日本周産期・新生児医学会雑誌
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59 巻, 2 号
日本周産期・新生児医学会雑誌
選択された号の論文の22件中1~22を表示しています
レビュー
  • 武内 俊樹
    2023 年 59 巻 2 号 p. 156-165
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/09/08
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     新生児期〜小児期に発症する疾患では,染色体・遺伝子の異常が多くを占める.原因診断の検査として,わが国では,Gバンド染色体検査に加えて,2020年からはマイクロアレイ染色体検査が保険収載され,臨床現場で広く使われている.先天異常症候群の発症原因となる染色体・遺伝子の異常の多くは,DNAレベルの変化であり,次世代シーケンサー(遺伝子解析装置)による網羅的遺伝子解析はこの点で優れている.一部の疾患については,DNAレベルの解析がパネル検査として保険内で行われているが,未診断患者に対するエクソーム解析はまだ保険収載されていない.

     「難病」とは,一般には診断と治療が難しい病気を意味する用語として使われるが,同時に,わが国では国の施策の中で定義された特定の疾患群を指す用語として使われてきた.わが国の難病研究には長い歴史があり,希少疾患の診断治療研究に大きな貢献をしてきた.

     本稿では,まず網羅的遺伝子解析の技術的側面について解説し,国の施策の中における「難病」の定義,位置づけとその取り組みを概説する.網羅的遺伝子解析,特に次世代遺伝子解析装置を用いた原因不明疾患の診断・治療研究の例として,日本医療研究開発機構の難治性疾患実用化研究事業の中で行われている未診断疾患イニシアチブ(IRUD:Initiative on Rare and Undiagnosed Diseases)について概説する.周産期・新生児領域においても網羅的遺伝子診断は有用である.成育疾患克服等総合研究事業「新生児集中治療室における精緻・迅速な遺伝子診断に関する研究開発」についても概説する.

原著
  • 宮林 寛, 長野 伸彦, 斉藤 勝也, 加藤 理佐, 能登 孝昇, 森岡 一朗
    2023 年 59 巻 2 号 p. 166-173
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/09/08
    ジャーナル フリー

     【目的】3次元走査分析器(3Dスキャナー)を使用して,日本人健常乳児の生後1,3,6カ月の頭蓋形状の基準値を作成した.

     【方法】3DスキャナーArtec Evaを使用して計3回の頭蓋の計測を行った.成長関連パラメータ(頭蓋長,頭蓋幅,頭蓋高,頭蓋周径,頭蓋体積)と,対称関連パラメータ(Cephalic index(頭指数),Cranial Asymmetry(頭蓋非対称差),Cranial vault asymmetry index(頭蓋非対称性指数),前頭部対称率,後頭部対称率)の各月齢の平均値と標準偏差を算出した.

     【結果】対象数は生後1カ月165人,生後3カ月108人,生後6カ月91人であった.成長関連パラメータは経時的に増加した.対称関連パラメータは生後3カ月には悪化し,6カ月時には改善傾向となった.変形性斜頭症の有病率は,生後1,3,6カ月でそれぞれ47.3%,58.3%,45.1%であった.短頭症の有病率は,13.3%,21.3%,22.0%であった.

     【結論】3Dスキャナーを使用して乳児の頭蓋形状の基準値を作成した.このデータベースは,今後頭蓋変形の治療方針の決定に有益となるであろう.

  • 小林 孝生, 岩谷 壮太, 泉 絢子, 生田 寿彦, 武岡 恵美子, 松井 紗智子, 玉置 祥子, 三村 仁美, 芳本 誠司
    2023 年 59 巻 2 号 p. 174-180
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/09/08
    ジャーナル フリー

