脳科学とリハビリテーション
Online ISSN : 2432-3489
Print ISSN : 1349-0044
6 巻
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教育講座
  • 大賀 優
    2006 年 6 巻 p. 1-8
    発行日: 2006年
    公開日: 2018/10/30
    ジャーナル オープンアクセス
    現在の脳機能回復を巡る学問の諸状況に対し, リハ医療従事者は自らの固有の職能である“身体を動かす技法”を最新科学へと結合させることが必須となってくる. その最新科学のひとつとして分子細胞生物学が, また具体的手法として遺伝子治療・細胞療法などが存在する. リハビリテーションと遺伝子治療・細胞療法等分子細胞生物学的手法の併用療法が“脳機能”を回復する21世紀再生医療の主流のひとつとなることは間違いない. 本講演では, 分子細胞生物学的側面からみた“脳機能”と“リハビリテーション”の過去・現在・未来について私見を交えて語り, 両者を架橋していく過程を俯瞰する. さらに実験仮説の設定・In vitroからin vivoへと至る実験系の確立・実験モデル動物や分子細胞生物学をはじめとした手法の選択・結果の解釈等を説明する. Topicsとして, 神経新生・遊走・増殖・分化を司る各種神経栄養因子やサイトカイン・ケモカイン, グリア・血管内皮(前駆)細胞の脳損傷修復への関与, 遺伝子導入システム, 神経回路再構築の足場としてのscaffold, また実験手法としてのenriched environmentおよび神経行動学的検査, 等について言及する.
  • 住谷 昌彦, 真下 節, 宮内 哲
    2006 年 6 巻 p. 9-17
    発行日: 2006年
    公開日: 2018/10/30
    ジャーナル オープンアクセス
    侵害受容器の刺激がなくとも病的痛みは発症し, 大脳レベルで知覚される. また, 末梢神経由来の痛みであっても大脳レベルでの機能的変化を引き起こし, それが更なる病的痛みを惹起することが脳機能画像研究や神経心理学的研究などの進歩によって明らかにされてきた. 本稿では, これら痛み認知の中枢機序(特に一次体性感覚野)と, 痛みによる高次脳機能(身体表象, 空間認知)への影響について触れ, どのような痛みであっても最終的に大脳で認知されていることから, 大脳レベルでの高次脳機能を修飾する神経リハ, 特に幻肢痛をはじめとする求心路遮断性疼痛に対する鏡療法とCRPSに対するプリズム順応療法によって, 疼痛緩和が得られる可能性があることを概説する.
報告
  • 田邉 浩文
    2006 年 6 巻 p. 19-23
    発行日: 2006年
    公開日: 2018/11/13
    ジャーナル オープンアクセス
    CI療法(Constraint induced movement therapy 以下CI療法)は, 片麻痺患者の非麻痺肢をスリングなどで固定して麻痺肢の運動を誘発させる治療法であり, evidenceに基づいた治療法である. 治療効果に関する科学的根拠は, 使用に依存した大脳皮質の再構築(use-dependent reorganization)¹として明らかにされている. 本研究の目的は, CI療法が運動機能面に加え, 日常生活動作の習慣化や感覚障害の改善に影響を及ぼすという仮設を検証することである. 当院でリハを施行中の回復期不全片麻痺患者6名にCI療法を行い, ABAデザインにより介入前後の上肢機能と日常生活上の変化及び手の感覚をみた. 上肢機能は全例で改善し, 知覚テストは4例で顕著な改善を示した. ADL場面においては, CI療法開始前に顕著であった非麻痺手の多用化(優位な使用傾向)は, 終了後減少し, 麻痺手使用の習慣化や両手協調動作の増加が確認された. CI療法は運動機能的側面ばかりでなく, 動作の習慣化(よりオートマティックな運動)や感覚障害の改善にも影響を及ぼすことが示唆された.
  • 小堺 里美, 沼田 憲治, 三岡 相至, 桐田 泰蔵, 阿波根 朝光, 吉田 康成
    2006 年 6 巻 p. 25-27
    発行日: 2006年
    公開日: 2018/10/30
    ジャーナル オープンアクセス
    陳旧性梗塞の機能回復に非損傷半球が脳の可塑性に基づく再組織化に貢献する可能性を示唆する症例を経験した. 症例は83歳, 女性. 脳梗塞と診断. MRI拡散強調画像では右放線冠・基底核部に高信号領域と左前頭葉内側面に陳旧病巣を示す低信号領域を認めた. 病的把握現象は補足運動野, 帯状回吻側部の損傷によって反対側の上肢に出現することが知られており, 本症例においても陳旧性梗塞巣が起因すると思われる病的把握現象を右手に認めた. しかし, 病的把握現象は今回の発症以前よりも, 強く出現し, 右手の非意図的動作(病的把握)によって日常的に物品使用を妨げる場面がより多く認められた. 本症候の出現は陳旧性梗塞巣に一致しており, 今回の右放線冠梗塞が責任病巣とは考えにくく, 本症例は陳旧性梗塞に起因した病的把握は非損傷半球を含む神経回路網の再組織化により改善していた可能性と, 再発症によりその症候の解発が生じた可能性が推察される.
  • 遠藤 博, 高杉 潤, 下馬場 かおり, 沼田 憲治
    2006 年 6 巻 p. 29-32
    発行日: 2006年
    公開日: 2018/10/30
    ジャーナル オープンアクセス
    下肢の拮抗失行は上肢に比べて極めて報告が少なく, その存在も未だ明らかとなっていない. 今回, 下肢の拮抗失行の存在を示唆する症例を経験したので報告する. 症例は62歳, 男性, 右手利き. 今回発症7日後のDWIでは, 脳梁膨大部から体部後方にかけてと右前頭葉内側部, 右頭頂葉皮質下に新たな高信号域を認めた. 神経心理学的所見として脳梁離断症状, 上肢の拮抗失行を認め, 道具の強迫的使用, 病的把握現象は左右手ともに認めなかった. 靴脱ぎ動作では, 右足の遂行に対し, 左足は靴を脱いだ直後に履く行為が見られた. 本症例より, 拮抗失行は上肢における物品使用など高次な認知動作で出現するものであり, 歩行や基本動作など粗大な運動を阻害しないが単肢の随意運動の障害(錯行為)が問題となりえることが推察される,
  • 高杉 潤, 高木 松乃, 高橋 順子, 沼田 憲治
    2006 年 6 巻 p. 33-37
    発行日: 2006年
    公開日: 2018/10/30
    ジャーナル オープンアクセス
    純粋失読とは音読と読解だけがほぼ限局して障害される症状で, それ以外の話し言葉の理解, 復唱, 書き取り, 自発書字, 自発話等はほとんど障害されない. 純粋失読に関する報告は多くあるが, 読みの障害に関する臨床的特徴について症例の内省を含めて記載, 分析された報告は少ない. 今回, 左後大脳動脈梗塞後に純粋失読を呈した症例の読みの障害について, 内省報告を含めた臨床徴候および病巣や脳のメカニズムから検討した. 本例の読みの障害は, 病巣や種々の内省報告から, 左後頭葉内側面と脳梁膨大部を責任病巣とする古典型の純粋失読であることが示唆された. また, なぞり読みの誤りの特徴から純粋失読のみならず, 一部, 右半側空間無視による影響も推察された.
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