日本周産期・新生児医学会雑誌
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58 巻, 4 号
日本周産期・新生児医学会雑誌
選択された号の論文の52件中1~50を表示しています
第58回日本周産期・新生児医学会学術集会記録
会長講演
  • 髙橋 尚人
    2023 年 58 巻 4 号 p. 588-590
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/04/20
    ジャーナル フリー

     ロシアのウクライナ侵攻,気候変動,COVID-19などで,明るい未来を描くのが難しい時代である.私たちは持続可能な世界を,知恵を働かせ精力的に探求する必要がある.この学会は「いのちとヒトの社会に深く関わり,母子と国民の福祉と医療の発展を目指す」学会である.前身の日本新生児学会の第1回学術集会は1965年7月に東京大学小児科の高津忠夫教授を会長として開催された.この第58回学術集会はテーマを「大容量情報時代の世界といのち」とし,「持続可能な世界の探究」と「いのちへの感謝の再確認」をサブテーマとした.

基調講演
招請講演
特別講演
  • 仁志田 博司
    2023 年 58 巻 4 号 p. 596-600
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/04/20
    ジャーナル フリー

     はじめに

     この写真(図1)は生まれて10分後でまだ羊水で頭が濡れている新生児である.すでに目を見開き周囲を見ているのは,人間は進化の過程で高い知能を獲得した脳(頭)が大きいので,経腟で生まれるためには生理的早産で生まれるところから,一人では生きられないため,ケアしてくれる人を探しているのである.新生児医療の歴史はその未熟性に対処する保温・栄養・感染防止の3原則から始まり,1970年代になって呼吸・循環管理が加わった新生児集中治療室が導入され近代新生児医療となった.

  • 大江 和彦
    2023 年 58 巻 4 号 p. 601-603
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/04/20
    ジャーナル フリー

     はじめに

     DX(Digital Transformation)という語を最近いろいろな領域で聞く.この語は諸説があるが,2004年にErik Stoltermanがその著「Information Technology and the Good Life」において,デジタル技術が人間生活のすべての面において起こす,あるいは影響を及ぼす諸変化に焦点をあて,情報通信技術(ICT:Information and Communication Technology)をただ受け入れていくのではなく,それによる人々の社会生活全体を探究対象として生活変革をもたらす流れのこととして,この概念を提唱したことに始まる1).人工知能(AI)やビッグデータとICTが総合的にもたらすこの変革は第4次産業革命ともいわれているが,こうした大きな変革は数10年にわたり我々の社会のあらゆる領域に変化をもたらすため,その只中で生活する我々自身はその変化に気づきにくく,数10年も先に現代を振り返ってみて初めて大きな変革時期であったことがわかるようなものであろう.本稿では,この大きな変革のうねりが医療の世界にどのような変化をもたらそうとしているのかを考察したい.

教育講演
  • 信吉 正治
    2023 年 58 巻 4 号 p. 604-606
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/04/20
    ジャーナル フリー

     アフリカは,インフラ,医療経済,医療従事者,すべてにおいて充足していない.我々が活動するマラウィでは,舗装されている道路は幹線道路のみである.水道普及率は日本の98.05%1)に対し,21.68%1),電気普及率は日本の100%2)に対し,14.87%2)である.GDPは12,001百万米ドル3)であり,日本のGDP4,932,556百万米ドル3)の411分の一である.一人あたりの年間医療費は,日本では35万1,800円4)であるが,マラウィでは,30米ドル5)にすぎない.そして,マラウィは,1,000人あたりの医師数が0.019人6)と,日本の2.60人/1,000人7)の137分の一である.平均寿命は64.69歳(男女計)8)であり,日本の平均寿命男性81.47歳,女性87.57歳9)と比べると20歳ほどの違いがある.

