日本周産期・新生児医学会雑誌
Online ISSN : 2435-4996
Print ISSN : 1348-964X
56 巻, 2 号
日本周産期・新生児医学会雑誌
選択された号の論文の27件中1~27を表示しています
レビュー
  • 河野 由美
    2020 年 56 巻 2 号 p. 203-212
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/09/10
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     NRNJデータベースに登録された2003〜2015年出生の極低出生体重児55,444名の予後を総括した.3歳までの死亡は全体で8.1%(NICU死亡7.5%,退院後死亡0.6%),超低出生体重児は13.9%(13.2%,0.7%)であった.3歳時評価例中,脳性麻痺6.8%,両側/片側失明2.1%,補聴器使用1.0%,新版K式発達検査DQ < 70または主治医判定の発達遅滞を16.9%に認め,いずれかを合併する神経学的障害(NDI)を19.3%に認めた.超低出生体重児のみでは,脳性麻痺9.2%,失明3.6%,補聴器使用1.6%,発達遅滞24.4%,NDI 27.8%であった.全対象における死亡またはNDIの割合は16.1%,超低出生体重児では25.6%であった.在胎22〜24週の2008〜2012年出生児を2003〜2007年出生児と比較すると,死亡,死亡または脳性麻痺,死亡または視覚障害,死亡または聴覚障害はすべての週数で減少した.死亡または発達遅滞は23週では減少したが22,24週は有意な変化を認めなかった.児の長期予後の改善は周産期医療の指標となり,産科と新生児科・小児科が連携した調査研究の継続が重要である.

原著
  • 加藤 雄一郎, 溝口 冬馬, 谷垣 佳子, 柴田 万祐子, 平工 由香, 豊木 廣
    2020 年 56 巻 2 号 p. 213-217
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/09/10
    ジャーナル フリー

     当院では帝王切開術における子宮筋層縫合に有棘縫合糸を用いており,その使用経験について報告する.従来の縫合方法は,全てバイクリル® 0号を使用し,筋層1層目を単結節縫合,2層目をLembert連続縫合としてい た.STRATAFIX︎® Spiral PDSプラス®(以下STRATAFIX spiral)を用いた縫合は,筋層1層目をSTRATAFIX spiral 0号にて連続縫合し,2層目は従来と同様にバイクリル® 0号で縫合した.単結節縫合群36例とSTRATAFIX spiral群40例とを,初回帝王切開と反復帝王切開に分けて比較した.患者背景に差はなかった.出血量,止血回数には差がなかった.STRATAFIX spiral群において初回帝王切開例における手術時間の短縮と,初回及び反復帝王切開のいずれにおいても1カ月健診時に有意に筋層が厚かった.

  • 川上 浩介, 吉里 俊幸, 大蔵 尚文
    2020 年 56 巻 2 号 p. 218-223
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/09/10
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     【目的】妊娠時におけるプロバイオティクス(PRO)経口投与と産後1カ月のエジンバラ産後うつ病自己評価(EPDS)との関連を後方視的に検討した.【方法】2017年3月から2018年12月に精神疾患合併妊婦,特定妊婦を除く916名を対象に産後1カ月時EPDSを実施した.EPDS陽性は,合計点≧9点あるいは質問事項10番≧1点の場合と定義した.妊娠中CBM588を消化器症状に対し2週間以上投与し,かつ投与開始後消化器症状が改善した78例をPRO投与ありと定義した.PRO投与とEPDS陽性,高齢妊娠,母体肥満,妊娠糖尿病,37週未満の早産の関連につき多変量ロジスティック解析を用いて検討した.有意水準はP<0.05とした.【結果】PRO投与はEPDS陽性,高齢妊娠,早産との関連を認めた.【考察】PRO投与は,産後の抑うつ状態の改善に関与する可能性が示唆された.

