ヒトの運動における律動的筋緊張のメカニズムは相反性抑制によるものと考えられ、相反性抑制に異常をきたす中枢神経系の代表的疾患である脳卒中片麻痺患者の歩行に焦点を絞り、歩行時の筋緊張がもたらす内反尖足による異常歩行の原因をヒラメ筋H反射を用いて分析・研究した。本研究は、脊髄神経調節機構の相反性抑制への理学療法の可能性を検討するものであり、裸足歩行と短下肢装具での歩行において理学療法の1つの可能性が示唆されたので報告する。対象は軽度の運動機能障害をもつ脳卒中片麻痺患者2名で、時速1 km/hで15分間のトレッドミル歩行を課題とし、歩行の前後と15分後にヒラメ筋H反射による相反性抑制効果を測定分析した。片麻痺患者のうち1名に短下肢装具による変化も同様の手続きで測定した。測定効果の判定は、試験刺激のみによるヒラメ筋H反射の振幅を基準として、各条件-試験刺激間隔(0, 1, 2, 3 msec)のH反射の振幅比から求めた。痙性片麻痺患者2名は、条件-試験刺激間隔の2 msecと3 msecで歩行前に抑制効果がみられたが、歩行直後に相反性Ia抑制が消失し、歩行15分後でも相反性Ia抑制が消失していた。また、短下肢装具による歩行による相反性抑制の効果を調査した結果、歩行前の2シナプス性Ia抑制が歩行直後、15分後に維持されており、脊髄神経調節機構への理学療法の可能性を期待するものであった。
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