土木学会論文集B2(海岸工学)
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論文
  • 平山 克也, 濱野 有貴, 吉澤 章太, 石尾 将大, 吉岡 健
    2022 年 78 巻 2 号 p. I_1-I_6
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/11/01
    ジャーナル フリー

     洋上風力発電設備に関する技術基準の統一的解説では,非線形不規則波の時刻歴波形の具体的な生成方法として,制約付き波浪法,数値波動水路(CADMAS-SURF)が示されている.本研究ではこのうち,すべての個別波に対して非線形性が考慮される後者を取り上げ,NOWT-PARIと接続することで計算負荷を削減する平山・中村(2015)による単一成分波近似法の汎用性向上を図ることを目的とした.

     単一成分波近似法では,波動モデルで算出される時々刻々の水位と代表流速を単一成分の波の理論式で表現し,直接流体解析法との接続計算に用いる水平流速の鉛直分布を推定する.入力波形の波速比を補正する等の改良を施した結果,設備近傍の接続境界で造波した時刻歴波形が元の入力波形と一致する場合には,設備に作用する水平流速の鉛直分布をCADMAS-SURF/2Dにより効率的に算定できることを示した.

  • 郭 德杰, 細山田 得三
    2022 年 78 巻 2 号 p. I_7-I_12
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/11/01
    ジャーナル フリー

     離岸流や海浜流は水難事故や海浜変形を理解する上で基本となる現象である.離岸流の動態や形態,特にセル構造の成因についてはいまだに未解明である.これらの現象を実験で制御することが極めて難しいことから数値計算手法によって平均場を求める方法を工夫して離岸流,海浜流の時間平均場を時々刻々と算出する手法を適用して海浜流の動態を抽出することを試みた.その結果を示すとともに既往研究との比較を行った.入射波は汀線に直角方向に限定し,地形も沿岸方向に一様とし,規則波を1時間程度作用させて沖向き方向の海浜流の生成を確認した.離岸流セルの発生間隔が既往研究と一致すること,ウェーブセットダウンによるに水面変動を確認した.

  • 高橋 武志, 鈴木 高二朗
    2022 年 78 巻 2 号 p. I_13-I_18
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/11/01
    ジャーナル フリー

     CADMAS-SURF(以下,CS)は,非圧縮性単相流体を解析するCFDモデルである.CSはVOF法で自由表面を表現し,自由表面境界流速は流体内部から外挿される.外挿方法として線形外挿が標準であるものの,速度勾配が強い条件下では計算安定性が低下する.一方,計算安定性が高いゼロ勾配外挿は,波浪減衰や砕波鈍化等の欠点がある.そこで本研究は,両者の短所を補う変動勾配外挿を実装し,その効果を検討した.変動勾配外挿を用いた場合,混成堤マウンド部において砕波面が静水面へ突入するような速度勾配が強い条件でも計算が安定した.また,一様水深における波浪伝播では波浪減衰を抑え,一様勾配における砕波では合田(1970)の砕波指標を良く再現した.変動勾配外挿は,従来の手法よりも計算安定性や現象再現性に優れた計算手法として,今後の活用が期待される.

  • Tianning CHEN, Akio OKAYASU
    2022 年 78 巻 2 号 p. I_19-I_24
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/11/01
    ジャーナル フリー

     This study focuses on the size effect of simulated pipe to the terminal velocity of free-falling solid body in a vertical pipe with highly viscous fluid. The Navier-Stokes equations are employed as governing equations and Moving Particle Semi-implicit (MPS) is chosen as the numerical method. A rigid body model for solid is also applied. The solver of the Pressure Poisson Equation (PPE) is GPU accelerated. The moving speed of “inlet particles” on the bottom is dynamically adjusted according to the solid’s vertical velocity, so that the inlet velocity can represent the solid’s terminal free-falling velocity in cases with normal boundary conditions. Numerical experiments of both 2-D and 3-D are conducted. Various parameters such as density, viscosity and ore’s diameter are also considered. The results show that the inlet velocity increases as the simulated pipe’s width or height gets larger.

  • 大久保 雅浩, 有川 太郎
    2022 年 78 巻 2 号 p. I_25-I_30
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/11/01
    ジャーナル フリー

     3次元数値計算を用いて砕波点(砕波水深)を推定することは,耐波設計への適用や砕波に関連する現象の解明のために重要である.本研究では,CAMAS-SURF/3Dを用いて一様海底勾配1/10,1/20,1/30に対する規則波の砕波変形計算を格子条件を変えて行い,格子条件ごとの砕波点を砕波指標および水理模型実験と比較し精度検証を行った.結果,砕波波高の20分割程度のz方向格子幅と格子比率(x方向格子幅/z方向格子幅)が1か2程度のx方向格子幅を格子条件として用いることで,砕波指標と誤差率が±20%で砕波点を計算でき,砕波指標と水理模型実験の平均二乗誤差の範囲内にあることから,砕波点を砕波指標と水理模型実験と同等の精度で評価することが可能であることを示した.

  • 猿渡 亜由未, 小林 正法, 渡部 靖憲
    2022 年 78 巻 2 号 p. I_31-I_36
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/11/01
    ジャーナル フリー

     大気海洋間の熱輸送現象における波飛沫の寄与は大きく,その影響を評価することにより大気海洋間熱輸送モデルを高精度化できる可能性について指摘されてきた.本研究では気流中に浮遊する液滴周辺の空気の屈折率と密度を画像計測した.静止空気中の液滴は蒸発過程を経て冷却された空気に取り囲まれているが,気流中では冷却空気が相対風下方向へ移流される様子が可視化された.風速の増加に伴い液滴の熱境界層厚さが低下していき,それに対応して液滴の蒸発速度が増加した.微細な飛沫は周囲の気流にほぼ追従して運動するため相対的な気流速度は小さいと考えられるが,微弱であっても気流が存在する場合,熱境界層の剥離と境界層厚の低下により液滴を介した熱輸送が促進されることが明らかとなった.