     超低出生体重(ELBW)児は,その免疫未熟性に加えて,長期間の人工呼吸管理や中心静脈カテーテル留置を背景に遅発型敗血症(LOS)の発症リスクが高い.本研究では,2017年1月から2022年12月までに当センターで管理したELBW児におけるLOSの発症頻度を調査するとともに,LOS症例の特徴を解析した.ELBW児149例のうち,LOSを呈したのは8例(5.4%)であり,LOSによる死亡例はなかった.在胎週数は22週が4例で,6例が合併症もしくは基礎疾患を有し,3例が腸瘻を造設されていた.起因菌は全例がメチシリン耐性黄色ブドウ球菌以外のブドウ球菌属であり,発症日齢の中央値(範囲)は22(7-45)日で,人工呼吸管理,中心静脈カテーテルを継続使用するなかでの発症であった.ELBW児におけるLOSの早期発見には,個々の症例のリスクを勘案しながら必要に応じたモニタリングを行うことが重要と考えられた.

  • 倉田 浩昭, 中嶋 敏紀, 香月 比加留, 湯浅 千春, 市山 正子, 酒見 好弘, 川上 浩介, 大藏 尚文, 山下 博德
    2023 年 59 巻 2 号 p. 181-186
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/09/08
    ジャーナル フリー

     新型コロナウイルス(COVID-19)の第6波・第7波における当院の母児症例を後方視的に調査し,感染対策の現状と課題を検討した.調査期間中に44例が対象となり,妊婦の重症度は軽症が36例(81.8%),無症状が8例(18.2%)で,原則帝王切開で分娩した.新生児の母子感染症例を認めなかったが,17例(37.8%)で呼吸障害を認め,High flow nasal cannulaや保育器内酸素の治療を要し,治療期間の中央値は2日であった.児の入院中に母乳栄養を開始できたのは37例(82.2%)で,母の隔離解除後に20例(44.4%)が育児指導の母子入院を行った.母子感染と新生児の合併症の予防,育児支援のためにさらなる研究が必要である.

  • 大西 優, 西田 恵子, 小菅 悠希, 鈴木 あすか, 渡辺 麻紀子, 細川 義彦, 阿部 春奈, 眞弓 みゆき, 大原 玲奈, 小畠 真奈 ...
    2023 年 59 巻 2 号 p. 187-193
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/09/08
    ジャーナル フリー

     目的:先天性LQTS合併妊婦に対する当院の管理方針として,周産期母体心イベント予防のためβ遮断薬の積極的な導入と,児に対する胎児心磁図および胎児心臓超音波検査による出生前診断を行っており,これらの妥当性を検証する.方法:2013年から2022年までに当院で周産期管理を行った先天性LQTS合併妊娠の母児の診療録を後方視的に検討した.結果:対象は8症例10妊娠であった.妊娠中にβ遮断薬を服用した6妊娠では,母体心イベントを認めず,服用しなかった4妊娠のうち1例で産褥期に心イベントを認めた.全10妊娠に対し胎児心磁図・心臓超音波検査が行われ,3例で胎児LQTSが疑われ,5児が生後にLQTSと診断された.全例が心電図モニタリング下の分娩であり,帝王切開分娩が2例,経腟分娩が8例であった.結論:当院の先天性LQTS合併妊娠の管理方針により不良な周産期予後を回避できる可能性がある.

  • 赤澤 宗俊, 橋本 和法
    2023 年 59 巻 2 号 p. 194-199
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/09/08
    ジャーナル フリー

     【目的】10歳代の若年妊婦は,本邦では1%弱と稀であるが,ハイリスクの特定妊婦であり現状の把握が望まれる.【方法】国内文献を対象に系統的レビューを行った.18の報告から若年妊娠の1,510症例を集約し,社会的背景・健診の受診状況・周産期予後を検討した.【結果】未婚率は,初診時で82%,分娩時で36%であった.パートナーの有職率は70%で,生活保護家庭は21%であり,両親が離婚または片親の症例は43%であった.健診状況では,初診が中期以降の症例は16%,完全な飛び込み分娩/未受診妊婦は3.2%であった.喫煙率は29%と高く,クラミジア陽性率も13%と高値であった.周産期予後では,帝王切開率は11%,分娩週数は38.8週,出生体重は2,936gであり,20歳以上の群と有意差がなかったとする報告が多かった.【結論】若年妊婦の周産期予後は良好であったが,社会的基盤の脆弱性は顕著であった.