  • 阿久津 英憲
    2023 年 58 巻 4 号 p. 607-610
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/04/20
    ジャーナル フリー

     ヒト初期発生の捉え方

     私たちの身体はたった一つの細胞である受精卵から始まる.発生学的な見地からみると,個体すべてを形成する細胞を生み出す能力は多能性(Pluripotency)とされるが,受精卵は個体形成とその発生に必須な胎盤などの胚体外組織も作成し,「自律的」に個体を生み出す能力,つまり全能性(Totipotency)を有する細胞である.着床前期胚発生といわれる受精から着床までの受精胚発生の期間は,ヒトでは7日間程度とされる.本来,卵管内で受精がおき卵割期を経て胚盤胞期に至った受精胚は子宮内膜に着床するが,受精から受精胚発生が体外培養系(in vitro)で再現可能となることで生殖補助医療が発展してきた.細胞の特性や動態に対して遺伝子発現を網羅的に解析する技術が1990年代に生み出され,哺乳類の着床前期胚発生に対してもその技術を適応することで遺伝子発現のダイナミクスさが明らかになってきた.マウス受精卵では,受精後の胚性ゲノムの活性化や胚発生中期の遺伝子転写活性化など何千もの遺伝子がダイナミックに変動する様子が明らかになるとともに,いくつもの初期胚発生特異的な新規遺伝子が見出されてきた1)2).特定の遺伝子や発現動態が明らかになってくることでその機能性を評価することは生物学的にも極めて重要である.初期胚の遺伝子発現動態(Embryo genomics)の理解では,成育医学的な観点が非常に重要であると考える.つまり,受精からの胚発生は個体発生へと通ずるもので,着床胚発生も個体発生への流れの中で捉える必要がある.

  • 木須 伊織
    2023 年 58 巻 4 号 p. 611-616
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/04/20
    ジャーナル フリー

     はじめに

     世界保健機関(WHO)は,不妊症は1年以上の期間,避妊をしていないのに妊娠に至らない「病気」として定義づけている1).不妊症の原因には,男性因子,卵管・腹膜因子,排卵因子,子宮因子,頸管因子などが挙げられるが,子宮自体の異常が原因である子宮性不妊症に対する治療に対してはこれまで解決策がないのが現状であった.これらの女性が児を得るには代理懐胎や養子制度などの選択肢が残されるが,代理懐胎に関しては多くの倫理的・社会的・法学的問題点を抱えていることにより,わが国では日本産科婦人科学会の会告より許容されておらず,諸外国においても同様な状況である国が多い.このような背景の中,近年,子宮性不妊女性の妊娠出産のための選択肢として,「子宮移植」という新たな生殖補助医療技術が考えられるようになった.海外ではすでに臨床研究がなされ,2014年9月にはスウェーデンにおいて,世界で初めて生体間子宮移植後の出産が報告された2).この報告を機に国際的に子宮移植が新たな医療技術として急速に展開され,わが国での実施も期待されている.本稿では,子宮移植の現状と課題や展望について概説する.

  • 入山 高行
    2023 年 58 巻 4 号 p. 617-618
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/04/20
    ジャーナル フリー

     はじめに

     近年になり,子宮腺筋症と産科異常との関連についての報告が散見されるようになってきた.子宮腺筋症合併妊娠では,早産,妊娠高血圧腎症,前置胎盤などの発生頻度が大きく上昇することが指摘されており,子宮腺筋症は周産期管理上において最も留意すべき疾患の一つであることが認知され始めている.しかしながら,どのような症例が特にハイリスクであるかなど,その臨床像の多くは明らかとされていない.また,先進医療として行われる子宮腺筋症核出術が,術後の妊娠中に子宮破裂のリスクを内包することは知られているが,病巣の除去により子宮腺筋症と関連する産科異常の発生頻度はどうなるのか,妊娠分娩転帰全般に与える影響については明らかとされていない.また,我々の検討により,子宮腺筋症の病巣内において,ある一定の頻度で妊娠中の一過性の変性という事象が生じ,その後の妊娠転帰不良と密接に関連している可能性が明らかとされつつある.本発表では,主として我々の最新の検討結果に基づき,子宮腺筋症合併妊娠の臨床像や妊娠分娩転帰に関し,以下の内容で講演を行った.