  • 渡部 靖憲, 藤澤 蓮, 猿渡 亜由未
    2022 年 78 巻 2 号 p. I_37-I_42
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/11/01
    ジャーナル フリー

     本研究は,広域方向から面的集中する波浪の伝播と発生する短波峰砕波の数値解析を行い,長波峰砕波との比較を通して,砕波過程,特に渦及び乱流構造,時間平均流の波峰長依存性を議論するものである.一定海底勾配の下,浅水変形を伴いながら面的集中する砕波過程および生成される渦構造の波浪周期及び交差角依存性が明らかになった.長波峰砕波で確認されている交互交代渦度が現れる肋骨渦構造が面的集中砕波下にも形成されるとが明らかになった.波浪集中が発生する場において,波の進行方向に対して一定間隔の波高の振動が観察されたため,時空間スペクトル解析によりその原因について議論した.

  • 五十里 洋行, 後藤 仁志, 脇嶋 可成
    2022 年 78 巻 2 号 p. I_43-I_48
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/11/01
    ジャーナル フリー

     不規則波は様々な周波数や波高を持った波群により構成されるが,それを数値的に再現するためには十分なエネルギー保存性を有した数値モデルでないと,伝播中の波高減衰により目標とする波群の生成が難しい.既往の粒子法型モデルはエネルギー保存性が十分ではなく,これまで不規則波の長距離伝播計算の成功例はなかった.そこで本研究では,高精度MPS法の計算アルゴリズムの修正を行った.本モデルの検証として実施した容器内定在波計算ではエネルギー減衰の解消が確認され,また,孤立波の長距離伝播計算においても波高減衰は発生しなかった.そこで,水平床上の不規則波計算を実施したところ,造波板から十分に離れた地点においても入射波条件と同等の周波数スペクトルが得られ,本モデルの不規則波計算への有効性が示された.

  • 渡部 靖憲, 黒田 晴希
    2022 年 78 巻 2 号 p. I_49-I_54
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/11/01
    ジャーナル フリー

     本研究は,面的水面計測を実現するdiffusive light photographyを風洞水槽内で発達する水面形状計測に適用し,フェッチおよび風速に依存した波面形状並びに指向性の変化について議論するものである.風波発生初期において,風向きに対して斜めの指向性を持つ交差波の多重反射系が発生する一方,フェッチの増加と共にこの交差波は減衰し,スパン方向に一様な波峰をもち風向き方向に伝播する風波へと遷移する.風波砕波が発生しspumeによる飛沫放出が生じると,風速に対して顕著な抵抗がはたらくことが示唆された.初期波の発達を通した周波数‐波数間のエネルギー輸送について,時空間スペクトル解析によって議論した.

  • 宮下 卓也, Tung-Cheng HO , 森 信人, 志村 智也
    2022 年 78 巻 2 号 p. I_55-I_60
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/11/01
    ジャーナル フリー

     本研究は主に静岡県の駿河湾湾内の沿岸地点を対象に,地形による津波の周波数応答特性を推定した.まず,南海トラフ地震想定域で確率過程に基づいた震源断層モデルを多数生成し,それぞれについて津波計算を実行した.次に,沿岸地点と波源域において,計算した津波時系列波形のスペクトル解析を行い,互いのスペクトル比から,伝播過程で生じる周波数特性の変化を抽出した.多数の地震津波シナリオ間のアンサンブルによって得た地形による応答関数の卓越周期は,湾の形状から概算される共振周期と概ね一致した.この詳細な応答特性の解明は,津波の振幅の予測や継続時間の定量評価への応用が期待できる.

  • 田中 仁, Nguyen Xuan TINH
    2022 年 78 巻 2 号 p. I_61-I_66
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/11/01
    ジャーナル フリー

     近年,津波の下での底面境界層に関する現地調査・数値計算が行われ,2010年チリ地震津波の際の水深10mでの現地観測結果によれば,その流速分布は定常流型の境界層とはならず,波動型境界層の振る舞いを示すことが報告されている.また,深海部においては層流になっているとの興味深い報告も見られる.このため,浅水変形過程の津波は波動境界層としてのフローレジームの遷移,さらには波動境界層から定常流型境界層への水深制限に関する遷移を経験することとなる.そこで,本研究においては,この二つの遷移過程が津波の波高低減に対して及ぼす影響を検討し,特に,従来,多用されている定常流摩擦係数による結果との相違を明らかにした.今回扱ったケース(波源での波高1m,周期15分)では,使用する抵抗則の影響は水深約5 m以浅の領域において顕著に見られることが判明した.

  • 渡部 靖憲, 七澤 梨花
    2022 年 78 巻 2 号 p. I_67-I_72
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/11/01
    ジャーナル フリー

     本研究は,burstingを通した自由水面遷移及び流体運動とflim及びjet dropの形成機構について超高速マイクロ可視化実験及び安定性解析から説明しようとするものである.Bubble capの崩壊過程について,burstingによる液膜の穴の周りに生じるリムの移動速度とbubble cap径の関係を経験的に求めると同時に,film dropの発生原因となるリム上のフィンガーの発達を解析的に説明した.jet dropについて,泡沫崩壊後に生じる同心鉛直ジェットの速度並びに放出される液滴径を結合するパラメータを検討し,淡水,海水のそれぞれに対してBond数,Laplace数,毛管数による経験的推定法について議論した.

  • 猿渡 亜由未, 今 南実, 渡部 靖憲
    2022 年 78 巻 2 号 p. I_73-I_78
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/11/01
    ジャーナル フリー

     冬季の高潮外力となる爆弾低気圧は大気の傾圧性により発生する温帯低気圧であるものの,その急速な発達には海上の湿潤な大気による潜熱輸送が寄与していることが近年明らかになっており,今後の気候変動に伴う海面水温の上昇に伴い強大化が懸念される.本研究では将来気候データベースd4PDF収録データに基き経路タイプ毎に分類された爆弾低気圧の将来気候における特徴と,爆弾低気圧に誘発される冬季高潮の確率水位の変化について考察する.海面温度の高い黒潮上を進行する太平洋上北上タイプの低気圧の発達速度は将来気候において増加した.またそれにより相対的に緯度が低くこれまで冬季高潮が起こりにくかった海域における将来の確率水位が上昇し,経路や発達速度などの条件によってはその様な海域で有意な水位上昇が生じ得ることが明らかとなった.