  • 増田 怜良, 粟野 世奈, 三浦 瑠衣子, 鈴木 朋, 小澤 克典, 梅原 永能, 諫山 哲哉, 左合 治彦
    2023 年 59 巻 2 号 p. 200-205
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/09/08
    ジャーナル フリー

     【目的】早産児の脳保護目的の硫酸マグネシウム(MgSO4)母体投与の児の蘇生への影響の評価.【方法】2018年9月から2021年9月に当院で在胎22週0日から33週6日に分娩に至った症例を対象とした.児の脳保護目的で母体Mg投与したMg投与群とMg投与のない非投与群において,蘇生室での挿管,バッグマスク換気,持続的気道陽圧(CPAP),酸素投与,および出生から24時間以内の挿管について比較検討した.【結果】Mg投与群31例,非投与群125例であった.蘇生室での挿管は投与群21例(68%),非投与群67例(53%)(OR 1.88,95% CI 0.82-4.31)と両群で差を認めず,多変量解析でも差は認めなかった.また,その他の評価項目についても両群に差を認めなかった.【結論】分娩前の母体MgSO4投与による早産児の蘇生への影響を認めなかった.

  • 鈴木 夏生, 古川 誠志, 秦 麻理, 高宮 万莉, 大野 珠美, 大橋 昌尚, 上原 ゆり子, 山田 陽子, 三島 みさ子
    2023 年 59 巻 2 号 p. 206-211
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/09/08
    ジャーナル フリー

     2022年1月から7月までに新型コロナ感染陽性と診断された妊婦53例と出産予定日をほぼ一致させた非感染妊婦106例を抽出し症例対照研究を行い,ワクチン接種(1回以上の接種)と最終接種からの期間(3カ月以内)の感染予防に対する有効率をオッズ比から算出した.検討集団でのワクチン接種の感染予防に対する非調整の有効率は60%,最終接種から3カ月以内の非調整の有効率は57%となった.これらを年齢と仕事の有無で調整すると,ワクチン接種の有効率は59%(95%信頼区間:-6.0%〜84%),最終接種から3カ月以内の有効率は54%(-6.0%〜80%)となり,感染予防に有効である傾向は認めた.

  • 青栁 遼, 菱川 賢志, 渋谷 茉里, 水野 泉, 福田 貴則, 井上 裕美
    2023 年 59 巻 2 号 p. 212-218
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/09/08
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     【目的】ジノプロストン内服製剤(以下,内服剤)とジノプロストン腟内留置用製剤(以下,腟用剤)の分娩誘発効果を比較する.

     【方法】2020年1月から2022年3月の間で予定日超過の適応で,分娩誘発を開始した初産婦のうち,内服剤から開始した51例(内服剤群)と腟用剤から開始した39例(腟用剤群)の分娩予後を後方視的に比較した.

     【結果】分娩誘発開始日の陣痛発来は腟用剤群で有意に多く(5.9% vs 41.0%;p < 0.001),また分娩までの平均日数は有意に短かった(3.0日 vs 2.4日;p=0.04).帝王切開は腟用剤群で統計的有意差はないが少なかった(51.4%vs 35.9%;調整オッズ比 0.53;95%信頼区間 0.19-1.40).その他出血量や輸血,新生児予後は両群で有意差はなかった.

     【結論】腟用剤は内服剤に比べて有害事象を増加させることなく陣痛発来させ,帝王切開を減少させる可能性がある.