  • 望月 響子, 臼井 秀仁, 篠原 彰太, 都築 行広, 河北 一誠, 藤井 俊輔, 北河 徳彦, 新開 真人
    2020 年 56 巻 2 号 p. 224-230
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/09/10
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     新生児・乳児に対する噴門形成術の安全性,有効性について検討する.2001年〜2019年,生後半年までに当院で胃食道逆流症(GERD)に対し噴門形成術を行った50例を後方視的に検討した.手術時月齢中央値は3.5カ月,体重中央値は3.9kgであった.基礎疾患は,食道閉鎖19例,脳性麻痺・染色体異常・多発奇形19例,食道裂孔ヘルニア7例,横隔膜ヘルニア3例,喉頭気管食道裂2例であった.術式は開腹手術18例,腹腔鏡手術32例で,Nissen法が44例,その他6例で,全例術後にGERDは消失した.術中合併症は軽度の臓器損傷9例で,12例に術後新たに呼吸管理を要したが数日以内に離脱できた.術後合併症は再発7例,胃蠕動不良4例,ダンピング症候群7例で,再発例の基礎疾患はいずれも食道疾患であった.噴門形成は新生児・乳児に比較的安全に施行でき治療効果を認めた.

  • 石田 敦士, 柘植 智史, 谷口 弘晃, 荒川 武
    2020 年 56 巻 2 号 p. 231-235
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/09/10
    ジャーナル フリー

     当院では従来,新生児搬送専用救急車を保有し医師同乗での出迎え搬送を行ってきたが,救急車の運用継続が困難となり新生児搬送体制を以下のごとく変更した.関係する自治体にそれぞれ搬送用保育器を配備した上で,産科施設からの情報に基づき児の重症度を判断し,重症例は全例で当科医師が同乗し往復自治体消防救急車(往路:多治見市消防救急車,復路:産科所在地消防救急車)により搬送する.非重症例では,平日日中はタクシーで当科医師が依頼元へ赴き産科所在地の消防救急車により搬送し,夜間・休日では当科医師は赴かず産科スタッフにより消防救急車で当院へ搬送する.運用変更後,搬送所要時間の明らかな増加や重症度誤認,産科スタッフによる搬送中の急変はなく,むしろ産科による搬送では依頼から入院までの時間が短縮した.地域の特性も考慮すべきではあるが,本運用は新生児専用救急車を持たない施設の新生児搬送の一案となる可能性がある.

  • 吉田 瑞穂, 塚原 紗耶, 熊澤 一真, 萬 もえ, 大岡 尚実, 沖本 直輝, 立石 洋子, 中村 和恵, 中村 信, 影山 操, 多田 ...
    2020 年 56 巻 2 号 p. 236-241
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/09/10
    ジャーナル フリー

     目的:妊娠36週の時点で無症候性の単胎前置胎盤を妊娠38週に帝王切開術(帝切)を予定する管理方針の妥当性を検証すること.方法:2006年1月から2017年12月に当科で分娩となった癒着胎盤を除く単胎の前置胎盤94例のうち,妊娠36週の時点で無症候性の症例を対象に母児の有害事象を評価した.この群はベッドレストのみで管理し,妊娠38週以降に帝切を予定した.母体の有害事象は緊急帝切の実施,分娩時出血量の増加などとし,児の有害事象は主に新生児集中治療室への入院とした.結果:無症候群は27例でそのうち25例(93%)が妊娠38週以降で分娩となり,緊急帝切は2例(7%),分娩時出血量は1,447g±652gで,これまでの報告と比較して良好だった.この27例中新生児科入院例は2例(7%)だった.結語:無症候性前置胎盤症例では,児の短期予後を悪化させることなく,妊娠38週での予定帝切を安全に施行できる可能性が示された.

