日本周産期・新生児医学会雑誌
Online ISSN : 2435-4996
Print ISSN : 1348-964X
59 巻, 1 号
日本周産期・新生児医学会雑誌
選択された号の論文の26件中1~26を表示しています
レビュー
  • 谷村 憲司
    2023 年 59 巻 1 号 p. 1-12
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/05/10
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     本稿ではTORCH症候群に含まれる病原体のうち,トキソプラズマ,サイトメガロウイルス(CMV),梅毒に焦点を当て,妊婦やそのカップルに対するカウンセリングの進め方などについて解説する.

     ①先天性トキソプラズマ症:妊娠中の初感染からしか発生しないと考えてよく,トキソプラズマ-IgG,IgM,IgG avidity検査によって感染成立時期を推定する.初感染疑い妊婦にはスピラマイシンを投与し,胎児感染を予防する.出生前診断には羊水中トキソプラズマ-DNA PCR検査が利用できる.出生児の先天性感染の診断は難しい場合がある.

     ②先天性サイトメガロウイルス感染症(cCMV):妊娠中の初感染と非初感染のいずれからも発生しうるので血清学的検査による妊婦スクリーニングでは見落としが生じうる.出生前診断には羊水中CMV-DNA PCR検査が利用できる.症候性cCMVに対するエビデンスのある胎児治療はないが,バルガンシクロビルを用いた新生児治療は近い将来,日本で保険適用となる予定である.

     ③先天梅毒:近年,梅毒患者が増加しており,それに伴い,妊娠期梅毒も増加している.抗菌剤投与で先天性梅毒の発生を防ぐことができるので,血清学的検査による妊娠初期の妊婦スクリーニングは重要である.日本でも持続性ペニシリンの筋注製剤が使用可能になった.

総説
  • 森川 守
    2023 年 59 巻 1 号 p. 13-19
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/05/10
    ジャーナル フリー

     妊娠中の常時シートベルト着用率ならびに新生児を自動車で運ぶ際の常時乳児用チャイルドシート使用率を改善するために以下の情報を提供する.

     1)車内での安全に対する妊婦の注意深い態度(常時シートベルトを使用し,後部座席に好んで座る)は,妊娠中の自動車事故遭遇リスクの低下と関連している可能性があった.

     2)妊娠初期にシートベルト着用推奨の教育用リーフレットの妊婦への配布は,妊娠中の常時シートベルト着用率を高めるために効果的だったが,自動車事故遭遇率を低下させなかった.

     3)妊娠後期に乳幼児用チャイルドシート利用を推奨する教育リーフレットの妊婦への配布は,産後1カ月健診時点での乳幼児用チャイルドシート使用率ならびに適正使用率を高めるために効果的だったが,自動車事故遭遇率を低下させなかった.

     以上より,妊産褥婦におけるシートベルト着用とチャイルドシート使用をさらに啓発する工夫が必要である.

原著
  • 塙 真輔, 小幡 新太郎, 真田 道夫, 佐藤 史朗, 西方 紀子
    2023 年 59 巻 1 号 p. 20-26
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/05/10
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     産婦人科志望の初期研修医が執刀した帝王切開の安全性と,その経験が初期研修医の心境に与える影響を検討した.2014-2019年に当院で産婦人科志望の初期研修医9名が執刀した帝王切開66例(初期研修医群)を対象とした.指導医8名が執刀した帝王切開147例(指導医群)を対照群とし臨床背景,手術情報,転帰を検討した.心的影響の評価に初期研修医へアンケート調査を行った.手術時間,執刀開始から児娩出までの所要時間の中央値は初期研修医群で83.5分と14分,指導医群は61分と7分で初期研修医群は有意に長かった.臍帯血動脈pHの中央値は初期研修医群で7.306,指導医群は7.33で初期研修医群は有意に低値であった.アンケートでは研修意欲向上や進路への影響など執刀経験による肯定的意見が多数みられた.初期研修医の帝王切開は指導医の管理下ならば安全性は許容範囲で研修意欲の向上やリクルートに寄与する可能性がある.