  • 園田 彩乃, 宇都宮 好博, 松藤 絵理子, 内田 洋平, 鈴木 隆宏, 窪田 和彦, 鈴木 善光, 内田 裕之
    2022 年 78 巻 2 号 p. I_79-I_84
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/11/01
    ジャーナル フリー

     近年,地球温暖化に伴う海面上昇やスーパー台風の発生等により高潮被害が従来よりも甚大化することが危惧されており,高潮予測の必要性が高まっている.台風経路の僅かな違いにも大きく影響される高潮に対し,アンサンブル気象予報を用いた高潮予測システムの構築のため,高潮モデルの妥当性を検証後,2020年よりリアルタイム予測を試行した.本稿では,潮位偏差に着目し,使用したアンサンブル気象予報と気象観測値を比較しつつ予測結果の検証を行った.加えて,使用するアンサンブル気象予報の違いで生じる最大潮位偏差及びその発生時刻の予測結果の差異についても検討した.

  • 伊藤 駿, 森 信人, 志村 智也, 宮下 卓也
    2022 年 78 巻 2 号 p. I_85-I_90
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/11/01
    ジャーナル フリー

     台風の可能最大強度理論(MPI)にもとづき,可能最大高潮モデル(MPS)を用いて,日本三大湾における最大クラスの高潮偏差の将来変化予測を行った.高解像度および大気海洋結合モデルを含むHighResMIP実験の30モデルの気候予測データを用いてMPSを推定し,高潮将来予測における海洋結合の有無の影響を解析した.北西太平洋において,北緯30~40度帯,9月にてMPIの将来変化が最大となり,2050年までにRCP8.5シナリオにて-6.1hPaの強化であった.大阪湾でのMPSの変化量が最も大きく,2050年までに+0.56mの上昇量となった.湾付近でのSSTに対するMPSの感度分析を行い,海面上昇に加えて高潮偏差の変化を考慮することが適応策にとって重要であることを明らかにした.

  • 北野 利一
    2022 年 78 巻 2 号 p. I_91-I_96
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/11/01
    ジャーナル フリー

     極大波高の空間的従属性は,気候変動による台風の強大化のためリスクが集積する観点から,防災・減災計画に考慮されるべきである.その際に,同一の気象擾乱による高波の極値が同じ年の年最大値になる割合として定義される合致率という指標が役に立つだろう.2変量極値の依存特性を整理した上で,導入する階層モデルが,2変量から3変量へと交差生起率を拡張する場合に,新たにパラメータを追加する必要が無い最も単純なモデルとなることを示した.3港の高波記録への階層モデルの適用例を提示するとともに,Husler-Reissモデルと比較した.

  • 片山 裕之, 鵜飼 亮行, 菅原 弘貴
    2022 年 78 巻 2 号 p. I_97-I_102
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/11/01
    ジャーナル フリー

     港湾の潮位特性の把握は重要である.設計潮位は所定の再現期間を有する確率潮位を採用することが多く,長期間の潮位観測記録が求められるが,データの統計年数が不足することが多く外挿予測とならざるを得ない.本検討では,日本沿岸の気象庁験潮所の潮位データ(1998〜2020年)を整理し,全国の潮位特性の把握を主に高潮偏差の確率的観点から試みた.また潮位データの統計年数についても考察を加えた.その結果,類似地形の近隣では確率高潮偏差の値や最適分布関数が類似する傾向があり,最適分布関数はワイブル分布が多く,極値II型が最適分布関数となる地点では観測最大高潮偏差の再現期間が50年を超える傾向が見られた.確率値の検討には長期間の統計データが必要だが,期間が短くても極大値統計によりMIR基準が下がれば推定誤差を同等にできる可能性がある.

  • 澁谷 容子, 森 信人
    2022 年 78 巻 2 号 p. I_103-I_108
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/11/01
    ジャーナル フリー

     海上工事では,日々の波浪予測情報をもとに施工可否の判断が行われることが多く,ケーソン据付などでは,1週間程度先の予測情報が必須となる.一方で,施工計画の段階では,作業船の稼働率の推定などには数ヶ月単位の中長期的な予測情報が必要である.本研究では,統計的波浪モデルを用いて,6か月先までのアンサンブル波高の予測を行い,中長期の波高予測の精度検証および可能性の検討を行った.予測期間が長いほど,予測波高と観測値との乖離が大きくなり,日本海側では過大評価傾向であることが確認された.しかし,冬場の日本海側では観測値と予測波高の全体としての相関が0.9程度であり,中長期の波高予測がある程度可能であると考えられる.しかし,太平洋側においては,予測期間が長くなると相関が低くなり,地形的が複雑な地点においては観測値との誤差が大きいことから,精査が必要であることがわかった.

  • 野間 真拓, 水谷 夏樹
    2022 年 78 巻 2 号 p. I_109-I_114
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/11/01
    ジャーナル フリー

     波浪予測にニューラルネットワークを用いることは,深いドメイン知識を必要とせず地域毎に少ないコストで導入できる利点がある.一方で,ニューラルネットワークの説明変数として気象場の再解析GPVデータを利用することが多く,リアルタイム波浪予測の妨げとなっている.本研究では,リアルタイム波浪予測を目指してアメダスおよびナウファスの観測データを用いたニューラルネットワークを構築し,神戸港での波高および周期を予測した.説明変数の組み合わせやSHAP値から,各説明変数の予測精度に対する寄与についてある程度説明することができた.その上で,予測精度向上には風上側の適切な距離にある風の情報が重要であること,さらに波浪(波高と周期)の履歴情報の貢献度が極めて高いことを示し,特に波高については実用十分な精度で予測することができた.

  • 増田 和輝, 金澤 剛
    2022 年 78 巻 2 号 p. I_115-I_120
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/11/01
    ジャーナル フリー

     洋上風力発電施設の建設工事等の海上工事の実施において,工程管理上,波浪予測の需要は高い.波浪予測に関して,深層学習を用いたモデルが近年では数多く開発されている.しかし,その多くのモデルがNOWPHAS観測地点におけるピンポイントな波浪予測である.工事に適用する際に,NOWPHAS観測地点から離れている場合や作業船や資材の長距離移動を伴う場合にはそれらのモデルを利用できない.既往研究のモデルで複数地点を予測する場合,地点毎にモデルを作る必要があり,労力がかかる.本研究では単一のモデルで複数地点の波浪予測を精度良く行うことを目的として,深層学習の1種である深層生成モデルを用いて,面的な波浪予測手法を開発した.