  • 小林 玲, 沼田 修, 添野 愛基, 下妻 大毅
    2020 年 56 巻 2 号 p. 242-253
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/09/10
    ジャーナル フリー

     組織学的絨毛膜羊膜炎(hCAM)が短期予後に与える影響について,極低出生体重児17,806名を検討した.hCAMの有無で2群に分類し,その後在胎週数のグループ毎に分けて短期予後を比較した.またBlanc分類のStage毎に4群に分けて短期予後を比較した.在胎22〜30週ではhCAM群は呼吸窮迫症候群(RDS)の調整オッズ比(aOR)は低く,慢性肺疾患(CLD),在宅酸素療法(HOT)のaORは高かった.在胎22〜27週ではhCAM群は死亡退院のaORは低く,在胎28〜30週では脳室周囲白質軟化症,敗血症のaORは高かった.またBlanc分類のStage 3はRDS,動脈管開存症(PDA)のaORが低く,CLD,HOTのaORが高かった.しかし,Stage 1はPDA,脳室内出血,未熟児網膜症治療のaORが高かった.hCAMの影響を考える際には児の在胎週数やStageも考慮する必要がある.

  • 鈴木 あすか, 八木 洋也, 蒲田 郁, 木村 友沢, 渡辺 麻紀子, 細川 義彦, 飯場 萌絵, 阿部 春奈, 大原 玲奈, 小畠 真奈, ...
    2020 年 56 巻 2 号 p. 254-260
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/09/10
    ジャーナル フリー

     わが国の産婦人科以外の診療科学会が作成している診療ガイドライン(GL)における妊娠に関連する記述についての産婦人科医の認知率,活用率とその問題点を明らかにするため,全国の日本産科婦人科学会専攻医指導病院599施設にアンケート調査を行い,316施設より回答を得た.他科診療GLの妊娠に関連する記述の認知は低く活用率も低かった.総合周産期センターでの活用率が高く卒後年数が31年以上の医師での活用率は低い傾向にあった.他科の妊娠に関連する診療GLの作成に関して,産婦人科医が作成に参加すべきとの意見が95%に上った.他科診療GLにおける妊娠に関連する記述の認知は全体的に低く,あまり活用されていない実態が明らかになった.GL間で齟齬がないよう作成時の産婦人科医の介入が望まれている.またGLの作成に産婦人科医が加わることや,医師の世代交代により認知率は上昇すると推察される.

  • 糸井 麻希子, 谷口 英俊, 川野 由子, 北村 直行, 河井 昌彦, 北島 博之, 我部山 キヨ子
    2020 年 56 巻 2 号 p. 261-269
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/09/10
    ジャーナル フリー

     NICU入院児の両親は不安やストレスをしばしば経験する.今回,我々は生後1週間から1カ月における不安・愛着,両親が希望する支援と父母間の違いを検証した.各施設の倫理委員会の承認のもと,3施設のNICUに入院する児の両親55組に無記名自記式質問紙調査を行い12組を解析対象とした.質問紙は属性・愛着得点・不安得点・両親が希望する支援についての質問で構成した.生後1週間から1カ月にかけて両親の愛着得点に変化はなく不安得点は低下した.不安得点と児の在胎週数・出生体重に負の相関があり,生後1カ月で母親は父親よりも処置の見守りを希望する傾向がみられた.NICU入院児の両親は,児の生後1カ月にかけて不安は軽減していたが愛着形成は促進されなかった.特に父親は生後1週間から1カ月にかけて母親よりも愛着が低いため,医療者は児と父母の特性を考慮し生後からの日数をもとに愛着形成を促す関わりが求められる.

症例報告
  • 髙橋 志保, 木原 裕貴, 岩瀧 真一郎, 福原 里恵
    2020 年 56 巻 2 号 p. 270-275
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/09/10
    ジャーナル フリー

     先天性高インスリン血症(Congenital hyperinsulinism;CHI)は先天性のインスリン分泌過多による持続性低血糖をきたす疾患である.門脈体循環短絡(Congenital portosystemic shunt;CPSS)は血管奇形の一種で,門脈血が肝臓を迂回して直接体循環に流入することが病態の主因となる.CHIにCPSSを合併し,総胆汁酸,アンモニアを長期にフォローしその自然閉鎖を確認した2例を経験した.CPSSは部位により自然閉鎖せず,症状を有する可能性があり,胆汁酸,アンモニア高値を認めるCHIは,CPSSの存在を検索すべきである.