  • 丸山 憲一, 小泉 亜矢, 市之宮 健二, 鏑木 浩太
    2023 年 59 巻 1 号 p. 27-37
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/05/10
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     2005年5月〜2015年4月に当科に入院し,生後24時間以上生存した在胎34週未満の院内出生極低出生体重児の妊娠分娩歴,生後24時間未満の病歴と入院中の死亡,主要合併症との関係を検討した.対象396例中,入院中死亡は13例,死亡例以外で主要合併症ありは184例であった.在胎期間で調整した多変量解析では,生後1分,5分のApgar scoreが低い,生後24時間未満でのカテコラミン,ステロイド投与が死亡と関連していた.入院中の死亡もしくは主要合併症ありと関連する事項としては,母親の分娩時の年齢が若い,不妊治療がない,出生体重10パーセンタイル未満である,生後1分,5分のApgar scoreが低い,入院時体温が低い,出生後24時間未満にドパミンもしくはドブタミン投与,インドメタシン投与があることが見出された.新生児仮死,出生後早期の循環系の問題などが短期予後と関連することが示唆された.

  • 戸田 薫, 前田 隆嗣, 谷口 博子, 切原 奈美, 三浦 美沙, 上塘 正人
    2023 年 59 巻 1 号 p. 38-44
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/05/10
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     【目的】第2三半期までの未破水の羊水過少症に対する経腹的羊水注入の治療的意義の報告は少ない.羊水過少症に対して経腹的羊水注入を行った症例について,妊娠期間の延長および肺低形成の予防に関する効果を検討した.【方法】2007年から2016年までに当院で未破水の羊水過少症の診断を行い経腹的羊水注入を行った7例を対象とし,妊娠分娩および出生後の経過を後方視的に検討した.【結果】臍帯胎盤因子が5例,胎児腎尿路奇形が2例であった.羊水過少症の診断の週数は中央値24週,分娩週数は中央値35週,診断から分娩までの期間は中央値12週,羊水注入回数は臍帯胎盤因子では中央値4回,胎児腎尿路奇形では11回と21回であった.児は全例生存,退院時に人工呼吸器の症例は認めなかった.胎児腎尿路奇形は腎移植となった.【結論】未破水の経腹的羊水注入は,胎児腎尿路奇形だけでなく,臍帯胎盤因子においても羊水注入による効果を示唆されたことから,治療選択肢になりうる.

  • 大川 明日香, 長船 綾子, 浅井 美香子, 野畑 実咲, 小林 眞子, 佐藤 亜理奈, 黒田 啓太, 服部 惠, 鈴木 祐子, 永井 孝, ...
    2023 年 59 巻 1 号 p. 45-50
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/05/10
    ジャーナル フリー

     2019年12月以降,COVID-19の世界的な流行は本稿執筆時点でも衰えることなく続いている.刈谷豊田総合病院(以下,当院とする)は愛知県刈谷市に位置し,衣浦東部保健所の管轄区域(刈谷市・高浜市・安城市・知立市・碧南市・みよし市)と西尾保健所の管轄区域(西尾市・幸田町)のうち西尾市のCOVID-19妊婦対応を担っている(図1).管轄範囲の総人口は約76万人である.今回我々は2020年8月から2022年9月までの期間,当院で経験したCOVID-19妊婦の症例を後方視的に検討した.

     隔離期間中の当院での出産は21例であった.経腟分娩例は第2-5波までは出産3例中0例であったが,第6波では7例中1例,第7波では11例中8例であった.分娩方法に関わらず新生児感染や対応した医療スタッフへの感染は生じず,施設の医療体制が許せば十分な感染予防を行うことで安全に経腟分娩を行うことができると考えられた.

