日本造血・免疫細胞療法学会雑誌
Online ISSN : 2436-455X
12 巻, 4 号
選択された号の論文の11件中1~11を表示しています
総説
  • 服部 浩一, 島津 浩, 長田 太郎, 高橋 聡, ハイジッヒ ベアテ
    2023 年 12 巻 4 号 p. 200-207
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/16
    ジャーナル フリー

     COVID-19の病態解明は,全世界喫緊の研究課題でありながら,後遺症を含め未だ不明な点が多く,死者数も700万人に達しようとしている。筆者らは,これまでの研究で,凝固・線維素溶解系(線溶系)による炎症性疾患病態制御機構,そしてCOVID-19の重症化病態を含む「サイトカインストーム症候群」の病態解明を進めてきた。血管内皮障害・機能異常は,凝固・線溶系に代表されるセリンプロテアーゼの一群とメタロプロテアーゼとの二種類のプロテアーゼによって,内皮由来のアンジオクライン因子と炎症性サイトカインとの産生過剰と不均衡を招来,臓器恒常性を維持するアンジオクラインシステムの破綻を誘導,サイトカインストーム症候群の病態形成に関与すること,そしてこれらの細胞外酵素を標的とした抗炎症療法の可能性を提示した。本稿では,筆者らの研究成果を中心に,炎症性疾患における線溶系の意義について,紙面の範囲内で概説する。

  • 保仙 直毅
    2023 年 12 巻 4 号 p. 208-212
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/16
    ジャーナル フリー

     CD19キメラ抗原受容体(CAR)T細胞療法は,B細胞白血病およびリンパ腫に有効であることが示された。現在,多くの研究者がさまざまな種類の癌のためにCAR-T細胞を開発しようとしている。多発性骨髄腫(MM)に対しては,B細胞成熟抗原(BCMA)が優れた標的であることが示された。ただし,MMの治療は依然として困難であり,さらなる標的分子の同定を多くの研究者が試みている。最近GRPC5を標的としたCAR-T細胞の有効性が報告された。また,我々は,活性化型インテグリンβ7がMMに対する非常に優れたCAR-T細胞の標的であることを報告し,現在治験を実施中である。

  • 黒田 純也
    2023 年 12 巻 4 号 p. 213-221
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/16
    ジャーナル フリー

     プロテアソーム阻害薬,免疫調節薬,抗CD38モノクローナル抗体の全てによる治療を終えたtriple class exposed(TCE)状態の多発性骨髄腫(MM)に対する有効な治療選択肢は限定的であるが,近年,開発・臨床導入された抗BCMA CAR-T細胞療法であるIdecabtagene vicleucel(Ide-cel)とCiltacabtagene autoleucel(Cilta-cel)は,その克服が期待される新戦略である。これらは共に既存治療に比しTCE-MMに対して,高い奏効率と長期の疾患制御を可能とすることが示されている一方,現状のセッティングでは疾患克服をもたらしたとまでは言えない。本稿ではMMにおけるIde-cel,Cilta-celの効果と限界,CAR-T細胞療法の課題と展望について概説する。

  • 西尾 信博
    2023 年 12 巻 4 号 p. 222-227
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/16
    ジャーナル フリー

     HLA半合致移植(ハプロ移植)では,ドナーのT細胞がHLA不一致白血病細胞を強く傷害することが期待されるが,その結果としてgraft-versus-leukemia effect(GVL効果)を回避する白血病クローンが生じる。再発メカニズムとして頻度が高く重要なのは,loss of heterozygosity(LOH)による不一致HLAの喪失である。ハプロ移植後の再発例におけるLOHの割合は20-50%にものぼり,これらの症例にはドナーリンパ球輸注の効果は期待できないことから,再発例におけるLOHの同定は臨床的に極めて重要である。また近年,ハプロ移植を含む同種造血幹細胞移植後のエピジェネティックな移植後免疫回避メカニズムとして,HLA class Ⅱ分子の発現低下が同定されている。白血病に対するハプロ移植を成功させるには,移植後の免疫回避を予防する戦略が必要である。

  • 荒 隆英, 橋本 大吾
    2023 年 12 巻 4 号 p. 228-238
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/16
    ジャーナル フリー