  • 石井 宏樹, 奈良 昇乃助, 菅波 佑介, 春原 大介
    2020 年 56 巻 2 号 p. 276-281
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/09/10
    ジャーナル フリー

     新生児期に認める発作性上室頻拍(PSVT)の原因の大半はWolff-Parkinson-White(WPW)症候群による房室回帰頻拍(AVRT)で,持続する場合は心不全となる可能性がある.早産児におけるWPW症候群からのPSVT発症症例の報告は少なく,その治療経過と治療経験を報告する.症例は在胎32週0日,出生体重1,580gの女児,日齢6に突然260/分の頻脈を認め,顔面浸水による迷走神経刺激で洞調律に戻った.心電図上のshort RP所見とデルタ波より顕性WPW症候群によるAVRTと早期より診断できた.頻拍発作が反復するため,flecainideを2mg/kg/日より開始し,4mg/kg/日まで増量し頻拍発作が消失,有害な副作用は認めなかった.在胎32週は脳室周囲白質軟化症(PVL)の発症に注意する必要があり,正期産より速やかな頻拍発作への対応が必要である可能性がある.

  • 京本 萌, 安田 立子, 小川 紋奈, 村越 誉, 吉田 茂樹
    2020 年 56 巻 2 号 p. 282-289
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/09/10
    ジャーナル フリー

     悪性腫瘍合併妊娠では,母体予後と胎児への影響の両面を考慮する必要がある.今回我々は,妊娠中に卵巣癌と診断した2症例を経験した.1症例目は37歳,妊娠5週に低異型度漿液性癌と診断された.妊娠8週で妊孕性温存手術を行い,進行期IC2期と診断された.妊娠41週で経腟分娩となり,その後,6年間再発なく経過している.2症例目は33歳,妊娠13週に卵巣粘液性癌進行期IC2期grade2と診断された.妊娠16週,19週,22週でpaclitaxel,carboplatin併用療法(TC療法)を3コース施行した後,妊娠37週で帝王切開と同時にstaging laparotomyを行った.術後化学療法としてTC療法3コースを追加し,その後2年間再発なく経過している.いずれの症例も妊娠経過に異常はなく,両児とも短期予後は良好であった.妊娠中に発見されたIC期上皮性卵巣癌の報告は少ないため,文献的考察を加えて報告する.

  • 牧 瑛子, 堀澤 信, 飯村 直子, 中川 一平, 山本 さやか, 平林 佳奈枝, 石田 岳史, 本藤 徹
    2020 年 56 巻 2 号 p. 290-293
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/09/10
    ジャーナル フリー

     妊娠中のオピオイド投与により新生児薬物離脱症候群(Neonatal abstinence syndrome:NAS)を認めることがあり児の長期予後に影響する可能性も否定できない.今回,妊娠前より高用量オピオイド投与を受けていた線維筋痛症合併妊娠の一例を経験した.症例は29歳2妊1産.第一子妊娠時はモルヒネ換算量で460mg/日のオピオイドを減量できずに出産に至った.児はNASと診断されFinneganスコアは最高7点で治療介入せずに症状は改善したが,1歳6カ月時に自閉スペクトラム症が疑われた.第二子妊娠時は出産前にモルヒネ換算量で75mg/日まで減量でき,児は出生後NASと診断されたが同スコアは最高4点であった.産後は更に減量しアセトアミノフェンのみで疼痛コントロール可能となった.オピオイド使用妊婦の中には減量可能な症例が存在する可能性があるため最適投与量の検討が重要と考えられた.