  • 宮内 雄太, 中嶋 敏紀, 隈本 大智, 湯浅 千春, 田中 幸一, 倉田 浩昭, 酒見 好弘, 山下 博德
    2023 年 59 巻 1 号 p. 51-56
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/05/10
    ジャーナル フリー

     早産児の動脈管開存症(patent ductus arteriosus,PDA)症候化と母体の高マグネシウム(Mg)血症の関連が報告されているが,いまだ一定の見解が得られていない.当院に入院した出生体重1,500g未満の児88例を症候性PDA群(21例)と非症候性PDA群(67例)の2群に分け,症候性PDAの関連要因を解析した.母体血清Mg濃度≧6.0mg/dL例は症候性PDA群7例(33%),非症候性PDA群6例(9%)であり(p=0.01),在胎週数,サーファクタント投与,インドメタシン予防投与で調整した多変量解析で,母体血清Mg濃度≧ 6.0mg/dLは症候性PDAと有意な関連を認めた(調整オッズ比 5.57[95%信頼区間 1.28‒24.15]).分娩前の母体に6.0mg/dL以上の高Mg血症がある際は,児のPDA症候化により注意が必要である.

症例報告
  • 福長 健史, 小幡 美由紀, 丸山 真弓, 金丸 茉莉恵, 堤 誠司
    2023 年 59 巻 1 号 p. 57-61
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/05/10
    ジャーナル フリー

     新生児の頭蓋骨骨折は約10,000〜25,000人に1人の頻度で生じ,分娩が進行した段階での帝王切開では,経腟的な児頭挙上や術者が児頭を把持する際の圧迫が原因で頭蓋骨骨折が起こりうるとされる.今回,分娩進行中の緊急帝王切開で生じた新生児の頭蓋骨骨折を経験したので報告する.

     症例は32歳の初産婦.子宮口9cm開大の時点で胎児機能不全のため緊急帝王切開を施行した.児頭がstation±0まで下降していたため経腟的に児頭を挙上したが娩出できず,逆T字切開を加えて臀部から娩出した.出生後,児の頭頂骨左側に直径約5cmの陥凹を認め,CTとMRIで左頭頂骨の陥没骨折と,くも膜下出血および脳挫傷を認めた.複数の頭蓋内病変を合併したことから外傷性の骨折と考えられた.

     児頭が下降した時点で行う帝王切開では,経腟的な児頭挙上で頭蓋骨骨折を起こす可能性があるため,娩出が困難な場合は緊急子宮弛緩や子宮切開線の延長を行い,児の臀部からの娩出を考慮する必要がある.

  • 鈴木 幸之介, 鳥谷 由貴子, 松本 敦, 土屋 繁国, 高清水 奈央, 小西 雄, 外舘 玄一朗, 谷藤 幸子, 赤坂 真奈美
    2023 年 59 巻 1 号 p. 62-66
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/05/10
    ジャーナル フリー

     症例は在胎38週0日で出生した男児.妊娠25週時の胎児超音波検査で無頭蓋症が疑われて当院に紹介された.精査で頭蓋骨は前頭部までしか同定できず,脳組織は膜様の構造物に包まれ,羊水中に浮遊していた.予定帝王切開で出生し,無頭蓋症,脳瘤,指趾欠損・絞扼輪を認め,胎盤病理では広範囲に卵膜が欠損しており,羊膜索症候群による無頭蓋症と診断した.けいれん発作や頭部からの髄液漏出に伴う感染に対しての内科的加療を行い,1歳9カ月時に脳瘤,脳室拡大に対して髄膜脳瘤修復術,脳室腹腔シャント術を施行した.現在は在宅管理に移行した.広範な無頭蓋症の胎内診断例は,妊娠中断や胎児死亡に至ることが多い.無脳症や他の大きな内臓異常を伴わない無頭蓋症には長期生存の可能性が示唆され,症例の蓄積が必要である.

