生活経済学研究
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55 巻
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論文
  • 櫻井 秀彦, 森藤 ちひろ, 岸本 桂子
    原稿種別: 論文
    2022 年 55 巻 p. 1-14
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/09/30
    ジャーナル オープンアクセス
    本研究では、近年着目されているヘルスリテラシーの概念に着目し、ヘルスリテラシーやその他の構成概念からの服薬継続行動への相対的な影響度を明らかにすることを目的に実証研究を行った。 慢性疾患の患者数が多い高血圧と糖尿病治療薬、ならびに急性期で処方される抗菌薬を服用した計1700名にweb調査を行った(重複無し)。先行研究に基づいて測定した影響要因である自己効力感、患者エンパワメント(情報探索や知識獲得意欲)、ならびに機能的・相互的・批判的の3次元のヘルスリテラシーからの意図的/非意図的な服薬中断への影響、更には服薬継続(アドヒアランス)尺度への影響をパス解析により検討した。 アドヒアランス尺度には、非意図的中断、次いで効力予期の影響が大きかった。意図的中断は慢性期では相対的に強く影響し、抗菌薬では小さかった。また、情報探索と知識獲得、更に批判的ヘルスリテラシーはアドヒアランス尺度に対し負の影響を示した。影響度順から見た場合、飲み忘れ等による非意図的中断への対処が最優先され、次いで効力予期を高めること、更に慢性疾患では意図的な中断への対応も必要なことが示された。一方、影響度は相対的には大きくないものの、情報探索、知識獲得、批判的ヘルスシテラシーなど、患者による情報や知識に対する過度なコミットは自己判断による中断行動の要因となる可能性が示唆された。
  • 大塚 忠義, 谷口 豊
    原稿種別: 論文
    2022 年 55 巻 p. 15-30
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/09/30
    ジャーナル オープンアクセス
    生命保険文化センター(2016年)の調査によると、回答者の85.7%が自分の老後生活に不安を感じている。一方で、谷口・大塚(2020)で「全国消費実態調査」をもとに行ったシミュレーションでは、80%を超える世帯が生存中に貯蓄が枯渇する可能性が低いという結果を得た。このような差異は、現役世代が老後生活に対して感じている不安感は実態より悲観的であることを示唆している。 本稿の目的は、貯蓄ゼロの蓋然性が低いにもかかわらず老後生活に不安を感じる世帯の属性を分析し、老後生活費への不安感の要因を明らかにすることである。その結果、次のような知見を得ることができた。 生存中に資産が枯渇する可能性が低いにも関わらず不安感を持つ要因は年齢ではなく世帯年収であり、不安感をもたらす世帯年収は年齢とともに低くなると考えられる。また、老後生活費を公的年金に依存している割合が高いほど老後生活の不安感は高い傾向にあると推測される。逆に、農林漁業者等定年がなく老後も勤労所得により生活費を賄える世帯については加齢とともに不安感が減少する傾向にあることがわかった。
  • ジェンダー視点からの分析
    佐野 潤子
    原稿種別: 論文
    2022 年 55 巻 p. 31-44
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/09/30
    ジャーナル オープンアクセス
    本研究は、日本証券業協会調査部が実施した「2018年証券投資に関する全国実態調査」と題する男女へのアンケート調査をもとに、金融行動における性差をジェンダーの視点から考察したものである。本稿でいう「性差」は、その差が社会的要因に由来すると考えられる場合に用いられる言葉である。本研究では、30 歳から 65 歳までの既婚の正社員で、現役世代で収入を得ている男性 1,253 名、女性 347 名のデータを分析した。記述統計によると、女性は男性に比べて証券投資の必要性を感じないということが示唆された。しかし、男性の方がリスク回避的であり、そのために有価証券の保有額が有意に減少していることが示された。女性の平均保有証券額は、男性の平均保有証券額の約54%であった。一方、年収に対する有価証券の比率、個人名義の金融資産に対する有価証券の比率では、男女間に有意な差は見られなかった。この結果は、正規雇用の女性は、投資行動が男性に比して消極的とは言えない。パス分析の結果、男女とも有価証券の保有額を増加させる要因は、自分名義の金融資産の保有額であることがわかった。つまり、自分の資産を形成するための知識が重要であることがわかる。したがって、女性が働き続ければ、年収や自分名義の金融資産額が増える一方で、女性の投資行動も活発化することになる。
  • 雇用形態別の比較
    山本 咲子
    原稿種別: 論文
