土木学会論文集B2(海岸工学)
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73 巻, 2 号
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論文
  • 臼井 彰宏, 青木 伸一, 川崎 浩司, 鈴木 智浩
    2017 年 73 巻 2 号 p. I_1-I_6
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/17
    ジャーナル フリー
     東北地方太平洋沖地震以降,津波に対して粘り強い海岸・港湾構造物の開発・研究が行われているが,その効果については実験的に検討する必要がある.このような検討に際し,著者らが提案した自走式造波装置によって任意波形の津波造波が可能であることが分かったが,造波水槽が十分に長くない場合には,構造物-造波板間での多重反射が起こることを考慮していなかった.そこで,本研究では,構造物-造波板間の多重反射を考慮した任意水位上昇及び任意波形の波の造波の理論構築及び目標波形との比較を行った.理論の検証には,体積力型IB法を導入したCADMAS-SURF/3Dを用いた.その結果,波形変形,平均水深変化の考慮,造波板位置の変化,構造物からの反射波と造波板との相互作用を考慮することにより,目標波形に近い波形が造波できることが分かった.
  • 佐藤 兼太, 越村 俊一
    2017 年 73 巻 2 号 p. I_7-I_12
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/17
    ジャーナル フリー
     市街地スケールの大規模3次元津波シミュレーションは,計算負荷・コストの点で依然として課題があり,HPCI環境を活用した事例など限られた環境下でしか実現されていない.陽的な解析手法であることと並列化効率が高いことは,大規模解析においては重要な要件であり,この点で格子ボルツマン法(以下,LBM)が注目されているが,津波数値解析を実行する上で要求される精度を十分に満足できないことが問題となっている.
     そこで本研究では,LBMによる自由表面流れ解析モデルの高度化に向け,PLIC-VOF法に基づく自由表面流れモデルを開発した.そして,ゲート急開流れなどのベンチマークテストを通じて,本提案手法が従来のLBMの自由表面流れ解析モデルの問題を解決し,高精度な解析が可能であることを示した.
  • 森 智弘, 下園 武範
    2017 年 73 巻 2 号 p. I_13-I_18
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/17
    ジャーナル フリー
     津波や高潮の氾濫計算において堤防を越える氾濫は越流公式によって簡易的に評価されており,後背地の被害評価を行う上で十分とは言えない.越流公式に依らずに堤防越流を再現するにはその勾配急変部における非静水圧の効果を再現できるブシネスク方程式を用いることが有効であるが,方程式に含まれる高次項の作用により堤防上流部で水面の振動が起きて計算が不安定化しやすい.そこで,本研究はブシネスク方程式に相対水深(水深/波長)に関して高次となる修正項を加えて,堤防上流側での振動解を抑制することで安定化を図るとともに,安定的な計算が行える修正係数のレンジを示した.実験結果との比較を通して,修正係数は安定な範囲でできるだけ小さい値とることが重要であることを示した.
  • 五十里 洋行, 後藤 仁志, 鶴田 修己, 小林 祐司
    2017 年 73 巻 2 号 p. I_19-I_24
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/17
    ジャーナル フリー
     多孔質体内部を流体が通過するシミュレーションを実施する際には,多孔質体の形状抵抗および流体排除の効果を加味しなければならない.粒子法においては,多孔質体内を移動中の粒子にのみその効果を考慮する必要があるが,既往の研究では,形状抵抗として付加抗力は作用させるものの,流体排除の効果は無視する簡略化した取り扱いがなされてきた.多孔質体が常に水没する条件においてはこのような扱いでも特に問題はないが,消波工設置領域のように多孔質体内に水表面が存在する場合は,体積保存の問題が顕在化し,越波量等を正しく評価できない.そこで,本研究では,消波工内の水粒子の体積を見かけ上増加させることで流体排除の効果を考慮した.消波護岸の越波解析を実施し,実験結果との比較を通じて本モデルの有効性を検討した.
  • 後藤 仁志, 鈴木 高二朗, 五十里 洋行, 有川 太郎, Abbas KHAYYER, 鶴田 修己
    2017 年 73 巻 2 号 p. I_25-I_30
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/17
    ジャーナル フリー
     近年,被災予測や港湾整備・設計のコスト削減に,数値波動水槽が水理模型実験の代替的なツールとして幅広く活用されている.しかし一方で,設計要求の高度化に併せて,境界条件の複雑化や物理モデルの煩雑化・高度化が進み,汎用的かつ高精度な数値波動水槽の整備・普及に一定の遅れが生じ始めている.この問題への対応の足掛かりとして,上記の複雑かつ高度な要件を満たす計算の大枠の提案(パッケージ化)が必須である.本研究では,高精度粒子法をベースに固液混相複雑流を対象とする高機能型粒子法数値波動水槽(parisphere)を開発し,さらに砕波を含む激流下での混相流問題を対象にベンチマークを実施して,流体の物理的挙動やエネルギー保存性の改善,洗掘や剛体などの複合的な現象に対する適用性を示す.
  • 中山 恵介, 佐藤 啓央, Leon BOEGMAN, 清水 健司
    2017 年 73 巻 2 号 p. I_31-I_36
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/17
    ジャーナル フリー
     海洋や沿岸域では,潮汐と地形効果によって発生した内部波が変形し,内部ソリトン波となることが知られている.内部ソリトン波は沿岸域の斜面上などで砕波し,栄養塩やプランクトン,貧酸素水塊などの長期的な物質輸送に大きな影響を及ぼす可能性がある.また,砕波形態が異なることにより物質輸送も異なることが報告されており,内部ソリトン波の砕波形態を正しく分類する必要がある.過去の研究により,内部ソリトン波の砕波形態にはplunging breaker,surging breaker,collapsing breaker,fission breakerの4種類が存在することが示されている.また,別の研究によりcritical depthによる砕波指標の適用可能性が示されいる.密度差の影響を考慮した研究は存在しない.そこで本研究では数値計算により全ての砕波形態を再現し,critical depthと密度差を考慮した砕波指標の検討を行った.その結果,新しい3つの砕波指標を提案し,それらを利用することで全ての砕波形態の分類が可能であることが分かった.