  • 田辺 優理子, 田邊 更衣子, 谷村 昌哉, 佐藤 晋平, 荻野 敦子, 中村 充宏, 川田 悦子, 林 信孝, 小山 瑠梨子, 吉岡 信也
    2023 年 59 巻 1 号 p. 67-71
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/05/10
    ジャーナル フリー

     妊娠中のくも膜下出血は非常に稀であるが,母体死亡率の高い疾患で迅速かつ的確な対応が必要とされる.妊娠37週および妊娠24週にくも膜下出血を発症し,母児共に救命しえた2症例を経験したので報告する.症例1は29歳,1妊0産,妊娠37週5日に突然発症の頭痛,嘔吐で発症した右内頸動脈-後交通動脈分岐部脳動脈瘤破裂によるくも膜下出血で,脳動脈瘤コイル塞栓術施行後に緊急帝王切開術を行った.症例2は40歳,1妊0産,高血圧合併妊娠,妊娠24週0日に突然発症の頭痛,嘔吐で発症した左中大脳動脈瘤破裂によるくも膜下出血で,開頭クリッピング術後,慎重に妊娠継続し,妊娠37週0日に選択的帝王切開術を行った.複数診療科と密な連携をとり,個々の症例に応じて柔軟かつ適切に対応することが母児双方の予後を改善することにつながると考えられた.

  • 坂田 美奈, 吉田 晋, 石井 裕友, 大槻 摩弥, 中井 麻稀, 加藤 恵, 伊東 優, 田中 博子, 高橋 良子, 池田 佳代, 髙橋 ...
    2023 年 59 巻 1 号 p. 72-76
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/05/10
    ジャーナル フリー

     当院におけるCOVID-19合併妊婦の経腟分娩を経験したため報告する.当院では2020年3月のCOVID-19流行初期よりCOVID-19合併妊産婦を受け入れてきた.2022年2月までに計74例の入院管理を行い,隔離期間にある妊婦のうち経腟分娩16例,帝王切開7例の計23例の分娩を取り扱った.隔離解除基準や流行状況の変遷とともに症例経験を蓄積し,入院管理や分娩の取り扱い方針も改良を重ねた.隔離期間中に分娩に至る可能性の高い症例に対しては,安全管理の観点から分娩時期や分娩様式について慎重に検討を重ねた.経産婦においては分娩誘発を実施することで,短時間での経腟分娩が可能であると予測し,分娩誘発による計画分娩を実施し,これを安全に取り扱うことができた.COVID-19合併妊婦に対しても,感染防御に配慮した施設環境や人員配置,関係各所との連携を行うことで安全な経腟分娩が実施できると考える.

  • 泉 健吾, 三好 雄大, 杉山 達俊, 青山 藍子, 二井 光麿, 岡本 年男, 長屋 建
    2023 年 59 巻 1 号 p. 77-81
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/05/10
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     動脈管早期閉鎖(premature closure of ductus arteriosus:PCDA)は胎児期に動脈管が閉鎖し,右心不全や新生児遷延性肺高血圧をきたす病態で,予後良好とする報告が多い一方で,稀に乳頭筋断裂による三尖弁閉鎖不全を合併し重篤な経過を辿ることもある.症例は在胎38週6日,体重2,924g,経腟分娩で出生した男児.妊娠28週までの胎児心エコーで異常を認めなかったが,生後全身チアノーゼが遷延し当院へ緊急搬送された.心エコーでPCDAと診断し,乳頭筋断裂,重度三尖弁逆流も認めた.鎮静下での人工呼吸管理,一酸化窒素吸入療法,循環作動薬投与等で急性期を脱したが,三尖弁逆流は退院時にも残存した.PCDAに乳頭筋断裂による三尖弁閉鎖不全を合併した重症例では速やかに三次医療機関で集中治療を開始し,急性期を脱した後も長期間のフォローアップが必要である.