    2022 年 55 巻 p. 45-62
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/09/30
    ジャーナル オープンアクセス
    本稿では、生活を構成する機能(doing, being)の選択の自由から生活の質を評価するケイパビリティ・アプローチを用いた生活の質の分析を実施し、女性労働者に焦点を当て、雇用形態の違いによってどのような生活の質の相違があるのかを明らかにした。対象者は、女性非正規雇用者10名と女性正規雇用者7名である。インタビュー調査を実施し、60項目の機能の必要性、達成状況、どのような生活資源や資源利用能力を用いて生活に必要な機能を達成しているのかを問うた。雇用形態別に比較分析した結果、以下3点の知見が得られた。(1)非正規雇用者が達成できる機能数は正規雇用者の3分の1しかなかった。(2)両者ともに最も不足している生活資源は時間であった。非正規雇用者は正規雇用者よりも、金銭や時間が不足することで機能を達成できていなかった。(3)両者ともにモチベーションに関連する資源利用能力の不足していた。また、非正規雇用者のみ自分自身の将来に対する不安感によって機能の達成が困難になっていた。
  • 品田 雄志
    原稿種別: 論文
    2022 年 55 巻 p. 63-78
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/09/30
    ジャーナル オープンアクセス
    信用金庫は、相互扶助を経営理念とする、非営利の協同組織金融機関である。本稿では、信用金庫の預貸利鞘の決定要因について検証するため、1998年から2018年までの21年間のデータを使用した。当該期間は、預貸利鞘がほぼ一貫して低下していた時期にあたる。分析にあたっては、固定効果モデルを用いた。 主要な結論は、次の2点である。1点目は、分析期間中において、経費率の低下、長短金利差の縮小の順で預貸利鞘の低下に寄与していた。このうち、経費率の低下は、信用金庫の経営努力の成果であるといえる。長短金利差の縮小は、当該時期の日銀の金融緩和政策が影響している。 2点目は、信用金庫における相互扶助性が預貸利鞘の低下に寄与していることである。これは、相互扶助性の代理変数として内部留保を説明変数に入れることで計測された。協同組織金融機関である信用金庫は、銀行と異なり内部留保が無コストであることから、より低い預貸利鞘を許容する。言い換えるなら、内部留保の蓄積を通じて、世代間で相互扶助が成立している。
  • 田代 歩
    原稿種別: 論文
    2022 年 55 巻 p. 79-96
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/09/30
    ジャーナル オープンアクセス
    本稿では、消費者の消費支出水準がライフステージによって変化する「年齢効果」を考慮して消費税の軽減税率が消費者に与える影響を分析した。「年齢効果あり」と「年齢効果なし」に分けて、それぞれのケースにおいて社会的厚生関数を使用してシミュレーション分析を行った。そして、「年齢効果あり」と「年齢効果なし」の結果を比較することで考察を行った。 分析の結果、軽減税率による効率性と公平性のトレードオフは年齢効果の影響に依存することが明らかになった。「年齢効果あり」ではトレードオフが観察されない一方で、「年齢効果」なしでは税収規模が高い場合においてトレードオフが観察された。これは、「年齢効果なし」が「年齢効果あり」よりも軽減税率が資源配分を歪める効率性の影響を過大に評価することを示唆している。 この結果により、本稿では軽減税率の導入を支持することができる。そして、世代間の視点から軽減税率の導入の是非を議論する場合、「年齢効果」の影響を明確にすることが重要である。
  • 日本からの証拠
    盧 宇晨
    原稿種別: 論文
    2022 年 55 巻 p. 97-114
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/09/30
    ジャーナル オープンアクセス
    近年,外国人労働者の急増により,外国人労働者を対象とした研究が増えてきている.しかし,外国人労働者に関するデータが限られているため,関連の実証分析の数はまだ十分ではない.本研究では,外国人労働者の受け入れが労働力の賃金にどのような影響を与えるか,また,外国人労働者の流入が労働力の年齢階級別賃金に与える影響という2つのテーマに焦点を当てている.国勢調査,賃金構造基本統計調査,都道府県別経済財政モデル・データベース等を用いて47都道府県レベルで分析を行った.また,内生性を回避するために,操作変数法(IV)も使用された.得られた分析結果によると,全体としては,外国人労働力人口の変化は,ネイティブの男女労働力の実質賃金に大きな影響を与えないものの,特定の年齢層の賃金水準は,外国人労働力の増加に伴って若干上昇する可能性がある.さらに,外国人労働力の規模が拡大しても,特定の年齢層の実質賃金水準が低下するという証拠も見当たらない.したがって,外国人労働者の受入れは,現在の日本の労働力不足を緩和し,一部の年齢層における国内労働力の生産性の向上にもつながると推測する.