  • 瀬戸上 貴資, 太田 栄治, 伊東 和俊, 小寺 達朗, 音田 泰裕, 川野 裕康, 新居見 俊和, 永光 信一郎
    2023 年 59 巻 2 号 p. 219-226
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/09/08
    ジャーナル フリー

     超低出生体重児(ELBWI)に合併する慢性腎臓病(CKD)の早期発見に小児CKDステージアルゴリズムを活用した血清クレアチニン値(sCr)が有用であるかを後方視的に検討した.生存退院した132例のELBWIを対象とし,3歳,6歳,9歳健診でsCrおよびsCrに基づく推定糸球体濾過量(eGFR)を評価し,腎機能障害をsCr,eGFRそれぞれで評価した.全例においてsCrよりもeGFRで腎機能障害の検出率が高く,3歳健診時での検出率は,sCrで17例(18%),eGFRで29例(30%)であった.一方,後にCKDの診断に至った4例(3%)すべてが3歳時のsCrとeGFRともに腎機能障害基準を満たしていたが,1例では6歳以降にsCrは基準域を示していた.本研究は,ELBWIにおける腎機能のモニタリングの重要性と,CKDの早期指標としてのsCrの潜在的価値を示唆している.

症例報告
  • 佐藤 直, 鈴木 正人, 鈴木 崇, 藏本 吾郎, 水主川 純
    2023 年 59 巻 2 号 p. 227-232
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/09/08
    ジャーナル フリー

     脳腫瘍合併妊娠は稀であり,その管理方針は一定した見解が得られていない.今回我々は,妊娠26週に聴神経腫瘍と診断され,母児共に良好な予後を得た一例を経験したので報告する.症例は26歳,1妊0産.妊娠26週に左難聴と左顔面神経麻痺のためMRI検査を前医で施行され,聴神経腫瘍と診断された.腫瘍は手術適応と判断されたが,水頭症は認められず,聴神経腫瘍は良性腫瘍が多いため,手術は分娩後の方針となった.妊娠31週に嘔吐と眩暈が出現し,当院に搬送された.産科,脳神経外科,麻酔科により管理方針が協議され,正期産期に全身麻酔下に帝王切開を施行し,脳腫瘍摘出術は分娩後に施行する方針とした.妊娠37週1日に男児,2,644gを娩出した.産褥41日目に脳腫瘍摘出術を施行し,神経学的後遺症なく経過している.脳腫瘍合併妊娠では関連診療科の連携により病状や母児の状態に応じた管理方針の決定が重要である.

  • 鈴木 雄祐, 奥山 亜由美, 瀬尾 晃平, 三浦 裕子, 廣瀬 一浩, 市塚 清健, 長塚 正晃
    2023 年 59 巻 2 号 p. 233-238
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/09/08
    ジャーナル フリー

     冠動脈瘻は冠動脈が瘻の血管を介して直接心,または大血管腔に開いている血管走行異常であり,先天性心疾患の0.2〜0.4%と非常に稀な疾患である.今回我々は,胎児精密超音波検査で胎内診断しえた冠動脈瘻を2例経験した.症例1はカラードプラ法での心房内異常血流,パルスドプラ法での異常血流波形を契機に,症例2はBモードでの異常管腔構造,カラードプラ法での右房内異常血流を契機に冠動脈瘻を疑い,その異常血流の起始部,走行,流入部を同定したことで胎児診断することができた.冠動脈瘻を有する場合,生後早期に肺高血圧症やうっ血性心不全を発症するリスク,また盗血現象により冠動脈瘻が存在する血管灌流域で心筋虚血を来すリスクがあるとされ,胎児期の診断が児の良好な転帰に重要である.また,冠動脈瘻の胎児診断において,胎児超音波検査でカラードプラ法,パルスドプラ法を併用する意義は大きい.