  • 早川 博子, 村上 智樹, 山根 侑子, 本田 茜, 前野 誓子, 隅 誠司, 西村 裕
    2020 年 56 巻 2 号 p. 294-298
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/09/10
    ジャーナル フリー

     先天性脊椎骨端異形成症(spondyloepiphyseal dysplasia congenita)は四肢短縮や骨幹端の拡大,扁平椎などを特徴とし,しばしば網膜硝子体変性症や難聴,口蓋裂などを伴う疾患でII型コラーゲン遺伝子(COL2A1)の変異により生ずる.今回,我々は胎児期より四肢短縮を認め,出生後に口蓋裂や難聴を呈した新生児の2症例を経験し,いずれもCOL2A1の変異を認めた(症例1:c.3589G>A,p.Gly1197Ser,症例2:c.3400 G>A,p.Gly1134Ser).骨系統疾患は出生前に診断が困難な症例も多い.また,個々により重症度が異なるため,臨床所見や検査所見,遺伝子検査も含めた総合的な診断,他科と連携したフォローアップが必要である.

  • 岸本 かおり, 髙石 清美, 小寺 千聡, 大場 隆, 片渕 秀隆
    2020 年 56 巻 2 号 p. 299-304
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/09/10
    ジャーナル フリー

     羊水塞栓症は,本邦における妊産婦死亡の主要な原因のひとつである.今回われわれは当施設において発症し,集学的治療によって救命し得た子宮型羊水塞栓症の1例を経験した.症例は39歳1妊女性で,妊娠41週1日,分娩誘発目的に入院し,翌日に3,280gの女児を自然経腟分娩した.児娩出の70分後より呼吸苦が出現し,血圧低下,非凝固性の性器出血が持続し,一時は心停止に至った.集学的治療,第VII因子製剤投与,左側内腸骨動脈および右側子宮動脈を永久塞栓して救命し得た.総出血量は9,309mLであった.臨床経過および血液検査結果より子宮型羊水塞栓症と診断した.産褥30日目に母児共に退院し,後遺症はみられていない.本症例は急激かつ重篤な経過であったにも関わらず,可及的に人材と場を確保し輸血を含めた集学的治療を早急に開始し,その上で第VII因子製剤投与および動脈塞栓術で止血が得られたことが救命の要因と推定された.

  • 比嘉 詠美, 桃原 由二, 池宮城 梢, 吉田 朝秀, 屋良 朝雄
    2020 年 56 巻 2 号 p. 305-308
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/09/10
    ジャーナル フリー

     母児間輸血症候群(FMT)は母体血液循環に胎児の血液が流入する現象である.症例は29週1日にFMTによると思われる胎児機能不全のため緊急帝王切開で出生した児である.出生時Hb 2.0g/dLと重度の貧血を認めたが,部分交換輸血により全身状態は安定した.その後動脈管開存症の治療や経腸栄養の開始などを経て,日齢6に胃破裂を発症した.新生児胃破裂のリスクとして重度の貧血が挙げられた報告はこれまでになく,FMTによる重度の貧血が他の因子とともに複合的に胃破裂発症に関与した可能性があり,考察とともに報告する.

  • 山下 優, 奥村 能城, 井村 友紀, 奥田 知宏
    2020 年 56 巻 2 号 p. 309-314
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/09/10
    ジャーナル フリー

     災害発生時は衣食住資源と共に医療資源確保も困難となる.今回我々は集中豪雨による河川増水・土砂崩れの影響で孤立した療養型病院でテレビ通話を使用し正常分娩に至った症例を経験した.29歳女性,2妊1産,自然妊娠で当院通院中であった.妊娠40週に陣痛発来あるが豪雨による冠水・土砂崩れにより来院不可であり自宅近くの当院分院を受診.分院には内科医・看護師のみで,産科・小児科・助産師不在であった.陸空路移送は不可能であり,本院からテレビ電話を使用し分娩状況を確認.分娩指示を行い経腟分娩に至った.児は2,900gでApgar score 9/10点の男児であった.胎盤もテレビ電話でBrandt法を指示し剥離を施行した.産後1日目に道路開通し本院搬送となるが母児共に経過良好で,産後4日目に軽快退院となった.災害時の医療資源確保は困難だがデバイスを駆使することや周産期教育推進で医療連携が取れ資源確保ができる可能性が示唆された.