  • 樋口 直人, 平山 克也
    2017 年 73 巻 2 号 p. I_37-I_42
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/17
    ジャーナル フリー
     港内水域が高度に利用された現在の港湾では,港外から来襲する波浪だけでなく,港内の航行船舶により生じる航跡波などの港内波浪が港内静穏度に与える影響も考慮する必要がある.そこで本研究では,海岸工学分野で提案された従来の航跡波造波モデルを参考とし,航路設定に関する平面2次元場への拡張性や対象船舶の汎用化が期待される新たな航跡波造波モデルを開発して,港内波浪場の算定に広く活用されているNOWT-PARIへ導入した.船型のモデル化では従来の放物線近似に加え船体動揺計算にも活用されるLewis-Formによる近似も試みた.この結果,既往の実験結果に対して放物線近似と同等以上の再現性が確認され,様々な船型に対する航跡波の造波が可能となったが,計算格子幅に依存する本モデルの造波特性に関する改善は今後の課題である.
  • 安田 誠宏, 上山 浩茂, 間瀬 肇
    2017 年 73 巻 2 号 p. I_43-I_48
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/17
    ジャーナル フリー
     沖縄諸島や太平洋諸島周辺のリーフ地形において,台風の接近・通過に伴う高潮・高波による越波災害を受けることがあり,リーフ海域特有の波浪変形特性が発災要因であることが指摘されている.そのため,リーフ海岸に護岸等の越波対策工を計画・設計する際には,リーフ上での波浪変形特性を十分に把握しておく必要がある.本研究では,リーフ地形を対象に,強非線形ブシネスクモデルを用いて波浪変形計算を行い,従来の波高変化算定式を参照しつつ,新たな算定式を提案するものであり,リーフ地形の特性を考慮した係数の算定方法により,任意の地形でも使用可能な算定式とした.本研究による提案式は,既往研究の算定式に比べて,リーフ岸沖方向の波浪変化をよく再現できた.特に,波高が大きいときの推算精度が高く,設計波高の推算に用いる際の有用性を示すことができた.
  • 平山 克也, 相田 康洋, 川口 浩二, 田村 仁, 白井 秀和
    2017 年 73 巻 2 号 p. I_49-I_54
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/17
    ジャーナル フリー
     本研究では,長期間の波浪観測記録に基づく確率波の推定において,主に欠測資料を補完するために実施される2種類の波浪推算モデルによる推算精度を検証するとともに,さらに浅海域における波の非線形変形を考慮するためにブシネスクモデルによる波浪変形計算を実施し,観測値の再現に向けてその効果を確認した.また,その砕波モデルの違いによる影響にも配慮しつつ,観測値に対する算定値の波高比または11擾乱に対する回帰係数を用いて波浪推算・変形計算結果を補正することの妥当性について検討した.その結果,能登半島による回折効果を受ける富山湾内の各NOWPHAS地点では観測値を用いた推算値の補正が必要であることが明らかとなった.また特にNOWPHAS富山では,その際に波の非線形変形を考慮することが有効であることを確認した.
  • 中山 恵介, 清水 健司
    2017 年 73 巻 2 号 p. I_55-I_60
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/17
    ジャーナル フリー
     湖沼や沿岸域において,シャープな界面が存在する2成層場であっても中間層が存在し,有機物や栄養が長時間にわたって貯留され高濃度になることが多い.過去の研究において,上・下層の厚さが同じ場合,正弦波の下での中間層における質量輸送速度が検討されているが,内部ソリトン波の条件下での中間層における質量輸送速度に関する研究はほとんどない.そこで本研究では,3層系における強非線形強分散内部波方程式を用いて正弦波および内部ソリトン波に対する中間層における質量輸送速度に関する検討を行った.モデルの適用性の検討のため,過去に示されている上層と下層が同じ厚さにおける理論解との比較を行った.内部ソリトン波が進行する条件における検討結果から,中間層における質量輸送速度は上層厚さが厚くなるほど小さくなることが分かった.
  • 今井 優樹, 森 信人, 二宮 順一, 間瀬 肇
    2017 年 73 巻 2 号 p. I_61-I_66
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/17
    ジャーナル フリー
     波による流れ(Stokes drift)の影響を正確に考慮することは,海洋流動解析を行う上で重要である.そこで本研究では,不規則波浪場に適用したStokes driftの表現を提案する.具体的には,波の方向スペクトルを考慮したStokes driftの計算を行い,これを組み込んだ数値モデルを用いて外洋の海洋流動の過去再現計算を行った.高周波の波により駆動するStokes driftの鉛直分布は,表層から下層にかけて著しく流速が低下するが,このような現象をとらえる数値モデルを開発した.Stokes drift流速の鉛直分布や,単純地形を対象としたテスト計算を通してモデルの精度検証を行い,実地形を対象とした一様風によるStokes driftの感度解析を実施した.実地形を対象とした過去再現計算を行い,表層流の解析を行った.
  • 本間 翔希, 猿渡 亜由未, 宮武 誠
    2017 年 73 巻 2 号 p. I_67-I_72
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/17
    ジャーナル フリー
     成層期の津軽海峡に発達する内部波の特徴について,三次元流れモデルによる数値解析に基き調査した.海峡東西の狭窄部における二つの海丘地形の下流側に形成される比較的大規模な内部振動は,海峡内で伝播,反射を繰り返し,本海域全体の内部構造を決定する重要な要因の一つとなっている.この振動は海峡から抜けて太平洋,日本海へも放射状に広がっている.また,北海道,青森沿岸には沿岸補足モードの内部波も確認された.強風による吹送流の形成時には躍層面に大きな流速勾配が生じるが,これは吹送流解消後も数日に渡り維持された.また強風イベント後は元々内部振動の大きい海峡南側で振動が更に強化されることが確認された.
  • 渡部 靖憲, 杉村 一直
    2017 年 73 巻 2 号 p. I_73-I_78
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/17
    ジャーナル フリー
     本研究は,風洞可視化実験から,風波の発生,成長過程における波浪下の流速分布の遷移,乱流統計量の変化を基に,非平衡風波場における運動量,エネルギー輸送機構を議論するものである.初期波において毛管波の重畳と重力波のクレストへの集中が顕著な渦生成を誘発し,大気境界層と同等の運動量境界層の形成を通して運動量,エネルギーを深い位置まで輸送する.フェッチの増大と共に,吹送流による波-流れ相互作用は重力波前面を先行して伝播する毛管波を減衰させ,渦供給の減少,運動量境界層の減衰を引き起こし,吹送流が主体となるせん断流が流れ場を支配する.
