感染性呼吸器疾患は高齢者では症状が乏しく重症化しやすい特徴がある.
口腔衛生は感染性呼吸器疾患を予防する方法の一つであり,中でも歯磨きは高齢者の中で最も実施されている.そこで,本研究は日常的な歯磨きと感染性呼吸器疾患の予防に関連する分泌型免疫グロブリンA(SIgA)との関係について検討することを目的とした.
調査は関東エリアの地域在住高齢者15人を対象に2020年1月に実施した.
調査方法は,歯磨き時間とSIgA,感染予防に関連する行動(手洗いと前後の手指の細菌コロニー数),睡眠,健康状態や他者との交流について測定と質問紙調査を行った.その結果,1人が参加を辞退し,14人を分析の対象とした.対象者の平均年齢は78.9(SD 6.0)歳であった.歯磨きの時間で2群に分けて分析した結果,歯磨き時間の長い群(≧85.5秒)は短い群(<85.5秒)よりも普段のSIgA値が高かった.また,歯磨き時間の長い群は,口腔衛生に関係する指標とした最後に歯科を受診してからの期間は長く,残存歯数は多い傾向であった.
口腔気道粘膜の免疫に関与するSIgAの増加は感染性呼吸器疾患の予防に関与するかもしれない.本研究の知見は,長い歯磨き時間がSIgAの増加をもたらすことを示唆した.
以上より,85.5秒以上の歯磨きは口腔衛生を保ち,SIgAを増加させることによって感染性呼吸器疾患の予防に繋がる可能性が示唆された.しかし,本調査の限界に対象者数の少なさと実際の歯磨きの手技を評価していないことがあり,今後は歯磨きの手技を評価し,効果的な方法を高齢者と共有し,対象者数を増やしてSIgAとの関連を検証することを課題とした.
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