本論文は, 1980年10 1日現在における15歳-39歳の年齢5歳階級別日本人口の都道府県間移動(1979年-1980年間)の流出パターン及び到着地選択パターンをNested Logitモデルを用いて説明したものである。到着地選択パターンについては,第1に,物理的距離の強いマイナス効果があるにもかかわらず,到着地選択の性向は接続性と方言の類似性によって強く高められていること,第2に,住宅の変数は,地方交付税交付金やその他の経済的変数による"盗難"効果によって部分的にその説明力が弱められるので,他の変数よりも重要性が薄いこと,第3に,東京,大阪の大都市地域内では郊外県の魅力が高水準の通勤通学移動によって著しく高められていることなどが,明らかになった。流出パターンについては,第1に,流出性向はNested Lositモデルの理論によって表わされる,出発地以外の魅力に大きく関わっていること,第2に,出発地の教育機会を表わす変数は,その説明力が都市度の変数と実質的に重複しているという主な理由で,他の変数よりも重要性が薄いこと,第3に,個人的属性の代替変数は流出性向に関して著しい影響力をもたらすことなどが,明らかになった。とくに,第3の点は,個人データを利用することによって,選択的な人口移動のプロセスの解明を著しく進展させることができることを示唆している。さらに,多くの説明変数の影響力は年齢とともに異なることが示されたほか,グリックマンの見解(1979年)とは反対に,到着地選択及び流出の両プロセスが,中央政府による地方政府への補助金の不均等配分というような政策によって強い影響を受けるということが見いだされた。
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