  • 上谷 大陽, 鈴木 直弥, 池田 篤俊
    2022 年 78 巻 2 号 p. I_121-I_126
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/11/01
    ジャーナル フリー

     気候変動の予測など様々な地球環境のモデリングにおいては,大気・海洋間運動量などの正確な計算が重要である.しかしながら,計算式の中には,抵抗係数など,現場計測されるデータの精度によって影響を受けるパラメータがあり,洋上における高精度かつ高頻度な風速と波浪の同時計測手法が必要となる.

     本研究では,限られた現場領域での高精度および高頻度な波浪計測を実現するため,小型ブイに搭載した複数のIMUセンサを用いて波周期・波高・波向きの3つの波情報を推定する手法を提案する.提案手法は,波に同調するよう設計した小型ブイに2台のIMUセンサを搭載し,小型ブイの運動幾何拘束を利用したセンサデータの統合によってセンサの器械誤差と計算による積分誤差を低減する.風波水槽を用いた実験によって,提案手法による波周期・波高・波向きの推定精度を示す.

  • 宮下 侑莉華, 中村 友昭, 菊 雅美, 趙 容桓, 水谷 法美
    2022 年 78 巻 2 号 p. I_127-I_132
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/11/01
    ジャーナル フリー

     海岸の長期的なモニタリングへの活用を目的として,海岸に設置されたカメラの画像に深層学習を適用し,波浪の推定を試みた.三重県の七里御浜井田海岸,茨城県の波崎海岸の画像に,NOWPHASより得られた波浪情報をラベル付け,各波浪情報と画像の撮影方向による推定精度を比較した.その結果,既往研究において良好に推定できた波の打上高に加え,有義波高を良好に推定することができた.また,海岸ごとに有義波高の推定に適した画像の撮影方向が異なることが示された.機械は有義波高を過小評価する傾向があるものの,波の入射方向とは異なる方向を捉える画像や複数の撮影方向の画像を用いることで過小評価の傾向が改善し,推定精度を向上させる可能性が示唆された.潮位を入力データとして扱うことは機械の推定精度に大きな影響を与えなかった.

  • 田中 健路, 石丸 克弥, 鈴木 悠太, 村上 太一
    2022 年 78 巻 2 号 p. I_133-I_138
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/11/01
    ジャーナル フリー

     2022年1月15日に南太平洋上のフンガ・トンガ―フンガ・ハアパイ火山噴火に伴い,顕著な気圧変動を伴うLamb波等の衝撃波が全球を周回し,世界各地の海岸で火山性気象津波の到達と見られる潮位変化が観測された.本研究では,上空の風の場が洋上での海洋波の増幅に与える影響を明らかにすることを目的として,Princeton Ocean Modelを用いた解析を行った.無風条件下の計算では,海面変動が実測値の50~60%程度の振幅規模に留まった.モデル化した強風軸を与えた計算では,四国沖の観測点で無風条件と比べて約1.3~1.5倍,東北沖の観測点では約2.5~3.0倍の振幅が増大した.また,風の影響を考慮に入れた場合の方が,後続波に対応する周期10分前後のスペクトルのピークが明瞭であり,Lamb波に対応する海面変動よりも共鳴効果の違いが強いことが示唆される.

  • 野島 和也, 渡辺 陽太郎, 桜庭 雅明, 小園 裕司
    2022 年 78 巻 2 号 p. I_139-I_144
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/11/01
    ジャーナル フリー

     2022年1月に発生したトンガの火山噴火は,気圧波の伝播により日本沿岸に大きな水位変動と被害をもたらした.今後の沿岸防災を検討する上では,今次気象津波の影響を理解する必要がある.本研究では,気圧の実測値を用いて伝播経路と気圧波を推定し,その気圧波による水位変化の特性について検討を行った.本研究では,気圧波の伝播を考慮した数値解析,および,気圧波の伝播速度に対する感度解析を実施し,想定される気圧波の伝播から日本沿岸で1m程度の水位上昇があることが確認できた.沿岸域における気圧波に起因する気象津波の水位上昇は,地震に伴う津波や高潮の水位上昇に比べて小さいが,防災上無視できない値であり,気象津波の影響を考慮した被害想定の検討の必要性を示した.

  • 德田 達彦, 有川 太郎, 高川 智博, 千田 優, Anawat SUPPASRI , 近貞 直孝, 森 信人, 今村 文彦
    2022 年 78 巻 2 号 p. I_145-I_150
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/11/01
    ジャーナル フリー

     2022年1月15日,トンガ諸島付近のフンガ・トンガ=フンガ・ハアパイ海底火山で大規模な噴火が発生し,世界各地で海面変動が観測された.この海面変動は噴火に伴うLamb波や大気重力波による大気-海洋共鳴によるものと推測されるが,現時点では,今次の噴火に伴う大気圧の変動,伝播過程の詳細は未だ明らかではない.そこで,本検討では,Lamb波,大気重力波として考えられる伝播速度に対し,気圧変動量と伝播速度を変化させ,トンガから日本周辺に伝播した津波に対する感度解析を行い,大気-海洋共鳴の影響を検討した.本事象において,プラウドマン共鳴によって波の振幅が増幅され,奄美大島などで大きな海面変動が起こったと考えられる.また,通過する海域の海洋長波の位相速度と同程度の速度を持つ気圧波の組み合わせによって,複数箇所でプラウドマン共鳴が起こっていると推測される.