  • 植村 朝子, 中村 学, 石田 博美, 伊藤 朋子
    2023 年 59 巻 1 号 p. 82-86
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/05/10
    ジャーナル フリー

     症例は31歳女性 4妊3産,特に既往症なし.自然妊娠ののち近医で妊婦健診を施行され,妊娠20週から頸管エラスターゼ陽性に対し入院の上ピペラシリンナトリウム点滴を繰り返し投与されていた.29週5日から点滴刺入後の右前腕部に蜂窩織炎様症状と発熱と子宮収縮あり,リトドリン塩酸塩投与を開始された.29週6日に体温40℃の発熱,WBC 24,700/μL,CRP 14.9mg/dLと炎症反応,子宮収縮増強がみられ搬送された.qSOFA score2点と感染所見から蜂窩織炎に伴う敗血症を疑い緊急帝王切開を施行した.術後は救急科医師と協同しICUで管理した.血液培養と蜂窩織炎の排膿部からMRSAが検出されダプトマイシン点滴投与を行った.また胸部CTで敗血症性肺塞栓症と診断した.血液培養の陰性化とCT上の肺塞栓量の縮小を確認し第19病日に退院した.

  • 豊岡 晃輔, 片山 修一, 花木 祥二朗, 岩﨑 恵里子, 高橋 章仁, 脇 研自
    2023 年 59 巻 1 号 p. 87-92
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/05/10
    ジャーナル フリー

     新生児気腹の原因の90%以上は消化管穿孔であるが,まれに手術で消化管穿孔や腹膜炎を認めないことがある.今回,それぞれ緊急手術と保存的加療で治療した新生児気腹の2例を報告する.症例1は在胎22週4日,396gの男児である.日齢10に腹部レントゲンで腹腔内遊離ガスを認めたため,消化管穿孔を疑い,緊急手術を行った.手術で消化管穿孔・腹膜炎・消化管閉塞を認めず,新生児特発性気腹症と診断した.症例2は在胎28週3日,1,134gの男児である.日齢5に腹部レントゲンで腹腔内遊離ガスを認めた.状態が安定していたため,保存的加療を行った.日齢7に腹腔内遊離ガスは消失し,経管栄養を再開した.新生児気腹は多様な原因で腹腔内遊離ガスを認める病態であり,系統的な病態評価を行い,治療方針を決めることが重要である.

  • 金 美善, 石岡 伸一, 倉 ありさ, 山下 真祐子, 根岸 秀明, 齋藤 豪
    2023 年 59 巻 1 号 p. 93-97
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/05/10
    ジャーナル フリー

     経腟的子宮頸管縫縮が不可能な高度子宮頸管短縮症例に対して,近年いくつかの施設において経腹的子宮頸管縫縮術(Transabdominal cerclage;以下TAC)が積極的に行われ良好な妊娠予後が報告されている1)

     しかし本術式は保険未収載かつ一般的な治療ではなく,術式の確立のためには症例を集約化する必要があり,地理的な問題から断念せざるをえない場合もある.今回TAC施行施設で研修を積んだ医師の下,地方周産期センターにて妊娠前TACを施行し術後分娩までの管理を行った.二度の子宮頸部円錐切除既往があり早産既往のある女性に対し妊娠前TACを施行し,術後5カ月にて自然妊娠が成立.切迫早産のため妊娠中期より入院管理を行った.子宮頸管長の短縮なく妊娠36週5日に帝王切開術にて分娩した.TAC前後の妊娠経過を比較しTACの有用性について検討するとともに今後の展望を踏まえて報告する.

  • 藤原 弘之, 渡邊 大輔, 小泉 敬一, 糸山 綾, 篠原 珠緒, 前林 祐樹, 長谷部 洋平, 齋藤 朋洋, 根本 篤, 大矢知 昇, 内 ...
    2023 年 59 巻 1 号 p. 98-105
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/05/10
    ジャーナル フリー

     気管無形成は,出生直後から重篤な呼吸不全をきたす稀な疾患である.今回,気管無形成の臨床経過と診断過程について報告する.

