昨秋のシンホジウムでは長年のライフサイクルコスティングの調査研究の中で観察した信頼性や安全性関連の社会的諸問題について、ディペンダビリティ管理システムと信頼性工学の視点から課題を把握し、全般的な批判を加えた.また、これらの諸要因の主たる誘因となるライフサイクルを通して行われるトレードオフ活動とその関連意思決定に関する理解の為に工学的市場の概念を導入した.これらへの一つの解として公理的工学規範の設定と導入を提唱した.本稿ではこれをさらに展開して、具体的な統合システムエンジニアリングの枠の中で工学的規範を展開する.ライフサイクルコスティングの活動を通した対象プログラムのコスト、スケジュール、要求事項の実現化実績と予測、関連リスク、及び、新たな展開による潜在的変化、これらの諸要素のトレードオフ活動の結果としての調和的もしくは妥協点とその限界を追求する.そして公理的工学規範の意義と有効性を再度、提唱し主張する.また、この時間的経緯の中に総ての要素を関連付けるライフサイクルに基づいた継続的そして段階的フィードバックプロセスの進捗管理方式は信頼性工学の枠を超えた総ての分野に適用可能な一般的概念と方策であることを主張する.これらは社会的倫理としての基盤となり得るものとして、現状の問題点を根源的視点、社会制度的視点、及び、産業構造的視点から社会的工学的規範規定されるべきものであることを考察する.この規範が定着し、次の世代への適正な工学的伝承として継続されることを秘かに期待している.
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