  • 江 天瑶
    原稿種別: 論文
    2022 年 55 巻 p. 115-130
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/09/30
    ジャーナル オープンアクセス
     「妻は家事育児、夫はお金稼ぎ」というジェンダー役割分業はどのように決定されるのか。比較優位モデルや社会的交換理論で解釈すると、収入を得ることで、妻は家事の負担の量をより柔軟に選択できると言われる。経済的に夫に依存している妻は家事の責任を負い、自立している妻は配偶者とより平等に家事を分担する。  しかし、最近の研究では、妻の収入と家事分担の間に異なる相関関係があることが示される。家事の分担は、夫婦間の単純なトレードオフではなく、ジェンダー・イデオロギーにも影響される。男女の役割分業のジェンダー規範を内面化した女性は、夫の収入を上回ることでこの法則に反していると感じ、自分の逸脱を補うためにむしろ家事を増やしてしまう。この現象は社会学では「ジェンダーディスプレイ」と呼ばれる。  本稿では、二次分析を行い、収入を説明変数にして日本と中国の夫婦の家事分担を見る。日本と中国の既婚女性は、経済的地位を向上させることで家事労働を減らすことができるが、ジェンダーディスプレイは彼女たちの家事や育児労働に発生することも見られた。ジェンダー規範は多かれ少なかれ中国と日本の女性の行動に影響を与えている。
生活経済学会第37回(2021年度)研究大会 共通論題
生活経済学会37回研究大会会長賞受賞論文
  • 丸山 桂
    原稿種別: 論文
    2022 年 55 巻 p. 159-178
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/09/30
    ジャーナル オープンアクセス
    The purpose of this study is to investigate the major factors affecting gender gap in children’s financial literacy by empirical analysis using microdata set. Even in lower elementary school grades, there is a difference in experience of talking about money or finance with their parents between boys and girls. More frequent parent-child discussion about money or finance has a positive impact on financial behavior and financial knowledge even in childhood. In this analysis, girls are less financially knowledgeable than boys. The reason is that girls tend to answer ‘I don't know’, rather than possibly answer a question incorrectly, compared to boys. The differences in response patterns to questions about financial knowledge are persistent between boys and girls from their elementary school period. Furthermore, those children who answered ‘I don't know’ tend to have lower financial literacy and financial attitudes, lower abilities at mental arithmetic, not having personal bank account, and live in households with less cultural capital and parent-child discussion about money and finance. It is necessary to consider the effects of encouraging discussion and questioning gender-based attitudes and roles in both the home and school education.
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