     症例は,在胎32週4日に体重1,686gで出生した男児.出生時に啼泣を伴わない努力様の呼吸運動があった.喉頭に声帯構造がなかったため,気管チューブを食道内に留置し陽圧換気を行うとチアノーゼは改善した.出生時の特異的臨床症状から気管無形成が疑われた.内視鏡検査では瘻孔を介して気管が描出でき,気管無形成と診断した.CT検査ではFloyd分類I型であることと多系統に及ぶ合併奇形がないことを確認した.検査後,心肺機能不全で死亡した.

     気管無形成は臨床所見から本疾患を疑い内視鏡検査やCT検査で迅速に診断し治療へ繋げる必要がある.本疾患は胎児診断されず出生する可能性があるため,各分娩取り扱い施設が臨床所見を再認識し,本疾患が出生した際の診療シミュレーションを行っておくことが重要である.

  • 安福 千香, 市村 信太郎, 山本 ひかる
    2023 年 59 巻 1 号 p. 106-110
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/05/10
    ジャーナル フリー

     先天性両側性横隔膜弛緩症の治療経過中に悪性高熱症を発症し,悪性高熱症の原因遺伝子解析の結果から先天性ミオパチーを合併していると診断した症例を報告する.

     症例は,出生直後から呼吸障害を呈し,両側性横隔膜弛緩症と診断して横隔膜縫縮術を施行した.麻酔薬による悪性高熱症を発症したために行った遺伝子解析の結果,1型リアノジン受容体(RYR1)遺伝子のバリアントが同定され,この結果から遺伝学的に先天性ミオパチーと診断した.

     先天性横隔膜弛緩症は新生児期の呼吸障害の原因となりうる先天性疾患であり,両側例はまれであるとされる.横隔膜弛緩症と神経筋疾患の合併例は過去にも報告されており,既報からは神経筋疾患を合併する先天性横隔膜弛緩症は両側例が多い可能性が示唆され,両側性横隔膜弛緩症と診断した場合は神経筋疾患の合併を念頭に置いて診療を行うことが望ましいと考える.

  • 古来 愛香, 石岡 伸一, 真里谷 奨, 藤部 佑哉, 坂井 拓朗, 染谷 真行, 齊藤 豪
    2023 年 59 巻 1 号 p. 111-115
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/05/10
    ジャーナル フリー

     1型リアノジン受容体(RYR1)をコードする遺伝子の病的バリアントは,いくつかの先天性ミオパチーの発症に関連している.今回,未診断だったRYR1遺伝子の病的バリアントを有する妊婦の2回の妊娠出産を経験したので報告する.症例:29歳G1P0. 既往歴なし.当科外来で妊婦健診を行っていたが,妊娠37週で羊水過多傾向,胎動自覚低下を認め,妊娠38週より分娩誘発を開始した.誘発中に胎児遷延徐脈を認め,緊急帝王切開となった.児は2,596gの男児,Apgar score 2/4(1分/5分)で出生し,floppy infantにて人工呼吸管理となった.その後中心核ミオパチーと判明し,母児にRYR1の病的バリアントがヘテロ接合で認められた.2年後に再び妊娠したが妊娠経過で異常は認めず,妊娠38週で選択的帝王切開となった.児は2,588g,女児,Apgar score 8/9(1分/5分)で出生し筋緊張正常であった.非常に稀だが,母体未診断であったRYR1の病的バリアントを有する症例と考えられた.

  • 榊原 康平, 山田 直史, 児玉 由紀, 小畑 静, 都築 康恵, 村岡 純輔, 青木 良則, 山下 理絵, 中目 和彦, 金子 政時, 桂 ...
    2023 年 59 巻 1 号 p. 116-121
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/05/10
    ジャーナル フリー

     肺リンパ管拡張症(Pulmonary lymphangiectasia;PL)は肺リンパ管拡張を特徴とし,肺胞拡張障害をきたして重篤な呼吸不全を起こす疾患である.今回,ウレアプラズマ肺炎を契機に呼吸状態が増悪し,剖検でPLと診断された症例を報告する.