  • 東 博紀, 古島 靖夫, 古市 尚基, 福原 達雄
    2017 年 73 巻 2 号 p. I_79-I_84
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/17
    ジャーナル フリー
     深海底乱流予測の高精度化を目的として,相模灘の現地乱流観測を実施するとともに,既存鉛直混合スキームの深海乱流の再現性を検討した.4測点中1測点の観測結果は,水深1000mを超える深海底直上で乱流エネルギー散逸率が10-6m2s-3の非常に強い乱流が発生しており,10-7m2s-3の海底混合層が高さ150mにまで達していた.標準型k-ε,Mellor (2001),Furuichiら(2012)の3つの鉛直混合スキームに各2種類の境界条件を与えて流動シミュレーションを行ったが,いずれも混合層厚を過小評価した.その中でFuruichiら(2012)モデルは,境界条件に比較的左右されずに比較的大きい混合層厚を算定する傾向があり,乱流長さスケールの改良により精度向上が見込めることが示唆された.
  • 古市 尚記, 東 博紀, 杉松 宏一, 牧 秀明, 越川 海, 宇田川 徹, 遠藤 次郎, 大村 智宏
    2017 年 73 巻 2 号 p. I_85-I_90
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/17
    ジャーナル フリー
     粒径別粒子濃度に関する現場観測を行い,海底混合層変動や海底乱流過程と懸濁粒子動態の関連性解明に向けた考察を行った.観測結果からは海水密度成層条件下において海底混合層が形成され,粒径区分毎の粒子濃度が海底混合層の外側で顕著に減少する結果(特徴1),海水密度分布が一様で,粒径区分毎の粒子濃度が全水深にわたってほぼ一様となる結果(特徴2)が確認された.特徴1の場合の乱流エネルギー散逸率の平均値は,海底混合層の外側で粒子濃度が顕著に減少しない場合のそれを数倍程度上回った.本観測結果は既往の数値研究から得られた結果とも整合しており,海底混合層厚やその背景物理過程としての海底乱流過程の変動が懸濁粒子の濃度分布を決定する重要因子の一部であることが示唆された.
  • 渡部 靖憲, 鈴木 敦貴
    2017 年 73 巻 2 号 p. I_91-I_96
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/17
    ジャーナル フリー
     砕波過程において生じるエアチューブの軸方向分裂を模擬する気液を封入した水平回転円筒実験を行い,回転数,円筒幾何形状,封入水体積率に応じて変化するエアチューブの分裂現象を発見し,パラメータ化を通して,その分裂メカニズムを議論した.実験を通して,回転流体中の遠心力に加え,表面張力,浮力(重力)そして抗力が非一様な流れを形成することで発生する流れの不安定が分裂過程を決定することが証明された.エアチューブの分裂形態のおおよその特徴はFroude数で与えられ,軸方向に一様な水層の気体セルへの分裂の開始は限界Froude数及び限界Weber数で決定できる.これら回転円筒内の流れの特徴は砕波形態及び規模の異なるエアチューブの崩壊過程に内在する基本メカニズムになるものと考える.
  • 鷲見 浩一, 山﨑 崇史, 宮内 直哉, 中村 倫明, 武村 武, 落合 実
    2017 年 73 巻 2 号 p. I_97-I_102
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/17
    ジャーナル フリー
     斜降渦の海底方向への伸長は底質を移動させる一因である.しかし,これまでに斜降渦の発生形態と底質の移動現象を実験的に検討した研究は少数である.本研究では,斜降渦の発生形式・発生条件を検討するとともに,斜降渦による底質の移動状況についても考究した.今回の実験では,新たに砕波時の波内部に4つの斜降渦が岸沖方向に形成される4重渦の発生を確認した.渦の発生条件は,砕波に関するRe数とBreakertype index(Bt)に支配され,Re数が大きいほど4重渦の発生数が増加し,4重渦が生じる下限のRe数は約3.4×105であった.一様な海底勾配の斜面上の底質は,舌状の侵食域が出現する形状に分布した.舌状の侵食域が現れる位置は斜降渦の底面到達地点と一致しており,斜降渦の底面到着に起因して,底質の侵食域が発生したと考えられる.
  • 松葉 義直, 下園 武範, 田島 芳満
    2017 年 73 巻 2 号 p. I_103-I_108
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/17
    ジャーナル フリー
     沖に波浪観測塔が位置する平塚海岸において,UAVと波高計を用いた波の伝播・遡上過程のモニタリングを行った.風波とうねりの二成分が入射する波浪場において,UAVによる連続した1時間の撮影動画から求めた遡上端の変動と,沿岸に設置した水圧式波高計および沖合の観測塔による水面変動データを合わせて分析した.沿岸に位置するバー上ではうねり成分と風波成分の非線形干渉が発生し,その過程で長周期成分が生成されることがバイスペクトル解析により確認できた.遡上過程においては,沿岸で発達した長周期波の成分がうねり成分と再び非線形共鳴をすることで遡上を大きくしていることが示唆された.
  • 藤木 峻, 川口 浩二, 櫻庭 敏, 橋本 典明
    2017 年 73 巻 2 号 p. I_109-I_114
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/17
    ジャーナル フリー
     うねりの方向スペクトルは海岸過程の外力として重要であるが,観測・解析上の困難から十分に研究がなされていない.本研究では,東北~関東の太平洋岸の観測点5地点で1年間観測された波浪データをもとに,安定なうねりを抽出してその方向スペクトルの形状特性および相似形について検討を行った.風波とうねりの分離結果の妥当性は風波の3/2乗則によって確認した.観測されたうねりの方向スペクトルはピーク付近にエネルギーが集中・孤立し,従来の標準形では十分に表現できない特異な形状を示したが,修正した標準形を用いてうねりの方向スペクトル形状の表現を試みた.最後に,波齢や波形勾配は観測地点周辺の局所的な気象場や波浪場の情報しか含んでいないため,遠方の波源から供給されるうねりの方向スペクトルの形状を決定する因子としては不十分である可能性を示した.