  • 望月 聡, 戸川 泰子, 杉本 真里, 杉浦 崇浩, 幸脇 正典, 小山 典久
    2020 年 56 巻 2 号 p. 315-319
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/09/10
    ジャーナル フリー

     母乳による後天性サイトメガロウイルス(cytomegalovirus:CMV)感染症の早産児例を経験した.症例は在胎24週6日,出生体重807gで出生した男児.日齢3より冷凍母乳中心の経腸栄養を行っていたが,乳び胸の治療に伴い日齢34よりMCTミルクに変更した.日齢80から白色便を認め,血中の直接ビリルビン,肝逸脱酵素の上昇を認めた.日齢0〜44の児尿中CMV-DNAが陰性であり,日齢112の児の尿および母乳中CMVの超可変領域の塩基配列が一致したことから,母乳による後天性CMV感染症と診断した.日齢113からvalganciclovirの投与を4週間行い血中CMV-DNAの陰転化を確認した.後天性CMV感染症は生後1〜2カ月が好発時期とされる.本症例は好発時期を過ぎて後天性CMV感染症を発症し,かつ出生早期の尿中CMV-DNA量を経時的に確認した貴重な症例のため,文献的考察を加えて報告する.

  • 山西 純, 脇田 浩正, 髙橋 英里佳, 平石 のぞみ, 西 大介, 石田 史彦, 関 和男
    2020 年 56 巻 2 号 p. 320-323
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/09/10
    ジャーナル フリー

     新生児寒冷障害は新生児が低体温症となることで引き起こされ,顔面紅潮や浮腫,徐脈,無呼吸,低血糖,出血傾向など様々な症状を示す.本邦でも文献上80例程度の報告があるが,出生直後の遺棄に伴う例は少ない.今回,出生直後の遺棄により高度の低体温症,新生児寒冷障害を呈した低出生体重児例を経験した.入院時,直腸温26.7℃であり,徐脈,低血糖,血小板低下,代謝性アシドーシスを認めたが,急速復温を行い,明らかな後遺症なく救命することができた.復温方法は急速復温が選択されることが多く,復温中の合併症に注意することが重要である.

  • 不殿 絢子, 江川 真希子, 蓬田 裕, 羅 ことい, 廣瀬 明日香, 宮坂 尚幸
    2020 年 56 巻 2 号 p. 324-329
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/09/10
    ジャーナル フリー

     血栓性微小血管症(TMA)は溶血性貧血,血小板減少,血小板血栓による臓器障害の3主徴を呈する症候群で,病態が急激に悪化し致命的となりうる重篤な疾患である.妊娠を契機にTMAを発症し,人工妊娠中絶を行ったが死亡に至ったSLE合併妊娠を経験した.症例は29歳1妊0産.妊娠前は軽度の蛋白尿を認める以外に臓器障害はなく寛解状態と考えられていたが,妊娠9週時に蛋白尿が増悪し,血液検査所見からTMAと診断された.妊娠を契機に発症した二次性TMAと考え,妊娠12週4日に人工妊娠中絶を施行し,免疫抑制療法が継続されたが病態は改善せず,治療経過中にカンジダ菌血症,多剤耐性緑膿菌血症,血球貪食症候群を併発し死亡した.妊娠産褥期のTMA発症は稀であるが,SLE罹患女性では重症化のリスクが高い.早期診断・早期治療介入の有無が予後を左右することを認識し,遅滞なく適切な治療をおこなうことが重要である.