     症例は超低出生体重児(在胎23週2日,610g,男児).母体は,妊娠23週1日に胎胞形成,23週2日に経腟分娩となった.児はサーファクタント投与後,安定化した状態で人工呼吸管理を行っていた.日齢15にCRP上昇と肺野の透過性低下が認められた.各種抗菌薬治療では改善なく,日齢30の気管内分泌物ウレアプラズマ培養陽性により,アジスロマイシン水和物を開始した.CRPは著減したが,呼吸不全は悪化して日齢44に死亡した.病理解剖では,肺リンパ管がびまん性に拡張したPLと診断した.臨床的にはウレアプラズマ肺炎を契機に顕在化したPLと考えられた.

  • 河野 智考, 森 向日留, 金本 嘉久, 三谷 尚弘, 末光 徳匡, 門岡 みずほ, 古澤 嘉明
    2023 年 59 巻 1 号 p. 122-126
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/05/10
    ジャーナル フリー

     常位胎盤早期剥離(以下早剝)は母児共に予後不良となりうる重篤な合併症であり迅速な診断と対処が必要とされる.早剝に続発して子宮破裂をきたすことは稀である.症例は29歳,1妊0産,開腹子宮筋腫核出術後7カ月目に自然妊娠成立.妊娠25週時に下腹痛を主訴に前医受診.胎盤後血腫と胎児徐脈を認めたため当院へ搬送され,早剝による出血性ショックの診断であった.外出血はなく,搬送後も胎盤後血腫は増大し胎児死亡に至った.母体は播種性血管内凝固症候群へ進展する可能性が高い状態であったため他専門診療科と連携して全身管理を行い,分娩方法を検討する中,突然子宮破裂を合併した.緊急手術により破裂部位を修復し子宮を温存した.術後に挙児希望あり子宮破裂から1年後にセカンドルック手術にて子宮筋層の評価を行った.子宮手術既往のある早剥には子宮破裂が併存する可能性があるため,帝王切開も念頭に集学的管理を行う必要がある.

  • 米本 大貴, 中嶋 美咲, 慶田 裕美, 赤石 睦美, 飯田 浩一
    2023 年 59 巻 1 号 p. 127-131
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/05/10
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     εγδβサラセミアはβグロビン遺伝子群とその遺伝子調節領域の欠失による稀なサラセミアである.常染色体顕性遺伝形式をとり,一部は胎児期から新生児期に重篤な溶血性貧血を呈するが,貧血は生後数カ月で自然軽快し乳児期以降は軽症βサラセミア様症状となる.

     症例は在胎23週,体重602gで出生した男児.出生時にHb 3.6g/dLの先天性溶血性貧血を認め,入院中に5度の赤血球輸血と未熟児網膜症に対する2度の光凝固術を要した.母とその姉妹に新生児貧血の既往があり乳児期以降はサラセミア様症候群と診断されていた.

     母の遺伝子解析で遺伝子調節領域からβグロビン遺伝子群の一部に欠失を認め,εγδβサラセミアと診断した.

     εγδβサラセミアは先天性貧血の原因となる周産期の重要な遺伝性疾患である.貧血は妊娠中期には始まっている可能性があり,妊娠前の診断と早産予防を含めた慎重な胎児,新生児管理が望まれる.

  • 瀬尾 優太朗, 小寺 千聡, 西村 朗甫, 値賀 正彦, 山口 宗影, 齋藤 文誉, 本原 剛志, 大場 隆, 近藤 英治
    2023 年 59 巻 1 号 p. 132-137
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/05/10
    ジャーナル フリー