  • 水谷 謙介, 西門 優一, 落合 加奈代, 大城 誠
    2023 年 59 巻 2 号 p. 239-244
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/09/08
    ジャーナル フリー

     新生児糖尿病は生後6カ月未満に発症する糖尿病であり,インスリン治療を必要とする.一方,未熟な耐糖能から高血糖が懸念される超低出生体重児に対するインスリンによる積極的な介入は,低血糖のおそれもある.今回,我々は在胎29週4日,出生体重607gの超低出生体重児で,出生後早期から高血糖が持続し新生児糖尿病と診断した症例を経験した.持続血糖モニタリングとインスリン持続皮下注射を用いて血糖管理を行った.血糖コントロールに難渋したが,大きな合併症なく修正月齢2カ月で退院することが可能であった.退院後は成長とともに徐々に血糖値が改善傾向となったことを確認した.修正月齢18カ月時点で言語発達はややゆっくりではあるが明らかな発達遅滞は認めていない.早産低出生体重児に合併した新生児糖尿病に対するインスリン持続皮下注射の有用性や長期予後の検討に関しては今後の症例の蓄積が必要である.

  • 田尻 亮祐, 近藤 恵美, 和田 環, 櫻木 俊秀, 金城 泰幸, 柴田 英治, 吉野 潔
    2023 年 59 巻 2 号 p. 245-250
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/09/08
    ジャーナル フリー

     Massive perivillous fibrin deposition(MPVFD)は絨毛周囲の広範囲なフィブリン沈着を特徴とし,胎児発育不全や子宮内胎児死亡の原因となる疾患である.症例は30歳,2妊1産,RhD陰性,自然妊娠し,妊娠25週3日に前期破水の診断で当院に搬送,妊娠26週0日に胎児機能不全の診断で緊急帝王切開術を施行した.児は557g,APGAR score 1分値4点,5分値は挿管中,臍帯動脈血pHは7.318でありNICUで入院管理し日齢170日目に退院となった.胎盤は肉眼的に白色梗塞を認め,病理組織検査でMPVFDと診断した.本症例では免疫組織化学でIgGとアルカリフォスファターゼ(ALP)発現を,析出したフィブリン近傍の絨毛に認め,IgG-ALP複合体のMPVFD発症への関与を疑った.RhD不適合妊娠にMPVFDを合併した症例について,文献的考察を含めて報告する.

  • 房川 眞太郎, 寺田 光次郎, 五十嵐 リサ, 坂井 拓朗
    2023 年 59 巻 2 号 p. 251-255
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/09/08
    ジャーナル フリー

     中腸軸捻転は胆汁性嘔吐を契機に診断されることが多いが,低酸素性虚血性脳症(HIE:hypoxic-ischemic encephalopathy)との合併は稀である.今回胆汁性嘔吐を示さず,HIEに対する低体温療法後に診断された中腸軸捻転を経験した.症例は在胎40週2日,3,202gで出生した日齢0の女児.アプガースコアは1分1点/5分3点であった.中等症HIEに対し低体温療法を行った.低体温中の頻脈,鎮静終了後の胃残渣の増加などがみられた.日齢5に血便があり腹部超音波検査で中腸軸捻転と診断した.広範囲の腸管血流障害があったが,捻転解除後に改善し腸管切除を免れた.HIEと中腸軸捻転の合併では,低体温療法管理中の鎮静・栄養管理の影響により,中腸軸捻転の症状が目立たず診断が遅れ,予後が悪化する可能性がある.微細な徴候に注目し,腹部超音波検査等による積極的な検索が重要である.

  • 森岡 将来, 村越 毅, 伊賀 健太朗, 今野 寛子
    2023 年 59 巻 2 号 p. 256-260
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/09/08
    ジャーナル フリー

     褐色細胞腫によるカテコラミン心筋症は,周産期心筋症と鑑別困難な難治性心不全を来すことがあり一般的に高血圧を伴う.今回血圧上昇なく心不全を突然発症した症例を経験した.

     症例:36歳,G2P0,既往歴なし.妊娠34週に嘔吐と左背部痛を主訴に外来受診.血圧は107/88mmHgと正常.277mg/dLの高血糖を認め,生食補液を行ったところ呼吸不全を突然生じ,母体救命目的で緊急帝王切開術を施行.術後にLVEF15%の心機能低下と左副腎腫瘍が偶発的に判明し周産期心筋症,褐色細胞腫疑いと診断.抗PRL療法,経皮的補助人工心臓(IMPELLA)を用いた集中治療により急性期を脱し,産後3カ月で左副腎腫瘍摘出術を施行し褐色細胞腫と確定診断した.母児とも後遺症なく経過し,産後1年半で次子の妊娠を許可した.