  • 田中 仁, Nguyen Xuan TINH
    2022 年 78 巻 2 号 p. I_151-I_156
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/11/01
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     2022年1月にトンガ沖噴火による津波が我が国に来襲した.この際,国内各地で河川遡上津波が観測されている.そこで,河川管理者の水位計により計測された遡上津波の水位変動データを収集し,東北地区の河川を対象として河川遡上津波に及ぼす河口地形の影響について検討を行った.過去に実施された2010年チリ地震津波時の河川遡上津波に関する研究によれば,河口が閉塞気味の河川では津波波高が低いことが報告されているが,今回の津波においても同様な現象が見られた.逆に,港湾に注ぐ中小河川で河口砂州が見られない河川において顕著な河川遡上が見られた.また,指数関数で河川内の津波高さの変化を近似することにより,津波高さの減衰係数を算定することが出来た.その結果は,以前に得られている結果と比較的近いものであった.

  • 細山田 得三, 辻本 剛三
    2022 年 78 巻 2 号 p. I_157-I_162
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/11/01
    ジャーナル フリー

     2022年1月15日のトンガにおける火山噴火によって空振が発生し,予測よりも数時間早く水面の変動が日本に到達し社会的な関心が集まった.その基礎的な理解を深めるための1次元における水面変動の伝播および断面2次元の重力音波の数値実験を行い,その特性を調べた.波速音速比に依存した水面変動の波形の時間変化より, プラウドマン共鳴による水面波形の成長を確認し,また圧力波形が歪対象になることによる水面波形の増幅が大きくなることがわかった.また実海底地形を用いた計算では空振の到達時間が観測値とよく一致し,当時の予報との時間差を説明できることがわかった.

  • 馬場 康之, 森 信人, 平石 哲也
    2022 年 78 巻 2 号 p. I_163-I_168
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/11/01
    ジャーナル フリー

     2022年1月15日13時頃(日本時間),南太平洋のトンガで海底火山の噴火が発生し,日本列島各地において水位変化が観測された.本研究では気圧および水位の観測結果を概説するとともに,沖合ブイの観測結果および2015年9月のチリ地震の際に観測された水位データとの比較を行った.観測塔では1月15日の20時30分過ぎに約2hPaの気圧の急上昇を観測した.水位変動の最大値は1月16日の1時台に約0.35mであった.水位変動には田辺湾の固有周期に相当する約40分の周期成分の他に,10~20分程度の周期成分が含まれていた.この周期成分は沖合のDARTブイデータにも含まれていたが,2015年の遠地津波のデータには含まれておらず,今回の火山噴火に伴う水位変動に特徴的なものであることが確認された.

  • 松本 浩幸, 梶川 宏明, 有吉 慶介, 高橋 成実, 荒木 英一郎
    2022 年 78 巻 2 号 p. I_169-I_174
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/11/01
    ジャーナル フリー

     本研究では,重錘形圧力天びんと恒温槽を併用することで水深2,000mの海底環境を室内実験で再現し,海底津波計が地震時に記録する動水圧変動について考察した.室内実験では,感圧機構が異なる水晶振動式圧力計とシリコン振動式圧力計を評価した.概ね0.1Hz以下の長周期の動水圧変動は圧力計の種類によらず振幅は一致して,シリコン振動式圧力計が海底津波計として機能することを示唆する.0.1Hz以上の短周期の動水圧変動は10dBの差違が観測され,シリコン振動式圧力計の機器特性であることがわかった.室内実験と海底現場の観測データと比較したところ,Rayleigh波に起因する動水圧変動の振幅は両者で一致した.ただし,0.1Hzで卓越する圧力変動は室内実験では再現されず,海底現場だけで観測される特有の現象であることを示唆する.

  • 宮本 順司, 伊藤 輝, 佐々 真志
    2022 年 78 巻 2 号 p. I_175-I_180
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/11/01
    ジャーナル フリー

     本研究では,遠心力場の水路において堆積物の実大応力を再現した上で液状化土の流動実験を行い,水中土砂流動の流況や,間隙水圧挙動,堆積状況を調べている.実験は主に遠心力場50g場で行った.実験では,上向き浸透流で流動化させた土砂をゲート開放することで液状化土の流動を発生させた.地盤内の透水性の相似則を満たすように実験に用いた土砂と実物の土砂とを対応させた.実験の結果,実海域の5m相当地盤の流動化に伴う混濁流速度を持つ土砂流動をドラム遠心水路内で誘起することができた.実物で細砂に相当する土砂流動は一定の速度を保ちながら進み,実物換算340m以上(実験水路の長さ)の流動となった.この中で過剰間隙水圧は徐々に消散する様子を捉えた.混合土の土砂流動では,堆積物の粒度分布を調べることで,土砂流動による分級運搬堆積状況を捉えることができた.

  • 神保 壮平, 山中 悠資, 下園 武範
    2022 年 78 巻 2 号 p. I_181-I_186
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/11/01
    ジャーナル フリー

     2011年に発生した東北地方太平洋沖地震津波は,三陸海岸などの一部地域にて底泥を大量に巻き込んで堤内地に氾濫し,人的・物的被害を増幅させた可能性が指摘されている.しかし,黒い津波と通称されるこの現象の特性や発生メカニズムに関する検討は未だ不十分である.本研究では水槽実験と数値計算に基づき黒い津波の基礎的な知見を得ることを目的として研究を行った.水槽実験では水面下にシルトからなる泥を敷いた状態で段波を入射させ,段波影響時の底泥形状の変化と水中の浮遊泥の様子をカメラで連続撮影した.撮影した画像を解析した結果,底泥の含水比が高い場合,段波砕波時に発生した渦の影響で浮遊泥が高位置まで巻き上げられることがわかった.さらに波による底泥の浸食及び沈降,浮遊泥輸送に伴う流体特性の変化を考慮した鉛直2次元モデルを構築し,底泥の浸食フラックスと限界せん断応力に関するパラメータを適切に与えることで,実験で得た底面形状と浮遊泥濃度を妥当に再現できることを示した.