     子宮破裂の多くは子宮切開の瘢痕部が陣痛発来後に破裂する瘢痕子宮破裂であるが,手術既往のない非瘢痕子宮においても子宮破裂は生じうる.今回われわれは,非瘢痕子宮の下部側壁に生じた不全子宮破裂の一例を経験した.症例は32歳の2妊1産女性で,子宮切開の既往はなかった.妊娠39週6日に3,390gの男児を頭位で経腟分娩した.分娩後1時間で臀部痛が出現し,2時間後に外出血が増加したことを契機に頸管裂傷が疑われ当施設へ搬送された.到着時のショックインデックス(SI)は2.0で腹腔内出血は同定されず,輸血の急速投与を行うもバイタルサインの改善は乏しく,一時的に心肺停止に陥った.心肺蘇生による心拍再開後に施行したCT検査で不全子宮破裂に伴う後腹膜血腫と診断し,子宮全摘出術を施行した.非瘢痕子宮においても,経腟分娩後に外出血と相関しないSIの上昇や臀部痛の出現が認められる場合は子宮破裂の可能性を考慮する必要がある.

  • 小川 真幸, 山下 洋, 古賀 恵, 杉見 創, 山口 純子, 菅 幸恵, 福田 雅史, 安日 一郎
    2023 年 59 巻 1 号 p. 138-142
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/05/10
    ジャーナル フリー

     妊娠期に診断される悪性腫瘍のうち,乳癌は最も頻度が高いものであるが1),胎盤転移をきたすのは稀とされている.今回,母体全身の多発転移とともに胎盤転移をきたした乳癌合併妊娠の1例を経験したので報告する.症例は36歳,1経産,妊娠27週0日で乳癌の肝転移,骨髄転移,および腫瘍性DICと診断された.妊娠27週3日に緊急帝王切開術を施行したが,全身状態は改善することなく術後4日目に母体死亡に至った.胎盤病理検査で,乳癌の胎盤転移を認めた.

  • 矢賀部 彩音, 池田 奈帆, 岩原 可名人, 齋藤 寛貴, 高岡 優里, 西田 江璃子, 羽根 将之, 伊藤 夏希, 大川 夏紀, 鈴木 恭 ...
    2023 年 59 巻 1 号 p. 143-148
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/05/10
    ジャーナル フリー

     先天性異常フィブリノゲン(fibrinogen:Fbg)血症は,無Fbg血症,異常Fbg血症,低Fbg血症の3つの型が存在する.無Fbg血症は,胎児死亡,新生児期の重篤な出血を呈し,周産期管理が重要である.

     症例は,在胎37週5日,帝王切開で出生した日齢0の女児.母体は3妊2産で,第1子妊娠時にFbg低値を指摘され,第1,2子ともに新鮮凍結血漿補充下で帝王切開術を施行され出生したが,その後も母体未診断で経過した.本児は出生時Fbg測定感度以下,PT・APTT高度延長から無Fbg血症と暫定診断しクリオプレシピテートを投与,遺伝子検査でγArg275Hisのヘテロ接合体を検出し,異常Fbg血症と診断した.

     母体Fbg低値を認めた際は,先天性異常Fbg血症を念頭に置き,出産前までに遺伝子解析による確定診断を行うことで母子の予後改善に繋がる可能性がある.クリオプレシピテートは新生児におけるFbg補充に有用である.

  • 亀井 尚美, 平原 慧
    2023 年 59 巻 1 号 p. 149-152
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/05/10
    ジャーナル フリー

     症例は,在胎37週6日,自然分娩にて2,790gで出生した男児.在胎34週2日の胎児超音波検査にて径55mmの腹腔内多房性嚢胞性腫瘤を指摘され,胎児MRI検査所見等から腹腔内リンパ管腫が疑われた.出生後,腹部膨満を認め,上腹部に表面不整で硬い成人手拳大の腫瘤を触知した.造影CT検査にて腫瘍内に石灰化を認め,胃原発未熟奇形腫を疑った.腫瘍は徐々に増大傾向し,酸素投与を要した.日齢14日,試験開腹,胃壁合併切除を伴う腫瘍摘出術を行い,術後の病理組織検査より胃未熟奇形腫と診断された.胃は胃壁合併切除に伴い管状となったが,経口哺乳で体重増加が得られ,日齢42自宅退院となった.まれな疾患であり,術前診断,治療法などについて,文献的考察とともに報告する.

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