    1)子宮腺筋症合併妊娠における産科異常の発生リスク

    2)画像診断に基づいて産科的ハイリスク症例の抽出は可能か

    3)子宮腺筋症核出術が妊娠分娩転帰に与える影響

    4)子宮腺筋症の変性という臨床像の提示と妊娠分娩転帰へ与える影響

    5)至適な周産期管理法についての考察

    本稿では,論文作成中の内容が含まれる等の理由から,1),2),4)の内容について著述する.

  • 前田 貢作
    2023 年 58 巻 4 号 p. 619-622
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/04/20
    ジャーナル フリー

     はじめに

     外科的介入を必要とする気道疾患の中でも,周産期・新生児期にみられる気道の先天異常は治療が困難で,診断・治療の介入時期の遅れが生命をおびやかす重篤な疾患群である.近年,発生学的な研究の進歩により,病態生理の解明とそれに伴う診断・治療の進歩はめざましい1)〜3)

    ・新生児期にみられる呼吸器系先天性疾患としては,主に先天性嚢胞性肺疾患と気道の先天異常に分類される.

    ・いずれも前腸から食道と気道・肺が分化する時点での発生異常として理解することが可能である.

    ・広義のBPFM:bronchopulmonary foregut malformationとして理解される.

    ・新生児期に救命のため気管切開を受けることが多く,このことがさまざまな問題を提起する.

  • 鹿嶋 晃平
    2023 年 58 巻 4 号 p. 623-626
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/04/20
    ジャーナル フリー

     DOHaDと新生児領域における世界のエピジェネティクス研究

     イギリスの疫学者のBarker博士は1980年前後に,低出生体重児が成人後に虚血性心疾患での死亡や2型糖尿病の発症が多いことを報告した.後にBarker仮説,成人病胎児起源説,子宮内胎児プログラミング説とよばれるものである.2000年代以降,Barker仮説はDOHaD仮説に発展される.DOHaD仮説の基本の概念は“developmental plasticity”である.この“plasticity”という言葉は,日本語では可塑性などと訳されるのだが,「plasticな性質」つまり「型どりの間は変化するが,型どりが終わると固まってしまう性質.可変的ではある」ともいえる.Barker仮説がDOHaD仮説に発展して,大きく変ったことの一つは胎児期が主な対象だったものが生後の新生児期・幼児期も含まれるようになったことである.そしてもう一つは,生活習慣病が主な対象だったものが,アレルギー疾患・骨粗鬆症・精神疾患・炎症性腸疾患・悪性腫瘍など疾患全般に広がったことである.

    “Developmental plasticity”の本態は,エピジェネティクスではないかといわれている.エピジェネティクスとは,塩基配列の異常によらず,遺伝子発現の変化に関わるメカニズムであり,メモリーの性質と可逆性の両方の性質をもつメカニズムである.エピジェネティクスは1次元でなく3次元的で,DNAメチル化,ヒストン修飾,microRNA,クロマチンリモデリングなど複数の調節機構がある.ゲノムというデフォルトの構造に,環境の影響が加わることでエピゲノム変化が発生し,うまくいけば環境に適応するし,悪くいってしまうと過剰適応や適応失敗,疾病発症に陥ってしまう.

    エピジェネティクスの中で最も研究されているのが,DNAメチル化である.典型的には,遺伝子の上流にあるプロモーター領域のCpGサイトのシトシンがメチル化されると,メチル基により転写因子の結合が阻害され,遺伝子発現が抑制される.DNAメチル化は安定した性質のため,マイクロアレイなどによる分子疫学評価に利用されることが多い.