  • 橋本 貴之, 織田 幸伸
    2022 年 78 巻 2 号 p. I_187-I_192
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/11/01
    ジャーナル フリー

     2011年東日本大震災において底質(土砂,ヘドロなど)を巻き込んだ黒い津波が確認され,その影響が懸念されている.津波に対して海岸構造物を適切に設計するためには,底質の含有による密度や粘性などの変化が与える影響を定量的に評価する必要がある.津波による浮遊砂濃度に関する既往研究は,砂のような比較的粒径の大きい底質を対象としたものが多く,底泥やヘドロのように粒径が数μmの底質を対象としたものは少ない.本研究では,黒い津波に繋がる底質の巻上げ特性に主眼を置き,粒径の細かい底質を対象とした移動床実験を行った.その結果,底質の含水比に応じて流れに伴う底質表層の流動化範囲が異なり,底質の含水比と関連性が強い粘度が流動化範囲を支配する要因の一つであることが示唆された.

  • 豊田 将也, 森 信人, 金 洙列, 澁谷 容子
    2022 年 78 巻 2 号 p. I_193-I_198
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/11/01
    ジャーナル フリー

     一級河川から中小河川を含めた河口域の複合氾濫リスクの評価には,台風に伴う降水・暴風による河口での河川と高潮による氾濫までを一体に解く数値モデルが必要不可欠となる.しかし河川や高潮モデル間の不連続性や技術的な課題からそのような開発研究事例はほとんどない.本研究では流量を高潮モデル中の河川水位に自動変換するアルゴリズムを導入し,大気-海洋-河川結合モデルを開発した.開発したモデルを用いて,2018年台風24号襲来時の豊川(一級河川),柳生川・梅田川(中小河川)の河川水位挙動を高精度に再現した.また仮想的な条件による感度実験の結果,高潮と洪水による水位上昇量は,柳生川では豊川の7.3倍,梅田川では豊川の3.2倍高いことが明らかとなった.さらにこれらの中小河川では高潮と洪水の最大水位発生時間が河口で重複するため,複合氾濫リスクが高いことが明らかとなった.

  • 白井 知輝, 有川 太郎
    2022 年 78 巻 2 号 p. I_199-I_204
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/11/01
    ジャーナル フリー

     高潮予測精度向上のために,台風予測精度向上が望まれる.台風予測に用いられる気象モデルWRFは,計算条件設定の選択肢の幅が広い.本研究では,利用者によって設定の差が出やすく台風予測への影響が大きいWRFの計算領域設定,初期値・境界値,物理オプションに対する感度解析を行った.結果,(1)領域位置よりも水平解像度が台風予測にもたらす影響が大きいこと(2)側方境界値よりも初期値に用いる解析値の選択の方が台風予測への影響が大きいこと,そして(3)物理オプションの選定の違いによる高潮予測のばらつきと予測開始時間の関係を示した.高潮予測については,最大潮位偏差の過小評価と高潮のピーク発生時間の遅れが課題である.これらの改善のために今後,観測値を用いたデータ同化を導入し,台風経路・速度と強度予測精度向上を図る必要がある.

  • 菅沼 亮輔, 宮下 卓也, 志村 智也, 森 信人
    2022 年 78 巻 2 号 p. I_205-I_210
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/11/01
    ジャーナル フリー

     大阪市全域の建物を対象に個々の構造種類を考慮した地震動・津波被害の複合的な確率評価を行った.まず,地震を南海・東南海地震想定域で多数の震源断層モデル(地震・津波シナリオ)を人工的に生成した.生成した全てのシナリオに対して強震動予測計算と津波計算を実行し,大阪市の建物の地震動による被害確率と津波による被害確率を計算した.被害確率の計算過程においては,個々の建物の木造建物と非木造建物を区別した.その結果,地震動と津波被害では,建物被害確率の空間分布特性やマグニチュードの変化に伴う建物被害棟数変化に差異がみられた.また,地震動被害と津波被害の両者を結合した被害確率は,個別の被害確率と有意差があり,沿岸都市域において両方被害を想定することの重要性を示した.

  • 伊勢 拓人, 下園 武範, 山中 悠資
    2022 年 78 巻 2 号 p. I_211-I_216
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/11/01
    ジャーナル フリー

     日本海沿岸部では主に冬季風浪に対して海岸・港湾施設が整備されているが,津波に対する防護も考える必要がある.近年,同地域に対して想定津波波源が設定され津波対策が進められているが,想定される津波外力には地域差があり,防護水準をどのように設定するかが重要な課題となっている.本研究は50年確率の冬季風浪と既往最大クラスの津波による影響を遡上高という観点から比較することを目的とした.広域的な外力の概況を明らかにするため,冬季風浪(風波,うねり)と津波による遡上高を既往の経験式を用いて簡易的に評価した.得られた海岸外力分布の概況から日本海沿岸部は,津波遡上が卓越する新潟以東,両者が拮抗もしくは冬季風浪による遡上の方が大きい新潟〜輪島,両者が小さい値で拮抗する輪島以西の3つに大きく区分できることを示した.

  • 新見 将輝, 井手 喜彦, 山城 賢, 橋本 典明, 児玉 充由
    2022 年 78 巻 2 号 p. I_217-I_222
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/11/01
    ジャーナル フリー

     今まで高潮による浸水被害は確認されてこなかった洞海湾において,2020年9号台風の最接近から約9時間後に2時間間隔で2度の浸水被害が発生した.今後は地球温暖化による海水面の上昇や台風の強大化などによって,本事例と同様のメカニズムによる浸水被害が再度発生する可能性が高まると予想されることから,本研究では数値シミュレーションを用いて高潮発生メカニズムの考察を行った.その結果,潮位偏差がピークをとる時刻の2時間前に洞海湾が接している対馬海峡全体の潮位偏差が負となっており,この揺り戻しによる潮位上昇が1度目の浸水被害の主な要因であることがわかった.一方,2度目の浸水は,台風通過後もエクマン輸送の影響により対馬海峡の響灘側で正の潮位偏差が長時間継続し,そこに満潮が重なったことが要因であることを明らかにした.

