裁判員制度の実施により、無作為に選出された一般市民も、有罪・無罪判断、量刑判断を行うことになる。裁判では日常的に見聞きすることのない法律用語や概念が多数存在する。そのような用語や概念は、例え説明を行ったとしても、裁判員にとって認知負荷となり、公判内容の理解や判断傾向に影響するかもしれない。本研究では、一般市民に馴染みのない法律用語として「未必の故意」を取り上げ、この概念の認識を強化することが、(未必の故意が問題となる)裁判ビデオの内容の理解や有罪・無罪の判断傾向にどのような影響を及ぼすか、また、その影響は司法修習生と大学生の場合で異なるのかどうかを検討した。司法修習生は正確な法律の知識を有し、将来法の実務家となるべく訓練を受けていることから、公判内容の理解や有罪・無罪の判断においては、大学生と異なる傾向を示すと思われる。実験の結果、未必の故意の認識を強化した場合、大学生ではこの概念に対する理解度は高まった。しかし、未必の故意の正確な意味把握、裁判のなかで何が未必の故意に当たるかの判断、有罪無罪判断には影響がなく、公判内容の主観的な理解度はむしろ低くなった。司法修習生では、未必の故意の認識を強化するか否かによらず、この概念に対する理解度や正確な意味把握は高かった。また、理解や判断には影響はなかった。大学生と司法修習生の判断傾向の違い、考えられる要因について考察する。
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