  • 加藤 元博
    2023 年 58 巻 4 号 p. 627-629
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/04/20
    ジャーナル フリー

     はじめに

     細胞が増殖し,多様な細胞に分化し,臓器を構成し,組み合わさることで「いのち」が生まれ,次世代に引き継がれる過程は古くから人々の興味を引きつけ,研究がなされていた.このような細胞のふるまいの基盤となる情報はDNAに組み込まれており,先人たちの研究の積み重ねにより,生体がどのようにDNAのゲノム情報を活用しているのかが明らかになってきた(図1).さらにはゲノム科学の進歩によりゲノム情報伝達の過程の停滞や破綻によりさまざまな疾患につながることも我々の知るところとなり,診療にも利用されている.

    本稿では,これまでに明らかになっている「ゲノムの情報伝達の仕組み」について概説する.

  • 松井 彦郎
    2023 年 58 巻 4 号 p. 630-633
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/04/20
    ジャーナル フリー

     超音波技術の進歩により先天性心疾患の診断は,胎児心エコーが中心的な役割を担っています.過去には出生後に心疾患が判明してショックを呈する新生児も多くありましたが,胎児においても,この四半世紀のあいだの心エコーが普及することで,その頻度は大きく減ってきました.日本においても胎児心エコー検査が2010年に保険収載され,一般保険診療として認められています.

  • 近藤 恵
    2023 年 58 巻 4 号 p. 634-636
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/04/20
    ジャーナル フリー

     私はリーベンゼラ宣教団から派遣されている医療宣教師で,2008年からバングラデシュで働いています.一般外科医であり,産科医でも小児科医でもありませんが,帝王切開を手伝う中で垣間見たバングラデシュの周産期の状況をお話しします.

  • 松岡 隆
    2023 年 58 巻 4 号 p. 637-639
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/04/20
    ジャーナル フリー

     はじめに

     人工知能Artificial intelligence(AI)の研究は古く1960年代から始まっている,第一次AIブーム(専門家の高度な思考過程を探求し,そのアルゴリズムをコンピューター上で実現.例:数式処理,ゲームプログラム),第二次AIブーム(多量な知識の獲得と高速検索.例:チャットボット,AI スピーカー)を経て,2000年代に入り,演算処理能力の指数関数的上昇とともに第三次AIブームを迎えている.この第三次AIブームを牽引しているのが機械学習(Machine learning:ML),深層学習(Deep learning:DL)である.機械学習はコンピュータのタスクの性能を,経験によって自動的に改善することができ,それには,①対象のタスクを表現できそうな計算式を仮定する,②訓練データを使って性能が最適になるように計算式のパラメータを変更している,つまり学習である.このような多項式の情報処理のモデルとして考えられているのが所謂ニューラルネットワークであり,複数の入力情報にパラメータをかけて関数としてデータを出力する関数である(図1).この構造があたかも人の神経細胞の樹状突起による細胞同士の結合に似ていることからニューラルネットワークと称されている.このような関数に情報を入力し,出力と照らし合わせる.そのずれに対し,パラメータを少しずつ変化させて修正しある関数を完成(=学習)させる.そうやって完成した関数に対し新たなデータでその効果を試すのが機械学習である.また,現在第3次AIブームの中心的役割である深層学習は,隠れ層といわれるニューラルネットワークの層が3層以上(深層)であり,物事の特徴量を自ら学習することができる.現在あらゆる分野で機械学習・深層学習が応用されているが,その実現には前提がある.十分な量の訓練データがあれば,そのデータ内に潜在する関数を発見できるが,そもそも存在しない関数は発見できないし,関数は存在しても,入力データがすべて揃わないと学習できない.また,訓練データと同じ分布のデータに対して,発見した関数により出力データを推定できるが,訓練に使用したデータと分布が異なるデータは,正しく推定できない.言い換えると,莫大な情報を収集し,飛躍的に高い能力をもつ演算機器(スパコンなど)を用いると,あらゆる現象をAI化できる可能性があり,現在分野を問わず応用が進んでいる(図2).