  • 森 信人, 志村 智也, Mark HEMER, Xiaolan WANG
    2017 年 73 巻 2 号 p. I_115-I_120
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/17
    ジャーナル フリー
     気候変動による沿岸域への影響が懸念されており,2012年のIPCC第5次報告書(AR5)以降,波浪の将来変化予測についての成果が発表されている.しかし,平均波高についての将来予測結果が多く,年最大波や数年に一度の高波についての将来予測は少ない.本研究では,様々なアンサンブル予測結果を用いることにより,高波の将来変化を対象に放射強制力,親モデルとなるGCMおよび波浪モデル等による不確実性の評価を行った.さらに海域毎の高波の将来変化特性についても検討を行った.高波の将来変化の空間分布は平均波高の将来変化と類似するが,台風経路の将来変化が重要であることがわかった.
  • 北野 利一, 喜岡 渉, 熊谷 健蔵
    2017 年 73 巻 2 号 p. I_121-I_126
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/17
    ジャーナル フリー
     沿岸域の防護には,2段階の設計レベルを用いる.これは土木工学の古くからある重要な考え方である.その際,外力の想定レベルは,長短2種類の再現期間で特徴付けられる.しかしながら,非常に長い再現期間は,ともすれば無意味どころか,視点を変えれば,あり得ない対象として否定的に解釈される恐れがあり,防災・減災を検討する上での障害になる.むしろ,単一の再現期間を与え,来襲する頻度が高い階級と最大級の外力規模を解釈する方が,意味が明確に特徴付けられ,否定的な意味合いも含まれない.そのために本研究では,不確実性の原因を整理し,従来から用いられる信頼区間とは異なる予測区間を扱う必要があることを示す.特に,ベイズ標本の低次モーメントで定義される生起率および経験度を算出することで,設計外力の判断に役に立つことを示す.
  • 畑田 佳男, 関谷 和哉
    2017 年 73 巻 2 号 p. I_127-I_132
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/17
    ジャーナル フリー
     観測資料から推定した海上風,気圧分布を用いた45~48年間,1km格子間隔上の波高および高潮偏差の推算結果に基づいて内海・内湾における年最大波高および年最大高潮偏差の経年変化の場所的な変化を調査した.このために瀬戸内海西部海域,伊勢湾および東京湾に設定した着目点と他の格子点の年最大値の対応を相関係数,Taylor図で調査した.また全格子点において他地点との相関がρ>0.9となる個数の平面分布を求め,つぎの結果を得た.1)年最大波高で着目点と高い地点間相関を示す範囲は,着目点を囲む小海域の長軸方向に伸びる領域に限られる.2)年最大高潮偏差の地点間相関は波高に比べて広い海域で高い.3)年最大高潮偏差において高相関をもつ地点は,波高と異なる領域に現われ,波高の3~4倍程の数となる.
  • 中村 駿一郎, 田島 芳満, 神原 雅宏
    2017 年 73 巻 2 号 p. I_133-I_138
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/17
    ジャーナル フリー
     南太平洋の島嶼国はサイクロンに起因する沿岸ハザードに晒されているものの,比較的小規模な国土や,リーフや周辺島嶼による複雑な海岸形状の影響もあり,各地域のハザードを観測データや災害履歴のみから推定するのは困難である.本研究では確率台風モデルを適用し,フィジーやバヌアツにおける沖波波高の統計的評価を試みた.まず低緯度帯に留まるサイクロンの特性を勘案し,経路の算定には自己回帰モデルと移動速度成分の変化量を確率分布から推定するモデルとを組み合わせ,また,中心気圧の算定には発達項と減衰項を分離して自己回帰モデルに適用するなどの改良を加えた.最後に妥当性を検証した確率台風モデルを南太平洋島嶼国に適用し,海岸線の方向や地形条件により異なる来襲波浪の特性を整理した.
  • 間瀬 肇, Tracey H. A. TOM, 池本 藍, 川崎 浩司
    2017 年 73 巻 2 号 p. I_139-I_144
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/17
    ジャーナル フリー
     深海を対象に開発されたWAVEWATCH III (WW3)やWAMは浅海に拡張され,一方,浅海を対象に開発されたSWANは深海に拡張されているが,最初の目的からの開発経緯に従い,深海ではWW3やWAMを用い,浅海にはSWANを用いるネスティングが望ましい.実際に,IOOS (Integrated Ocean Observing System)では,外洋をWW3,近海をSWANを用いた波浪予報を行っている.本研究は,日本のナウファスの12地点に対して,外洋(外部領域)にWW3,近海(内部領域)にSWANを用いた波浪システムWW3+SWANによる予測値の精度を,これまで構築した外部・内部領域のどちらにもSWANを用いた波浪システムSWAN+SWANによる予測値および観測値との比較を通して,WW3+SWAN波浪予測システムの精度検証を行った.その結果,有義波高に関してはSWAN+SWANとWW3+SWANの優劣はほとんどなかったが,有義波周期に関しては,WW3+SWANの方が良くなることがあることがわかった.
  • 羽賀 拓人, 関 克己, 有川 太郎
    2017 年 73 巻 2 号 p. I_145-I_150
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/17
    ジャーナル フリー
     本検討では,日本周辺を広範囲にカバーする気象庁GSM客観解析資料(日本域)を基に,時空間的に線形内挿を行いダウンスケーリングする方法と二次元台風モデルによる方法を用いて擾乱時の海上気象場を作成し,それらを外力条件として波浪・高潮推算を行い,その適用性を検証する事を目的とする.その結果,GSM資料を時空間内挿し作成した気象場を代入し推算を行った場合,波浪推算・高潮推算共に,爆弾低気圧による比較的長期間発生する波の変動に対して高い精度を与えることが確認された.また,二次元台風モデルにより作成した気象場を代入し推算を行った場合,台風により発達した波のピーク値に対して高い精度を与えることが確認された.