  • 田島 千裕, 浮田 祐司, 松岡 理恵, 上東 真理子, 加藤 徹, 原田 佳世子, 柴原 浩章
    2020 年 56 巻 2 号 p. 330-334
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/09/10
    ジャーナル フリー

     進行胃癌合併妊娠にSOX(S-1/L-OHP)による化学療法を施行し,生児を得た1例を経験した.症例は34歳,妊娠10週より持続する上腹部症状を主訴に受診し,妊娠23週で低分化型腺癌の診断となった.妊娠26週0日よりSOX療法を1コース施行し,妊娠32週5日に選択的帝王切開術で分娩に至った.分娩後は外来で化学療法を施行したが,帝王切開後約9カ月で永眠された.児は1,572gの女児,Apgar score:8点(1分値),9点(5分値)で出生し,生後54日で退院となり,現在まで発育・発達に異常を認めない.妊娠中の化学療法の母児への影響は未だ不明な点が多い.進行胃癌の化学療法はSP療法が推奨されてきたが,近年はSOX療法に変わりつつある.胃癌合併妊娠において明確な指針は未だ示されておらず,今後も症例毎の対応を要するが,SOX療法の母児への影響を検討する上で貴重な1例と考えられた.

  • 高橋 貴一, 安達 裕行, 伊藤 誠人, 加藤 明英, 蛇口 琢, 高橋 勉
    2020 年 56 巻 2 号 p. 335-342
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/09/10
    ジャーナル フリー

     Enterobacter cloacaeはヒトの腸内に常在するグラム陰性桿菌であるが,免疫能の未熟な新生児には重篤な疾患を起こすことがある.特に髄膜炎を発症すると抗菌薬治療を行っても重篤な後遺症を残すことが多い.症例は在胎33週4日,出生体重2,309gの女児.空腸閉鎖術後にE. cloacae髄膜炎・脳室炎を発症し,高容量のカルバペネム系抗菌薬投与にも抵抗性で,大脳は広範囲にわたって壊死した.腸管内のE. cloacaeが手術侵襲によってbacterial translocationを起こし,髄膜炎を引き起こしたものと推測される.E. cloacaeは出生後短期間で腸管内に定着する可能性があるため,新生児の消化管手術の際にはその定着を早期にとらえ,迅速かつ適切な感染対策をとることが重要である.

  • 長柄 俊佑, 臼井 新治, 上田 真子, 安見 駿佑, 矢野 竜一朗, 寺澤 大祐, 河野 芳功, 山岸 篤至
    2020 年 56 巻 2 号 p. 343-346
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/09/10
    ジャーナル フリー

     我々はPB19感染妊婦の胎児6例を経験した.感染妊婦は,2015年に3例,2019年に2例あり,パルボウイルスB19感染症の流行時期と同時期にパルボウイルスB19感染妊婦も増加していることが分かった.感染妊婦全例が前児の育児中であり,前児の通園先で伝染性紅斑が流行していた.そのため,妊婦のパルボウイルスB19感染予防のために,マスク着用,手洗い励行を妊婦検診時に強調するべきであった.胎児6例の転帰は,子宮内胎児死亡が2例,人工妊娠中絶による死産が1例,心不全が1例, 正常新生児が2例であり,胎児に症状を認めない症例から子宮内胎児死亡となる症例まで認めた.重篤な転帰をとった症例のうち,正期産児で,貧血,心不全,新生児遷延性肺高血圧症を合併した症例や,二絨毛膜二羊膜双胎の第1児が子宮内胎児死亡,第2児がPotter症候群のため人工妊娠中絶による死産となった症例もみられた.

  • 田中 孝太, 奥田 靖彦, 笹津 聡子, 小笠原 英理子, 平田 修司
    2020 年 56 巻 2 号 p. 347-354
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/09/10
    ジャーナル フリー

     子宮頸部静脈瘤はまれな妊娠合併症で破裂時に大量出血を発症しうるが,その管理方針は確立されていない.今回,子宮頸部静脈瘤からの出血に対し,妊娠17週に出血部を縫合し36週まで妊娠継続が可能であった症例を経験したので報告する.症例は31歳,1妊0産.多量の性器出血で妊娠17週に前医を受診した.子宮頸部に静脈瘤を認め出血部を縫合し止血されたが,妊娠28週に再出血し当院に母体搬送となった.搬送後は大量出血なく経過した.静脈瘤からの分娩時大量出血の可能性を考慮し予定帝王切開の方針としたが,妊娠36週3日に前期破水し緊急帝王切開を施行した.術中出血量は1,166gであった.母児ともに経過良好で静脈瘤は術後に消失した.子宮頸部静脈瘤から出血した際はガーゼ圧迫や子宮頸部の縫合を行う報告が多いが,本症例のように比較的妊娠早期の出血では縫合止血が有効と考えられる.また,分娩時は出血多量例が多く,出血に対する準備が重要である.