  • 田中 博明
    2023 年 58 巻 4 号 p. 640-643
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/04/20
    ジャーナル フリー

     はじめに

     日本の周産期領域における蘇生法の歴史は浅く,その中でも新生児分野は早くから取り組まれてきた.一方,妊産婦における蘇生法の標準化・普及は遅れていた.2010年に妊産婦死亡の減少を目的に「妊産婦死亡報告事業」と「妊産婦死亡事例検討評価委員会」が設置され,日本の妊産婦死亡の実情が明らかになった.その後,2015年に妊産婦救急医療におけるシミュレーションの教育・普及を目的とした「母体救急救命システム普及協議会(J-CIMELS)」が設立され,妊産婦蘇生法の研修会が全都道府県で実施されるようになった.これらの様々な活動に加え,周産期医療に携わる医療関係者の努力によって,日本の妊産婦死亡率は徐々にではあるが低下してきている.しかし,妊産婦蘇生に関する標準的なガイドラインは,これまでに存在していなかった.2021年,世界で初めてGRADEシステムを用いた妊産婦蘇生のガイドラインである「日本蘇生ガイドライン2020(妊産婦)」が日本において作成された.本講演では,同ガイドラインの成り立ちから概要までを解説する.

  • 海野 信也
    2023 年 58 巻 4 号 p. 644-646
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/04/20
    ジャーナル フリー

     はじめに─本教育講演の構成

     2017年にわが国で発生した無痛分娩の麻酔関連の重篤な合併症に関する報道は,わが国の無痛分娩を希望する妊産婦とその家族,そしてわが国の一般の方々に対して,無痛分娩の安全性に関する重大な懸念を引きおこした.安全で安心な分娩環境の確保は,医療提供体制確保に責任を有する国および都道府県等の自治体,そしてわれわれ周産期医療に関わる医療従事者として最優先の課題であり,この課題の解決のための精力的な努力が続けられてきた.本講演では,厚生労働省,無痛分娩関係学会・団体連絡協議会(JALA),そして無痛分娩の専門学会という各ステークホルダーが,安全な無痛分娩の診療の提供に向けて取り組んできた過去5年間の歩みとその成果について,紹介した.

  • 家入 里志
    2023 年 58 巻 4 号 p. 647-650
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/04/20
    ジャーナル フリー

     はじめに

     現代医療において情報通信技術の果たす役割は極めて大きな部分を占めており,情報通信網のインフラ整備の拡充に伴い,医療分野における情報共有化は急速に進みつつある.幸か不幸かCOVID-19によりオンライン会議・学会を中心とした情報の共有化が急速に拡大する一方で,依然として医療技術の地域格差は歴然としており,とりわけ低侵襲外科手術を中心とした先端医療技術は,先進国の大都市とその周辺地域の患者しか享受することができないのも事実である.この地域格差を埋める意味で遠隔医療の果たす役割は重要であり,我々はこれまでに国産の手術支援システムを用いた遠隔医療の研究および実証実験を重ねてきた.手術支援システムを用いた遠隔手術は遠隔医療において最も厳しい条件をクリアし,かつ安全性が担保されることが必要となる.本稿では我々がこれまでに行ってきた実証実験の成果をもとに手術支援システムを用いた遠隔手術の普及の可能性と課題に関して解説する.

  • 藤尾 圭志
    2023 年 58 巻 4 号 p. 651-653
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/04/20
    ジャーナル フリー

     はじめに

     近年の分子標的薬の登場により,自己免疫疾患の治療成績は大きく改善している.その中で,若年女性患者のライフイベントをサポートする機会が増え,特に妊娠の管理はますます重要となってきた.特に全身性エリテマトーデス(SLE)は10-30歳女性の発症が多く,治療に際しては妊娠・出産への配慮が重要である.妊娠時には異物である胎児に対する免疫寛容の成立が必須であるが,自己免疫疾患患者では異常な免疫応答が妊娠継続を妨げる要因となる.本稿では自己免疫疾患の免疫寛容の破綻に至る免疫異常と妊娠について,SLEを中心に概説してみたい.