     腸管には100兆を超える腸内細菌が共生し,宿主であるヒトと複雑な共生関係を形成している。近年,次世代シーケンサーを用いた解析によって,腸内細菌叢の異常(dysbiosis)が種々の疾患と関連することが報告されている。同種造血幹細胞移植において腸管dysbiosisは,移植片対宿主病(GVHD)の発症やその他の移植成績に影響を与えうる。移植時に使用される抗菌薬の影響に加え,GVHD自体もdysbiosisを誘導しており,さらなるGVHDの悪化に関与するという悪循環が明らかとなってきた。正常な腸内細菌叢を維持する移植方法を開発することで,移植の安全性や有効性がさらに改善していく可能性がある。本稿では,造血幹細胞移植後の,腸内細菌叢の変化が移植成績に及ぼす影響に関する知見をまとめ,造血幹細胞移植における腸内細菌叢の役割と意義および今後の展望について考察する。

研究報告
  • 濱田 涼太, 新井 康之, 北脇 年雄, 錦織 桃子, 諫田 淳也, 水本 智咲, 池口 良輔, 松田 秀一, 髙折 晃史
    2023 年 12 巻 4 号 p. 239-244
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/16
    ジャーナル フリー

     キメラ抗原受容体T(CAR-T)細胞療法患者の身体機能および治療侵襲度を検討した報告は少ない。そこでCAR-T細胞療法患者の治療前後の身体機能を定量的に評価し,CAR-T細胞療法の治療侵襲度を身体機能の側面より自家移植患者と比較し検討した。2014年から2022年に当院でびまん性大細胞型B細胞リンパ腫,多発性骨髄腫に対してCAR-T細胞療法および自家移植目的で入院した58人を対象とした。CAR-T細胞療法患者では,治療後においてサイトカイン放出症候群(CRS)を26人中23人で発症し,発熱期間は中央値で6日であった。治療前パフォーマンスステータス(PS)は多くの患者で良好であったが,CRSに伴う発熱期間が長期であった患者は治療後PSが低下した。治療前6分間歩行距離(6MWD)は自家移植患者と比較して有意に低値であったが,治療後にかけては有意な変化を認めなかった。一方で,自家移植患者は治療前から治療後にかけて6MWDが有意に低下した。今回の検討において,身体機能側面から治療侵襲度を検討した場合,CAR-T細胞療法よりも自家移植の方で治療侵襲度が高い可能性が示唆された。一方で,CAR-T細胞療法では治療前時点の身体機能が低い患者が多いことが分かった。今後,高齢者や治療歴の長い患者に適応を広げていく上でリハビリテーション介入の重要性も示唆された。

  • 青山 高, 小野田 美保, 池田 萌里, 粂 哲雄, 伏屋 洋司, 米永 悠佑, 百合草 健圭志, 河島 美帆, 永井 有香, 野津 昭文, ...
    2023 年 12 巻 4 号 p. 245-258
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/16
    ジャーナル フリー

    目的:同種造血幹細胞移植(HSCT)における各推定式必要エネルギーの充足度と体重減少の関連を検討した。

    対象および方法:2015年4月から2017年3月に静岡がんセンター血液・幹細胞移植科においてHSCT(移植日:day 0)を受けた標準的な体格指数(BMI)の症例を対象とし,前処置前日からday 42までの臨床指標を評価した。期間中における体重減少の有無と総供給熱量を各必要エネルギー量で除した充足度の関連を評価した。

    結果:全40例(年齢中央値52歳,男性20例)であった。day 42の体重減少(29例)を予見するための推定必要エネルギーの充足度の感度(特異度)は,ハリス―ベネディクト式の基礎代謝エネルギー量が72%(91%),日本人の食事摂取基準―基礎代謝基準値が58%(91%),カニンガム式―基礎代謝量が58%(82%)であった。

    結論:HSCTにおける体重減少と各推定必要エネルギーの充足度に関連が認められた。

  • 北村 亘, 藤井 伸治, 鴨井 千尋, 浦田 知宏, 小林 宏紀, 山本 晃, 清家 圭介, 藤原 英晃, 淺田 騰, 遠西 大輔, 西森 ...
    2023 年 12 巻 4 号 p. 259-267
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/16
    ジャーナル フリー