  • 津田 宗男, 松見 吉晴, 金 洙列, 松田 信彦, 江口 三希子
    2017 年 73 巻 2 号 p. I_151-I_156
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/17
    ジャーナル フリー
     港湾工事において作業船等による施工を行う場合,天候によるその実施の可否は,一般的に施工前日の波浪予測データから判断されている.ここで判断に採用する波浪予測は,予測精度や予測期間に関して不十分なところもあり,また,波浪予測だけでは周期・波向きによって作業船や吊荷の動揺状況が異なり,精度よく施工可否判断が行えない.
     本研究では,海上工事の円滑な施工管理を施すため,ニューラルネットワークを適用して,波浪条件と作業船や吊荷の動揺をリアルタイムに高い精度で予測できる波浪・動揺予測システムの開発を行った.実在港湾における海上工事を想定して,WEB上で毎時に取得できる気象・海象データを自動的に取得し,最長で7日後までの波浪予測を行ったところ,十分実用に耐えうる予測が可能であった.
  • Bahareh KAMRANZAD, Nobuhito MORI, Tomoya SHIMURA
    2017 年 73 巻 2 号 p. I_157-I_162
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/17
    ジャーナル フリー
     In order to estimate the wave climate in a specific region for different purposes such as climate change impact assessment, wave energy assessment, etc., it is important to consider the long-term variations in the range of 10-100 years. Since a specified amount of error in wind modeling (as forcing for numerical wave model) results in a greater amount of error in the wave modeling, two globally available wave analysis data, i.e., ERA-Interim and JRA-55 were considered to discuss about their performance in the study area, where the lack of sufficient wave data exists. The results showed that JRA-55 wave field yields more accurate results than ERA-Interim waves. The regional wave downscaling was carried out using SWAN and two approaches were considered; the local model with locally wind generated wave conditions in lateral boundaries in which, the southern boundary of the computational domain was considered around the Equator, and nested model with a smaller domain, in which, the boundary conditions are given by global model of WW3. The regional downscaling results show that the local model underestimates the wave heights comparing to the measurements and the tuning the physical parameters is required. In order to evaluate the results in the spatial domain, the monthly mean significant wave heights were compared to the satellite monthly mean data by the altimeter. The results showed that the monthly variations by the nested model give reasonable agreement with the satellite data. It can be concluded that the nested model from WW3 to SWAN represents accurate results both in the domain (spatial distribution), and in comparison with high temporal resolution wave data.
  • 山口 正隆, 野中 浩一, 井内 国光, 日野 幹雄, 宇都宮 好博, 畑田 佳男
    2017 年 73 巻 2 号 p. I_163-I_168
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/17
    ジャーナル フリー
     0°~360°のcyclicな資料を取り扱うために展開されている方向(円周)統計学を利用して,わが国の沿岸と沖合の43地点における最長12年間の1~2時間間隔推算・観測波向資料に対する通常解析および円周解析を行い,つぎの成果を得た.1) 円周解析に基づく平均値を補助資料として扱う通常解析1とこれをそのまま用いる通常解析2によれば,推算値および観測値について波向資料の平均値のみならず標準偏差,skewness,kurtosisに対して低次統計量ほど円周解析に基づく値に近い値が得られる.2) 上記の結果は推算値と観測値の相関係数や推算値と観測値の差である誤差についての各統計量に対しても成り立つ.3) いずれの解析によっても,波向の平均値についての誤差がほぼ全対象地点で±10°以内に納まることから,推算値の精度はかなり高い.
  • 切手 廉士, 御領 聡史, 井﨑 丈, 種田 哲也, 長山 昭夫, 浅野 敏之
    2017 年 73 巻 2 号 p. I_169-I_174
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/17
    ジャーナル フリー
     本研究は,理論的なエッジ波の特性ならびに岬を模した地形障壁を置いたときのエッジ波の変形特性について実験と数値計算の両面から検討したものである.ステップ状の陸棚地形を有する小型水槽を製作し,測定された水位変動の時空間変化からエッジ波の特性量を抽出し解析したところ,エッジ波の分散関係,岸沖方向の波高分布等について理論と整合する結果を得た.また円弧状の汀線・陸棚境界線を持つモデル海浜を設定した数値解析を行い,エッジ波の伝搬状況や岸沖方向の波高分布などを解析したところ,理論が示すエッジ波の特性が再現されていることを確認した.陸棚上に突堤模型を置いた実験ならびに数値解析から,岬などの地形障壁によるエッジ波の波速や平面的な波高分布の変化特性を明らかにした.
  • 齋田 倫範, 早田 政博, 山城 徹
    2017 年 73 巻 2 号 p. I_175-I_180
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/17
    ジャーナル フリー
     九州西岸では,東シナ海上の微気圧変動に起因する副振動が頻繁に観測される.本研究では,東シナ海上における気圧波の伝搬経路と九州沿岸で生じる水位変動の特徴との関係を数値解析によって評価した.その結果,気圧波が沖縄トラフに達する際の位置と角度によって水面波の沖縄トラフ以東への伝搬状況が大きく変化することが確認された.また,長崎県男女群島女島沖や鹿児島県宇治群島宇治島沖を基準として,長崎沖,上甑島沖,枕崎沖で水位変動が生じるまでのタイムラグを調べたところ,気圧波の伝搬経路によってタイムラグの値が大きく変化することが示唆された.特に,沖縄トラフ西側の女島沖で九州沿岸よりも3, 4時間程度遅れて水位変動のピークが生じるケースの存在が確認された.
  • 金 洙列, 熊谷 健蔵, 間瀬 肇
    2017 年 73 巻 2 号 p. I_181-I_186
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/17
    ジャーナル フリー
     本研究は,異なる波浪・高潮結合手法が台風Haiyanの高潮浸水高に及ぼす影響を調べたものである.波浪依存海面抵抗と波・流れ相互作用による底面抵抗を用いた場合の方が,波浪依存海面抵抗のみを考慮した場合および最近提案された経験式による海面と底面抵抗係数を用いた場合よりも観測値との平均誤差は90 %程度まで減少した.また,波浪依存海面抵抗係数と波・流れ相互作用を考慮した底面抵抗係数を用いる場合には,25 m/sの風速による制限を用いることが適切であることがわかった.また,検討結果より波・流れ相互作用を考慮した底面抵抗係数をマニング粗度係数へ変換すると,約0.02程度であることがわかった.