  • 平田 康隆
    2023 年 58 巻 4 号 p. 654-658
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/04/20
    ジャーナル フリー

     心臓手術は1938年PDA結紮術から始まり,1944年のBTシャント,そして,1953年に人工心肺を用いたASD閉鎖を皮切りに飛躍的な発展をとげてきた.なかでも,1975年にJateneにより発表された大血管スイッチ手術は今日でも完全大血管転位に対する第一選択の術式であり,また,Castanedaによって1983年に発表された,完全大血管転位に対する新生児動脈スイッチ手術の報告は,世界の新生児開心術を切り開く大きなきっかけとなった.新生児心臓手術の成績は向上を続け,特に左心低形成症候群に対する治療成績の向上はめざましく,日本においては1996年に左心低形成症候群に対するNorwood手術の死亡率は60%を超えていたが,現在は約15%程度となっている.両側肺動脈絞扼術や右室肺動脈シャントの導入などによる全体的な成績の向上が寄与していると考えられる.しかし,まだ新生児心臓手術の成績は満足できるとはいえず,今後もさらなる改善が必要だと考える.

  • 銘苅 桂子
    2023 年 58 巻 4 号 p. 659-661
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/04/20
    ジャーナル フリー

     頸管熟化の機序とプロスタグランジン

     妊娠から分娩時にかけての頸管の変化は,軟化(softening),熟化・開大(ripening・dilation),分娩後の修復(post partum repair)からなり,これをCervical remodelingとよぶ1).子宮頸管は線維芽細胞,単球マクロファージなどの間質細胞,細胞外マトリクスにより構成され,正期産における子宮頸管の変化では,未熟コラーゲン線維やヒアルロナンの産生増加による水分含量の増加による熟化が起こる1).マウスの子宮頸管コラーゲン繊維断面の電子顕微鏡所見は,妊娠初期から後期にかけて,子宮頸管のマトリックスが劇的に変化することで,頸管が軟化していることを示している2).また,プロゲステロンの低下は頸管熟化や開大のため重要と考えられているが,マウスの頸管上皮ではプロゲステロンの代謝に必要なSteroid 5 alphareductase type 1(SRD5a1)の発現を認めると報告されている2).加えて,プロスタグランジン(PG)は子宮の収縮と頸管熟化の作用を有する.PGEの受容体にはEP1からEP4までの4つのサブタイプが存在し,EP1とEP3は子宮収縮作用,EP2とEP4は平滑筋弛緩作用により頸管熟化を促すとされる(図1)3).PGE2はEP1からEP4までのすべての受容体に作用することで,子宮収縮作用と頸管熟化作用の両方を有する.

  • 永松 健
    2023 年 58 巻 4 号 p. 662-665
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/04/20
    ジャーナル フリー

     はじめに

     近年の妊婦の高年齢化,和痛分娩へのニーズの高まりにともない,分娩第2期に対する器械分娩の重要性が高まっている.器械分娩では,児頭の骨盤腔内での位置や回旋の判断の精度を高めて介入の可否を決定することが母児の安全に直結する.経会陰アプローチによる超音波検査は新たな分娩進行評価法として注目されている.本項では,そうした経会陰超音波法を用いた鉗子分娩での介入の判断について具体的ポイントを解説する.

     なお,本項は第58回日本周産期新生児学会の教育講演24の内容をまとめた2次抄録である.

