本研究では、第8回人口移動調査の個票データを活用し、効用理論に基づく離散選択モデルによって、次の2点を計量的に明らかにすることを目的として分析を行った。1点目は、初職時Uターンにおいても出身地(目的地)の経済的要因が移動に影響を与えるのか、2点目は、どの地域出身であることが初職時Uターンに影響を与え、それは男女で違いがあるのか、である。
分析の結果、地域間移動に影響を与えると予想された出身地の経済的要因に関して、東京圏進学者の場合、特に出身地の有効求人倍率は男性の初職時Uターン確率と関連するが、女性の初職時Uターンに関しては十分に説明することはできないことが示された。ただし、出身地と進学先との格差を考慮すると、男性は県民所得の格差、女性は有効求人倍率の格差が初職時Uターンと関連する。しかし、女性の場合コホート別に分析すると有意な結果ではなくなることから、有効求人倍率の格差はコホートの影響が反映された結果であり、出身地がより経済的に豊かで仕事を見つけやすいかどうかは、女性の初職時Uターンと関連するとは言いがたいことがわかった。
出身地ごとの影響に関しては、コホート全体でみれば新潟県、長野県、大阪府、佐賀県出身の女性が初職時Uターンしやすいようにみえたが、コホート別にみると、実際1957-76年生まれである場合に、新潟県、長野県のプラスの影響が示されたのみであった。東京圏進学者の場合でも同様である。このことから、新潟県、長野県出身であることがコホート全体で女性の初職時Uターン確率にプラスに働いていたのは、1957-76年生まれの影響が強く表れていたためであると考えられる。それに対して、男性はより若い世代である1977-91年生まれの場合に、長野県出身であることが初職時Uターン確率にプラスに働く。長野県出身の女性は若い世代で有意な結果を示さなかったが、男性は逆に、若い世代で初職時Uターンする傾向にあることが示された。このように、同じ都道府県でも男女でコホートによって初職時Uターン確率に与える影響が異なるのは、国や都道府県で実施するUターン政策が男性にとって有益になっている可能性も考えられるため、政策の内容も精査する必要がある。
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