生活経済学研究
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56 巻
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論文
  • 奥田 純子
    2022 年 56 巻 p. 1-18
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/03/31
    ジャーナル オープンアクセス
    本研究では、第8回人口移動調査の個票データを活用し、効用理論に基づく離散選択モデルによって、次の2点を計量的に明らかにすることを目的として分析を行った。1点目は、初職時Uターンにおいても出身地(目的地)の経済的要因が移動に影響を与えるのか、2点目は、どの地域出身であることが初職時Uターンに影響を与え、それは男女で違いがあるのか、である。 分析の結果、地域間移動に影響を与えると予想された出身地の経済的要因に関して、東京圏進学者の場合、特に出身地の有効求人倍率は男性の初職時Uターン確率と関連するが、女性の初職時Uターンに関しては十分に説明することはできないことが示された。ただし、出身地と進学先との格差を考慮すると、男性は県民所得の格差、女性は有効求人倍率の格差が初職時Uターンと関連する。しかし、女性の場合コホート別に分析すると有意な結果ではなくなることから、有効求人倍率の格差はコホートの影響が反映された結果であり、出身地がより経済的に豊かで仕事を見つけやすいかどうかは、女性の初職時Uターンと関連するとは言いがたいことがわかった。 出身地ごとの影響に関しては、コホート全体でみれば新潟県、長野県、大阪府、佐賀県出身の女性が初職時Uターンしやすいようにみえたが、コホート別にみると、実際1957-76年生まれである場合に、新潟県、長野県のプラスの影響が示されたのみであった。東京圏進学者の場合でも同様である。このことから、新潟県、長野県出身であることがコホート全体で女性の初職時Uターン確率にプラスに働いていたのは、1957-76年生まれの影響が強く表れていたためであると考えられる。それに対して、男性はより若い世代である1977-91年生まれの場合に、長野県出身であることが初職時Uターン確率にプラスに働く。長野県出身の女性は若い世代で有意な結果を示さなかったが、男性は逆に、若い世代で初職時Uターンする傾向にあることが示された。このように、同じ都道府県でも男女でコホートによって初職時Uターン確率に与える影響が異なるのは、国や都道府県で実施するUターン政策が男性にとって有益になっている可能性も考えられるため、政策の内容も精査する必要がある。
  • マクドナルドおよびスターバックスの比較を通じた分析
    尾室 拓史
    2022 年 56 巻 p. 19-32
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/03/31
    ジャーナル オープンアクセス
    日本において店頭におけるキャッシュレスの普及が見られつつあるものの、キャッシュレス利用時に使いすぎを懸念する生活者が一定数いることが指摘されている。このため、今後のキャッシュレスのあり方を議論するうえでは、実際にキャッシュレスの利用がどのように使いすぎにつながってしまうのか、ということを把握したうえで、生活者にとって望ましいキャッシュレスとの向き合い方を含めて検討していくことが望ましい。これを踏まえ本稿は、キャッシュレス利用時に、現金利用時と比べて購買が促進される効果(購買促進効果)の現れ方が、利用するキャッシュレスサービスやポイント還元率、個人属性の差異によりどの程度異なるのか、ということについて検討を行ったものである。マクドナルドおよびスターバックスの顧客を対象として検討を行った結果、タッチ式やコード式による購買促進効果の現れ方の差異は確認できなかったが、ポイント還元率が高いほど、また、年齢が高い人ほど購買促進効果が現れやすいこと等が分かった。
  • 末廣 徹
    2022 年 56 巻 p. 33-48
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/03/31
    ジャーナル オープンアクセス
    本稿では、行動経済学におけるメンタル・アカウンティング(心理会計)のバイアスの一種であるメンタル・バジェッティング(心理的な予算の割り当て傾向)と個人が保有する金融資産残高の関係をインターネットアンケート調査の結果を用いて分析した。メンタル・バジェッティングの傾向がある個人は予算を管理することと同時に金融資産の管理を積極的に行う傾向があることから、金融資産の蓄積にもプラスの効果があると言われている。しかし、管理したからと言ってそれが最適であるとは限らない。予算の割り当てを誤れば、金融資産の蓄積にマイナスの影響を与える可能性もある。伝統的な経済学が想定するように、仮に家計が最適な選択を採ることが可能であるとすれば、予算を割り当てることは望ましいことではない。本稿では、直接的にメンタル・バジェッティングと金融資産残高の関係を分析することにより、メンタル・バジェッティングの傾向がある個人は保有する金融資産残高が少ない傾向がある可能性を示した。つまり、メンタル・バジェッティングの傾向がある個人は予算を管理することによって金融資産の蓄積が阻害されている可能性が高いことが明らかになった。
  • 鮎川 瑞絵
    2022 年 56 巻 p. 49-67
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/03/31
    ジャーナル オープンアクセス
    本稿では、ふるさと納税制度において、ふるさと納税の受け入れにかかる地方政府の事務処理等のコストが、地方政府間での税率決定および各地域の税収など地方財政に対しどのような影響を与えるかについて考察する。 本稿では、加藤・柳原(2022)と同様に,自分が居住している地域に対する愛着がある下で、二つの地方自治体がふるさと納税の返礼品を加味した税率を基に租税競争を行うモデルを考える。特に本稿では、地方自治体が他地域からのふるさと納税を受け入れる際には,事務処理等のコストを必要とするものとし。それが地方政府間で決定される税率や,財政状況等にどのような影響を与えるかについて検討している。 本稿で得られた主な結論としては以下のとおりである。第一に、加藤・柳原(2022)では、地方政府間の競争の結果得られる均衡点が人口の大きな地域から人口の少ない地域へとふるさと納税が行われる点しか存在しないことが示されていたが、本稿ではさらに、ふるさと納税が二地域間で行われない均衡も存在しうることが明らかになる。第二に、どの点が均衡となるかについては、地方自治体が負担するふるさと納税の受入に関する事務処理等のコストにも依存することが示される。
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