脳科学とリハビリテーション
Online ISSN : 2432-3489
Print ISSN : 1349-0044
9 巻
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教育講座
  • 肥後 範行
    2009 年 9 巻 p. 1-10
    発行日: 2009年
    公開日: 2018/10/30
    ジャーナル オープンアクセス
    成熟した脳が損傷を受けた場合に, 失われた神経細胞は基本的に再生することはない. したがって, 代償的な神経回路の再編成が生じることが, 機能的再建の主たるメカニズムだと考えられている. しかし現在においては, 脳の損傷後にどのような神経回路の再編成が生じるのかに関する知見は少ない. 私たちは, 人に近い脳構造と筋骨格構造を持つサルを用いて, 運動出力を担う主要な皮質領野である第一次運動野に限局した損傷を作成したときの機能回復過程を調べてきた. これまでの研究により, 上肢運動の回復過程には損傷後の運動訓練を行わなくても回復する要素があるが, 特に拇指と示指を対立させた指先でのつまみ把握(精密把握)の回復は運動訓練により促進されることが明らかになった. また, 脳機能イメージングと遺伝子発現を調べた実験から, 精密把握回復の背景として, 運動前野腹側部における神経回路の機能および構造的再編成があることを明らかにした.
シンポジウム
レクチャー
報告
  • 高杉 潤, 沼田 憲治, 松澤 大輔, 小出 歩, 阿部 光, 村山 尊司, 中澤 健, 清水 栄司
    2009 年 9 巻 p. 29-34
    発行日: 2009年
    公開日: 2018/11/13
    ジャーナル オープンアクセス
    ミラーセラピー(MT)の主な治療法略は健側肢の鏡像の運動観察によって鏡背後の患側肢に運動覚を誘発させる点にある. 一方, 鏡像の感覚刺激観察によって体性感覚(referral somatic sensation:RSS)が誘発されることも報告されている. 脳卒中後の体性感覚障害例もRSSは誘発されるが, その後の即時的な感覚閾値の変化や効果について明らかではない. そこで被殻出血後に感覚脱失を呈した2例に対し, ミラーボックス介入を試みた. 結果, 1例は麻痺手にRSSが顕著に即時的に認められ, 介入後も感覚脱失の一過性の改善が確認された. もう1例は受動的な触刺激ではRSSは誘発されず, 能動的触知覚にてRSSが誘発された後, 受動的な触刺激でも徐々にRSSが誘発された. 介入後も一過性の知覚改善が認められた. RSS誘発の要因は刺激種類や症例によって異なること, またMB介入によってvisual-tactile enhancementをさらに増強させる可能性が推察された.
症例報告
  • 大塚 裕之, 沼田 憲治, 高杉 潤, 松澤 大輔, 中澤 健, 清水 栄司
    2009 年 9 巻 p. 35-40
    発行日: 2009年
    公開日: 2018/11/13
    ジャーナル オープンアクセス
    右半側空間無視(USN)例の報告は少なく, またそのメカニズムは明らかではない. 今回左MCA領域脳梗塞後に慢性期まで右USNが遷延した自験例について報告する. 症例は89歳女性右利き(発症後1年3ヶ月経過). MRI所見では, 左MCA領域の病巣の他に両半球にleukoaraiosisを認め, 血管造影では右内頚動脈の中等度狭窄を認めた. 神経学的所見は, 軽度な意識混濁と運動性失語を伴うも短文理解は可能であった. 右上下肢は重度錐体路障害を伴い, 右方向への滑動性眼球運動の低下が認められた. 神経心理学的所見は, 線分二等分試験の左偏移および, 視覚性探索において右視空間方向に対するdirectional hypokinesiaを認めた. 右USNのメカニズムとしてWeintraubらは, 両側半球の病巣により右視空間への注意が補えず重症化することを報告した. 本症例もこれを支持し, 左半球損傷とともにleukoaraiosisによる白質損傷が存在したことで右USNからの回復を阻害された可能性が示唆される.
  • 川上 貴弘, 村山 尊司, 戸坂 友也
    2009 年 9 巻 p. 41-44
    発行日: 2009年
    公開日: 2018/11/13
    ジャーナル オープンアクセス
    身体パラフレニア(Somatoparaphrenia;以下SP)は, 病態失認を伴い多くは麻痺肢に認めるものであるが体幹部に限局して出現した報告例はない. 今回, 右頭頂葉皮質下出血後に体幹部に人格化を呈した症例を経験した. 症例は80代女性で, 左上下肢に明らかな運動麻痺は認めないものの, 立位・歩行場面で姿勢保持に障害を呈した. さらに病態失認に加え, 立位・歩行場面に限局して体幹部に「孫」という人格の存在を認めた. 本例の運動障害は, 臨床所見より頭頂連合野損傷に伴う感覚統合処理障害に起因した姿勢保持障害であると考えられた. 体幹部に認めた「孫」の存在は, SPの様相の1つである人格化を呈したこと, 責任病巣と推定される右頭頂葉の損傷を認めている点から体幹部に生じたSPであると推察された. SPの背景となる障害の相違により, 出現部位に差異が生じる可能性が考えられた.
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