     結語:褐色細胞腫による心筋症の症状は多彩で,典型症状をすべて認めなくとも心不全を認めた際に鑑別に挙げることで,根治術に繋がり予後改善に寄与すると考えられた.

  • 稲瀬 広樹, 戸川 泰子, 杉本 真里, 加藤 丈典, 杉浦 崇浩, 村松 幹司
    2023 年 59 巻 2 号 p. 261-265
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/09/08
    ジャーナル フリー

     ピリドキシン依存性てんかん(Pyridoxine-dependent epilepsy:PDE)は新生児期から乳児期に難治性てんかんを発症する常染色体潜性の遺伝疾患である.通常の抗てんかん薬には抵抗性で,ビタミンB6を投与することではじめて発作の消失が得られる.我々は同胞がPDE発症者であったため,その発症リスクを考慮し,妊娠33週からビタミンB6の母体投与を行った1例を経験した.症例は在胎41週0日,出生体重3,434gで新生児仮死を認めず出生した女児.生後5時間からビタミンB6の投与を開始し,日齢1で臍帯血を用いて施行した遺伝子検査でPDEと確定診断した.1歳6カ月となる現在までビタミンB6の内服を継続しているが,これまで明らかなけいれん発作を発症することなく経過しており,胎児期からビタミンB6を投与することで,PDEの発症を予防できる可能性があると考えられる.

  • 山崎 肇, 永山 善久, 佐藤 尚, 臼田 東平, 小野 壮登
    2023 年 59 巻 2 号 p. 266-272
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/09/08
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     HDR症候群は,副甲状腺機能低下症(hypoparathyroidism),感音性難聴(sensorineural deafness),腎形成不全(renal dysplasia)を3主徴とするまれな疾患(常染色体優性遺伝)であり,10番染色体短腕(10p14)上のGATA3遺伝子のハプロ不全が主な病因である.症例は他院で重症新生児仮死として出生した女児(在胎38週4日,2,930g)である.新生児期から啼泣が乏しく,吸啜,嚥下障害を認めたが,頭部MRIや脳波所見は神経学的異常に合致しなかった.副甲状腺機能低下症,甲状腺機能低下症,両側の感音性難聴,膀胱尿管逆流(両側・IV度)が判明し,West症候群も発症した.染色体異常とGATA3遺伝子の病的バリアントを認めなかったが,同症候群と臨床診断した.新生児期から神経学的異常を認め,乳児期に重度の精神・運動発達遅滞を呈した特異な経過を示した.

  • 宮田 杏衣, 岩田 亜貴子, 赤松 千加, 倉澤 健太郎, 宮城 悦子
    2023 年 59 巻 2 号 p. 273-276
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/09/08
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     妊娠性肝内胆汁うっ滞症は総胆汁酸の上昇を特徴とする疾患である.子宮内胎児死亡など重篤な胎児合併症を引き起こす一方で,その管理や娩出時期については定まった見解がない.妊娠性肝内胆汁うっ滞症と診断した妊婦が超緊急帝王切開術を施行し,子宮内胎児死亡を免れた症例を経験したので報告する.

     症例は32歳,2妊0産.妊娠34週より肝逸脱酵素の上昇を認めたため妊娠36週に当院に紹介された.精査で他の肝疾患は否定的であり,総胆汁酸が高値であったことから妊娠性肝内胆汁うっ滞症と診断された.妊娠38週の妊婦健診時に胎児の高度徐脈を認め,超緊急帝王切開術を施行した.術後速やかに総胆汁酸と肝逸脱酵素は改善した.児は新生児仮死の状態で低体温療法を要した.