  • 木村 文則
    2023 年 58 巻 4 号 p. 666-668
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/04/20
    ジャーナル フリー

     がん治療の発展とがん経験者の思い

     若年がん患者の治療の発達によりがんを克服したがん経験者(cancer survivor)が増加している.一方で,がんおよびがんの治療のため本来ヒトとして得られる機会やヒトとして本来兼ね備わっている機能の低下や消失することが問題になってきている.前者は,治療による労働の機会の喪失や学生においては教育を受けられない期間が存在することなどである.さらに後者としてがん治療によっては妊孕性(にんようせい;妊娠できる能力のこと)に影響を及ぼすことが知られており,がん経験者が高率に不妊となることや性ホルモンの分泌低下をきたすことが明らかとなってきている.これらのことからがん経験者は,自己に対する不安を抱えることや自信を喪失することが多いと考えられる.平成27-29年厚生労働科学研究「総合的な思春期・若年成人(AYA)世代のがん対策のあり方に関する研究」(堀部班)により生産世代にある若年がん経験者の多くが,自分の将来,仕事,経済的な状況,不妊治療や生殖機能に不安をいだいていることが明らかとなった(表1).Cardonickら1)は,がん経験者の希望と不安について下記のように論じている.がん経験者が最も幸福感を得ることのひとつに親になることがある.親になるということは,肉体的,社会的な正常性,幸福,人生の達成などを体験することとなり,がん経験者ががんを克服したひとつの形といえるためである.一方でがん経験者は,がんおよびその治療による子供の先天異常,悪性腫瘍の罹患,または成長・発達障害などの子孫に悪影響を及ぼすこと,また,自身のがんの再発,不妊症,流産のリスクなどを懸念している.このような中,生殖細胞の保護や保存し,がんを克服した後に挙児を得る症例が増加している.このような取り組みが先進国を中心になされるようになっている.

  • 窪田 満
    2023 年 58 巻 4 号 p. 669-671
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/04/20
    ジャーナル フリー

     はじめに

     継往開来(けいおうかいらい)とは,先人の事業を受け継ぎ,発展させながら未来を切り開くことだそうである.新生児マススクリーニングにも歴史があり,未来がある.新生児マススクリーニングとは,「生まれてくる子ども全員に適切な検査を行い,障害の原因となる疾病を早期発見し,健やかに育てるための国の事業」である.この本質的なところが意外に認識されにくい.この教育講演では,実際の症例の話ではなく,新生児マススクリーニングの歴史を紐解くところからはじめて,「医療的な側面」「遺伝学的側面」「法的側面」「行政的側面」に分けて,この根幹の部分を考えてみたい.

  • 水野 克己
    2023 年 58 巻 4 号 p. 672-675
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/04/20
    ジャーナル フリー

     はじめに

     哺乳動物であるヒトが出産したわが子を母乳で育てることは,ごく“ふつう”のことである.しかし,女性が身近で子育てをしている様子を見たり,育児にかかわったりすることなく自身の妊娠出産を迎えることが一般的となった現代では,母乳育児が“ふつう”のこととはいい難くなった.母乳には子どもをいろいろな疾病から守る作用があり,母乳の成分研究を経て,特定の母乳成分と疾病との関連についても明らかになってきている.今後,特定の母乳成分を取り出して人工乳に添加し,疾病予防につなげるというトランスレーショナルリサーチも発展していくだろう.

     将来を左右する受精から2歳の誕生日までのthe first 1,000 daysは母乳栄養が望ましい(生後6カ月以降は母乳で不足する栄養を固形食で与える).これはmicrobiomeやepigeneticsの研究からも明らかになってきている.つまり,研究から得られたエビデンスは母乳育児を推奨するものであり,私たち医学者が,母親を根拠のない迷信に基づいた母乳育児の押し付けから守り,母乳育児を“ふつう”のこととして行えるようサポートすることはマストと考える.

     もちろん,人工栄養を選択せざるを得ない場合,人工乳を補足しなければならない場合もある.そのような場合も母親の思いを傾聴したうえで,子どもの健康を守れるよう情報提供をしなければならない.母親に情報提供する際には,母乳育児で問題となりやすいこととその対処方法を母親にわかりやすく伝えることも欠かせない.

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