  • 中村 友昭, 熊澤 諒大, 趙 容桓, 水谷 法美
    2022 年 78 巻 2 号 p. I_223-I_228
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/11/01
    ジャーナル フリー

     津波による橋台背面盛土の侵食と橋桁の流失の同時生起時を想定した検討に向けて,本研究では橋台背面盛土と固定した状態の桁に津波を作用させる数値実験を実施し,桁への作用津波力とその評価式に与える盛土侵食の影響を検討した.その結果,盛土や桁下に侵食が生じる条件では,桁に作用する水平力の増加と鉛直力の低下が小さくなることを確認した.これは桁に作用する静止摩擦力の低下を示していることから,桁の移動限界を評価する際に地形の変化を考慮することの重要性を示した.また,桁に作用する鉛直力は通過波から求められるダウンフォースと浮力の和で概ね評価できるが,桁が完全には没水していない場合や桁下に侵食が生じる場合にはダウンフォースの成分を過大評価する傾向があることから,それらを考慮して評価を行うことの重要性を示した.

  • 福井 信気, 森 信人, 金 洙列, 志村 智也, 宮下 卓也
    2022 年 78 巻 2 号 p. I_229-I_234
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/11/01
    ジャーナル フリー

     格子内の建物群を抗力として取り扱うサブグリッドモデルである平均化個別建物抗力モデル(iDFM)を開発し,さらに計算格子幅を時空間的に変化させるAMR法と結合することで,異なるスケールを持つ大都市氾濫を対象とした効率的な高潮浸水計算の開発を行った.浸水計算について,建物を地形として取り扱う建物解像モデルの結果を真値とし,浸水特性の比較検討を行った結果,適切な抗力係数や水平解像度の設定によって浸水範囲の時系列の再現性を向上させることに成功した.建物が密集し領域全体的に流速が低減する部分での運動量フラックスの再現性は良好であるが,道路に沿って局所的に運動量フラックスや浸水深が上昇する領域での再現性の向上が課題である.

  • 高橋 研也, 菅原 弘貴, 小林 拓磨, 佐貫 宏, 中野 正之, 高松 賢一, 佐々木 慎, 河村 美咲
    2022 年 78 巻 2 号 p. I_235-I_240
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/11/01
    ジャーナル フリー

     湾を中心とした半円状の複雑な地形上に直立護岸および陸上直立壁が設置されている海域を対象とし,断面2次元の水理模型実験および津波シミュレーションに加えて,3次元津波シミュレーションにより複雑な地形特性を考慮した3次元的な流況による津波波力への影響を確認し,既往の津波波力算定式と比較することによってその妥当性を検証した.その結果,地形特性や津波高さおよび押し波継続時間の不確かさを考慮しても波状段波や砕波段波は発生しないこと,実験手法や解析手法による有意な差異はないこと,既往の津波波力算定式による波圧分布が全ての波圧を包絡することが分かった.また,進行波のフルード数が1.5を超える場合においても波圧係数が静水圧と同程度に止まったことから,既往の津波波力算定式が保守的となることも分かった.

  • 何 思儀, 米山 望, 平石 哲也
    2022 年 78 巻 2 号 p. I_241-I_246
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/11/01
    ジャーナル フリー

     東日本大震災における原子力発電所の事故を踏まえ,様々な条件で津波被害の可能性を検討する必要がある.本研究は防潮堤の前面に砂丘がある条件を対象に,防潮堤に作用する津波波力に対する砂移動の影響を予測評価できる数値解析モデルを開発することを目的とする.本研究では,2DH-3Dハイブリッド津波挙動解析モデル(H-FRESH)をベースに,砂丘砂の浮遊,掃流挙動およびそれに伴う津波の密度変化と砂丘の変形を考慮できる解析モデルを開発し,精度を検証した上で数値実験等を行った.その結果,1)開発した解析モデルが防潮堤が受ける波力等の実験結果を適切に再現すること;2)本研究で対象とした長周期波では砂移動が波力等に及ぼす影響は大きくないこと;3)その原因は,津波が防潮堤に到達する時点では砂丘の変形が小さいためと推測されること,が分かった.

  • 松冨 英夫, 有川 太郎
    2022 年 78 巻 2 号 p. I_247-I_252
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/11/01
    ジャーナル フリー

     津波荷重や歴史・想定津波規模評価の高度化を目指して,新たに氾濫水密度実験と氾濫流遡上実験を行って実験データ量(範囲)を増やし(拡げ),理論にも適用可能な形の移動床下の氾濫流の摩擦損失係数Kと氾濫水密度ρの評価実験式を提示し,移動床下の津波遡上理論の検証データを提供している.初期貯水深,斜面勾配と底質の中央粒径に依存し,Kρが時間変化するより普遍性が高い一様勾配斜面上の津波遡上の理論(級数)解や計算例を提示している.この理論解はρが時間変化しない移動床下または固定床下の清水の場合にも適用できる.清水の場合を含めて,遡上距離に関する検証データとの比較・検討を通して津波遡上の理論解の有用性も検証し,検証データと理論解がよく一致することを確認している.

  • 梶川 勇樹, 井上 蓮, 黒岩 正光
    2022 年 78 巻 2 号 p. I_253-I_258
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/11/01
    ジャーナル フリー

     本研究では,遡上津波に伴う陸域堆積物の形成過程を対象に,津波土砂輸送モデルによる再現解析の精度向上を目的として,掃流砂層モデルの導入とその改良を試みたものである.津波流解析には非線形長波モデルを使用し,掃流砂層モデルには固定床上で流砂の堆積層と移動層の存在を仮定した竹林らのモデルを導入した.平坦床実験を対象とした本モデルの検証より,掃流砂層モデルを導入することで,一般的な流砂モデルよりも現象の再現性が向上することが分かった.また,平衡掃流砂層厚の変更,および対象領域内の土砂の存在状況に応じた流砂量の非線形変化の考慮により,現象を高精度に予測できる可能性を示した.一方,平坦床と同様のパラメータを用いた他粒径の傾斜床実験への適用から,他粒径での現象の再現には流量式も含めて更なる検討が必要である.

  • 長山 昭夫, 前田 智晴
    2022 年 78 巻 2 号 p. I_259-I_264
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/11/01
    ジャーナル フリー

     東北地方太平洋沖地震津波による被災を受け,陸上構造物に作用する津波荷重の評価方法について新たな指針が策定され,数多くの知見が得られている.しかしながら,遡上波から戻り流れまでを対象としたビルの窓列や内空洞を考慮した構造物モデルに対しての津波力の検討は多くない.そこで本研究は,津波の遡上波から戻り流れまでを測定可能な大型波動水槽を利用し,構造物の開口部を変化させた場合の津波波力についての模型実験を行い,得られた実験値が従来の推定式で再現可能かについて検討した.その結果,従来の推定式では遡上波作用時と戻り流れ作用時ではその再現性が異なることがわかった.

