蟻蚕の炭酸カルシウムに対する摂食反応性(炭酸カルシウム摂食性)の遺伝様式を明らかにするために,系統分離と遺伝分析を行った。種々の品種の中から,摂食量(排出糞数)を指標とした蛾区選抜法による食性選抜と継代を繰り返すことにより,炭酸カルシウムに対して強い摂食反応性を持つ系統と摂食反応性を持たない系統を作出した。試験は,両系統の間でF
1,F
2およびBF
1交配を行い,それぞれの交雑種の炭酸カルシウムに対する摂食反応性について調べた。セルロース粉末,寒天および水から成る基本飼料と基本飼料に10%の炭酸カルシウムを加えた飼料を孵化直後の蟻蚕に与え,全暗72時間の排出糞数(以下,糞数)を調査し,飼料中の炭酸カルシウムに対する各交雑種の摂食反応性を評価した。その結果,炭酸カルシウムに摂食反応を示す性質(炭酸カルシウムを摂食する性質)は,摂食反応を示さない性質(摂食しない性質)に対して不完全優性的に遺伝することが明らかになった。また,炭酸カルシウムに対する摂食反応性(摂食する性質)に関与する遺伝的要因は,作用力の強い主働遺伝子と作用力の弱い複数の修飾遺伝子によって構成されていることが推測された。さらに,この主働遺伝子については,常染色体上に存在する単一の遺伝子であると考えられた。
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