  • 楢崎 寿晃, 藤丸 誠司, 嶋添 直樹, 橋本 典明, 山城 賢, 倉吉 一盛, 木村 隆浩, 木梨 行宏
    2017 年 73 巻 2 号 p. I_187-I_192
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/17
    ジャーナル フリー
     九州最大の都市である福岡市を有する玄界灘沿岸では,台風常襲地帯にも関わらず,高潮の発生実績がほとんどなく,また,高潮堤防等の施設整備も一部を除き実施されていない.本論文は,玄界灘沿岸に対し,平成27年の水防法改正を受け作成された「高潮浸水想定区域図作成の手引き Ver. 1.00」に基づき最大規模の高潮の推算を試みたものである.ケーススタディの推算により,最悪の台風経路を設定するための合理的な方法を提案し,強風下での海面抵抗係数の影響を評価した.その結果,玄界灘では最大高潮偏差が5m以上となることが分かった.
  • 熊谷 健蔵, 金 洙列, 辻尾 大樹, 間瀬 肇, 辻 貴仁
    2017 年 73 巻 2 号 p. I_193-I_198
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/17
    ジャーナル フリー
     2014年12月,急激に発達した爆弾低気圧が北海道の東部を襲ったため,根室海峡の沿岸部では広い範囲で高潮・高浪の被害が発生した.今回のように,低気圧が北上しながら北海道の東部を通過する場合,通過前には根室海峡の沿岸部では東寄りの強風が吹き,想定以上の高潮・高波が発生する可能性がある.本研究では高潮・波浪のカップリングモデルによる数値計算を実施し,高潮・波浪の再現計算結果と観測記録との比較を行った.特に,再現計算において海面抵抗係数の風速制限が高潮と波浪推算に及ぼす影響を検討した.その結果,高潮については風速制限を25m/s,波浪については20m/sとした場合,観測記録を精度良く再現できることがわかった.また,今回の低気圧による北海道東部における高潮・波浪の発生状況を明らかにすることできた.
  • 仲井 圭二, 笹 昭二, 岩崎 正二, 髙橋 信幸, 佐藤 由浩, 村瀬 博一, 井上 亮一
    2017 年 73 巻 2 号 p. I_199-I_204
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/17
    ジャーナル フリー
     高潮は,東京湾や伊勢湾,大阪湾等の南に開いた湾や,瀬戸内海等の内海で注目されることが多く,気圧低下による吸い上げと強風による吹き寄せで一般的に説明される.しかし,海域によってはこれら以外の要素も高潮にとって重要になる.本研究では,2016年に国土交通省北陸地方整備局管内の潮位観測所7箇所のいずれかで,0.3m以上の潮位偏差が発生した高潮9事例を対象にして解析を行った.その結果,北陸沿岸で高潮が発生する場合,SWからNEに延びる海岸線に沿って,SWの強風が吹いていることが多いことが分かった.これによりIsozaki(1968)が示した,SW風によるエクマン輸送に伴う地衡流平衡による潮位上昇が,決して特殊な現象ではなく,しばしば発生していることが確認できた.また,逆にNEからの風に伴うエクマン輸送により,沿岸の潮位が低下する事例も見られることが分かった.
  • 南 翔, 工藤 圭太, 八木澤 一城, 橋本 孝治, 渡部 靖憲
    2017 年 73 巻 2 号 p. I_205-I_210
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/17
    ジャーナル フリー
     2016年台風10号は従来と異なる複雑な経路をたどり,東北地方を北西に移動し,日本海へと進行した.この台風により北海道内浦湾では高潮が発生し,台風による吹送流と強風により大きな漁業被害をうけた.このような前例のない経路を辿った台風での検討は重要である.そこで,本研究では,台風モデルと非線形長波モデルを使用した高潮計算を行った.本台風をモデルとし,想定されうる8コースで高潮計算を行い,内浦湾での潮位偏差の発生特性を解明するとともに,危険に作用する経路を推測した.さらに,『高潮浸水想定区域図作成の手引き(国土交通省)』に基づく,想定台風による試算を行い,今後の内浦湾沿岸での浸水想定における知見を得た.
  • 中條 壮大, 藤木 秀幸, 金 洙列, 辻本 剛三
    2017 年 73 巻 2 号 p. I_211-I_216
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/17
    ジャーナル フリー
     台風特性の変化傾向を解析し,経路シフトや気圧変化のトレンドと変動特性が各緯度帯で異なることを示した.また,大気・海洋変動指標とのコヒーレンス解析より台風特性は特定の周期変動で高い相関を示した.トレンドの変化分析に基いて,台風資料のフェーズ区分を行い,統計的に等価と考えられる台風特性の変化シナリオから高潮ポテンシャルの変化を推定した.三大湾では顕著な差にはならなかったが,主に経路変化に起因して,1980年以降には大阪湾と伊勢湾で高潮ポテンシャルが小さくなる傾向にあり,東京湾の東岸では高くなる傾向が見られた.
  • 豊田 将也, 吉野 純, 小林 智尚
    2017 年 73 巻 2 号 p. I_217-I_222
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/17
    ジャーナル フリー
     本研究では,異なる緯度帯にて発達した2つの台風(台風1330号と台風0918号)を対象として,台風強度と高潮に対する将来変化とその不確実性の違いを相互比較することを目的として,高解像度台風モデルと高潮モデルを用いて,排出シナリオ(SRES)毎と全球気候モデル(GCM)毎の2種類のアンサンブル擬似温暖化実験を行った.台風1330号では,台風強度の将来変化はSRES毎でもGCM毎でも現在気候から大きく変化しなかった.一方で,SRES毎よりもGCM毎の方が不確実性(ばらつき)は大きい結果となった.台風0918号では,ピーク時および上陸時の台風強度は,SRES毎でもGCM毎でも強まる傾向にあり,三河港の高潮も台風強度の将来変化に応じて増大する傾向にあった.最盛期の台風に比べて上陸時の台風の方が,偏西風帯における風の鉛直シアーの影響を受けて不確実性が大きくなることが明らかとなった.
