本研究は,がんサバイバーである就労者(がん就労者)の治療と就労の支援にあたって,人事労務担当者が支援にあたりどのような困難を感じ,どのような知識を求めているかを把握することを目的として,2011年に実施した横断研究である.
人事労務担当者のニーズ,および,支援経験の実際を把握するため,人事労務担当者を対象として,がん就労者への支援において感じる困難(7項目),がん就労者への支援に役立つ情報の有用性(12項目)を含む自記式質問紙調査を実施した.日本産業衛生学会の登録産業看護師704名を対象に,日頃の活動のうえで協力体制をとっている人事労務担当者1名に質問紙を手渡すよう依頼した.倫理審査委員会の承認を得て実施した.
98名の産業看護師が人事労務担当者に調査票を手渡し,内81名の人事労務担当者から回答を得られた.33名はがん就労者への支援経験を持っていた.
「がんと診断された従業員の家族への対応」,「どこまで個人の疾病情報を知るべきか(病名,治療計画,予後等)」,「がんと診断された従業員のいる職場への人員加配への配慮」は3分の2以上の回答者が困難と捉えていた.「がんの部位別 (胃がん,大腸がん,乳がん等)に,職場で必要となる具体的な対応」(p=.006),「がんの治療法ごと(手術,化学療法等)に,職場で必要となる具体的な対応」(p=.045),「産業保健スタッフとの連携のタイミングや連携方法」(p=010)の3項目は,経験者の方が「有用」と捉える割合が低くなっていた.
本研究結果は,人事労務担当者が直面する困難の変化を捉えるなど,様々な側面から治療と就労の両立支援を評価する基礎資料になると考える.
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