     超緊急帝王切開術を施行し子宮内胎児死亡を回避できた.本疾患は急速な経過で子宮内胎児死亡に至る可能性があり,その予知は難しい.入院管理や早期娩出を考慮する必要がある.

  • 根橋 ひかり, 長尾 健, 舟木 哲, 井上 桃子, 伊藤 由紀, 髙橋 健, 宮 美智子, 佐村 修, 岡本 愛光
    2023 年 59 巻 2 号 p. 277-281
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/09/08
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     分娩後異常出血(PPH)に対する子宮動脈塞栓術(UAE)では約1-2%に子宮壊死が生じる.37歳,1妊0産,二絨毛膜二羊膜双胎,妊娠33週で妊娠高血圧腎症に対し帝王切開術を施行した.PPHのためゼラチンスポンジを用いてUAEを施行した.UAE後に予防的にABPC/SBTを使用したが,発熱,下腹部痛,子宮腫大,悪臭を伴う悪露が持続し,子宮内感染症を疑いTAZ/PIPCの投与を開始した.症状の改善が乏しくIPM/CSに変更した.子宮壊死を疑い骨盤部造影MRI検査を行ったところ,子宮筋層の広範な壊死を認めた.UAE後26日目に敗血症が疑われ単純子宮全摘術を施行した.病理組織学的検査では子宮底部から全周性に内膜から筋層が壊死していた.抗菌薬加療を行うも,発熱,腹痛,子宮腫大,悪臭を伴う悪露の貯留等が遷延した場合,子宮壊死を疑い造影MRI検査を行うべきである.

  • 林 希望, 林 誠司, 松沢 麻衣子, 松沢 要, 鈴木 健史, 加藤 徹
    2023 年 59 巻 2 号 p. 282-288
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/09/08
    ジャーナル フリー

     COL4A1遺伝子は,IV型コラーゲンのうち最も普遍的に認められるα1鎖をコードする.遺伝子変異により微小血管の脆弱性をもたらし,胎児期〜出生後の脳血管障害,眼球,腎臓,筋肉などの多系統の臓器に異常をきたす.胎生期より進行性の脳実質障害,孔脳症,小脳低形成を認め,出生後に基底核出血,小眼球,白内障を認めたCOL4A1遺伝子異常の症例を経験した.胎児期の脳血管障害により,裂脳症,孔脳症を認めることはよく知られているが,胎児期より進行性の脳実質障害を経時的な画像変化で確認できた症例は稀である.本疾患では,易出血性を認め,分娩による頭蓋内出血を来すことはよく知られており,胎生期の画像より本疾患の鑑別を行うことは有意義であると考えられる.

  • 西村 円香, 猪俣 慶, 藤戸 祥太, 片山 太輔, 高島 悟, 大塚 里奈, 吉松 秀隆, 井上 武
    2023 年 59 巻 2 号 p. 289-293
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/09/08
    ジャーナル フリー

     母児間輸血症候群により両児に重度の貧血を来した一絨毛膜二羊膜双胎を経験した.双胎間で羊水量の差はなかった.妊娠35週6日より胎児心拍陣痛図でI児にsinusoidal patternを認め,胎児中大脳動脈最大血流速度の上昇があり,II児に胎児水腫の所見を認めたことより双胎間輸血症候群疑いで,妊娠36週4日に緊急帝王切開となった.第1子はHb 3.7g/dL,第2子はHb 4.2g/dLと両児に貧血を認め,母体HbF 9.0%と上昇しており,母児間輸血症候群と診断した.緊急的な赤血球輸血により両児ともに全身状態は安定した.退院前の頭部MRI検査で異常はなかったが,現在3歳となり両児とも運動発達遅滞を認めている.一絨毛膜二羊膜双胎の母児間輸血症候群は,胎盤を両児が共有しているため,一児だけでなく,両児に重度の貧血を生じる可能性があり,胎児貧血を疑う場合は早期の娩出を検討する必要がある.

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