生活経済学研究
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53 巻
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論文
  • 小井戸 あや乃, 大藪 千穂, 奥田 真之
    2021 年 53 巻 p. 1-14
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/09/30
    ジャーナル オープンアクセス
     近年、わが国ではキャッシュレス化が進んでいる。これから見えないお金が増えていく中で、子どもたちはお金を管理する能力やお金の価値についての理解を深めることが必要となっている。  子どものときから、楽しみながらお金の計画的な使い方やお金の価値について考えられる「おこづかいちょう」を開発したため、それを用いて保護者を対象にアンケートを実施し、110人の教育的効果を分析した。  この結果、保護者の半数以上が教育的効果があったと感じた。「おこづかいちょう」をつけることで、子どもの「非認知能力」の自制心と「イメージマップ」の「生活を設計・管理する能力」において変化が見られた。これらの点は、子どもに対するアンケート結果からも同様の結果が得られた。開発した「おこづかいちょう」を用いた実践は、子どもたちが実際に生活していく中で、自分のお金の使い方についてより実践的に、主体的に学ぶことに貢献することが明らかとなった。
  • 大規模アンケート調査に基づく実証分析
    渡辺 寛之, 佐々木 昭洋
    2021 年 53 巻 p. 15-30
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/09/30
    ジャーナル オープンアクセス
    金融に関する知識(金融リテラシー)について岡山県内の高校生約5500人を対象にアンケート調査を実施し、その調査結果に基づき実証分析をおこなった。本調査は高等学校の協力により行われたため、回答者がアンケート調査に積極的な者に偏らないという意味で標本の偏りが小さい。アンケートの前半では回答者の金融リテラシーのレベルを測る質問を、後半では考え方や行動パターン(ライフスタイル)を聞く質問を設けた。この2つの関係を調べたところ、「漠然とした進学意識や就業意識」を有する高校生は金融リテラシーのレベルが低くなる傾向があることが明らかになった。個人のライフスタイルに配慮した金融経済教育の重要性が示唆される。
  • 5ライフサブシステム対応・非貨幣等4経済領域の3ライフ経営
    長嶋 俊介
    2021 年 53 巻 p. 31-44
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/09/30
    ジャーナル オープンアクセス
     新文明への入口として、諸危惧や危機が生活経済環境を囲繞している。「生(ライフ)」「活(経営)」を足場とする、根源的人間性や生命認識等をコアとする、根基的経営からの学際的生活経済再構築が問われている。中でも非貨幣経済領域の明示的展開は意義深い。加えてその貨幣経済との明確な接合理論が待望されている。本論では、非貨幣経済経営(ライフ経営)とそれを覆う3貨幣経済(家計/コミュニティ・片側経済・倫理的市場)領域の総合図を提起した。その4領域が格子状に縦断する層には、ライフシステムの5サブシステム(その機能装置)と対応する5(公共も含む)経済分野を配置した。下層からヒト-自然(自然論理⇔エコ産業),-モノ(勿体論理⇔製造流通),-ヒト(対人論理⇔サービス)、-コト(公民論理⇔公共関連)、-ココロ(人間復興⇔情報・知財)とし、各層内で非貨幣論理と3貨幣経済を対置させた。  総じてはヘーゼル・へダーソンの生命系経済の横展開の変形に、同氏の倫理的市場・片側市場論を加えた論と捉えられるかも知れない。しかしこの5層展開により、非家計経済側からの輪切りが始動する。また非貨幣経済内外優境学的調整・経営原理が、QO‘L’向上スパイラルを、家庭・コミュニティから他地域・社会・国・全球に及ぼすことにも繋がる。SDGsはその例示である。弱者・不公正・不平等・環境に対する倫理的市場対応の他、各層のハザード例を明記し、かつ公共(及びその補完)機能を第4層に設定することで、4領域横断+層間相互作用での政治経済的調整機能(典型的にはCOVID-19や金融資本主義的な過度な自由主義や地球環境に関わる予定不調和への対応)も期待される。  市場経済論理のみならず、地球市民論理、自然環境論理、内なる自然や人間性論理が、各分野・各領域・全体に貫通するライフ経済文明への理念整理でもある。性善説に立つ倫理的行動を、社会経済・公共システムが性悪説危機予防力としても守護力を発揮できるか否かも問われる。予定調和の歪みとしての自然環境危機、市場経済危機、生命科学・電子文明の危機や危惧に際し、ライフ経営ではいかにして総合力として有効に予防力・阻止力・論理力を行使できるかが問われる。生きた有機体であり、システムでもあるライフとその様態には、様々な相互作用や揺らぎがある。それらが、動態的でしなやかで持続可能な文明と、共鳴・共振・協調する確かな仕組みが構築されるとき、消費・労働・余暇等の様態選択肢も、自由でおおらかで、かつ安心して、豊かに広げていけることとなる。「生(3ライフ)」「活(4領域)」「経済(5分野)」の総合力は、主体力の再生・復活にも繋がる。