     Tisagenlecleucel(tisa-cel)輸注後早期(3ヶ月以内)の病勢増悪/再燃を予測する輸注前因子を明らかにするために,当院の42例を後方視的に解析した。Tisa-cel輸注後の観察期間中央値:8.2ヶ月(範囲:0.2-36.5)で,16例(38.1%)が早期に病勢増悪/再燃した。リンパ球採取前の “primary refractory” 症例,リンパ球除去化学療法前のLDH高値(>1.5×upper limit of normal)および節外病変≥2は,tisa-cel輸注後早期の病勢増悪/再燃を予測する輸注前因子であった。特に,de novo DLBCLかつ “primary refractory” な臨床経過を有する9/10例(90%)は輸注後4ヶ月以内に病勢増悪したため,この患者群において新たな治療戦略を検討する事の重要性が示唆された。

  • 相庭 昌之, 重松 明男, 鈴木 陶磨, 宮城島 拓人
    2023 年 12 巻 4 号 p. 268-273
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/16
    ジャーナル フリー

     当院が位置する北海道道東地域では同種造血幹細胞移植(以下,同種移植)を実施していないため,同種移植を他院へ依頼する。移植後フォローアップ(以下,LTFU)は当院で行う症例が多いが,非同種移植施設におけるLTFUのデータは存在しない。2015年から2022年の間に他院で同種移植を受け,当院のLTFU外来でフォローしている症例を後方視的に解析した。症例は48例で,年齢の中央値は48歳だった。移植後の観察期間の中央値は2.4年で,移植後2年でのOSは65.9%,EFSは57.6%だった。慢性GVHDの累積発症率は2年で38.3%だった。死亡例は原病による死亡が5例,非再発死亡が11例だった。非再発死亡のうち8例が慢性GVHDを合併し,8例全例で全身ステロイド治療が必要だった。移植後合併症の対応や生活支援のため,今後は非移植施設においても多職種や移植施設と連携したLTFU体制の構築が望まれる。

  • 石川 朋子, 野中 拓馬, 渡邉 観世子, 黒澤 和生, 鬼塚 真仁, 水野 勝広
    2023 年 12 巻 4 号 p. 274-280
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/16
    ジャーナル フリー

     造血幹細胞移植患者の移植治療期間中の持久力に影響を与える因子を分析した。対象は2015年9月から2021年10月に当院で同種造血幹細胞移植を受けた20歳以上の71名とした。退院時の持久力に影響を与える因子を検討するために6分間歩行距離を従属変数,基本情報(体重,入院期間,HCT-CI,移植治療情報),移植前の生理学的指標(心機能,肺機能),身体機能(倦怠感,握力,膝伸展筋力,30秒椅子立ち上がり回数)を独立変数とした重回帰分析を行った。結果,年齢と退院時の30秒椅子立ち上がり回数が低いことが退院時の持久力の低下に影響していることが明らかとなった。さらにパス解析の結果,全身放射線治療線量と肺拡散能も退院時の持久力の低下に間接的に影響することが示された。全身放射線治療線量と肺拡散能を情報収集として行うことと,若年齢でも移植治療期間中に下肢の筋力・持久力練習を実施する必要が示唆された。

  • Fumihiko Mouri, Yusuke Takaki, Yoshitaka Yamasaki, Shuki Ohya, Takayuk ...
    2023 年 12 巻 4 号 p. 281-285
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/16
    ジャーナル フリー

     A 58-year-old male who was diagnosed with myelodysplastic syndrome underwent a haploidentical stem cell transplantation using posttransplant cyclophosphamide. He developed congestive heart failure 2 days after the first administration of cyclophosphamide as the prophylaxis of graft-versus host disease. The patient was urgently intubated and mechanically ventilated. His congestive heart failure gradually improved with conventional supportive care including vasodilator, angiotensin-converting enzyme inhibitor, beta-blocker, and diuretics, and the patient was weaned from the ventilator on day 11. Cyclophosphamide-induced cardiomyopathy is serious complication and should be taken into consideration in haploidentical transplantation with posttransplant cyclophosphamide to enable early recognition of this rare complication and prompt intervention.

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