日本健康学会誌
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89 巻, 3 号
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巻頭言
シンポジウム3「持続可能で安全,健康なまちづくり」
原著
  • Hitomi ABE, Kota FUKAI, Noriko NISHIKIDO
    原稿種別: 研究論文
    2023 年 89 巻 3 号 p. 83-95
    発行日: 2023/05/31
    公開日: 2023/07/04
    ジャーナル フリー

    【目的】本研究は,中小企業の従業員を対象に,治療と仕事の両立支援(以下,両立支援)に関する従業員自身の認知・姿勢尺度を開発し,その信頼性と妥当性を検討することである.

    【方法】「両立支援ガイドライン」,および両立支援に関する文献検討や,中小企業の両立支援に詳しい研究者間の議論をもとに項目案を作成し,企業担当者の意見を得て改訂を行った.調査は,中小企業の従業員を対象とした無記名自記式質問紙調査を行い,紙面またはwebで実施した.

    650名の従業員に調査票を配布し,欠損値のない420名を分析した.探索的因子分析,ならびに確認的因子分析を行い,構成概念妥当性,基準関連妥当性,信頼性,およびモデル適合度を検討した.本研究は,東海大学医学部臨床研究審査委員会の承認を得て実施した(20R-241).

    【結果】3つの因子,「治療と仕事の両立支援のための職場の取り組みに関する従業員自身の認知」(第1因子,9項目),「治療と仕事の両立支援における専門家の役割に関する従業員の理解」(第2因子,5項目),「治療と仕事の両立支援に関する従業員の姿勢と自己効力感」(第3因子,6項目)が抽出された.Cronbach-αは,それぞれ0.95,0.94,0.87であった.確認的因子分析におけるモデル適合度を高めるために修正指数を確認し,5つの変数間の相関を仮定した.最終モデルでは,GFI=0.86,AGFI=0.81,CFI=0.93,RMSEA=0.09,AIC=776.4であり,適合度も許容範囲であると考える.第1因子は,職場における両立支援策等の取り組み状況に関する従業員の認知であり,従業員への浸透度を測定できる項目であり,他の2因子は,波及効果として従業員の理解や姿勢を測定できるという構成概念妥当性が確認された.また,両立支援に関する従業員自身の認知・姿勢の合計得点が高いほど,「心理的安全性」,「ワークエンゲイジメント」の得点が高いという有意な正相関が認められ,基準関連妥当性が示された.

    【考察】本研究で開発した治療と仕事の両立支援に関する従業員自身の認知・姿勢尺度を支援前後に活用することによって,治療と仕事の両立支援に関する従業員の認知・姿勢の現状の把握と,両立支援策を実施した効果を検証することが可能となり,企業特性に合わせた有効かつ効果的な推進方策を見いだせる可能性があると考えられる.

資料
  • Noriko OKAMOTO, Naoki MAKI, Akihiro ARAKI, Toshifumi TAKAO
    原稿種別: 研究論文
    2023 年 89 巻 3 号 p. 97-104
    発行日: 2023/05/31
    公開日: 2023/07/04
    ジャーナル フリー

    感染性呼吸器疾患は高齢者では症状が乏しく重症化しやすい特徴がある.

    口腔衛生は感染性呼吸器疾患を予防する方法の一つであり,中でも歯磨きは高齢者の中で最も実施されている.そこで,本研究は日常的な歯磨きと感染性呼吸器疾患の予防に関連する分泌型免疫グロブリンA(SIgA)との関係について検討することを目的とした.

    調査は関東エリアの地域在住高齢者15人を対象に2020年1月に実施した.

    調査方法は,歯磨き時間とSIgA,感染予防に関連する行動(手洗いと前後の手指の細菌コロニー数),睡眠,健康状態や他者との交流について測定と質問紙調査を行った.その結果,1人が参加を辞退し,14人を分析の対象とした.対象者の平均年齢は78.9(SD 6.0)歳であった.歯磨きの時間で2群に分けて分析した結果,歯磨き時間の長い群(≧85.5秒)は短い群(<85.5秒)よりも普段のSIgA値が高かった.また,歯磨き時間の長い群は,口腔衛生に関係する指標とした最後に歯科を受診してからの期間は長く,残存歯数は多い傾向であった.

    口腔気道粘膜の免疫に関与するSIgAの増加は感染性呼吸器疾患の予防に関与するかもしれない.本研究の知見は,長い歯磨き時間がSIgAの増加をもたらすことを示唆した.

    以上より,85.5秒以上の歯磨きは口腔衛生を保ち,SIgAを増加させることによって感染性呼吸器疾患の予防に繋がる可能性が示唆された.しかし,本調査の限界に対象者数の少なさと実際の歯磨きの手技を評価していないことがあり,今後は歯磨きの手技を評価し,効果的な方法を高齢者と共有し,対象者数を増やしてSIgAとの関連を検証することを課題とした.

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