本稿は,老年従属人口指数に焦点を当て,年齢別人口成長率を用いて各人口変動要因が老年従属人口指数に与える影響を分析するとともに,死亡率改善に伴うライフサイクルの変化に対応した老年従属人口指数について考察を行ったものである。年齢別人口成長率を用いた分析においては,過去の死亡率改善が,今後の老年従属人口指数の増加に大きく影響を与えていることが明らかとなった。また,高いレベルの出生や移入を仮定した人口見通しの分析を通じ,移入者の増加は,当初移動成分を低下させて老年従属人口指数を引き下げる方向に働くものの,時間の経過とともに移入者自身が高齢化し,その効果が弱まってしまう一方で,移入者の出生行動が出生成分に影響を及ぼし,第二世代以降の者の増加による老年従属人口指数の引き下げ効果があることが結果として得られた。また,等価退職年齢に基づく新たな定義による老年従属人口指数では,通常の定義に比べて増加がより緩やかとなっているとともに,死亡率改善の不確実性に関するリスクに一定程度対応していることが明らかとなった。また,近年の死亡率の改善による生存数曲線の変化は,生存年数の不確実性の観点から見た給付の必要性の高低とその水準との間にミスマッチをもたらしている可能性があり,将来のさらなる死亡率改善を現行制度で対応することは,このミスマッチを増大させる方向に働く可能性があることが示唆された。人口変動要因が将来の人口構造の変化を通じて社会・経済に与える影響評価には,幅広い観点からの議論が必要とされるが,本稿で提示した年齢別人口成長率による要因分解やライフサイクルの視点を踏まえた死亡率改善の効果分析などの定量的な分析は各種議論の基礎となり得るものであり,このような人口学的分析を基礎としつつ各種の議論を深めていくことは今後とも重要な課題である
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