本症例報告の目的は、足圧中心位置を骨盤帯にバイオフィードバック(BF)する体感型バイオフィードバック装置が重度深部覚障害を有する右片麻痺患者の立位姿勢制御に与える影響を検証することであった。これまで我々は、ヒトの立位姿勢制御における知覚-運動ループの破綻を補うために、脳のクロスモーダルな可塑性に着目した感覚入力型のヒューマン・マシン・インターフェース( HMI )を開発してきた。今回、重度深部覚障害を有する患者へ装置を適応する機会を得たので、触圧覚を代用して足圧中心位置を骨盤帯に振動呈示することが深部覚障害を有する患者の姿勢制御能に与える影響を検証した。対象は、左被殻出血により重度深部覚障害を有する右片麻痺患者1例であった。BF装置を用いた介入(5回)および前後のテスト(各3回)、全11トライアルを実施し、姿勢制御能を示す指標として重心動揺を計測し、その推移を記録した。結果として、BFを呈示したことで一過性に姿勢動揺は増加したものの、介入5回目にはプレテスト時の約0.5倍の値を示した。また、この傾向は特に左右方向の動揺で顕著であった。この結果は脳損傷により重度の深部覚障害を有する患者が、触圧覚による付加的バイパス刺激を介して、知覚-運動ループを再構築できた可能性を示唆する。症例報告のため、今後は対象者を増やすことで一般化に向けての検証実験を要する。
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