末期腎不全患者の増加に伴い,腎移植需要は世界的に拡大しているが,深刻なドナー不足が依然として大きな課題となっている。とくに日本では献腎移植待機期間が極めて長く,新たな臓器供給源の確立が求められている。このような背景から,異種移植(xenotransplantation)が再び注目されている。近年,CRISPR/Cas9を用いた遺伝子改変技術の進歩により,異種抗原除去,補体制御,凝固制御,炎症制御を目的とした多遺伝子改変ブタ(multi-gene edited pig)が開発され,異種移植研究は大きく進展した。さらに,CD40-CD40L共刺激阻害を中心とした新規免疫抑制療法の導入によって,ブタ‐霊長類間異種腎移植の長期生着が達成されつつある。近年では,ヒト脳死体モデルや臨床応用例も報告され,異種腎移植は臨床応用段階へ移行しつつある。一方で,異種移植には拒絶反応のみならず,感染症,生理学的不適合,倫理的・社会的課題など,多面的課題が存在する。とくにPERVやPCMVなどの人獣共通感染症リスクへの対策が重要であり,指定病原体フリー(DPF)環境下でのドナー管理や長期感染モニタリング体制が求められる。異種腎移植は,ドナー不足という移植医療最大の課題を根本的に解決しうる可能性を有する。一方で,長期安全性や社会的受容性の確立が不可欠であり,今後は医学のみならず,倫理・法制度を含めた包括的議論が重要となる。
抄録全体を表示