  • 梁 靖雅, 間瀬 肇, 森 信人
    2017 年 73 巻 2 号 p. I_223-I_228
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/17
    ジャーナル フリー
     本研究では複雑な地形を持つ韓国東南沿岸を対象に,歴史台風による高潮の追算を行い,数値モデル結果の精度を評価し,地形複雑度を考慮したバイアス補正手法を提案した.高潮偏差の計算誤差は台風と観測所の距離と地形の複雑度と関係があり,地形複雑度を考慮したバイアス補正手法は,系統的なモデルの誤差を約14%~23%軽減させることが明らかになった.ついで,大規模アンサンブル予測実験に基づく高潮の大規模計算を行い,本研究で提案するバイアス補正法を適用して高潮の長期評価を行った.その結果,韓国東南沿岸における再現期間100年に対する高潮の再現確率値の変化量は,台風の将来特性変化につれ一様に増大するのではなく,場所によって増減の大きな変化があることがわかった.
  • 二階堂 竜司, 五十嵐 雄介, 神保 正暢, 岡本 慎太郎, 三浦 心, 程谷 浩成, 平野 宜一, 中園 大介
    2017 年 73 巻 2 号 p. I_229-I_234
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/17
    ジャーナル フリー
     本研究は,高潮・高波の氾濫解析において,建物の影響を粗度係数として考慮した方法と建物占有率による面透過率と抗力で評価した方法の2手法で解析を行い,建物の評価手法の違いが浸水被害に及ぼす影響を数値解析により比較検討したものである.単純なモデル地形の数値的検討では,建物の影響を建物占有率として評価した手法の場合,越波位置から一定の範囲で浸水深が増大する傾向にあり,その影響は流量および建物密度の影響を強く受けることがわかった.また,富士海岸を対象とした数値的検討においても,建物占有率として考慮した手法の方が,浸水範囲の拡大および浸水深の増大している地域が多くみられ,特に浸水深の増大の影響が比較的大きいことを定量的に示した.
  • 河合 航輝, 関 克己, 小林 真, 大川 大一, 井上 博士, 木原 一禎, 有川 太郎
    2017 年 73 巻 2 号 p. I_235-I_240
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/17
    ジャーナル フリー
     本研究では,開口部を有する防波堤の高潮に対する水位低減効果を,高潮津波シミュレータSTOC-MLと3次元波動水槽CADMAS-SURF/3D(CS3D)を用いて検討し,その評価手法の確立を目的とした.STOC-MLを用いた開口部を通過する流速は,CS3Dによる計算結果ならびに水位差を用いたBernoulli式から得られる流速と整合し,その妥当性を示すとともに,開口部の流量分布をCS3Dと比較した結果から,STOC-MLにおける開口率を,見かけ上低減する必要があることがわかった.また,計算結果を整理し,入射条件(波高,周期),構造物条件(開口率等)を用いた港内水位の概算評価手法を提案した.
  • 安田 誠宏, 平井 翔太, 岩原 克仁, 辻尾 大樹
    2017 年 73 巻 2 号 p. I_241-I_246
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/17
    ジャーナル フリー
     複数地点での高潮による同時・集積被害に関する研究事例はまだ数が少ない.本研究では,伊勢湾と三河湾を対象に,複数地点での高潮被災を考慮した集積リスクの評価を行った.確率台風モデルによる1000年分の仮想台風を用いて,台風経路の確認を行った.伊勢湾のみを通る192個の台風については,気象庁の経験式を使用して高潮推算を行う一方で,伊勢湾と三河湾の両地点を通る805個の台風については,高潮解析と氾濫解析を行った.さらに,三河湾の高潮解析結果から,簡易的に高潮偏差を計算する算定式を作成し,その妥当性を検討した.高潮解析結果から被害額を算定し損失関数を作成した.伊勢湾と三河湾の損失関数と各台風の高潮偏差を使用して,すべての台風の被害額を算定した.年超過確率と合計被害額の関係を表すイベントカーブを作成し,集積リスク評価を行い,1つの台風に対する期待被害額を算定した.
  • 宇都宮 好博, 宮田 正史, 高山 知司, 河合 弘泰, 平山 克也, 鈴木 善光, 君塚 政文, 福永 勇介
    2017 年 73 巻 2 号 p. I_247-I_252
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/17
    ジャーナル フリー
     港湾の技術基準では「発生頻度が高いもの」と「最大クラス」の二段階の津波で検討することになった.一方,高潮は「既往最高潮位」または「朔望平均満潮位に伊勢湾台風クラスの台風による高潮偏差を加えた潮位」,波浪は「50年確率波」または「100年確率波」で,それぞれ検討している状況にある.本研究では,最大クラスの台風による高潮・波浪を設計の実務に導入するための事前検討として,まず,モデル港湾に対して,最大クラスのシナリオ台風を仮定して高潮・波浪を推算し,外郭施設(防波堤,防潮堤等)の偶発作用としての高潮・潮位条件を設定する具体例を示す.続いて,防潮堤・防波堤の補強の実現性について述べるとともに,モデル防波堤のケーソン滑動についてシナリオに沿った耐力作用比の試算を行う.
  • 安田 誠宏, 岩原 克仁, 平井 翔太, 中條 壮大, 金 洙列
    2017 年 73 巻 2 号 p. I_253-I_258
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/17
    ジャーナル フリー
     堤防高の決定には津波と高潮・高波を比較する必要があるが,これまでは既往最大値や想定値に基づいて決定論的に外力が設定されてきた.本研究の目的は,確率論的なアプローチを用いて高潮の規模と生起頻度の関係を定量化することである.検討対象地域は,既設堤防の天端高が高潮により決定され,L2津波対策が進められつつある駿河海岸を含む駿河湾とした.全球確率台風モデルを用いて駿河湾を通る5000年分の仮想台風を抽出し,非線形長波モデルを用いて高潮伝播および氾濫シミュレーションを行った.駿河湾では中心気圧と高潮偏差にほぼ比例関係があることが示された.地域海岸ごとの高潮の規模と生起頻度の関係を算定し,駿河海岸における計画高潮偏差の再現期間が約270年であることを示した.