  • 東 福祥, 中村 佳子, 照屋 浩実, 足立 結華, 人見 義郎, 山田 直樹, 藤木 豊, 鎌倉 妙, 新井 順一
    2020 年 56 巻 2 号 p. 355-357
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/09/10
    ジャーナル フリー

     帝王切開後5時間で死亡に至ったB群溶連菌(GBS:group B Streptococcus)早発型新生児感染症(EOD:early-onset disease)の症例を経験した.症例は36歳,1妊0産.妊娠28週0日前医から切迫早産,前期破水で緊急母体搬送となり,破水から4時間30分後,胎児機能不全の診断で緊急帝王切開術を施行した.児は娩出後心拍なく,蘇生後NICUで治療行うも状態改善せず永眠となった.後日児の血液培養,咽頭培養,母体腟培養からGBSが検出され,胎盤病理,剖検結果からも破水前にGBSの胎児感染が成立し,出生時にGBS敗血症となっていたと推察された.GBS EODは破水前からの発症が疑われる症例もあり,今後のデータ蓄積により破水や陣痛発来前からの対応の標準化を考慮する必要がある.

  • 永田 幸, 野々下 晃子, 吉田 敦, 三浦 清徳
    2020 年 56 巻 2 号 p. 358-362
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/09/10
    ジャーナル フリー

     後屈妊娠子宮嵌頓症は,子宮底が後屈したまま妊娠子宮が発育し,骨盤腔に嵌頓した状態のことである.時には妊娠末期まで持続することが報告されている.後屈妊娠子宮嵌頓症は極めて稀であるが,妊娠中に診断されないまま分娩を迎えると様々な合併症を引き起こす.そのため,早期診断が肝要である.今回,子宮底の筋腫による後屈妊娠子宮嵌頓症の1例を経験したので報告する.患者は37歳,初産婦.10cm大の子宮筋腫合併妊娠のためハイリスク妊娠と判断され当院に紹介された.初診時,ダグラス窩に硬い腫瘤を触知し,腟鏡診で子宮口が確認できなかった.子宮口が確認できないことで子宮筋腫による子宮の位置異常を疑った.妊娠20週で骨盤MRI検査を施行し,子宮底の筋腫による後屈妊娠子宮嵌頓症,前置胎盤と診断することができた.子宮口が確認できないという異常所見が子宮の位置異常を疑う契機となるために非常に重要である.本症例は早期に診断することで自己血貯血などの準備や子宮切開層の確認などの十分な術前準備をすることができ,妊娠36週で選択的帝王切開術を施行した.術中に超音波検査を併用し,安全に帝王切開術を施行できた.

  • 高畑 明日香, 越田 慎一, 佐藤 智信
    2020 年 56 巻 2 号 p. 363-367
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/09/10
    ジャーナル フリー

     結節性硬化症(TSC)は,全身臓器に過誤腫性病変や細胞増殖亢進による腫瘍形成を生じる神経皮膚症候群である.今回,TSCを合併した,在胎25週5日,出生体重759gの超低出生体重児例を経験した.出生後の超音波検査で心臓内腫瘍を認めた.心臓内腫瘍は一時的に増大傾向を示したが,その後自然に退縮したため横紋筋腫が疑われた.また点頭てんかんも合併し,West症候群(WS)と診断された.けいれん発作は,副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)療法により軽快した.出生後の全身管理と合併症検索を行う上で,TSCを早期に診断することは重要であるが,早産児であるがゆえに診断に難渋する場合がある.早産児のTSC症例の報告の蓄積およびTSC合併症に対する新規薬剤の有効性や副作用のデータの蓄積が待たれる.

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