  • 近藤 智
    2021 年 53 巻 p. 45-60
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/09/30
    ジャーナル オープンアクセス
    本稿の目的は、第3次産業化し旧来の製造業誘致などが難しくなった今日の我が国において、地域の雇用を増やし地方創生に資する地域産業は何かをデータに基づき探ることにある。そのため本稿では、就業構造基本調査(総務省)の県内経済圏別集計における産業別・年齢層別有業者数のデータを用いて、①本稿の定義による基盤産業(製造業、情報通信業、学術研究,専門・技術サービス業)の非基盤産業(基盤的産業と公務を除く)への雇用創出力の推定と、②各産業の地域雇用全体への地域乗数の推定をおこなっている。このとき、空間計量経済学の手法を活用して、近接した地域間相互の影響も考慮した推定をおこなっている。
  • 虞 尤楠, 浦川 邦夫
    2021 年 53 巻 p. 61-74
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/09/30
    ジャーナル オープンアクセス
     本研究では、日本の都道府県別パネルデータ (2003-2016)をもとに、最低賃金の決定要因に関して隣接地域の最低賃金の水準や生活保護制度との関係に特に注目し、計量モデルによる検証を行った。操作変数を用いた固定効果モデル推定の結果を要約すると、以下の点が明らかとなった。  第一に、各都道府県の地域別最低賃金は、都市部、地方ともに、前年の隣接都道府県の最低賃金水準の変化の影響を受けている点が示された。当該地域の諸要因だけでなく、社会経済的に交流が大きい隣接県の最低賃金の水準の影響も受けていることから、審議会方式を通じた政治的な調整メカニズムが機能しているといえる。  第二に、失業率については有意に負であり、雇用環境の悪化は最低賃金の上昇を抑制する傾向が見られた。ただし、家計消費などの地域経済指標は非有意であり、当該都道府県の地域経済の実態が最低賃金に十分に反映されていない可能性がある。  第三に、被保護世帯1世帯あたり生活保護給付の最低賃金に対する影響は、地域や時期によって異なるが、2012年12月の自公連立政権への交代以降(2013-2016)は、全てのモデルで有意に正であり、改正最低賃金法(2008年7月施行)に定められた「健康で文化的な最低限度の生活」の確保に配慮し、生活保護水準と最低賃金の逆転現象を回避する傾向が確認された。
  • 田代 歩, 上村 敏之
    2021 年 53 巻 p. 75-88
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/09/30
    ジャーナル オープンアクセス
     本稿では、国と地方の財政において、人口移動と受益および負担に関する因果関係を分析した。 最初に、都道府県別の一人当たりにおいて、「国の直接支出」「財政移転」「地方財政の直接支出」 から受益を計測し、「国税」「地方税」から負担を計測した。次に、受益と負担に依存する実証 モデルを用いて回帰分析を行った。最後に、回帰分析で得られた結果を用いて、人口移動と受益 および負担に関する因果関係の仮説の検証を行った。  分析の結果、2009年度では、可処分所得と国の直接支出が人口の転入を増加させる要因であり、2014年度では、地方財政が人口の転入を増加させる要因であることが分かった。さらに、地方財政の直接支出が可処分所得や国の直接支出よりも人口の転入の増加に対して高い効果をもたらすことが明らかになった。したがって、地方財政の改善について見直し、地方財政の活性化に取り組むことで、地方の過疎化や東京の人口一極集中の緩和に対して、国の財政よりも高い効果をもたらすことが期待できると結論づけた。
生活経済学会第 36 回(2020 年度)研究大会 共通論題
生活経済学会第 36 回研究大会会長賞受賞論文
  • 大量データを用いた被保険者の健康増進をめぐるインセンティブに関する研究
    永井 克彦, 山本 信一, 米山 高生
    2021 年 53 巻 p. 107-130
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/09/30
    ジャーナル オープンアクセス
     本研究は、健康診断および診察結果に関する大量データを用いておこなってきた、人々の健康増進活動の動機と効果の研究の一部である。この論文では、健康診断の結果を改善させ、生活習慣の改善を推進させる可能性がある意識変化の影響に焦点を当てる。株式会社JMDCの健康保険組合由来データ及び健康アプリのログインデータを用いて、意識変化の代理変数をログインの有無とすることで、「生活習慣の改善が促進され、生活習慣の悪化が抑制される。」及び「健康診断計測値が健康診断基準値から外れている被保険者について、健康診断基準値に近づく方向の影響がもたらされる。」という仮説を実証した。実証の結果、ログイン(意識変化)が、生活習慣が改善に関係があること、また多くの健診計測数値の改善と因果関係があることが明らかになった。
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