  • 成田 裕也, 永澤 豪, 岩井 翔平, 田渡 竜乃介, 馬渕 幸雄, Chatuphorn Somphong , Kwanchai Pako ...
    2022 年 78 巻 2 号 p. I_265-I_270
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/11/01
    ジャーナル フリー

     2018年9月に発生したインドネシア・スラウェシ島津波では,大規模な海底地滑り津波が発生し,甚大な被害が発生した.一方,日本においても,2009年駿河湾地震津波など,主に海底地滑りが起源と推定される津波が観測されている.急峻な海底地形,及び多くの断層を海域に合わせ持つ日本にとっては,海底地滑り津波の評価は重要な課題の一つと言える.

     本研究は,陸上の地滑りモデルを海底地滑りへ適用・拡張し,海底地形,土質条件,地震動について考慮可能な三次元斜面安定解析モデルを2009年駿河湾地震に適用し,海底地滑りを起因とする津波の再現を行ったものである.推定した地滑り発生箇所に基づき,津波シミュレーションを実施した結果,既往の断層モデルでは説明できなかった津波観測波形を再現することができた.

  • 永井 香織, 内藤 礼菜, 有川 太郎
    2022 年 78 巻 2 号 p. I_271-I_276
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/11/01
    ジャーナル フリー

     地すべり津波の発生過程には不確実性が伴うため,確率論的手法を用いた地すべり津波ハザードの評価が重要となるが,実務に適用可能な手法は十分に確立されていない.本研究では,インドネシア・スラウェシ島・パル湾を対象に,確率論的地すべり津波ハザード評価手法の提案を行うことを目的とする.2018年パル津波のデータを基に,モンテカルロ法によってランダムな地すべり波源を多数作成し,地すべり津波解析によって多数の計算値を得た.また,従来より国内で用いられている地震断層起因の津波に対する偶然的不確実性の考え方と,想定地震の平均発生間隔を用いて津波ハザード曲線の算出を行った.その結果,パル市街地で検討されている設計津波高は,再現期間100~200年程度に相当することが確認できた.

  • 菅野 剛, 酒井 信介, 今村 文彦
    2022 年 78 巻 2 号 p. I_277-I_282
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/11/01
    ジャーナル フリー

     最近,2022年トンガ火山噴火に伴う津波も発生し,火山性津波解析の必要性が叫ばれている.発生機構が複雑で,十分な観測情報もない歴史的な火山性津波に対し,どのように再現を試みたら良いかを探ることが本研究の目的である.過去に,1792年眉山崩壊による津波再現に土砂崩壊モデル(コード:TITAN2D)を用いた事例があるが,実務に用いるには土質パラメータの設定について更なる検討が必要としている.そこで,1640年駒ヶ岳山体崩壊による津波を対象に山体崩壊挙動の再現を試み,津波解析の入力条件の取得,崩壊体積量の影響を評価した.さらに,陸域と海域に分けて,土質パラメータが山体崩壊挙動に与える定量的な評価を行い,歴史的なイベント再現について何が重要なのかを示唆する成果を得た.

  • 田中 晴規, 安田 誠宏, 山中 亮一, 福谷 陽, 谷口 純一, 牛木 賢司, 北野 利一
    2022 年 78 巻 2 号 p. I_283-I_288
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/11/01
    ジャーナル フリー

     過去津波に基づく決定論的な津波想定だけでなく,多数の津波シナリオを考慮する確率論的アプローチによるハザード評価がなされつつある.津波の襲来が懸念される海岸において,外力だけを考慮して防護水準を決めて堤防の嵩上げをすると,日常生活や生業,海岸の利用に影響が及ぶ可能性がある.本研究では,徳島県沿岸を対象に確率論的津波ハザード評価手法を用いて最大浸水深を評価し,後背地の人口や企業立地の将来変化を考慮した上で海岸堤防の嵩上げについての費用便益分析により経済性照査を行い,海岸堤防高さをアセスメントした.検討の結果,人口資産が集積し産業が発達している,かつ防御水準の低い地域では,堤防整備による純便益が正になることが示された.また,L1津波高に満たない暫定的な高さでの嵩上げ整備でも,便益が期待できる地域があることが確認された.

  • 小林 道彰, 信岡 尚道
    2022 年 78 巻 2 号 p. I_289-I_294
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/11/01
    ジャーナル フリー

     我が国では1995年の阪神淡路大震災および2011年の東日本大震災を契機に,自然災害に対抗する施策は防災から減災にすべきと認識されたところであるが,科学的根拠を持たせた減災の目標・評価について提示できていない.そこで,本研究では,津波や沿岸部の高潮などの自然災害に対する許容可能な生存確率を確保するための対策の導入を含む評価方法を構築,提案をする.

     本研究で構築,提案した方法を用いて,広範囲の複数の水災害について統合死亡リスクを計算することができ,リスク統合の有効性を実証できることを示した.また,総合リスクの低減目標として許容リスクを設定し,低減目標に応じた適切な防災対策を検討できることを確認した.

  • 石山 雅樹, 郡司 滉大, 有川 太郎
    2022 年 78 巻 2 号 p. I_295-I_300
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/11/01
    ジャーナル フリー

     津波による人的被害の低減には,ハード面での対策の他にソフト面による対策が重要である.より安全に避難をするためには,津波浸水範囲や津波到達時間を考慮した避難行動が有効であるが,予測計算で算出した情報と実際に発生した津波浸水被害との間では誤差が含まれていることが考えられる.そこで本研究では,予測誤差を含む津波浸水情報が避難行動へ与える影響を検討することを目的とした.数値計算で算出した値と機械学習を用いて算出した津波到達時間情報を活用し津波避難シミュレーションによる解析を行った.本検討に用いた経路選択手法では,津波到達時間情報の誤差により避難開始時間が遅くなるにつれて死亡率が増加し,避難行動への影響が確認できた.

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