と問題点について言及する。
研究報告
  • 横山 泰久, 栗田 尚樹, 関 正則, 伊藤 由布, 武藤 秀治, 鈴木 幸恵, 加藤 貴康, 長谷川 雄一, 千葉 滋
    2015 年 4 巻 4 号 p. 108-114
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/10/15
    ジャーナル フリー
     Hematopoietic cell transplantation-specific comorbidity index(HCT-CI)では,呼吸機能障害の判定に一酸化炭素肺拡散能(DLCO)が用いられる。当院の移植患者について,DLCOのHb補正法の違いがHCT-CIに与える影響を後方視的に解析した。Cotes法による補正ではDinakara法よりもDLCOが有意に低値となった。その結果,Cotes法では75.3%において呼吸機能障害があると判定されたのに対し,Dinakara法では77.4%において障害がないと判定された。HCT-CIでは,63.4%でCotes法の方がDinakara法よりもリスクを高く評価された。HCT-CIは臨床試験やデータベースにも用いられている指標であり,Hb補正法を統一しなければ,試験間の比較は困難となり,データベースの信頼性も損なわれる。
症例報告
  • 糸永 英弘, 田口 正剛, 谷口 広明, 佐藤 信也, 跡上 直, 森内 幸美
    2015 年 4 巻 4 号 p. 115-119
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/10/15
    ジャーナル フリー
     症例は50歳の男性。HLA一致の姉より同種末梢血幹細胞移植を受けた100ヶ月後に急性リンパ性白血病を発症した。染色体検査では46, XX(ドナー型)であり,ドナー細胞由来急性リンパ性白血病(DC-ALL)と診断した。化学療法では非寛解であり,同年12月(50歳)に骨髄破壊的前処置を用いて,臍帯血移植(ドナー:女性,HLA血清型:4/6座一致)を施行した。移植後day 34のキメリズム解析で臍帯血ドナー由来血球の回復を認め,DC-ALLは寛解となった。移植後に血液透析を必要とする腎不全の悪化を呈し,day 362に急性循環不全により死亡したが,DC-ALLは寛解を維持していた。本症例は,DC-ALLに臍帯血移植が治療選択肢となることを示唆している。しかしながら,ドナー細胞由来白血病の症例では2回の移植療法による致死的な合併症をきたしやすく,特に慎重な管理が求められる。
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