  • 神原 雅宏, 田島 芳満, 中村 駿一郎, 下園 武範
    2017 年 73 巻 2 号 p. I_259-I_264
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/17
    ジャーナル フリー
     2008年にベンガル湾で発生したサイクロン・ナルギスは,死者・行方不明者約14万人というミャンマー史上最悪の高潮災害を引き起こした.その一方で,ミャンマーではこの様な大規模な高潮災害の経験は少なく,その発生頻度を推定することは困難である.さらに,ミャンマー,バゴー市の南部には水路網の発達した穀倉地帯が広がっており,高潮がこの水路を遡上して氾濫することによって,浸水被害が内陸へと拡大することが考えられる.本研究では確率台風モデルを用いて長期のサイクロンデータを生成し高潮計算を行うことでその発生頻度を推定し,さらに氾濫解析では水路網の遡上の再現を試み,その高潮氾濫災害への影響を検証する.
  • 岩本 匠夢, 髙川 智博
    2017 年 73 巻 2 号 p. I_265-I_270
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/17
    ジャーナル フリー
     東京湾における副振動発生要因について,6時間周期の副振動が発生した2014年台風18号と,類似した経路を取りつつも顕著な副振動が発生しなかった2014年台風19号をテストケースとして検討した.気象庁が提供するメソ気象モデルGPVを気象外力として,海洋モデルROMSによる高潮再現計算を実施したところ,両事例ともに時系列変化を精度よく再現できた.潮位偏差の計算値と観測値に対してスペクトル解析を実施したところ,台風18号では東京湾の固有周期付近でピークが確認された.さらにフェーズは湾口と湾奥部で0に近く,コヒーレンスも固有周期付近で1に近かった.一方,海面応力と海面更正気圧にスペクトル解析を実施したところ,固有周期付近でピークは確認されなかった.EOF解析を実施したところ,潮位偏差と気象場の空間変動に対応関係が確認され,水面勾配の形成と時間変化が副振動励起に影響する可能性が示唆された.
  • 梶川 勇樹, 松田 信彦, 武田 将英, 岩本 浩明, 江口 三希子, 黒岩 正光
    2017 年 73 巻 2 号 p. I_271-I_276
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/17
    ジャーナル フリー
     著者らは,一般的な造波水路を用いて実際に近い多様な津波を再現できる,電動式スルースゲートの津波造波装置の開発を進めている.実験条件に合わせた任意波形の造波には,ゲート開度等の制御データを作成する必要があり,現状では実験を繰返して任意波形に近づける合わせ込み調節を行っている.そのため本研究では,電動式スルースゲートの制御データの効率的な作成手法の開発を目的とし,1次元数値計算モデルを用いた繰返し計算により制御データを作成する段波造波用制御モデルを提案した.本研究で提案した段波造波用制御モデルは,任意津波波形の入力から,段波先端部の分散波第1波波高および段波波高を実験で再現できる制御データを出力できることを示した.
  • 柿沼 太郎, 後藤 卓也, 種田 哲也
    2017 年 73 巻 2 号 p. I_277-I_282
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/17
    ジャーナル フリー
     底面の変動により津波を生成させる装置を有する水槽を製作し,空間的に不連続に底面が隆起する場合に生成される津波の,鉛直断面内の過程を対象とした水理実験を行なった.本水槽は,外水槽と内水槽の2重構造を有する.津波高さは,底面の隆起量,隆起速度,または,隆起幅が大きい場合に大きくなった.ここで行なった実験における程度の水深の違いは,津波高さに殆ど影響しなかった.底面変動の最終的な隆起量及び断層幅が等しくても,底面の変動する位置が移動する場合には,隆起域の分割数が多いほど,津波高さが大きくなった.ただし,隆起速度が遅い場合には,津波高さは,隆起域の分割数にあまり依存しなかった.
  • 由比 政年, 上野 卓也, 山本 朗宜
    2017 年 73 巻 2 号 p. I_283-I_288
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/17
    ジャーナル フリー
     海底地滑りによる津波の発生・発達に対する数値モデルを構築し,既往の実験・数値結果と比較して適用性を検証するとともに,地滑り形状が津波の発達へ及ぼす影響を検討した.断面2次元実験との比較では,波高分布や時間波形について良好な再現性が得られた.土塊断面形状の影響については,背面傾斜の急勾配化に伴って最大波高が増大し,初期水深が小さい場合に形状の影響が顕著となることから,地滑り津波解析では土塊の初期形状・位置の設定が重要であることが確認された.平面2次元実験の再現計算では,最大波となる先頭の引き波について実験結果を良好に再現できた.平面形状については,地滑り土塊幅が狭まるにつれ平面2次元性の影響が強まる傾向が得られた.
  • 山中 亮一, 中川 頌将, 上月 康則, 馬場 俊孝
    2017 年 73 巻 2 号 p. I_289-I_294
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/17
    ジャーナル フリー
     徳島市を対象に,液状化による地盤沈下を考慮した津波浸水計算を行い,液状化による津波浸水過程への影響を評価した.地盤沈下量は,中央防災会議による予測結果を有限要素解析(FLIP)の結果を用いて補足することで求めた.津波浸水予測にはJAGRUSを用いた.その結果,津波の浸水過程と到達時刻は,液状化による沈下を考慮した場合,内陸に向かう小河川の近くや,道路や鉄道線路といった人工地形の周辺で変化した.このような浸水過程の変動特性を有する場所では,津波到達時刻が最大で10分程度早まることもあった.これは特定の条件下での解析結果であるため,可能性の一つではあるが早期避難の重要性を改めて示す結果である.
  • 久松 明史, 今村 文彦, 松浦 律子
    2017 年 73 巻 2 号 p. I_295-I_300
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/17
    ジャーナル フリー
     大規模地震における断層すべり分布の時間発展と最終的なすべり分布の不均一性を少ないパラメータ数で再現する断層モデルとして,円錐型のすべり分布を想定する断層モデルを開発した.東北地方太平洋沖地震による海底地表変位と岩手,宮城,福島の沖合津波波形を計算し,観測値の再現精度を評価した.一方,矩形断層面で一様すべり量を想定する従来の断層モデルについても同様の評価を行った.断層パラメータ数と津波波形の再現精度を比較するため,両モデルにおいて,単一の場合および複数断層を組み合わせた場合を検討した.その結果,新しく開発したモデルの方が従来モデルより少ないパラメータ数で津波波形を精度よく再現した.また,モーメント解放速度の時間変化が,遠地地震波および強震動のインバージョンで得られたものと調和的であった.
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